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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科33巻11号

1998年11月発行

雑誌目次

視座

医療ビッグバンと整形外科

著者: 大井利夫

ページ範囲:P.1259 - P.1259

 最近,「医療ビッグバン」という言葉をしばしば目にするようになった.本来,「ビッグバン」というのは宇宙創世の大爆発を意味する用語であるが,ある部門の大変革を比喩的に表現して用いられることがある.例えば,1970~80年代の英国における金融・証券市場の大改革を表したり,橋本前総理の六大改革を「日本型ビッグバン」と呼んだりしている.
 六つの改革とは,財政構造改革,経済構造改革,行政改革,金融システム改革,教育改革,社会保障構造改革をいう.このうち,社会保障構造改革には,保健,医療,福祉,年金などの重要課題が含まれ,医療についても医療保険制度や医療システムなどの大改革を意味し,そのことを「医療ビッグバン」と表現していることが多い.

論述

圧迫性頚部脊髄症(脊柱靱帯骨化症を除く)に対する手術成績―前方法と後方法の比較検討

著者: 川上守 ,   玉置哲也 ,   岩﨑博 ,   吉田宗人 ,   安藤宗治 ,   山田宏 ,   林信宏 ,   中元耕一郎

ページ範囲:P.1261 - P.1269

 抄録:脊柱管狭窄がなく2椎間までの前方圧迫病変であれば前方除圧固定術(A法)を,3椎間以上の病変や最小脊柱管前後径が13mm未満であれば脊柱管拡大術(P法)を用いている.これらの術式選択で治療した椎間板ヘルニア,頚椎症による脊髄症136例(A法60例,P法76例)を対象に手術成績を調査し,各疾患群におけるわれわれの術式選択の有用性と問題点を検討した.年齢,疾患名を除いて,性,罹病期間,術前JOA score,頚部愁訴,疾患別の改善率には両群間に有意な差はなかった.調査時頚部愁訴はA法の23例,P法の12例に認められた.A法でのみ年齢と改善率に相関を認めたが,術前,調査時の頚椎アライメント,罹病期間と改善率の間には関連はなかった.術前前弯症例ではA法に比し,P法が有意に保持されていた.両群ともに脊髄後弯型の頚髄アライメントを示した症例の改善率が低値であった.術後頚髄後弯を防ぐことが手術成績向上につながる可能性がある.

変形性膝関節症と退行性腰椎疾患合併例(仮称:Knee-Spine syndrome)の実態調査

著者: 長総義弘 ,   菊地臣一 ,   荒井至

ページ範囲:P.1271 - P.1275

 抄録:変形性膝関節症と退行性腰椎疾患の合併例のX線学的特徴について調査した.ある2カ月間に当科外来を受診した症例で,変形性膝関節症,または退行性腰椎疾患,またはその両者を有する症例328例(男性58例,女性270例)について検討した.3群の腰椎と膝関節立位単純X線像について比較検討した.両者を有する症例は,他2群に比べ,腰椎では骨萎縮が高度で,腰椎前弯が減少しており,膝関節では関節症性変化が進行していた.腰椎と膝関節はともに荷重関節として重要な役割を有している.腰椎と膝関節にみられる矢状面でのアライメント変化が,各々の病態に影響を与えている可能性が考えられる.

頚椎症性脊髄症のX線学的病態解析

著者: 鷲見正敏 ,   片岡治 ,   澤村悟 ,   池田正則 ,   向井宏

ページ範囲:P.1277 - P.1286

 抄録:頚椎症性脊髄症に対する椎間不安定性の関与を知る目的で,C5椎からC7椎までの下位頚椎アラインメントと椎体すべりおよび脊髄造影における狭窄椎間との関連性についてX線学的に調査した.対象は手術を施行した本症203例である.静的脊柱管狭窄因子は47%に認められたのみであったが,動的狭窄因子は82%と高率であった.下位頚椎が前弯位,直線位,後弯位のどのアラインメントをとるかにより,異なった椎間における前方・後方すべりの発生がみられるという特徴が認められた.下位頚椎アラインメントと脊髄造影による狭窄椎間部位との関連にも一定の特徴が認められた.これらの所見は手術法選択と前方固定時の固定範囲の決定に有用な資料を提供するものと考える.

第4中足骨短縮症に対する仮骨延長

著者: 政田和洋 ,   藤田悟 ,   冨士武史 ,   大野博史

ページ範囲:P.1287 - P.1292

 抄録:第4中足骨短縮症に対して仮骨延長法による中足骨延長を行った4例6足の成績を報告し,その問題点につき検討した.骨延長量は8~24mm(平均16mm),延長量のもとの長さに対する比率は15~41%(平均31%)であった.初回手術からピンの抜去までの期間は82~173日(平均124.8日)であった.全例に良好な骨癒合が得られたが,中足趾節関節の可動域は術前平均120°が術後平均61°と全例に術後の可動域制限がみられた.延長量がもとの長さの40%を越えた2例で中足趾節関節の変形をきたした.中足骨の変形と関節の底屈を呈した1例に対しては中足骨の骨切りと関節の授動術を行った.他の1例は中足趾節関節の外側偏位を呈したが,訴えがないので放置した.

足関節捻挫後の疼痛遺残の原因―関節鏡所見

著者: 三岡智規 ,   史野根生 ,   濱田雅之 ,   堀部秀二

ページ範囲:P.1293 - P.1297

 抄録:日常診療において足関節の内反捻挫後に足関節の疼痛が残存し,治療に難渋する症例を経験する.このような症例に,疼痛の原因を探る目的で足関節鏡を行った.足関節内反捻挫後6カ月以上疼痛が持続するために関節鏡を施行した症例は,22例22関節(男性13例,女性9例),平均年齢22歳であった.関節鏡視にて,滑膜の増殖を12例(55%)に,関節軟骨損傷を全例に認めた.これらの病変を鏡視下に郭清することにより,全例で症状が軽減した.足関節捻挫後に疼痛が遺残する症例に対しては,滑膜病変や軟骨損傷の存在を考慮し,関節内病変を明らかにし,同時に治療を行える関節鏡を積極的に行うことが必要と思われた.

Functional braceによる上腕骨骨幹部骨折の治療経験

著者: 新保純 ,   廣瀬彰 ,   坂本雅昭

ページ範囲:P.1299 - P.1303

 抄録:上腕骨骨幹部骨折20例に対してfunctional braceによる治療を行い,臨床成績および骨折型別に骨癒合経過を検討した.横骨折が全例,三角筋付着部直下に生じていることに着目し,これを中央型と定義し,近位と遠位に分類した.骨折形態については,近位および遠位において骨折線により長斜型,短斜型,また多骨片を有するものは粉砕型とした.18例に骨癒合が得られ,外観およびADL上問題となる症例はなかった.2例の骨癒合不全は高齢で整復位改善の見られない近位長斜型骨折であった.遠位型では年齢,骨折形態に関わらず,また横骨折である中央型では遷延傾向がみられたが,ともに全例,骨癒合が得られた.骨折部に働く筋の作用を解剖学的に検討した結果,近位長斜型骨折の骨癒合不全の一因は,整復位改善が得られにくいためであると考察した.

専門分野/この1年の進歩

日本脊椎外科学会―この1年の進歩

著者: 金田清志

ページ範囲:P.1306 - P.1308

 この連載欄は日本整形外科学会の各種関連学会・研究会が専門化・細分化されて専門医間の隔たりが深まり行く現状から,その溝を埋めようと「分化と統合・連携」の重要性の認識から誕生した.私は第70回日本整形外科学会を担当し応募演題からのプログラム編成にあたって,「分化と統合」の意義をより一層強く実感させられた.
 「専門分野―この1年の進歩」といっても,そんなに大きな段差をもって1年の間に進歩することはあり得ない.過去の研究実績の積み重ねの上に新たな発想展開から創造的研究が進められ実っていくものである.第27回日本脊椎外科学会からトピックにあたるものを提示し言及したいと思う.

日本骨折治療学会―この1年の進歩

著者: 阿部宗昭

ページ範囲:P.1310 - P.1312

 第24回日本骨折治療学会は,1998年7月10,11日に大阪市で開催された.本学会は,1978年4月,骨折研究会として発足し,1981年までは春と秋の年2回,closedの会として開催されていたが,1982年からはopenとなり,日本骨折研究会と名を改めて再出発をした.その10年後の1992年より日本骨折治療学会と再度名を改め今日に至っており,発足以来,満20年が経過したことになる.参加者,演題数ともに年々増加しており,今回は約800名の参加があり,4つの会場に分けて開催された.演題は,特別講演3題,ランチョンレクチャー4題,イブニングレクチャー2題,シンポジウム18題,主題41題,一般演題152題,計220題であった.
 骨折の治療が僅か1年で進歩する訳はないので,ここでは本学会で取り上げたシンポジウムを中心に紹介する.

基礎知識/知ってるつもり

Bone Bruise

著者: 原道也 ,   緒方公介

ページ範囲:P.1314 - P.1315

 【定義・歴史】
 Bone Bruise(BB)とは外傷膝の骨挫傷の意味で,1989年にMinkはoccult cartilage and bone injuryを分類し,BBを単純X線では異常を認めず,MRIで外側大腿𦙾骨関節の皮質下骨髄の異常信号を示し,関節軟骨は正常であると定義した1).その病態は骨髄における出血,浮腫を伴う骨梁の破壊とされ,特に新鮮前十字靱帯(ACL)損傷で高頻度にみられ,近年注目されている.
 また,同様の病変をoccult osseous lesion2)やmicrofractures of weight bearing trabeculae3)などで報告されている.

急速破壊型股関節症(RDC)

著者: 大園健二

ページ範囲:P.1316 - P.1319

【歴史】
 急速破壊型股関節症なる病態はフランスなどで古くから知られていたが,1970年にPostelらが英文報告して以来,一般によく知られるようになった,急速破壊型股関節症はその名称のとおり,基礎疾患や明らかな誘因なしに,股関節に比較的短期間に破壊を生じる疾患で,rapidly destructive coxopathy=RDCという名称が一般に用いられている.日本では吉岡らが症例報告して以来,症例数は増加しており,その病態についても理解が深まっているが今なお,その発症メカニズムは明らかにされていない.

最新基礎知識/知っておきたい

Tissue Engineering

著者: 中村孝志

ページ範囲:P.1321 - P.1321

 Tissue Engineeringとは工学的手法と生命科学の手法を統合させ細胞と生体材料を組み合わせて機能を代償する組織を作り上げ,疾患を治療しようという学際的な新しい研究領域である1,2)

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・26

著者: 柳本繁

ページ範囲:P.1323 - P.1325

症例:85歳,女性,身長147cm,体重49kg
 10カ月前から左股関節痛が出現し次第に増強し,5カ月前に当院を受診し変形性股関節症の診断を受けた(図1).杖歩行,消炎鎮痛剤投与の保存的治療を行っていたが効果はなく歩行不能となった(図2).股関節の運動に際して激しい疼痛を伴うが,他動的に屈曲は80°,外転は20°可能である.股関節周辺には熱感,発赤,腫脹を認めない.5年来変形性膝関節症で加療しているが,他の関節には疼痛や変形を認めない.血液検査ではHb11.6g/dl,白血球7,800,赤沈値13mm/hr,CRP0.26mg/dl(正常値0.15以下),リウマチ反応陰性であった.

整形外科英語ア・ラ・カルト・71

整形外科分野で使われる用語・その34

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1326 - P.1327

 前々回の9月号の“nevus”の項で,読者から2つの質問があったので解答したい.
①質問その1:「局麻後に,その腫瘍の部分を皮膚から第15番目のメスでえぐりとり」とあるが,この“第15番目のメス”とは何のことであろうか? という質問である.

ついである記・29

Finland

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1328 - P.1329

 私は1994年3月末に京都大学を定年退職した.定年後の人生をどのように過ごすかは大きな課題である.大抵の人達は私学の教授職に就いたり,医師であれば関連病院の病院長職にすんなりと納まって,現職中に慣れ親しんできた職業の延長線上でもう一働きすることを選択する場合が多いが,なかには曾ての自分の専門領域とはまるで違ったことを興味の対象として打ち込んでいく人達もいる.私はたまたま定年の1年前から国際整形災害外科学会(SICOT)の理事長に就任していたので,この学会の大きな活動目標の一つである発展途上国での医学教育の普及のために,極めて頻繁に海外出張をしなければならなかった.したがって,定年後大抵の人達が就くような再就職の選択肢は私には無いに等しかった.それならば,私は自分の体力の続く限り,必要があれば,いつでもどこへでも出かけて,自分のやれることをやってみようという気持ちを固めた.そして,3月末の退職後,すぐ4月中旬には英国へ渡って各地で講演をし,4月末にはモロッコへ行き,5月上旬にはブラッセルにあるSICOTの本部に赴き,さらに7月にはフィンランドとロシアを訪ねて,8月上旬に母親の一回忌を務めるため日本へ帰国した.その私達を待っていたかのように,8月11日には初孫娘が誕生して私の人生に花を添えてくれた.

臨床経験

神経内ガングリオンによる深腓骨神経麻痺の1例

著者: 吉本三徳 ,   倉秀治 ,   常見健雄 ,   鈴木知勝 ,   薄井正道 ,   石井清一

ページ範囲:P.1333 - P.1336

 抄録:神経内ガングリオンによる深腓骨神経麻痺の1例を経験したので報告する.症例は34歳男性で,主訴は左下垂足.1997年4月頃より特に誘因なく左足関節の自動背屈が不能となった.初診時,MMTで前𦙾骨筋が0,長母趾伸筋および長趾伸筋が2,長短腓骨筋は5であった.また,深腓骨神経領域に軽度の知覚鈍麻を認め,腓骨頭下方にはTinel signが陽性であった.MRIで腓骨頭下方にT1 low,T2 highの索状の腫瘍性病変を認めた.
 以上の所見より,腓骨頭周囲の軟部腫瘍による深腓骨神経麻痺を疑い手術を施行した.総腓骨神経から深腓骨神経にかけて約10cmの範囲で神経が腫大しており,被膜を切開すると内部よりゼリー状の内容物が流出した.神経内ガングリオンと判断し摘出を試みたが,神経組織との境界が不明瞭で一部は切開して内容物の排除だけにとどまった.術後4カ月の現在,知覚鈍麻は消失し,筋力も回復傾向にある.

自然治癒した急性頚椎硬膜外血腫の1例

著者: 浅間信治 ,   山崎征治 ,   二井英二

ページ範囲:P.1337 - P.1338

 抄録:自然治癒した急性脊髄硬膜外血腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は27歳男性で,突然の背部激痛と右上肢不全麻痺のため入院となった.発症後1日目のMRIでC6~C7レベルにて脊柱管の背側にT2でhigh intensityのmassを認め,脊髄硬膜外血腫と診断した.疼痛は,発症後1日目より徐々に軽快し,右上肢の運動障害と知覚鈍麻は発症後2日目には完全に回復した.発症後5日目のMRIで血腫は認められなかった.入院当初より認めた膀胱直腸障害も発症後26日目には回復した,従来,速やかな手術的治療が必要とされてきたが,本症例のように急速な回復傾向を示す場合は保存的治療が適応であると考えられる.

両側月状骨軟化症に合併した両側手根管症候群の1例

著者: 佐藤直人 ,   古川浩三郎 ,   岩淵真澄 ,   武田明

ページ範囲:P.1339 - P.1342

 抄録:70歳男性の,両側月状骨軟化症に合併した両側手根管症候群の1例を経験した.発症要因として,一つは,月状骨軟化症により無腐性壊死を起こした月状骨骨片が手根管へ突出し,正中神経を背側から圧迫したこと,二つ目は,手根配列の乱れにより横手根靱帯が背側,近位へ移動し,正中神経を掌側から圧迫したことが考えられ,この二つの要因が手根管を掌側と背側から狭小化し,正中神経を圧迫したものと考えられた.治療は,両側とも月状骨の処置は行わず,手根管を開放し正中神経の除圧のみを行い,良好な結果が得られた.月状骨軟化症に合併した手根管症候群の報告は少なく,若干の文献的考察を加えて報告する.

間歇性跛行を呈した腰椎部脊柱管内滑膜囊腫の1治験例

著者: 伊東祥介 ,   村岡博 ,   盛谷和生 ,   久保田政臣

ページ範囲:P.1343 - P.1346

 抄録:脊柱管内に発生した滑膜囊腫の報告は稀である.著者らは腰椎椎間関節より発生した滑膜囊腫により間厥性跛行を呈した症例に手術を行い治癒した1例を経験したので報告する.
 症例は76歳男性,主訴は間歇性跛行.画像所見から椎間関節より発生した滑膜嚢腫,もしくはガングリオンを疑い,L4部分的椎弓切除術を施行して腫瘤を摘出し,症状は消失した.

巨大な嚢腫様病変を合併した腸骨の線維性骨異形成症の1例

著者: 住田秀介 ,   太田弘敏 ,   服部大哉 ,   佐藤啓二

ページ範囲:P.1347 - P.1350

 抄録:症例は40歳女性.主訴は運動時に生じた右股関節部痛であった.単純X線像では,右腸骨部に広範囲の異常陰影を認め,その近位部は磨りガラス状陰影を,遠位部は骨透亮像を呈していた.CT像,MRlでは,囊腫様病変部と充実性病変部を認めた.開放生検後の病理組織像にて囊腫様変性を伴った線維性骨異形成症と診断し,病巣掻爬術および骨移植術を施行した.広範な囊腫様変性を伴った線維性骨異形成症は現在まで6例の報告にすぎず,また過去に骨盤例はないので,本症例は極めて稀と考えた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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