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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科32巻11号

1997年11月発行

雑誌目次

視座

医事紛争明日は我が身の臨床医

著者: 阿部宗昭

ページ範囲:P.1205 - P.1206

 この小文のタイトルは,大阪府医師会医事紛争委員の共著「医事紛争」の著書の中の医事紛争防止いろは歌の冒頭の一節である.
 本誌の読者のほとんどは医療訴訟とは無縁であろうと思うが,患者が気付かない程度のちょっとした事故やケアレスミスを経験してない人は少ないのではなかろうか.小さな事故やミスであっても患者の治療経過や予後に影響を与えるようなものは医師やコメディカル職員の対応如何によっては医事紛争となる種を宿している.

論述

手術野剃毛および消毒法の再検討―術後創感染に対する有効性について

著者: 木村理夫 ,   広瀬広 ,   立石昭夫 ,   松下隆 ,   林貴久子 ,   伊藤恵美子

ページ範囲:P.1207 - P.1209

 抄録:術前剃毛の有用性および手術野消毒法の持続効果を明らかにするため予見的調査を行った.入院患者57名を対象に,手術前日に安全カミソリで剃毛を行った群25名および非剃毛群32名に分けた.両群ともに手術直前にはヒビスクラブによるブラッシングを施行後,ヒビテン・グルコネートアルコールにて術野の消毒を行った.ブラッシング前,消毒後,手術終了時にフードスタンプ法でそれぞれ術野の細菌採取・培養を行った.細菌検出率は,ブラッシング前では剃毛群72%:非剃毛群56%,消毒後は同0%:0%,手術終了時は同0%:9.4%であった.各検出率とも両群問にχ二乗独立性の検定(p<0.05)で有意差はなかった.検出菌は殆どが常在菌で,術後創感染は両群とも1例も認めなかった.以上より,術後創感染に対する術前日剃毛の有用性は認められなかった.また,0.05%ヒビテン・グルコネートアルコールによる手術野消毒法は有効性が持続された.

指尖損傷に対する創傷被覆材(コムフィール,ソーブサン)を用いた保存療法

著者: 高木信博 ,   尾山かおり ,   針生光博 ,   加藤博文 ,   松木達也 ,   井上林 ,   安田健一

ページ範囲:P.1211 - P.1216

 抄録:1993年10月から1997年2月までの間,当施設にて,創傷被覆材コムフィール(コロプラスト社製)とソーブサン(アルケア社製)を使用し保存的に治療した指尖損傷67例80指の臨床成績を検討した.受傷時年齢は2~78歳で,男性49例,女性18例,受傷原因は,鋭的損傷26例26指,挫滅損傷41例54指,受傷指は,母指16指,示指21指,中指24指,環指12指,小指7指で,受傷側は,右37指,左43指であった.損傷部位は,Allen分類でtype I 23指,type II 17指,type III 19指,type IV 21指で,損傷方向は,Atasoy分類で横損傷27指,背側斜め損傷21指,掌側斜め損傷19指,斜め損傷13指であった.全例に早期から良好な肉芽形成と上皮化がみられ,重篤な問題もなく創治癒を得た.末節骨の露出例でも,露出した末節骨に良好な肉芽形成と上皮化がみられ,受傷時より指の短縮に至った例はなかった.創傷被覆材使用期間は,6~50日(平均23.1日)であった.

CT計測による頚椎横突孔の解剖―椎骨動脈の椎体への迷入に関して

著者: 吉田正一 ,   中村孝文 ,   池田天史 ,   高木克公

ページ範囲:P.1217 - P.1223

 抄録:頚椎前方固定術の合併症に椎骨動脈の損傷がある.特に,椎骨動脈が椎体内に迷入している場合に危険性が高いが,今回はその傾向について調査した.101名・442椎体の頚椎CTを対象とし,椎骨の中心線から左右の横突孔内縁までの距離を計測した.
 横突孔内縁問距離の平均値は,C3が25.09mm,C4が25.11mm,C5が26.75mm,C6が28.9mm,C7が31.76mmであった.また,迷入例は3名3椎体,椎体内へ入り込んでいないまでも脊柱管の外縁よりも内側に横突孔内縁が位置している危険群は25名37椎体に存在した.

専門分野/この1年の進歩

日本足の外科学会―この1年の進歩

著者: 青木治人

ページ範囲:P.1224 - P.1225

 第22回日本足の外科学会は,平成9年6月27日,28日,パシフィコ横浜で開催された.そこで,本学会と,その1週間前に行われた日本整形外科学会学術集会総会での発表の中から注目される項目をえらび,最近の足の外科のトピックスについて述べる.

シンポジウム 腰椎変性疾患に対するspinal instrumentation―適応と問題点―

緒言/Spinal instrumentationの適応と問題点 フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.1226 - P.1228

 Spinal instrumentationの脊椎外科への導入は,20世紀の整形外科の中でも特筆すべき革新的な進歩の一つです.Spinal instrumentationの導入によって,脊椎の外傷や腫瘍に対する対応は格段に進歩し,その成績の向上も明らかです.一方,腰椎の退行性疾患に対しては,現在も尚,その適応や真の有効性に関しては議論が分かれるところです.その理由は,多分,外傷や腫瘍に対するspinal instrumentationの適応は,脊柱の再建そのものが目的で,その手段としての補強材であるinstrumentの設置で目的が達せられるからでしょう.これに対して,腰椎の退行性疾患に対する適応については,spinal instrumentationの適用で獲得出来た脊柱の強固な固定が,手術の主たる目的である神経症状の改善に役立っているのかどうかが明らかになっていない点に意見の分かれる理由の一つがあると考えられます.

腰椎変性疾患に対するVSP Steffee Plate法の長期成績と合併症

著者: 鈴木信正 ,   小野俊明

ページ範囲:P.1229 - P.1236

 抄録:腰椎変性疾患に対してVSP Steffee plate法を用い,後方進入椎体間固定術(以下PLIF)を施行した自験例140例の長期成績と合併症を検討した(男性:86例,女性:54例).手術時年齢は,平均47.6歳,術後経過観察期間は平均4年11カ月であった.手術成績については,術後2年以上経過観察可能で,最近2年間に直接検診が可能であった115例を対象とした.術前および経過観察時のJOA scoreは,それぞれ平均11.0点,28.3点,平均改善率は93%であった.骨癒合率は95%,感染は5.7%,screw折損は2.4%であった.術後5年以上経過例70例の術前JOA score平均は10点,調査時は27.7点,平均改善率は92.7%であった.腰椎変性疾患に対するrigid instrumentationの適応は,多椎間固定を要する場合,分離すべり症,変性辷り症,変形矯正を要する場合,そして一部のMOB等に限定されるものと考える.

北大式hook & rod system併用の後側方固定術

著者: 浅野聡 ,   野原裕

ページ範囲:P.1237 - P.1245

 抄録:北大式hook and rod systemを併用した後側方固定術について,本instrumentationの特徴と術式について述べた.また,当科における,腰椎変性疾患に対する北大式hook and rod systemを併用した後値則方固定術153例の成績を紹介した.術後の臨床成績は優が68.0%,良が21.6%と約90%が良以上であり,満足できるものであった.骨癒合は148例に得られ,骨癒合率は96.7%であった.これらの経験から,本手術法の長所と短所を考察し,現時点での本手術法の位置づけを述べた.すなわち,腰椎変性疾患に対する後側方固定術において,北大式hook and rod systemの併用は不安定性が軽度な変性腰部脊柱管狭窄症(変性すべり症を含む)や椎間板症に対する1椎間固定がよい適応で,pedicular screw fixationに優る点があり,きわめて良好な臨床成績が獲得できる.

Carbon Fiber Cageを用いた腰椎後方進入椎体間固定術

著者: 大和田哲雄 ,   大河内敏行 ,   久田原郁夫 ,   佐藤巌 ,   米田稔 ,   小野啓郎 ,   山本利美雄

ページ範囲:P.1247 - P.1254

 抄録:Brantiganらの開発したcarbon fiber製cage状implantを用いた後方進入椎体間固定術(PLIF)につき報告する.症例は63例(男性38例,女性25例),手術時年齢は21~74歳,平均年齢は47.6歳であった.疾患別では椎間板ヘルニア29例(再発ヘルニア12例,外側型ヘルニア2例を含む),変性辷り症21例,分離辷り症10例,腰部脊柱管狭窄症3例で,固定椎間数は1椎間58例,2椎間5例の計68椎間であった.手術は原法に準じて行い,椎間中央部に,内部に海綿骨を充填したcarbon fiber cageを2個固定し,両外側に自家骨移植を行った.全例にSteffee VSP systemを併用した.術後平均経過観察期間は54カ月であった.
 術前JOAスコアは2~22点,平均13.5点が,最終観察時で14~29点,平均26.6点であり,2例を除いて改善が得られ,長期にわたりその成績は維持されていた.平均改善率は84.5%であった.骨癒合成績では,単純X線において全例術後6カ月以内に骨癒合が確認され,union in situと評価された.carbon cageの脱転やmigrationを認めた症例はなかった.経時的なX線でみても,cageの内外に旺盛な骨形成を認めた.一方,固定上位椎間に新たな辷りをみたものが5例存在し,これらの症例では改善率が劣っていた.

腰椎後方固定術後におけるpedicle screw周囲のclear zoneの推移と意義

著者: 徳橋泰明 ,   松崎浩巳 ,   石川博人 ,   若林健 ,   岩橋正樹 ,   石原和泰

ページ範囲:P.1255 - P.1263

 抄録:50歳以上の不安定性を伴う腰椎変性疾患に対するpedicle screw fixation施行177例からpedicle screw周囲のX線透亮像(clear zone)の推移と意義について検討した.その結果,スクリュー周囲のclearzoneは術後6カ月で72例(40.7%)にみられ,多椎間固定,70歳以上,骨萎縮度の進行例で高率に発生した.発生部位は頭側端ないし尾側端の固定端に集中していた.最終観察時(術後2~9年)のclear zone陽性率は24例13.6%で偽関節例12例中11例(91.7%)が含まれ,clear zoneは骨癒合不全の大きな危険信号であった.一方,術後6カ月の時点でclear zone陽性の約2/3が骨癒合の進行とともにclear zoneが消失したことから,clear zoneの存在が必ずしも偽関節を意味せず,存在自体よりもclear zone発生後の増大あるいは消失の推移がより重要であった.また,clear zoneの推移と骨癒合の結果から骨萎縮度1度までは現在のスクリューシステムで十分対応可能と考えられた.

腰椎変性疾患に対するGraf systemの治療成績

著者: 渡辺栄一 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.1265 - P.1272

 抄録:腰椎の変性疾患66例(変性すべり症49,脊椎症10,椎間板ヘルニア5,その他2)に対して,選択的除圧術を行いGraf systemを設置した.術後経過平均27カ月における手術成績は,優と良を併せた症例が58例(88%)であり,良いものであった.しかし,不安定性の高度な症例では成績が不良であり,脊椎固定術が適応と考えられた.手術前後のX線学的検討から,Graf systemは,1)設置椎間の前弯を増強させ,後方開大を消失させる,2)椎体すべりと側弯の矯正には無効である,3)すべり椎体の矢状面での不安定性を減少させる,4)腰椎全体および設置椎間の矢状面可動域を減少させる(前屈の制限)ことがわかった.すなわち,Graf systemは設置椎間の矢状面での制動効果を有していた,良好な手術成績とX線上の制動効果から,Graf systemが固定術の一部の代用となる可能性が示唆された.

胸腰椎部後弯変形に対するinstrumentationの適応と問題点

著者: 平泉裕

ページ範囲:P.1273 - P.1282

 抄録:胸腰椎部後弯変形に伴う慢性腰背部痛に対するspinal instrumentationの適応と問題点について,保存的治療患者123例を対照として検討した.lnstrumentationを受けた本障害患者は9例6.8%であった.保存的治療では椎体変形や椎間板変性が増加し,徐々に体幹前傾化と重心が前方偏位する傾向がみられた.腰背部痛は脊柱伸筋群の疲労性要因が示唆され,装具による重心前方偏位の矯正は困難であった.lnstrumentation例の後弯矯正率は平均62.1%で脊柱アラインメント全体の改善と重心正常化,歩行バランス改善,高い疼痛寛解率が得られた.lnstrumentationの問題点は本障害が高齢者に多く,手術侵襲,骨粗鬆症,合併症の対策を要する点であり,適応は高度な腰背部痛,脊柱変形に伴う重心前方偏位を伴い,保存的治療が無効で,全身状態良好,日常活動性が高い患者に限定される.

腰椎変性すべり症の病期と術式選択

著者: 川原範夫 ,   富田勝郎 ,   藤田拓也 ,   畑雅彦 ,   新屋陽一 ,   村上英樹

ページ範囲:P.1283 - P.1289

 第4/5腰椎変性すべり症に対して,術式の妥当性を検討する目的で後側方固定(PLF)を行った29例と後方進入椎体問固定(PLIF)を行った18例についてX-Pの調査を行った.PLFで骨癒合が見られた23例中,術前のすべりが5mm未満の6例のうち術後5%以上のすべりが進行したものは2例と少なく,術前すべりが5~10mmの12例中9例に術後5%以上のすべりの進行を認め,逆に術前すべりが10mm以上の5例のうち4例ですべりの進行は5%以下であった.また,術後すべりが5%以上進行した12例中11例は術前脊椎不安定性を認めていたものであった.また術前腰椎中間位側面で,後弯傾向にあった7例は術後に後弯位が進行して癒合が完成していた.PLIFを行った18例全例に椎体間骨癒合を認め,alignmentおよび椎間板高の矯正・維持がなされていた,以上をもとに,われわれは腰椎変性すべり症の病期を進行性の変性関節疾患ととらえ,「前期」,「初期」,「進行期」,「末期」の4 stageに分類し,その術式選択にあたっては,上記の病期分類を基本とし,脊椎不安定性の要素を加味したうえで,非固定・固定の別,および固定術式(PLF,PLIF)を決定するのが好ましいと考えた.

胸腰椎変性疾患に対するspinal instrumentation後の固定・非固定移行部の障害―特に障害の病態,部位,およびinstrument rigidityの関係について

著者: 佐野茂夫

ページ範囲:P.1291 - P.1298

 抄録:1)胸腰椎変性疾患に対し脊椎instrumentationを用いた固定術を行った550例中,その後移行部の障害を生じ再手術を行った例は25例(4.5%)であった.
 2)狭窄群が16例(狭窄単独9例,狭窄+ヘルニア7例),骨折群が9例であった.

腰椎変性疾患に対するinstrumentationの是非―pedicle screw法への疑問

著者: 本間信吾

ページ範囲:P.1299 - P.1302

 抄録:腰椎変性疾患に対するinstrumentation(特にpedicle screw法)の使用について私見を述べた.pedicle screw法は強い固定力を持つため,脊椎alignmentの矯正が可能である.しかし,神経根と直交するため本質的に危険な方法であり,その合併症は重篤なものが多い.従って適応は厳選されるべきである.本法を使用する際は,失敗の許されない熟達した手技が要求される.上方,一椎間であれば従来の後側方固定術でも十分良い結果が期待できる.後側方固定術の成功の要点はinstrumentを使用することではなく,decorticationを含めた移植母床の作成と豊富な骨移植にあり,この基本手技を会得することが重要であることを強調した.

腰椎変性すべり症に対する固定術の是非―非固定術の立場から

著者: 馬場逸志 ,   村上健

ページ範囲:P.1303 - P.1309

 抄録:腰椎変性すべり症手術は椎体のすべりのため不安定性であるとして,除圧術とともに固定術が行われることが多い.われわれは本疾患の病態はすべり部で黄色靱帯や椎間関節が後方から神経組織を圧迫して馬尾,神経根症状を生じてくるとして,固定術よりも安定性を維持しながら除圧術に工夫してきた.このような椎間関節を可及的に温存した除圧術を行った患者59例の術後成績を検討した結果,42例(71.2%)の患者で50%以上の改善率を得た.また,術後すべりの進行を12例(20.3%)に認めたが臨床症状の悪化とは相関しなかった.
 以上の術後成績から,本疾患は除圧術を工夫すれば固定術なしでも対応できるものであり,大多数に固定する必要はなく,限定した適応のもとに固定は行われるべきであると考えている.

連載 リウマチ―最新治療のポイントと留意点・2

頚椎疾患への対応

著者: 戸山芳昭

ページ範囲:P.1311 - P.1319

 慢性関節リウマチ(以下,RA)頚椎病変に対して適切な治療を行うポイントは,まず本疾患に伴う症状の発現機序,自然経過,予後を理解し,局所と全身の両面から個々のRA患者の活動性や日常生活障害をきたしている原因を十分検討しておくことである.症状の発現機序,特にRA脊髄症は,脱臼に伴う脊柱管の狭小化(骨性因子)や硬膜外肉芽組織,歯突起後方腫瘤(軟部因子)などによる静的因子と,不安定性による動的因子が関与して生じる.静的因子はMRIで,動的因子はX線機能撮影を用い検討する.
 RA頚椎病変に対する外科的療法のもつ意義は,神経や血管への圧迫を取り除き,不安定化した脊柱に支持性を与えることである.手術では動的因子には固定術を,静的因子には除圧・固定術が選択される.しかしRA頚椎手術患者の予後は,全身疾患であるRAの活動性に大きく影響されていることを常に念頭に入れ治療に当たることが肝要である.

整形外科philosophy・8

医学・医療の進化とインフォームド・コンセント

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.1321 - P.1323

●医学思想の進化の中のエアポケット
 古代における原初的な医学の思想はいまも地球上の所々に存在するのだが,それは宗教的・魔術的医学,呪術であり,超自然的存在者としての神を認める「信」の世界である.理性的「信」の世界は現代の医学・医療においても無縁無用のものではない.
 ギリシャ時代の医学はヒポクラテス医学に影響されつつ自然哲学と結合して,「病気を治すのは自然の力による」との思想であり,後のローマ医学に至ると身体の機能や病気も物質の素としてのアトムの配列と運動の異常により決定されるという生体物質主義的機械論へと変わっていく.そして旧来の液体病理から固体病理へと変わる中で,ガレノス(130-201)は血液を中心とする液体成分と固体成分の調和という視点から考究し,病気をより局所的に分析的に捉えようとする近世西洋医学の礎を築いたのである.それから約1400~1500年後,ベザリウスの人体病理解剖,ハーヴェイの体温計や脈拍計の発明,さらに筋運動に機械原理を導入するなど本格的な人体機械論からする技術へと進化していく.そしてその後,約350年経った19世紀末頃までの間に,多くの著明な学者によって近代生理学,生化学,病理学が科学として分科し,ウィルヒョウの細胞病理学に代表される物質的世界観を築きつつ20世紀を迎えたわけである.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・15

著者: 矢部啓夫

ページ範囲:P.1325 - P.1327

症例:15歳,男子(図1)
 主訴:右膝関節痛
 6カ月前から運動時に右膝関節痛を感じるようになり,痛みが増強してきたため近医を受診した.X線で異常所見を認めたため,紹介された.

整形外科英語ア・ラ・カルト・60

整形外科分野で使われる用語・その24

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1328 - P.1329

●imbrication(インブリケィション)
 これは外科の手術用語でよく使う言葉であるが,整形外科ではあまり使わないかもしれない.これは軟部組織を,とくに筋膜などを織り重ねて縫うとき,“imbrication”という.ラテン語で“瓦”のことを“imbrex”といい,屋根を魚の鱗のように“瓦を重ねる”ことを“imbricare”といい,その名詞形が“imbrication”である.医学用語辞典には,鱗状配列という訳語が載っている.現代では煉瓦のことを“brick”(ブリック)というので,瓦の“imbrex”に関係があると思ったが,“brick”はフランス語の“brique”にその語源があり,英語の“broken piece”の意味があるという.

ついである記・18

Ljubljana

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1330 - P.1331

●スロベニアの独立
 ユーゴスラビア紛争が泥沼化している中で,旧ユーゴスラビアの中の1つの共和国であったスロベニアは1991年6月に僅か3日間だけ独立戦争を戦って,その年の6月25日にあっさりと独立してしまった.クロアチア,ボスニア・ヘルツェゴビナ,セルビアが三つ巴の陰惨な戦争をすぐ隣で繰り広げているのを尻目にスロベニアが比較的容易に旧ユーゴスラビアから独立しえたのには訳がある.先づ地理的にスロベニアは旧ユーゴスラビアの西の端にあり,イタリー,オーストリア,ハンガリーと国境を接し,東のクロアチアとの国境さえ守ればよかったこと,第2にスロベニアは人種的に比較的均一で国民のほとんどすべてがスロベニア人で,言葉も他のユーゴスラビア諸国とは少し異なるスロベニア語のみが喋られていたこと,第3に旧ユーゴスラビアの中では最も近代的な工業化の進んだ地域であり,経済力がきわ立って優位に立っていたことなどがあげられる.
 私と家内が初めてスロベニアを訪れたのは1995年6月11日であるが,当時はユーゴスラビア紛争の真最中であったので,どうしてそのような危険なところへ出かけるのかと多くの人々に質問された.丁度,その頃,私はハンガリーに客員教授として滞在しており,サラミソーセージで有名なセゲード(Szeged)という町で開かれたハンガリー整形外科学会に出席していた.

臨床経験

頚椎化膿性脊椎炎による急性四肢麻痺の1例

著者: 遠藤健司 ,   市丸勝二 ,   間中昌和 ,   平学 ,   浦和康人 ,   伊藤公一 ,   今給黎篤弘 ,   草間博

ページ範囲:P.1333 - P.1336

 抄録:頚椎化膿性脊椎炎により発生した呼吸障害を伴った四肢麻痺の上手術例を経験した.症例は55歳の男性で,二次性糖尿病の既往を持つ.1996(平成8)年4月20日に誘因なく微熱が出現し,さらに排泄障害,右下肢の知覚運動障害が発生し近医受診入院となった.その後歩行不能,呼吸困難のため人工呼吸器使用となり4月30日当院紹介され転院となった.MRI上C6,7,Thl椎体に輝度変化があり,C6-Thl椎体後方には,圧迫病変が存在していた.全身状態の改善を待って症状発生後24日目の5月14日にC7,Thl椎体亜全摘骨移植による前方除圧固定術を施行した,摘出椎間板の病理診断より化膿性脊椎炎と硬膜外膿瘍であることが判明した.手術後,呼吸筋麻痺および上肢機能,下肢機能ともに改善した.急性炎症を示す化膿性脊椎炎は,麻痺の進行が早く早期加療が必要である.今回,MRIが早期診断に有用であり手術により良い結果を得ることができたので報告した.

椎間板ヘルニアが疑われた腰部脊柱管内嚢腫の1例

著者: 金治有彦 ,   石名田洋一 ,   市川亨 ,   相羽整

ページ範囲:P.1337 - P.1340

 抄録:椎間板ヘルニアが疑われた腰部脊柱管内嚢腫の1例を経験したので報告する.症例は38歳,男性.腰痛,右下肢痛を主訴に当院を受診した.神経学的には,右L5神経根刺激症状がみられた.MRIでL4椎体レベルにT1強調画像で等信号,T2強調画像で高信号,Gdで周辺部が軽度enhanceされる腫瘤が認められ,L4/L5椎間板造影では腫瘤が椎間板と交通していることが確認された.嚢腫摘出術を行ったが,嚢腫は脊柱管腹側,ほぼ正中で後縦靱帯と連続しており,硬膜,L4右神経根と癒着していた.嚢腫の内容物は血性であった.病理所見上,嚢腫壁は毛細血管を含む線維性結合組織より形成され,弾性線維に富んだ血管が付着していた.自験例の成因として,椎間板変性に伴うヘルニアの後方への膨隆により線維輪に裂隙が生じ,慢性の圧迫力を受けた後縦靱帯浅層と深層問の血管からの出血により血腫が形成され,嚢腫が生じたものと考えた.

やり投げ選手に発生した長胸神経麻痺の1保存例

著者: 戸泉孝行 ,   近藤総一 ,   三橋成行 ,   島田信弘 ,   岩下裕之 ,   坂西英夫

ページ範囲:P.1341 - P.1344

 抄録:症例は16歳の男性で主訴はやり投げ時の脱力および右肩甲骨の突出であった.陸上選手で1991(平成3)年夏よりやり投げを始めた.1992(平成4)年2月初めに右頚部痛が出現し,その後,父に右肩甲骨の突出を指摘され2月28日初診した,既往歴には特記すべきことはなかった.現症では右翼状肩甲がみられ,前鋸筋の明らかな緊張を触れなかった.菱形筋その他の筋力は正常で,知覚障害もみられなかった,単純X線像では明らかな異常所見はなく,前鋸筋の筋電図はほぼelectrical silenceであったが,菱形筋その他には明らかな異常所見はみられなかった.以上より,長胸神経麻痺による翼状肩甲と診断し,Johnson型肩甲骨固定装具を装着し保存的に加療した.装着後4カ月より回復がみられ始め,7カ月でほぼ改善した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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