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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科31巻5号

1996年05月発行

雑誌目次

視座

生体力学と生体材料の相互発展

著者: 立石哲也

ページ範囲:P.573 - P.574

●バイオメカニクス関連学会・研究会の成長
 これまで国内で行われているバイオメカニクスに関連した学会,研究会は整形外科バイオメカニクス研究会,バイオレオロジー学会,バイオマテリアル学会,バイオメカニズム学会,バイオトライボロジー研究会,ME学会バイオメカニクス研究会,機械学会バイオエンジニアリング部門および体育系の日本バイオメカニクス学会等が主なものである.この中,整形外科バイオメカニクス研究会が母体となり他の臨床分野も含めるという意図で日本臨床バイオメカニクス学会が1994年11月5日に開催され,1994年5月12日バイオメカニクスジョイント講演会が第12回日本バイオメカニクス学会大会に併設されたこと,また顎顔面バイオメカニクス学会が同年12月4日に設立開催されたことは特筆に値する.
 一方,国際的にもバイオメカニクス学会連合体が組織される情勢にあり,第1回バイオメカニクス世界会議が1990年UCSDで,第2回世界会議が1994年7月10日,アムステルダムで開催され,また第3回は1998年日本で開催が予定されている.このような最近のバイオメカニクス研究の隆盛をみるとき,1992年より文部省科研費重点領域研究に「生体機能と構造の維持・回復・強化のバイオメカニクス(研究代表者,林紘三郎大阪大学教授)」が採用され系統的なバイオメカニクス研究の実施体制が確立したことはまことに象徴的である.

論述

手関節三角線維軟骨複合体の変性像―鏡視所見,MRI所見,治療法について

著者: 中村俊康 ,   矢部裕 ,   堀内行雄

ページ範囲:P.575 - P.582

 抄録:手関節鏡で診断した手関節三角線維軟骨複合体(以下TFCC)の変性損傷例23例25手関筋を検討したところ,変性所見はdisc properの軟化,線維化,穿孔で,一部の症例にはslit損傷も認めた.abutment症候群は10手関節で,15手関節にはabutmentを認めなかった.TFCC変形を示す症例の多くはMRIでdisc内に水平高信号領域を認めた.また,われわれの組織学的検討からTFCC内部は疎な結合織で,回内外運動中に生じるTFCCの変形を吸収し,その際損傷を受ける可能性が大きいと考えられた.したがって,TFCCの変性はその原因として考えられていたabutmentがなくとも,TFCCの水平断裂を基盤として生じると推測される.TFCC内部に損傷が生じ,手関節鏡ではTFCC遠位面の観察しかできないことから,TFCC変性の診断は関節鏡のみでなく,MRIなどを加味して行うことが奨められる.また,治療成績から,TFCC変性の治療には除圧と同時に支持性の獲得を期待できる尺骨短縮術が望ましい.

アテトーゼ型脳性麻痺に合併した頚椎症性脊髄症,神経根症に対する前方後方固定術の治療成績―術後2年以上経過例の臨床成績とX線学的変化

著者: 大山晃二 ,   近藤総一 ,   岩村祐一 ,   秋山典彦 ,   大成克弘

ページ範囲:P.583 - P.591

 抄録:アテトーゼ型脳性麻痺に合併した頚椎症性脊髄症に対する手術的治療の臨床的,X線学的成績を調査した.対象は前方後方固定術を施行した9例(男7,女2)で,脊髄症発症から手術まで平均5カ月,手術時年齢が平均45.6歳,術後追跡調査期間が平均4.2年であった.結果は,JOAスコアが術前平均5.2点が調査時平均10.2点となり,移動能力は全例が脊髄症発症以前の状態に改善した.X線学的には,固定塊椎の前弯角は術後変化は僅少で,骨癒合が全例に得られた.隣接椎間の可動角は,上位では術前平均8.2°が調査時平均3.7°,下位では術前平均10.2°が調査時平均6.4°と減少した.隣接椎間の後方すべりは術前に比べて調査時に2mm以上増加したものはなかった.環軸椎の可動角は,術前平均8.0°が調査時平均11.0°と増加した.環椎歯突起間距離は1例が術後に増加した.以上,全例に症状の改善が得られ,X線学的には固定塊椎のアライメントが保持された.また,隣接椎間は制動された.

椎体後面に脱出した腰椎椎間板ヘルニアの臨床像

著者: 梁昌鳳 ,   井口哲弘 ,   藤田久夫 ,   松原伸明 ,   鍋島祐次 ,   一山茂樹 ,   黒石昌芳

ページ範囲:P.593 - P.598

 抄録:椎体後面に脱出した腰椎椎間板ヘルニア(以下,椎体後面群)20例の臨床的特徴について,椎間板レベルでの脱出ヘルニア(以下,対照群)20例と比較し,検討した.その結果は以下の如くである.1)椎体後面群では上位腰椎(L3/4高位を含め,それより頭側)発生例が25%を占め,対照群より多かった.2)椎体後面群では,下肢痛が術前経過中に軽減した既往のあるものが対照群より有意に多かった.3)2根障害や膀胱直腸障害を呈した症例はすべてMRI上,ヘルニア塊が椎体高の1/2以上migrateしていた.4)椎体後面群の手術成績は対照群より有意に劣っていた.このような結果から,椎体後面に脱出したヘルニアではその臨床像が椎間板レベルに脱出したヘルニアとは異なっており,vertical interradicular migration(仮称)としてその病態に注目する必要がある.

セメントレス人工股関節による再置換術の検討

著者: 森田定雄 ,   長谷川清一郎 ,   松原正明 ,   河内貞臣 ,   土屋正光 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.599 - P.605

 抄録:人工股関節再置換術におけるセメントレス人工関節の有用性について検討した.対象は骨セメントが用いられていた人工股関節の弛みに対する再置換術症例で,術後3年以上経過観察が行われた21症例である.臨床的にはセメントレス人工関節は除痛の面で良好な成績を示した.X線学的検討では,セメントレスソケットは弛みの徴候はみられず,非常に安定していた.ステムにおいても大腿骨の骨欠損部の良好な修復が行われており,術後平均5.1年の成績では76%は弛みもなく安定していた.高度の骨欠損に対しても,十分な骨移植により良好な初期固定をはかり,術後長期の免荷を行えば,良好な骨修復と臨床結果が得られた.したがって中期成績を見る限りでは,セメントレス人工股関節は再置換術において有用な方法ということが出来る.

改良セメント手技を用いて行ったcemented metal-backed socketの5年以上経過例の治療成績

著者: 稲尾茂則 ,   後藤英司 ,   安藤御史

ページ範囲:P.607 - P.614

 抄録:改良セメント手技を用い,臼蓋荷重部の軟骨下骨を温存させて行ったHarris型cemented metalbacked socket(Ti-BAC II)の5年以上の中期臨床およびX線評価を行った.症例は95例99股(女性80例84股,男性15例15股)で,手術時平均年齢は54歳(20~71歳),平均経過観察期間は7年1カ月(5年~9年7カ月)であった(経過観察率98%).原因疾患は亜脱性変股症が主で,56股に切除骨頭頚部を用いた臼蓋外上部への自家骨移植が行われていた.臨床評価は,非常に満足するものであり,疼痛および歩行能力の著明な改善が維持されていた.X線評価では,ソケットの機械的弛みは全症例では8%であったが,手術時45歳以下に限るとゼロであった.しかしながら,正面像でソケット周囲の3分の1を超えてclear zoneが認められた症例が約30%あり,今後の変化が注目された.調査時までに再置換となった例はなかった.

検査法

超音波を用いた𦙾骨内捻計測法の特徴と問題点

著者: 川端秀彦 ,   安井夏生 ,   北野元裕 ,   蔡栄浩 ,   佐藤宗彦 ,   前田雅春 ,   樋口周久

ページ範囲:P.615 - P.619

 抄録:小児の内旋歩行の原因の一つである𦙾骨内捻の評価に超音波を用いる方法がある.われわれは従来の超音波法を改良した方法を考案し,その特徴を明らかにするために0歳から12歳の57例を対象に従来の方法との比較検討を行った.従来,報告されてきた種々の方法は骨成分を計測する方法であるために低年齢で骨化が十分でない場合には基準線が引きづらかった.また進行する骨化を𦙾骨内捻の自然矯正と取り違える危険性があることがわかった.それに対してわれわれの超音波法を用いると経骨の軟骨成分を計測することができ低年齢でも正確な計測が可能であった.また,骨化の影響を受けないので𦙾骨捻転度の自然経過を幼少時から正しく追跡することが可能であると思われた.軟骨成分を計測する超音波法は低年齢児に適した𦙾骨捻転度の評価法である.

手術手技 私のくふう

慢性関節リウマチに対する髄内釘を用いた手関節固定術

著者: 政田和洋

ページ範囲:P.621 - P.624

 抄録:慢性関節リウマチに対してわれわれが行っている手関節固定術を紹介する.本法は腸骨からの骨移植を併用し2本のKワイヤーを髄内釘として用いて固定するものである.手関節の固定角度は掌背屈は自動的に0°となり,橈尺屈は移植骨により調整する.この方法はSwansonが行っている方法であるが手術法が簡便であり外固定期間を短縮できる優れた方法である.

基礎知識/知ってるつもり

フィブリノイド変性

著者: 林田賢治 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.625 - P.625

 フィブリノイド変性およびフィブリノイド壊死は慢性関節リウマチ,SLEなどの自己免疫疾患に多く認められる組織病変である.
 慢性関節リウマチでは,滑膜やリウマチ結節(図1)で認められ,SLE,PSS,多発性結節性動脈炎,多発性筋炎では血管周囲の結合組織(図2)などに好発する.

整形外科英語ア・ラ・カルト・43

比較的よく使う整形外科用語・その10

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.626 - P.627

●De Quervain's Disease(デ・ケァヴァンズ)
 “De Quervain”の日本語の読み方は,“ド・ケルバン”が“デ・ケルヴァン”と書かれているし,日本の教科書には“De Quervain tenosynovitis”と書かれている.しかし英語の本には“De Quervain disease”と書かれていることが多いことを記しておく.デ・ケルヴァン(Fritz de Quervain 1868-1940)はスイスの外科医である.
 “De Quervain disease”は,母指の過度の使用による長母指外転筋腱と短母指伸筋が共に入っている腱鞘の炎症であり,母指の機能障害を生じる.最近外来では,左側のデ・ケルヴァン病を診察することが多い.原因は車の運転をするとき,オートマティック・ギアの過度の交換操作によるものである.交差点で信号の青を待つあいだ,ギアのボタンを母指で押して,ニュートラル(neutral)かパーク(park)のポジションに入れ,また進むときにギアを入れ換える.それを頻回に行うことにより,この腱鞘炎を起こしているようだ.急性の場合ステロイド剤の局所注射が一番即効性があるようである.注射針は小さい30ゲージか27ゲージがよいと思う.大きな針により腱の一部が切れたため,腱が腱鞘内をスムーズに動かず,手術症例になった場合もある.

ついである記・1

Amish People

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.628 - P.629

 世界のいろいろな国を旅していると,自分が知らなかったこと,失なってしまったもの,忘れかけているものをその土地の人々から時にはさりげなく教えられたり,また,時には強烈に見せつけられたりして,はっとすることがある.特に,先進国に住んでいるわれわれがそれに向って努力してきたと考えられる経済的繁栄や合理主義的思考と相容れない強烈な思想や生き方に出逢ったときは,説明のできないような感動を覚えることがある.私がこれから書き継いでいこうとしている「ついである記」によって,そのような感動を少しでも読者に伝えることができれば幸いである.

臨床経験

有鉤骨鉤偽関節に続発した小指屈筋腱断裂の1例

著者: 田中健司 ,   木野義武 ,   服部順和 ,   近藤喜久雄 ,   鈴木潔 ,   岸精一 ,   小出敬之 ,   木俣一郎 ,   岩田佳久 ,   亀山泰 ,   宮崎芳一 ,   夏目徹 ,   太田進 ,   矢島弘毅

ページ範囲:P.631 - P.633

 抄録:有鉤骨鉤骨折後の偽関節により小指屈腱断裂を生じた1例を経験したので報告する.症例は44歳,男性,鮮魚商.主訴は左小指屈曲障害.25年間冷凍マグロを解体する仕事に従事し,左手掌で包丁の背中を叩いてきた.1993(平成5)年5月初旬,仕事中突然,左小指屈曲障害に気づき紹介にて当科初診となる.初診時左小指は屈曲不能であり,手根管撮影で有鉤骨鉤に骨折を認め,それに伴う小指屈筋腱断裂を疑い手術を施行した.小指浅指・深指屈筋腱は偽関節となった有鉤骨鉤部で断裂し,環指浅指屈筋腱も一部磨耗を認めた.これは長期間にわたり有鉤骨鉤部の辺りで包丁の背中を繰り返し叩いてきたことによる外力で鉤部骨折を起こし,偽関節となり滑車となる鉤部で屈筋腱が磨耗脆弱化し断裂したものと考えられた.治療において骨片摘出と腱移行術を行い良好な結果を得ることができ原職に復帰している.

末節骨に内軟骨腫を合併した深指屈筋腱停止部裂離骨折の1症例

著者: 古月顕宗 ,   高須誠 ,   三輪仁 ,   涌井元博

ページ範囲:P.635 - P.637

 抄録:深指屈筋腱停止部裂離骨折は比較的まれな外傷であり一般的に強力な外力によって生じる.裂離骨片の有無,深指屈筋腱の退縮のレベル等によって本外傷は4型に分類されている,私たちは末節骨に内軟骨腫があったため軽い外力で深指屈筋腱停止部で裂離骨折が生じた特殊な型で受傷後2週間経過した1症例を経験した.手術は骨移植後pull out法で裂離骨折をもとの部位に固定した.術後3年調査時,DIPの可動域は-30から65°と制限が見られた.深指屈筋腱停止部の裂離骨折は比較的まれであるが,本症の認識があれば診断はそれほど困難でない,しかし本症例のように原因が比較的軽い外力の場合には病的骨折も十分考慮する必要があると思われた.

アキレス腱付着部断裂の1例

著者: 君島康一 ,   高橋惇 ,   外川宗義 ,   松本隆志 ,   伊丹一博 ,   山村則文 ,   小山明

ページ範囲:P.639 - P.642

 抄録:アキレス腱付着部断裂はアキレス腱断裂全体の1%以下と稀である.われわれは,付着部断裂の症例に対し,Leeds-Keio人工靱帯を用いた付着部再建術を行い良好な結果を得た.症例は,50歳の女性で,歩行中に鉄骨につまずき,転倒して受傷した.身長153cm,体重90kgと肥満体型であり,右アキレス腱踵骨付着部に圧痛,および付着部直上に陥凹を認め,Thompson徴候は陽性であった.単純X線像で,踵骨近位後方に小骨片を認めた.手術所見では,アキレス腱本体は踵骨付着部で断裂し,断端には踵骨剥離骨片を僅かに認めた.踵骨に骨溝を掘り,アキレス腱断端を骨溝内に埋没縫合し,さらに幅20mmのLeeds-Keio人工靱帯をアキレス腱および踵骨に通し補強とした.術後2年における足関節の可動域は,背屈20°底屈40°で,日常生活に問題はない.踵骨付着部付近の断裂が疑われる際には術前の単純X線撮影が有用であり,また,付着部再建の準備が必要と考えられた.

大腿に発生した末梢性原始神経外胚性腫瘍の2例

著者: 土田敏典 ,   北野喜行 ,   堀本孝士 ,   富田喜久雄 ,   赤丸智之 ,   安念有声 ,   横川明男 ,   水野勝則

ページ範囲:P.643 - P.646

 抄録:大腿に発生した末梢性原始神経外胚性腫瘍(peripheral primitive neuroectodermal tumor:以下pPNETと略す)の2例を経験したので報告する.
 症例1:59歳,男性.左下肢痛があり,左大腿後面に腫瘤を認め,下肢への放散痛を認めた.CT,MRIで3×8cmの腫瘍を認めた.腫瘍を坐骨神経を含め腫瘍辺縁から3cm離して摘出した.術後放射線療法とCPM,ADR,MTX,VCRによる化学療法を行ったが,術後1年6カ月後に肺転移が出現し死亡した.

腋窩リンパ節炎を伴ったツ反陰性手部結核性腱鞘炎の1例

著者: 荒井毅 ,   大橋俊郎 ,   谷知久 ,   太田万郷 ,   塩見朗 ,   大東美生 ,   篠原有美 ,   笹谷勝巳

ページ範囲:P.647 - P.650

 抄録:腋窩リンパ節炎を伴った手部結核性腱鞘炎と診断した1例を経験した.本例は画像診断により病巣範囲が的確に把握可能であった.また近年では極めて稀な症例と考え報告する.症例は6カ月間経過の右手関節部の鈍痛,腫脹,握力低下,右腋窩部の腫脹が主訴の38歳男性であった.初診時白血球高値を認め,抗生剤投与により正常化したが症状は変わらなかった.家族歴,既往歴は特に異常なく,X線所見では右手関節に骨萎縮像を認めたが,胸部異常所見はなかった.入院時検査では炎症反応,ツ反,腫瘍マーカー,RA test等はすべて陰性,喀痰,胃液,尿沈渣の結核菌塗抹,培養も陰性であった.以上より確定診断は困難であったため腋窩部の生検を行いヒト型結核菌によるリンパ節炎と診断された.右手関節の病巣もこれに関連するものと考えCT,MRIを用いて病巣範囲を的確に把握した後,徹底的に掻爬郭清した.病理標本より結核性腱鞘炎と診断された.術後症状も消失し,経過良好である.

初回摘出時に組織診断が困難だった末梢神経発生の悪性神経鞘腫の2症例

著者: 森本一男 ,   赤松俊浩 ,   指方輝正 ,   松浦覚

ページ範囲:P.651 - P.654

 抄録:初回摘出時に確定診断なく局所再発し,広範切除と切断時に末梢神経内に腫瘍の浸潤をみた分化度の異なる悪性神経鞘腫の2症例を経験したので報告する.
 症例1は72歳男性,右足部に疼痛性の潰瘍を伴った腫瘤を生じ,診断不明のまま母趾切断され,5年後に局所再発し,下腿切断時に𦙾骨神経に沿って神経内に腫瘍の浸潤を認め,未分化な悪性神経鞘腫と診断された.3年後に肺転移で死亡した.症例2は70歳女性,10年前に左殿部の脂肪腫として摘出され,局所再発した腫瘤で,広範切除の際に腫瘍は坐骨神経から発生し,電顕で分化型の悪性神経鞘腫と診断された.

骨病変を呈した先天梅毒の2症例

著者: 貝田勇治 ,   吉良秀秋 ,   大里裕治 ,   古川敬三 ,   平野徹

ページ範囲:P.655 - P.659

 抄録:近年,先天梅毒は,治療の進歩に伴いわが国では稀な疾患となったが,今回,われわれは典型的骨病変を呈した先天梅毒の2症例を経験したので報告した.
 症例1:生後3カ月の男児.周産期に異常なく,満期正常出生.生後2カ月半より特に誘因なく右上肢の運動障害が出現し,さらに39°台の発熱を生じた.小児科より右上肢の化膿性骨関節炎の疑いで当科に紹介された.初診時,右上肢を全く動かそうとせず,触るといやがるが,発赤,腫脹は認められなかった.X線像で右上腕骨近位部に骨折を生じ,ほぼ骨全長にわたり骨膜性肥厚が認められた.これらは全身骨にも認められ,その後の検査で母子ともに梅毒反応陽性と分かり,Parrotの仮性麻痺を伴った梅毒性骨膜炎と診断した.

神経根内に脱出した腰椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 津田英一 ,   山内正三 ,   荒木徳一 ,   黒川智子 ,   三井博正

ページ範囲:P.661 - P.664

 抄録:神経根内に脱出した腰椎椎間板ヘルニアの1例を経験した.症例は71歳,女性.左下肢痛を主訴として受診,左下肢の筋力低下と知覚鈍麻を認めた.MRIでL5/S1高位に左S1神経根に近接する腫瘤が認められた.腫瘤はT1強調画像にて等~高輝度を呈し,Gd-DTPAによるenhanced MRIでは腫瘤周囲に増強効果が認められた.遊離型ヘルニアの診断にて手術を行ったが硬膜外腔にヘルニアはなく,左S1神経根は腫大し腹側で硬膜が後縦靱帯と癒着していた.神経根部で硬膜を切開すると径3~5mmの腫瘤が数個出現し容易に摘出できた.病理組織診断は肉芽組織を伴った変性髄核組織であった.神経根内に脱出したヘルニアの報告はきわめて稀で,Barberáら(1984年)が報告して以来5例に過ぎない.髄核の突出によって生じた慢性炎症のため硬膜と後縦靱帯が脆弱化し,髄核がこれらを貫いて脱出したものと考えられた.

偽性副甲状腺機能低下症による大腿骨病的骨折の1例

著者: 高田潤一 ,   松山敏勝 ,   小川貴士 ,   如賀賢 ,   渡邊耕太 ,   高川芳勅 ,   島本和明 ,   石井清一

ページ範囲:P.665 - P.668

 抄録:大腿骨頚部病的骨折を初発症状として発見された偽性副甲状腺機能低下症の一例を経験した.症例は34歳,女性である.某整形外科病院で,大腿骨頚部の病的骨折と全身の骨萎縮像を指摘され,当科を紹介された.血液検査で低カルシウム,高リン血症に加えて,副甲状腺ホルモンの上昇,1α,25(OH)2VD3の低下を認めた.PHPの診断のもとに大腿骨頚部骨折に対する骨接合術を施行するとともに,Ca剤とビタミンDの投与を開始した.治療7カ月後には血清Ca,P値の改善と全身の骨塩量の増加がみられ,骨癒合も得られた.若年者の病的骨折や高度の骨萎縮像を認めた場合は,代謝性骨疾患を疑い各種マーカーや全身の検索が必要である.

嚢腫状変化を伴った線維性骨異形成の1例

著者: 朝倉佐智子 ,   矢澤康男 ,   高木辰哉 ,   長澤正彦

ページ範囲:P.669 - P.672

 抄録:嚢腫状変化が極めて著明であった線維性骨異形成(FD)の1例を経験した.症例は56歳,男性.主訴は左肩の腫瘤であった.単純X線像からは動脈瘤様骨嚢腫,軟骨肉腫が疑われた.生検組織像はFDあるいは骨嚢腫の所見であった.左母指中手骨,左上腕骨の単純X線上スリガラス状陰影を認め,多骨性FDと診断した.また,MRIの所見より嚢腫状変化を伴っていることが明らかであった.FDは多彩なX線像,組織像を呈することが知られ,診断には注意を要する.また,今回の症例のように嚢腫状変化を伴う場合,急速に増大し,悪性変化と鑑別を要することがある.この際には,MRIが診断に有用であると考える.

腰椎破裂骨折に対する不適切な前方instrumentation surgery―2例報告

著者: 島田洋一 ,   阿部栄二 ,   佐藤光三 ,   片岡洋一 ,   阿部俊樹 ,   坪井純

ページ範囲:P.673 - P.676

 抄録:不適切な前方instrumentation surgery(Kaneda device)のため再手術を要した2例について検討した.根本原因は陥入骨片摘出の不徹底さで,さらにinstrumentationに伴う問題としてplateの前方設置,screwの対側皮質骨不貫通がみられた.他に不十分な骨移植,隣接健常椎間板損傷,側弯形成などがみられ,instrumentationを用いた手術についての知識不足から生じていた.再手術は前方,後方法でそれぞれ1例ずつ行ったが,前方法では後腹膜腔の癒着の剥離困難が,後方法では硬膜管の癒着の剥離困難,前方instrumentationによるpedicle screwの刺入困難などがみられた.前方instrumentation手術はimplant使用法の十分な知識と手術手技の習得が必須である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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