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連載 整形外科philosophy・4
医学の進歩と臨床研究―その光と影
著者: 辻陽雄1
所属機関: 1富山医科薬科大学医学部
ページ範囲:P.789 - P.791
文献購入ページに移動ここ四半世紀の医学の進歩はそのあらゆる分野において著しい.例えば,分子生物学や免疫学の分野では,従来の可視的な細胞生物学での視点を全く変えたといってよいほど繊細かつ広い.今まで分からなかった細胞の生命現象一つをとってみても,細胞が作る新しい伝達物質が数多く発見され,生命の維持,細胞の分化,死滅の機構,病気の成り立ちの新しい発見,形質や病気をかもし出す遺伝子の構造や特徴なども解明されるようになった.このような進歩は,やがて人の生命そのものや細胞の性格もコントロールできる技術を完成させ,多くの難病も克服できるときがくるであろうから,そこには医学研究の倫理がことのほか大きく問われる訳である.
医学研究は仮説検証的であることを基本とし,興味本位であってはならないことはすでに述べた.しかし,研究の途上で予想だにしなかった発見は,しばしば飛躍的に研究を進展させる可能性を秘めており,決定的な新治療法の開発へと繋がりうる.将来の医療技術の中には,診断にせよ治療にせよ,おそらく「分子臨床医学」なるものが生まれてくるかも知れぬと私はひそかに予想する.
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