icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科32巻8号

1997年08月発行

雑誌目次

巻頭言

第12回日本整形外科学会基礎学術集会を開催するにあたって

著者: 高橋栄明

ページ範囲:P.862 - P.863

 このたび,新潟市に於いて1997年10月16日・17日の2日にわたり,第12回日本整形外科学会基礎学術集会を開催することになり,誠に光栄に存じますとともに,その責任の重大さを痛感しております.そしてご支援を賜った日整会会員の各位に深く感謝申し上げます.

論述

腰部脊柱管狭窄に対する糖尿病の影響

著者: 大内一夫 ,   菊地臣一 ,   佐藤勝彦

ページ範囲:P.865 - P.868

 抄録:腰部脊柱管狭窄の症状や手術成績に対する糖尿病の影響を検討した.対象は,腰部脊柱管狭窄で観血的治療を受け,術後1年以上経過を観察し得た93例(男性50例,女性43例)である.これらの症例を,糖尿病を合併している17例と糖尿病を合併していない76例に大別し,術前の神経障害型式,安静時における症状のうち下肢のしびれの有無とその血糖コントロール後および術後の変化,術後成績,術後における有熱期間,および術後合併症の頻度を比較検討した.術前での安静時の下肢のしびれの頻度は,糖尿病を合併している症例で有意に高かった.しかし,糖尿病を合併しているからといって,術後における安静時での下肢のしびれの改善や術後成績が劣っているわけではなかった.また,術後における有熱期間や合併症の頻度が高いわけではなかった.この結果より,術前にコントロールされている糖尿病は,腰部脊柱管狭窄の手術をするうえでは障害になっていないと考えられた.

腰椎椎間板ヘルニアに対するLove法が隣接椎間に及ぼす影響―myelogramによる検討

著者: 西村行政 ,   常岡武久 ,   大久保喬志 ,   稲田善久 ,   宮路剛史

ページ範囲:P.869 - P.872

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアでのLove法が隣接神経組織に及ぼす影響を,myelogramの変化から明らかにするために,片側一椎間の開窓術と後方椎間板切除術を行った95例について,術前,術後のmyelogramを比較検討した.手術操作部隣接椎間のmyelogram所見が,手術前後で全く変わらないものは95例中79例であった.残りの16例では,神経根嚢像の短縮,馬尾の偏位,硬膜管の狭小化や辺縁不整が単独にあるいは重複して認められた.その中で,神経根嚢像の短縮は全体の11%と比較的多くにみられ,これは手術操作により隣接部の神経根嚢部に生じた癒着性変化のためと思われた.このことから,片側一椎間の開窓術においても隣接部では硬膜外腔に炎症性変化が生じており,手術に際してはできるだけ愛護的な操作が必要と思われた.

STT(scaphotrapezial trapezoidal)関節症の手関節X線像

著者: 谷口泰徳 ,   野村和教 ,   平野三好 ,   玉置哲也

ページ範囲:P.873 - P.877

 抄録:STT関節症の手関節X線所見について検討した.対象例は男4例女8例,年齢は60歳~93歳,平均70.3歳で両側発症8例,片側発症4例であった.患側は右側10手関節,左側10手関節であり発症側に左右差を認めなかった,STT関節ではgrade 3と判定される重度の関節症が65%と比較的高頻度に認められるのが特徴であった.母指CM関節では関節症性変化は高頻度に認めるが,重度のgrade3の関節症は15%と少なく,そのほとんどが軽症例であった.その他の部位の模骨月状骨間,模骨舟状骨間,手根中央関節の関節症性変化の出現は低頻度で,ほとんどがgrade 1の軽症例のみであった.全例において橈骨舟状骨角は低値を示し,舟状骨は背屈回旋位となっていた.STT関節症の病態は加齢性変化などの一次性要因を背景として,母指のピンチ動作などの負荷が加わり靱帯,関節包の摩耗をきたし,舟状骨は背屈回旋しSTT関節症に進展すると考えられる.

上腕骨遠位骨端離開の治療

著者: 柏木直也 ,   瀬戸洋一 ,   鈴木茂夫 ,   向井章悟 ,   田代広尚

ページ範囲:P.879 - P.885

 抄録:小児の上腕骨遠位骨端離開は稀な外傷である.乳幼児期の肘関節周囲は軟骨部分が多いこともあり,しばしば肘関節脱臼や上腕骨外顆骨折と誤診される.当科で加療した10例10肘(男児8例,女児2例)をDeLeeらの分類に従いグループAからグループCに分類し,治療成績を検討した(グループB:5例,グループC:5例),グループBの5例のうち4例で内反肘変形をきたした.グループCの5例のうち1例で内反肘変形をきたし,3例で関節可動域制限を残した.グループBに相当する年少例では内外反に留意して整復を行うべきであり,グループCに相当する年長例では確実な解剖学的整復を目指すべきである.いずれの場合も整復位に疑問があれば観血的整復術もためらうべきでない.

脊髄空洞症の手術成績とMRI所見の検討

著者: 鎌田修博 ,   戸山芳昭 ,   鈴木信正 ,   藤村祥一 ,   里見和彦 ,   平林洌

ページ範囲:P.887 - P.892

 抄録:今回われわれは,脊髄空洞症の術後成績と術前後MRI所見を調査し,両者の関連について検討した.対象は術後1年以上経過観察した男性5例,女性11例の計16例で,手術時年齢は平均39歳,経過観察期間は平均3年10カ月であった.キアリ奇形の合併は10例であった.手術法は全例空洞一くも膜下腔シャント術を行った.術後成績は疼痛,知覚障害などのわれわれの考案した新たな基準で評価し,MRIはT1強調像の脊髄前後径を用いて評価した.その結果,臨床症状では疼痛,知覚障害および筋力低下は改善がよかった.MRIによる空洞の術後変化は,縮小13例,不変2例,拡大1例であり,大後頭孔部狭窄度は3例で術後改善が得られた.術後成績とMRI所見の変化との関連では,空洞縮小例の術後成績は改善が62%,不変が23%で,空洞の縮小は概ね術後成績を反映していたが,大後頭孔部狭窄度と術後成績には明らかな関連がみられなかった.

手術手技 私のくふう

Titanium mesh cageを用いた腰椎再建術

著者: 西島雄一郎 ,   藤井政則 ,   土島秀樹 ,   東田紀彦

ページ範囲:P.893 - P.900

 抄録:腰椎再建外科における椎間スペーサー,人工椎体の有用性が認識されつつある.筆者はHarmsによって開発されたtitanium mesh cageを160例の腰椎再建手術に応用した.142例の変性腰椎疾患に対する後方進入腰椎椎体間固定術(PLIF)では,椎間スペーサーとして用い,18例の胸腰椎外傷例では椎体置換材料として用いた.その術式を紹介する.PLIFではまず,後方インスツルメントでアラインメントを矯正した.Cageを術中にtrimmingして椎間の大きさに合わせた.椎間に挿入したcageを後方インスツルメントで圧迫固定した.最近は還納式椎弓形成術を併用している.胸腰椎外傷再建術式は後方,前方同時再建法で,後方から整復位を得,前方進入で椎体切除とcageを用いた椎体置換を行い,最後に再び後方からcageに圧迫力をかけた.Cage内には局所骨屑とceratiteの混合物を詰め,採骨を必要としない術式が可能となった.

連載 整形外科philosophy・5

医道について

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.903 - P.906

●摩可不思議な言葉―「施療」「投薬」
 何故いま医の道徳が論ぜられなければならないのか.少なくとも江戸時代の漢方医は「施し」の思想を貫いていた.それは古代中国で活躍した名医といわれるものの思想に大きく影響されたからであろう.例えば魏の時代の外科の名医であった華佗(かだ)は病を治す以上に,人を医したことで有名であり,最高の医者を上医とか華佗などと称する.「華佗は人を医す」という訳である.本論文の末尾に「扶氏医戒之略」をあえて載せたのも,ドイツの名医フーフェランド教授の教えが,今もって真実であり,鏡とすべきことだからである.
 「施し」という医療の基本思想から「施療」という言葉が生まれた.その本来の意味の施しが,いつの間にか医者の心の奥に一種の「…してやる」思想に,すなわち特権意識あるいは強者意識に衣替えしてしまったように思える.したがって施療という言葉は最早や死語とすべきであろう,世に「投薬」という言葉もある.薬を患者に投与するということから生まれた言葉らしい.何故に患者に薬を投げ与えねばならないのか.良いように解釈するとすれば,「良薬口に苦し」といういわれがあるが,薬を一気に口の中に投げ込むことからの言葉なのだろうか.そうだとすれば投与という言葉も幼小児や寝たきり老人など特殊な場合しか通用しない摩可不思議な言葉といえよう.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・12

著者: 堀内行雄

ページ範囲:P.907 - P.911

症例:49歳,男子,銀行員(図1)
 主訴:左手関節橈側部痛
 3カ月前サイクリング中,左手掌をついて転倒し受傷した.左手関節橈側に著明な腫脹があり強い疼痛を自覚したので,近医を受診した.X線写真などの検査で骨折はないと言われ,外用薬と鎮痛剤を服用しているうちに激痛は消失した.しかし,仕事は何とか始められたものの,力が入りにくいことと,強く握った時,手を使いすぎた時,手をついて体重を支えた時や橈屈した時などに主に左手関節橈側に疼痛が持続するので来院した.

最新基礎知識/知っておきたい

線維芽細胞増殖因子―FGF

著者: 川口浩

ページ範囲:P.912 - P.913

【概念】
 線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factors;FGFs)は,1974年に下垂体に存在する細胞増殖調節因子としてその存在が確認された,その後20年以上の歴史を経た現在,FGFは下垂体のみならず,全身のほとんどの組織に存在し多様な生理作用を有していることが明らかとなったと同時に,FGFファミリーとして10のサブタイプが既に報告されている.また,FGFの受容体には4つのタイプが知られている.このリガンド-レセプター系は多対多対応をなして広範囲な組織に発現しており,多彩な生物情報を精巧に制御している.

整形外科英語ア・ラ・カルト・57

“The Oath of Hippocrates”・その1

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.914 - P.915

●ヒポクラテス医箴
 前回はヒポクラステスの紹介を少し述べた.今回はヒポクラテスの誓いや医箴(いしん)と訳されている“The Oath of Hippocrates”を解説してみたい,米国では医学部を卒業するときに,この誓いを暗記させられる.
 ヒポクラテスは50~70冊くらいの著書を著したといわれている.紀元前3世紀にアレキサンドリアで「ヒポクラテス全集」(Opera magni Hipporatis)が編集されたが,これらは紀元前480年から370年までに書かれたものである.しかし,これは1人や1つのグループによって書かれたものではなく,アレキサンドリアで編纂されたとき,当時ヒポクラテスが最も偉大な医師として尊敬されていたため,ヒポクラテス全集と呼ばれたらしい.

ついである記・15

Marseilleとその周辺

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.916 - P.917

 ●偏見の少ないフランス人
 以前にも書いたが,フランス語は国際語として日本人が想像する以上になお広く使われているし,また,私の知る限りでは,フランス人の自国の文化に対する強い誇りは昔も今もあまり変わっていないように思われる.しかし,彼等が他国の文化を低くみる一種の偏見である中華思想を強く持っていると考えるのは全く当たっていないと私は思っている.
 私と家内が初めてパリを訪れ,当時高名であったジュデー教授の病院に寄宿させていただいたのは昭和37(1962)年の6月であった.当時,フランス人を評して「彼等は気位が非常に高くてフランスが世界の文化の中心だと信じているので,英語で話しかけると意味が解っていてもわざと返事をしないのだ」などと言われていた.事実,私達も言葉が通じなくて苦労をしたものだが,その当時はフランスの一般庶民で英語の喋れる人は大変少なかったので,上記のような誤った評価がなされたのではなかろうか.その後,私は十数回に亘ってフランスを訪ねる機会があったが,今では,フランス人の他国人に対する偏見の少ないことにむしろ驚ろいているほどだ.勿論一概には言えないが,フランス人はアメリカ人,イギリス人,ドイツ人などよりも他国で育った科学や文化を正当に評価しようとする姿勢を強く持っているように私には思える.

臨床経験

種子骨間の異所骨が原因と考えられた母趾MTP変形性関節症の1例

著者: 本田久樹 ,   井口哲弘 ,   松原伸明 ,   日野高睦 ,   西川哲夫 ,   冨田佳孝 ,   石本勝彦 ,   山本哲司

ページ範囲:P.919 - P.924

 抄録:症例は41歳女性で,主訴は左母趾MTP関節の痔痛および腫瘤である.初診時,MTP関節の底側に腫脹と圧痛を認め,背側に圧痛のない小豆大皮下腫瘤を触れた.X線像で脛骨側ならびに腓骨側の両種子骨間と同関節背側に異所骨を認め,単純CT像では種子骨間の異所骨に加えて小骨片も認め,左母趾MTP関節は変形性関節症を呈していた.空気造影後のCT像で関節背側の異所骨は関節内遊離体であることが判明した.保存的治療を試みたが効果はなく,関節内遊離体および異所骨の摘出術を行った.術後経過は良好である.経骨側ならびに腓骨側の両種子骨間の異所骨は軟骨を有して両側種子骨と関節様面を形成し,さらに足底面は腱様組織が付着していた.変形性関節症は両種子骨間の異所骨が原因でMTP関節内に異常負荷がかかり形成されたと考えられるが,このような報告例は過去になく,疼痛を発生した原因について考察を加え報告した.

急性腰痛症における腰部固定帯の効果―表面筋電図による検討

著者: 大川淳 ,   四宮謙一 ,   小森博達 ,   河内敏行 ,   江幡重人

ページ範囲:P.925 - P.930

 抄録:急性腰痛症における腰部固定帯の効果を表面筋電図を用いて検討した.
 発症後2カ月以内の未治療急性腰痛症46例(平均30.4歳)の初診時に,固定帯の装着前後で腰部背筋の筋電図計測を行った.おじぎ動作の際の最大筋活動量(積分筋電図)・疲労度(周波数スペクトラム解析)の変化を調査し,腰痛歴のない対照群24例と対比した.

膝関節周辺の悪性骨腫瘍治療における血管柄付移植腓骨の固定性が,骨癒合および横径増大に及ぼす影響について

著者: 吉本三徳 ,   名越智 ,   和田卓郎 ,   川口哲 ,   薄井正道

ページ範囲:P.931 - P.934

 抄録:当科では膝関節周辺に発生した悪性骨腫瘍に対する広範囲切除後の患肢再建術として,血管柄付腓骨移植術による膝関節固定術を施行している.その固定にはHuckstep髄内釘,あるいは創外固定を用いている.固定法の異なる2群の症例について,骨癒合までの期間と移植骨の横径増大の程度をX線像により比較検討した.
 骨癒合はHuckstep髄内釘群の方が早く,移植骨の横径増大は創外固定群にのみ認められた.Huckstep髄内釘群で早期に骨癒合が得られるのは固定性が強固であるからと考えられた.また創外固定群で横径増大が認められるのは,固定材料抜去後に移植骨に加わるmechanical stressのためと考えられた.

横紋筋群が存在した仙骨部脂肪腫の1例

著者: 田村晋 ,   村上正純 ,   喜多恒次 ,   南昌平 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.937 - P.940

 抄録:脊柱管内で横紋筋群に連続した仙骨部脂肪腫による脊髄係留症候群の1例を経験した.症例は20歳男性で,主訴は排尿障害と左足変形である.Dimple,異常毛髪などの体表奇形はなく,神経学的には肛門周囲の痛覚鈍麻と両側ATRの亢進を認めた.また,排尿障害のため自己導尿を行っていた.画像所見では,Sl以下にspina bifidaを認め,S3以下に存在したcaudalタイプの脂肪腫により脊髄が係留されていた.後方侵入により,脂肪腫を切離すると,脊柱管内の腹側部分で脂肪腫内に縦走する横紋筋群が存在し,これは電気刺激により収縮することが確認できた.これらを切離することにより,脊髄は完全にuntetheringされた.腰仙部脂肪腫で脂肪腫内に痕跡的に筋組織が混入した症例は散見されるが,完全な横紋筋群として存在した報告例はなく,本例は極めて稀な症例である.

腸骨・仙骨内にVacuum phenomenonを生じた骨盤Insufficiency fractureの4例

著者: 森永伊昭 ,   木村政一 ,   家永敏樹 ,   樋口和東

ページ範囲:P.941 - P.945

 抄録:骨盤insufficiency fractureに合併した腸骨・仙骨内vacuum phenomenonを4例経験した.発生部位は左腸骨内側縁2例,仙骨体部1例,右腸骨内側縁および左仙骨翼の2カ所に生じたもの1例であった.1例は仙骨体部偽関節部に陰圧が加わってvacuum phenomenonが生じ,他の3例4部位の骨内ガスは隣接関節のvacuum phenomenonから由来したと考えられた.骨内ガス発生には骨壊死,骨折部の不安定性,偽関節形成,vacuum phenomenonを伴う関節との交通などの複数の因子が関与していると推測された.

小児に発生した脊髄損傷を伴う胸椎椎体破裂骨折の1例

著者: 加藤弘文 ,   濱上洋 ,   高橋健志郎 ,   水野泰行 ,   加藤充孝

ページ範囲:P.947 - P.951

 抄録:11歳の女児に発生した脊髄損傷を伴った胸椎椎体破裂骨折の1例を経験した.Th12椎体は破壊された前壁の前方への転位はほとんどなく,椎体後方部が硬膜管を圧排する特異な破裂骨折であった.Th11,L1椎体にも骨折を認めたため,6週間の体幹ギプス固定後,Th11-L1間で前方除圧固定術を行った.本症例では術後も成長が続くと考え,内固定物は使用しなかった.麻痺の回復は良好であった.
 小児では胸腰椎椎体骨折の発生率は低い.また,小児脊髄損傷例では骨傷が不明であるか,または軽度な例が多い.これらは小児の脊柱がこの高位で,かなり可撓性に富んでいることによると思われる.本症例ではこの可撓性を上回る,非常に強い外力が加わり,破裂骨折を伴う脊髄損傷が発生したと思われた.

陳旧性𦙾骨顆間隆起骨折に対する前十字靱帯再建術の1例

著者: 史賢林 ,   堀部秀二 ,   濱田雅之 ,   三岡智規 ,   松本憲尚 ,   土井照夫

ページ範囲:P.953 - P.956

 抄録:陳旧性𦙾骨顆間隆起骨折に対して前十字靱帯(以下ACL)再建術を行った1例を経験した.症例は25歳男性.1995(平成7)年9月交通事故にて左膝を受傷し膝不安定感と疼痛が持続するため,1996(平成8)年4月当科を受診した.軽度の伸展制限および前方不安定性を認め,伸展位での疼痛が著明であった.単純X線では骨片が転位した陳旧性𦙾骨顆間隆起骨折を認めた.MRIではACL実質部の膨化と輝度の不均一な上昇を認めた.関節鏡視ではACLは弛緩していたため,ACLを骨片ごと切除し自家半腱様筋腱を用いて再建術を施行した.術後9カ月の現在,疼痛,不安定性ともに消失している,切除したACLは光顕では膠原線維の長軸方向への均一な配列がみられず線維間の拡大を認め,電顕では60nm以下の細い径のfibrilの増加を認めた,陳旧性𦙾骨顆間隆起骨折においてACLの変性が疑われるときは,骨片をそのまま整復固定するよりも再建術を行った方がよいと考えられた.

小指屈筋腱腱鞘より発生したtenosynovial chondromatosisの1例

著者: 服部理恵子 ,   田中千晶 ,   四方實彦 ,   清水和也 ,   杉本正幸 ,   高橋真 ,   藤林俊介 ,   吉富啓之

ページ範囲:P.957 - P.959

 抄録:左小指の屈筋腱腱鞘より発生したと思われるtenosynovial chondromatosisの1例を経験したので,報告する.症例は51歳,女性.約5年前より左小指MP関節掌側に腫瘤を認めていた.次第に増大し,可動域も制限されるようになったため,当科受診した.左小指掌側に弾性硬の腫瘤,圧痛を認めた.X線検査では左小指掌側に末節骨まで大小の腫瘤陰影と石灰化を認めた.手術により,腫瘍を摘出した,病理所見では,滑膜と連続した軟骨組織と石灰沈着を認めたが骨化は認めなかったため,tenosynovial chondromatosisと診断した.術後,関節可動域は改善した,関節内に発生するsynovial chondromatosisは,稀な疾患ではないが,腱鞘より発生するtenosynovial chondromatosisは,極めて稀といわれ,本邦において,手指発生の報告は20例であった.

環椎後弓骨折を伴わない軸椎椎体斜骨折の1例

著者: 荻野睦 ,   千葉昌宏 ,   持田譲治 ,   西村和博

ページ範囲:P.961 - P.964

 抄録:稀な骨折型を示す軸椎椎体骨折に,頚髄不全損傷を伴った症例を経験し,手術的治療にて良好な結果を得たので報告する.症例は44歳の男性,伐採作業中に倒れてきた木により頭頂部を強打した.その直後より両上下肢の筋力低下と知覚消失,および呼吸困難が出現し当院へ搬送された.C5レベル以下に運動,知覚の完全消失を認めたが,深部腱反射は正常で肛門反射も残存していた.単純X線,CTおよびMRIにて,C2椎体前上方から後下方へ向かう骨折線とC2椎体頭側骨片の約6mmの後下方転位を認めた,本骨折は,既存のいずれの分類にも属さない稀な骨折型であり,発生機序は頭蓋,C1,C2に対する伸展モーメントを伴わない,純粋な軸圧負荷と思われた.頭蓋直達牽引にて整復位は得られず神経症状の改善も認めなかったため,第3病日に前方進入による骨片のスクリュー固定とC2/3間への骨移植を施行した.その結果,良好な神経症状の改善を認めた.

先天性側弯症に類皮腫を合併した1症例

著者: 夏目直樹 ,   川上紀明 ,   三浦恭志 ,   松原祐二

ページ範囲:P.965 - P.967

 抄録:先天性側弯症に合併する脊柱管内奇形の発生率は20%前後といわれている.自験例は13歳,男性先天性側弯症の下位胸椎部に硬膜内髄外腫瘍(類皮腫)を合併しており,1)腫瘍切除,2)側弯矯正固定術の二期的手術を行い,良好な結果を得た.
 先天性側弯症には多くの脊柱管内奇形が合併するため,その存在の検索が不十分なまま治療を行うと,重篤な麻痺の発生などが起こる可能性があり,術前のmyelogram,CTM,MRIなどのより慎重な検討や適切な対応が必要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら