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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科32巻6号

1997年06月発行

雑誌目次

視座

夢のような話

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.659 - P.659

 北海道のスポーツ医・科学研究会の先生方が編集した本のなかに現代人の1日という題で,車で出勤して机の前で座って仕事をして,帰ってリモートコントロールを使ってテレビのチャンネルを変える絵がでていた.文明の進歩は人々から運動の機会を奪っており,健康的な生活を送るためには積極的に運動をする必要があることが書かれていた.テレビと言えば私が子供の頃に母が“自分の家に居て映画を観ることができるといいね”と言っていた.その時は夢のような話だと思ったが,まもなくテレビが出現して夢は実現した.離れたところからチャンネルを変えられないかと思った夢も実現した.今になってみれば,私が夢のような話だと思った時には,夢を実現するべく多くの人が開発に携わっていたに違いない.
 ひるがえって,私が整形外科を勉強し始めた頃,腕神経叢麻痺の治療は,全根引き抜き損傷であれば肋間神経あるいは副神経の筋皮神経への交差縫合術を行い,その他の場合は麻痺の回復を待って腱移行や関節固定で機能再建を行うのが一般的であった.その後,腕神経叢を展開し,電気生理学的診断法により損傷の程度を明らかにして,神経移植と神経交差縫合を組み合わせた神経機能再建術が広く行われるようになった,陳旧例に対する遊離筋移植と神経交差縫合を組み合わせた方法,手指の運動機能を再建する為の肋間神経の正中神経への交差縫合術や,複数の遊離筋移植と神経交差縫合を組み合わせた方法等が行われている.

論述

全肩甲骨切除術を施行した悪性骨・軟部腫瘍9例の治療成績

著者: 中村紳一郎 ,   楠崎克之 ,   平田正純 ,   橋口津 ,   福録潤 ,   村田博昭 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.661 - P.665

 抄録:全肩甲骨切除術を9症例に施行した.9症例の内訳は悪性骨腫瘍が4例(軟骨肉腫3例,悪性リンパ腫1例),悪性軟部腫瘍が5例(平滑筋肉腫3例,MFH 2例)である.男性4例,女性5例,年齢は12~82歳,平均56歳であった.本術式の適応としては肩甲骨ないしは周辺の筋肉に発生した悪性骨・軟部腫瘍で肩甲骨関節窩の部分が切除範囲に含まれ,上肢への主要神経血管束や胸壁への浸潤がない症例である.本術式においては肩関節の著明な機能障害および美容上の問題点が考えられる.しかし,比較的手技も簡単で合併症も少なく,肘,手の機能は温存されており,少なくとも肩甲帯離断術に比してはるかに良好な患肢機能が得られると考えた.

転移性骨腫瘍症例に対する多変量解析を用いた予後因子の検討

著者: 片桐浩久 ,   佐藤啓二 ,   高橋満 ,   杉浦英志 ,   稲垣治郎 ,   若井健志 ,   中西啓介 ,   山村茂紀 ,   岩田久

ページ範囲:P.667 - P.672

 抄録:転移性骨腫瘍209例について多変量解析を用いた予後因子の検討を行った.年齢,性別,performance status,神経症状,過去の化学療法の有無,悪性腫瘍の既往の有無,原発巣の種類および原発巣の状態,内臓転移の有無,骨転移部位および数,病的骨折の有無,以上の12項目が予後因子となりうるかをCox proportional hazards modelを用い検討した.過去の報告と異なり原発巣の種類原発病巣の状態,過去の化学療法の有無,内臓転移,病的骨折,の5項目のみが有意な予後悪化因子(risk factor)であった.Risk factor数が4個以上の場合半数は3カ月以内に死亡した.一方,risk factor数が2個以下の場合は長期生存が見込まれるため,症例によっては手術の良い適応である.

Omnifit型人工膝関節置換術の中期(術後5~7年)治療成績―セメントレス固定の症例を中心として

著者: 秋月章 ,   安川幸廣 ,   瀧澤勉 ,   堀内博志 ,   伊藤一人 ,   山崎郁哉

ページ範囲:P.673 - P.679

 抄録:1990(平成2)年5月から1991(平成3)年9月までに施行したOmnifit型TKAは,OA:26例33関節,RA:11例17関節であり,OA:23例29関節,RA:10例15関節はセメントレスで固定した.術後5年以上の経過を追跡し,機能評価不能となった3例5関節を除外した34例45関節で,臨床成績(JOA score)とX線所見からのセメントレス固定部品の透亮像と脱落ビーズ数の検討を行った.臨床成績は,OAセメントレスで術後平均87.2点,RAセメントレスで術後平均=85.8点と良好に機能していた.OAで72%,RAで92%の症例が110°以上の屈曲が可能であった.透亮像はOA症例に多く出現し,脛骨部品前方(全関節の72%),内側(同52%),外側(同59%)にみられたが幅2mm以内であり,脱落ビーズは大腿骨側前方にみられることが多かったが,臨床上の影響はみられなかった.初期50関節の中期成績からは,本機種の継続使用を妨げる重大な問題はみられなかったが,今後とも注意深い観察の継続が必要であろう.

手術手技 私のくふう

胸髄損傷後の𫞬性麻痺患者に生じた腰椎側弯変形の1治験例―くも膜下フェノール・ブロックの応用

著者: 尾鷲和也 ,   林雅弘 ,   伊藤友一 ,   大島義彦

ページ範囲:P.681 - P.684

 抄録:症例は36歳男性.25歳時に第9胸椎脱臼骨折で,T10以下の完全麻痺となった.10年後,腰椎側弯変形と左坐骨部褥瘡を訴えて当科を受診した.左凸L2-5,32°の側弯がみられ,L4-5の変性が著しく,臨床および筋電図学的に右体幹・下肢の𫞬性が優位であった.腰椎可動性をできるだけ残し側弯を矯正する方法を模索し,透視下にイソビストと10%フェノール・グリセリン混和液によるくも膜下ブロックを行い,損傷レベル以下の右側の神経根を遮断して𫞬性を除去し,構築的側弯を呈しているL4-5間のみをSteffee法で矯正固定した.1年半で𫞬性の再発を認めたが,5年たった現在もその程度は比較的軽く,腰椎に側弯を認めず,褥瘡もなく経過良好である.本ブロックの歴史は欧米では古いが,本邦での𫞬性麻痺に対する報告はなく普及度は不明である,簡便,非侵襲的であり,𫞬性が障害になっている完全麻痺例一般にも広く試みられてよいと考える.

手関節関節包背側Z切開術による手術経験

著者: 西川真史 ,   相沢治孝 ,   新井弘一 ,   佐々木和広 ,   三浦一志

ページ範囲:P.687 - P.690

 抄録:フランスのリヨン大学Prof.Herzbergによって考案された手関節包背側Z切開法をRA3例6関節の滑膜切除と,橈骨遠位端関節内粉砕骨折1例の整復に応用し,有用性を確認した.
 手関節背側皮膚を縦切開し,伸筋支帯をⅢ・Ⅳ伸筋支帯の位置で縦切開し扉状に翻転,Lister結節付着部も結節部に一部軟部組織を残して剥離翻転する.伸筋腱を両側に引き関節包を露出し,背側骨間神経を同定し切離する.Lister結節先端の手関節裂隙部(A)から有頭骨頭尺側(B)に向かう斜切開(A-B)を加え,(A)から手関節裂隙に沿って尺側に横切開(A-D),(B)から横切開(B-C)を加え関節包をZ状に切開し,2頂点から橈尺方向に翻転し,関節を露出させる.術後は翻転した関節包を元に戻し関節包を縫合,伸筋腱を戻し伸筋支帯をLister結節に縫着し切開部で縫合する.この方法は手関節背側の靱帯走行に沿った切開法で靱帯構造をできるだけ温存することとなり,閉鎖後も同様な関節支持作用が期待できる.

連載 整形外科philosophy・3

伝統医学と西洋医学―現代医学・医療の反省に寄せて

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.693 - P.695

●漢方医学と西洋医学の理念の違いと現代医療への警鐘
 国立大学で唯一の和漢薬研究所とこれまた一つしかない和漢診療学講座をもっている富山医科薬科大学に私は居る.和漢医学は中国伝統医学の流れをくむもので,5世紀ごろから19世紀当初頃までの長い間,わが国の医療の主流をなしていたものである.
 明治時代には,政府はドイツ医学を積極的に採用する施策を採ったことにより,漢方医制度は崩壊してゆくが,この種の医療は主に民間医師によって行われていたのである.しかし,ここ四半世紀は東洋医学,特に中国系東洋医学としての漢方医学を再評価する気運が急速に高まったのである.いま近代西洋医学がめざましい進歩を示し,予防医学を含めた医療の質と量が急テンポで向上しているのに,何故いまさら伝統医学,とくに漢方医学が見直されなければならないのだろうか.その契機となった一つには,鍼麻酔というものが国際的関心を呼んだことにもよるが,最大の理由は,漢方治療が科学性において未熟で未解明の点が多々あることのほか,漢方医学と西洋医学の基本理念が大きく異なることに基づいて提起される,真の医療の在り方への反省であると私は考えている.

整形外科英語ア・ラ・カルト・55

整形外科分野で使われる用語・その22

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.696 - P.697

●shangnail(ハング・ネイル)
 指の爪の端から小さい爪が生えるが,これを“hangnail”という.日本語には適当な言葉がない.英和辞書には“ささくれ”と書かれているが違う.この小さな爪は些細なことであるが,一生付きまとうので非常に厄介な問題である.私には2カ所“hangnail”が生えるが,長くなって突然気付き,切るまで気がかりである,爪切りで切るのが最良の方法であり,切れば約2週間くらいはよい.しかし爪切りがないとき,気になるので,消毒もせずにむしり取ったりすると化膿し,ひょう疽になることがある,指先が痛くなり,初期の化膿であれば,その指をコップにお湯を入れて暖めると感染は散ることが多い.お湯の温度は,熱いときのお風呂の温度,すなわち42℃くらいがよい.治るまで1日数度温浴すると通常感染は消退する.しかしそれだけでは軽快しない場合には,抗生物質を服用する.私自身に2度ほど切開排膿したことがある.しかし現在では以上の温浴と抗生物質の早期服用で,この数年間は切開していない.また最近は小型のスイス・アーミイ・ナイフを所持し,鋏で“hangnail”を切り,対処している.

ついである記・13

日没する国Morocco

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.698 - P.699

●サハラ砂漠北限の町へ
 アフリカ大陸の北西に位置する国モロッコのマラケシュ(Marrakesh)へ行くために私と家内とが乗り込んだパリ発の飛行機はピレネー山脈を越えてスペインの上空を飛び,やがてジブラルタル海峡にさしかかった.この海峡を越えるともうアフリカ大陸だ.海峡をはさんでスペインの対岸に位置するタンジール(Tangier)という町にいったん着陸するために飛行機が高度を下げると,海峡に続く太西洋岸が美しい姿を見せはじめ,家々の真白い壁が陽に映えて眩しいばかりである.それは,1994年4月上旬であった.パリではまだコートを着ている霧の季節であったのに,地中海を越えると急に大気が透明となり,すべての物の色彩が一段と鮮明度を増したように思われた.
 タンジールを発って3時間程でマラケシュの空港に着いた.そこでモロッコの友人が私達を出迎えてくれる手筈になっていたのだが,どうした手違いからか,1時間待っても現われない.仕方なく,私達はタクシーに乗ろうとしたが,言葉が全く通じない上にタクシーにはメーターも付いていない.後で知ったことだが,この国ではタクシーだけでなく,あらゆる商品が売り手と買い手の交渉によってその場で値段がつけられるのが普通なのだそうだ.医療費ですら患者と医者の交渉によって値段が決められるので,貧乏人はまともな医療を受けることは出来ないという.

臨床経験

巨大脊髄空洞症と側弯症を伴った頚髄髄内血管芽腫の1例

著者: 石部達也 ,   多田弘史 ,   井戸一博 ,   松田康孝 ,   中村孝志 ,   伊勢健太郎 ,   中山裕一郎 ,   清水克時

ページ範囲:P.703 - P.706

 抄録:比較的稀な,巨大脊髄空洞症と側弯症を伴った頚髄髄内血管芽腫(hemangioblastoma)を経験した.症例は17歳男性,右手指伸展障害と左下肢筋力低下,解離性知覚障害,右凸の胸椎側弯(Cobb角31°)が見られた.画像所見よりC7-T1レベルの髄内腫瘍と,ほぼ全脊髄にわたる巨大な空洞が認められた.この症例に対し,C6下半分からT1までの椎弓切除を行い,CUSAにて髄内腫瘍を摘出した.腫瘍摘出後に上下の空洞と交通が得られたことを確認した.術後のMRIで,腫瘍の消失と空洞の縮小が認められた.術後は握力の回復と右手指の伸展障害の改善が得られたが,左下肢不全麻痺と,右下肢と左上肢のしびれ感が出現した.不全麻痺は徐々に回復し,術後8カ月にて杖なし歩行が可能となった.解離性知覚障害が消失し,胸椎側弯がCobb角21°まで改善された.この症例では,脊髄髄内腫瘍により生じた脊髄空洞症が側弯形成の一因であったと考えられる.

膝窩動脈閉塞をきたした𦙾骨骨軟骨腫の1例

著者: 下村隆敏 ,   山本哲司 ,   下奥靖 ,   水野耕作 ,   辻義彦 ,   岡田昌義 ,   佃政憲 ,   坂田敏郎

ページ範囲:P.707 - P.709

 抄録:骨軟骨腫は日常よく遭遇する良性骨腫瘍であるが,血管病変を合併することは比較的稀である.症例は17歳の男性で6カ月前に右膝窩部の腫瘤を指摘されたが放置していた.次第に痔痛が増強し間欠性跛行を呈するようになったため入院した.単純X線像,CT像などより,𦙾骨後方に発生した骨軟骨腫と診断した.血管造影を行ったところ膝窩動脈の完全閉塞を認めた.術中,膝窩動静脈は腫瘍により外側へ圧排され,茎部で絞扼されていた.骨軟骨腫の切除の後,大伏在静脈を用いて大腿動脈-後𦙾骨動脈バイパス術を施行した.骨軟骨腫に仮性動脈瘤が合併した報告は散見されるが,今回の症例のように,骨軟骨腫によって血管が直接圧迫絞扼された報告は過去の文献上わずか5例のみであった.

早期に診断しえた点状軟骨異形成症Conradi-Hünermann型の1例

著者: 大嶋義之 ,   吉橋裕治 ,   三重野琢磨 ,   佐々木俊也

ページ範囲:P.711 - P.714

 抄録:早期に診断しえたConradi-Hünermann型点状軟骨異形成症の1例を経験した.症例は女児で,生下時にみられた右第4足趾内反変形に対する足部X線撮影が診断の契機となった.右足根骨部に点状石灰化像がみられたため,全身のX線撮影を施行し,右股関節部,右膝関節部にも同様の所見を認めた.その他,右膝関節伸展制限をはじめ右大腿骨外顆形成不全によると考えられる膝蓋骨の亜脱臼,第8胸椎の楔状変形,右足部の内転変形がみられたが,皮膚,眼,心臓などには異常はなく,生後3週の時点で本症と診断した.その後,右膝関節の可動域制限は自然に消失し,右足趾・足部変形は保存的治療により改善した.知的発達,運動発達ともに遅延なく,2歳6カ月の現在,右膝蓋骨亜脱臼は遺残しており,X線上第8胸椎の形成異常による軽度の脊柱側弯を生じているが,外見上は明らかな異常はない.生下時に足趾変形がなければ,診断はかなり遅れたのではないかと思われた.

変形性股関節症を来したmultiple epiphyseal dysplasiaの1例

著者: 納村直希 ,   松本忠美 ,   中村琢哉 ,   富田勝郎 ,   野村忠雄

ページ範囲:P.715 - P.718

 抄録:若年期に末期の変形性股関節症を来したmultiple epiphyseal dysplasiaの1例を長期間観察したので報告する.症例はFairbankの3主徴(低身長,短指,X線上多発性の骨端骨化障害)を全て満たし,若年期に末期の変形性股関節症を来した重症型のMEDで,38歳時両側の全人工股関節置換術を施行した.小児期に本疾患と診断した場合には,若年期に変形性関節症の合併があることを念頭において経過観察し,手術法および時期を決定し,治療のタイミングが遅れないよう注意することが重要と思われた.

舟状月状骨間離開の1例

著者: 森田光明 ,   香月憲一 ,   斉藤英雄 ,   南幸作 ,   大向孝良 ,   石田俊武

ページ範囲:P.721 - P.724

 抄録:舟状月状骨間離開は比較的まれな外傷で,その治療法には種々の意見が存在する.われわれは新鮮例の舟状月状骨間離開に対しては舟状骨の徒手整復と鋼線による固定あるいは観血的整復と靱帯縫合に鋼線固定を追加する方法が適応と考える.また陳旧例で軟部組織の修復のみでは舟状骨の安定性を保持できない症例に対しては舟状大菱形小菱形骨固定術(STT固定術)が適応と考えている.
 今回その中間的な存在といえる受傷後1カ月が経過していた40歳男性の症例を経験した.この症例に対して観血的に舟状骨を整復し,舟状月状骨間靱帯の縫合と鋼線固定に加えて,Blatt法に準じた関節包固定術を行い良好な臨床成績を得た.今回われわれが行った方法は新鮮例に対する術式では舟状骨の安定性に不安が残るが,STT固定術を行うほど陳旧化していない症例に対して適応があり,先に述べた新鮮例と陳旧例に対する術式の中間的な術式と位置づけている.

脊髄硬膜外膿瘍の4例

著者: 宮城憲文 ,   揖野學而 ,   中村滋 ,   新田弘幸 ,   田中俊也 ,   松原祐二

ページ範囲:P.725 - P.728

 抄録:硬膜外膿瘍の4例を経験した.除圧術により脳椎部発生の3例は回復したが,Heusnerのphase Ⅳに進行していた胸椎部発生の1例は満足できる結果ではかった.phase Ⅰ,いわゆる腰痛出現時に発熱のない症例が2例,炎症反応のない症例も存在していた.腰椎部においてはphase Ⅰからphase Ⅲへの移行は比較的緩徐であり経過中の診断は決して困難なことではないと考えられた.4例全てに長期に亘る合併症が存在しており,易感染性が発症に関与していると思われた.起因菌として,嫌気性菌・MRSAも存在していた.

胸髄軟膜下脂肪腫の1例

著者: 高田宇重 ,   浅野聡 ,   大矢卓 ,   羽場等 ,   井須豊彦

ページ範囲:P.729 - P.732

 抄録:胸髄軟膜下に発生した脂肪腫の1例を経験したので報告する.症例は26歳,男性.1993(平成5)年秋,歩行時のふらつきが出現.1994(平成6)年5月には排尿障害も自覚,以後徐々に症状が増悪.1995(平成7)年2月に初診,入院となった.入院時,痙性歩行,両下肢深部腱反射亢進,病的反射陽性,乳頭レベル以下の知覚鈍麻,排尿遅延あり.入院中に両下肢筋力低下が出現した.脊髄造影では,Th1~5レベルでtotal stop,cap defect様陰影欠損と軽度の脊髄腫大像を認めた.CTでは,腫瘍はfat densityだった.MRIは脊柱管内にT1WI,T2WIともに高信号を呈する信号域が脊髄を圧排していた.以上より,軟膜下に発生した脂肪腫と診断し手術を施行した,Th1~5椎弓切除後,顕微鏡下に硬膜,くも膜下を切開すると軟膜下に腫瘍を認めた.軟膜を切開し脊髄の拍動が認められるまで腫瘍を切除した.病理所見は成熟脂肪細胞だった.術直後より神経障害は著明に改善された.

両側大腿骨頚部骨折を合併した乳児Hirschsprung病の1症例

著者: 藤林俊介 ,   四方實彦 ,   清水和也 ,   田中千晶 ,   杉本正幸 ,   高橋真 ,   服部理恵子

ページ範囲:P.733 - P.736

 抄録:Hirschsprung病は,先天的に腸管壁内神経節細胞が欠如することによる腸管の蠕動運動障害のため,消化管内容が停滞し巨大な結腸を示す疾患で,出生5,000に対し1人と比較的よくみられる代表的な小児消化管疾患であるが,治療に抵抗し経腸管栄養不能となる重傷例は非常に稀である.また乳児の大腿骨頚部骨折も稀な疾患であり,主に転落などの外傷,小児虐待,骨形成不全症などがその病因となる.骨癒合が迅速で,変形も成長とともに自然矯正されるため,保存的治療が原則となる.今回われわれは,乳児Hirschsprung病に合併した,明らかな外傷なく自然発症した両側大腿骨頚部骨折を1例経験した.骨折の病因は,長期経静脈栄養と長期臥床による骨粗鬆症であると推測された.骨折は保存的加療により早期に治癒したが,乳児は1カ月後,肝機能不全および肺炎のため死亡した.

砂時計型頚椎硬膜外腫瘍再発例の治療経験―腫瘍摘出と椎弓根スクリュー固定による脊柱再建

著者: 角家健 ,   鐙邦芳 ,   佐藤栄修 ,   金田清志

ページ範囲:P.737 - P.739

 抄録:15年前,腫瘍摘出と前方固定を受けたが,再発した頚椎部dumbbell型硬膜外腫瘍(神経鞘腫)に対し,腫瘍の再摘出と頚椎椎弓根スクリュー固定を使用した再建手術を行った.後方からの椎弓根スクリューを用いた脊椎固定と腫瘍摘出ならびに,前方からの腫瘍摘出と腓骨移植を連続的に行った.術後,脊髄の圧迫は消失し,神経症状は改善した.頚椎椎弓根スクリュー固定は固定性に優れ,再発腫瘍の摘出と再建固定に良好な結果をもたらした.

新鮮アキレス腱皮下断裂に対する経皮的縫合法の経験

著者: 中島浩敦 ,   坂賢二 ,   加藤光康 ,   片桐佳樹

ページ範囲:P.741 - P.744

 抄録:当院では1990(平成2)年以来,新鮮アキレス腱皮下断裂に対しBunnell法に準じた経皮的縫合法を行ってきた.術後6カ月以上経過した30例31足(男17例,女13例)の治療成績を分析し検討した.受傷から手術までの期間は平均35時間,手術時間は平均16分であった.術後原則的に6週間の膝下ギプス固定を行った後に,踵の高いサンダルをはかせ荷重を許可した.平均入院期間はリハビリテーションを含め8.4日であった。手術から復職までは平均10週を要していた.爪先立ちは平均16週で可能であった.再断裂が1例(3.2%)にみられた.これは他の経皮的縫合や観血的治療の報告と比べて高くはなく,また創感染,瘢痕形成や創部壊死もなく満足な結果が得られた.
 しかし,腓腹神経損傷が2例(6.5%)にみられ,諸家の報告と比べ高かった.これを避けるには,外側からの針の刺入を中央寄りとし,皮下の剥離を十分行い,結紮を内側で行う等が考えられる.

肩峰下滑液包に発生した骨軟骨腫症の1例

著者: 石川知志 ,   田島宝 ,   杉山晴敏 ,   森山明夫

ページ範囲:P.745 - P.748

 抄録:肩峰下滑液包に発生した骨軟骨腫症の治療経験を報告する.症例は,52歳の男性で,左肩痛を主訴に受診した.X線像,CT像,MRIで肩峰下滑液包の骨軟骨腫症が疑われた.関節鏡により肩甲上腕関節内に遊離体が存在しないことを確認した.肩峰下滑液包内に多数の遊離体が存在していた.滑膜に充血した部分はあるが,滑膜に連続した腫瘤はなく,鏡視下に遊離体を摘出し,充血の強い部分のみ滑膜切除を行った.術後1週間で肩の疼痛は消失し,2週間で肩の屈曲,外転は完全に可能となった.
 肩の機能を考慮すると肩峰下滑液包発生の骨軟骨腫症の全例に広範な滑膜切除を行う必要はないと思われる.関節鏡により,滑膜の状態を観察し,それにより遊離体の摘出に追加する滑膜切除の範囲を決めるべきである.本疾患の治療における関節鏡の役割は大きい.

MRIが診断上有用であった指腹部グロームス腫瘍の2例

著者: 平山次郎 ,   西山秀木 ,   今野慎 ,   鈴木千穂 ,   川口佳邦 ,   六角智之 ,   江畑龍樹

ページ範囲:P.751 - P.755

 抄録:他覚所見に乏しい指腹部グロームス腫瘍2例にMRIを施行し,その有用性を報告した.
 症例は35歳男性と57歳男性でいずれも左環指指腹部尺側に圧痛を認め,その他の局所所見は症例2の温度過敏以外認めなかった.症例1はMRI T1強調矢状断像で等信号に囲まれた高信号域,T2強調像で高信号域を,症例2ではT1強調冠状断像で等信号域,T2強調像で高信号域を認めた.病理所見はグロームス腫瘍であった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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