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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科32巻3号

1997年03月発行

雑誌目次

視座

高騰する特定保険医療材料費

著者: 大谷清

ページ範囲:P.217 - P.217

 手術,処置,検査等医療技術の急速な進歩に伴って多種多様な医療材料が開発され,その恩恵に浴している患者は多い.整形外科は,特に医療材料を多く使用している.しかし,これら材料の医学的適応もさることながら,材料費の高騰に伴って医療費の材料費へのシフトが問題となり,現況では材料費が整形外科医療費を圧縮しているといっても過言でなくなってきた.
 外国製品輸入にたよる,これら材料は厚生省薬務局で使用許可がでると輸入価格で容易に保険適用となってしまう.医療材料は,今や野ばなし価格である.医療機関には医療材料費は購入価格で償遷されていることから,医療機関側にコスト意識がない.失礼な言葉で失敬するが,日本の医師は医療に物を使い,それで儲けるといった考えがある.これは医療制度そのものが,そのような仕組であったからである.このような基盤である限り,物にまつわる不祥事件が発生するのは当然である.

論述

腰椎疾患における3D-myelo-CTの応用

著者: 平学 ,   遠藤健司 ,   柄沢玄宏 ,   浦和康人 ,   伊藤公一 ,   市丸勝二 ,   三浦幸雄

ページ範囲:P.219 - P.227

 抄録:近年,ヘリカルCTの脊髄外科への応用も著しいが,通常の撮像方法では硬膜管や神経根の描出は困難であった.われわれは,myelography施行後に条件設定をし,腰椎椎間板ヘルニア(LDH)および腰部脊柱管狭窄症(LCS)に対しヘリカルCTを撮像し,他の画像診断と比較検討した.その結果,硬膜管および神経根の圧排を立体的に描出することが可能となり,従来からのmyelo-CTでの病的圧排像が,一連の流れとして観察可能であり,手術のシュミレーションや患者への説明に有用であった.また,MPR画像では,撮像後に,任意のslice面を選択し再構成可能であるために,骨性因子による破膜管や神経根の圧排所見を約80%で診断可能で,LCSの高位診断として有用であった.しかし,3D画像を得るには,硬膜管に造影剤を充満させることが必要なため,scan範囲が限定される.また,撮像方法が連続scanの故,axial画像が従来の2D-CT画像に比べ劣るなど,今後の課題と思われた.

寛骨臼回転骨切り術後の血腫による合併症

著者: 武田浩一郎 ,   菊地臣一 ,   斎藤昭

ページ範囲:P.229 - P.234

 抄録:寛骨臼回転骨切り術(以下RAOと略す)を行った67例74関節を対象に,術後血腫による合併症について検討した.血腫の測定は,CTを用いて股関節周囲筋の筋体積の術前後の差を求め,これを血腫量とした.合併症で最も頻度の高かったのは術後2日以内の下腹部痛で,24関節(32.4%)に認められた.次いで肝機能障害が23関節(31.1%)に,末梢神経障害が19関節(25.7%)に認められた.術後2日以内に下腹部痛を訴えた症例は,骨盤内腔の血腫量が47.3mlであった.これに対し,下腹部痛を認めなかった症例での骨盤内腔の血腫量は,18.5mlであり,下腹部痛を有した症例と比べて少なかった.術後2日以内の下腹部痛の発生には骨盤内腔に広がった血腫が関係していると考えられた.RAOによる合併症の関与因子として術後の血腫形成も念頭におく必要がある.

連載 整形外科philosophy・1【新連載】

整形外科フィロソフィー序論―知ることを愛すること

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.235 - P.237

はじめに
 かねてより,本誌編集室から原稿の依頼を受けていたのであるが,医の哲学を論じるのは,私にとって過ぎたることでもあり,しばらく躊躇していた.しかし考えてみれば,哲学は自省・反省の学,自己批判の学問であるから,それは一人ひとりの内面に向かって展開させる唯一自由な思惟行動でもあるので,それほど緊張すべきことでもないと思うに至った.そこで,私は,あえてその要望に応えるべく,過去39年間の整形外科医としての,あるいは34年間の大学教員生活の主として後半期に内省したものや知り得たものの幾つかについて,何回かに分けて筆をとることとした.いま私はフィロソフィーという,この企画の標題を,できるだけ忠実に受けとめようとするのであるが,私は哲学者でも宗教家でもないから,如何なる批評も甘んじて受けるほか,これからの在るべき整形外科医療の担い手としての特に若い医師の内面成長にとって,一粒の種子にでもなればなお幸いと思うのである.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・9

著者: 北岡克彦 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.239 - P.242

 症例:11歳,男児
 主訴:左足部腫脹,疼痛
 現病歴:1995(平成7)年10月頃より柔道の練習中やランニング時などに左第2趾のMP関節部に疼痛,腫脹を認めた.1996(平成8年)1月に近医を受診し,1カ月間の固定など保存的治療を受けたが症状は軽快せず,同年5月に当科を初診した.

基礎知識/知ってるつもり

リウマトイド因子

著者: 西岡淳一

ページ範囲:P.243 - P.243

 【リウマトイド因子(RF)とは】
 「RF」は名前の上からは慢性関節リウマチ(RA)の疾患を構成する主要要素であるかのようにみえる.事実,アメリカリウマチ学会(ACR)のRA診断基準の一項目に採用されている.しかし,実際にはRA患者以外にも多くの疾患に関連している.全く健康な人にもみられ,疾患固有の因子ではない.しかし「RF」はRAの疾患活動性を予測し,関節破壊等の予後を占う要素になりうるので,RA患者にとっては,やはり重要な因子である.

整形外科英語ア・ラ・カルト・53

整形外科分野で使われる用語・その20

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.244 - P.245

●Gigli Saw(ギグリー・ソー)
 これは“Gigli wire saw”とも呼ばれ,日本語では“糸ノコ”と呼ばれている.整形外科の分野では,四肢切断の骨切り術のときに“Gigli saw”が用いられるし,また脳外科手術の際に,開頭部分を拡大するとき用いられる.まず開頭の部位の大きさに合わせて4ヵ所に“bur hole”を開け,あとはこの“糸ノコ”で頭蓋骨切りを行う.このように“Gigli saw”は整形外科や脳外科には,有用な器具である.
 さてこの鋸を考案した“Leonardo Gigli”(1866-1908)はイタリアで活躍した産婦人科医である.まず“Gigli”の読み方であるが,米語では“ギグリー”と発音されているが,ドーランド英語辞典(Doland's Illustrated Medical Dictionary)には“ジェルエー”と発音するように書かれている.日本語の人名辞典で,“Gigli”の項をみると1890年に生まれたイタリアの有名なテノール歌手に,“Berniamino Gigli”がいる.そして“Gigli”の読み方は,第2番目の“g”がサイレントで“ジーリ”と書かれている.

ついである記・11

病めるイタリア

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.246 - P.247

●複雑なイタリアの社会
 イタリアという国とその国民の偉大さについては前回に少し触れた.しかし,現在のイタリアを訪れた人々はこの国の社会状況に多かれ少なかれ失望して帰っていくのではなかろうか.特に,日本人は現在のイタリアのような複雑極まりない社会には慣れていないので,イタリア人の物の考え方や生活態度には嫌悪をすら覚える人が多いであろう.私もこの10年間に6回もイタリアを訪れたが,行く度に何か厭な目にあったので,この国は偉大な国ではあるが,どうも心底から好きにはなれない国である.
 タクシーの運転手が料金をふっかけたり,スリが大勢うろうろしているのはイタリアだけではなく,南欧や東欧では共通にみられる現象である.これらの被害は用心をすれば防ぎうるが,用心をしても防ぎきれない恐喝や強盗が特に南イタリアではもう手の施しようもない状態になっている.それはこの国の社会がいかに病んでいるかを物語っていると思われる.いわゆる先進国と呼ばれる国々の中では,治安が手の施しようのないような状態になっているのはアメリカとロシアとイタリアだけだ.アメリカは銃社会である上に人種問題が根底にあり,ロシアは政治と経済が極端に混乱していることが原因であろうと容易に理解できるが,イタリアの病根は何であろう.人種問題政治の混乱,マフィアの跳梁などいろいろな要因が考えられるが,いずれにしても容易に理解しえない国である.

臨床経験

左中指に発症した非定型抗酸菌感染症の1例

著者: 大内聖士 ,   山田昌弘 ,   吉田和也

ページ範囲:P.249 - P.251

 抄録:われわれは,左中指に発症した非定型抗酸菌感染症を経験した.症例は,71歳,男性.1992(平成4)年10月頃より左中指PIP関節に腫脹出現,徐々に増強したため,1993(平成5)年6月14日初診.PIP関節に腫脹を認めたが発赤,熱感,圧痛は無し.関節可動域正常.X線上,中節骨基部に透亮像を認めた.生検組織で類上皮細胞と巨細胞により形成された肉芽腫を認めた.一般細菌培養検査は,陰性.全身的検索より抗酸菌性病変を疑い,8月3日病巣掻爬術施行.抗酸菌培養でMycobacterium cheloneiと判明.INH・RFPの内服を6カ月間継続し,腫脹は徐々に消退した.術後15カ月,再発はなく,X線上の透亮像は消失しつつある.非結核性抗酸菌の四肢病変はMycobacterium marinumによるものが多く,数少ない物Mycobacterium cheloneiによる症例であった.

脊柱側弯症術後遅発性深部感染の1例

著者: 夏目直樹 ,   川上紀明 ,   三浦恭志 ,   松原祐二

ページ範囲:P.253 - P.256

 抄録:脊柱側弯症術後遅発性深部感染の報告はspinal instrumentation使用による手術の増加により近年散見されるようになった.自験例は18歳,女性で,特発性側弯症による胸椎側弯に対し後方からTSRH spinal instrumentを使用し側弯矯正固定術を行った.術中,術後は著変は認められなかったが,術11カ月後に緑膿菌による遅発性深部感染を発症した.instrument抜去,病巣掻爬,抗生剤投与により感染は鎮静化した.
 脊柱側弯症術後遅発性深部感染の臨床的特徴として背部痛,背部腫脹,発熱などが報告されている.感染経路として血行性,術中,経皮感染などが考えられたが,本症例においては代表的院内感染の起炎菌である縁膿菌の感染経路は不明であった.

膝後十字靱帯より発生したガングリオンの1症例

著者: 若林敏行 ,   入江一憲 ,   榎本宏之 ,   井上和彦

ページ範囲:P.257 - P.260

 抄録:後十字靱帯(以下PCL)より発生したガングリオンの1症例を経験した.症例:48歳,男性.しゃがんだ状態で物を持とうとして左膝痛が出現し,当科を初診.関節可動域は0~90°で最大屈曲時に疼痛を強く訴えるとともに弾性抵抗を生じた.MRIの結果,PCL近傍に腫瘤を認めた.腫瘤は高信号強度のperipheral ringを認め,骨格筋と比べてT2強調像で高信号,T1強調像でほぼ同信号強度を呈した.疼痛,可動域制限が改善しないため,手術的に摘出.組織は有茎性,多房性の嚢腫様で,ガングリオンと診断された.術後経過は良好で,術後1年6カ月の現在,再発を認めていない.PCLガングリオンは稀であり,本症例を含めて26例の報告を見るのみである.症状は半月板損傷時に似るが,外傷歴の有無,屈曲時の弾性抵抗の有無,関節裂隙の圧痛の有無,症状の消退の有無などが参考になる.画像診断ではMRIがきわめて有用であった.

片側上下肢麻痺を呈した脊髄硬膜外血腫の1例

著者: 中村渉 ,   藤沢洋一 ,   藤井一晃 ,   牧野明男

ページ範囲:P.261 - P.264

 抄録:片側上下肢麻痺を呈した脊髄硬膜外血腫を経験した.症例は59歳,女性.誘因と思われるものは全くなく,突然,後頚部痛が出現し,徐々に右上下肢麻痺が出現.脳梗塞として入院となり発症後2日目に当科紹介となった.MRIでは頚髄を右側後方から圧迫する硬膜外血腫を認めた.麻痺は発症後数時間で改善傾向を示していたため,保存療法を選択した.発症後2カ月で麻痺は完全に消失した.
 脊髄硬膜外血腫では,脊髄圧迫症状が急激に発生し,診断,治療の遅れは神経機能予後を悪化させると言われている.本症例では片側上下肢麻痺を呈し,頭蓋内病変との鑑別が困難であったため,診断が遅れたが,幸いにも入院直後から症状の改善がみられ,後遺症を残さず退院できた.一般に保存的治療の予後は不良であると言われているが,神経症状の回復がみられる症例では保存的治療も考慮すべきであると考えられた.

閉塞性動脈硬化により下肢切断を施行した65歳以上の症例についての検討

著者: 米津浩 ,   日比信行

ページ範囲:P.265 - P.267

 抄録:閉塞性動脈硬化症により下肢切断を施行した65歳以上の高齢者につき検討した.症例は男8例女3例,手術時年齢は65~84歳(平均75.5歳)である.術後追跡期間は6~53カ月(平均24.7カ月)である.最終切断高位は下腿切断4例,大腿切断6例,股関節離断1例であった.手術回数は1~3回(平均1.4回)であった.実用的移動能力の変化は,発病前は歩行8例,車椅子2例,寝たきり1例に対して,退院時が歩行5例,車椅子1例,寝たきり1例,死亡4例,調査時は歩行2例,車椅子1例,寝たきり1例,死亡7例であった.歩行可能例はいずれも下腿切断であった.高齢者の下肢切断例においては,義足歩行以外の移動手段も考慮し,家庭環境の改善をはかり,quality of life(QOL)を高めることが重要である.

鎖骨骨折変形癒合によって生じた肩峰下インピンジメント症候群の1例

著者: 柏木忠範 ,   小川清久 ,   宇井通雅

ページ範囲:P.269 - P.272

 抄録:鎖骨骨折変形癒合により肩峰下インピンジメント症候群を生じた1例を経験したので報告する.症例は,31歳男性で,1988年5月に交通事故で意識障害を伴う脳挫傷と左鎖骨骨折を含む多発外傷を受傷した.左鎖骨が短縮・回旋変形癒合した後,左肩関節の拘縮除去のため,可動域訓練が行われたが,左肩関節痛と挙上困難が持続したため1991年11月に当科を受診した.鎖骨骨折の変形癒合を一次的原因とする肩峰下インピンジメント症候群と診断し,鎖骨矯正骨切り術,前肩峰形成術および腱板修復術を施行した.術後経過は良好で,可動域の改善が得られた.解剖学的な整復を要しない鎖骨骨折と言えども,著しい形態的逸脱は機能障害の原因となり得ることを認識するべきである.

頚椎症性椎骨動脈循環不全症の治療経験

著者: 三戸明夫 ,   星忠行 ,   新井弘一 ,   成田穂積 ,   増谷守彦 ,   伊勢紀久

ページ範囲:P.273 - P.276

 抄録:めまいの原因は様々であるが,頚椎骨棘による椎骨動脈障害もその一因となる.われわれは頚椎骨棘による頚部回旋時の回旋側の椎骨動脈狭窄によって重篤な回転性めまいを発現した1症例を手術的に治療したので文献的考察を加えて報告する.
 症例は60歳男性.頚部右回旋によって回転性めまいが誘発され,自動車後進時,睡眠時の恐怖感を主訴に受診した.神経学的には異常を認めなかったが,頚部右回旋60°にてめまいが確実に再現された.動脈造影の所見では頚部右回旋によりC5/6レベルでの右椎骨動脈の狭窄像が認められた他に椎骨脳底動脈系のvariationが認められた.また同部位のCT像にて頚椎骨棘による横突孔の狭小化が認められたため頚椎症性椎骨動脈循環不全症と診断した.手術はC5-6間の骨棘切除および前方固定を行った.術後13カ月の現在,術前の頚部右回旋によるめまい症状は完全に消失し経過良好である.

膝後方不安定性を示した大腿骨遠位骨端離開Salter-Harris Ⅲ型の1例

著者: 史賢林 ,   堀部秀二 ,   松本憲尚 ,   中村憲正 ,   前田朗 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.277 - P.280

 抄録:今回われわれは後方不安定性を示した極めて稀な大腿骨遠位骨端離開Salter-Harris Ⅲ型の1例を経験したので報告する.患者は17歳,男性.ラグビープレー中左膝を前外方よりタックルされ受傷.初診時脂肪滴を含まない関節血腫を認め,単純X線像で明らかな骨傷を認めなかった.後方不安定性が強度であったため後十字靱帯損傷を強く疑った.合併損傷の有無を検索するため施行したMRIでは大腿骨遠位骨端線内側から顆間窩に至るSalter-Harris Ⅲ型骨折であった.関節鏡にて骨折部が不安定であったため鏡視下にコントロールしながらAO螺子2本にて固定した.術後後方不安定性は消失し,術後1年の現在症状はない.
 Salter-Harris Ⅲ型の大腿骨遠位骨端離開は非常に稀であるが,本症例のように骨端線閉鎖前の症例では本骨折を考えて正確な診断のもと適切な治療法を選択することが重要である.

Luque rod破損の2症例

著者: 竹林庸雄 ,   三名木泰彦 ,   横澤均 ,   山下敏彦 ,   横串算敏 ,   石井清一

ページ範囲:P.281 - P.284

 抄録:Luque rodの素材は316L-stainless steelで通常は金属疲労を起こすことは極めて稀である.しかし,bendingやwire締結時の微小損傷により,rod本来の有する材料力学的な強度が低下する可能性がある.今回,われわれはLuque rod破損例を2例経験した.1例目は12歳,女子で麻痺性脊柱側弯症に対しLuque instrumentation(without fusion)を行い,3年6カ月後にrodの破損が起こった.2例目は45歳,女性で腰椎脱臼骨折に対しLuque instrumentationを行い,3年3カ月後にrodの破損が起こった.rod破損断端の光顕像ではstriationとdimpleが見られ,金属疲労が原因で破損を起こしたと考えられた.

𦙾骨近位部骨肉腫例に対する骨端を保存した患肢温存の1例

著者: 網谷浅香 ,   山崎隆 ,   園田潤 ,   藤浪周一 ,   田中雅 ,   内田淳正

ページ範囲:P.285 - P.289

 抄録:12歳男児の𦙾骨近位部に発生した骨肉腫に対して𦙾骨近位骨端を温存した手術を行い良好な結果を得た.術前化学療法が著効を示したため,𦙾骨近位成長軟骨板をバリヤーとし,骨端を温存し腫瘍切除を行った.生じた骨欠損に血管柄付き腓骨移植を併用したオートクレーブ処理骨を用い再建した.術後36カ月無病生存であり,Ennekingの患肢機能評価では30点中28点(93.3%)であった.

𦙾骨近位骨幹端部に発生したadamantinomaの経験

著者: 渡辺昌彦 ,   大幸俊三 ,   武郁 ,   奥村明彦 ,   鈴木高祐

ページ範囲:P.291 - P.294

 抄録:adamantinomaの発生率は全国骨腫瘍登録(1972~1994)で21例とわずかであり,そのうち𦙾骨に12例が発生し,大部分が骨幹部にみられている.しかし,骨幹端部に発生することはさらに稀である.われわれの経験した症例は骨幹端部にみられたことと,通常よくみられるosteofibrous dysplasiaの画像とは異なり,骨外に広がるタイプで,生検では診断に困難を伴った.化学療法を行ったが,ほとんど効果なく,広範に切除し,人工関節で置換した.切除標本ではadamantinomaと診断され,術後3年になるが,現在のところ再発や転移はなく,膝の伸展に障害があるもののブレースを着けて通学している.この疾患は外傷の既往歴をもつものが多いとされており,また,組織学的に一見,良性骨腫瘍に類似することから,手術が単純のものとなり易い.しかし,再発率や転移率が高い二とから,十分に組織像を検討し手術法を選択する必要がある.

仙腸関節破壊を伴った巨大仙骨嚢腫の1例

著者: 長井肇 ,   四方實彦 ,   田中千晶 ,   清水和也 ,   杉本正幸 ,   高橋真 ,   藤林俊介 ,   服部理恵子

ページ範囲:P.295 - P.298

 抄録:われわれは仙腸関節破壊を伴った巨大仙骨嚢腫の1例を経験したので報告する.症例は48歳,男性.主訴は腰痛,左仙腸関節部痛.画像所見より仙骨,両仙腸関節の破壊,脊柱管狭窄を認め,手術を施行した.左S2神経根の基部にて硬膜嚢と交通する仙骨嚢腫を切除した.嚢腫による骨破壊により脆弱化した仙骨に対して腓骨骨移植をもちいた再建を行った.また,破壊された仙腸関節に対してGalveston法に準ずるinstrumentationおよび腓骨・腸骨骨移植にて腰仙椎腸骨固定を行った.病理組織所見は末梢神経索をふくみ,perineural cystに合致するものであった.術後,術前の腰痛,左仙腸関節部痛は消失した.

tricho-rhino-phalangeal syndrome type Ⅲの1症例

著者: 加東定 ,   藤井正司 ,   宇野耕吉 ,   増田真造 ,   高島孝之 ,   三浦靖史 ,   司馬良一

ページ範囲:P.299 - P.302

 抄録:1966年にGiedion3)は,それまで“Peripheral dysostosis”として報告されていた症例の再検討を行い,毛髪,鼻,指(趾)骨に特徴的な異常を呈する症候群をtricho-rhino-phalangeal syndrome(以下TRP)と命名した.続いて1974年,Hall6)らはさらに多発性軟骨性外骨腫,知能障害,Ehlers-Danlos様皮膚などを合併した症例をLanger-Giedion症候群と命名した.現在,前者はTRP type Ⅰ,後者はTRP type Ⅱとされている.そして,1986年には,Niikawa9)は知能障害がなく,より指趾短縮が著明なものをTRP type Ⅲと命名し,その2家系を報告した.
 本稿で,筆者らは,両手指足趾の短縮を有する13歳女子の症例をその特有の顔貌とX線所見,metacarpo-phalangeal-pattern2)(以下MCPPと略す)より,Niikawaの述べるTRP type Ⅲと診断したので若干の文献的考察を加えて報告する.

手舟状骨単独脱臼の1例

著者: 梁昌鳳 ,   尾崎昭洋 ,   一山茂樹 ,   園田万史

ページ範囲:P.303 - P.306

 抄録:稀な手舟状骨単独脱臼の1例を経験した.症例は67歳男性.主訴は左手関節の疼痛と腫脹である.単車でトラクターに追突し,ハンドルを握ったまま左側に転倒して受傷した.受傷後7日目に初診し,X線像上舟状骨の掌橈側への脱臼とaxial disruptionを認めた.初診日に静脈麻酔下に徒手整復を行い,6週間のギプス固定の後,機能訓練を開始した,整復後7カ月で疼痛なく経過良好である.本症の報告は自験例を含めて42例に過ぎない.受傷機転は手関節背尺屈位で中手骨を介した外力が加わって発生したものと考えられる.治療は,新鮮例では徒手整復が多く行われており,観血的整復よりも成績良好例が多い.しかし徒手整復も観血的整復もともに,舟状骨周囲の全靱帯断裂例では成績が劣っていた.舟状骨壊死の報告は1例のみであるが,舟状骨への血流を考えると,靱帯広範断裂例では骨壊死の発生が危惧されるため,MRI等で慎重に経過観察すべきである.

脳性麻痺児にみられた橈骨頭脱臼

著者: 二井英二 ,   西山正紀 ,   半田忠洋 ,   山崎征治

ページ範囲:P.307 - P.310

 抄録:脳性麻痺児における橈骨頭脱臼の7例(8関節)を経験したので報告した.前方脱臼6例(全例片側),後方脱臼1例(両側)であり,発症年齢は平均10歳6カ月であった.ほとんどの例で軽度の肘関節屈曲および著明な前腕回内拘縮がみられたが,疼痛を訴えたものはなかった.また,手関節,手指の動きに大きな制限のみられないものでは,日常生活上の障害は比較的軽度であった.脳性麻痺における橈骨頭脱臼の報告はきわめて少ないが,発生頻度としては2~3%との報告もみられ,それほど稀ではない.脱臼の原因としては,上腕二頭筋腱による橈骨頭への牽引力や回内拘縮の持続による関節包などの弛緩が考えられているが明らかではない.自験例および過去の報告例において,前方脱臼の頻度が高いが,後方脱臼も少なからずみられており,その他の因子が関与していることも考えられた.脱臼による日常生活上の障害や疼痛はほとんどみられず,観血的療法の適応は少ないと思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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