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ついである記・20
中国の泰山に登る
著者: 山室隆夫12
所属機関: 1京都大学 2国際整形災害外科学会
ページ範囲:P.62 - P.63
文献購入ページに移動中国はいろいろな意味であまりにも巨大な国であるので,3回や4回この国を訪ねたからといってまともな印象記など書けるわけがない.しかし,初めて北京を訪れて天安門から紫禁城に入った時,また,明の十三陵を歩いた時,そして,八達嶺の万里の長城へ登った時に受けたあの圧倒的な量感と遥かなる歴史への想いは,私の胸の中にある確かな印象としていつ迄も残り続けている.
われわれが学会出席のために中国へ行くと,きまって「熱烈歓迎」を受ける.そして,夜は人民大会堂で中国衛生部の要人を交えて特別のメニューの中華料理をいただいたり,また別の夜は清朝時代の建物といわれる晋陽飯莊でペキンダックの御馳走にあずかり,しまいには,双方から歌までとび出す程に和やかに打ち解けた雰囲気になる.しかし,そのような会でも不思議なことに何となくお互いの気持ちを探り合っているようなもどかしさがあり,中国の医師との間には肌と肌を接するような熱い友情が育ってこないのを私は残念に思ってきた.私はその原因について,日中戦争に関するわだかまりが今もなお根強く残っていることや,本来,両国の文化には大きな相違がある上にわれわれがあまりにも強く西欧化したためではないかなどと思っていた.それで,私はよく杜甫や李白の詩や孔子の言葉などを漢文で書いてみせて,日本人がいかに中国文化の影響を受けて育ってきたかを理解してもらうよう努めてきた.勿論その程度のことで理解が深まり友情が育つ筈もないのだが.
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