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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科33巻3号

1998年03月発行

雑誌目次

視座

骨関節病変の古病理学

著者: 福田眞輔

ページ範囲:P.239 - P.240

 古病理学(paleopathology)はわれわれ整形外科医になじみの薄い言葉だが,発掘人骨を対象として,それに残っている変化から当時の集団の疾病を研究する学問である.単にこんな疾患が見つかりましたと言うだけではあまり意味がないが,この学問の重要性はある程度まとまった個体数が観察できればその時代,その地域の疾患の疫学データ(年齢,性別,有病率など)が分かり,地域,時代を異にする他の集団との比較が可能なところにある.幸いわれわれ整形外科医が扱う疾患は,大抵は骨関節に変化を来すので古病理学の研究対象にするのに甚だ適している.今までわが国の整形外科医がこの領域にほとんど関与していないのは,むしろ奇異な感じがする.外国では,古くからリウマチ医(rheumatologist)のなかに古病理学の専門家がいて,骨関節疾患の研究をしている.わが国には,今までの専門リウマチ医がいなかったが,リウマチ科が標榜出来るようになったので早晩リウマチ医が増え,この分野にも進出してくるだろう.そうなると,整形外科医として少し口惜しいのではなかろうか.
 エイズを例に挙げるまでもなく,疾病は時代によって変わる.現代の人類を悩ましている疾病が人類の有史以来存在し,さらに未来にわたって続くとは限らない.ある地域(人種)の特定の疾患の有病率が時代が異なると大きく変わっていたなら,その二つの時代の間にその疾患を変化させるような環境要因が作用したことが推定できる.

シンポジウム 大きな骨欠損に対する各種治療法の利害得失

緒言 フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.242 - P.243

 整形外科的治療の歩みのなかで,大きな骨欠損に対してどう対処するかという問題は,先人達がその対応に最も難渋してきた問題の1つです.近年,大きな骨欠損に対して様々な治療法が開発され,昔には考えられなかったほどの再建ができるようになりました.なかでもbone transportやマイクロサージャリーを用いた手技は,今や第一線の医療現場でどんどん行われるようになっており,この分野の治療に革命的な変化をもたらしました.嘗てなら切断を余儀なくされた症例でも,充分に機能的な四肢を再建することが可能になりました.筆者は,研修医時代に,四肢外傷の大きな骨欠損に対して,治療期間や治療の見通しのなさから切断を余儀なくされた症例があったことを昨日のことのように鮮明に覚えています.
 骨欠損の問題で日常診療上,われわれが最も遭遇するのは四肢の外傷と骨軟部腫瘍です.また,古来,最も治療に難渋する疾患の一つとして先天性下腿骨偽関節症があります.これらの難問に対して,今やわれわれは様々な有効な武器を持って対処できるようになりました.現在,本邦の第一線の現場で広く用いられている大きな骨欠損に対する代表的な先端的医療技術はbone transportとマイクロサージャリーを用いた再建術であると思います.この2つの手技は全く異なった手法による再建です.しかし,目指すところは同じで,両手技とも全国の各施設でかなりの症例の蓄積がなされつつあります.

感染性偽関節に対するBone transport

著者: 大野博史 ,   安井夏生

ページ範囲:P.245 - P.251

 抄録:感染性偽関節に対してBone transportおよびその変法を用いて治療した.対象は,感染,骨欠損,短縮を伴った偽関節10例10肢で,罹患骨は脛骨6肢,大腿骨3肢,上腕骨1肢であった.骨欠損量は3~12cm(平均6.2cm)で,1例を除き,目的とする骨欠損量の補嗔ができた,全治療期間は,225~732日(平均354日)であった.追加手術は2例3回行った.全例に骨延長部の骨癒合を得たが,1例にドッキング部での骨癒合が得られなかった.本法は,骨移植を必要とせず,偽関節,骨欠損,骨短縮,変形を同時に治療できるもので,比較的大きな骨欠損にも適応となり,感染性偽関節の有効な治療手段であった.他の治療法で失敗した症例にもsalvage手術として可能で,適応は広い.

外傷性骨欠損に対する骨延長術

著者: 根上茂治 ,   杉山貢 ,   岡本連三 ,   腰野富久

ページ範囲:P.253 - P.258

 抄録:新鮮下腿骨折による𦙾骨骨幹部骨欠損に対し骨延長を用いた再建術を行った.症例は7例7肢で,全例男性で年齢は19~43歳であった.イリザロフ創外固定器装着後,骨欠損端より約1cm離れた部で𦙾骨前方および内方に2カ所ずつ計4個のドリルホールを開け,そこを通してワイヤーを留置した.骨膜が温存された部で骨切りを行い骨延長を行った,7例全例で骨欠損は補填され,骨癒合を得た.骨欠損補填長は5~9cm(平均7cm)であった.創外固定装着期間は175~291日であった.2年2ヵ月から5年4ヵ月の経過観察期間で,骨欠損補填部の再骨折はなかったが,骨接合部の再骨折,感染が2例にみられた.これらの2症例は再度創外固定し,切開,洗浄,デブリードマンを行い感染を鎮静化させ,海綿骨移植を行い骨癒合を得た.

外傷性骨欠損(感染性偽関節や軟部組織の欠損を含む)に対する血管柄付き腓骨移植術

著者: 矢島弘嗣

ページ範囲:P.259 - P.265

 抄録:血管柄付き腓骨移植術は,骨欠損の大きさに関わらず早期にかつ確実に骨癒合が得られる非常に優れた手術方法である.また,軟部組織欠損を伴っているような症例に対しても,骨と軟部組織の一期的再建が行える利点をも有している.1976年から1996年の21年間に,79例の外傷性骨欠損(外傷性骨髄炎を含む)に対して本法を施行し,77例の移植が成功した.成功例の骨癒合完成時期は,大腿骨再建例で平均6.8ヵ月,脛骨再建例で平均5.9ヵ月,上肢再建例では平均4.3ヵ月であった,感染の再燃は53例中6例にみられたが,4例は掻爬のみで鎮静化が得られた.採取側の合併症としては,第一足趾の槌趾変形が5例にみられ,後日腱切り術を要した.他に,皮弁採取部の創傷治癒遅延を2例に,腓骨採取部の疼痛を2例に,神経麻痺を3例に認めた.

骨軟部腫瘍に対する微小血管外科による再建―骨腫瘍切除後の骨欠損に対する血管柄付き腓骨移植

著者: 薄井正道

ページ範囲:P.267 - P.276

 抄録:悪性骨軟部腫瘍の切除後に10cm以上の骨欠損を生じた44例に血管柄付き腓骨移植による再建を試みた.骨肉腫が30例と最も多かった.遊離血管柄付き腓骨移植が36例,遊離血管柄付き腓骨移植と有茎血管柄付き腓骨移植とを組み合わせたものが8例であった.骨癒合は不明の3例を除く41例中40例(97.6%)に得られた.そのうち一期的骨癒合は36例(87.8%)に,二期的な骨癒合は4例(9.8%)に得られた.1例(2%)が偽関節のままであった.骨癒合までの期間は一期的骨癒合例で平均4.8ヵ月,二期的骨癒合例で平均13.8ヵ月であった,合併症は偽関節が5例(11.4%),感染が1例(2.3%),移植腓骨の骨折が7例(15.9%)に見られた.生命予後はDODが7例,AWDとNEDが各2例,DOCが1例で残り32例(72.7%)はCDFであった.

骨延長による骨腫瘍切除後骨欠損の再建

著者: 土屋弘行 ,   北野慎治 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.277 - P.285

 抄録:われわれは,生きている骨を新生する骨延長術に注目し,腫瘍切除後の再建術に応用してきた.その適応は,高悪性度腫瘍の場合には化学療法が著効し,長期予後が期待できる症例に限られる.再建方法を,bone transport,shortening-distraction,髄内釘併用骨延長,の3つに分類した.shortening-distractionは延長終了時に骨移植が不要であるため有利だが,短縮時の皮膚血行等の問題があり,𦙾骨で3cm,大腿骨で10cm以上の延長をする場合にはbone transportの適応としている.また,治療期間短縮のために髄内釘の使用が重要で,可能な限り併用している.再建術式は腫瘍局在部位によって異なり,type 1~5に分類している.いずれの場合も正常組織の切除は最小限に留める方が骨形成に有利である.骨延長法は,治療期間が長いなどの欠点もあるが,強度の永続性,生体親和性,感染抵抗性が期待でき,患肢温存手術として非常に有用である.

先天性𦙾骨偽関節症に対する血管柄付き骨移植

著者: 木森研治 ,   生田義和 ,   黒木秀尚

ページ範囲:P.287 - P.294

 抄録:広島大学整形外科で施行した先天性𦙾骨偽関節症に対する血管柄付き骨移植の術後成績について検討を加えた.移植骨の最終的な骨癒合は12例全例に獲得でき,切断に至った症例はない.しかし,7例で骨癒合が遷延し,11例に1回から6回にわたって再骨折が発生した.また,すべての症例で,再建した𦙾骨の変形と横径発育不全,脚長差,足関節の可動域制限が認められた.移植骨の採取に起因する変形としては,腓骨採取部になんらの処置も行わなかった3例中2例に足関節の外反変形が生じた.血管柄付き骨移植術は先天性𦙾骨偽関節症に対する有用な手術方法であるが,本法を行うにあたっては,骨癒合の獲得だけでなく,種々の術後合併症の発生予防に対して十分な配慮が必要である.

先天性下腿骨偽関節症に対するBone Transport

著者: 安井夏生 ,   中瀬尚長 ,   越智隆弘 ,   柴田徹 ,   川端秀彦

ページ範囲:P.295 - P.300

 抄録:先天性下腿骨偽関節症は整形外科疾患のなかでも最も治療に難渋する疾患のひとつである.本疾患に対するbone transportによる治療法はまだ確立したものとはいえないが,長所として,1)十分な病巣切除を行うことができる,2)骨長調整が自由自在である,3)変形矯正を同時に行える,などがあげられる.最大の短所は長期間にわたり創外固定器を装着しなければならないことで,それに伴う合併症の対応が必要となる.ここでは自験例を紹介し先天性下腿骨偽関節症に対するbone transport法の問題点につき述べる.

論述

HAP-TCP(セラタイト)腓骨スペーサーを用いた腓骨再建術

著者: 藤林俊介 ,   四方實彦 ,   清水和也 ,   田中千晶 ,   杉本正幸 ,   高橋真 ,   服部理恵子 ,   吉富啓之

ページ範囲:P.303 - P.308

 抄録:われわれは,腓骨を骨移植に用いた頚椎前方固定術において生じた,腓骨骨欠損部にHAP-TCP(セラタイト)腓骨スペーサーを用いた腓骨再建術を行い,良好な成績を得た.術後1年以上経過した,腓骨スペーサー非使用群20例と腓骨スペーサー使用群24例を対象に,採骨部痛,知覚障害,筋力低下,足関節不安定性,X線学的評価を行った.いずれにおいても腓骨スペーサー使用群が勝っており,スペーサー挿入による腓骨再建は有効であった.

自家膝蓋腱を用いた膝前十字靱帯再建術におけるスポーツ復帰不良例の検討

著者: 岡村良久 ,   星忠行 ,   原田征行 ,   大塚博徳 ,   石橋恭之

ページ範囲:P.309 - P.313

 抄録:自家骨付き膝蓋腱を用いた膝前十字靱帯再建術において,スポーツ復帰不良例と膝前方安定性不良例を比較することから,スポーツ復帰に影響する因子とその対策について検討した.対象は手術時平均年齢22.3歳の男性41例,女性34例,計75例であり,術後1年6カ月の時点でのスポーツ復帰,膝安定性などを評価した.スポーツ復帰と膝安定性とは必ずしも比例せず,スポーツ復帰不良例では,運動時痛,圧痛などいわゆる膝前面の疼痛を認めるものが多く,膝前面の愁訴がスポーツ復帰には少なからず問題となっていた.膝蓋腱採取時に上下横皮切を用いることで,傍膝蓋腱内側縦皮切に比べて知覚障害を改善することができる.また,膝蓋腱採取時の膝蓋骨,𦙾骨の骨欠損部には充分な骨移植を行うことで術後の圧痛を予防することが可能である.以上のように,膝前面の愁訴に対しては,術式を改良,工夫することで対処できると思われた.

腰部脊柱管狭窄症に対する超音波療法

著者: 鈴木信治 ,   佐多和仁 ,   稲田充

ページ範囲:P.315 - P.320

 抄録:神経性間欠跛行を有する腰部脊柱管狭窄症患者83人に,超音波を照射して治療直後と追跡調査時の成績を検討した.患者は神経障害形式による分類では,神経根型が61例,馬尾型9例,混合型13例であった.超音波は側臥位で,罹患椎弓患部を中心として回転移動法で10分間照射した.出力1.5W/cm2,周波数I MHzで,10回を1クールとして0.9~10.3クール,平均3.1クール照射した.超音波療法終了直後の成績は間欠跛行が消失したものと軽滅したものを加えた有効率は78.3%であり,神経根型は有効率85.3%,馬尾型は55.6%,混合型は61.6%と馬尾型は良くない傾向がみられた,罹病期間との関連では有意な相関があり,罹病期間が短いほど治療成績は良好であった.すべりの程度と治療成績については明らかな相関はなかった.安静時症状の有無による治療成績については,有意な相関はなかったが,安静時症状の無いものの方が改善がよかった.3カ月以上,平均972.0日の追跡調査結果では,症状の軽快が得られず手術を行った9例を除くと,間欠跛行の消失59.0%,軽減41.0%と,治療終了直後よりも良好な成績であったが統計学的な有意差はなかった.また,神経根型の5例では経過中症状の再発があり,再度US療法を行い,1例は手術に移行し,4例は間欠跛行が消失した.

先天性股関節脱臼治療の長期成績―脱臼整復後のX線評価の推移

著者: 後藤英司 ,   稲尾茂則 ,   寺西正 ,   松野丈夫 ,   安藤御史

ページ範囲:P.321 - P.325

 抄録:当科で保存的あるいは観血的に整復を行った先天性股関節脱臼症例37例43股のX線成績を経時的に検討した.その結果,15歳時において成績良好と考えられるSeverin I,II群は29股(67.4%)であった,補正手術例を除いた35股をSeverin I,II群とIII,IV群とに分け,経時的にCE角とα角を比較すると,5歳から両群間に有意差がみられ,5歳時のCE角8°以下α角26°以上の症例のほとんどが最終観察時にSeverin III,IV群に属した.したがって,5歳時におけるこれらの値が補正手術の適応を決める一つの指標であると考えられた.一方,10歳以降にSeverin I,II群のCE角とα角はともに有意に改善するもののIII,IV群では改善しなかった.

腰仙部神経根奇形の検討

著者: 池間理亜子 ,   永瀬譲史 ,   板橋孝 ,   太田秀幸 ,   清水純人

ページ範囲:P.327 - P.333

 抄録:腰仙部神経根奇形はそれ自体は無症候性であるとされるが,時に腰仙部障害の発現に関与していることがある.筆者らは,奇形神経根が関与している手術例を2例経験したので,過去7年間の脊髄造影を再読影し,腰仙部神経根奇形の診断を中心に検討を行った.自験例における腰仙部神経根奇形の頻度は,436例中13例,3.0%であった.諸家の報告頻度は脊髄造影では1.5~4.0%,剖検例では8~14%であり,決して希なものとは言えない.その術前診断において臨床症状や神経学的所見のみでは鑑別が困難であり,画像診断が重要である.なかでも脊髄造影は信頼性が高く,読影の際には常に本奇形に留意する必要がある.また,CTミエログラフィーでは奇形神経根レベルにて,椎間孔へ向かう連続性の異常に太い根嚢像が認められる.MRIではCTミエログラフィー同様の所見が見られるが,ヘルニア塊との鑑別がし難く,MRIのみでの診断は注意を要する.

MRIによる20代成人の腰痛と椎間板障害の検討

著者: 高橋寛 ,   米倉徹 ,   奥秋保 ,   香取勧 ,   井形聡 ,   岡島行一 ,   茂手木三男

ページ範囲:P.335 - P.340

 抄録:純粋に画像上の椎間板変性と腰痛の関連を評価する目的で,対象を20代成人に限定し,腰痛群59例と非腰痛群50名についてMR画像上の椎間板突出度,変性度,high intensity zone,schmorl結節,椎体輝度変化の5項目について比較検討した.その結果,腰痛群では非腰痛群に比し,L5/S1高位で突出度がprotrusionあるいはextrusionで,moderate以上の変性椎間板を有する症例が有意に多い結果が得られ,L5/S1高位における椎間板変性,突出がいわゆる腰痛症と関連があることが示唆された.これらの条件を満たしていても腰痛を訴えない症例が多く存在することも事実であるが,その理由として,通常のMR画像のみでは動的因子の検討が不可能であること,いわゆる腰痛症においても椎間板ヘルニアにおける根性坐骨神経痛と同様に,炎症性刺激因子の関与する可能性などが考えられた.

整形外科英語ア・ラ・カルト・64

整形外科分野で使われる用語・その27

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.342 - P.343

●inunction(イナンクション)
 この言葉は通常あまり使わない言葉である.英語の辞書には“the rubbing in of an ointment or liniment”と説明してあり,日本語では塗擦や塗膏とある.
 この言葉の語源(etymology-エティモロジィ)は,ラテン語の“inunguere”(イヌングエーレ)で“傷口などに油を塗る”ことである.この言葉から“傷口などに油を塗ること”を“inunction”という.また,塗る薬のことを“inunctum”(イナンクタム)という.

ついである記・22

Saudi Arabia

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.344 - P.345

●聖地メッカをかかえる国
 サウジアラビアはアラブ諸国最大の国で,国土の広さは日本の約6倍もあり,アラビア半島のほぼ8割を占めている.しかし,その人口は日本の約10分の1にしかすぎないから,人口密度の極めて稀薄な国であるといえよう.この国ではガソリンよりも水の方が値段が高いといわれる程に土地が乾燥しており,国土の約3分の1が砂漠に覆われた不毛の地であるので,昔から人の住みにくい土地であったと思われる.
 西歴570年にムハンマド(訛つてマホメットとも呼ばれる)がこの国の紅海岸に近いメッカに生まれて,40歳で神の啓示を受け,622年にメッカから北方のメディナと呼ばれる地へ移ってイスラム教を創始したことにより,この辺境の地が後にイスラム教徒の聖地となったのである.現在,世界のイスラム教信徒の数は10億人以上ともいわれており,その総ての信徒が一生涯で少なくとも一度はメッカとメディナへの巡礼の旅を終えてから死にたいと希っているわけだから,この国の求心力は宗教的な意味では勿論のこと,そこから派生するいろいろな影響からみても国際的に無視できないものがある.また,1938年にこの国で油田が発見され,最近では世界有数の産油国になっているから,経済的な世界戦略の上からもかなり注目すべき国であろう.しかし,私は1995年3月にSICOTの中東地域国際シンポジウムに出席するために初めてこの国を訪れるまでは,その歴史や風土についてほとんど関心を持っていなかった.

連載 リウマチ―最新治療のポイントとその留意点・6

膝関節疾患への対応

著者: 龍順之助

ページ範囲:P.347 - P.354

 抄録:膝関節は関節腔が広いため,慢性関節リウマチにおいて膝の滑膜は量的にも多く,滑膜炎は局所的にも,全身的にも炎症の重大な根源となりうる.膝関節の滑膜炎が持続すると,関節液中の炎症性物質により,また炎症性肉芽により骨軟骨が破壊される.抗リウマチ薬などの積極的な保存療法に反応しない滑膜の炎症は滑膜切除術により切除されるべきである.滑膜切除には従来より行われている外科的な滑膜切除術(capusub-synovectomy)と近年,関節鏡の発達に伴って盛んになった鏡視下滑膜切除術(arthroscopic synovectomy)がある.両術式につき適応,術式,治療法の位置づけにつき認識する必要がある.人工膝関節置換術(TKA)はデザインの改良,材質の向上,手術手技の進歩により,近年RAにおいても長期的に良好な長期成績が報告されている.しかし,TKAにおけるいくつかの問題点もあり,RAにおける最近の進歩と問題点につき記載した.

専門分野/この1年の進歩

日本膝関節研究会―この1年の進歩

著者: 丹羽滋郎 ,   本庄宏司

ページ範囲:P.356 - P.357

 第33回日本膝関節研究会は,平成9年12月5日,日本教育会館で開催された.今回は本研究会の発起人であられた廣畑和志名誉会長が平成9年6月に急逝されたことをうけ,先生を惜しむとともにその功労を賛え廣畑Memorial Lectureが企画され,池内宏先生の「膝関節鏡と30年」,TDV Cooke先生の「Alignment factors in corrective surgery for arthritic deformed knees」,Kim Conrad Bertin先生の「The Design and Results of the NexGen Total Knee System」の講演が行われた.大変有意義な講演であり,中でも池内先生の膝関節鏡をはじめとする先生の学問に対する情熱に感銘を受けた.本研究会は毎回1つのテーマにより構成されており,今回は前十字靱帯再建術の諸問題と長期成績であり,最近十数年間に急速に進歩した手術手技,評価に対する成果と反省がなされた.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・19

著者: 矢部啓夫

ページ範囲:P.359 - P.361

症例:10歳,女子(図1)
 自転車から降りた直後より右股関節部に疼痛が出現し,歩行不能となり近医を受診した.X線で異常所見を認めたため紹介された.
 現症:右下肢は外旋位をとり,鼠径部に強い圧痛を認めた.自動運動は疼痛のために不能であった.

臨床経験

全層皮膚または粘膜欠損創に対する真皮欠損用グラフトの使用経験

著者: 田中克己 ,   藤井徹 ,   村上隆一

ページ範囲:P.363 - P.368

 抄録:全層皮膚または粘膜欠損創に対しては,現在までに多くの創傷被覆材が開発されているものの,ほとんどが一時的緊急創被覆を目的としたもので創傷治癒への有効性は少ない.今回われわれは,アテロコラーゲンとシリコンフィルムからなる2層性の真皮欠損用グラフトを使用する機会を得た.
 真皮欠損用グラフトを創面に貼付し,母床および周辺組織から内層のコラーゲンスポンジに線維芽細胞と毛細血管が侵入し,瘢痕組織とは異なる真皮様組織が形成された後に薄目の分層植皮術を施行する.小範囲に適用した場合には,シリコンフィルム下の真皮様組織に表皮形成が進展する.腱や骨などの深部組織の露出した全層皮膚または粘膜欠損創10例に対して使用した.6例に植皮術を施行,3例は植皮なしで表皮形成が完了した.1例は感染により中止となったが,症例によっては有用な再建法の1つと考えられた.

MRSA脊髄硬膜内膿瘍の1例

著者: 恒川博巳 ,   本間信吾 ,   奥村潤一郎

ページ範囲:P.369 - P.371

 抄録:持続硬膜外ブロックが原因でMRSA硬膜内膿瘍を引き起こし,対麻痺に至った症例を経験した.症例は51歳男性,近医で持続硬膜外ブロック開始後に発熱,腰背部・両下肢激痛,両下肢麻痺,膀胱直腸障害を生じ,当院に搬送された.経過と画像所見より硬膜外膿瘍や硬膜外血腫を疑って手術を繰り返したが,症状・全身状態とも悪化した.髄液所見と創部からの排膿のため,硬膜切開をしたところ,内部に膿が貯留していた.排膿・ドレナージ,抗生物質投与などを行い炎症は鎮静化したが,両下肢は完全麻痺となった.
 脊髄硬膜内膿瘍は,非常に稀で術前の確定診断も難しいため,その存在を念頭に置いて検査を進め,必要なら硬膜切開も考慮すべきである.

著明な全身骨変形を呈したMcCune-Albright症候群の1例

著者: 山口勝之 ,   北脇文雄 ,   津山研一郎 ,   小西長生 ,   相原雅治 ,   久田原郁夫

ページ範囲:P.373 - P.375

 抄録:著明な全身骨変形を呈したMcCune-Albright症候群の1例を経験した.症例は34歳の男性で,明らかな外傷歴がなく右股部痛を主訴として来院した.入院のうえ,安静,投薬で疼痛は軽快した.股部痛の原因は,右大腿骨の易骨折性のため微少骨折が生じたものと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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