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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科32巻5号

1997年05月発行

雑誌目次

視座

最近の学会,研究会で感じること

著者: 冨士川恭輔

ページ範囲:P.547 - P.547

 日本の整形外科学は,近年著しい進歩と発展を遂げ,整形外科学会の会員数からいえば,世界でもトップクラスと思われます.日本整形外科学会の各学術集会には毎年数多くの演題が応募され,会長及びプログラム委員はその採否に頭を悩ませることも少なくありません.また学術集会では,外国から著名な研究者を招待し,講演して頂くのが恒例となっていますが,その選択には十分吟味する必要があり,単に著名というだけでは,講演の内容に新鮮味がなく,参加者の満足を得るのが容易ではないことも最近は少なくありません.
 一方,色々な学会や研究会が目まぐるしく増設され,研究発表の数も鰻上りの感があります.発表の機会が増えると,優れた発表がある反面,中には推敲が足りないもの,十分な追跡期間がないにも拘らず術後成績を云々するもの,新知見が全く見られず古くから教科書に記載されている事実が結論になっているものなども増加しています.同じ内容の発表が場所を変えて,まるでジャケットを着変えるように繰り返し行われることもあります.

論述

後𦙾骨筋腱機能不全の臨床およびMRI所見

著者: 高宮尚武 ,   野口昌彦 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.549 - P.555

 抄録:臨床的に後𦙾骨筋腱機能不全を呈するものに対してMRIを施行し,その所見を中心に検討した.対象は慢性関節リウマチ,外傷を除く15例(男性2例,女性13例),17足で,平均年齢は52歳であった.後𦙾骨筋腱機能不全の臨床評価はJohnsonらの分類を用いた.全例にMRIを施行しT2冠状断像を中心に検討し,腱断裂にはContiらのMRI分類を適用した.Johnsonらの分類に準じるとstage1が2足,stage2が7足,stage3が1足で明確に分類できないものが17足中7足あり,後𦙾骨筋腱機能不全の臨床的stage分類には検討の余地があると考えた.MRI所見は,腱周囲の水腫16足,肥大12足,変性1足,完全断裂1足(Contiらの分類ではtype III B)であった.臨床的には後脛𦙾筋腱機能不全を呈するが断裂を認めない症例が大部分を占め,そのMRI所見は腱周囲の水腫,腱の肥大など腱鞘滑膜炎や腱炎による所見を反映するものであった.

長軸力優位型前腕bipolar injuryの検討

著者: 中村俊康 ,   矢部裕 ,   堀内行雄 ,   高山真一郎 ,   関敦仁

ページ範囲:P.557 - P.563

 抄録:われわれはEssex-Lopresti骨折やbipolar dislocationなどの手関節と肘関節内に同時に脱臼や骨折が生じる損傷を前腕bipolar injury(双極損傷)としてまとめ,損傷機序から長軸力優位型と回旋力優位型に分類,回旋力優位型例3例を報告した.この長軸力優位型と回旋力優位型の違いは橈骨が尺骨に対して長軸方向に解離するlongitudinal radio-ulnar dissociation(以下LRUD)の有無にあり,その主原因は前腕骨の骨性支持の喪失と広範な骨間膜損傷にあると考えられる.今回,著明なLRUDを生じた長軸力優位型bipolar injuryの陳旧例(Essex-Lopresti骨折2例,Essex-Lopresti lesion 1例)を経験した.その内2例はLRUDの進行を防止することに主眼をおいて治療し,良好な結果を得ることができたが,残りの1例は手関節痛にのみ対処した治療が他医で行われ,LRUDの進行が危惧された.LRUDを生じるbipolar injuryでは慎重な術前の治療planningが必要である.

誌上ワーク・ショップ セメント手技の実際

緒言/セメント使用人工股関節を選択する私の理由などを含めて フリーアクセス

著者: 寺山和雄

ページ範囲:P.565 - P.568

●誌上ワークショップ「セメント手技の実際」の要点
 ここに掲載された5論文の要点をそれぞれ3つだけにしぼって,筆者なりにまとめると次の通りである.
 1.澤井一彦先生:①セメントの臨床応用に関する歴史的ならびに理論的背景,②モデル実験に基づく,股臼側の2段階セメント法,③大腿骨側の頚部内側ダムの開発.

Charnley型人工股関節置換術における術前計画とセメンティング手技の実際―われわれの考え方

著者: 澤井一彦

ページ範囲:P.569 - P.581

 抄録:1.Charnley型人工股関節置換術を中心に,骨セメントに要求される機能,すなわち,骨の細隙に充填されてコンポーネントを錨着する機能および骨とコンポーネントの間に充塡されて,これを支持する機能などに沿って,人工股関節置換術におけるセメンティング手技についてのわれわれの基本方針を明らかにした.
 2.この基本方針を明確に意識化し,具体化するとともに,術後における厳密なX線評価を行うためのX線設計図の作成とその指針について述べた.
 3.このX線設計図を現実化するための術前プランニングと術中セメンティング手技の実際と留意点について解説した.

セメント固定THAにおける術前計画と手術手技

著者: 奥村秀雄

ページ範囲:P.583 - P.590

 抄録:セメント固定人工股関節置換術の長期の耐久性を得るためには,綿密な術前計画と正確な手術手技が必須で,特にセメントと骨組織をinterdigitationさせるセメント手技を習熟することは非常に大切である.手術前に設計図を描いて,手術のシミュレーションをすることが,良い手術をするために必要である.骨頭中心の高さは20~25mmにして,ソケットの傾斜角は,40°外開き,10~15°前開きを基本とする.ソケットの外側縁と臼蓋縁との問に10mm以上の間隙が生じる症例では骨移植を併用する.臼蓋の骨移植はソケットの頂点を越えない範囲になるように骨頭中心の位置を調節する.骨盤の位置や手術中の脚長の確認のためのK鋼線の利用とstovepipeやchampagne-fluteの髄腔の症例におけるK鋼線の仮刺入の工夫について述べた.

人工股関節全置換術におけるセメント手技の実際

著者: 飯田寛和

ページ範囲:P.591 - P.596

 抄録:セメント手技はセメント使用人工股関節の長期成績を左右する重要な技術である.セメント手技が拙劣では術後数年で緩みに至る可能性があり,機種の選択や他の手術手技よりも遥かに重要である.要点はセメント硬化特性の把握と挿入のタイミング,寛骨臼および髄腔の止血,セメントのpressurizationの3点に尽きるが,これを確実に行うための工夫について,特に筆者が行っているフランジソケットおよびホルダーの改良,髄腔骨栓のテクニックを中心にセメント手技の詳細について解説した.

人工股関節置換術における大腿骨コンポーネントのセメント固定法と成績

著者: 木下勇 ,   西岡孝

ページ範囲:P.597 - P.604

 抄録:人工股関節手術時の大腿骨コンポーネントのpolymethylmetacrylate bone-cementによる固定法の実際について述べた.その最も重要なポイントは,髄腔内へのセメントの充填度にもまして,固定時のセメントへの加圧(cement pressurization)にあり,これによって骨母床へのセメントの侵入によるmicro-interlockingが効果的となる.それには①髄内プラグとセメントインジェクターの使用,②髄腔占拠率の高いコンポーネントの使用,③固定のタイミング,の3点が挙げられる.なかでも固定のタイミングは,セメントのdoughy stage(餅状期)に髄腔へ注入しセメントが可塑性を有する時期の後半に最終の打ち込みを施行する.最も好ましくないのは髄腔占拠率の低いコンポーネントの使用下にセメントの低粘性期に挿入を完了することである.
 適切なタイミングで固定するには,絶えずセメントの重合状態を観察し,重合速度に最も大きい影響を与える室温(環境温度)にも注意を払うべきである.

セメント手技の実際

著者: 原田義忠 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.605 - P.611

 抄録:1980年代中頃より,従来のセメントステムにおける成績不良例の検討から,新しいセメント手技が考案され,広く受け入れられるようになってきた.近年ではさらに改良が加えられ,いわゆる“modern cement technique”としてほぼ確立されつつある.しかしながら,実際の臨床の場面では新しいセメント手技に対する十分な理解がなされないままに行われたり,誤った理解の下に行われて術後早期のルーズニングに至る症例を見受けることがある.そこでわれわれは関連病院を含めてセメント手技に関する検討会を行い,“modern cement technique”の習得に力を注いできた.今回その検討会で問題となった点,注意点,疑問点などを含めて,セメントステムを用いる場合のテンプレーティングから実際のセメント手技,さらには術後のX線学的評価方法について述べた.

連載 整形外科philosophy・2

医育の障壁―大学に問われているもの

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.613 - P.615

●大学と医師育成の隘路
 ここ十年来,文部省は大学改革の必要性を強調している.その外枠が大学大綱化と言われるものである.大綱化とは,大学が本来持っている自律と自立の精神に則って,国際化時代の要請にも応えることのできるよう,より良い高等教育の実現による人材育成の強化と,より高度な学問研究を推進することによって国際貢献ができるよう,自由にシステムを改造してよいという意味である.大学のこの自由化は,もとより大学の本来持っていなければならない自浄性に依存することはいうまでもない.残念なことに日本的心情として,古来の大学の管理者も「事なかれ主義」の域を脱していないようにも思えるし,少なくとも国立大学では,リーダーとしての見識とその論理を呈示し,それを具体化することを控えめにせざるを得ない事務官僚を含めての保身の術によって,「大過なきこと」を美徳と心得ていたきらいは無しとはしないように思われる.
 一方,日本の大学の大多数が縦割り構造としての講座制をとっていて,横の繋がりに乏しいことも周知の事実である.そのような弊害を少しでも少なくする意味で大講座制がとられているが,実を伴うとは言いがたい.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・10

著者: 鳥畠康充 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.617 - P.619

症例 55歳,女性(図1)
 4カ月前から背部痛を感じるようになり,痛みが増悪してきたため来院した.この疼痛は,投薬や注射ではコントロールできないものであった.
 現症:激しい背部痛を認めるも,下肢神経症状はなかった.

基礎知識/知ってるつもり

osteolysis

著者: 松野丈夫

ページ範囲:P.620 - P.623

 【定義・歴史】
 osteolysis(以下OLと略す)とは,人工関節置換術(特に人工股関節置換術,以下THAと略す)後にインプラント(あるいは骨セメント)と骨の間に出現する限局性で通常は周囲と境界の明らかな骨透亮像を称するが,時にOLは骨皮質の菲薄化を伴った広範な骨融解像を示すこともある.
 従来THA後に生じるOLの原因はセメント粉によると考えられていたことから,これらの病変を“cement disease”と称しセメントが悪者にされていたが,その後セメント非使用のTHAにおいても同様のOLが出現することが判明し,その主たる原因がセメント粉よりもポリエチレン磨耗粉によることが判明してきたため,これらのOLは現在では“polyethylenedisease”と称されている.

整形外科英語ア・ラ・カルト・54

整形外科分野で使われる用語・その21

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.624 - P.625

●good Samaritan statutes(グッド・サマリタン・スタチュウズ)
 “good Samaritan”とは,聖書のルカ伝に出てくるサマリア人のことである.これはサマリア人が盗賊に持物を奪われた人を救ったため,この人を“good Samaritan”という.サマリアは古代パレスチナにあった王国である,後世では,“good Samaritan”といえば,「困っている人を助ける良き友」を意味する.そのため「救急」のときに善意で施した医療者が訴えられた場合でも,その罪状を情状酌量をする法律を“good Samaritan statutes”という.しかし“statute”の代わりに“law”を使うこともある.

ついである記・12

Bombay

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.626 - P.627

 インドという国はいろいろな意味で底知れない魅力を秘めた国である.体力と時間が許せば,ゆっくりとインドの各地を旅してみたいものだとよく思う.そうすれば,われわれが既に忘れてしまっている神や自然に対する恐れをもう一度想い出させてくれるかも知れないという気がする.そして更に,あの貧困の中で生きている人々と接することによって,人間の持っている根源的な生への執着とは何なのかという問いに対しても何らかの答えが得られるかも知れないという気がする.しかし,実際にインドへ行ってみると,自分がいかに物質文明の恩恵を受けて安易に生き,それに慣らされてしまっているかという事を思い知らされるばかりで,インド人の心や生き方の本質に触れることはなかなか難かしい.

座談会

『日本の整形外科医のこれからを考える』

著者: 山室隆夫 ,   竹光義治 ,   矢部裕 ,   守屋秀繁 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.629 - P.643

I.医学部・医科大学の整形外科の果たすべき役割
 山室(司会) 今日は「日本の整形外科医のこれから」という漠然としたタイトルでお話をしていただくのですが,お集まりの先生方は,年齢的に2っに大別できると思います.私も含めて60歳以上のリタイヤ前後のグループと50歳代前半の中堅教授のグループです.
 矢部先生は去年,日整会会長をおやりになり,大学の付属病院長も経験されております.竹光先生は,現在西太平洋整形外科学会(WPOA)の会長であられますし,私自身は去年,国際整形災害外科学会(SICOT)の会長を辞めたのですが,大学の付属病院長の経験もあります.

臨床経験

第2中手骨基部裂離骨折3例の治療経験

著者: 吉川泰弘 ,   松林経世 ,   塩田匡宣 ,   石橋昌則 ,   大熊一成 ,   安藤祐之 ,   有野浩司 ,   関美世香

ページ範囲:P.645 - P.648

 抄録:長橈側手根伸筋(以下ECRL)の停止部である第2中手骨基部橈側茎状突起の裂離骨折を3例経験したので報告する.症例は17歳の女性,21歳と16歳の男性であり,受傷原因は2例が殴打,1例が交通外傷であった.いずれも単純X線像で第2中手骨基部橈側に骨欠損像と背側中枢に転位した裂離骨片を認めたので,観血的に整復後Kirschner鋼線またはHerbert Mini Bone Screwによる内固定術を行い,良好な結果を得た.本骨折の報告は渉猟し得た限り本邦にはなく,海外に11例あるのみであった.本骨折の受傷機転は,ECRLが強く緊張した状態で手関節が屈曲強制されて生じる牽引力,および第2中手骨に軸圧が加わって生じる剪断力が作用することによると推察した.治療法は報告例の検討と自験例の結果から,手関節の伸展力の回復や整容的問題などのため,手術療法を選択するのがよいと考えられた.

上腕二頭筋腱遠位部皮下断裂の一例

著者: 永井達司 ,   岡義範 ,   太田和年 ,   斉藤育雄

ページ範囲:P.649 - P.651

 抄録:非常に稀な上腕二頭筋腱遠位部の皮下断裂を経験し手術療法にて良好な結果を得たので報告する.症例は47歳,白人男性.トラックに約10kgの荷物を載せようとした時,左上腕部にバシッという音と共に痛みが出現した.初診時左上腕二頭筋筋腹の異常隆起とその末梢部での陥凹を認め,超音波検査にて腱の断裂を疑わせる所見を得た.
 以上より上腕二頭筋腱遠位部皮下断裂と診断し手術を施行した.肘前方より進入し上腕二頭筋腱の遠位部切断端を確認した.次いで外側縦切開を加え橈骨粗面を露出し骨孔を開け,腱断端を橈骨粗面に縫合固定した.術後6週より理学療法を開始し,術後7カ月の現在,肘関節,前腕の機能はほぼ正常で経過良好である.上腕二頭筋腱遠位部皮下断裂は非常に稀であり本邦での報告は過去25例に過ぎない.治療法としては,一般的には筋力の回復の良さから手術療法が選択され,本症例においても良好な成績を得た.

母趾MTP関節に発生した色素性絨毛結節性滑膜炎

著者: 津山研一郎 ,   山口勝之 ,   小西長生 ,   蔡栄浩 ,   松河光弘

ページ範囲:P.653 - P.655

 抄録:発生部位としては稀な,母趾MTP関節に生じた色素性絨毛結節性滑膜炎の1例を報告した.症例は,41歳の男性で,約10年前から左母趾MTP関節の腫脹をきたし,徐々に増大した.単純レントゲン像で多包性の嚢腫状骨透亮像を,MRIでT1,T2強調像ともに低信号を示していた.病的滑膜の切除と,骨欠損部にハイドロキシアパタイト顆粒の充填を行った.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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