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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科32巻10号

1997年10月発行

雑誌目次

視座

整形外科医と遺伝子操作

著者: 越智光夫

ページ範囲:P.1083 - P.1083

 クローン羊誕生のニュースが流れ,マスコミが大きく取り上げた.テレビ討論ではいろいろな立場の人が意見を述べていたが,基本的には脳死移植の問題とリンクしながら倫理上の問題点からこの種の研究は直ちに中止すべきという方向で話がまとまっていた.英国では哺乳動物のクローンに関する研究に対しては政府からの研究費の支給は中止され,また日本においても,ヒトのクローンに関する課題に対しては科学研究費補助金の採択は当面ないようである.
 分子生物学や遺伝子操作という技術は整形外科学と直接接点を持たず,これらの仕事は霧の向こうにかすかに見える一部の研究者の仕事対象という印象でしかなかった.しかし最近イギリスのTickleらはFGF-2などのたんぱく質を含む人工物をニワトリの初期胚体部に移植することで,また,徳島大学の野地教授らはFGF-4産生細胞を同様に移植することで過剰肢を作製した.組織写真を見る限り,骨形態はまさしく正常の肢である.四肢の初期誘導の引き金はFGFファミリーが引く事を鮮やかに証明してみせた.これから一歩進んで四肢の形成を遺伝子の発現から解明しようとする研究も進みつつあり,将来的には遺伝子操作で指の形成も可能となるであろう.

論述

馬尾弛緩と腰部脊柱管狭窄―臨床的・X線学的検討

著者: 荒井至 ,   菊地臣一 ,   佐藤勝彦

ページ範囲:P.1085 - P.1090

 抄録:腰部脊柱管狭窄を呈する113例に対して,redundant nerve roots of cauda equina(以下,RNR)と腰部脊柱管狭窄の関係について,X線学的,臨床的に検討した.画像所見では,RNRは脊柱管の狭窄が高度な症例や多椎間に狭窄が存在する症例に高率に合併していた,しかし,脊柱管狭窄の程度が同じ症例で神経根障害の症例と馬尾障害の症例を比較してみると,両者のRNRの合併頻度に有意差は認められないことより,RNRを合併するからといっても必ずしも馬尾障害を呈するとはいえない.また,神経障害型式が同じ症例同士では,RNRの合併の有無により安静時におけるしびれの合併頻度に有意差は認められないことより,腰部脊柱管狭窄ではRNR自体の症状発現への関与は小さいことが示唆された.以上の結果から,RNRの臨床的意義は脊柱管狭窄の程度が高度であることを単に示しているに過ぎないのではないかと考えられる.

MRIを用いた大腿骨頚部内側骨折骨頭温存手術例の検討

著者: 新籾正明 ,   清水耕 ,   永原健 ,   青柳康之 ,   佐粧孝久 ,   中川晃一 ,   三橋稔

ページ範囲:P.1091 - P.1097

 抄録:比較的若年者の大腿骨頚部内側骨折に対する骨頭温存手術例について骨頭壊死およびlate segmental collapse(以下LSC)発生の有無を含め,MRIを用いて検討した.対象は65歳以下の12例であり,Garden分類stage 1,2例,stage 2,4例,stage 3,3例,stage 4,3例,平均年齢は54歳である.MRI上stage 1,2では骨頭壊死を生じなかったが,stage 3,4の6例全例に骨頭壊死を示すband patternが出現し,いずれも手術後2カ月前後で認められた.その後壊死領域の拡大,縮小は認めなかった.cannulated screw固定施行後,荷重部に広範囲の壊死を生じた2例では骨頭圧潰をきたしたが,深腸骨回旋動脈柄付腸骨移植を施行した2例では壊死範囲が小さく骨頭圧潰を生じなかった.術後2ヵ月前後のMRI像は骨頭圧潰の予測に有用であり,またLSCを生ずる可能性の高いGarden分類stage 3,4に対しては深腸骨回旋動脈柄付腸骨移植も選択すべき術式の1つと考えられた.

胸椎,腰椎圧迫骨折後の残存愁訴の危険因子についての検討

著者: 吉田裕俊 ,   高橋誠 ,   川崎修平 ,   張禎浩 ,   後藤敏

ページ範囲:P.1099 - P.1106

 抄録:胸腰椎圧迫骨折の治療に際し,経時的に骨折椎体の変形が進行し,時に保存的治療に抵抗性の腰背部痛を残存することがある.そこで,安静臥床のみで治療された36症例について椎体変形の経時的変化を観察し,骨癒合完成後の腰背部愁訴について検討した.その結果,腰背部愁訴を後遺した9例の骨癒合完成後の椎体圧潰率は50%以上,局所後弯角は30°以上であり,8例はT12,L1椎体の骨折であった.腰背部愁訴に関して相関を認めたのは,骨癒合完成後の局所後弯角のみであった.受傷時の椎体のMRI輝度変化領域が小範囲に留まるものでは椎体変形の進行は軽度で,腰背部愁訴を残すことはなかった.従って,T12,L1椎体の骨折で楔状変形を呈し,受傷時既に局所後弯を形成傾向にあり,受傷時のMRI輝度変化領域が広範囲なものでは腰背部痛を残存する可能性があり,可及的に整復位を獲得可能な治療法を選択するのが望ましいと考えられた.

股内障(股関節関節唇断裂)と鏡視下関節唇部分切除術

著者: 長谷隆生 ,   上尾豊二 ,   三木堯明 ,   千束福司 ,   小谷博信 ,   長野真久 ,   中村慎一 ,   武富雅則 ,   青山朋樹 ,   西庄功一 ,   坂本相哲

ページ範囲:P.1107 - P.1111

 抄録:股内障(関節唇断裂)に対し鏡視下関節唇部分切除術を施行した8例8関節について,その特徴的症状,検査所見,治療成績の検討を行った.
 理学所見上,①股関節90°屈曲位での内旋時痛,②股関節90°屈曲位軽度内転位の軸圧痛,③大転子後方の圧痛の3徴候がそれぞれ7例,8例,6例で認められた.画像診断(単純X線写真,関節造影,MRI)はいずれも偽陰性のことが多く,股関節鏡によらねば診断が確定しなかった.鏡視所見として6例で関節唇が局所的に臼蓋付着部より裂離している縦断裂を認めた.このうち5例は後方関節唇の断裂であった.全例に鏡視下関節唇部分切除術を施行し,経過観察期間中症状の再発なく良好な成績を得た.

内側型変形性膝関節症に対する杖療法の効果―加速度計測による評価

著者: 大川匡 ,   緒方公介 ,   原道也 ,   張敬範 ,   高岸宏 ,   安永雅克 ,   西野一郎

ページ範囲:P.1113 - P.1118

 抄録:内側型変形性膝関節症に対する杖療法の効果を検討するために,患者の歩行時に,踵接地直後に膝に生ずる側方動揺の加速度(以下「膝側方加速度」)を計測した.測定側にT字杖,対側にT字杖,対側に片松葉のいずれの二点支持歩行でも杖なしでの歩行に比べると膝側方加速度は減少していた.その中では,対側に片松葉の場合がもっとも大きな減少を示した.
 膝側方加速度に関する当教室のこれまでの検討から,側方加速度の大きさは膝関節内側コンパートメントにかかる剪断力を反映していると考えられる.本研究の結果から杖療法の適切な施行によって,膝関節軟骨に対するストレスを減少できることをが示された.

脊椎手術後における創部感染発生危険因子の検討

著者: 高橋寛 ,   岡島行一 ,   米倉徹 ,   奥秋保 ,   安田ゆりか ,   井形聡 ,   茂手木三男

ページ範囲:P.1119 - P.1125

 抄録:近年,内固定材の進歩,普及に伴い,脊椎手術は大きな発展を遂げたが,その反面,術中,術後合併症の報告も多くみられるようになった.われわれは,術後合併症のうち創部感染症に注目し,その発生危険因子,初期徴候について検討した.対象症例は当院において手術を行った男性335例,女性204例,合計539例である.創部感染は,表層感染5例,深部感染9例,合計14例であった.単独因子の検討では,手術までの期間が長い症例,ICU入院歴がある症例,手術時間が長く出血量の多い症例で感染率が高かった.多変量解析の結果,既往歴,手術時間,ICU入院歴の順で感染に関与していた.表層感染では経時的にCRP値は下降し,再熱発例は少なく,深部感染では経時的にCRP値は上昇し,再熱発例が多かった.術後創部感染の早期診断,治療を行うためにはその危険因子や初期徴候の把握が重要である.

手術手技 私のくふう

腰仙部固定におけるintrasacral fixationの小経験

著者: 松原祐二 ,   川上紀明 ,   三浦恭志 ,   夏目直樹 ,   斉藤晴彦

ページ範囲:P.1127 - P.1130

 抄録:腰仙部固定は,その解剖学的特徴,biomechanicalな点より,問題が多い.1993年Jacksonはiliac buttressの概念より,腰仙部固定法としてintrasacral fixationを発表した.本法は,rodをlateral sacral massに刺入し,仙腸関節部でこれを押さえ,SIに刺入したscrewと共に腰仙部を固定する方法である.われわれは第5腰椎分離すべり症の3症例に対し本法を試みPLIFを行った.TSRH spinal instrumentationを用い,intrasacral fixationを行ったが,rodの刺入部が外側にずれるため,刺入がやや難しく,L5のscrewにrodを合わせるのに苦労したが,良好な固定性が得られた.本法は非常に強固な固定性が得られ,腰仙部固定に対し有用な方法であると考えられた.

連載 リウマチ―最新治療のポイントとその留意点・1【新連載】

薬物療法のポイントと注意点

著者: 東威

ページ範囲:P.1131 - P.1136

 要約:NSAIDsは抗炎症,鎮痛に有効であるが,胃粘膜傷害が少なくない.ステロイドはNSAIDsで抑えられない炎症が適応であるが,骨侵食を防ぐという報告もあり,QOLを保つという立場から少し見直される傾向にある.DMARDsは抗リウマチ作用により進行を遅らせるという報告が多いが,これを完全に抑制することはできない.
 これらを使って症例ごとに痛みをとり,進行を抑える治療を組み立てることが重要である.従来は副作用の少ないNSAIDsから開始し,症状によりステロイド,DMARDsを追加するピラミッドプランが一般的であったが,これでは関節破壊の進行を抑えることはできない.最近は発病早期の進行の早い時期にDMARDsを使用することが奬められ,特に急速に進行することが予測される例では複数のDMARDsにステロイドも含めた強力な抗リウマチ療法も試みられている.

整形外科philosophy・7

整形外科医療雑考

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.1145 - P.1147

●権利と義務の交替
 いま一人の患者が体の不自由を自覚して,病院を訪れたとしよう.患者は所定の受診申込書に氏名と住所などを記入し受付が完了する.間もなく新しいカルテは希望する診療科に送付される.「どうぞおかけ下さい.どうなさいましたか?」の第一声で医療行為が始まる.この何の変哲もない質問の瞬間に実は重大で,退っ引きならぬことが起こるのである.これが,いわゆる医療契約の締結であり,法律で支持されるものである.この契約の証しが記載された外来カルテである.大学病院であれば,院長,各診療科の科長,および担当医の少なくとも三重の契約がなされるのであろうが,医療行為そのものに対する責任は主として担当医に帰属する.
 この無言の契約の骨子は次のようなものである.患者は自分の持つ病気や異常を現代医学の(最高の)知識と(最高の)技術をもって適切な診断と必要な治療を受け,できることなら一日でも早く健康を取り戻し,より良い活動ができるようにしてもらうという権利の呈示である.医師は患者の希望,期待に添うべく,知識と技を駆使して,その人にとって望ましい医療を行わねばならぬという義務を生じたということである.「権利」と「義務」の交替である.

専門分野/この1年の進歩

日本整形外科スポーツ医学会―この1年の進歩

著者: 勝呂徹 ,   茂手木三男

ページ範囲:P.1138 - P.1139

 第23回日本整形外科スポーツ医学会は,平成9年5月15日,16日の2日間に亘り,品川高輪プリンスホテルにて開催されました.シンポジウムとしてアキレス腱皮下断裂の治療とスポーツ外傷の画像診断,教育研修講演としては,井形高明教授の中学生・高校生の運動部活動と整形外科スポーツ医学の役割と,Tomas Minas先生のCurrent concepts in the treatment of articular cartilage defectsの二つの講演が行われました.大変優れた講演であり,スポーツ医学会にふさわしく,有益な内容でありました.

日本手の外科学会―この1年の進歩

著者: 阿部正隆

ページ範囲:P.1140 - P.1141

 第40回日本手の外科学会を終えて,この1年間の歩みを見ると,手の外科領域で,高度な診療を行っている施設が大変多くなっているのに驚かされている.また,施設によって大きな特色があるようである.というのは,ある限られた領域は非常に高度だが,あまり力を入れない領域があるなどで,これはスタッフの問題予算の問題,その他の要因があり,止むを得ないことであろう.これを患者の立場から見ると,このままでは済まされない問題である.これを効率よく解決するのが学術集会であり,研修会であろう.その意味で,今回の日本手の外科学会学術集会はその責任の一端を果たすことが出来たと考えている.

基礎知識/知ってるつもり

Buttonhole変形

著者: 三浪明男

ページ範囲:P.1142 - P.1144

 Buttonhole変形(Boutonniere deformity)は手指PIP関節の背側で中央索(central slip)が断裂または伸長し,両側の側索(lateral band)がPIP関節の回転中心の掌側に偏位した結果,PIP関節屈曲,DIP関節過伸展の変形が生じたものである.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・14

著者: 戸山芳昭

ページ範囲:P.1149 - P.1152

症例:22歳,女性(図1)
 主訴:後頚部痛,四肢のしびれ
 1年前に転倒して以来,後頚部痛と上肢にしびれが出現した.6ヵ月前からは何ら誘因なく下肢にもしびれが出現し,痛みも増強したため来院した.なお,幼小児期に明らかな外傷はなかった.

整形外科英語ア・ラ・カルト・59

“Informed Consent”

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1154 - P.1155

 この数年の間に,“Informed Consent”に対する関心が高まり,非常に喜ばしいことである.肝臓移植が最初に施行されたとき,マスコミが“Informed Consent”のことを取り上げたため,日本では“Informed Consent”のことが知られた.私は昭和53年から2年半,米国アイオワ州デ・モイン市で外科を開業していたので,そのときに経験したこととその後に知り得た情報について書いてみたい.
 “Informed Consent”の“inform”の過去分詞形“informed”には“十分に情報,知識,教養を持った”という意味があり,“consent”は“同意”や“承諾”の意味である.“consent”は入院時や外科手術前に書く承諾書である.したがって“Informed Consent”とは“十分に情報や知識を与えられ,納得の上に同意した承諾書”である.“Informed Consent”の日本語訳は“説明と同意”とあるが,患者側からいえば,“納得と同意”となる.まず“Informed Consent”が成立した歴史的背景を述べ,次に米国式“Informed Consent”を述べ,日本で行う際の判断の材料にして戴きたい.

ついである記・17

三たびHungary

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1156 - P.1157

●同族意識の強いハンガリー人
 ハンガリーは紀元1001年の建国以来1,000年近くに亘って繰り返し外国の軍隊によって支配され,富を搾取され続けてきたためか,庶民は一般に貧しい生活を強いられてきた.そして,その抑圧の中で彼等は独特の同族意識を育ててきたように思われる.彼等の同族意識は外敵に対して結束して抵抗するといった点だけでなく,私達のような外来者に対して皆で協力して面倒をみるというような点で今も根強く残っている.
 1995年5月より私が客員教授として約3ヵ月間の予定で家内と共にハンガリーに滞在したとき,たまたまスペインやポルトガルを一人で旅行していた私達の息子が旅の最後にハンガリーへも行くと言ってきたので,私達はブタペストで落ち合うことになった.私達のハンガリー滞在の世話をしてくれていたペーチ医科大学のゾルタン君にそのことを伝えると,彼は私達親子三人が久し振りに水入らずで一緒に週末を過ごすのが良かろうと考えてくれたようで,ブタペストの郊外の静かな住宅地に一軒の家を借りてくれた.立派な家であるのに宿泊費があまりにも安いのでその理由を尋ねると,ゾルタン君の妻のお父さんの学校時代の同級生でサボー氏という人の弟の家だそうで,たまたま,その弟一家は旅行に出ているから光熱費程度の費用を拂ってくれれば自由に泊まってよいということであった.

座談会

日本の小児整形外科の今後

著者: 亀ヶ谷真琴 ,   鈴木茂夫 ,   藤井敏男 ,   船山完一 ,   山室隆夫

ページ範囲:P.1159 - P.1173

 山室(司会) 今日のテーマは「日本の小児整形外科の今後」ということで,小児整形外科の専門の先生方にお集まりいただいて対論をしていただくことになりました.皆さんご存知のように,整形外科という学問は歴史的に見ると小児の脊椎や四肢の変形の矯正ということを原点として発展してきたわけす.
 ですから,私が整形外科に入局した頃ぐらいまでは,小児の整形外科疾患が整形外科学の主流を占めておりました.しかし,近年,幸いなことですが,ポリオがほとんどゼロになってきました.骨関節結核,化膿性の骨関節炎も少なくなってきたし,先天股脱,内反足や筋性斜頚等々,かつてポピュラーであった病気がかなり少なくなってきたように思われます.

臨床経験

TKA術後の深部静脈血栓症の小経験―D-Dimerとの関連について

著者: 大澤正実 ,   松末吉隆 ,   川那辺圭一 ,   多田弘史 ,   中村孝志 ,   松田捷彦 ,   山田知行

ページ範囲:P.1175 - P.1178

 抄録:THA,TKA術後の深部静脈血栓症は欧米では術前後の予防がなければ発症率40~86%で術2週後に最も多いと報告されている.われわれはTKA術後41日目に総腸骨静脈に発症した静脈血栓症を経験したのでその原因,予防などについて考察を加えて報告する.
 症例は74歳女性で発症後Urokinase,Heparin,Warfarin,血小板凝集抑制剤,利尿剤を投与し,症状は軽減したが,本例は術前D-Dimerが3,700μg/Lと高値を示していた.本邦におけるTKA術後の深部静脈血栓症は比較的稀であるが,術前D-Dimerが高値の時は術前後にAntithrombin IIIとHeparinの併用,lowmolecular weight heparin,low-dose warfarin等の予防的投与を考慮すべきであると考える.

右足関節手術中の駆血帯開放直後に発生した肺塞栓症の1例

著者: 岡本秀貴 ,   井島章壽 ,   櫻井公也 ,   太田薫 ,   加藤哲司 ,   柴田正人 ,   小谷賢司 ,   浅野博

ページ範囲:P.1179 - P.1183

 抄録:今回,われわれは右足関節手術中の駆血帯開放直後に発生した肺塞栓症の1例を経験したので報告する.
 症例は67歳女性,身長149cm体重70kg.1996年6月20日転倒して受傷した.受傷後8日目に腰椎麻酔下,右大腿部にて駆血帯使用(駆血圧350mmHg 駆血時間105分)で右足関節外果および後果骨折接合術を行った.手術終了し左側臥位にて駆血開放したところ呼吸停止を来した.肺塞栓症を疑い,肺動脈造影を行ったところ左肺動脈本管および右肺動脈下葉枝に塞栓を認めた.直ちに血栓除去術を行い循環動態は改善したが発症後6日目に多臓器不全で死亡した.

Ellis-van Creveld症候群の高度外反膝変形に対する1治療経験

著者: 伊勢健太郎 ,   松末吉隆 ,   好井覚 ,   麻田義之 ,   多田弘史 ,   中村孝志 ,   中山裕一郎

ページ範囲:P.1185 - P.1189

 抄録:高度外反膝変形を有するEllis-van Creveld症候群の1症例を経験した.症例は9歳の女児で,術前の大腿𦙾骨角は右151°,左142°であり,両側とも習慣性膝蓋骨脱臼を認めた.手術的治療として𦙾骨内反骨切り術,外側膝蓋支帯解離術を施行した.骨切りは大腿𦙾骨角が175°になるように設定したが,内側優位の成長,および骨治癒過程でのremodelingにより矯正角は減少した.膝蓋骨脱臼については改善された.本症例は外反膝変形のみでなく多くの問題点を抱えており,今後,骨端固定術や,膝蓋骨脱臼に対する根治的手術等についても考慮する必要があると考えられた.

滑膜性骨軟骨腫症に続発した膝関節軟骨肉腫の1例

著者: 久田原郁夫 ,   前田朗 ,   島田幸造 ,   米田稔 ,   山崎大 ,   小林晏 ,   林田賢治

ページ範囲:P.1191 - P.1195

 抄録:2次性軟骨肉腫のなかでも稀な滑膜性骨軟骨腫症に続発した膝関節軟骨肉腫の1例を経験したので報告する.
 症例は71歳男性で,右膝関節痛と関節可動域制限を主訴として来院した.過去2年間に,他院にて膝関節の滑膜性骨軟骨腫症の診断で関節内遊離体の摘出術を2回受けていた.当科でも当初は骨軟骨腫症の再発と診断し,関節内遊離体摘出,滑膜切除を施行した.しかし,7ヵ月後に再発しCT,MRIにて骨侵食像を認め,悪性化を疑い切開生検術を施行した.組織像は,当科における初回手術時の像に加えて骨梁間に腫瘍組織の浸潤があり,また短期間に再発したという臨床経過より滑膜性骨軟骨腫症に続発した軟骨肉腫と診断した.治療は,患肢温存術を選択し,人工関節置換術を行った.術後1年7ヵ月であるが,局所再発や遠隔転移は認めていない.

滑膜切除術が有効であった掌蹠膿疱症性膝関節炎の1症例

著者: 白木孝人 ,   厚井薫 ,   立石博臣 ,   楊鴻生 ,   圓尾宗司

ページ範囲:P.1197 - P.1200

 抄録:掌蹠膿疱症に両側膝関節炎を合併し,滑膜切除術が有効であった1例を経験したので報告する.症例は51歳女性で両側膝関節痛および腫脹を主訴に来院した.非ステロイド性抗炎症剤,ステロイド剤の投与にても症状軽快せず,鏡視下膝滑膜切除術により術直後より臨床症状,皮疹とも軽快した.病理学的には,表層細胞の増殖,絨毛形成を認め,さらに深層では形質細胞の浸潤,リンパ濾胞形成がみられRA滑膜炎と類似していた.
 〔結論〕掌蹠膿疱症に伴う両側膝関節炎の1例を経験し,鏡視下滑膜切除術により免疫反応の改善が生じ皮膚症状も含めて良好な結果が得られたものと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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