icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科33巻4号

1998年04月発行

雑誌目次

特集 脊椎外科最近の進歩―OPLLを中心として―(第26回日本脊椎外科学会より)

序:脊椎外科最近の進歩

著者: 茂手木三男

ページ範囲:P.382 - P.383

 第26回日本脊椎外科学会は,1997(平成9)年4月18,19日の2日間にわたり,パシフィコ横浜において開催されました.1,300名の参加者があり,口演発表が3会場,展示発表が6会場で行われ活発に討論がなされました.今回は336題の応募演題の中から,3名1組のプログラム委員によって5点法で評価して頂き,その平均点から311題を採用致しました.さらにプログラム委員のご意見を参考にパネルディスカッション,主題,一般演題を含めて160題を口演発表,151題を展示発表と致しました.
 主題は「脊柱靱帯骨化症に関する最近の進歩」と致しました.これは第16回本学会で黒川高秀会長が「脊柱管内靱帯骨化―病態と治療―」として取り上げましたが,それから丁度10年が経過致しました.その間,脊柱靱帯骨化,特に成因と病態に関する研究の進歩は目覚ましいものがあります.第26回本学会でも脊柱靱帯骨化の病因遺伝子解析,培養脊柱靱帯細胞における細胞増殖因子の追究や,免疫学的検討など脊柱靱帯骨化の成因の核心に迫る研究成果の発表がありました.

頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)の遺伝子解析,遺伝子座位の同定

著者: 古賀公明 ,   武富栄二 ,   酒匂崇 ,   沼沢拓也 ,   米和徳 ,   松永俊二 ,   井上逸朗

ページ範囲:P.385 - P.391

 抄録:OPLLの発症については双生児解析,家族内発症,HLAハプロタイプの解析などにより,遺伝的因子が強く示唆されているものの,いろいろな環境因子(後天的要因)がOPLL発症に関与しているため,遺伝的因子を明らかにすることができなかった.そこで,まずOPLL遺伝的因子を明らかにするために遺伝子座位を決定することを試みた.
 OPLL患者家系は53家系で,女性46人,男性78人,罹患同胞対は合計91対である.第6染色体のHLA領域を中心とした遺伝マーカーを用い,患者およびその家族の遺伝子型を決定した後,affected sib-pair(罹患同胞対)連鎖解析プログラムを使用し解析した.

脊椎手術後に発症した肺血栓塞栓症の臨床的検討

著者: 米倉徹 ,   岡島行一 ,   高橋寛 ,   新井克佳 ,   茂手木三男

ページ範囲:P.393 - P.399

 抄録:1993年1月から1996年12月における脊椎手術後発症の肺血栓塞栓症9例について臨床的特徴を検討した.発症頻度は2.3%(男性1.6%,女性3.4%)であり,各年代に発症していたが,特に70歳代(全例男性)の発症頻度が高かった.手術高位,進入経路および固定術併用の有無と発症頻度とは無関係であった.術前のBody Mass Indexが24以上の肥満例に発症頻度が高かった.発症時期は術後最初の体位交換後が5例,離床直後が4例であった.前駆症状では感染徴候を伴わない発熱および頻脈,臨床症状では呼吸困難および胸痛,血液生化学的検査所見では白血球の軽度増加,LDHおよびD-dimerの上昇などが特徴的であった.肺動脈造影の欠損像および縮小像により確定診断が得られたが,3次元肺血流シンチグラムはスクリーニングに有用であった.7例は軽快したが,死亡および抗凝固剤による馬尾神経麻痺を各1例に認めた.

腰椎MRIにおけるblack lineの解剖学的,臨床的検討

著者: 岩渕真澄 ,   菊地臣一 ,   佐藤勝彦

ページ範囲:P.401 - P.406

 抄録:解剖遺体と椎間板ヘルニア症例を用いて,MRIにおけるヘルニア腫瘤周囲の帯状無信号領域(以下black line)の本態とその臨床的意義についての検討を行った.基礎的実験では,解剖遺体3体から腰仙椎を一塊として摘出し,後縦靱帯の切除前後でMRIを撮像した.また,臨床的検討では,腰椎椎間板ヘルニアを有する10例に対してMRIを撮像した.MRIの撮像は,解剖例の1例と臨床例の全例に対し,通常の撮像とエンコード軸を入れ替えた撮像を行った.後縦靱帯切除後のMRIでも3例全例に椎間板後方部にblack lineが認められた.エンコード軸を入れ替えて撮像した1例でblack lineの途絶像が認められた.また,臨床例でもエンコード軸の入れ替えによって,black lineの連続性があった6例中5例で,その途絶像が認められた.以上の結果から,black lineはchemical shift artifactと考えられた.従って,black lineの連続性の有無によって,後縦靱帯穿破を鑑別することの診断的価値はない.

脊髄神経根除圧操作に対する内視鏡脊椎手術の検討―胸腔鏡,後腹膜腔鏡視下腰椎外(内)側アプローチと椎間孔鏡視下神経根除圧を中心に

著者: 出沢明 ,   三木浩 ,   山根友二郎 ,   榊原壌 ,   山川達郎

ページ範囲:P.407 - P.418

 抄録:内視鏡脊椎手術は2次元でのモニター画面での深度覚(deep perception)が欠如し易いために除圧をする範囲と深さがわかりにくい.また,拡大画像での手指―視覚協同運動(eye-hand coordination),臓器触知感覚(tactile sensation)の低下で除圧操作の程度がわかりにくいと言う危惧がある.そこで切離や固定のみの手技は問題が少ないが,細かな手技や3次元での臓器認識が必要となる除圧操作の可能性には様々な疑問が残る.そこでこの問題点を検討した.
 われわれは1995年6月より脊椎前方手術に胸腔鏡,腹腔鏡の内視鏡を導入し39例施行してきた.13例は胸腔鏡であり,23例は後腹腔鏡,3例は経腹腔鏡である.胸腔鏡は肋骨頭を切離し椎弓根を一部切除することにより脊髄の除圧は比較的従来法より安定した確実な視野が保てる.腹腔鏡での除圧操作に様々な工夫が必要である.上位腰椎に対しては後腹膜腔よりの展開が安全で周術期管理がやりやすく一般に認められた手技である.そして剥離後の腔の維持にはCO2ガスを注入し腔を維持する気腹法が一般的である.しかし,われわれは初期の2例以外はコストや海綿骨露出状態での高二酸化炭素血症の問題の解決のためにガスを用いない吊り上げ式後腹膜腔鏡視下アプローチを施行している.脊柱管内の除圧操作は通常の大腰筋を後方へ展開しアプローチする操作であったが神経根までの除圧が不十分であることは否めない.

頚椎後縦靱帯骨化症の臨床経過と脊髄症状発現機序について

著者: 久木田信 ,   松永俊二 ,   永野聡 ,   川畑了大 ,   酒匂崇

ページ範囲:P.419 - P.423

 抄録:頚椎後縦靱帯骨化症の臨床症状の推移を静的圧迫因子と動的因子の関係から脊髄症状発現の機序について検討した.対象は,平均11年2カ月追跡調査した保存経過観察症例167例と,初診時に脊髄症状を呈し手術を施行した80例の計247例である.経過観察中に脊髄症状が発現したり増悪したものは167例中37例であった.脊髄症状を認める群の最小残余脊柱管径は認めない群より有意に小さく,また最小残余脊柱管径が6mm未満で全例脊髄症状を呈し,14mm以上ではみられなかった.最小残余脊柱管径が6mm以上14mm未満の症例は脊髄症状の有無と最小残余脊柱管径に相関は認めず,頚椎全可動域が脊髄症状を認める群で有意に大きかった.このことから骨化靱帯による病的圧迫は一定の臨界点を超えると脊髄症状を惹起する最も重要な因子であるが,それ以下の状態では動的因子の関与が大きいと考えられた.

頚椎後縦靱帯骨化症に対する広範同時除圧椎弓切除術―術後10年以上経過症例について

著者: 宮崎和躬 ,   広藤栄一 ,   小田裕造 ,   松家正彦 ,   小松朋央 ,   吉野仁浩

ページ範囲:P.425 - P.431

 抄録:頚椎OPLLに対して広範同時除圧椎弓切除術(桐田法)を行い,術後10年以上経過した104例(術後平均経過年数14年6カ月)の術後成績を検討し,それらのうち術後平均5年3カ月と今回の術後平均14年8カ月の2回直診可能であった同一症例100例について,第1次および第2次調査時の成績を比較検討した.一般に後方除圧術の成績は経時的に低下するといわれているが,上下,幅とも広範に除圧する桐田法も同様であるかどうかを考察した.JOAスコア17点法で満点および3点以上改善された症例は104例中83例(79.8%)と術後10年以上の症例にかかわらず良好な成績を保ち,それらのうちの100例においても,第1次調査時76例(76%),第2次調査時80例(80%)と有意差なく,良好な成績を維持していた.すなわち,頚椎OPLLに対する桐田法の術後改善例は,経時的に成績が低下することなく,長期にわたり良好な成績が約束される.

脊髄腫瘍非手術例の検討

著者: 鎌田修博 ,   戸山芳昭 ,   松本守雄 ,   市村正一 ,   鈴木信正 ,   藤村祥一 ,   福井康之

ページ範囲:P.433 - P.437

 抄録:MRIの普及により自覚症状の軽微な脊髄腫瘍が発見され,手術適応に躊躇する例が増えている.そこで今後の対応の一助とするため,手術を行わずに経過を観察した脊髄腫瘍17例の臨床像と画像所見,臨床経過を検討した.腫瘍の横断位占拠部位は硬膜内髄外6例,髄内と砂時計腫が各4例などで,その占拠高位は頚髄および脊髄円錐部以下に多く,病理組織学的には神経鞘腫11例,神経線維腫2例などであった.自覚症状は無症状5例,疼痛のみ7例などで,軽度の神経学的異常所見を髄内腫瘍3例にのみ認めた.自覚症状の経過は,改善1例,変化なし15例,悪化1例で,他覚的に神経障害の悪化をきたした例はなかった.以上より,症状のきわめて軽微な脊髄腫瘍では,臨床像と画像所見を検討し,インフォームドコンセントを得た上で,経過を観察することも選択肢の1つと思われる.

骨粗鬆症における脊椎圧迫骨折による後弯変形に対する脊椎後方短縮術

著者: 星野雄一 ,   税田和夫 ,   吉川一郎 ,   大上仁志 ,   中間季雄 ,   刈谷裕成

ページ範囲:P.439 - P.444

 抄録:骨粗鬆症における胸腰椎移行部の圧迫骨折に起因する脊髄麻痺3例に対し,後方進入による脊髄前方除圧および脊椎後方成分の短縮手術を行い,良好な結果を得た.脊椎後方成分を短縮することにより,椎体内の空隙が減じ,また罹患椎体の上下の椎体終板は平行になる.この機序により罹患部の上下の椎体に設置した椎弓根螺子に対する脱転のベクトルが減少し,粗鬆化した椎体でも螺子脱転のない安定した固定性が得られると考えられる.骨粗鬆症患者においては椎体後壁を後方から除圧する操作は比較的容易であり,したがって本法の技術的難易度はさほど高くはないと考える.

脊髄微小血管系の三次元構築についての研究

著者: 張澤安 ,   秋間道夫 ,   野中博子 ,   羽鳥努 ,   長山正史 ,   伊原文恵 ,   岡島行一 ,   茂手木三男

ページ範囲:P.445 - P.452

 抄録:ヒト脊髄の血管鋳型標本,透徹標本および毛細血管染色標本を作成し脊髄の微細血管系の三次元構築について検索した.前脊髄動脈の脊髄表面への分枝は細く少ないが,前脊髄静脈の脊髄表面への分枝は太く多い.脊髄表面の軟膜血管叢の密度は胸髄で一番疎である.中心動脈は波状に,中心静脈はまっすぐに前正中裂を走り,その密度は仙髄>腰髄>頚髄>胸髄の順である.辺縁動脈の分布範囲は灰白質辺縁部までであるが,辺縁静脈は灰白質内部にも分布している.静脈系の髄内吻合,特に中心静脈と後内側,後外側静脈との間の吻合が少なくない.脊髄内部には中心血管系と辺縁血管系両者の共通分布域が見られる.大部分の灰白質は中心,辺縁両系静脈の支配を受けているので,脊髄の静脈性循環障害では灰白質は侵されにくく,主に白質に影響を与えるが,灰白質の循環障害性病変は動脈障害によるものが多いと考えられた.

頚髄MRI横断画像からの術後の予後予測

著者: 松山幸弘 ,   川上紀明 ,   佐藤公治 ,   岩田久 ,   亀山隆 ,   橋詰良夫

ページ範囲:P.455 - P.463

 抄録:手術的治療を受けた後縦靱帯骨化症患者44例において,術前の頚髄MRI横断画像よりBoomerang型,Triangle型,Tear-drop型の3型に分類し,この3型と臨床症候,手術成績との関連について検討を加えた.Triangle型は長期罹病期間を経ており多椎間にわたった病巣をもち,その結果頚髄横断面積の減少,いわゆるatrophyが起こった状態で手術後も横断面積や症状の改善を期待できない脊髄を示したが,Boomerang型,Tear-drop型は比較的短期の罹病期間,しかも単椎間の病巣で,手術後の脊髄横断面積の改善や症状の改善は非常によい可逆性のある状態と考えた.

脊柱靱帯骨化部由来細胞におけるTGF β superfamily ligand受容体およびTSC-22遺伝子の発現

著者: 河内敏行 ,   四宮謙一 ,   山浦伊裟吉 ,   黒佐義郎 ,   野田政樹

ページ範囲:P.465 - P.469

 抄録:頚椎後縦靱帯骨化症は靱帯組織中に異所性骨化が生じる骨増殖症であり,diffuse idiopathic skeletal hyperostosis(Resnick)の一群に分類されうるものである.従来からその成因については,遺伝的背景やホルモンなどの全身的因子等を含め,多くの検討がなされているが未だ明らかにはなっていない.
 近年,サイトカインを初めとする局所因子が骨形成に重要な関わりを持つことが明らかになり,とりわけBone Morphogenetic Protein(BMP)やTransforming Growth Factor β(TGF β)といったTGF β superfamilyは骨形成能を有する成長因子として注目されている.そこで今回われわれは頚椎後縦靱帯骨化症にて前方除圧術を受けた患者の協力を得て採取した細胞をもとにこれらの培養細胞中にBMPやTGF βの受容体(TGF β superfamily ligand receptor)の発現が見られるか否かをmessenger RNAレベルで検討した.また併せて核内転写因子であるTSC-22についても検討を行った.

馬尾性間欠跛行における馬尾弛緩の臨床的意義

著者: 川上守 ,   玉置哲也 ,   吉田宗人 ,   林信宏 ,   安藤宗治 ,   松本卓二 ,   山田宏 ,   浜崎広洋

ページ範囲:P.471 - P.477

 抄録:馬尾性間欠破行を呈した腰部脊柱管狭窄症手術例44例を対象とし,脊髄腔造影前後屈側面像における馬尾弛緩変化と臨床像,手術成績,馬尾弛緩の程度,脊髄腔狭窄変化の関係を検討した.脊髄腔造影正面像で馬尾弛緩が33例,側面像で30例に認められた.脊髄腔造影側面前屈像で馬尾弛緩が消失した症例は19例,不変のものは11例であった.馬尾弛緩の有無,動態像での変化と年齢,性,診断名,手術方法,罹病期間,術前JOA scoreならびに腰椎可動域には有意な関連はなかった.馬尾弛緩の有無は改善率に影響を及ぼさなかったが,馬尾弛緩が重篤で脊髄腔造影の動態側面像で馬尾弛緩が不変の症例は有意に改善率が不良であった.脊髄腔造影前後屈での造影剤通過性変化は手術成績に影響を及ぼさず,馬尾弛緩の有無や前後屈での馬尾弛緩変化とも関連はなかった.術前動態脊髄腔造影で馬尾弛緩とその変化を観察することで手術成績を予測し得る可能性がある.

胸椎後縦靱帯骨化・黄色靱帯骨化合併症に対する前方・後方アプローチによる脊髄全周除圧術

著者: 川原範夫 ,   富田勝郎 ,   水野勝則 ,   新屋陽一 ,   村上英樹

ページ範囲:P.479 - P.485

 抄録:後縦靱帯骨化症(OPLL)と黄色靱帯骨化症(OYL)合併例による胸椎部脊髄症に対して,富田は脊髄を圧迫している骨化巣を全周性に切除する脊髄全周除圧術(circumspinal decompression)を考案した.これはまずステップ1として後方進入にてOYLを切除し,さらに側方の骨化巣切除を行うとともにOPLLの広がりに一致した左右のgutterを作製する.ステップ2として前方進入にて開胸を行い,ステップ1で作製したgutterを目安にしてOPLLを切除し,椎体間固定を行うものである.本疾患に対して脊髄全周除圧術を行った15例中14例に術後麻痺の改善を認め,その日本整形外科学会点数は術前3.6点から術後8点と著明に改善していた.この方法は従来の前方除圧術あるいは後方除圧術のみの場合に比べて明らかに神経学的症状の改善の点で優れており,万全の体制のもとに堅実に行えば,この重篤な疾患の有望な解決策となりうる.

胸椎・腰椎脱臼骨折における構築学的損傷形態の高位別特徴

著者: 芝啓一郎 ,   植田尊善 ,   白澤建蔵 ,   大田秀樹 ,   森英治 ,   力丸俊一 ,   加治浩三 ,   弓削至 ,   竹光義治

ページ範囲:P.487 - P.493

 抄録:Denis(1983)の分類による胸椎・腰椎脱臼骨折で受傷後2週以内に手術的治療を施行した146例の主に術中所見から,その構築学的損傷形態の高位別特徴を明らかにした.椎間関節ロッキング,後方(棘上・棘間,黄色)靱帯断裂,およびposterior arch(椎弓根,椎弓,関節突起間部)の骨折について各損傷高位ごとに調査した,上中位胸椎部(T1-T9)では,椎間関節のロッキングは稀で,主にposterior archの複数の骨折部でposterior columnが断裂し椎体が転位していた.下位胸椎部(T10-T12)では椎間関節の両側ロッキングが,腰椎部(L1-L4)では片側ロッキングが高頻度であった.胸椎・腰椎の脱臼骨折の解剖学的再建においては,症例ごとの脱臼形態に応じた治療が必要であるが,総括して議論するとき,画像や受傷メカニズムによる分類に加えて,上中位胸椎,下位胸椎,および腰椎部の3群の高位別に治療法を比較検討することが望まれる.

Kaneda Anterior Spinal Systemによる胸椎・腰椎前方再建術―破壊性脊椎疾患における適応と成績

著者: 鐙邦芳 ,   金田清志 ,   佐藤栄修 ,   武田直樹 ,   種市洋 ,   伊東学

ページ範囲:P.495 - P.503

 抄録:1983年から,504例の破壊性胸椎・腰椎疾患(胸・腰椎損傷378例,骨粗鬆症に基づく外傷後椎体圧潰71例,脊椎腫瘍45例,その他10例)の再建固定手術にKaneda anterior spinal systemを使用した.椎体置換材料として,椎体圧潰の63例と脊椎腫瘍の36例には生体活性セラミック(AW-GC)製椎体スペーサーを使用し,他の殆どの例には自家骨を用いた.骨癒合率は腫瘍を除き全体で96%と高く,重篤な合併症もなかった.骨癒合率はtransverse connectorを導入した後期のものと最近のKaneda SR systemで特に高かった.脊椎損傷と椎体圧潰での後弯矯正も良好であった.前方脊柱要素の荷重分担率の高い胸椎・腰椎において椎体置換を要する破壊性疾患に対して,Kaneda systemと椎体置換による脊柱再建が有用な方法である.

頚椎後縦靱帯骨化症による脊髄症入院非手術例の予後

著者: 澤村悟 ,   鷲見正敏 ,   片岡治 ,   池田正則 ,   向井宏

ページ範囲:P.505 - P.510

 抄録:頚椎後縦靱帯骨化症(以下,OPLL)による脊髄症の手術適応を知る目的で,保存的治療の効果および自然経過に影響を及ぼす因子について検討した.過去14年間の頚椎OPLL脊髄症のうち,手術を行わずに1年以上の追跡調査が可能であった52例を対象として,X線並びにMRI所見を検討した.X線像による検討では,分節型,混合型といった椎間可動性を有する骨化型,C4/5椎間高位より尾側に脊柱管の最狭窄部位がある症例で追跡調査時に悪化例が多く認められた.MR像による追跡調査結果では,脊髄横断面が三角型を呈するもの,脊髄圧迫の程度の強いもの,髄内に高信号領域を有するもので悪化する傾向が認められた.追跡調査時,52症例中23例(44.2%)に症状の改善がみられたが,悪化例も20例(38.5%)を占め,たとえ軽症例であっても,いたずらに保存的治療に固執することなく,症例によっては手術的治療を考慮すべきであると考えられた.

長期血液透析患者に特有な脊椎病変の病態と手術治療

著者: 伊東学 ,   鐙邦芳 ,   金田清志 ,   武田直樹 ,   佐藤栄修 ,   長谷川匡一 ,   竹林武宏

ページ範囲:P.511 - P.519

 抄録:本研究では破壊性脊椎関節症をはじめとする長期血液透析患者に特有な脊椎病変の手術成績と手術治療上の問題点について検討した.また,術中採取した病巣部の組織所見から高度な脊椎不安定性発生の病態について検討した.手術適応は明らかな神経障害であり,適切な神経除圧術に加え,破壊された脊柱の再建には脊椎固定術を要する.長期透析患者の骨は脆弱であり,確実な骨癒合の獲得には生体力学的強固なinstrumentationの使用が望ましい.術中ならびに術後の全身管理も重大な課題であり,手術侵襲の軽減のみならず麻酔医ならびに透析医との密な連携が本疾患の手術治療には不可欠である.

脊髄症状を伴うRA患者の自然経過―生命予後を中心として

著者: 井尻幸成 ,   砂原伸彦 ,   宮口文宏 ,   松永俊二 ,   森輝男 ,   酒匂崇

ページ範囲:P.521 - P.524

 抄録:慢性関節リウマチ(RA)には脊髄症状を伴った頚椎病変に対し手術が選択されることが多いが,手術に伴う合併症を危惧し保存的治療を主張する意見もある.観血的治療の適応を考える上でも非手術例の予後調査は必要である.われわれは本症の自然経過を知る目的で予後調査を行った.対象は本症患者で拒否等により手術の機会を逸したRA患者16例である.臨床症状の推移をRanawat分類と機能評価を用いて検討した.神経症状は初診時Ranawat分類3A;12例,3B;4例であったのが最終調査時3A;6例(死亡1例),3B;10例(死亡4例)であり,機能評価は初診時起立可1例,車椅子11例,寝たきり4例であったのが最終調査時起立可1例,車椅子6例,寝たきり9例と低下していた.保存的治療を行った脊髄症状を伴うRA患者の予後は,麻痺の進行や日常生活動作の低下を来していた.これは本症に対する観血的治療の適応を考える上で参考となる有用な情報であると考える.

高齢者腰椎変性疾患に対するpedicle screw fixationの適応と限界

著者: 徳橋泰明 ,   松崎浩巳 ,   若林健 ,   石原和泰 ,   佐々木睦朗

ページ範囲:P.525 - P.533

 抄録:pedicle screw fixation(以下PS)併用した70歳以上の不安定性腰椎変性疾患61例と50~69歳のPS併用群107例,不安定性を伴う70歳以上の非固定・除圧群34例を比較して高齢者に対するPSの適応と限界について検討した.その結果,PSは高齢者でも骨癒合は90.2%(50~69歳PS併用群で90.7%),臨床成績はJOA点数平均改善率63.8%(50~69歳PS併用群70.8%,非固定・除圧群40.5%)と概ね良好であった.一方,pedicle screw周囲のclear zoneは術後6カ月で59.0%,最終観察時も31.1%にみられ,50~69歳PS群の各26.1%,12.0%に比較して高率であった.骨萎縮度別clear zone発生率ではシルバーサイエンス分類正常,1度では最終30%以下に減少したが,2度では80%残存した.そのため骨萎縮度1度までは現在のscrewで十分有効と考えられた.一方,骨萎縮度2度や骨粗鬆症骨とスクリュー間に強固な接合力が必要な病態(多椎間固定後隣接椎間障害や後方開大型含複数椎間すべり症)では限界がみられた.

頚椎ForaminotomyとLuschka関節切除が椎間安定性に及ぼす生体力学的効果

著者: 小谷善久 ,   鐙邦芳 ,   金田清志 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.535 - P.541

 抄録:人屍体標本を用いて,頚椎Luschka関節と前方foraminotomyが椎間安定性に及ぼす効果,さらにそれらが前方椎間固定に及ぼす影響を検討した.Luschka関節を左右各3区画ずつに分割し,その各段階的切除後に軸回旋,屈曲,伸展,側屈負荷による生体力学試験を行った.その結果,椎間安定性に及ぼすLuschka関節の役割は後方部分ほど大きく,その主な効果は伸展,側屈,軸回旋の制動であった.片側,両側のforaminotomyは椎間の伸展安定性をそれぞれ30%,36%減少させた.側屈安定性は両側foraminotomyあるいは椎弓根軸より前方部分の後方半分の切除でそれぞれ34%,18%剛性が低下した.椎間高位によるLuschka関節の形態的違いは椎間安定性に反映しており,C3/4椎間でC6/7椎間に比べLuschka関節の軸回旋に対する制動効果が大きかった.polymethylmethacrylate(PMMA)を用いた前方椎間固定の安定性は,foraminotomyの各段階で減少したが,移植骨高を79%増加させることでforaminotomy前に復帰した.腰椎,胸椎の椎間安定性の評価とは異なり,頚椎安定性を考える場合は前方椎間安定要素としてのLuschka関節の重要性に注目すべきである.脊椎腫瘍,外傷,脊椎手術等でLuschka関節が破壊された場合の椎間安定性は多方向性に損なわれ,特に伸展,側屈安定性への影響が大きいといえる.

圧迫性頚髄症に対する高分解能PET(Positron emission tomography)の臨床応用

著者: 内田研造 ,   馬場久敏 ,   前沢靖久 ,   井村慎一 ,   賀本陽子 ,   定藤規弘 ,   米倉義晴

ページ範囲:P.543 - P.548

 抄録:圧迫性頚髄症18例に対し,高分解能PET(18FDG-PET)を用いて,圧迫状態にある頚髄のグルコース代謝量を測定し,コントロールとの比較,臨床症状との関係,およびPETの有用性について検討した.今回求めた頚髄グルコース標準平均摂取量;average standadized uptake value(以下SUV)は,神経根症では正常と同じ値を示したのに対し,脊髄症では有意に減少し,その重篤度(JOAスコア)を反映していると考えられた.術後施行し得た8例においては,頚髄グルコース代謝量のほとんどの例で正常化が認められたが,重症度が高い症例は低値のままであった.圧迫性頚髄症の治療において,画像診断での脊髄形態と麻痺の重篤度,術後の予後の予測といった点においていまだ明らかではない点があるものの,18FDG-PETによるSUV値は頚髄症の重症度を現し,またそれにより頚髄症の予後評価も可能であると考えた.

培養脊柱靱帯細胞に対するBMP-2と他の細胞成長因子の相互作用

著者: 後藤憲一郎 ,   山崎正志 ,   金民世 ,   寺門淳 ,   茂手木博之 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.549 - P.556

 抄録:培養脊柱靱帯細胞に対するBMP-2および他の細胞成長因子の相互作用を,骨形成系細胞への分化度と細胞外基質合成能について検討した.BMP-2は,単独で骨化症由来細胞(OL細胞)の骨形成系細胞への分化を誘導するが,この作用をIGF-1は相乗的に促進し,bFGFは抑制した.このことより,脊柱靱帯細胞が骨形成系細胞へ分化する際には,BMP-2のみが単独で作用するのではなく,IGF-1は促進的に,bFGFは抑制的にBMP-2の作用を制御している可能性が考えられた.また,BMP-2は,単独でOL細胞の基質合成量を増大させる場合があり,この作用もbFGFにより抑制された.したがって,BMP-2が細胞外基質合成にも関与し,この作用もbFGFにより調節を受けている可能性が示唆された.このように脊柱靱帯の骨化が発生・進展していく過程では,多くの細胞成長因子が相互に作用していると考えられた.

脊椎シースを用いた鏡視下腰椎前方固定術

著者: 山縣正庸 ,   山田英夫 ,   高橋和久 ,   菅谷啓之 ,   安原晃一 ,   中村伸一郎 ,   新井元 ,   粟飯原孝人 ,   西須孝 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.557 - P.564

 抄録:当教室では1995(平成7)年8月より内視鏡下に腰椎前方固定術を行っており,これまでにその術式を紹介し,その特長と術中術後の問題点を報告してきた.内視鏡下の腰椎前方固定では操作空間の確保のためのレトラクターの保持が困難,椎間板切除に際しての鉗子の出し入れが煩雑,気腹下での骨切除にはガス塞栓の危険性があるなどの問題があった.そこで,術野の確保のために脊椎シースを作成し,そのシース内で手術操作を行うこととした.脊椎シースは椎体に固定でき一度固定されてしまうと以後の操作に大血管や腸管を避ける操作や器具が不要となる.シース壁に内視鏡が固定でき,明るい視野が確保され,安全に椎間板切除や椎体固定が可能であった.骨切除に際しても,気腹が必要ないためにガス塞栓の危険もなく器具も簡略化できた.ヘルニア摘出など椎間板後方を詳細に観察し神経組織の除圧を必要とする症例には,本術式はよい適応と考える.

細胞生物学的手法を用いたOPLLの成因解析

著者: 山崎正志 ,   金民世 ,   後藤憲一郎 ,   寺門淳 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.567 - P.572

 抄録:OPLL症例16例および非骨化症例13例の脊柱靱帯細胞(OPLL細胞およびnon-OPLL細胞)に対するBMP2,TGF-β1,bFGF,IGF-1の作用を培養系で解析した.検討したほぼ全てのOPLL細胞においてbFGF,IGF-1はDNA合成を,TGF-β1,IGF-1はコラーゲン合成を促進させた.約半数のOPLL細胞においてBMP2はALP活性を上昇させた.一方,non-OPLL細胞におけるBMP2作用後のALP活性は,全ての細胞で不変であった.OPLL症例の脊柱靱帯において各細胞成長因子が過剰発現しているという従来の報告と併せると,各因子はそれぞれ特有の機序で靱帯細胞の増殖,基質合成,分化を調節し,骨化に関与していると推察された.また,OPLL症例の一群ではBMP受容体/シグナル伝達機構の異常を基盤とした骨化の発生進展機構が存在すると考えられた.

長期透析患者の腰部脊柱管狭窄における黄色靱帯肥厚の意義

著者: 久野木順一 ,   真光雄一郎 ,   赤津昇 ,   奥津一郎 ,   蓮江光男

ページ範囲:P.573 - P.580

 抄録:血液透析患者における腰部脊柱管狭窄例11例(平均56.0歳,透析歴平均16.6年)について,手術時に採取された黄色靱帯の厚さ,病理組織学的所見について調べ,非透析群15例(平均63.2歳)と比較した.黄色靱帯の厚さは透析群ではL4/5では3mmから13mm(6.5±3.0mm),非透析群では3mmから6mm(4.1±1.1mm)で透析群で有意に肥厚していた.透析群の病理組織学的所見では,β2microglobulinアミロイド沈着と慢性炎症を伴う線維組織増殖が黄色靱帯肥厚の主因と考えられた.長期透析患者においては,腰椎黄色靱帯肥厚が破壊性脊椎関節症,椎間板膨隆とならび,脊柱管狭窄の重要な圧迫要素となりやすいことが明らかとなった.
 治療法としては破壊性脊椎関節症を伴わない腰部脊柱管狭窄例では,椎弓切除および椎間関節部分切除と肥厚した黄色靱帯の切除のみで,良好な成績が期待できる.

発育期脊椎分離症のすべり進展メカニズムの生体力学的検討

著者: 西良浩一 ,   井形高明 ,   加藤真介 ,   ,  

ページ範囲:P.581 - P.584

 抄録:腰椎分離症が発育期にすべり症へ進展するメカニズムを幼若仔牛屍体腰椎を用い生体力学的に検討した.腰椎可動区分にpars defectsを作製したL群と,pars defectsに加え線維輪の前方75%を切離したAL群の2種類のモデルを作製し,これら脊椎の頭側椎体に前方剪断負荷を与え破損に至らせた.破損負荷量は,L群,AL群で,それぞれ,973.8±78.1,986.8±124.2(N),変位量は,それぞれ,9.6±0.6,11.1±2.3(mm)であり,両群には有意差はなかった.破損部位は,L群,AL群ともに尾側椎体上方部の成長軟骨部で生じた.以上より,幼若分離腰椎のweakest-linkが成長軟骨部であることが明らかとなった.以上の結果は,発育期の分離すべり症は,成長軟骨部すなわち骨性終板と軟骨性終板との解離により発生すると考えられ,従来考えられていた椎間板部でのすべりではないことが生体力学的に示唆された.

胸・腰椎部後弯変形に対するinstrumentationを使用した矯正操作の適応と成績

著者: 平泉裕

ページ範囲:P.585 - P.590

 抄録:胸腰椎部後弯変形に対するinstrumentationを利用した矯正手術の適応と成績を検討した.疾患は陳旧性脊椎骨折8例,脊椎カリエスによる後弯変形4例,脊椎固定術後の後弯変形4例,後側弯症3例,強直性脊椎炎1例の計20例であった.後弯矯正の理由は後弯変形の進行または再発11例,腰背部痛12例,高度の変形6例,隣接部の代償性前弯増強5例,保存的治療失敗5例,褥瘡形成や仰臥位不可能4例,歩行障害4例であった.術後矯正率は前方処置+前方instrumentation 63%,前方処置+後方instrumentation 62%,後方処置+後方instrumentation 69%で,矯正操作別では前方解離操作69%,後方cantilever操作83%,後方楔状骨切り94%であった.胸腰椎部後弯変形に対する矯正手術の利点は,腰背部の易疲労性・疼痛,皮膚障害の改善が良く,社会復帰後のADL改善が得られる点であった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら