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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科32巻4号

1997年04月発行

雑誌目次

特集 脊椎外科最近の進歩(第25回日本脊椎外科学会より)

脊椎外科最近の進歩

著者: 蓮江光男

ページ範囲:P.318 - P.319

 日本脊椎外科学会は約4半世紀の歴史を有し,脊椎・脊髄疾患の独創的研究発表に,最もふさわしい場を提供して来ました.しかし,日本発の創意・工夫の発電所的機能,および諸外国に向けての情報発信という点で,質量ともにまだまだ不十分と言わざるを得ません.また,学際的研究発表が依然として少ないのが現状であります.
 そこで第25回学会の主題は,「脊椎外科最近の進歩」として,脊椎・脊髄の基礎から臨床にわたる,創意に満ちたあるいは1つの診療科の枠を超えた演題を,期待したわけであります.予想以上に多数の375演題の応募がありましたが,3人1組のプログラム委員による,厳正な査読・評価を経て,303題(うち120題はポスター演題)を採用しました。学会自体は1996(平成8)年6月14,15日,名古屋国際会議場で開催され,約1300名の参加者による熱心な発表・討論が行われ,時間不足が悔まれたほどでした.

頚椎後縦靱帯骨化症の治療成績と外傷の関連―MRI髄内高信号の臨床的意義

著者: 中村雅也 ,   藤村祥一 ,   松本守雄 ,   鎌田修博 ,   戸山芳昭 ,   鈴木信正

ページ範囲:P.321 - P.325

 抄録:頚椎後縦靱帯骨化症に対し手術的治療を行った91例を,外傷群と非外傷群に分け,外傷の有無と手術成績の関連を術前MRI・T2強調像髄内高信号に着目して検討した.髄内高信号を示した外傷群の術前後JOAスコアと改善率は高信号を示さなかった外傷群より有意に低下していたが,非外傷群では高信号の有無による有意差はなかった.また,髄内高信号を示した外傷群と非外傷群の術前JOAスコアは両群間に有意差はなかったが,術後JOAスコアと改善率は外傷群が有意に低下していた.頚椎後縦靱帯骨化症にみられるT2強調像髄内高信号は,外傷の有無により異なる病態を反映している可能性が示唆された.

腰部脊柱管狭窄症におけるダイナミックMRIの有用性―馬尾の血流動態の観察

著者: 鈴木良彦 ,   小林茂 ,   吉澤英造 ,   中井定明 ,   志津直行 ,   早川克彦 ,   中根高志

ページ範囲:P.327 - P.341

 抄録:腰部脊柱管狭窄症をみられる間欠性跛行の病態を検索する目的で,ダイナミックMRIを使用し馬尾の血流動態を観察した.またMRI横断像より,硬膜管横断面積を計測し,馬尾の血流動態の変化と比較・検討した.その結果,硬膜管横断面積が100mm2以下の高位で馬尾内の信号強度が上昇し,2椎間例では最狭窄部の近位で信号強度の上昇が持続していた.この信号強度の変化を裏づける目的で,イヌを用いて馬尾絞扼モデルを作製した.このモデルの造影MRIでは絞扼部を中心に馬尾の造影効果がみられ,蛍光顕微鏡下の観察では根内浮腫像を認めた.この変化は臨床例のダイナミックMRIでみられた脊柱管狭窄部の馬尾内の信号強度の上昇,すなわち根内浮腫像を反映していると考えられた.またこのモデルの組織像では,絞扼部とその近位の後根,そして遠位の前根で静脈のうっ血とワーラー変性が生じており,この変化は臨床例のダイナミックMRIでみられた狭窄部近位での造影剤の貯留を反映していると考えられた.

腰椎椎間板ヘルニアにおける椎体終板損傷の病態

著者: 豊根知明 ,   田中正 ,   伊嶋正弘 ,   南徳彦 ,   中島秀之 ,   大鳥精司 ,   林隆之

ページ範囲:P.343 - P.347

 抄録:遊離・脱出した腰椎椎間板ヘルニア38症例を対象とし,ヘルニアに隣接する椎体終板を観察した.終板病変は,MRI T1強調像にて低輝度・T2強調像にて高輝度を示すtype 1と,Tl強調像にて高輝度・T2強調像にて等~軽度高輝度を示すtype 2に分類した.その結果終板病変を認めたのは16例,42.1%(男性8例,女性8例,平均42.6歳)であり,全例がtype 2を示した.下肢痛の発症からMRI撮像までの期間は平均7週,特に10例では発症後4週以内にすでにtype 2の変化を示していた.組織学的に終板の損傷骨梁の肥厚および線維血管性骨髄を反映するtype 1は,脂肪性骨髄を反映するtype 2へと経年的に移行することが知られている.すなわち急性発症の椎間板ヘルニア症例において,これに数年は先行するであろう終板損傷の存在が示唆された.ヘルニア発生の機序に関与するものであると考えられる.

化膿性脊椎炎に対する経皮的病巣掻爬ドレナージ

著者: 大橋輝明 ,   永田見生 ,   石橋和順 ,   廣橋昭幸 ,   橋詰隆弘 ,   井上明生

ページ範囲:P.349 - P.353

 抄録:経皮的椎間板摘出術の器具を用いて38例の化膿性脊椎炎に対し病巣掻爬ドレナージを行った.適応は中部胸椎以下の骨破壊が軽度,1椎間に限局した病巣で,保存的治療に抵抗性で,高度な麻痺がないものとした.結果は,全例に疼痛の改善が得られた.しかし,2例に炎症が再燃し,うち1例は再度本法を施行し治癒し,他の1例は観血的治療が必要となった.神経・血管損傷などの合併症は生じなかった.本法の利点は,小さな侵襲で病巣掻爬とドレナージが可能なこと,摘出組織より起炎菌の同定と組織学的診断が可能なこと,局所に抗生剤の投与が可能なこと,術直後から疼痛が改善し,早期離床が可能なことである.欠点は,適応に限界があり,十分な病巣掻爬ができないことと神経・血管損傷などの合併症の可能性があることである.

経皮的椎間板摘出術における適応の再評価

著者: 米和徳 ,   酒匂崇 ,   川内義久 ,   山口正男 ,   中川雅裕 ,   西村謙一 ,   油木田啓介

ページ範囲:P.355 - P.360

 抄録:経皮的椎間板摘出術を行った腰椎椎間板ヘルニア症例で,術後6カ月と術後3年以上にて経過観察可能であった127症例について,術後成績の推移と術後成績に影響を及ぼす因子について検討し,本法の適応について再評価を行った.
 術後平均6.1カ月の初回調査時にはMacnabの評価法にてgood以上の手術有効例は71%であったが,最終調査時には68%とやや減少するものの比較的良好な成績が維持されていた.

video-assisted laparoscopic and thoracoscopic spine surgeryの経験―高位別アプローチの検討

著者: 出沢明 ,   三木浩 ,   榊原壌 ,   山根友二郎 ,   山川達郎

ページ範囲:P.361 - P.369

 抄録:一般腹部外科,胸部外科のvideoendoscopyの応用は,患者の術後の疼痛の減少と入院期間の短縮と早期の社会復帰をもたらし,ひいては医療費の削減になるために普及発展してきている.われわれはこれらの新技術を,脊椎の前方アプローチの24例に応用してきた.適用を選び十分なトレーニングと手技に習熟することにより,本方法は安全でacceptableな治療法になりうると思われる.本方法は術式としてsimple(単純),社会的にcheap(廉価)な点は今後改良の余地はあるが,合併症,偶発症は軽度の皮下気腫,逆行性射精以外なく医学的には患者にとってbetter(有益)な方法であると考える.そこで今後のこの手技の発展のために従来の術式と比べた現時点での適用と高位別手術手技について検討した.

胸腔鏡視下脊椎固定術に関する生体力学的および組織学的研究―胸腔鏡視下手術と開胸手術の比較

著者: 小谷善久 ,   ,   ,   ,   ,   金田清志

ページ範囲:P.371 - P.376

 抄録:動物モデルを用いた胸腔鏡視下脊椎前方固定術の安全性およびその技術的限界,経過観察後の固定椎の生体力学的および組織学的特性を開胸手術と比較した.胸腔鏡視下胸椎前方固定術は鏡視下用に手術器械を改良することで行い得たが,手術時間,出血量,合併症の各パラメータでは鏡視下手術の優位性を証明し得なかった.しかし,術後4カ月の固定椎の生体力学的,組織学的特性では,鏡視下群は開胸群と同等の結果をもたらした.骨移植のみの胸腔鏡視下固定術が安全に行えたのに比べ,instrumentation手術にはその安全性と手術器械に解決すべき問題が多かった.一般外科における胸腔鏡視下手術導入の際と同様,胸腔鏡視下脊椎固定術には動物実験に基づいた十分な技術的習熟と鏡視下用手術器械の改良が不可欠である.

腹腔鏡下腰椎前方固定術

著者: 山縣正庸 ,   山田英夫 ,   高橋和久 ,   菅谷啓之 ,   安原晃一 ,   中村伸一郎 ,   新井元 ,   粟飯原孝人 ,   西須孝 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.377 - P.386

 抄録:近年,外科の各領域で臨床応用され,良好な手術成績を上げている内視鏡手術を脊椎外科に応用した.これまでに6例行ったが,L5/S1椎間では経腹膜的に,L4/5椎間より頭側では経腹膜外的に椎間板を展開した.視野の確保は気腹法,腹壁つり上げ法いずれにおいても可能であるが骨切除に際してはガス塞栓の危険性を考慮して,気腹を中止し腹壁つり上げ法を行った.経腹膜外路法,経腹膜路法の双方で椎間板の切除のみならず従来法と同じく椎体間固定が可能であった.手術中には拡大された良好な視野が得られ,椎間板腔から後縦靱帯まで観察できた.これまでの実験の結果と併せて鏡視下腰椎前方固定術は,良好な視野のもとに神経や大血管を損傷することなく,少ない侵襲で行うことが技術的に可能であると考えられた.本術式を効率よく行うためには専用の手術器具の開発が必要であるが,今後,脊椎外科分野の中で発展する可能性のある手術手技と考えられた.

仙腸関節性疼痛の自覚部位と発現動作の特徴

著者: 村上栄一 ,   石塚正人 ,   国分正一 ,   田中靖久

ページ範囲:P.387 - P.392

 抄録:仙腸関節性疼痛の自覚部位ならびに発現の動作を腰・下肢痛が生じる腰椎疾患と比べて,それらの特異性を検討した,対象は仙腸関節性疼痛50例(男性18,女性32),椎間関節性疼痛30例(L4/5:16例,L5/S1:14例),神経根障害32例(L5:17例,S1:15例),椎間板性疼痛27例(L4/5:16例,L5/S1:11例)で,疼痛の部位を比較した.椎間板性疼痛を除く3群について6種の負荷テスト(立ち上がり,中腰,寝返り,歩行,15分間坐位,3分間側臥位)での疼痛の発現頻度を調べた.仙腸関節性疼痛の特異的な自覚部位は仙腸関節外縁部を中心とする領域で,50例中41例(82%)が上後腸骨棘の外側端から斜め約20度の方向に,頭外側へ約2cm,尾内側へ約4cm,幅約3cmの共通領域を有していた.“錐で刺し込まれるような痛み”と表現する例が86%あった.患側を下にした側臥位での疼痛発現が特徴的であった.これらの点に注目すれば仙腸関節性疼痛と腰椎由来の疼痛と区別は可能と考えられた.

椎間板と交通する脊柱管内嚢腫(椎間板嚢腫)―発生機序の考察と新しい疾患名の提唱

著者: 戸山芳昭 ,   鎌田修博 ,   松本守雄 ,   西澤隆 ,   小柳貴裕 ,   鈴木信正 ,   藤村祥一

ページ範囲:P.393 - P.400

 抄録:椎間板ヘルニア様症状を呈し,椎間板造影で当該椎間板と交通する脊柱管内嚢腫7例を経験したので,その臨床的特徴,発生機序,疾患の命名について報告した.本疾患の特徴は,①臨床症状は片側性単一神経根障害を示す椎間板ヘルニアに類似する.②好発年齢は青年層で,発生高位は一般のヘルニアよりやや頭側である.③当該椎間板の変性は軽度である.④椎間板造影で下肢への強い放散痛を認める.⑤嚢腫壁は線維性結合織より成り,内容液は血性から漿液性である.嚢腫発生は椎間板障害(線維輪断裂)が基盤にあり,peridural membrane下での出血→血腫形成→粘液変性→被覆化という機序によるのか,あるいは出血とは全く無関係に内圧の高い当該椎間板からの力学的負荷が何らかの役割を果たしているのか,二つの可能性が考えられる.この嚢腫は椎間板障害に起因し当該椎間板と交通して症状発現の主因を成していることから,椎間板嚢腫(discal cyst)という疾患名を提唱したい.

軟性脊髄鏡の臨床応用と新知見

著者: 内山政二 ,   長谷川和宏 ,   本間隆夫 ,   高橋栄明 ,   下地恒毅

ページ範囲:P.401 - P.406

 抄録:光学メーカーと共同で外径0.5mm,0.9mm,1.4mmの極細軟性脊髄鏡を開発し,1987年以降,原因不明の疼痛または麻痺を呈した17例に検査を実施した.腰椎穿刺の要領でTouhy針をガイドとしてくも膜下腔に刺入し,ゆっくり上行させた.腰椎から大後頭孔まで鏡視可能であり,脊髄表面,馬尾および神経根糸,くも膜の性状,小血管が明瞭に観察された.新知見として,胸髄くも膜嚢腫または脊髄ヘルニアと酷似した画像所見を呈した3例で,わた菓子状の柔らかい線維組織塊が髄液拍動で振動し,脊髄を叩打している状態を観察した.同部で脊髄は著しく萎縮していたが,線維組織塊を切除し,麻痺の改善を得た.合併症は化膿性髄膜炎が1例,1週前後続いた頭痛が5例であり,神経損傷はなかった.脊髄鏡は髄液を保ったままくも膜下腔の状態がダイナミックに観察できる唯一の手段であり,他の検査との併用により,脊髄疾患の診断治療に大きく寄与すると思われる.

慢性関節リウマチに伴う頚椎病変と全身病態

著者: 藤原桂樹 ,   藤本真弘 ,   大脇肇 ,   河野譲二 ,   中瀬尚長 ,   米延策雄 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.407 - P.412

 抄録:慢性関節リウマチ患者173例を対象として,頚椎病変の進行と全身病態との関連を検討した.上位頚椎病変は75例(43%),軸椎下亜脱臼(SS)は12例(7%)にみられた.全身病態を表す指標としてCRP,破壊関節数,Carpal height ratio,病型分類の4項目に注目した.CRPは頚椎病変を認めない群では平均1.4mg/dl,環軸椎前方亜脱臼(AAS)群2.7,AASに垂直亜脱臼(VS)を合併する群3.7,VS群4.1であり頚椎病変が進行した症例ほど高値を示した.SS群の平均は3.7と頚椎病変のない群より有意に高値であった.
 また,上位病変が進行した症例ほど,SSを合併した症例ほど全身の関節破壊の広がりは広範で,手関節の破壊程度も強かった,病型分類との関連をみると,少関節破壊型ではAASのみ発症しVSやSSの合併はなかった.多関節破壊型ではAASにVSが高率に合併した.ムチランス型では高度なVSまで進行しSSの合併頻度が高かった(39%).

術後髄液漏の自然経過

著者: 大谷和之 ,   中井修 ,   黒佐義郎 ,   進藤重雄 ,   安部理寛 ,   北原建彰 ,   山浦伊裟吉

ページ範囲:P.413 - P.418

 抄録:脊椎手術後の髄液漏の自然経過を明らかにする目的で,術後7日以上漏出が続いた14例,偽性髄膜瘤を形成した9例,胸腔内に髄液が貯留した8例の合計31例を調査した.発生率は脊椎手術1408例中2.2%で,平均漏出日数は19.4日(7日~57日)であった.全例が硬膜修復やくも膜下ドレナージを要することなく治癒した.偽性髄膜瘤や胸腔内貯留も数カ月以内に自然吸収された.感染は2例あり,1例は髄膜炎,1例は表在感染であった.長期化する髄液漏はすべて頚胸部での発症例であり,腰仙部で7日以上漏出が続いた症例はなかった.前方手術後の髄液漏は後方のものと比べ早期に閉鎖し偽性髄膜瘤を形成する傾向があった.治癒過程において漏出部とクモ膜下腔との圧の差が大きな役割を果たすためと考えられる.術後髄液漏は自然治癒傾向があり特に処置を施さなくとも問題となることは少ないが,その病態と治癒機序を考慮し体位による治療を行えば漏出期間の短縮が可能であろう.

完全還納式椎弓切除術(金大式)―threadwire sawを用いて

著者: 川原範夫 ,   富田勝郎 ,   新屋陽一

ページ範囲:P.419 - P.427

 抄録:脊髄腫瘍,脊髄空洞症などの脊柱管内病変に対して良好な視野を獲得し,さらに生理的,解剖学的な脊柱を再建するために,完全還納式椎弓切除術(recapping laminoplasty)を考案し26例に対し行った.Threadwire saw(T-saw)を用いた骨切りはcutting lossがなく,また切離面が極めてシャープであるため,還納椎弓を解剖学的に完全なもとの状態に復元できた.また骨接合部では短期間での骨癒合(primary healing)が得られ,さらに還納椎弓は組織学的に生着していることが確認された.

高齢者の骨性脊柱管狭窄を伴わない頚椎症性脊髄症に対する椎弓間開窓式脊髄除圧術の検討

著者: 大田耕司 ,   井形高明 ,   加藤真介 ,   山田秀大

ページ範囲:P.429 - P.433

 抄録:高齢者の頚椎症性脊髄症には,骨性脊柱管狭窄を伴わず,脊髄後方からの頚椎前弯増強に伴い,肥厚した椎弓上縁とたくれ込んだ黄色靱帯が主因となり発症するものが少なくない,このような症例に対し椎弓間開窓式脊髄除圧術を適応し,2年以上経過観察した10例(開窓群)の臨床症状,術後成績を,同時期に手術した棘突起縦割式脊柱管拡大術34症例(縦割群)と比較した.術前臨床症状は,開窓群では急性に増悪するものが多く,単純X線上,頚椎前弯が大きかった.MRI上,最大狭窄部位は開窓群では縦割群より高位に位置するものが多く,最大狭窄部位での脊髄横断面積は有意に大きかった.日本整形外科学会頚髄症治療判定基準の術後改善率は,退院時には開窓群が有意に高かった.また,改善率は術後平均5年の経過観察時でも維持されていた.以上の結果より,高齢者に対する本術式は病態に即した術式であり,長期にわたって成績も維持されうると考えられる.

C8神経根症の治療

著者: 田中靖久 ,   国分正一 ,   佐藤哲朗 ,   石井祐信 ,   山崎伸

ページ範囲:P.435 - P.439

 抄録:C8神経根症は手の筋力低下をきたし機能の障害を招く.その手術適応を知るために,独自の判定基準(正常20点)を用い,保存的に治療した13例(平均54歳)と手術した9例(平均54歳)の成績を調べた.保存的治療例の評価点は初診時に3.6±3.2点(平均±SD)で,平均2年2カ月後に11.7±4.3点となり,改善率が47±30%であった.手術例では,術前に4.6±3.2点で,平均1年5カ月後に16.8±3.1点となり,改善率が79±19%で優れていた.特に保存的治療で手の機能障害の改善が劣った.したがって,手に機能障害があれば,積極的に手術に踏み切って良い.

腰椎変性側弯に伴う神経根障害―解剖所見からみた病態

著者: 佐藤勝彦 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.441 - P.446

 抄録:腰椎部変性側弯による神経根障害の病態を検討するため解剖学的研究を行った.学生実習用遺体86体を対象にX線撮影を行い,変性側弯の有無を確認し,変性側弯が認められた症例の肉眼解剖を行った.側変角10°以上の変性側弯を有する症例の頻度は14例,16%であった.その中で側弯角20°以上の高度変性側弯を呈した2例について詳細な検討を行った.変性側弯による神経根障害の病態は,側弯の凹側と凸側では異なっている.側弯凹側部では,椎間孔部を中心とした複数部位での障害や椎間孔部における頭尾側方向の圧迫とpedicular kinkingに伴う横走が特徴的であった.このような障害は,凹側の複数根に発生する可能性がある.一方,側弯の凸側では,神経根の牽引と神経根管近位部や椎間孔部での背腹方向の圧迫により神経根障害が発生すると推定された.変性側弯では,このような病態を念頭において障害神経根の機械的圧迫を評価する必要がある.

神経根圧迫が脊髄および後根神経節に及ぼす影響

著者: 小林茂 ,   吉沢英造 ,   中井定明 ,   志津直行 ,   山田秀一 ,   永津郁子 ,   酒井正雄

ページ範囲:P.447 - P.462

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などでみられる神経根圧迫が脊髄前角部や後角部,そして後根神経節にどのような影響を及ぼすかは不明な点が多く,圧迫性神経根障害の病態生理を理解するうえでも脊髄や後根神経節内の変化を解明することが重要である.今回作成した神経根圧迫モデルでは,圧迫1週間後より前根や後根内にワーラー変性が認められ,前角細胞や後根神経節細胞には軸索反射により中心性色素融解(chromatolysis)が生じていた.また,後角部のシナプスはワーラー変性により崩壊しており,免疫組織化学的検索でも後角部の神経終末や後根神経節細胞(小型細胞)内の神経伝達物質(SP・CGRP・SOM)は減少していた.この結果より圧迫性神経根障害において障害される領域は,神経根だけでなく脊髄や後根神経節など広い領域にわたって生じていることが証明された.

交感神経交通枝を経由して腰椎に分布する知覚神経線維の存在

著者: 須関馨 ,   高橋弦 ,   高橋和久 ,   千葉胤道 ,   森永達夫 ,   中村伸一郎 ,   山縣正庸 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.463 - P.471

 抄録:腰椎椎間板・椎間関節の知覚への傍脊椎交感神経幹の関与を明らかにするため,椎間板に分布する洞脊椎神経,椎間関節に分布する脊髄神経背側枝と,傍脊椎交感神経幹に連なる交感神経交通枝の相互関係を検討した.新生ラットの腰椎部の矢状断連続切片に,知覚神経のマーカーとしてcalcitonin gene-related peptide(CGRP),交感神経節後線維のマーカーとしてdopamine β-hydroxylase(DBH)およびvasoactive intestinal polypeptide(VIP)に対する免疫染色を施行した,その結果,洞脊椎神経と交感神経交通枝,脊髄神経背側枝と交感神経交通枝を連絡するCGRP,DBH,VIP各陽性神経線維がそれぞれ確認された.本研究により,腰椎椎間板・椎間関節を支配する知覚神経線維が交感神経交通枝,傍脊椎交感神経幹を経由していると考えられた.

椎間板の栄養路について―軟骨管とvascular budsの微細構造

著者: 森田千里 ,   吉沢英造 ,   小林茂

ページ範囲:P.473 - P.481

 抄録:成人の椎間板は,栄養血管を有さず人体の中で最大の無血管組織であり,その栄養路は椎体終板および線維輪を介する拡散によるとされている.なかでも椎体終板を介する経路の障害が椎間板変性の原因として重要視される.この経路において椎間板の栄養に関与すると考えられる構造として,軟骨管(cartilage canal)とvascular budsが存在する.本研究では,椎間板栄養経路のメカニズムを知ることを目的として,幼若期の軟骨性椎体部分にみられる軟骨管と,その後椎体終板付近に出現するvascular budsの微細構造を生後2日齢と生後6カ月齢の家兎の椎体をそれぞれ組織学的に観察した.今回は,microangiogram・光顕・走査型電子顕微鏡・透過型電子顕微鏡下に観察し比較・検討した,その結果,軟骨管とvascular budsの形態は類似していることが証明され,両者は椎間板の栄養路として重要な位置にあることが示唆された.また両者の血管は有窓型を呈し血管透過性が高く,活発な代謝が行われているという形態学的な根拠が得られた.そして軟骨管では軟骨膜から軟骨細胞が形成され,骨性終板内vascular buds基部では間葉系細胞から骨芽細胞様の細胞が形成され,線維輪側のvascular budsでは線維芽細胞様の細胞から膠原線維が産生されると考えられる新しい知見が得られた.

頚椎後縦靱帯骨化症患者の遺伝的要因と力学的負荷の関係

著者: 松永俊二 ,   酒匂崇 ,   武富栄二 ,   溝口成朋 ,   林協司

ページ範囲:P.483 - P.488

 抄録:頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)の成因はいまだ不明である.本研究では,OPLLの成因として遺伝的要因と頚椎部の力学的負荷がどのように関係しているかを知る目的でOPLL患者家系のHLAハプロタイプ解析と日常生活における頚椎への力学的負荷の状態を調査した.OPLL患者105名における頚椎への力学的負荷の状態に関する調査ではOPLL患者は頚椎前屈位保持時間が頚椎性脊髄症患者に比べ有意に長かった.OPLL手術例24名とその兄弟61名によるHLAハプロタイプ解析では,HLAハプロタイプの共有度が高いほどOPLLの頻度が高く,遺伝的因子の関与が示唆された.また,HLAハプロタイプの共有度が高いにもかかわらずOPLLの認められない兄弟は,OPLLの認められる兄弟より頚椎前屈位保持時間が有意に長かった.OPLLは遺伝的因子が基礎にあると考えるが,頚椎部の機械的負荷も本症の発生に二次的要因として重要である.

MRIによる変性腰部脊柱管狭窄の自然経過

著者: 吉田宗人 ,   玉置哲也 ,   林信宏 ,   山田宏 ,   中塚映政 ,   南出晃人 ,   岩崎博 ,   角谷昭一 ,   角谷英樹

ページ範囲:P.489 - P.497

 抄録:腰部脊柱管狭窄を認めた長期保存的治療例についてMRIを用いて脊柱管形態の変化を観察し,神経症状と比較した.最終MRI撮像時が60歳以上の症例をA群それ以下をB群とするとA群は28例で初回撮像時平均年齢64.3歳,平均追跡期間4.2年であった.B群は12例で,初回撮像時平均年齢46.7歳,平均追跡期間4.9年であった.A群28例の臨床症状は,悪化が11例40%であったのに対して,B群の12例では悪化は2例17%であった.硬膜管狭窄はA群の11例57%に狭窄進行が認められ,硬膜管面積の減少した50%に臨床症状の悪化を認めた.B群では4例33%に進行がみられたが,臨床症状の悪化は1例のみであった,変性脊柱管狭窄症の病態は多因的ではあるが,前方の狭窄因子である椎間板因子,特に椎体終板障害が重要であり,腰部脊柱管狭窄症の治療にはそれらの経時的変化を十分に考慮して治療を撰択する必要があると考えられた.

仙骨摘出術に対する新しい試み―T-sawを応用して

著者: 畑雅彦 ,   川原範夫 ,   水野勝則 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.499 - P.505

 抄録:仙骨には脊索腫をはじめとした局所再発性の強い腫瘍が好発するが,解剖学的特殊性から仙骨摘出術は極めて困難である.このため姑息的手術がなされることが少なくなかったが,その成績は不良であり,われわれは仙骨腫瘍に対してもより腫瘍学的な根治的手術を追求してきた.
 画像診断の進歩により,根治的切除縁を正確に計画できるようになったため,その局在部位と術式の観点から仙骨腫瘍を4つのタイプに分類した.さらに,T-sawを利用することによって仙骨の骨切りが手際よく行えるようになったので,その術式についての概略を紹介する.また,これまでの手術症例において,切除標本から切除縁を評価した.その結果,全例においてmarginalあるいはwideの切除縁が得られており,根治的な切除縁を正確に得るためにもT-sawは有用と考えた.

腰部外側神経根障害に対する外側開窓術の中期成績―術後5年以上経過例についての検討

著者: 森山明夫 ,   田島宝 ,   杉山晴敏 ,   石川知志 ,   加藤哲弘 ,   高木英希 ,   川上寛 ,   川崎雅史 ,   伊藤みりえ

ページ範囲:P.507 - P.514

 抄録:椎間孔内・外に圧迫因子を有する腰部外側神経根障害に対する外側開窓術の術後5年以上平均7年経過した21例中死亡例2例を除いた19例の追跡調査結果につき報告する.5例に再手術がなされていたが,再手術後の成績を含めた全体での調査時成績(JOA score 15点満点,平林式改善率)は平均85.9%と良好であった.しかし,初回手術で固定術を併用した2例を除く17例をヘルニア群例と神経根絞扼群例に分け,再手術成績を含めない初回手術成績として検討すると,前者は平均80.9%と良好であったが,後者は平均60.9%と問題例もあり明らかに劣っていた.後者における問題例には除圧不足が原因であった症例と術後不安定性が原因と思われた症例があった.術後不安定性は十分な神経根除圧を得るための下位椎上関節突起広範囲切除によるものと思われるが,開窓範囲が大きくなり不安定性が懸念される場合は固定術併用を考慮した方が成績安定化につながるものと思われた.

転移性脊椎腫瘍に対する術前予後判定点数

著者: 徳橋泰明 ,   松崎浩巳 ,   佐々木睦朗 ,   桑原正彦 ,   植松義直

ページ範囲:P.515 - P.522

 抄録:予後により獲得QOLが異なる転移性脊椎腫瘍では術式選択上,術前の予後予測が重要である.1987年全身状態,脊椎以外の骨転移数,脊椎転移数,原発巣の種類,主要臓器転移の有無,麻痺の状態の6項目からなる術前予後判定点数(12点満点)を作成した.総計点数5点以下(予想予後6カ月未満)で後方主体の姑息的手術,9点以上(予想予後1年以上)で前方,前後合併による転移巣切除・掻爬の術式,6~8点(予想予後6~12カ月)では病巣の局在型などによりいずれかを選択してきた.術後死亡128例について本判定点数の予後予測の精度ならびに術式選択について検討した.その結果,判定点数の総計点数と実際の予後の間には統計学的に0.0l%の危険率で相関関係が得られた.予想予後の一致率は全体で63.3%であったが,術式選択上,特に問題となる5点以下群の一致率は92.7%,9点以上群では84%と高率で有効であった.疾患特異性を考慮すると本判定点数は単純かつ簡便で有用性は高いと考えられた.

胸椎高度後弯による胸髄症に対する後側方進入前方除圧術とその成績

著者: 斉藤正史 ,   稲見州治 ,   山下裕 ,   今泉佳宣 ,   服部和幸 ,   柴崎啓一 ,   大谷清

ページ範囲:P.523 - P.530

 抄録:胸椎高度後弯による胸髄症の7例にたいして肋骨横突起切除による後側方進入前方除圧術を行ったので報告する.症例は男2例,女5例,手術時年齢は,平均43(15~50)歳であった.後弯の原因疾患は,若年期に罹患した脊椎カリエス後の後弯6例と先天性後側弯症1例であり,後弯角は,脊椎カリエス後の後弯が平均105°(70~125),先天性後側弯症180°と高度の後弯を認めた.手術成績は,JOA scoreで術前平均4.6(1~6)点が術後平均7.0(1~10)点に改善し,改善率は,平均43(0~80)%と良好な成績が得られ,術後合併症もなかった.
 胸椎後弯による胸髄症では,通常の前側方進入による前方除圧術は,除圧が困難で脊髄損傷の危険性があり適応が限られる.本術式は,手技的に難易度が高いが,高度後弯例では唯一といえる術式であり,有用と考えられる.

棘突起縦割法椎弓形成術後の長期経過

著者: 税田和夫 ,   黒川高秀 ,   中村耕三 ,   星野雄一 ,   竹下克志

ページ範囲:P.531 - P.536

 抄録:頚椎の生体力学的機能の温存により,頚髄麻痺の再発を来さないという棘突起縦割法椎弓形成術のねらいが十分に達成されたかを検証するために,術後10年以上経過した61例のうち35例を検討した.術後の成績は,合併脊椎疾患の影響を含めた実際の上下肢機能をJOAスコアを用いて判定した.
 短期成績では32例で麻痺の改善があった.その後に悪化した症例は9例で,その原因は腰部脊柱管狭窄症が多く,その他に胸椎黄色靱帯骨化症,上位頚椎腫瘤,頚椎捻挫などがあった.OPLLの骨化進展は9例中4例であったが,それによる麻痺の増悪はなかった.本法は,頚椎が原因の悪化は少なく,長期に安定した成績であった.

神経性間欠破行の病態解析―狭窄部硬膜外圧測定による圧迫動態の変化

著者: 高橋啓介 ,   島巌 ,   川北哲 ,   柳瀬茂樹 ,   村上英樹 ,   中田理也

ページ範囲:P.537 - P.542

 抄録:間欠性跛行の病態解析を目的として,種々の条件下で歩行中あるいは自転車駆動中の狭窄部位の硬膜外圧の変化を測定した.30名の神経性間欠肢行を有する腰部脊柱管狭窄症および7名の正常例を対象とした.L4/5高位の硬膜外腔に圧トランスデューサーを挿入した状態で,圧を連続的に測定した.歩行中は硬膜外圧の間質的上昇が認められた.狭窄症例では圧の上昇は通常歩行で高く,前屈歩行では低かった.自転車エルゴメーター駆動では圧の上昇はほとんど認められなかった.歩行速度により間欠的圧上昇の頻度は変化し,歩幅により圧上昇の程度が変化した.正常例では圧の上昇は低く,通常歩行や前屈歩行でも差が認められなかった,硬膜外圧の上昇は臨床症状出現に関連していた.神経性間欠破行の発現に歩行中の馬尾,神経根の間欠的圧迫が重要な役割を有していると考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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