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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科32巻12号

1997年12月発行

雑誌目次

視座

医療費の使い方

著者: 八百板沙

ページ範囲:P.1349 - P.1349

 わが国の平成7年医療費は27兆9577億円に達し,国民所得の伸び18%を遥かに超える7%と発表された.政府は医療費を押さえ込もうと躍起になっている.医療費削減の合理性,削減方法の適切性等は議論されず,まず採られた方法は「新指導大綱・集団的個別指導」なる珍妙な言葉と方法,そして平成9年9月の削減実行である.これらは現場の混乱を全く無視した机上の空論の最たるものである.
 マスコミの医療費叩きはもっとえげつない.たまたま発生した某病院の不正事件を足掛かりに,A新聞は一面トップで,「医療費2000億円過剰支払い」「架空診療や不必要な投薬」.内容を読むと多分「査定」を指しているのであろう.これは不正や架空ではなく「間違い」である.意味が全く違う.これら報道の仕方は悪意に満ちたものと言わざるを得ず,さらに「レセプトは金券」の記事に至っては木鐸の名を辱めるものである.「老人カルテ選び改竄」「患者の死後も通院」と,医療機関が「架空請求」「付増請求」をしているのは「もはや常識だ」とする.極端な例を一般の如くに見せかけるジャーナリストの悪弊である.整形外科では「消炎鎮痛処置」や「牽引」は水増し医療にはもってこいだと悪の温床の如くに宣伝する.このように医師はすべて詐欺師,病院はすべてインチキ治療をしていると宣伝して医療不信を煽るのは,わが国の医療全体から見て,どれほど不幸なことだろうか.

論述

四肢骨原発悪性腫瘍切除術後の再建と機能評価

著者: 杉浦英志 ,   山村茂紀 ,   片桐浩久 ,   高橋満 ,   中西啓介 ,   佐藤啓二 ,   森敏浩 ,   浜名俊彰

ページ範囲:P.1351 - P.1358

 抄録:四肢骨原発悪性腫瘍に対する腫瘍広範切除後の機能再建の評価につき,Ennekingの評価,ADL,四肢筋力,関節可動域,歩行能力に関する調査を行い,術後の残存機能の評価を行った.対象は上肢骨悪性腫瘍7例,下肢骨悪性腫瘍24例であり,骨肉腫24例,傍骨性骨肉腫2例,軟骨肉腫5例,術後の追跡調査期間は平均3.8±1.9年であった.上肢ではEnnekingの評価で72.0%,ADLの評価で74.3%であった.手術法別では肩関節固定は上肢の支持に優れ,Ennekingの評価,ADL評価ともに人工骨頭よりも良い点数であった.肩関節周囲筋群合併切除後の再建法として肩関節固定術は優れていた.下肢ではEnnekingの評価で56.1%,ADLの評価で59.0%であった.手術法別ではオートクレーブ骨群はADLや歩行数においてTKR群に比較し良い成績であり,患肢側も支持脚になっていた.腫瘍用人工股関節で置換した症例では下肢機能の低下が強く見られた.

胸椎黄色靱帯骨化症手術成績の検討―患者側からみた満足度を含め

著者: 武井寛 ,   林雅弘 ,   伊藤友一 ,   橋本淳一 ,   寒河江正明 ,   後藤文昭 ,   太田吉雄 ,   平本典利 ,   横田実 ,   高木信博

ページ範囲:P.1359 - P.1365

 抄録:胸椎黄色靱帯骨化症の手術成績と,手術の結果に対する患者の満足度を調査し,それらに影響を与える因子を検討した.満足度に関しては,患者自身に手術の結果に対する点数をつけさせた.あらかじめ,可もなく不可もなしを50点と設定し,50点以下を非満足群,50点を超えるものを満足群として評価した.手術成績に影響を与える因子は術前の症状の程度であり,術前の症状が軽度なほど術後の成績がよく,満足を得る患者の割合も高かった.知覚の改善が得られないものや,術前から体幹に知覚障害のある症例では,満足を得る割合が低かった.MRIでは,術前T2強調像での高信号が,術後に消失ないし減弱する症例では,良好な成績が得られていた.以上の結果から,症状が軽度なうちに除圧をはかるべきと考えられた.

手術手技 私のくふう

椎間板内加圧注射が有効であったextreme lateral lumbar disc herniationの3例

著者: 太田進 ,   吉田徹 ,   南場宏通 ,   笠井勉

ページ範囲:P.1367 - P.1371

 抄録:椎間板内加圧注射により症状の改善をみたextreme lateral lumbar disc herniation(以下これを外側ヘルニアとよぶ)の3例を経験した.3例とも急速に下肢痛が増強し,歩行不能となった例であり,myelographyにて異常所見を認めなかった.discography,CT-discographyにて外側ヘルニアと診断し,同時に施行した椎間板内加圧注射にて症状の改善をみた.外側ヘルニアは下肢痛の強い例が多いため,本邦の報告例では手術的治療がなされているのが殆どである.しかし,手術は神経根管の出口周辺の操作を要するため椎間関節部への侵襲を余儀なくされる問題がある.今回報告の椎間板内加圧注射による治療は,外側ヘルニアの診断上有用なdiscography(CT-discography)と同時に行え,有効な保存的治療法と考えた.

手術手技 新たな試み

脊柱側弯症手術におけるエリスロポエチンおよび術中回収法使用による自己血輸血

著者: 尾鷲和也 ,   鈴木聡 ,   佐本敏秋

ページ範囲:P.1373 - P.1377

 抄録:23例の脊柱側弯症手術において,体重や基礎疾患・合併症などの身体条件に制約を設けず,エリスロポエチン(EPO)を用いて貯血し,術中回収法を併用し自己血輸血を行った.年齢は10~21歳,平均14.8歳で小児が主である.特発性8例,症候性15例と症候性例が多く,精神発達遅滞や生命予後不良の例も含まれていた.体重も平均37kgで低体重者が多く,30kg未満の例も8例あった.体重×8~10mlを基準に毎週貯血し,Hb値に応じ,EPO6,000単位を週1~3回用い,Hb値の大幅な低下をみることなく平均7回の貯血で約1,600mlの自己血を得た.EPO使用による副作用はなかった.手術は後方法13例,前後合併法10例で,出血は術中および術後24時間を合わせ平均2,300ml,得られた回収血は430ml,使用した自己血は1,500mlであった.大量出血の1例に同種血800mlを使用したが,残る22例は同種血輸血は回避でき,回避率は95.7%であった.小児においてもEPOは安全に使用でき,手術適応となる側弯症は全例自己血輸血の対象としてよい.

連載 リウマチ―最新治療のポイントと留意点・3

肩関節疾患への対応

著者: 林田賢治 ,   菅本一臣

ページ範囲:P.1379 - P.1385

 抄録:慢性関節リウマチ(RA)の肩関節罹病率は比較的高く,RA患者の約60%が罹患していると言われているが,RA肩に対する外科的治療はあまり一般的でなく,ほとんど放置されているのが現状である.しかし,肩関節が罹患すると,疼痛と可動域制限を生じ,ADL障害の原因となることが多く,肘関節,手関節,手指の疼痛と機能障害と同様,機能再建が必要な場合が多い.
 RA肩の評価は,骨関節の評価だけでなく軟部組織の評価が重要である.評価の手段として最も重要なのは臨床所見であるが,単純X線撮影,CT,MRI,関節造影などの画像所見も有用で,これらの情報をもとに詳細に評価する.外科的治療としては,滑膜切除術,人工関節置換術などが行われているが,膝関節,股関節などと比較して,現在のところ普及しているとは言いがたい.今後,肩関節鏡視下手術の普及,人工肩関節の改良と成績向上が達成できればRA肩に対する手術が普及すると考えられる.

整形外科philosophy・9

疼痛ケアの出発点と新世紀

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.1399 - P.1401

 痛みは人間の生存にとって大切な知覚であり,体を守る一つの警告信号と解釈されている.ところが逆に,痛みはときとして人を苦しめる.痛みは人類の宿命的で最大の苦痛でもある.約1,700年ごろDryden J.は次のように言っている.「人の得る幸せとは楽しみの中にあるのではなく,痛みのない安らぎの中にある」と.
 すでに哲学者Aristotelés(BC384-322)は痛みというものは情緒であると解釈した.ところが,Descartes(1596-1650)は痛みは情緒ではなく,知覚であると結論したのである.確かに痛覚の刺激を専門的に伝達する神経線維,すなわちA-δおよびC線維の存在が後に明らかにされているから,痛みは知覚であることは真理であるが,私達が痛みを認知するのはあくまで大脳においてであるから,痛みは情動として捉えるべきと私も思う.気の持ちようで痛みの強さや感じ方も変わるのも現実である.

専門分野/この1年の進歩

日本骨折治療学会―この1年の進歩

著者: 徳永純一

ページ範囲:P.1386 - P.1388

 骨折治療学会は骨折によって損なわれた機能を修復し,社会復帰させるために骨折治療の知見を修得し,合目的な治療法,治療材料の選択を会員相互に研鑽する他の学会に例を見ない極めてユニークな学会である.「骨折治療のさらなる進歩を目指して」をテーマに今回の学会を開催した.2,3の話題を取り上げて報告する.

骨・軟部腫瘍学術集会―この1年の進歩

著者: 松井宣夫

ページ範囲:P.1390 - P.1393

 近年,骨・軟部腫瘍の診断は分子生物学的,遺伝子学の研究が導入され,治療においては20数年前には骨肉腫の5年生存率は15%前後であったものが,化学療法(多剤併用療法),放射線療法,温熱療法などの集学的治療の進歩と相俟って,60%前後へと飛躍的に伸びてきている.また,手術も切断・離断術の時代から患肢温存への時代へと,骨・軟部腫瘍も診断,治療の進歩には目を見張るものがある.
 第30回日本整形外科学会骨・軟部腫瘍学術集会を開催させていただいて,その任の重さを痛感するとともに,この数年間の学術の進歩のスピードに驚かされた.数多くのすばらしい報告がなされたが,紙数に限りがあるため,以下の3項目について紹介したい.

最新基礎知識/知っておきたい

QOL―Quality of Life

著者: 森本兼曩 ,   丸山総一郎

ページ範囲:P.1395 - P.1397

【はじめに】
 人間の生を包括的に評価し,その向上を目ざす医学・医療を表現するキーワードとしてQOLが広く用いられようになっている.この背景には,医学の診断や治療面での急速な進歩の中で,単に病気を治すことや延命をはかるといった量的な医療の充足を目標とした反省から,その質的内容を問う医療への転換が求められていることがある.例えば,診断機器や検査方法の発達や新薬の開発により,病気を客観的,分析的に検討し治療することで,患者を全人的な対象とすることが少なくなり,医師と患者との関係が希薄となってきた.しかし,わが国における結核などの感染症から,癌,脳血管障害や心臓疾患に代表される慢性疾患への疾病死亡構造の変化から,むしろ医師は患者とともに医療に取り組むことが必要となっている.そこで,患者の満足感・快適度を考慮するためQOL評価が重要な課題となっている.ここでは,QOL研究の展開と問題点,整形外科領域の具体的評価例として慢性関節リウマチのQOL測定を紹介する.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・16

著者: 本荘茂 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1402 - P.1406

症例:19歳,女性
 二年前から特に誘因なく左足MP関節足底部の疼痛,腫脹が出現し,さらに一年前から左膝関節痛と両手関節痛が出現した.最近では両足部痛,両膝関節痛,両手関節痛が持続しており,特に午前中に症状が強い.家族歴に特記すべきものはない.皮膚症状もない.図1に両膝関節,図2に両手,図3に両足のX線像を示す.

整形外科英語ア・ラ・カルト・61

整形外科分野で使われる用語・その25

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1408 - P.1409

●ingrown toenail(イングロゥン・トゥネイル)
 “ingrown toenail”は“陥入爪”のことであり,一般に“さし爪”や“巻き爪”とも呼ばれている.“陥入爪”は通常母趾に起こるが,どの趾にも起こりうる.この陥入爪の根治手術法には幾つかの方法があるが,原則的には抜爪したときのように爪の刺激が存在しないこと.また爪が存在しても,接触する軟部組織が無ければ,“陥入爪”による感染は起こりえない.陥入爪手術の成功の秘訣はこの2条件の一つを満たせばよい.筆者は,爪の一部を除去し,除去した部分の爪が生えてこないように,“nailbed”(爪母)を取り除き,さらに爪に接触する軟部組織に圧迫がかからないように工夫している.
 以下に述べる手術法は,過去17年間,色々の文献を読んだり,米国時代の整形外科医からのアドバイスを取り入れて施行した約500の症例の経験を基に述べる.

ついである記・19

Sloveniaの自然

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1410 - P.1411

 スロベニアはオーストリア・アルプスとアドリア海との間に位置する人口二百万人ほどの小国であるが,世界で最も美しい国であると言っても過言ではないと思う.私と家内は1995年6月と1996年7月の2回,講演のためにスロベニアを訪れたが,この国の自然の美しさと人々の心の素朴さにすっかり魅了されてしまった.

臨床経験

石灰化を伴う硬膜肥厚による頚髄症の1例

著者: 澤田元幸 ,   金澤淳則 ,   鈴木省三 ,   和田英路 ,   米延策雄 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.1413 - P.1416

 抄録:石灰化を伴う硬膜肥厚による頚髄症の1例を報告する.症例は62歳男性,主訴は両手の巧緻性障害と歩行障害.1995(平成7)年4月に右手のしびれ感で発症し,以後急速に歩行困難となった.初診時の日整会頚部脊髄症治療成績判定基準は7点であった.単純X線・断層撮影では異常は認めなかったが,頚椎MRI,脊髄造影後CTでC2からC7にかけて石灰化を伴う硬膜の肥厚を認めた.発熱などの全身症状はなく,血清学的検査でも異常を認めなかった.Idiopathic hypertrophic pachymeningitisと診断し,椎弓形成術と硬膜切開を施行した.術後,日整会頚部脊髄症治療成績判定基準は13点に改善した,硬膜組織は組織学的には,軟骨化生とその周囲の石灰化を認め,炎症細胞の浸潤や肉芽形成は認めなかった.pachymeningitisとは異なる病態が考えられた.

左L1神経に発生した多発性馬尾神経鞘腫の1例

著者: 張禎浩 ,   吉田裕俊 ,   川崎修平 ,   高橋誠 ,   後藤敏

ページ範囲:P.1417 - P.1420

 抄録:われわれは,左LI神経に沿って多発性に発生した馬尾神経鞘腫の1例を経験したので報告する.症例は,64歳男性.主訴は,歩行障害,両下肢のしびれ.脊髄造影上,硬膜内髄外腫瘍と思われる腫瘤像が5個認められた.MRIでは,TI強調像で低輝度から高輝度,T2強調像で高輝度を示す腫瘤が5個認められた.造影MRIでは腫瘤は著明に造影された.術中,左LI神経に沿って多発した大小7個の腫瘤を認めた.病理所見では,Antoni A型とAntoni B型の混在する像が見られ神経鞘腫と診断された.
 多発性脊髄腫瘍の脊髄腫瘍全体に対する発生率は数%と低く,さらに同一神経に沿って多発した馬尾神経鞘腫の報告例は本邦では10例にすぎない.診断にあたっては,脊髄造影,CTM,MRI,造影MRIが有用であった.しかし術前には見逃されていた腫瘤が,術中初めて発見されることもあり,術中の慎重な検索が必要である.

スキーが原因と思われた長母指伸筋腱断裂の1例

著者: 金治有彦 ,   田崎憲一 ,   中村雅也 ,   片岡公一 ,   山根誓二 ,   山本卓哉

ページ範囲:P.1421 - P.1424

 抄録:スキーが原因と思われた長母指伸筋腱皮下断裂の1例を報告する.症例は20歳,男性.連日スキーを行っていたが,3日目に左母指伸展障害に気付いた.発症より10日目に当科を受診し,長母指伸筋腱皮下断裂と診断した,既往歴等に明らかな基礎疾患はなく,X線上異常所見はなかった.発症より2週後,固有示指伸筋腱の腱移行術を行い,術後1年母指機能は正常で,ADLに支障はない.長母指伸筋腱皮下断裂には,橈骨遠位端骨折,慢性関節リウマチなどに続発するものは多いが,スポーツによるものはわれわれが渉猟した範囲で6例と少なく,スキーは1例のみと極めて稀である.自験例ではスキー中に明らかな外傷はないが,バランスを崩しそうになったときにストックを握った状態で手関節を掌屈位から背屈して,ナックルで雪面をける動作を繰り返しており,ストック操作による機械的摩擦により,リスター結節で断裂を生じたものと考えられる.

巨大な馬尾神経鞘腫の1例

著者: 橋本光宏 ,   永瀬譲史 ,   板橋孝 ,   国府田正雄 ,   須藤英文 ,   高澤博

ページ範囲:P.1425 - P.1429

 抄録:症例は49歳女性.6年前より持続する左坐骨神経痛を腰椎椎間板ヘルニアと診断され,保存的療法を行っていたが,立位保持困難とともに膀胱直腸障害も生じたため当科紹介となった,MRIにて第12胸椎から第5腰椎レベルの脊柱管内にガドリニウムにて造影される巨大腫瘤病変を認め,巨大馬尾腫瘍の診断にて,腫瘍摘出術と還納式椎弓形成術を行った.病理診断は神経鞘腫であった.術後,独歩可能となり,膀胱直腸障害も改善した.術後10カ月の現在,腫瘍の再発および脊柱変形を認めず,経過良好である.神経鞘腫は再発することがあり,術後の再発の有無を確認する手段としてMRI検査が必須であるが,磁性体を用いない本術式は,MRI検査でも十分な画像が得られ,有用であると考えられた.

骨盤に発生した血管内皮腫の1例

著者: 山田陸雄 ,   矢部啓夫 ,   森岡秀夫 ,   南雲剛史 ,   穴沢卯圭 ,   鈴木禎寿 ,   森井健司

ページ範囲:P.1431 - P.1433

 抄録:骨盤に原発した血管内皮腫の1例を経験したので報告する.症例は26歳,男性・主訴は左股関節痛.初診時X線にて左骨盤臼蓋に骨透瞭像を認め,生検により血管内皮腫と診断された.手術は広範切除術(切除縁2cm)およびパスツール法熱処理骨移植による再建術を施行した.術後深部感染を生じ,最終的に移植骨除去を行ったため,flail hip jointとなった.感染の完全な鎮静化後に股関節固定術を予定していたが,腸骨切除部に大腿骨頭を覆う様に骨形成がみられ,関節様を呈した.初回手術後2年7カ月の現在,患側片脚起立ならびに独歩可能となり,経過良好である.

胸椎部巨大dumbbell型神経鞘腫の1例

著者: 高瀬年人 ,   勝浦章知 ,   松本圭司 ,   福田眞輔 ,   加藤弘文 ,   井上修平 ,   手塚則明 ,   嘉本将治

ページ範囲:P.1435 - P.1438

 抄録:症例は73歳女性.1994(平成6)年8月頃より両下肢のしびれが出現.胸椎および縦隔に9×7×6(cm)のEdenのtype3のdumbbell型腫瘍を認めたため,針生検術を行い悪性腫瘍と診断されるも,高齢のため手術適応なしとされた.しかし,1996(平成8)年4月頃より,脊髄症状悪化したため,後側方開胸および後方進入によって腫瘍切除術を行った.腫瘍は胸腔内に存在し,暗赤色で肺との癒着は強くなく,第4胸神経根が腫瘍の被膜に入り込んでいた,腫瘍切除後,前方に肋骨を移植し,LuqueSSIにて後方固定術を行った.病理組織学的には,良性の神経鞘腫であった.術後,脊髄症状は改善しTステッキ歩行可能となっている.本症例はdumbbell型脊髄腫瘍としては,最大級の大きさであり,稀な高齢発症であった.また巨大dumbbell型脊髄腫瘍でありながら,局所症状は認めず,一期的手術によって良好な経過を得た.

足関節果部骨折術後関節症性変化をきたした症例の検討

著者: 土田敏典 ,   北野喜行 ,   堀本孝士 ,   富田喜久雄 ,   長浦恭行 ,   片山元

ページ範囲:P.1439 - P.1443

 抄録:骨接合手術を行った足関節果部骨折症例において,X線写真上,関節症性変化をきたした症例を調査した.対象は男性6例,女性1例の7例で,平均年齢58歳だった,法療方法およびその予後を,X線学的にはBurwellの整復度判定基準を用い,臨床評価には日本整形外科学会足部疾患治療成績判定基準を用いた.術後経過観察期間は4年1カ月から10年2カ月,平均6年6カ月だった.検討の結果,受傷時の状態として,高年齢者,開放骨折,骨折型がAO分類44-C型の骨折,その中でも後果骨折の合併,𦙾腓結合の離開が著しいことがその予後に関係するものと思われた.また,治療方法の問題点として,手術施行の遅れを2例に認め,Burwellの判定基準で整復がfairの例が2例あり,X線学的検討にて術後𦙾腓結合離開の残存を3例に認めた.1例感染症の併発を認めた.これらの要因が複合することによって,関節症性変化を引き起こすものと考えた.

陳旧性後十字靱帯損傷例の靱帯修復状態とMR像の検討

著者: 秋末敏宏 ,   黒坂昌弘 ,   吉矢晋一 ,   黒田良祐 ,   水野耕作

ページ範囲:P.1445 - P.1449

 抄録:後十字靱帯(PCL)損傷膝では,受傷時に明らかな不安定性を認めるにもかかわらず経過とともに後方押し込みで,hard end pointが出現する例があり,PCL損傷後の治癒過程の特異性を示すものではないかと考えられる.今回,後方押し込みに際するhard end pointの有無,およびMRIによる損傷PCLの治癒状態と,膝不安定性の相関を検討した.後方押し込みの最終時点で抵抗のある,いわゆるhard end pointを呈したものは,73%(38例)であった.これらの症例では膝900°屈曲位でのKT-1000による前後方向移動量は,平均6.4mmであり,hard end pointの消失した例での平均移動量12.0mmと統計学的に有意差を認めた.また,MR像において,PCLの走行に一致して連続性のある低信号領域を認めた39例の移動量は平均6.9mmであり,連続性のない13例の平均移動量11.1mmと統計学的に有意差を認めた.以上の結果より陳旧性PCL損傷例では何らかの治癒機転が働き,PCLの連続性を獲得する例が多く,膝不安定性や機能的予後に影響を与えているのではないかと考えられた.

間欲性跛行様症状を呈し,診断に難渋した股関節唇断裂の1例

著者: 村上宏宇 ,   田中泰弘 ,   松原保 ,   圓井芳晴 ,   増田純男 ,   下山勝仁 ,   村澤光洋

ページ範囲:P.1451 - P.1454

 抄録:股関節唇断裂を呈し,腰部椎間板ヘルニアを合併したため診断に難渋した1例を経験したので報告する.症例は66歳女性,股関節を中心とした左下肢痛による間歌性跛行を主訴に受診.股関節の単純X線,MRIでは異常所見はなく,腰椎MRIにてL4/5間に左側優位のヘルニアを認めた.硬膜外ブロックなどの保存治療を行ったが効果なく,股関節内の異常を調べるため股関節造影を施行,局麻剤の注入により疼痛は軽減した.造影所見より関節唇断裂を疑い股関節鏡を行い,断裂部の部分切除を施行し,術後疼痛は著明に改善した.疼痛性跛行の診断に際し股関節唇断裂を認識することが重要であった.

神経線維腫症に合併したgiant pachydermatoceleの1例

著者: 太田浩史 ,   谷川浩隆 ,   清水富永 ,   比佐健二 ,   吉村康夫 ,   高岡邦夫

ページ範囲:P.1455 - P.1458

 抄録:側腹部に巨大なpachydermatoceleがみられた神経線維腫症の1例を報告する.症例は38歳男性.幼少時より左側腹部に腫瘤を認め,6歳時に摘出した.15歳頃より同部に腫瘤が再発・増大し日常生活に支障を来してきた.38歳時,腫瘍切除目的で入院となった.pachydermatoceleの大きさは32×20×10cmであり,CTでは腫瘍は筋肉とほぼ同じdensity,MRI TI強調画像では筋肉と同等の信号,T2強調画像ではまだらに高信号を呈し,Gd-DTPAで全体が造影された.血管造影で左第6~第10肋間動脈および肩甲下動脈からの栄養血管を認めた.PDCは血管が豊富で腫瘍組織が脆弱なために摘出時には出血が問題となるため,術前に栄養血管である肋間動脈および肩甲下動脈に対し血管塞栓術を行った,術中出血は1,800mlであり,過去の報告例と比較して少量の出血で切除し得た.血管塞栓術は腫瘍切除の際の有効な手段の一つと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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