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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科31巻4号

1996年04月発行

雑誌目次

特集 脊椎外傷の最近の進歩(上位頚椎を除く)(第24回日本脊椎外科学会より)

脊椎外傷の最近の進歩(上位頚椎を除く)

著者: 三浦幸雄

ページ範囲:P.348 - P.349

 第24回 日本脊椎外科学会は1995年6月2日,6月3日の両日東京,京王プラザホテルで開催されました.今回の学会の主題は「脊椎外傷の最近の進歩(上位頚椎を除く)」といたしました.このテーマは第7回日本脊椎外科研究会(会長,小野村教授)にて取り上げられましてから16年も経過しております.ある意味で脊椎外科のメインテーマとも言える脊椎外傷がしばらく主題として取り上げられなかったことになります.近年の脊椎外科の進歩には目ざましいものがありますので,脊椎外傷に関する基礎的研究,臨床研究,治療学など多面の進歩についてこの機会に御発表いただきたいと主題として取り上げた次第であります.
 応募演題は404題と予想を上廻る多数の演題を頂きましたが,日程,会場の都合もあり,プログラム委員に選考をお願いし376題を採択させて頂きました.これらの演題から,主題,主題関連演題,一般演題に分け,口演発表224題,展示発表126題といたしました.それに加えて,新しい試みとして,ビデオパネルディスカッション「脊椎後方インスツルメントと手術法の工夫」を企画し,26題が取り上げられました.

頚髄損傷の磁気刺激法による客観的運動路評価

著者: 飯塚正 ,   都築暢之 ,   斎木都夫 ,   巣山直人

ページ範囲:P.351 - P.359

 抄録:頚髄損傷の病態は多彩で,臨床と画像とが一致しないこともあり,予後予測は困難なことが多い.そこで磁気刺激法による客観的運動機能評価と予後判定の可能性を検討した.対象は31例(男27例.女4例.平均52歳).骨傷性9例,非骨傷性22例.転倒13例,交通事故10例,転落7例,他1例.急性・亜急性13例.慢性18例.方法は経皮的に頭,頚,腰部を磁気刺激し,表面電極で四肢筋から運動誘発電位MEPを導出した.日整会基準とFrankel基準を用いた.結果は,MEPと運動機能とはほぼ平行した.レベル診断にミオトーマルMEPが有用であった.重症例の予後判定に関しては,MMT2以下の筋では従来,MEP記録が不可能であったが,今回,72肢の中56肢(78%)で導出でき,MMTが0の36肢中17肢(47%)でも記録に成功した.この17肢中16肢(94%)で検査後にMMTが0から1か2に改善した.すなわち,頚髄損傷の予後予測の可能性が示唆された.

実験的脊髄損傷における神経細胞死の観察

著者: 宮内裕史 ,   米和徳 ,   酒匂崇 ,   和田正一 ,   石堂康弘 ,   津守伸浩

ページ範囲:P.361 - P.367

 抄録:実験的脊髄損傷における遅発性神経細胞死の組織学的観察を行った.
 Wister Ratを用い,椎弓切除術を行った後,第9胸髄をBlackらのstatic load techniqueに準じて120gの重錘にて2分間圧迫し脊髄不全損傷モデルを作成した.損傷3時間後から1週間後まで経時的に損傷脊髄を一塊として摘出した.得られた組織を固定,包埋した後,hematoxylin-eosine(HE)とnick-end-label法を用いて染色し形態的・生化学的観察を行った.
 損傷12時間後から72時間後まで,損傷中心部から頭側,尾側に12mm離れた部位を中心にHE染色にて核が濃染し,nick-end-label法にて発色する前角細胞群が観察された.この結果より,脊髄損傷後の二次的な神経細胞死は,従来考えられていたnecrosisのみならずapoptosisも存在可能性が示唆された.

頚椎後縦靱帯肥厚の機序―抗PCNA抗体による免疫組織化学的検討

著者: 茂手木博之 ,   山崎正志 ,   後藤澄雄 ,   金民世 ,   後藤憲一郎 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.369 - P.375

 抄録:術中摘出頚椎後縦靱帯に対し,抗PCNA抗体を用いた免疫組織染色を行って細胞増殖能を評価し,頚椎後縦靱帯肥厚(HPLL)の発症機序を解析した.HPLL例および頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)例では椎体隅角高位および椎体中央部の後縦靱帯内にPCNA陽性細胞が検出された.頚椎椎間板ヘルニア(CDH)例では椎体隅角高位にのみPCNA陽性細胞を認め,頚椎症性脊髄症(CSM)例ではいずれの靱帯にも陽性細胞は存在しなかった.以上より,HPLLおよびOPLL例では後縦靱帯の全域にわたって細胞の増殖能が亢進していることが考えられ,両者は靱帯細胞の性状異常を基盤に発生する共通の病態である可能性が示唆された.また,HPLLはCDHやCSMに伴った単なる反応性の靱帯肥厚とは異なった病態であると考えられた.

ラット胸髄半切後の腰仙部セロトニン神経成分と運動機能の回復

著者: 猿橋康雄 ,   福田眞輔 ,   今中徹 ,   李方祥 ,  

ページ範囲:P.377 - P.382

 抄録:脊髄損傷後の運動機能の回復と腰仙部セロトニン(5-HT)神経成分の関係に注目しラット胸髄を半切した後に経時的に腰仙部脊髄の5-HT免疫組織化学を行った.成熟雄ラットを用い胸髄左側半切後1週から4週で灌流固定を行い脊髄を摘出し免疫組織化学を行った.また運動機能回復過程においてmianserin(5-HTIC,5-HT2Aレセプター阻害剤)を投与しその影響を観察した.胸髄左側半切後の両下肢運動機能は著明に低下したが右側は3週で左側は4週でそれぞれほぼ正常な運動機能に回復した.胸髄半切後,半切側の腰仙部前角細胞周囲の5-HT神経成分は著明に減少し,その後徐々に回復した.その回復の過程は運動機能の回復と著明な相関を呈した.半切後の運動機能の回復はmianserinにより一時的に阻害された.これらの結果より脊髄半切後の運動機能の回復には腰仙部5-HT神経成分が重要な働きをしていると考えられた.

胸椎安定性における後方要素,肋椎関節,および胸郭の生体力学的役割

著者: 織田格 ,   鐙邦芳 ,   呂多賽 ,   庄野泰弘 ,   金田清志

ページ範囲:P.383 - P.389

 抄録:胸郭付の胸椎を用いて胸椎安定性に関する力学的実験を行った報告はほとんどない.そのため,胸椎安定性に果たす肋椎関節・胸郭の役割は明らかではない.本実験では,胸郭付のビーグル成犬屍体胸椎に段階的損傷を加えて力学試験を行い,胸椎安定性における後方要素,肋椎関節,および胸郭の生体力学的役割を解析した.後方要素は主に前後屈の制御に重要であった.肋椎関節と胸郭は主に側屈と軸回旋の制御に重要であった.また,肋椎関節と後方要素の同時損傷により,全ての回旋負荷に対する胸椎の椎間安定性は著しく損なわれた.肋椎関節は胸椎の重要な安定要素であり,胸椎安定性の評価には肋椎関節の状態の評価が必要である.また,側弯症の矯正術の際,肋椎関節切除により側屈と軸回旋の可動域が増大し,矯正率が向上する可能性がある.

MRIにおける健常者頚椎椎間板の加齢変化

著者: 松本守雄 ,   藤村祥一 ,   鈴木信正 ,   戸山芳昭 ,   小野俊明 ,   西幸美 ,   矢部裕

ページ範囲:P.391 - P.396

 抄録:健常者ボランティア469名の頚椎MRIを撮像し,椎間板の加齢変化について検討した.検討項目はT1強調矢状断像における椎間板の後方突出,前方突出,狭小化,およびT2強調矢状断像における輝度低下である.各所見とも,加齢とともに頻度が高くなったが,特に輝度低下は20歳代ですでに男15.8%,女11.8%の椎間板にみられ,60歳以上では同82.9%,92.4%と高率に認められた.輝度低下と他の3つの所見との間には有意な関連を認めた.高位別には各所見ともC5-6,C6-7,C4-5の順に頻度が高かった.
 頚椎椎間板変性疾患のMRIの読影の際には,臨床症状の把握とともに,このような椎間板の加齢変化の年代別頻度を考慮する必要がある.

X線上骨傷のない頚髄損傷における体性感覚誘発電位の検討

著者: 遠藤健司 ,   柄沢玄宏 ,   平学 ,   高山俊明 ,   井上全夫 ,   市丸勝二 ,   伊藤公一 ,   三浦幸雄

ページ範囲:P.397 - P.403

 抄録:X線上骨傷が明らかでない頚髄損傷は,しばしば画像診断のみでは損傷高位の決定や脊髄病態の把握が困難なことが多い.臨床的には,詳細な神経学的検索を行うと共に電気生理学的検討も有効な補助診断となるというのが現状である.筆者らは,これらの神経症状の変化をFrankel分類で評価を行い,体性感覚誘発電位(SEP)を計測することにより神経症状の変化を客観化する試みをした.SEPは,受傷後1週間以内の記録において,麻痺の生じた症例の68%で,N13またはN20頂点潜時の遅延,波形の消失などの変化が生じていた.そして,6カ月後の記録では,神経症状が改善しているグループでSEPもその80%で改善しており麻痺とSEPの変化に相関が認められた.SEPを経時的に観察することで麻痺を客観化することができ,治療効果の判定にも有用であると考えられた.

骨傷の明らかでない頚髄損傷に対する治療法の選択

著者: 白澤建藏 ,   芝啓一郎 ,   植田尊善 ,   大田秀樹 ,   森英治 ,   力丸俊一 ,   加治浩三

ページ範囲:P.405 - P.413

 抄録:受傷後48時間以内に入院し,神経学的評価のなされた骨傷の明らかでない頚髄損傷の観血的治療群53例と,保存的治療群72例の治療成績をprospectiveに比較した.Frankel分類で1段階以上の改善を示したものは観血的治療群では71.7%,保存的治療群では72.2%であり,両群に有意な差はなかった.さらに,これらの症例の中で脊柱管狭窄を合併した不全麻痺例29例を抽出して,観血的治療と保存的治療の2群間の神経学的改善の推移を,ASIA motor scoreを用いて検討した.両群の初診時,受傷後1カ月,3ヵ月のmotor scoreは,観血的治療群でそれぞれ48点,76点,90点,保存的治療群で47点,77点,89点で,有意な差はなかった.最終調査時の上肢機能,下肢機能は,観血的治療群でそれぞれ1.58点,1.42点,保存的治療群で1.50点,1.75点で,両群間で有意差を認めなかった.すなわち,急性期の非骨傷性頚髄損傷の治療においては,観血的治療と保存的治療の間で差がなく,保存的治療を原則とすべき結果を得た.
 慢性期に観血的治療を行った脊柱管狭窄合併例28例の手術成績に関与する因子を検討した.手術時年齢,罹病期間,術前重症度,頚椎単純X線側面像における最狭窄部の最小脊柱管前後径,第5頚椎高位の脊柱管前後径,損傷部の動的脊柱管前後径(dynamic factor)は手術成績と関連がなかった.

頚椎椎間板ヘルニアの自然経過と治療法の選択

著者: 吉田宗人 ,   玉置哲也 ,   川上守 ,   安藤宗治 ,   山田宏 ,   林信宏 ,   橋爪洋

ページ範囲:P.415 - P.421

 抄録:頚椎椎間板ヘルニアに対する新たな治療プログラムを構築するため,脊柱管拡大術(LAP)を施行した32症例と保存療法を施行した15例において,ヘルニア塊の自然経過と神経症状との関係をMRIと対比して調査した.MRIの経時的な観察ではヘルニア塊は脊柱管拡大術(LAP)の20例中15例(75%),保存療法15例中12例(80%)に縮小,消退を認めた.LAPの成績は術前JOAscore 8.9点から術後14.4点,改善率は67.9%と良好であった,保存治療例もヘルニア塊不変の3例を除いて神経症状は改善した.ヘルニア塊の消退メカニズムとして,腰椎同様の吸収機序に加えて,LAP例では硬膜拍動の回復が相乗的に作用すると考えられた.線維輪突出型は消退しないが,後縦靱帯深層を穿破したものは消退し,その程度はヘルニア構成成分の差によると考えられた.頚椎椎間板ヘルニアは縮小し得るとの認識に立った治療プログラムの必要性を強調し,最近のわれわれの治療方針について述べた.

頚椎flexion myelopathy手術症例の検討

著者: 今野慎 ,   後藤澄雄 ,   村上正純 ,   大河昭彦 ,   加藤大介 ,   茂手木博之 ,   望月真人 ,   喜多恒次 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.423 - P.430

 抄録:頚椎後方固定術に加え硬膜形成術を行った頚椎flexion myelopathy症例5症例のX線所見,手術所見,摘出硬膜病理所見から本症の病態の検討と術式の評価を行った.X線学的には頚椎前屈時の硬膜管,脊髄の陥凹だけでなく,中間位においても脊髄の可逆的な扁平化が認められたことから,前屈時の動的因子に対し静的因子の存在を提唱した.硬膜の手術所見での頭尾方向への強い緊張と,病理学上の弾性線維の減少および波型構造の消失から,これら両因子に硬膜が重要な役割を担っていると考えられた.また本症は椎孔横径や横突孔直径が大きいという椎体の形態異常が示され,硬膜の異常とあわせ全身的な要素の存在が疑われた.術後早期より何らかの手術効果が認められたことなどから,動的因子に対する固定術と静的因子に対する硬膜形成術を行う本法は頚椎flexion myelopathyの病態に合致した,今後試みられるべき新しい手術法であると思われる.

アテトイド性頚不随意運動に対する筋減張効果の検討

著者: 都築暢之 ,   斎木都夫 ,   阿部良二 ,   上村直子 ,   加藤浩

ページ範囲:P.431 - P.440

 抄録:頚椎症性脊髄症を呈した6例のアテトイド型脳性麻痺に対し,頚部アテトイド筋の減張術(後頭骨~側頭骨筋解離術,胸鎖乳突筋下端解離または延長術,頭板状筋下端解離術などの組み合わせ)と脊柱管拡大術を行い,その結果を分析した.筋減張により安静時アテトイド性頚不随意運動はその60~80%が,頚椎伸展力はその20%程度が減少したことから,アテトイド性頚不随意運動発生に筋紡錘からの求心性入力が関与し,その程度を減ずることにより選択的に頚不随意運動を減少させ得ることが示された.最も効果的な筋減張術は後頭骨~側頭骨筋解離術であった.あらかじめ筋減張術を行うことにより,脊柱管拡大術を強固な固定なしに行うことができたが,頚伸展力低下に対しては適当な範囲の頚~胸椎間固定が必要と考えられた.

下位頚椎前方脱臼骨折と椎間板後方脱出

著者: 芝啓一郎 ,   植田尊善 ,   白澤建藏 ,   大田秀樹 ,   森英治 ,   力丸俊一 ,   加治浩三

ページ範囲:P.441 - P.446

 抄録:下位頚椎の前方脱臼骨折の治療においては、脱臼の整復に伴って脱臼椎体間の椎間板組織が後方に取り残され,あるいは後方に脱出し,これが脊柱管狭窄因子となり,麻痺の改善を妨げたり増悪させたりする危険性がある.筆者らは,頚椎前方脱臼骨折の手術的治療法として,原則として後方進入で椎間関節の脱臼を整復固定し,前方進入で前方除圧固定を行う一期的前方後方手術を施行してきた.これら180症例の手術記録を調査した結果,56例(31%)に終板を伴った椎間板組織が脱臼椎の後方に迷入していた.保存的,または観血的後方進入による脱臼の整復操作の際には,椎間板の脊柱管への脱出を念頭に置き,麻痺の状況に応じて前方圧迫因子を検索すべきである.

椎弓根スクリュー固定による損傷頚椎の再建

著者: 鐙邦芳 ,   金田清志 ,   佐藤栄修 ,   浅野聡

ページ範囲:P.447 - P.455

 抄録:1990年から椎弓根スクリュー法を用いて,40例の頚椎損傷の治療を行った.Allen分類ではdistractive flexion型が最も多く,22例であった.8例は受傷後8週以上経過の陳旧例であった.初期の25例にVSPかlsola systemを,最近の15例には頚椎用椎弓根スクリュー/プレートを用いた.側面透視下に椎弓根プローブ,スクリューを刺入した.陳旧例での除圧,後弯矯正などのため,7例に前方手術を併用した.3例に同時椎弓切除を行った.全例で骨癒合が得られ,後弯矯正,前方転位の整復も良好であった.椎骨動脈,脊髄,神経根損傷はなかった.椎弓根髄腔の直視下の確認,椎弓根プローブと側面X線透視の使用,適切な径のスクリューの選択により,頚椎椎弓根スクリュー刺入の安全性は十分に高まる.椎弓根スクリュー固定は,確実な固定性,大きな矯正力,固定を椎弓に依存せず同時椎弓切除が可能,など多くの利点を有し,損傷頚椎の再建に有力な内固定法である.

広範囲頚胸椎脊柱管拡大術における胸髄後方移動度の検討

著者: 阿部良二 ,   都築暢之 ,   飯塚正 ,   斎木都夫 ,   加藤浩 ,   巣山直人

ページ範囲:P.457 - P.462

 抄録:病理解剖屍体25例で,頚胸髄前方支持組織の有無と硬膜幅を調査し,また広範囲頚胸椎脊柱管拡大術実施11例で,MRI画像上の術後胸髄後方移動度を計測して,解剖学的胸髄後方移動可能範囲と,胸椎部OPLLに対する本術式での胸髄後方移動範囲を検討した.頚椎および胸椎部において,脊髄前方中隔の存在は頚椎部で1例に認められたのみで,胸椎部には前方支持組織は存在しなかった.MRI画像上では,広範囲頚胸椎脊柱管拡大術後の胸髄の脊柱管内における矢状面での相対的位置は,術前のそれと変わらなかった.すなわち脊髄は後方へ移動したことを示している.後弯を有する胸椎部のOPLLでは,後方除圧によっても胸髄の後方移動が生じにくいとされているが,OPLLによって既に後方に押されて移動している胸髄でも,頚椎から胸椎に渡る広範囲な脊柱管の拡大により,さらに無理なく胸髄の後方移動が生ずることが確認された.

骨粗鬆症性胸腰椎圧迫骨折後の進行性椎体圧潰と遅発性神経障害―前方除圧と脊柱再建

著者: 金田清志 ,   伊東学 ,   種市洋 ,   佐藤栄修 ,   鐙邦芳 ,   浅野聡

ページ範囲:P.463 - P.470

 抄録:骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折後の進行性椎体圧潰と遅発性神経障害に対して前方除圧・脊柱再建術を施行し,12カ月以上経過観察した51例(男性10例,女性41例,平均手術時年齢68.8歳)を検討した.椎体置換材料は初期の8例は自家腸骨稜と腓骨を,他の43例は骨と直接結合するA-Wガラスセラミック(AWGC)人工椎体で支柱移植とし,Kaneda deviceをanterior instrumentationとして使用した.
 骨粗鬆症による胸腰椎圧迫骨折後の遅発性神経障害は,骨折椎体の圧潰進行による後弯変形の増強と椎体後方部分の脊柱管内陥入による脊髄ないし馬尾の圧迫障害である.脊柱の前方支柱欠損に伴う高度な不安定性に対し,保存療法は無効で,手術治療の適応であった.手衛は圧潰椎体切除による前方除圧と前方脊柱再建術が合理的で,これには後弯変形の矯正と保持の点から,AWGC人工椎体とKaneda deviceの併用が有用であった.

骨粗鬆症性椎体骨折による遅発性神経麻痺の病態の検討

著者: 和田正一 ,   武富栄二 ,   簗瀬光宏 ,   山下達嘉 ,   前原東洋 ,   酒匂崇

ページ範囲:P.473 - P.479

 抄録:骨粗鬆症による椎体骨折後の遅発性神経麻痺の病態を明らかにすることを目的として,本症の診断で治療した症例を画像所見,治療成績について検討した.対象は18例で治療法別には観血群11例(前方法3例,後方法8例),保存群7例であった.脊柱管内骨片占拠率は両群間で差はなく,損傷椎間可動性は両群で約9~12°であった.保存群や後方法では脊柱管内陥入骨片を直接には除去しないにもかかわらず,臨床症状の良好な改善が得られており,本症の病態に椎体不安定性の関与が大きい症例が存在することが示唆された.すなわち,本症発現には陥入骨片による圧迫である静的因子と椎体不安定性などの動的因子の双方が関与しており,その比重は様々であると考えられた.治療法はこれらの症態に加えて,高齢のために問題となる全身合併症や骨脆弱性などを症例ごとに十分に把握して選択することが重要である.

神経障害を有する胸腰椎破裂骨折に対するKaneda deviceを用いた前方除圧再建術の長期成績―術後5年以上経過した150例の分析

著者: 種市洋 ,   金田清志 ,   橋本友幸 ,   佐藤栄修 ,   鐙邦芳 ,   藤谷正紀

ページ範囲:P.481 - P.493

 抄録:神経障害を有する胸腰椎破裂骨折に対するKaneda deviceと自家腸骨稜移植による前方除圧再建術の長期成績を術後5年以上経過した150手術例の調査に基づき分析した.職業復帰率は96.2%で,86.2%は原職に復帰できた.経過観察時腰背部痛はDenisのpain scaleにおけるP1,P2が90.6%を占めて良好であった.神経学的改善度はmodified Frankel分類での1段階以上改善例が94.7%であった.脊柱管内骨片占拠率は術前48%(T12-L1),60%(L2-4)が術後2%(T12-L1),1%(L2-4)と著明に改善し,ほぼ完全な脊柱管除圧がなされていた.骨癒合率はロッド・カプラー非使用の旧モデルで88.9%,ロッド・カプラー使用の現行モデルで95.8%であった.instrumentation failureは5.6%にみられたが,implant抜去を要した例はなかった.合併症としては医原性神経障害,逆行性射精,implantに起因する大血管損傷などはみられなかった.長期成績の分析から,本法は骨癒合率や脊柱管除圧の点で後方法と比し優れているばかりでなく,重大な合併症もない安全かつ有用な方法であることが証明された.

腰椎椎間板線維輪後方および後縦靱帯の支配神経の由来について

著者: 中村伸一郎 ,   高橋和久 ,   高橋弦 ,   森永達夫 ,   須関馨 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.495 - P.502

 抄録:椎間板性腰痛の伝達経路は十分に解明されていない.椎間板性腰痛の主病変部である椎間板後方の支配神経の由来を調べることを目的として,45匹のラットを用い交感神経幹を段階的に切除後,腰椎を一塊にアセチルコリンエステラーゼ染色して脊柱管内を後方より観察した.無処置のコントロール群および交感神経幹露出のみのシャム手術群では,椎間板線維輪後方および後縦靱帯に密な神経線維網を全ての椎間で認めた.これらの神経線維網は両側多椎間の交感神経幹切除によりほとんど消失したが,両側単椎間,および片側多椎間の交感神経幹切除では軽度の減少のみを認めた.この結果より,ラットでは腰椎椎間板線維輪後方および後縦靱帯は前方の交感神経幹を経由する神経線維により両側性,非分節性に支配されていると判断された.

腰椎椎間関節の神経支配について

著者: 須関馨 ,   高橋弦 ,   高橋和久 ,   千葉胤道 ,   田中宏一 ,   中村伸一郎 ,   森永達夫 ,   山縣正庸 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.503 - P.508

 抄録:腰椎椎間関節の知覚は分節性支配とされているが,腰痛患者で鼠径部や大腿前部の疼痛を訴える症例の中には下位腰椎椎間関節ブロックにてそれらの疼痛が消失する場合がある.われわれは神経トレーサーであるcholera toxin B subunit(CTB)をラットのL5/6椎間関節に標識し,両側の後根神経節および傍脊椎交感神経節でのCTB陽性細胞の有無を観察した.その結果,CTB陽性細胞は従来から報告されている標識側のL3からL5の後根神経節だけでなく,L1からL5の後根神経節,およびT12からL6の傍脊椎交感神経節に認められた.本研究の結果より,下位腰椎椎間関節の病変にて生じる鼠径部や大腿前部の疼痛はL1・L2分節領域への関連痛として説明され,L2神経根ブロックが椎間関節痛にも有効である可能性が示唆された.また,傍脊椎交感神経節から投射する交感神経節後線維が腰椎椎間関節の知覚に関与している可能性が示唆された.

成長期のスポーツ選手における腰部椎間板障害とその追跡調査

著者: 吉田宗人 ,   岩橋俊幸 ,   角谷英樹 ,   中谷如希 ,   玉置哲也 ,   角谷昭一 ,   左海伸夫

ページ範囲:P.509 - P.515

 抄録:成長期スポーツ選手の60症例において,MRIによる腰部椎間板障害の分析とアンケートによる追跡調査を行った.椎間板障害の内訳は椎間板ヘルニアが57例,椎体終板障害が19例であった.この内16例が両障害を重複していた.スポーツ活動を開始してから腰下肢痛発生までの期間は平均3.3年であり,初発時平均年齢は14.9±2.2歳であった.保存的治療により47例(78.3%)はスポーツ活動に復帰出来た.しかし,現在スポーツ活動している43例中36例(84%)は,スポーツ活動時に腰下肢痛があった.椎体終板障害は発生初期に治療を開始したものではMRIにより修復が認められることから,早期の診断と治療の必要性が示唆された.成長期の脊椎はring apophysisが存在し,易損傷性である.この時期でのスポーツ活動による繰り返す外力が腰部椎間板障害の発生に関与すると推察された.今後は成長期の腰部椎間板障害をスポーツ障害として捉え,その予防対策が必要と考える.

腰椎椎間孔絞扼に対する椎弓根内進入椎弓根部分切除術の成績

著者: 久野木順一 ,   真光雄一郎 ,   蓮江光男

ページ範囲:P.517 - P.522

 抄録:腰椎椎間孔絞扼を合併した腰椎変性疾患14例に対し,椎弓根内進入椎弓根部分切除術を施行し,手術成績と脊椎構築に対する影響について検討した.男性8例,女性6例で,手術時年齢は52歳から80歳で,平均67.3歳であった.術後経過観察期間は1年から4年2カ月で,平均2年7カ月であった.JOAスコアの改善率は50%から100%で平均73.2%,4段階評価では優7例,良7例と成績は良好であった.下肢痛は全例で改善しており,経過観察中に根症状の再発した例はなかった.調査時にも除圧孔はよく保たれており,脊椎構築への影響は少ないと考えられた.本術式は従来の除圧法に比べ,最小の手術侵襲であると考えられ,高齢者脊椎症で,高度の椎間腔狭小という脊椎の短縮が椎間孔絞扼の主因と考えられる症例に対しては,有用と思われる.

成人発症tight filum terminaleの臨床的検討

著者: 駒形正志 ,   大友通明 ,   池上仁志 ,   豊岡聡 ,   今給黎篤弘 ,   三浦幸雄

ページ範囲:P.523 - P.532

 抄録:成人発症tight filum terminaleの手術例20例について,臨床的特徴や手術成績などを検討し,また独自に考案した本症の症状誘発テストの臨床的意義について報告した.20例中19例が腰下肢や陰部の痛みが主訴であり,95%に膀胱直腸障害を伴っていた.終糸の切離により,痛みは17例(89%)において改善が見られ,膀胱直腸障害は約70%が改善した.本症は脊髄機能が回復可能なうちにuntetheringを行うことにより良好な治療成績が得られる.臨床的に本症を疑わせる所見として,①臨床症状と画像所見の不一致,②非髄節性の神経症状,③若年期から体幹前屈制限,頻尿があり,側弯や凹足を伴う,④誘発テスト陽性,⑤ミエログラフィーでの終糸像および終嚢部の変形などの点が挙げられる.早期診断には特にわれわれの誘発テストが有用であった.

特別企画 胸椎部ミエロパチーの病態と治療

脊柱管内靱帯骨化による胸椎部脊髄症の臨床的検討

著者: 武井良憲 ,   三浦幸雄 ,   今給黎篤弘 ,   駒形正志 ,   豊岡聡 ,   稲畠勇仁

ページ範囲:P.533 - P.539

 抄録:胸椎部脊髄症の原因として脊柱管内靱帯骨化は最も頻度の高いものである.今回,後方除圧法により手術を行った胸椎部脊柱靱帯骨化症28例を対象に術後成績,成績不良因子,手術の限界などにつき検討した.内訳は胸椎単独靱帯骨化14例,頚胸椎重複靱帯骨化14例で,OPLLに対しては広範囲椎弓切除術,または脊柱管拡大術を,OYLに対しては骨化部を含めたen bloc椎弓切除術を行った.経過観察期間は平均5年3カ月,平均改善率は44.8%であった.成績不良因子として,術前重症度,罹病期間,重複骨化,骨化高位,合併症,骨化進展,後弯度などが考えられた.OPLLでの多椎間除圧やOYL合併症などに後方除圧法を採用してきたが,OPLLが頚椎から上位胸椎に連続しているものや,下位胸椎に限局するものでは良好な結果を得たが,胸椎後弯部OPLL例の改善率は低く,経過中に再悪化するものもあり,この部位での後方除圧法の限界と思われた.

胸椎部黄色靱帯骨化の形態と手術法の選択

著者: 佐藤哲朗 ,   国分正一 ,   石井祐信

ページ範囲:P.541 - P.545

 抄録:胸椎部黄色靱帯骨化症(OLF)に対する手術術式をretrospectiveに骨化の範囲と形態の観点から検討した.対象は63例であり,単椎間除圧例が42例,多椎間除圧例が21例であった.OLFの骨化形態をCTで外側型,拡大型,肥厚型,癒合型,膨隆型の5型に分類した.術式は観音開き式椎弓切除術(43例),en bloc椎弓切除術(15例),開窓術(3例),片側椎弓切除術(2例)の4術式であった.術中,10例に硬膜骨化の合併がみられた.最小手術侵襲と安全性の両面から術式の選択について次の結論を得た.単椎間例で外側型,拡大型,肥厚型のOLFは棘突起を残す開窓術を行う.一方,単椎間例でも癒合型と膨隆型は,正中部の骨切りが困難であるためen bloc椎弓切除術を行う.多椎間例で外側型,拡大型,肥厚型は観音開き式椎弓切除術を行い,癒合型あるいは膨隆型の骨化があればen bloc椎弓切除術を行う.硬膜骨化の合併が疑われた場合には,OLFと硬膜の間を剥離せず,くも膜を残して周囲の硬膜こと骨化を摘出する。

胸椎部ミエロパチーに対する後方進入脊髄前方除圧術の術式と成績

著者: 大塚訓喜

ページ範囲:P.547 - P.552

 抄録:胸椎部のOPLLによる胸髄症に対する外科的治療法としての後方進入脊髄前方除圧の術式とその成績について述べる.まず本術式の要点は,en bloc laminectomyを行い,後方斜めの方向から脊髄前方の除圧を行う.この際,椎間関節は1/3~1/2は残すようにすると脊柱の支持性は温存され,instrumentationを併用する必要はない.椎弓根部ではやや広めに椎弓切除し,椎弓根の1/3位の断面を露出させる.この椎弓根断面を糸口にしてOPLLの前方の骨削除を行う.本手術を現在までに37例に実施した.その結果3例に重篤な合併症を認めたが,他の34例では良好な成績であった.合併症を予防するためには,頚椎胸椎連続型OPLLに対しては,胸椎の後方進入脊髄前方除圧術に引き続いて頚椎に椎体亜全摘前方固定術を同時に行い,またOPLLの摘出により脊柱管段差が生じた時には,脊髄前方に皮下脂肪をおき,この段差を解消しておくことが肝心である.

胸椎部脊髄症に対する前方除圧固定術の成績と問題点

著者: 藤村祥一 ,   朝妻孝仁 ,   戸山芳昭 ,   鈴木信正 ,   平林洌

ページ範囲:P.555 - P.562

 抄録:後縦靱帯骨化(OPLL),椎間板ヘルニアと脊椎症による胸髄症に対する前方除圧固定術の83例を検討した.胸骨柄縦割進入法と胸膜外進入法を用い全胸椎高位の前方除圧固定が達成でき,手術成績はOPLLで改善率57%,椎間板ヘルニアと脊椎症で66%を獲得し,また5年以上の長期成績も比較的安定し,X線学的にも全例で骨癒合が得られ,前方除圧範囲内の再狭窄所見も認められず,さらに合併症もOPLLでは脊髄麻痺悪化4例,反回神経麻痺1例,髄液漏8例,発汗異常2例が発生したが,脊髄麻痺悪化1例と発汗異常の1例以外はいずれも一過性であった.本手術法は愛護的な手術手技に習熟し,早期手術に心がければ安定した良好な成績を獲得できる有用な手術法であるが,広範性OPLLや脊柱管内靱帯骨化合併では限界があった.

胸椎後縦靱帯骨化症の後方経由脊髄前方除圧と脊柱再建

著者: 鐙邦芳 ,   金田清志 ,   佐藤栄修 ,   長谷川匡一

ページ範囲:P.563 - P.569

 抄録:胸椎後縦靱帯骨化症による脊髄症で,骨化部位の胸椎後弯が強い例や,広範囲において前方除圧を要した例など11例に,後方経由脊髄前方除圧と同時に後方脊椎インスツルメンテーションを用いた脊柱再建を行った.除圧としては,脊髄腹側部分の骨化靱帯は摘出せず,前方浮上術を行った.日整会スコアで術前平均3.8点は最終経過観察時平均8.2点に改善していた.1例で,最狭窄部での骨化靱帯切除の追加を要した.1例で術後1年で再建範囲内での椎間不安定性が生じ,前方経由前方除圧固定を追加した.術前後の脊髄造影像で,最狭窄部における脊髄の前方移動距離は平均6.2mm(2~13mm)であった.胸椎OPLLに対する後方経由脊髄前方除圧術の除圧効果は大きい.また,胸椎後方安定要素の広範な切除を要する同法では,脊椎インスツルメンテーション使用の同時再建併用が,より確実な臨床成績をもたらす.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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