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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科31巻7号

1996年07月発行

雑誌目次

巻頭言

第11回日本整形外科学会基礎学術集会開催に当たって

著者: 酒匂崇

ページ範囲:P.788 - P.789

 この度鹿児島の地にて,第11回日本整形外科学会基礎学術集会を開催させて戴くことになり,誠に光栄であります.この学会は昨年10年の節目を迎え,人間に例えると成長期に入ったことになります.整形外科の基礎研究は臨床医学の発展を支えるものであり,基礎研究の発展なくしては整形外科学は発展もないものと考えております.したがって,私達会員は整形外科の基礎研究をいかに発展させるかについて真剣に考えなければなりませんので,基礎学会の会長としての責任の重さを感じております.

論述

指屈筋腱腱鞘ガングリオンに対する超音波検査

著者: 平地一彦 ,   加藤博之 ,   三浪明男

ページ範囲:P.791 - P.796

 抄録:筆者らは指屈筋腱腱鞘ガングリオンが疑われた24例に対して超音波検査を施行した.超音波断層像において境界明瞭な楕円形で内部均一な無エコー域を示す腫瘍像は17例に存在した.15例に穿刺を行い,13例でゼリー状内容液を吸引した.2例は穿刺に失敗し,外科的に摘出した.確定診断は全例が腱鞘ガングリオンであった.超音波断層像が上記以外の異常エコーを示す腫瘍像は4例あり,摘出後の病理診断では腱鞘ガングリオンが2例,神経鞘腫が1例,腱鞘巨細胞腫が1例であった.今回の結果より,臨床所見で腱鞘ガングリオンが疑われても他病変の場合があること,小さな腱鞘ガングリオンでは穿刺手技に失敗する場合があることが明らかになった.腱鞘ガングリオンの診断における超音波検査の敏感度は89.5%,特異度は100%であった.超音波検査により,腱鞘ガングリオンの診断率が向上し,無用な穿刺や手術が避けられ,確実な治療結果が得られる.

胸・腰椎屈曲回旋脱臼骨折の検討

著者: 阿部栄二 ,   鈴木哲哉 ,   本郷道生 ,   島田洋一 ,   佐藤光三 ,   千葉光穂 ,   楊国隆

ページ範囲:P.797 - P.804

 抄録:胸・腰椎屈曲回旋損傷26例の手術成績,術式の選択について検討した.年齢は平均33歳で,術後経過期間は平均5年8カ月である.背部への大きな直達外力によって受傷しており,片側・多発性の肋骨骨折や横突起骨折を伴うものが多かった.instrument failureもなく全例に骨癒合が得られ,13例(50%)はFrankelスケールで1段階以上の改善を示した.麻痺は損傷高位と脊椎後方要素の損傷形態によって異なり,胸椎部の椎間関節嵌頓型や椎体椎弓非分離型では,麻痺が重篤で予後不良であった.椎体椎弓分離型は損傷高位にかかわらず麻痺も軽度で良好な改善を示した.上・中胸椎部損傷では主にLuque法により平均5.8椎の固定を,胸腰移行部以下ではpedicle screw法により平均3.5椎の固定を行った.胸腰移行部以下の損傷ではslice骨折や椎間板損傷例が多く,16例中12例(75%)はpedicle screw法による1椎間での脊柱再建が可能と思われた.

仙骨嚢腫40例の治療経験

著者: 丸岩博文 ,   鎌田修博 ,   河野亨 ,   新井健 ,   鈴木康之 ,   内田哉也 ,   山中芳

ページ範囲:P.805 - P.810

 抄録:MRIで確認された仙骨囊腫40例に対し画像所見,臨床症状ならびに治療成績を検討した.発見頻度は腰仙椎部MRI施行例の約1%であり,平均年齢は54歳,男女比は2対3で女性に多かった.画像所見では第2仙椎椎体高位に単発性に発生することが多く,長径は平均18mmであった.他の脊椎・脊髄疾患を合併しない仙骨囊腫20例の臨床症状は腰仙部痛,下肢痛が多く,神経症状のある例は20%と比較的少なかった.腹圧上昇時の症状再現(いきみテスト陽性例)が脊椎・脊髄疾患合併例の15%,非合併例の44%にみられ,症状関与の判定の一助となると思われた.保存的治療により8割の症例は症状が消失ないし改善した.他の脊椎・脊髄疾患のため手術となった症例も,仙骨囊腫が症状に関与している確証が得られなかったため,観血的処置を加えなかったが,術後成績には影響がなかった.

頚椎椎間関節造影と後枝内側枝の電気刺激による放散痛の検討

著者: 福井晴偉 ,   大瀬戸清茂 ,   塩谷正弘 ,   長沼芳和 ,   唐澤秀武 ,   大野健次 ,   湯田康正

ページ範囲:P.811 - P.817

 抄録:各々の頚椎椎間関節が頚肩背部のどのような部位の痛みの原因として関与しているか多数の患者において調査を行った.対象は頚椎椎間関節由来の疼痛が疑われた患者で,椎間関節ブロックを施行した患者のうち造影剤注入時に本来の痛みの部位に疼痛の再現性が得られ局麻剤注入後に疼痛の消失が得られた患者50人,154関節,また椎間関節ブロックの長期的効果が認められずfacet rhizotomyを施行した患者のうち,後枝内側枝の電気刺激時に本来の痛みの部位に疼痛の再現性が得られ,facet rhizotomyにより疼痛が消失した患者33人,60部位とした.それぞれの放散痛の部位を10カ所にわけて記載し,C2/3からC6/7までの椎間関節,C3からC7までの後枝内側枝の放散痛の部位チャートを作った.

腰椎変性すべり症の臨床的,経年的画像変化の検討

著者: 西垣浩光 ,   小林健一 ,   岡本弦 ,   中沢亨 ,   萩原義信 ,   相庭温臣 ,   坂巻晧 ,   高橋和久

ページ範囲:P.819 - P.824

 抄録:腰椎変性すべり症150例につき臨床症状,X線的形態につき検討した.形態学的には,すべり椎部において椎弓角の水平化,椎間関節裂隙角の増大が認められた.X線的に経過観察しえた43例において25例にすべりの進行が認められた.すべり進行群と非進行群を比較すると,進行群では椎間関節裂隙角の増大および関節症性変化の進行が認められた.また椎間高が保たれている例にすべりの進行する例が多く,椎間板が著明に狭小化した例はすべりの進行が少ない傾向が認められた.腰椎変性すべり症と椎間板変性との関連性につきMRI撮像しえた38例において検討した結果,すべり椎間において椎間板変性の進行度と椎間腔の狭小化には関連性が認められた.椎間板変性の進行,椎間板腔の狭小化とともに椎間関節が変形しすべりが進行すると考えられた.

先天性股関節脱臼治療後に寛骨臼回転骨切り術を行った症例の検討

著者: 野沢雅彦 ,   山内裕雄 ,   廣瀬友彦 ,   長谷川徳男 ,   松林保智 ,   伊藤喜章

ページ範囲:P.825 - P.832

 抄録:当科で先天性股関節脱臼初期治療終了後に寛骨臼回転骨切り術を行った10例11関節の骨切り術を行うまでの経過と術後成績について検討した.本手術まで保存的治療だけ行った3例4関節は,いずれも5歳時のCE角が10°以上であり脱臼傾向の進展はなかった.なんらかの観血的な治療を行ったものは7例7関節で,観血整復術は5関節,減捻内反骨切り術が3関節,Salter骨盤骨切り術が2関節であった.内反骨切り術例は外反が再出現し,Salter骨盤骨切り術例では臼蓋の被覆が不足していた.これらの症例は術前に股関節痛などの症状を有し,股関節症への進展あるいは股関節症の進行が危惧されたが,寛骨臼回転骨切り術により術後1年から7年(平均4.3年)の経過観察期間では,臨床症状として疼痛が改善し,X線学的にも良好な股関節の適合性を得ることができた.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・2

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.833 - P.835

症例 30歳,男性.
 主訴:右手関節の疼痛,腫脹
 モトクロスバイク乗用中に転倒した.ハンドルを握ったままの右手に手関節が背屈を強制される形で上体が倒れ込んだ.右手関節の疼痛,腫脹が出現し,近医受診,シーネを当てられ帰宅したが,疼痛が増強したため来院した.

整形外科英語ア・ラ・カルト・45

比較的よく使う整形外科用語・その12

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.836 - P.837

●dolor(ドロール)
 これはラテン語とスペイン語で“疼痛”を意味する.炎症の4徴候を述べるとき疼痛を“dolor”,発赤を“rubor”(ルボール),発熱を“calor”(カロール)そして腫脹を“tumor”(ツモール)と習う.この4徴候のラテン語はすべて“-or”で終わる.発熱は熱量がカロリーであるから“calor”,腫脹は腫瘍と同じ“tumor”ですぐに覚える.しかし発赤の“rubor”と疼痛の“dolor”は覚えにくい.最近はこれら4徴候に加えて機能障害が入り,5徴候になっている.
 私が米国で開業していたとき,英語を喋れないヒスパニック系の患者や,旅行中のドイツ人を診察する機会があった.昔取った小さい杵柄(キネヅカ)のドイツ語はどうにか切り抜けたが,片言以下のスペイン語での対応は大変であった.しかしこの疼痛の“dolor”を知っていると便利であった.

ついである記・3

Professor von Rosen逝く

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.838 - P.839

 スウェーデンのフォン・ローゼン先生は,1960年代に先天性股関節脱臼の新生児検診を世界に普及させた人として広く知られており,また,大変な親日家でもあったので日本人の知己も多い.そのフォン・ローゼン先生が今年(1996年)の1月20日にマルメー市において97歳の天寿を全うされた.さらに,その夫人も2週間後の2月3日に93歳で先生のあとを追うようにして逝かれた.非常に仲睦まじかった御夫妻らしい最後と言えよう.このコラムには場違いかも知れないが,今回は先生御夫妻の想い出などについて少し書かせていただいて,かつて先生と親交のあった多くの日本人と共に御夫妻の御冥福をお祈りしたい.

最新基礎知識/知っておきたい

接着分子(adhesion molecule)

著者: 岩本幸英

ページ範囲:P.840 - P.842

 細胞接着には,細胞-細胞外マトリックス接着と細胞-細胞接着があり,生物の基本的な生命現象である細胞の分化,増殖,アポトーシス,形態形成,個体発生や,免疫反応,慢性関節リウマチをはじめとする炎症,血液凝固.癌の転移などの病態に細胞接着分子が関与している.通常,狭義の細胞接着分子とは,細胞表面に存在して細胞接着に役割を果たす細胞膜貫通性の糖蛋白あるいは膜構成糖脂質のことを示す.現在までに多数の細胞接着分子が発見されているが,これらは表1に示すように構造的にいくつかのファミリーに分類することができる1).狭義の細胞接着分子以外にも,細胞外マトリックス構成成分であるラミニン,ファイブロネクチン,ビトロネクチンなどが細胞接着に関与しており,広義の細胞接着分子といえる.細胞接着分子は通常,結合する相手(リガンド)を複数もっていること,また,個々の細胞には多種類の接着分子の発現がみられ,特定の細胞接着現象においても複数の接着分子が関与していることが知られている.個々の接着分子のリガンドへの結合は弱く,実際の細胞接着においては,多種類の接着分子が接着部位に集積することにより多くの接着分子とリガンドの結合が成立し,強固な細胞接着が得られる.これは,ひとつひとつの噛み合わせは弱いが多数の噛み合わせにより強い接着が得られるマジックテープに似ているので,“マジックテープの原理”と呼ばれる.表1に示した細胞接着分子ファミリーについて解説する.

臨床経験

Schwartz-Jampel症候群の1例

著者: 西山正紀 ,   半田忠洋 ,   二井英二 ,   水谷健一 ,   山崎征治

ページ範囲:P.843 - P.845

 抄録:Schwartz-Jampel症候群は,ミオトニアと軟骨異形成症とを併せ持つ非常に稀な骨系統疾患である.今回われわれは,本症候群と思われる1例を経験したので報告した.症例は3歳4カ月の女児で,眼裂狭小,小さくすぼめた口,小下顎,耳介低位,悲しそうな表情を呈し,特異な顔貌であった.軽度の鳩胸,四肢は軽度短縮し,下肢近位筋の肥大,外反膝,扁平足を認め,股関節に内旋制限が著しかった.歩容は外旋歩行で左右に揺れ不安定であり,長距離歩行は困難であった.本症候群の関節拘縮や変形,股関節形成不全などに対し整形外科的治療も考慮されるが,ミオトニアが関与しているため,手術成績は一定しない.手術適応には十分注意する必要がある.

両側大腿骨頚部spontaneous fractureの1例

著者: 宗安浩子 ,   仲川喜之 ,   三浦太士 ,   鶴薗雅史 ,   梅垣修三

ページ範囲:P.847 - P.849

 抄録:近年,大腿骨頚部spontaneous fractureの報告が散見されるが,両側同時発生例は稀とされる.今回,われわれは高齢者の骨粗鬆症例で明らかな外傷歴なく,両側ほぼ同時期に生じた大腿骨頚部spontaneous fractureの1例を経験したので報告する.症例は81歳の女性で,高度の骨粗鬆症以外に基礎疾患はなかった.初診時のX線所見は陰性で,再診時のX線像より初めて診断がなされた.MRIでは骨頭下を横切る低信号域を認めたが,骨頭には異常信号域を認めず骨頭への血行は維持されているものと考えられた.治療は両下肢免荷にて保存療法を行い,内反変形は残存したものの機能的には問題なく骨癒合が得られた.高齢者の股関節痛の診断に際し,明らかな外傷歴がなく,X線所見が陰性であっても本症の存在を念頭におき,注意深い経過観察が必要であると考えられた.

筋肉内に発生した腫瘤型サルコイドーシスの2例

著者: 米田岳史 ,   千福健夫 ,   福井潤 ,   北田力 ,   細井孝純 ,   立花暉夫

ページ範囲:P.851 - P.854

 抄録:筋肉内腫瘤型サルコイドーシスの2例を経験したので文献的考察を加えて報告した.1例は43歳の女性で四肢多発型,他の1例は53歳の女性で,大胸筋内単発型であった.2症例とも血液検査上異常はなかったが,MRIにて腫瘤の中心部は低信号,腫瘤周囲を高信号域が取り囲むという特徴的な輪状像が認められた.この所見は,筋肉内腫瘤型サルコイドーシスの診断に極めて有用な画像情報であると考えられた.この2例に摘出術を実施し,サルコイドーシスの典型的な組織学的所見を得た.

膝周囲に発生した筋肉内ガングリオンの検討

著者: 高田潤一 ,   薄井正道 ,   松山敏勝 ,   橋本英樹 ,   千葉英樹 ,   石井清一

ページ範囲:P.855 - P.858

 抄録:膝周囲の筋肉内に発生したガングリオンの12例を経験した.症例は,男4例,女8例で,年齢は3~65歳までの平均42.7歳であった.臨床症状の特徴として,①進行が緩徐であるために直径数cmに達することがあること,②経過中に腫瘤の大きさがやや変化する場合があること,③疼痛,発赤,熱感などの局所所見に乏しいこと,が挙げられた.画像所見は,CTでは低吸収像を示し,MRIではT1強調像で低信号,T2強調像で高信号を示した.いずれも境界は明瞭で,内部が均一な像を呈していた.ガングリオンのMRIにおける特徴としては,水平断では円形の腫瘤を示すものの,矢状断で多房性の嚢腫状の像を呈することであった.またエコーでは,嚢腫状で内部がエコーフリーな腫瘤像が認められた.エコーは非侵襲性で外来で容易に施行できること,任意の方向から画像が得られるため,嚢腫状の病変の診断に有用であると思われた.

中位頚椎高位に発生した神経鞘腫の2例―頚髄腫瘍の早期発見および手術的治療の要点

著者: 山田敏幸 ,   熊野潔 ,   平林茂 ,   内田毅 ,   瀧直也

ページ範囲:P.859 - P.863

 抄録:一般に,神経鞘腫は発育が緩徐なため発生初期には明確な症状が出現しにくいとされ,特に,C3からC5の中位頚椎高位に発生した場合には,項部痛や肩こりなどの漠然とした症状として実感されることが多い.このため頚椎症や椎間板ヘルニア等と誤って診断され長期にわたり保存的治療が行われることにより脊髄腫瘍としての診断が遅れがちとなる.やがて,手指の巧緻運動障害やしびれ感,安静時の上肢痛などの脊髄神経根症状を生じる頃には腫瘍はかなりの大きさとなっていることが多い.早期発見のためには,たとえ症状が軽微であっても,保存的治療で効果がない場合には脊髄腫瘍の可能性を考慮してMRIなどの画像検査を行う必要がある.今回われわれは,比較的軽微な症状で発見された中位頚椎に発生した神経鞘腫の2例を経験し,手術的治療にて良好な結果を得たので報告する.

上腕骨骨幹部骨折に対するHackethal法の治療経験

著者: 川上寛 ,   田島宝 ,   杉山晴敏 ,   石川知志 ,   加藤哲弘 ,   高木英希 ,   川崎雅史 ,   伊藤みりえ ,   森山明夫 ,   小野木啓子

ページ範囲:P.865 - P.869

 抄録:上腕骨骨幹部骨折の手術的治療として,1991年1月から1995年5月までに10例のHackethal法を施行した.症例の骨折型はA0分類によれば,A1:1例,A3:4例,B1:2例,B2:2例,C2:1例であった.10例中8例,80.0%に良好なる骨癒合が得られ,2例が偽関節となった.偽関節となった2症例は共にA3に属する横骨折であり,術直後の単純X線写真において骨折部離開が4mm,5mmと大きかった.以上より,この手術手技としては,骨折部離開を可能なかぎり短縮させることが重要であり,A3に属する横骨折に対してはその適応を慎重に検討する必要があると考える.

遅発性麻痺を呈した第3腰椎圧迫骨折に対し後方椎体間固定を行った1例

著者: 滝野哲也 ,   川原範夫 ,   松井貴至 ,   池渕公博 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.871 - P.874

 抄録:第3腰椎に生じた骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折による遅発性麻痺に対して,後方単一進入にて後方椎体間固定を施行し得たので報告する.今回の麻痺の原因として後弯変形と椎体の圧潰による骨片の脊柱管内占拠が挙げられたが,われわれは脊椎全摘術の技術を応用して硬膜腹側の癒着骨片を完全に切除することによって,後方のみから後弯の矯正および馬尾神経の完全な除圧を得ることに成功した.

右小指基節骨に発生し,軟骨肉腫との鑑別を要した骨膜性軟骨腫の1例

著者: 山根誓二 ,   花岡英弥 ,   矢部啓夫 ,   市川亭 ,   森岡秀夫 ,   入久巳 ,   向井万起男

ページ範囲:P.875 - P.878

 抄録:右小指基節骨に発生し,軟骨肉腫との鑑別に難渋した良性の軟骨性腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は36歳の女性で,21年前より右小指の腫瘤に気付いていた.その後徐々に増大したため当科を受診し,精査加療目的にて入院した.単純X線像は,右小指基節骨骨皮質に接した境界明瞭な腫瘤像を示したが,CTおよびMRI像などの画像所見では良悪性の鑑別ができず,生検をかねて摘出術を施行した.組織学的所見は軟骨基質のなかに増生した軟骨細胞が主体であるが,細胞密度が高く異型性の目立つ細胞,分葉核を有する細胞も認めた.軟骨肉腫を思わせる組織像であるが,骨膜性であり手指発生である.経過が21年と長くしかも急速な増大でない,臨床的にも疼痛などがみられないことなどを加味して良性の骨膜性軟骨腫と診断した.軟骨性腫瘍は病理組織像のみではなく,発生部位,経過などを含め統合的に診断すべきだと考えた.

PLLAピンによる成人橈骨頚部骨折の1治験例

著者: 葛岡健作 ,   松末吉隆

ページ範囲:P.879 - P.882

 抄録:比較的稀な成人橈骨頚部単独骨折の1症例に対し,生体内吸収性骨接合材PLLAピンを用い,観血整復骨移植後,内固定を行った.術後18カ月目に直接検診を行い,日整会肘機能評価法のスコアは100点であった.関節包内操作を必要とする本骨折の内固定に対し,吸収性PLLA材の優れた有用性を確認し,若干の文献的考察を加えた.

ガス産生菌感染による腸腰筋膿瘍の1例

著者: 加藤宏 ,   片山裕視 ,   松崎英剛 ,   水上慎一 ,   大友康裕 ,   辺見弘 ,   杉浦知史 ,   松本不二生 ,   小林陽二

ページ範囲:P.883 - P.885

 抄録:腸腰筋膿瘍は近年では稀な疾患となっている.今回,大量のガス産生のみられた難治性の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告した.症例は60歳男性で,高熱と左鼠径部痛にて入院となった.臨床症状と画像所見から敗血症を伴ったガス産生菌感染による腸腰筋膿瘍と診断し,直ちに抗生物質投与と外科的排膿処置を行ったが,寛解・増悪を繰り返し,感染を鎮静化させるまでに長期の治療期間を要した。血液と膿培養では黄色ブドウ球菌のみが検出されたが,同菌はガスを産生しないため,ガス産生菌との混合感染による非クロストリジウム性ガス壊疽と考えられた.本症は臨床症状と画像所見から容易に診断可能であるが,本例のように治療が遅れると重症化することがあるため,股関節周辺部の化膿性炎症疾患の1つとして常に念頭におく必要がある。

MRIが有用であった腸骨骨髄炎の1例

著者: 常泉吉一 ,   永瀬譲史 ,   板橋孝 ,   勝見明 ,   山中一

ページ範囲:P.887 - P.890

 抄録:われわれはMRIが有用であったサルモネラ菌(Salmonella choleraesuis)を起炎菌とした腸骨骨髄炎,大腿内転筋膿瘍の1例を経験したので報告した.腸骨骨髄炎は比較的稀な疾患で疼痛,圧痛の局在が不明瞭で診断に難渋することが多い.本例ではMRIが診断,経過観察に大変有用な情報を提供した.また,Salmonella choleraesuisによる骨髄炎は極めて稀で,本邦では渉猟し得た限りでは2例のみであった.以上を若干の文献的考察を加え報告した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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