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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科31巻9号

1996年09月発行

雑誌目次

視座

「1+1=2」以上の治療成果を挙げるには……

著者: 富田勝郎

ページ範囲:P.999 - P.1000

 日本の整形外科は年々進歩し,現在では欧米としっかり肩を並べるまでになってきている.私も自分なりに腕のい整形外科医になろうと努めてきたし,また次々と入局してくる若いドクター達にも,一日もはやく腕を磨き一人前の立派な医師になるよう指導してきた.学会といわず医局といわず,病棟,外来でのカンファレンスなど,いろいろな機会を捉えて治療のポイント,手術のコツなどを討論してきたし,若いドクター達もまたたく間にそれらを吸収,体得して鮮やかなメスさばきをみせてくれるようになってきている.しかしふとしたとき,本当にこれで十分なのだろうか,何かもうひとつ大切なことを忘れてはいないかと自問していることがある.
 私の母(といってももうすぐ90歳になるが)が昨年の春,重症の肺炎で危篤状態に陥った.熟練した内科医,看護婦さんたちが吸引,タッピングなどで痰や誤嚥物の除去に務めてくださった.しかしすでに食べることはおろか,自力で痰を喀出することすらできないまでに体力が消耗し切っており,精も根も尽き果てた本人は「もう十分に人生を生きてきたんだから,もうここいらで楽にしてくれ」と訴えた.が,「まだまだ長生きしてもらわないといかん.今はそれが親の務めなんだよ」と励まし続けた,老母はこの「親の務め」という言葉を聞くたびに,もうろうとした目をカッと見開いて再び全力をふりしぼって痰をだした.その甲斐あってか奇跡的に回復した.

論述

下肢人工関節置換術後に起こる深部静脈血栓症の発生頻度

著者: 藤田悟 ,   廣田茂明 ,   田村裕一 ,   金沢元宣 ,   向井克容 ,   松井誠一郎 ,   小田剛紀 ,   冨士武史

ページ範囲:P.1001 - P.1005

 抄録:1993年8月から1995年2月の間,当施設で施行した人工股関節全置換術67例67肢(THA群)と人工膝関節全置換術62例62肢(TKA群)を対象として,手術側下肢の上行性静脈造影を施行し,深部静脈血栓症(DVT)の有無を調査した.性別はTHA群が男性8例,女性59例,TKA群が男性9例,女性53例であった.平均年齢はTHA群が64.9歳,TKA群が67.7歳であった.原疾患はTHA群が変形性関節症(OA)53関節,慢性関節リウマチ(RA)9関節,その他5関節,TKA群がOA 32関節,RA 30関節であった.DVTの発生頻度はTHA群が28.4%,TKA群が43.5%であった.大腿または膝窩静脈に発生した下肢近位部のDVTの頻度はそれぞれ10.4%,16.1%であった.DVTの危険因子として年齢,原疾患,手術側,手術時間,肥満度(BMI(body mass index))の5項目について調査したところ,肥満度が両群において有意差をもって危険性を示した.

高齢者の腰部椎間板ヘルニアにおける坐骨神経痛発症についての考察

著者: 細川昌俊 ,   横井秋夫 ,   西脇祐司 ,   太田圭一 ,   加藤哲也

ページ範囲:P.1007 - P.1012

 抄録:腰部椎間板ヘルニアにおける坐骨神経痛の発症には,若年者では椎間板内圧の関与が大であろうが,高齢者においても同様であろうか.この問題を考察する目的で,本人の希望により手術した50例のヘルニアを年齢別に分けて検討した.結果は,全例脱出型であったが,29歳以下では大部分が髄核が後方に脱出して神経根を圧迫している症例で,加齢と共に椎体後面にまで脱出する症例が多くなり,特に60歳以上では全例線維輪が椎体後面に嵌頓し椎間孔出口附近で神経根を絞扼していた.以上の手術所見から,若年型ヘルニアは成書にもあるように,後方に脱出した髄核による神経根の直接圧迫が坐骨神経痛の主因で椎間板内圧が関与するであろうが,老年型ヘルニアでは椎間板内圧の関与よりは,線維輪が椎体後面に嵌頓し,椎弓根内側部で神経根を椎弓に押しつけることによる絞扼が主因と思われた.壮年型ヘルニアには両者の場合がみられた.

胸壁に発生した悪性骨軟部腫瘍の治療経験

著者: 土谷一晃 ,   茂手木三男 ,   勝呂徹 ,   秋山敬 ,   丸山優 ,   澤泉雅之 ,   亀田典章 ,   蛭田啓之

ページ範囲:P.1013 - P.1019

 抄録:当科で手術を行った胸壁発生の骨・軟部肉腫9例について治療上の問題点を検討した.
 症例は,軟骨肉腫3例など骨腫瘍7例,軟部肉腫2例の計9例で,発生部位は肋骨4例,胸骨2例などであった.腫瘍が大血管,胸腔内臓器などに隣接し,初診時すでに病期の進行した症例が多く,術前の画像診断でwide marginの獲得が可能かどうか判定困難な症例が6例あった.可能な限り2cm以上のwide marginを目標に広範切除を行った.胸膜を含めた切除例が多く,大血管や胸腔内臓器が広範に露出した7例に有茎皮弁による再建術を併用した.切除縁評価は,胸膜部(4例)および大血管周囲(1例)でwide marginが獲得できず,5例がmarginal以下の評価であった.平均46.6カ月の経過でCDF 5例,AWD 1例,DOD 3例であった.

慢性関節リウマチにおける4関節置換例の経過と予後

著者: 四宮文男 ,   岡田正彦 ,   大西純二 ,   荒木誠 ,   浜田佳哲 ,   三好孝生 ,   藤村拓也

ページ範囲:P.1021 - P.1029

 抄録:両股両膝人工関節の4関節置換となっている慢性関節リウマチ26例の臨床的経過と予後を調査した.その経過は初診時4関節破壊を認めたⅠ群,重度の歩行困難があり両膝置換後に股関節破壊を示したⅡ群,長期経過のなかで4関節となったⅢ群に分類できた.重度歩行障害例では歩行可能となったのち,他の関節破壊が早期に進行する可能性があり留意が必要である.いずれも実用的歩行能力が再獲得できていたが,長期経過の中で,人工関節の再置換や頚椎病変が歩行能力低下の原因となっていた.調査時死亡6例は歩行能力が低下したのちの経過で内科的合併症を併発したことが原因となっていた.2関節同時手術や骨セメント非使用の人工関節の工夫などの関節局所への対応とともに,家庭でのケアも含めた慢性関節リウマチの全身的管理を重視すれば多関節置換術の価値はより高まるものと考えられた.

手術手技 私のくふう

手掌内皮切による手根管開放術

著者: 政田和洋 ,   藤田悟 ,   冨士武史

ページ範囲:P.1031 - P.1035

 抄録:手根管症候群に対して筆者らは手掌内に限局した小皮切を用いて手根管開放術を行い良好な成績を得ている.これは手掌内の約3cm程度の皮切を用いて浅掌動脈弓と横手根靱帯の遠位端の間から正中神経を直視下に観察しながら手根管を開放する方法である.手技的に簡単であるばかりか正中神経を直視下に見ながら手術を行うため安全な方法である.麻痺の回復は従来の手関節を越えて前腕に至る皮切と同様に順調であるが皮切が手関節を越えないのでこの部に多い手術創に関する愁訴は全くない.筆者らの行っている方法を紹介する.

整形外科philosophy

整形外科の研修と認定医―リウマチ科・リハビリテーション科の標榜科発足にあたって

著者: 三浦隆行

ページ範囲:P.1037 - P.1040

●リウマチ科・リハビリテーション科の標榜科発足に際して
 手元に「整形外科のかかえる問題点」と題した一文があります.私が整形外科学会の理事長を勤めさせていただいていた1988年当時に,理事・評議員の方々,また会員の皆様に理事長としての考え方をお知らせしたいと書いた原稿です.その当時,リウマチ学会との話し合いにより,整形外科学会のリウマチ登録医をリウマチ学会の認定医とし,リウマチ登録医制度は発展的に解消させることが重要なテーマでありました.山本担当理事らのご努力により「リウマチ学会としての対象疾患はいわゆる膠原病に限ること,経過処置として整形外科学会のリウマチ登録医はリウマチ学会に入会して所定の手続きをとれば,リウマチ学会の認定医として認められる」が了解されて,この問題はほぼ解決できるところまで話し合いは進んでいました.しかし私の不徳の致すところ,リウマチ登録医のリウマチ学会認定医との統合には臨床整形外科医会の反対が強く,今一歩のところで話し合いは中断せざるをえなくなり,現在に至ってしまいました.
 またこの時期には,リハビリテーション学会の認定医制度が発足し「整形外科学会でもリウマチ学会に対する対応と同様に,リハビリテーション登録医を発足させるべきである」との意見があり,理事会のテーマとして取り上げられました.

最新基礎知識/知っておきたい

ソフトレーザーの光の生体反応

著者: 寺嶋博史

ページ範囲:P.1041 - P.1043

 【LASERとは】
 Light Amplification by Stimulated Emission of Radiationの頭文字を組み合わせた合成語で「放射の誘導放出による光の増幅」という意味である.
 自然界の物質は,最小単位の分子により,分子はいくつかの原子で,原子は原子核と電子から構成される.電子に外部からエネルギーが加わり励起状態となると,通常の軌道よりも遠い位置に移動する.しかし励起状態は一時的な現象で,すぐ基底状態に戻る性質があり,基底状態に戻る際に加えられたエネルギーを放出する.放出されたエネルギーはフォトンとなり,光が発生する(自然放出).

ついである記・5

Buenos Aires

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1044 - P.1045

●日本から最も遠い国
 1982年4月にアルゼンチンの軍事政権がフォークランド諸島を占領した.そのフォークランド諸島は英国領だということで,当時のイギリス首相で鉄の女といわれたサッチャーが激しく怒って強力な軍隊を送り,数日間の戦闘で島を奪還したことは今もまだ記憶に新しい.この対英戦で敗れたことが原因でアルゼンチンの軍事政権が崩壊し,1983年に民政移管が実現したといわれているが,そんなことよりも私が興味深く思ったことはフォークランド諸島は地球上で日本のちょうど反対側に位置しており直線距離にすれば日本から最も遠いところにある島であるということと,そのような最果ての南太西洋に浮ぶ島が未だに英国領だということであった.そのフォークランド諸島に近いアルゼンチンのベノスアイレスで1992年12月,汎ラテンアメリカ整形外科学会とSICOTとの合同会議が開かれた.私はSICOTのPresident-Electに選出されていたのでどうしても出席しなければならなかったが,先づ距離的に日本から最も遠い国であること,さらに南米といえば麻薬と貧困によって社会秩序が崩壊し犯罪が極めて多いと聞かされていたので,尻ごみする気持ちが強かった.「犯罪はブラジルより少ないが夜は出ない方がよいでしょう」という程度の旅行社からの情報だけを持って,家内と二人でともかく出発し,35時間という長旅の後に恐る恐るベノスアイレスの空港に降り立った.

整形外科英語ア・ラ・カルト・47

比較的よく使う整形外科用語・その14

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1046 - P.1047

●diastasis(ダィアスタスィス)
 整形外科の場合,通常2つの骨が関節面ではなく,直接接合していて,外力などで離れることをいい,“離開”と訳す.語源はギリシャ語で“dia-”(離れた)と“stasis”(状態)との合成語である.一番典型的な場所は,外傷などで起こる恥骨結合部離開であり,“diastasis of the pubic symphysis”(ビュビィクースィンフィスィス)という.
 整形外科以外では,虹彩(iris)が離開する場合もあり,これを“iridodiastasis”,また妊婦の下腹部の腹直筋正中離開が起こることがあり,これを“diastasis recti abdominis”という.

臨床経験

吸引分娩による恥骨結合離開に対して創外固定を施行した1例

著者: 水野直樹 ,   佐々木康夫 ,   中島敏光 ,   東倉萃 ,   岡義春

ページ範囲:P.1049 - P.1051

 抄録:分娩時の生理的恥骨結合離開は10mm以上の離開をきたすことは稀である.われわれは,吸引分娩により40mmの恥骨結合離開をきたし,保存的治療では改善しなかった症例に対して,創外固定を行い良好な結果を得たので報告する.症例は40歳(妊娠5,出産2),37週0日,胎位は第2前方後頭位,吸引分娩にて4574gの女児を出産した.出産後より恥骨付近の疼痛が著明で,腰を動かせず,体交も困難.理学的所見では股関節屈曲困難で,恥骨結合上に圧痛があった.単純X線写真にて40mm恥骨結合離開が認められ,CTでは,恥骨結合左側に小骨片が認められた.同日よりキャンバス牽引を開始し,10日目には離開13mmと改善傾向がみられたが,牽引部分の皮膚に水疱形成が認められたため,11日目に牽引を中止した.16日目には離開が25mmと再度拡大したため,保存的治療ではこれ以上は無理と判断し,受傷から22日目にAce創外固定器にて整復固定術を施行し,離開は6mmと改善した.

posttraumatic osteolysis of the pubic boneの1例

著者: 長野真久 ,   山本潔 ,   琴浦良彦

ページ範囲:P.1053 - P.1055

 抄録:posttraumatic osteolysis of the pubic boneの1例を報告する.症例は69歳女性.右殿部打撲後の右恥骨部痛を主訴に来院した.X線上恥骨骨折を認め,CT像,およびMRI像で恥骨周囲に腫瘤を認めた.MRI像上,恥骨骨折に伴う炎症性肉芽腫や膿瘍,あるいは悪性骨腫瘍が考えられたが,生検による組織診では肉芽種であった.2カ月後のX線像では骨折部の骨吸収像が出現したが,CT像およびMRI像上で腫瘤は縮小しており,3カ月後には疼痛も消失した.本疾患は骨折の治癒過程であると考えられ,骨粗鬆症を伴う高齢女性に外傷を契機に発生することが多い.保存的治療のみで数カ月以内に治癒するといわれているが,X線像で恥骨の破壊性・溶骨性病変を示すため悪性骨腫瘍と間違えやすい.本疾患の診断には外傷歴の詳しい聴取,MRIによる画像診断,および生検による組織診が必要であると思われた.

分娩後の仙腸関節部痛―仙骨疲労骨折を疑った1例

著者: 小林良充 ,   黒沢良和

ページ範囲:P.1057 - P.1059

 抄録:仙腸関節部痛で来院した産褥期の婦人の,MRIで仙骨疲労骨折が疑われた1例について報告する.症例は26歳の女性で,3400gの男子を出産した直後から腰痛が出現した.初産で,所要時間が22時間の正常分娩だった.産後2週間の初診時所見では,右側仙腸関節部に圧痛がみられ,パトリックテストなどの誘発テストで陽性,右側片脚起立が困難で,神経症状はなかった.骨盤部X線像で骨粗鬆症変化などの異常はみられなかった.産後4週で施行したMRIでは仙骨右側にT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号の部位を認め,それぞれに低信号の「骨折線」がみられた.安静を指示し,症状は3カ月で軽減した.現在まで妊娠・分娩の関与が推測される骨盤部の疲労骨折は数例の報告をみるのみで,うち仙骨疲労骨折は1例であった.本例は産褥期の腰痛の原因として,仙骨疲労骨折の可能性もありうることを示唆した症例であった.

髄内釘を併用しbifocal lengtheningを行った1症例

著者: 柳下信一 ,   土屋弘行 ,   篠川禎久 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1061 - P.1063

 抄録:骨延長術では創外固定器装着期間の長さが問題となるが,これが短縮されれば合併症の発現等も少なく理想的である.われわれは髄内釘を併用しこの装着期間の短縮化をはかり,良好な結果を得た1例を経験したので報告する.症例は16歳男性で交通外傷による左下腿開放骨折後に生じた9cmの左下肢短縮に対してllizarov創外固定器にAO-unreamed髄内釘を併用し,𦙾骨に2カ所の骨切りを行ってそれぞれ4.5cmずつの骨延長を施行した.その結果,創外固定器装着期間を延長量で割った値(Healing index)が当科の髄内釘非併用19例で42日/cmであるのに対して16.1日/cmと1/2以下に短縮することができた.また髄内釘を併用することによる合併症の発現も認められなかった.よって髄内釘を併用することにより創外固定器装着期間を大幅に短縮することができ,骨延長術における患者の負担を軽減することができたと思われた.

特発性一過性大腿骨頭骨萎縮症の3症例

著者: 大渕聡已 ,   松原保 ,   圓井芳晴 ,   増田純男 ,   田中泰弘 ,   下山勝仁 ,   高橋勇次

ページ範囲:P.1065 - P.1070

 抄録:われわれは,一過性大腿骨頭骨萎縮症の3例を経験した.症例1,2は,38歳と44歳の男性でともに右側発生例.症例3は31歳男性で両側発生例であった.単純X線,骨シンチグラムおよびMRIにて経過を見たが,MRIはX線上で骨萎縮が認められる以前より,一過性大腿骨頭骨萎縮症に特徴的な,T1強調画像にて低輝度,T2強調画像にて高輝度のBone marrow oedema(BMO)を示し,更にその経時変化は臨床症状の消長とほぼ一致していた.われわれが渉猟し得た149の報告例中MRIを施行した16例でも平均5カ月でMRIは正常となり,臨床症状は消失していた.一過性大腿骨頭骨萎縮症において,MRIは早期診断に有用であり,治療の指標となり得るものと考えられた.

摘出術を行ったOs vesalianumの1例

著者: 三浦寿一 ,   冨岡正雄 ,   吉矢晋一 ,   山下敦夫 ,   松下績

ページ範囲:P.1071 - P.1074

 抄録:症例は35歳男性,主訴は右足部外側部痛である.外傷の既往はない.初診時右足部の第5中足骨基部に腫脹と圧痛があり,単純X線像で同部に1×1.5 cm2の楕円形の骨片を認めた.Os vesalianumと考えられ保存的治療を試みたが疼痛が消失しないため摘出術を行った.Os vesalianumは1555年,Andreas Vesaliusが最初に記載した第5中足骨粗面に接する過剰骨で発現頻度は0.1~0.68%である.成因として骨端核の癒合不全説などがあるが明確に定義されていない.Os peroneum,第5中足骨の骨折,成長期における骨端核,lselin's diseaseなどと鑑別を要する.今回の症例では年齢,病歴,単純X線像,術中所見,さらに組織所見などからOs vesalianumと診断した.治療法としては保存的治療が無効の場合には摘出術や骨接合術が適応となるが,われわれの場合は摘出術を行い良好な経過を得た.

肘頭骨折を合併した上腕骨外顆骨折の1例

著者: 中村智 ,   浜田修 ,   猪川輪哉

ページ範囲:P.1075 - P.1077

 抄録:上腕骨外顆骨折に肘頭骨折を合併した症例を経験した.症例は7歳,男児.自転車にて転倒受傷した.X線にてWadsworth分類Ⅱ型の上腕骨外顆骨折と内側骨片を伴ったSalter-Harris分類Ⅱ型の肘頭骨折を認めた.各々の骨折をtension-band-wiring法にて固定し,治療成績は良好であった.受傷機転としては肘伸展位,前腕回内位で手掌からの軸圧により生じた内反ストレスが肘頭骨折とpull-offによる外顆骨折を起こしたと考えられ,Monteggia類似損傷の範疇に入ると思われた.

鎖骨遠位端骨折に対するBosworth法の治療経験

著者: 山口秀夫 ,   荒川浩 ,   小林三昌

ページ範囲:P.1079 - P.1082

 抄録:烏口鎖骨靱帯断裂を伴う鎖骨遠位端骨折(Neer II型)に対して,Bosworth法による内固定を行った症例を検討した.症例は男8例,女1例,全例新鮮例で,受傷原因は転倒4例,自転車からの転落3例,交通事故2例である.
 手術は全身麻酔下で行い,骨折部を直視下に整復し,近位骨片より烏口突起にscrew固定を行った.結果は9例全例で8週以内に骨癒合が得られ,最終経過観察時可動域は正常に回復していた.

多発性翼状片症候群の2症例

著者: 本田久樹 ,   小林大介 ,   細見新次郎 ,   藤井正司 ,   戸祭正喜 ,   宇野耕吉 ,   司馬良一

ページ範囲:P.1083 - P.1086

 抄録:多発性翼状片症候群(multiple pterygium syndrome,以下MPSと略す)とは多発性皮膚翼状片,先天性多発性関節拘縮と特異顔貌(眼瞼下垂,眼瞼裂斜下,耳介低位や小顎症など)を3主徴とし,他にも四肢の変形を合併する稀な疾患である.現在までの報告例は国内と海外を含めて約60例である.しかしMPSの中には,生下時には頚部の翼状片はそれほど顕著でないために先天性多発性関節拘縮症の診断にて報告されている例もあると思われる.本疾患は実際には今までの報告例よりも多数存在しているものと思われる.今回,筆者らは生後間もなく先天性多発性関節拘縮症と診断し,治療をしたが成長するにつれて,しだいに多発性皮膚翼状片が顕著となったことにより同症候群と考えられた2症例を経験した.

先天性橈尺骨癒合症を合併した先天性拘縮性くも指症の1例

著者: 西山正紀 ,   半田忠洋 ,   二井英二 ,   山崎征治 ,   矢田浩

ページ範囲:P.1087 - P.1089

 抄録:先天性拘縮性くも指症は,くも指,多発性関節拘縮,耳介変形,脊柱変形等を主徴とする症候群である.本症に橈尺骨癒合症を合併した1例を報告する.症例は,生後8カ月の男児.右肩,右肘関節の拘縮を主訴に当科紹介となった.耳介の特異な変形(crumpled ear)を認め,手指はやや細長く,屈曲拘縮を認めた.metacarpal indexは6.5と高値を示した.また,足趾もやや細長く,前足部に軽度の内転変形がみられた.右肩,右肘に屈曲拘縮,右前腕は回内30°での強直を認めた.X線所見では,Kienböck Ⅱ型の橈尺骨癒合が認められた.本症例は,先天性拘縮性くも指症に先天性橈尺骨癒合症を合併した極めて稀な一例である.われわれの渉猟し得た範囲では過去にその報告例はない.本症例は,右上肢の運動制限を主訴に来院したが,先天性橈尺骨癒合のみられる場合,合併奇形の頻度も高いため,より全身的な検索が重要と思われた.

肩峰骨髄炎により化膿性肩峰下滑液包炎と肩関節下方亜脱臼が発生した1例

著者: 岩本潤 ,   芝田仁 ,   阿部均 ,   宮坂敏幸 ,   月村泰規 ,   中西芳郎

ページ範囲:P.1091 - P.1094

 抄録:11年前の肩鎖関節脱臼に対するKirschner鋼線刺入による肩峰骨髄炎から,化膿性肩峰下滑液包炎と肩関節下方亜脱臼が発生した1例を報告する.症例は30歳男性で,肩峰下インピンジメント症候群の診断下に肩峰下滑液包内へのステロイド注入後,炎症症状と肩関節下方亜脱臼が出現した.関節穿刺では2ccの黄色透明の関節液を得たのみであったが,症状が急速に増悪したため手術を施行し,肩峰骨髄炎から波及した化膿性肩峰下滑液包炎であることが判明した.下方亜脱臼の成因は,肩峰下滑液包内圧の上昇,関節液貯溜による関節内陰圧の消失と周囲筋の不均衡の相加的作用と推測された.肩鎖関節脱臼に対する手術の既往がある肩関節障害例へのステロイド注入は,少なくともピン・トラック・インフェクションの既往を確認した上で行うべきことを強調したい.

外傷性頚部症候群に対する頚椎前方固定術の長期成績

著者: 奥山幸一郎 ,   千葉光穂 ,   鈴木均 ,   黒田利樹 ,   田村康樹 ,   阿部栄二 ,   佐藤光三

ページ範囲:P.1095 - P.1098

 抄録:本邦では外傷性頚部症候群に対する外科的治療の長期成績はほとんど報告されていない.今回,外傷性頚部症候群の症例に対する前方固定術の比較的長期の成績,特に自覚症状,日常生活動作(以下ADL)の障害,就業状況などを調査した.症例は5例で,全例男性であった.手術時年齢は平均54歳(44~65歳)で,術後経過観察期間は平均7年3カ月(2~9年)であった.5例ともに神経学,X線学的に責任高位診断が非常に困難であったため,椎間板造影および選択的神経根造影での症状の再現性を最も参考にして固定椎間を決定した.成績は不変または悪化が3例,やや改善が2例であった.全例にADL障害を残しており,就業状況は極めて不良であった.したがって,椎間板造影および選択的神経根造影時の症状の再現性を根拠に前方固定術を行うことは症状の改善には無効と思われた.

MRIにて早期に診断し得た小児化膿性脊椎炎の2例

著者: 竹村清介 ,   渡辺秀男 ,   藤川重尚 ,   浅野頼子 ,   中島哲

ページ範囲:P.1099 - P.1103

 抄録:今回われわれは14歳と12歳の女児の,小児化膿性脊椎炎の2例を,MRIを用いて早期に診断し,保存的治療により良好な結果を得た.初診時,両者共に側弯変形を伴い,著明な伸展制限が認められた.罹愚部位は,症例1は第1腰椎と第3腰椎,症例2は第3・4腰椎であった.2例とも全経過を通して熱発は認めず,血液検査による炎症所見も軽微であった.セフェム系抗生剤と安静臥床・装具装着により,椎体・椎間の変形の増悪を来すことなく治癒し,臨床的にも良好な結果を得ることが出来た.
 小児の場合成長過程にあるため,本症の診断が遅れると椎体変形が生じ,炎症が治癒した後も成長と共に後弯変形が増悪する恐れがある.そのため,早期診断が重要であり,その確定診断にMRIが有用であった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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