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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科31巻8号

1996年08月発行

雑誌目次

視座

画像技術の進歩と立体情報

著者: 中村利孝

ページ範囲:P.893 - P.893

 最近の画像技術の発達には目を見はるものがある.コンピュータグラフィックスの基本的なプログラムが蓄積,整備され,断面を含めた立体の細かなディスプレイが可能になってきた.CTやMRIなどの断層撮影像が加算され,短時間で立体情報に変換される.CTRモニターにはリアルな3次元画像が映し出される.樹脂加工機と連動させて実物大の立体模型も比較的容易に作られるようになった.
 このような画像技術の進歩は,整形外科にとって確かに役に立つ.骨の立体模型が簡単に作られるようになると手術治療の見通しは格段によくなる.骨盤や脊椎の骨折などでは,立体模型を作成して骨片の形と位置をあらかじめ確認しておくと,スクリューやプレートによる固定性についての予測もつく.3次元画像の観察により骨の細工を主体とした脊椎,股関節の手術計画や,骨腫瘍の切除範囲の決定も容易になる.数年前には夢物語であったシミュレーション手術が,まさに可能になりつつあると言える.

論述

Marfan症例群に伴う脊柱側弯症とその治療成績

著者: 稲見州治 ,   大谷清 ,   斎藤正史 ,   柴崎啓一

ページ範囲:P.895 - P.902

 抄録:過去21年間に国立療養所村山病院で手術的治療を行った脊柱側弯症は263例で,このうちMarfan症候群に伴う脊柱側弯症は15例(5.7%)であった.術前に装具治療を行った5例では,側弯角度は初診時平均42°から,3年9カ月の経過で平均83°に進行した.手術法はposterior fusion in situが1例,Harrington法が7例,Luque法が2例,Cotrel-Dubousset法が2例,Dwyer法が3例であった.側弯角度は術前平均81°が術直後平均36°(矯正率56.2%),術後4週で死亡した1例を除く7年5カ月後の最終調査時では平均61°(29.4%)となり,平均24°の矯正損失がみられた.Marfan症候群に伴う脊柱側弯症は進行性であり,心血管系の異常など術前の検索を十分に行った上で,できるだけ早期に手術的治療を考慮するべきである.

追加広範切除と再発後広範切除を行った軟部肉腫の検討

著者: 鬼頭正士 ,   梅田透

ページ範囲:P.903 - P.908

 抄録:初回手術が不十分であった軟部肉腫に対し追加広範切除を施行した20例と,再発したのち広範切除を行った10例を対象とした.男性20例,女性10例,年齢は8~79歳であり,MFH 8例,隆起性皮膚線維肉腫5例,脂肪肉腫4例,滑膜肉腫4例,神経肉腫4例等である.切除縁評価は,追加広範切除群ではcurative marginが1例,wide marginが19例であったのに対し,再発広範切除群はwide margin 6例,marginal margin 2例,intralesional margin 2例と不十分な切除縁となった症例が多かった.局所再発率は追加広範切除群10%,再発広範切除群50%であり,5年生存率は追加広範切除群69.2%,再発広範切除群26.7%であった.また同期間に初回手術を当科で行った軟部肉腫45例と比較しても,追加広範切除例は再発率,予後ともに良好であり,追加広範切除の有用性が示された.

中下位頚椎損傷に対するAO Cervical Spine Locking Plateの有用性―Plate非使用群との比較検討

著者: 林信宏 ,   玉置哲也 ,   吉田宗人 ,   川上守 ,   安藤宗治 ,   山田宏

ページ範囲:P.909 - P.914

 抄録:AO Cervical Spine Locking Plate(CSLP)の有用性を検討するため,中下位頚椎損傷症例において,plate使用群18例と非使用群20例との間でprospective control studyを行った.plate使用群では,非使用群に比べ坐位までの期間が短縮され,術後合併症も減少する傾向を示した.一方,骨癒合までの期間や神経症状の推移,頚椎alignmentの保持能力については両群間で有意差はなかった.CSLPは手技的に安全かつ簡便であり,術後MRI撮像が可能などの利点を有するが,最近種々の合併症も報告されており,その使用に当たっては慎重に対処する必要がある.

検査法 私のくふう

肩関節疾患に対する牽引装置使用MRIの経験

著者: 田中伸哉 ,   佐藤克巳 ,   石橋弘二 ,   小島忠士

ページ範囲:P.915 - P.919

 抄録:軟部組織の描出に優れるMRIは,肩関節疾患の診断に広く用いられている5).しかし,肩峰下滑液包内の液体や関節軟骨,肩峰骨頭間距離の狭小化,関節の変形,肩の動きが,MRI診断上のpitfallの原因となっている2~5).筆者らは,このpitfallの一因であるpartial volume averagingの影響を減少させる目的で,肩峰骨頭間距離を拡大するための上肢の牽引装置を作成した.[方法]非磁性体の牽引装置を作製し,被験者の両腕に均等に6kg重の牽引力をかけた.撮像はGE社製1.5テスラの超伝導型装置で行い,signa肩用表面コイルを用いた.[対象]腱板断裂2例,腱板縫合術術後2例,肩関節結核1例であった.[結果]通常の方法と比較して肩峰骨頭間の軟部組織の描出がより鮮明であった.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・3

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.921 - P.923

症例 57歳,男性,会社員
 1990(平成2年)5月自転車に乗っていて転倒し,右膝打撲.近医にてX線検査を受けたが,骨折等は認められず,保存的に治療し経過を観察していた.その後右膝関節腫脹,疼痛が持続し,同年12月他医にて診察を受け,1991(平成3)年1月当科紹介受診する.
 現症:初診時,右膝関節の腫脹が著明で,高度の外反変形を呈し,関節動揺を認め,歩行困難であった.関節穿刺にて100mlの黄色の混濁した関節液が排液された.

最新基礎知識/知っておきたい

「癌抑制遺伝子」

著者: 戸口田淳也

ページ範囲:P.924 - P.925

 【概念】
 正常細胞と癌細胞を細胞融合させるとその形質が正常となることより,癌の形質は正常細胞に対して劣性であり,正常細胞には細胞の癌化を防ぐ遺伝子があるのではないかと,古くより考えられていた.そして1986年初めての癌抑制遺伝子として,小児の眼に発生する悪性腫瘍である網膜芽細胞腫(retinoblastoma,Rb)の原因遺伝子として,網膜芽細胞腫(RB1)遺伝子が単離されたことにより,この仮説が分子レベルで実証された.
 癌抑制遺伝子の定義として,その正常細胞における機能としては,細胞の癌化を阻止する機能をもつものであること,そして癌細胞においては,その機能が消失するような変異が存在していること,更にその遺伝子を欠く腫瘍細胞に正常な遺伝子を導入した場合,悪性形質に何らかの抑制が認められることなどがあげられる.一般にその機能は,変異遺伝子に対して優性であり,双方の対立遺伝子に変異が存在しない限り,機能的には正常であると考えられている.逆に変異遺伝子からみると,その変異は正常遺伝子に対して劣性であるために,初期には劣性癌遺伝子(recessive oncogene)という表現も用いられた.

整形外科英語ア・ラ・カルト・46

比較的よく使う整形外科用語・その13

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.926 - P.927

●degeneration ディジェネレィション)
 これは“generation”(ジェネレィション)に,打ち消し接頭語“de”を付けて,“degeneration”という語が出来た.この“generation”の語源は,ラテン語の“genus”(生まれ)に由来し,さらに“genesis”(ジェネスィス・発生)が生まれた.この“genus”の語幹である“-gen-”が付いた医学用語は数多くあり,“cardiogenic”(カーディオジェニック・心原性の),“neurogenic”(ニュウロジェニック・神経原性の)や“iatrogenic”(イアトロジェニック・医原性の)などがその代表的な言葉である.このラテン語の“gen”(ゲン)は,日本語の“原”(ゲン)に通じるというシャレで,別の機会に,他の雑誌に書いたことがある.
 さて“generation”には,世代や発生の意味があり,“degeneration”には退化や消退の意味がある.医学用語辞典に書かれている“degeneration”の訳語は“変性”である.これは生物の退化の過程で起こる“変性”のことである.したがって感染や代謝異常によって起こる変性,また異物や体内の異常物質の沈着による変性は“degeneration”とは言わない.整形外科の分野で起こる“degenerative disease”は,関節内に関係したものが多い.

ついである記・4

Kairo

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.928 - P.929

 先進国(developed country)や発展途上国(developing country)という言葉は広く使われているが,よく考えてみると意味のはっきりしない言葉である.G7に代表される先進7カ国と中央アフリカの国々とを比較すると先進国と発展途上国との違いを一応理解できるが,エジプトや中国はどちらの分類に入るのか.現在いわゆる先進国と呼ばれている国々が国家として存在したとは考えられない4000年も昔に,エジプトや中国では既に建築や彫刻などにおける高度の技術と芸術性が達成されており,数学や天文学も信じられない程のレベルに達し,エジプトでは文字も実用化されていた.したがって,これらの国の人達にとってみれば,自分達の国がいわゆる先進国の人達から発展途上国と呼ばれるなどということは甚だ片腹痛い思いであろう.

臨床経験

原発性脊椎腫瘍に対する第5腰椎椎骨全摘術の経験

著者: 鳥畠康充 ,   富田勝郎 ,   川原範夫 ,   森下裕 ,   藤田拓也 ,   水野勝則 ,   沢田米造 ,   浦山博 ,   八木雅夫 ,   石瀬淳

ページ範囲:P.931 - P.939

 抄録:腰椎部は,原発性脊椎腫瘍の好発部位であるが,手術展開および脊椎再建が困難である第5腰椎に対する椎骨全摘の報告はほとんどない.われわれは,第5腰椎に発生し腹部臓器に浸潤した再発性軟骨肉腫と,動脈瘤様骨嚢腫の各1例を経験した.これらに対して,周到な手術計画を立て,複数科の専門的技能を集約することにより,後方・前方2段階手術での椎骨全摘術を完遂した.短期の経過観察ながら腫瘍の再発を認めていない.軟骨肉腫,aggressiveな巨細胞腫や動脈瘤様骨嚢腫のように,再発傾向が高いものの手術による局所制圧ができれば良好な予後が期待できる脊椎腫瘍に対しては,たとえ第5腰椎であっても,理想的な腫瘍学的切除にできるかぎり近い手術を追求して行くべきであると考える.

Leeds-Keio人工靱帯によるアキレス腱再建術の長期成績

著者: 堀内圭輔 ,   冨士川恭輔 ,   松本秀男 ,   大谷俊郎

ページ範囲:P.941 - P.946

 抄録:Leeds-Keio人工靱帯を用いてアキレス腱再建術を施行し,術後平均10年以上経過した3例の長期術後成績を報告する.手術法は,Leeds-Keio人工靱帯を用いて断裂したアキレス腱中枢部と末梢部を架橋再建し,これを中心に残存する瘢痕組織を可及的に縫着形成した.追跡調査時,3例とも再建アキレス腱は正常に機能し患者の満足度は高かった.またMRIを施行した1例では人工靱帯に接触していると思われる部分は高信号を示すものの,その周囲は健側と同様な低信号を示していた.これまで陳旧性アキレス腱断裂の再建材料には自家組織が用いられたが,長さ,強度が不十分なことが多く,術後長期の外固定,リハビリテーションを要した.本法は手術手技が簡便で早期社会復帰が可能である.今回の追跡調査により長期間安定した成績が得られることが判明し,陳旧性アキレス腱損傷に対する再建術として極めて有用であると考えられた.

変形性肩関節症に対する一考察

著者: 中川泰彰 ,   三木堯明 ,   上尾豊二

ページ範囲:P.947 - P.950

 抄録:比較的稀な変形性肩関節症の疫学的調査を施行した.対象は1989(平成元)年より平成6年の間に当院整形外科外来を受診した変形性肩関節症患者12例13肩である.同時期の他の関節の変形性関節症と比較すると,年平均で膝676例,股212例,足15例,肘13例,手2.7例,肩2例の頻度であり,変形性肩関節症が一番少なかった.また,12例13肩のうち一次性OAは7例8肩あり,男1例女6例,平均76.3歳と女性に多かった.二次性OAは5例5肩,男3例女2例,平均50.4歳であり,その原因としては腱板縫合後の拘縮によるものが2例,骨折によるものが3例であった.

両側随意性橈骨頭脱臼の1例

著者: 井幡巌 ,   堀内行雄 ,   山中一良 ,   関敦仁 ,   松林経世 ,   矢部裕 ,   伊藤恵康

ページ範囲:P.951 - P.954

 抄録:回外することにより発生し,回内および伸展により整復されるきわめて稀な両側随意性橈骨頭脱臼の1例を経験した.症例は16歳の男性で,中学2年より誘因なく両肘の不安定感が出現し,肘関節90°屈曲位で回外していくと橈骨頭は前方に脱臼し,伸展または回内していくと整復された.本例の発生機序は過回外時に尺骨が“てこ”として働き橈骨頭が側方に脱臼したために輪状靱帯に緩みが生じ,そこに上腕二頭筋の収縮力が働き橈骨頭は前方に移動したと推測される.経過を観察していたが右肘は物を握ろうとして力をいれただけでも容易に脱臼するようになったために手術を施行した.上腕骨と橈骨頭の相対関係を改善する目的で,橈骨中央部で骨切りを行い中枢骨片を80°内旋する回旋骨切り術を施行した.さらに,輪状靱帯にはやや緊張をつけて縫合閉鎖した.術後,経過は良好で右肘の脱臼は再発していない.

私の経験した骨盤内病変による大腿神経麻痺の3例

著者: 田中正道 ,   冨田武史 ,   宮本隆司 ,   三橋浩

ページ範囲:P.955 - P.957

 抄録:腸筋内に発生した血腫,膿瘍,腫瘍と異なった病変による大腿神経麻痺の3症例を経験した.それぞれの病因は症例1が転倒を起因とした外傷性血腫であり,症例2は腸筋内膿瘍,症例3は腫瘍による大腿神経麻痺であった.3例とも直接的な神経障害ではなく腸筋膜下での病変の増大による絞扼性神経障害であった.全例病変の摘出ないしは化学療法による腫瘍の縮小により麻痺の改善が得られた.

mucopolysaccharidosisに手根管症候群と小指屈筋腱皮下断裂を生じた1例

著者: 青山朋樹 ,   藤尾圭司 ,   西島直城 ,   中村孝志

ページ範囲:P.959 - P.961

 抄録:ムコ多糖症は稀な骨系統疾患であり,また知能が正常なSheie症候群は56万人に一人の発生頻度といわれている.これに手根管症候群と屈曲腱皮下断裂を合併した1例を報告する.症例は23歳,男性.主訴は右母,示,中指のしびれと右小指DIP関節の屈曲困難.3歳の時,関節の拘縮を指摘され,ムコ多糖症(Sheie症候群)と診断された.1993(平成5)年10月右小指の過伸展を強いられた後,小指の屈曲が困難となった.同じ頃より右母,示,中指のしびれを自覚した.その後放置していたが,しびれが増悪し屈曲も不能となったため当科受診し,手根管症候群と屈筋腱皮下断裂と診断された.当科入院時正中神経領域のしびれと小指DIP関節の屈筋不能を認めた.1994(平成6)年12月,手根管開放術,腱移行術を行った.術後4カ月を経過ししびれは消失し屈曲も可能となった.

悪性軟部腫瘍切除後に長趾屈筋腱によるアキレス腱再建術を施行した1例

著者: 林田達郎 ,   野口昌彦 ,   高宮尚武 ,   村田博昭 ,   楠崎克之 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.963 - P.968

 抄録:われわれは下腿三頭筋に発生した悪性軟部腫瘍切除後に長趾屈筋腱によるアキレス腱再建術を施行したので報告する.症例は48歳女性.1994年4月から左ふくらはぎに腫瘤を触知したが疼痛はなく放置していた.その後,正座時に左膝窩部にひきつれ感を自覚するようになり,同年8月に当科を初診した.画像所見で腓腹筋内に8×5×5cmの脂肪とiso-densityなモザイク状の腫瘤像を認めたため生検術を行った.病理組織像から高分化型脂肪肉腫と診断し腓腹筋,ヒラメ筋,アキレス腱を含む広範囲腫瘍摘出後,長趾屈筋腱(FDL)によるアキレス腱再建術を施行した.長母趾屈筋腱とFDLを交差部で縫合しFDLをその中枢側で切離し踵骨に作製したトンネルに通した後,断端部をFDL中枢部に縫合しアキレス腱を再建した.術後1年の現在,足関節可動域,底背屈力は健側と同程度まで回復した.日整会足部疾患治療成績判定基準では88点で再建したアキレス腱の機能は良好である.

小児の小指に発生した類上皮型悪性神経鞘腫の一例

著者: 小林由香 ,   須藤隆二 ,   岡義範 ,   加藤優子

ページ範囲:P.969 - P.973

 抄録:小児の指に発生し,病理学的診断が困難であった軟部悪性腫瘍の1例を報告する.症例は6歳女児.左小指基節部尺側に腫瘤が出現し,単純摘出術後約5カ月で同部位に再発を認めた.再摘出標本で腫瘍に出血や壊死はなく,充実性で胞巣状配列を認め,大型で多角形から短紡錐形の細胞と大型で異型性の著明な核を有していた.免疫組織学的にはVimentin(+++),S-100蛋白(+++),EMA(++),NSE(++),Cytokeratin KL-I(+)であり,電顕所見で上皮および間葉系への分化を認めた.
 以上より軟部悪性腫瘍と診断し,小指CM関節離断術を施行した.鑑別診断として類上皮肉腫,滑膜肉腫,明細胞肉腫,皮膚付属器腫瘍,悪性神経鞘腫等が考えられたが,最終的に臨床所見および病理組織学的所見より,極めて稀な類上皮型悪性神経鞘腫purely epithelioid typeが最も適切な診断であると考えた.

ハンググライダーによる両側肩関節同時前方脱臼の1例

著者: 冨田文久 ,   遠山晴一

ページ範囲:P.975 - P.978

 抄録:両側肩関節同時脱臼は稀な脱臼とされ,過去に幾つかの報告があるのみである.一方,ハンググライダー外傷において肩関節脱臼の報告はみられるが,両側同時脱臼の報告は筆者らが渉猟し得た限りではみられない.今回,ハンググライダーにより生じた両側肩関節同時前方脱臼の1例を経験した.症例は36歳,男性でハンググライダーの飛行中,着陸時に失速し5mの高さより前方へ墜落し受傷した.初診時単純X線写真で両上腕骨大結節骨折を伴った両側肩関節前方脱臼が認められた.直ちに整復したが,右肩関節は単純X線写真,単純CTにて大結節部の骨折片の外側転位が認められ,観血的骨接合術を行った.本脱臼の受傷機転は肘関節が屈曲位,肩関節が外転外旋位で,衝突時に両肩同時に外旋強制されたことが考えられた.本脱臼発生には,ハンググライダー特有の着陸時の飛行姿勢と,機体が回旋せずに衝突したという偶然性が重なり生じたものと推察された.

鎖骨端に発症したposttraumatic osteolysisの1例

著者: 元津雅彦 ,   井上正史 ,   日浅浩成 ,   池田俊彦 ,   田口浩之 ,   小田伸悟 ,   宮本良治 ,   前田智治 ,   水木伸一

ページ範囲:P.979 - P.981

 抄録:鎖骨端に発症するposttraumatic osteolysisは比較的軽微な外力にもかかわらず肩鎖関節部の腫脹と疼痛が続き,数カ月後には鎖骨端の骨融解をみる比較的稀な疾患である.本症の1手術例につき報告した.症例は19歳男,1993(平成5)年6月14日自転車にて走行中転倒し左肩を打撲,翌日のX線にて異常を認めなかった.左肩鎖関節部の腫脹と疼痛が続き,3カ月後鎖骨端の骨融解をみた.同部には軽度の腫脹と圧痛を認めた.一般的な検査には異常を認めなかった.疼痛が続くため,1994(平成6)年1月7日鎖骨遠位端の切除と滑膜の部分切除を行った.鎖骨端の病理組織像では,骨皮質は著明に増殖した破骨細胞により吸収され菲薄化していた.病因は明らかではないが,終末神経・血管の損傷,自律神経障害,充血に伴う異化効果,破骨細胞による骨吸収の異常な亢進等が考えられている.本例では,破骨細胞による骨吸収が何らかの機転により異常に亢進していることが確かめられた.

大菱形骨骨折を合併した母指手根中手関節脱臼骨折の1例

著者: 織辺隆 ,   井口哲弘 ,   松原伸明 ,   鍋島祐次 ,   日野高睦 ,   上原香 ,   宮秀俊 ,   益子秀久

ページ範囲:P.983 - P.986

 抄録:今回,比較的稀な大菱形骨骨折を合併した母指手根中手(以下CM)関節脱臼骨折の1例を経験したのでその受傷機転について考察を加えた.症例は27歳の男性で,バイクで走行中転倒して受傷した.左母指中手骨にBennett骨折を,また大菱形骨は結節部の剥離骨折と橈側結節部の骨折を認めた.橈側結節部の骨折型はWalkerらの分類で,Ⅱb型に準じていた.保存的に整復不可能であったため,受傷後10日目に観血的骨接合術を行った.術後1年の現在,骨癒合および可動域は良好で,疼痛も認めない.本症例の受傷機転は,母指が過度の内転位にて中手骨に軸圧が加わり,まずBennett骨折をきたし,続いて大菱形骨の橈側結節部に剪断力が働いたものと考察した.

大腿骨転子下骨折治癒後に頚部内側骨折を来した大理石骨病の1例

著者: 山中一 ,   永瀬譲史 ,   板橋孝 ,   勝見明 ,   常泉吉一

ページ範囲:P.987 - P.991

 抄録:大理石骨病は全身の骨硬化像を呈し,易骨折性を特徴とする稀な疾患である.今回,大腿骨転子下骨折に対し観血的治療を行い,骨癒合を得た本症患者が,約5年後,頚部内側骨折を来し,人工骨頭置換術を施行したので報告する.症例は63歳,女性.1989(平成1年)転倒し右大腿骨転子下骨折を来し,CHS固定を試みたが骨が硬くラグスクリューの挿入ができず,プレートにて固定.1年後偽関節のため再度CHS固定を施行した.その後骨癒合が得られたが,約5年後,誘因なく右頚部内側骨折を来し入院.CHSを抜去し,人工骨頭置換術を行った.骨は極めて硬くセボトームを使用してリーミングを行った.本症患者の骨折治療では強固な内固定が必要であり,特に頚部内側骨折の治療では,早期離床を考え人工骨頭置換術を行うべきである.さらに手術器械の折損にも注意し,術後も十分な経過観察が必要である.

孤立性脊髄硬膜外血管腫の1例

著者: 濱淵正延 ,   土屋隆之 ,   中川偉文 ,   山下誠三 ,   武田善樹

ページ範囲:P.993 - P.996

 抄録:脊髄硬膜外血管腫は脊椎血管腫が硬膜外へ二次的に進展したものが大部分を占め,孤立性に硬膜外に発生する血管腫は少ないといわれている.今回われわれは脊髄横断性麻痺を呈し,手術治療によって治癒した孤立性の脊髄硬膜外血管腫の症例を経験した.症例は39歳の男性で特別な誘因なく,両下肢しびれ感と右下肢痛を生じた.しびれ感は徐々に進行し,5カ月後には歩行障害をきたし,Th10レベル以下の脊髄横断性麻痺に陥った.脊髄造影で硬膜外腫瘍を認め,MRI像では脊髄硬膜の後方にT1では低輝度,T2では高輝度の腫瘍が描出された.手術は椎弓切除により,硬膜外腫瘍を摘出した.病理組織はcavernous hemangiomaであった.術後2カ月で神経学的にすべて正常に回復した.術後5年の現在再発はなく,脊椎の変形やinstabilityは認められない.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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