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連載 整形外科philosophy・7
整形外科医療雑考
著者: 辻陽雄1
所属機関: 1富山医科薬科大学医学部
ページ範囲:P.1145 - P.1147
文献購入ページに移動いま一人の患者が体の不自由を自覚して,病院を訪れたとしよう.患者は所定の受診申込書に氏名と住所などを記入し受付が完了する.間もなく新しいカルテは希望する診療科に送付される.「どうぞおかけ下さい.どうなさいましたか?」の第一声で医療行為が始まる.この何の変哲もない質問の瞬間に実は重大で,退っ引きならぬことが起こるのである.これが,いわゆる医療契約の締結であり,法律で支持されるものである.この契約の証しが記載された外来カルテである.大学病院であれば,院長,各診療科の科長,および担当医の少なくとも三重の契約がなされるのであろうが,医療行為そのものに対する責任は主として担当医に帰属する.
この無言の契約の骨子は次のようなものである.患者は自分の持つ病気や異常を現代医学の(最高の)知識と(最高の)技術をもって適切な診断と必要な治療を受け,できることなら一日でも早く健康を取り戻し,より良い活動ができるようにしてもらうという権利の呈示である.医師は患者の希望,期待に添うべく,知識と技を駆使して,その人にとって望ましい医療を行わねばならぬという義務を生じたということである.「権利」と「義務」の交替である.
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