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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科31巻6号

1996年06月発行

雑誌目次

視座

新まい教授の苦悩

著者: 藤井克之

ページ範囲:P.679 - P.679

 教授とは,“教え授ける”と書く.しかし,整形外科学教室の主任教授に就任して1年も経過していない私には,教室員を十分に教えるだけの力は持ち合わせていない.何とか,若い者の先頭に立って学ぼうと頑張るが,外来,手術,教育,論文の校閲,客人,電話,書類などに追われ,時があっという間に過ぎてゆく.仕方なく,休日が自分の唯一の勉強日と決めて大学に足を運んでいる.
 教授のみならず,教室員をも異常なまでの多忙な状況に追い込んでいるものは,何と言っても,増加の一途を辿る学会,研究会のようである.教授としての責任感から,すべての会に参加していると,当然のことながら診療に穴があく.また,次から次へと演題をエントリーさせると,教室員は発表の準備に追われ,新たに物を考えたり,論文を書く時間を失ってしまう.したがって,私たちの教室では,体裁にはとらわれず,発表をする学会,研究会を最少限に留め,必ず立派な論文としてまとめるという方針をとることにした.学術活動において,同じ仕事(研究)を少しだけモディファイし,数回にわたって発表するといった数の勝負は絶対にやめるべきで,これは,大変な罪と恥に値する.自分達の手で己を忙しくし,余裕と発展性のない大学生活を送ることは,全く情けのないことではなかろうか.

論述

慢性関節リウマチの頚椎手術後に発生する頚椎病変の長期的観察

著者: 平泉裕 ,   並木脩 ,   高江洲真 ,   山田徹 ,   藤卷悦夫

ページ範囲:P.681 - P.688

 抄録:RA頚椎の手術施行群37名において,各術式の術後に発生するX線変化を平均4.9年間観察し,その要因について保存的治療により平均10.6年間観察した群225名も参考にして検討した.後頭骨を固定に含めない術式22例中8例で術後垂直性亜脱臼が悪化または新たに出現したが,その際環椎前傾化と環-軸椎間可動性増大がみられた.また中下位頚椎を固定に含めない術式26例中9例で術後中下位頚椎亜脱臼が進行したが,その際椎体終板や椎間関節のRA変化を呈する椎間数が増加した.術後の中下位頚椎の強直出現は中下位頚椎亜脱臼の誘発因子になる可能性があった.一方,後頭骨-上位頚椎固定では術前中下位頚椎亜脱臼を認めた4例中2例が術後も不変か逆に消失した.椎弓形成術単独例では術後の環椎前方亜脱臼悪化は1例,垂直性亜脱臼悪化は2例だけであった.強力な内固定材料を使用しない術式と最小限の手術範囲の選択は,必要な制動効果と可動性温存の面からも,骨が脆弱で多関節障害を有するRAでは有利な手術方針と思われた.

Kinematic Rotating-Hinge型人工膝関節の術後成績と手術適応

著者: 王享弘 ,   小林晶 ,   吉本隆昌 ,   進藤隆康

ページ範囲:P.689 - P.695

 抄録:kinematic rotating-hinge型人工膝関節はhinge型に比べ関節面がmetal to polyethyleneであり,また同部である程度の回旋を許容し,hinge型に多くみられるlooseningが少ないとされている.過去18年間に18例・23関節に使用し,術後2年以上を経過した15例17関節が調査可能であり,追跡期間は平均5年2カ月であった.臨床成績はJOA scoreでOAの12関節は46.3±9.1点から73.3±16.6点へと改善し,RAの5関節は34.8±12.0点から58.6±10.3点と,改善度はあまり満足できるものではなかった.radiolucent lineは脛骨側で10関節にみられた.大腿骨側では1関節のみであったが,7関節にステム周囲にreactive lineと考えられる所見が認められた.合併症としてlooseningを2関節に認めたがそれ以上進行しておらず,現在までに再手術例の経験はない.膝蓋骨componentのmalalignmentを6関節に認めたが愁訴は軽度で,またimplantの破損や感染例はなかった.以上より当院での術後成績は満足すべきものであったが,手術適応としては慎重であるべきであり,①著明な動揺性を示し,軟部組織の再建では安定性が得られない例,②両側compartmentの高度な骨欠損例のみが適当と思われる.

成長期腰椎分離症に対する装具治療―RI骨シンチグラフィーによる患者選択と分離部修復

著者: 日野浩之 ,   鐙邦芳 ,   金田清志 ,   佐藤栄修

ページ範囲:P.697 - P.704

 抄録:29例の装具治療による分離症の治療結果を報告した.従来,分離部修復の可能性は50%程度と言われてきたが,治療対象患者の選択により修復率を上昇させることが可能である.1987年から,単純および断層X線写真により分離症と診断のついた症例に骨シンチグラフィー(最近の症例ではSPECT)を施行し,分離部集積例に対象患者を限定した.29例中27例は両側分離,2例は片側分離であった.硬性装具約4カ月,その後軟性装具約2カ月装用し,スポーツ活動の制限を行った.29例58分離中46分離(79%)で癒合・修復が得られた.腰椎分離症の発生機序は,椎間関節間部における疲労骨折の要素が強く,分離症の発生が新しければ,局所の骨代謝は亢進しており骨シンチにおいて分離部集積像が高頻度に認められる.骨シンチ陽性例に装具治療を限定すると分離部の修復率は高まる.骨シンチグラフィーは装具治療対象患者の選択に有用である.

農作業が退行期骨粗鬆症に与える影響

著者: 遠山晴一 ,   冨田文久 ,   杉原進 ,   松浦浩司 ,   葛巻裕 ,   舛岡隆志 ,   山岸孝弘 ,   長井靖仁

ページ範囲:P.705 - P.709

 抄録:農作業が退行期骨粗鬆症に与える影響を調べるために,60歳以上の女性100例にdualenergy X-ray absorptiometryを用いた橈骨遠位部の骨塩計測を含む横断研究を行った.日光被曝時間に関しては,農作業従事群(n=36)が5.7±2.5時間/日,非従事群(n=64)が1.6±1.9時間/日と従事群が有意に長かった(P<0.01).骨折頻度は従事群で25%,非従事群で31%と両群間に有意差を認めなかった(P=0.51,検出力60%).橈骨骨塩量は従事群と非従事群の間には有意差は認められなかった(P=0.81,検出力82%).また,骨塩量が健常女性33歳の平均値より-2.5標準偏差以下の骨塩減少を示す者は従事群72%,非従事群73%であり,その頻度に有意差を認めなかった(P=0.90,検出力89%).したがって,長時間の日光被曝を有する農作業従事者においても,非従事者と同様の骨粗鬆症の予防および治療が必要であると考えられた.

前後両方向不安定型os odontoideumについて―その動態および形態的特徴

著者: 西脇祐司 ,   戸山芳昭 ,   朝妻孝仁 ,   鈴木信正 ,   藤村祥一

ページ範囲:P.711 - P.717

 抄録:前後両方向に不安定性を有するos odontoideumの動態および形態的特徴を検討した.対象は当科にて治療を行った13例(AP群)で,検討項目として前後屈側面像よりinstability index,およびatlanto-axial angleの差である矢状面回旋度を,また断層写真や開口位正面像より,分離部の形態(平坦型と隆起型に分類)を調査し,前方不安定性のみを示す18例(A群)と比較検討した.さらにfresh cadaverを用いて歯突起の制御機構についても検討した.
 AP群の動態は,実際には前後方向よりも矢状面での回旋不安定性が大きかった.また,その形態は分離部が平坦で,分離歯突起骨が頭側に偏位する特徴を有していた.cadaverを用いた検討からは,環軸椎間矢状面動態において,歯突起はtranslationよりもrotationに対して重要な制御機構であることが示唆された.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・1

著者: 堀内行雄

ページ範囲:P.719 - P.721

症例 10歳,男子(図1)
 2年前頃から左肘の外反変形に気がついた.徐々に外反変形が強くなったため来院した.既往に4年前友人とプロレスごっこをしていて転倒し,尺骨骨折の診断でギプス固定を受けたことがあったが,その後,疼痛もなく特に不自由は無かった.
 現症:疼痛はなく,肘関節屈伸および前腕回内外運動に左右差を認めなかった.

基礎知識/知ってるつもり

Impingement Syndrome

著者: 信原克哉

ページ範囲:P.722 - P.723

 【概念と変遷】
 impingementという外来語が未消化のまま肩関節領域で乱用されている.本来,これは衝突・轢音・ひっかかりなどの義で,臨床上impingement syndromeとは上肢挙上に際して腱板修復部の膨隆,大結節の転位変形治癒,肩峰下滑液包の石灰沈着などが,肩峰・鳥口肩峰靱帯・鳥口突起からなる天蓋と衝突して起きる症候を指している.その症状は弾撥を含む機能制限と自発・運動痛で,摩擦と衝突による炎症,拘縮や癒着による機能障害,骨頭の上方移動,石灰沈着などが病理と考えられている.
 良否は別として,1983年にNeerの発表した論文“lmpingement Lesions”が,その病態を三つのstageに分け,Codmanの肩峰下滑液包炎(1934),Batemanの腱板炎(1955),さらに腱板断裂までを包括したことから混乱が始まった.さらに,Matsen Ⅲ(1992)らはsubacromial impingementとは“腱板が肩峰下機構でencroachmentされる病態”と定義して肩関節周囲炎までをその範疇に入れた.こうしてimpingementはどの病態を示しているのか不明確なまま,肩疾患の屑籠的診断名として用いられている.

整形外科英語ア・ラ・カルト・44

比較的よく使う整形外科用語・その11

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.724 - P.725

●DRG(ディ・アー・ジィ)
 これは直接整形外科の診療には関係ないが,ここ十数年前から米国で実施されている医療改革,“diagnosis-related groups”の略語であり,日本語では“診断関連群”と訳されている.これは医療費増大による財政圧迫に苦しんだ米国政府が,その抑制策の“切り札”として導入した方式である.この方式の原形はすでに1970年代にエール大学で研究されたもので,その土台は320の代表的な病院における病歴約40万件を整理したのち,12万の診断名を拾い上げ,1万4千の保険支払い基準をもとに,器官別に23の基本診断群を決め,それをさらに467に分類したものを“diagnosis-related groups”とした.この中には主要診断名と4つまでの合併症の診断名,主要手術法,患者の年齢と性別,そして退院状況を参考にすることが出来る.これらの診断名に関連して,各診療分野に細かく設定した償還額を支払う方式である.実際に患者のケアにかかったコストには関係ないために,必然的に入院期間は短くなり,コストを制限する.
 まず“DRG”は連邦政府の直轄事業であるメディケア(Medicare)の患者の費用の支払いに採用された.メディケアとは65歳以上の老人医療保険のことである.ご存じのように,米国では開業医は自分のオフィス(診療所)で外来患者を診察し,オープン式の病院に出入りして,その病院に患者を入院させて治療する.

ついである記・2

Uruguay

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.726 - P.727

 その日,New YorkのJohn F. Kennedy空港を発った時はかなりの吹雪であったが,予定通りに出発できた.1983年12月3日,私と家内は丁度盛夏であると思われるUruguayのMontevideoに向けて,こともあろうに分厚い冬服と重い冬オーバーを着込んで出発しなければならなかった.日本からNew Yorkへ飛ぶ時間よりも,New YorkからMontevideoへ飛ぶ時間の方がずっと長くかかるのは,南米行きの飛行機はほとんどがMexico Cityを皮切りに中南米の多くの大都市に停っていくからだ.南へ飛ぶにつれて,途中で乗ってくる乗客の衣服が冬から春へ,そして夏へと変っていく.それにつれて,われわれも衣服を脱いで行くことになり,23時間というなが旅の後にMontevideoに着いた時には半袖姿になって,手荷物ばかりがやたらと多くなっていた.吹雪のNew Yorkから半袖のMontevideoへと一昼夜にして変ってしまったが,時差はほとんどないので睡眠はとり易い.

検査法

MRIが診断に有用であった骨折の4例

著者: 藤田昌彦 ,   山根敏彦 ,   宗圓聡 ,   濱西千秋 ,   田中清介

ページ範囲:P.729 - P.734

 抄録:われわれは臨床的には骨折と考えられるものの,単純X線像にて明確な骨折所見を認めない4症例に対してMRIを施行した.受傷後早い時期ではT1強調像で低信号領域,T2強調像で高信号領域の所見が得られた.この所見はその後のX線像にて骨折が明らかになったことから,受傷後早い時期での骨折診断に有用な所見であることがわかった.また,受傷から約2カ月のT1強調像で低信号領域,T2強調像で低信号領域の所見が得られた.このことから骨折のMRIで特にT2強調像は経時的に変化し,これにより骨癒合の状態が把握できると考えられた.

臨床経験

骨盤腔内を占拠した巨大epidermoid cystの1例

著者: 荒川仁 ,   土屋弘行 ,   徳海裕史 ,   中谷聡 ,   砂山千明 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.735 - P.738

 抄録:前仙骨部に発生した巨大epidermoid cystの1例を経験した.前仙骨部に発生する腫瘍は,特徴的な症状に乏しく巨大になってから診断されることが多い.
 症例は18歳,女性.2年前から腹部膨隆を自覚した.CT,MRIにて前仙骨部に巨大嚢胞性病変を認め,developmental cyst,neurinoma,GCT,chordoma等が考えられた.手術標本の検討により内容物に扁平上皮を認め,皮膚付属器を認めなかったことよりepidermoid cystと診断した.

Salmonella dublinによる感染性大腿動脈瘤破裂の1例

著者: 柴田佳子 ,   石川誠一 ,   高橋美徳 ,   野本努 ,   菊井博司 ,   菊池達哉

ページ範囲:P.739 - P.742

 抄録:サルモネラによる感染性大腿動脈瘤破裂の1例を経験した.症例,85歳,男性.左大腿部腫瘤,疼痛を主訴に来院.左大腿前内側部に10×7cm大の弾性硬の腫瘤を認め,MRI,CT上膿瘍または軟部腫瘍を疑い,摘出術を予定したが腫瘤は自潰し,敗血症性ショックとなり入院となった.第5病日,創部より動脈性の大量出血がみられ,急遽破綻した左大腿動脈を結紮切離した.入院時の創,血液培養からサルモネラが検出され,これによる感染性大腿動脈瘤破裂と診断した.サルモネラによる動脈瘤は早期に破裂することがあるので注意を要する.

開胸前側方進入で摘出した第3胸髄砂時計腫の1例

著者: 長谷川新 ,   井戸一博 ,   清水克時 ,   藤尾圭司 ,   安藤元郎 ,   中村孝志 ,   池修 ,   笠井宗一郎

ページ範囲:P.743 - P.746

 抄録:第3胸髄に発生した砂時計腫を開胸前側方進入にて全摘出し,良好な結果を得た.症例は25歳男性.主訴は健康診断における胸部単純X線検査での異常陰影.入院時,自覚症状はなく,ADL上特に問題となることはなかった.右側膝蓋腱反射の低下以外には,知覚障害,膀胱直腸障害,歩行障害のような神経学的異常は認められなかった.単純X線上,右上肺野に境界明瞭な異常陰影が認められ,第3胸椎右側の椎間孔の拡大が見られた.MRI,CT,CTMではTh3/4に胸腔内,脊柱管内に拡がる腫瘍が存在し,右方から脊髄を圧迫しており,Eden分類type 3の砂時計腫が疑われた.手術は第3肋間における右後側方開胸にて胸椎に到達し,マイクロサージャリーを併用し,胸腔内操作のみによって腫瘍を全摘出した.脊椎の再建,椎体固定は行っていない.腫瘍の病理診断は神経鞘腫であった.術後,神経脱落症状はなく,術後3日で歩行可能,術後15日で退院した.術後5カ月,CTM上再発の徴候は認められない.

手指粘液嚢腫に対するテーピング療法

著者: 古谷晋 ,   矢部裕 ,   堀内行雄 ,   市川亨 ,   山中一良 ,   石黒隆

ページ範囲:P.747 - P.751

 抄録:手指遠位指節間関節(DIP関節)の変形性関節症にしばしば併発する手指粘液嚢腫は,治療法として様々な方法が行われてきたが,再発も多く,一定の評価を得ているのは手術による広範囲切除のみである.
 われわれは1993(平成5)年より当院を受診した本症8例9指に対しテーピングによる治療法を試みた.嚢腫はテーピングを開始して約1カ月でいずれの症例でも縮小し,1~3カ月で7例8指に消失をみた.2~3カ月テーピングを継続した5例5指に治療後1カ月~1年8カ月の現在,再発はなく,1カ月のテーピングのみの3例3指に再発をみた(1カ月後2指,3カ月後1指)が,うち2例2指はテーピングの再開により再度縮小傾向にあり,もう1例1指は症状は極めて軽微のため経過観察としている.

尺骨頭骨折を合併したGaleazzi骨折の1例

著者: 水野雅士 ,   小早川雅洋 ,   田村幸久 ,   三嶋真爾 ,   井上五郎

ページ範囲:P.753 - P.755

 抄録:症例は42歳,男性.自転車走行中転倒し受傷した.橈骨は,遠位1/3の部位に粉砕を伴った斜骨折を認め,尺骨遠位では茎状突起基部骨折とともに尺骨頭関節面の骨折を認めた.この骨片は側面像で遠位橈尺関節部で背側に反転脱臼していた.橈骨をAO plateで固定し,尺骨頭関節面の骨折をHerbert screwで固定した.次に背側脱臼を整復し,茎状突起骨片をtension band wiringで固定した.術後1年6カ月の現在,疼痛・可動域制限はなく,X線上尺骨頭背側脱臼も認めない.
 今回尺骨頭関節部の骨折を合併した原因としては橈骨骨折の粉砕が強かったことより強大な長軸方向の力が主因と考えられるが,同時に尺骨頭が背側に脱臼する際sigmoid notchがてことなりshearing forceが加わったことも考えられた.

胸郭形成術の影響で著しい肩部変形を呈した肩鎖関節脱臼,鎖骨骨折の各1例

著者: 宇井通雅 ,   小川清久 ,   吉田篤 ,   井口理

ページ範囲:P.757 - P.760

 抄録:過去に受けた胸郭形成術の影響で著しい肩部変形と挙上障害を来たした肩鎖関節脱臼および鎖骨骨折の各1例を報告する.症例1:66歳,男性.交通事故で右肩鎖関節脱臼を受傷し,6カ月目に受診した.人工靱帯による肩鎖関節再建術を施行したが再転位し,Weaver変法とDewar変法の合併術によって症状は軽減した.症例2:70歳,男性.転倒で鎖骨近位端骨折を受傷し,3カ月目に受診した.肩部変形は徐々に増強し肩関節運動は著しく障害されるようになった.2例共,胸郭形成によって肩甲骨に対する胸郭の支持性が低下し,通常起こり得ない進行性の変形と,諸筋群の長さの短縮による運動障害を来たしたと考えられる.胸郭形成が施行されている場合の肩甲部外傷に対しては,慎重な治療計画と強固な固定が必要である.

人工骨頭置換術後に残存スクリューによる広範なmetallosisを生じた1例

著者: 大河原三穂 ,   長尾正人 ,   皆川裕樹 ,   舛田和之 ,   久木田隆

ページ範囲:P.761 - P.763

 抄録:人工股関節置換術後の合併症としては比較的報告の少ないmetallosisを認めた1例を経験したので報告する.
 症例は60歳男性.約20年前,両大腿骨頭壊死の診断で両人工骨頭置換術が他医にて施行された.ただし右側は,人工骨頭置換術前に,大腿骨骨切り術も行われていた.以後肉体労働に従事していたが,転倒を機に両股関節痛が出現した.臨床所見および画像所見より人工骨頭のゆるみと診断した.3カ月後右側再置換術時に,広範なmetallosisと,大腿骨骨切り術の際に使用したと思われる残存スクリューの著明な摩耗を認めた.病理組織所見では,大腿骨皮質側の滑膜様組織に金属粒子を,人工骨頭のセメント側の滑膜様組織には異物反応が観察された.骨-セメント間のゆるみにより人工骨頭とスクリューが接触し,その摩耗によって生じた金属粒子が,metallosisの原因になったと推察された.

膝蓋骨および脛骨に生じたBrodie骨膿瘍の1例

著者: 冨岡正雄 ,   吉矢晋一 ,   松下績

ページ範囲:P.765 - P.769

 抄録:化膿性膝関節炎を併発した膝蓋骨および脛骨のBrodie骨膿瘍の1例を報告する.症例は36歳の男性で数年来続く膝の鈍痛が突然激痛に変わり受診.このときに膝蓋骨のBrodie骨膿瘍が膝関節内に交通し化膿性関節炎を惹起したものと考えられた.脛骨近位側にも小さな病巣が見られたが,膝蓋骨のみ病巣掻爬を行い症状は軽快した.3年後には脛骨側はCTにて病巣の拡大が認められたので病巣掻爬と骨移植術を行った.移植骨で十分の空洞の充塡ができず1年後に再発した.再度病巣掻爬を行いセメントビーズの挿入の後に十分な骨移植を行い良好な結果を得た.

肩関節に生じたsynovial chondromatosisに対する鏡視下摘出術の1例

著者: 前田啓志 ,   藤田健司 ,   岩崎安伸 ,   水野耕作 ,   田中義之

ページ範囲:P.771 - P.774

 抄録:synovial chondromatosis(osteochondromatosis)は,関節内遊離体を生ずる疾患として代表的なものであるが,肩関節に発症することは少なく,われわれが渉猟し得た範囲では本邦で32例しか報告されていない.今回われわれは,その比較的稀な肩関節に発症したsynovial chondromatosisの1例を経験したので若干の文献的考察を含めて報告した.症例は16歳男性で,主訴は右肩関節の運動時痛である.可動域は全方向に軽度制限されており,痛みを伴っていた.各種X線像,MRI像等により肩関節内広範囲に多数の遊離体を認めたため,術後の拘縮等を考慮に入れ,関節鏡を使用して関節内遊離体の除去術を行い,遊離体の病理組織像よりsynovial chondromatosisと診断した.術後経過は短期間であるが肩関節の可動域は完全に回復し,現在のところ遊離体の再発もない.

足舟状骨疲労骨折の1例

著者: 坂井毅 ,   山田昌弘 ,   吉田和也

ページ範囲:P.775 - P.778

 抄録:われわれは,稀な外傷である足舟状骨疲労骨折の1例を経験したので報告する.症例は15歳の男性.10歳から陸上競技を始め13歳からハードル走をしていた.1992(平成4)年10月より左足背部痛出現.県大会前で練習量が増えていた時期であった.1993(平成5)年1月当科初診.理学的所見では舟状骨直上に圧痛を認め,尖足位での片足跳びで疼痛が著明であった.単純X線像では異常は判りにくかった.骨シンチで異常集積像あり,CT,断層撮影,MRIで骨折線を認め1993(平成5)年5月11日,骨接合術兼骨移植術を行った.術後6週間の短下肢ギプス固定を行い,術後4カ月で練習を再開し,5カ月で元の競技レベルまで復帰した.足舟状骨疲労骨折は力学的ストレスの方向,血液の問題,筋の作用方向などが関与すると考えられる.スポーツ選手が慢性の足内側の疼痛を訴える時は本症を念頭においた診察が必要である.

骨折治療の経過中に肺塞栓症で死亡した2例

著者: 笠井裕一 ,   岡田元 ,   関口章司 ,   須藤啓広 ,   塩川靖夫 ,   荻原義郎 ,   竹内正嘉 ,   中村真潮

ページ範囲:P.779 - P.782

 抄録:骨折治療の経過中に肺塞栓症で死亡した2例を経験したので報告する.症例1は54歳,女性で,左足関節開放性脱臼骨折で受傷5日後に観血的骨接合術が行われ,術後19日目に突然,意識消失,呼吸困難となり死亡した.剖検所見では,左下腿に深部静脈血栓の形成がみられ,左主肺動脈と右肺動脈下枝に赤色塞栓が確認された.症例2は21歳,男性で,右中心性股関節脱臼などの診断で入院し,受傷14日後に突然,不穏状態,呼吸停止となり死亡した.剖検所見では,下大静脈血栓の形成がみられ,肺動脈幹から左右肺動脈分岐部にわたって赤色塞栓が確認された.今回の2症例を経験して,肺塞栓症発症の危険因子を多く有するハイリスク患者群を認識することが早期診断や治療を行うために最重要であると思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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