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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科33巻5号

1998年05月発行

雑誌目次

視座

地方大学医学部の現状と問題

著者: 高岡邦夫

ページ範囲:P.595 - P.596

 今年も例年のように大学入試と卒業,医師国家試験のシーズンを迎えている.多くの地方大学の整形外科の教室で,新入医局員の勧誘が行われていることと思う.大学病院の整形外科では教室の活性化や地域医療に必要な若い人材の確保は大切であるので当然のことだが,これがなかなか大変である.卒業生の大半が出身地(ほとんどが大都市)へ帰っていくからである.若者の都会志向,一極集中による地方軽視,偏差値による受験大学の選択のため止むを得ないとする意見もあるが,このまま放置すれば多くの地方大学の医学部は存続の危機にさらされることは明らかである.
 一県一医大,私立医大の新設などの政策によって医者の数が急速に増加し,人口10万人あたりの医師数はほぼ200人と欧米先進国なみになったそうである.しかし当地,長野県ではその半分強である.他の地方でも同じ状態であると聞く.つまり,わが国では医師の地域的分布に大きな片寄りがあり,一県一医大の目指す効果が必ずしもでていないともいえる.その上,全国レベルでの医師過剰と医療費の抑制のために,近く医学部学生定員の削減や医学系大学の統廃合が予測されている.そうなれば,今のシステムでは,地方の医師不足はさらに進むものと思われる.

論述

神経線維腫症1型に続発した悪性末梢神経鞘腫瘍の治療成績

著者: 生越章 ,   堀田哲夫 ,   山村倉一郎 ,   塩谷善雄 ,   今泉聡 ,   畠野宏史 ,   高橋栄明 ,   守田哲郎 ,   大塚寛

ページ範囲:P.597 - P.602

 抄録:予後不良とされている神経線維腫症1型に続発した悪性末梢神経鞘腫瘍の治療成績を検討し,治療の問題点を考察した.症例は12例(男性6,女性6)で初診時年齢は15~60歳(平均35歳)であった.初回手術が腫瘍内または辺縁切除であった8例中7例は再発し,6例は転移を生じた.広範囲切除縁が得られた4例に再発はなかったが,2例が転移した.累積5年生存率は23%と不良であったが,皮下発生例には転移はみられなかった.予後改善のために医師患者双方とも神経線維腫症1型には悪性腫瘍が発生しうることを認識し,早期発見につとめるべきである.深部に発生した腫瘍に関しては,広範囲切除を行っても早期に転移を生じる傾向にあるため,強力な補助療法の開発が望まれる.

脊髄腫瘍手術に伴う神経根切除後の神経脱落症状の検討

著者: 山下敏彦 ,   竹林庸雄 ,   横串算敏 ,   三名木泰彦 ,   金谷邦人 ,   石井清一

ページ範囲:P.603 - P.608

 抄録:脊髄腫瘍手術に伴い,上肢および下肢機能に関連する神経根を切除した20症例(男性13例,女性7例)について,術後の神経脱落症状の有無と回復経過を調査した.術後3例に運動機能の悪化が,6例に知覚の悪化が出現し,神経脱落症状の発生率は45%であった.運動機能が悪化した3例は,術後4~8ヵ月で正常筋力に回復した.一方,知覚障害は長期間残存する傾向にあった.術前の筋電図検査で罹病神経根支配筋に脱神経電位を認めた1例で,術後運動機能が悪化した.脱神経電位を認めなかった5例では,運動機能の悪化は起こらなかった.
 神経根を切除しても神経脱落症状が発生しないメカニズムとして,1)上・下肢の筋の多くが多重神経支配を受けていること,2)腫瘍神経根の支配筋では,隣接神経終末からのsproutingにより代償性神経支配が成立することなどが推測される.

亜脱性変形性股関節症に対するCharnley型人工関節の長期成績―臼蓋側骨移植の適応に関する考察

著者: 稲尾茂則 ,   松野丈夫 ,   後藤英司 ,   寺西正 ,   安藤御史

ページ範囲:P.609 - P.614

 抄録:臼蓋形成不全を有する股関節に対して,骨移植をせずにいわゆる改良セメント手技により原臼位設置を行ったCharnley型人工臼蓋の10年以上の長期臨床およびX線評価を行った.症例は23例27股(女性22例25股,男性1例2股)で,手術時平均年齢は63歳(48~72歳),平均経過観察期間は12年4カ月(10年~14年4カ月)であった(経過観察率100%).術前のCrowe分類では,グループⅠが22股,グループⅡが4股,グループⅢが1股であった.臨床評価は,非常に満足するものであり,X線評価では,ソケットの機械的弛みが2股(7%)のみに見られた.本研究により,ソケット上外側端のセメントの厚さ,すなわち骨欠損の高さが20mm未満であれば,フレンジ・ソケットを用いた現在のいわゆる改良セメント手技により,骨移植をせずとも10~15年の良好なソケットの原臼位固定が期待できることが示された.

腰椎変性辷り症における単純X線像を用いた不安定性評価法の信頼性

著者: 川上守 ,   玉置哲也 ,   吉田宗人 ,   林信宏 ,   安藤宗治 ,   加藤健

ページ範囲:P.615 - P.620

 抄録:腰椎変性辷り症20例の術前単純X線像を用いて不安定性の評価に用いられているslip angle(S角),Depius法(D角),%slip,辷り距離のうち,どれが測定者内,測定者間の誤差が少ないかを変動計数(CV%)を用いて検討した.S角とD角は測定者内,測定者間ともに%slip,辷り距離に比し有意に誤差が大きかった.測定者間では%slipならびに辷り距離のCV%は骨棘stage 3で有意な増加がみられた.測定者間の%slipのCV%は椎間腔狭小が進行するにつれて有意に増加したが,辷り距離は安定したCV%を示していた.椎体回旋不安定性の評価であるslip angleやDepius法は椎間辷りの測定法である%slipや辷り距離に比し,測定者内,測定者間で誤差が大きかった.椎間板変性につれて%slipの誤差が測定者間で有意に増大したことから,辷り距離の計測が変性辷り症の不安定性の評価には有用である.

二次性動脈瘤様骨嚢腫に対する外科的治療について

著者: 笠原勝幸 ,   坪山直生 ,   戸口田淳也 ,   中村孝志 ,   中嶋安彬

ページ範囲:P.621 - P.629

 抄録:一次性ABCに関しては未解決な点が多く,hidden precursor tumorを内蔵する二次性ABCの可能性を除外できない.今まで報告された二次性ABCを集計してその前駆骨疾患について考案し,症例報告とともに治療体系について論議する.GCTに対するsurgical adjuvants(SA)と人工骨AW-GCを用いたわれわれの手術方法9)は,一次性ABCだけでなく二次性ABCに対しても有効確実である.特に,症例1,2のようなGCT,BCBに伴う二次性ABCは再発性が強いが,SAを行うことにより前駆疾患に対する確実な治療法となり,また人工骨AW-GCを用いて再建することにより関節機能を温存できる.しかし,症例3のangiosarcomaのように骨原発悪性腫瘍も初期にABCとされる可能性があり,この場合治療体系は全く異なるので特に注意を要する.一次性ABCと診断された症例は悪性腫瘍の可能性も含めて慎重に術後観察を行わねばならない.

前十字靱帯損傷を合併した膝半月板損傷のMRI診断

著者: 佐本信彦 ,   高妻雅和 ,   徳久俊雄 ,   小林邦雄 ,   山田浩己

ページ範囲:P.631 - P.636

 抄録:ACL損傷を合併した膝半月板損傷のMRI診断における特徴,問題点を明らかにするため,ACL損傷群46膝とACL正常群151膝を比較検討した.ACL損傷群外側半月板に対するMRI診断の感度は43.8%であり,ACL損傷群内側半月板およびACL正常群内外側半月板の感度に比べて極端に低かった.また,ACL損傷群外側半月板の後節部縦断裂に偽陰性例が多いことが感度低下の主な原因であった.半月板損傷形態ではACL損傷群に縦断裂が多くみられ,内側半月板で41.4%,外側半月板で50.0%を占めていた.一方,ACL正常群では内側半月板の45.3%が変性断裂,外側半月板の66.1%が円板状半月板断裂であり縦断裂は少数であった.したがって,ACL損傷が理学所見またはMRIで疑われたならば,MRIで半月板に異常が認められなくても外側半月板後節部縦断裂の可能性は否定できない.

手術手技 私のくふう

大腿骨顆上・顆間部骨折に対するIntramedullary supra condylar nailの使用経験―plate群との比較

著者: 近藤英司 ,   井上雅之 ,   斉田通則 ,   大矢卓

ページ範囲:P.637 - P.641

 抄録:大腿骨顆上・顆間部骨折に使用した内固定器具の違いによる手術成績の検討を行った.対象はAO Type Cに相当する11例11肢.年齢は平均62歳.受傷原因はhigh energy損傷が大多数を占め,開放骨折は3例で1例は膝窩動脈損傷を合併した.経過観察期間は平均4.3年.AO分類ではType C1:3例,C2:6例,C3:2例であった.主な内固定器具はplate群が7例,retrograde intramedullary supra condylar nail(IMSC)が4例であった.全荷重時期はplate群14.9週,IMSC 10週(p<0.05).X線学的にはLindahl's angleがplate群41.1°,IMSC 32.8°,condyle shiftはそれぞれ36.8%,55.9%とplate群で有意に顆部の伸展変形と内側偏位を認めた(p<0.05).Neer変法による術後成績はplate群が68.3点,IMSC 74点であった.IMSCは適切なalignmentを獲得しやすく,早期荷重に耐えうるstabilityがあり同骨折に対し,優れた一方法であると思われた.

整形外科基礎

フィブリン糊がチタニウムファイバーメッシュメタルへのbone ingrowthに与える影響―組織形態学的検討

著者: 曽田是則 ,   黒瀬靖郎 ,   山中威彦

ページ範囲:P.643 - P.647

 抄録:セメントレス人工関節手術の出血対策にフィブリン糊が有効との報告が散見されるが,インプラントと骨との介在物となりbone ingrowthを阻害するのではないかという疑問が生じる.そこで,ポーラスタイプ人工関節に使用されているチタニウムファイバーメッシュ(TFM)内へのbone ingrowthのフィブリン糊による影響を組織学形態学的に検討した.日本白色成熟家兎24羽を使用し,膝関節面よりチタン製plugをpress fitの状態で骨孔に挿入(Ⅰ群),plugのTFM部にフィブリン糊を塗布した後,対側の骨孔に挿入(Ⅱ群)した.術後2,5,6,13週時に屠殺し切片をトルイジンブルー染色,光学顕微鏡にて各群,各週時で比較検討した.新生骨面積占拠率,最大進入深度ともに両群とも経時的に増加していたが,両群間での有意な差は認められなかった.本研究より,出血対策に使用されるフィブリン糊はbone ingrowthには影響を及ぼさず,安全に使用しうるものと思われた.

連載 リウマチ―最新治療のポイントとその留意点・7

足部関節罹患への対応

著者: 井口傑

ページ範囲:P.649 - P.654

 抄録:リウマチ様関節炎(以下リウマチと略す)が足部の関節に初発することは少なくはなく,手部と同様である.主な変形は外反扁平足と開張足を伴った外反母趾,中足基節間関節(MTP関節)の脱臼と槌趾である.荷重と靴の圧迫による障害が特徴で,変形は胼胝や潰瘍を生じ,特に中足骨骨頭部では足底の皮下脂肪の退縮も伴って疼痛を生じる.荷重位での診察,X線写真が重要で,変形が可逆的な間に診断治療せねばならない.保存療法は足底挿板による圧の分散とロッカーボトムによる安静が中心となる.前足部の手術はMTP関節切除術,後足部は三関節固定術が主で,母趾のMTP関節,距舟関節,足関節などの固定術も行われる.リウマチが全身性の疾患で,足部は支持と歩行を司る下肢の一部であることを忘れずに治療計画を立てることが肝心である.また,リウマチ患者の機能が変形に比べて良好なことも忘れてはならない.

基礎知識/知ってるつもり

Intrinsic plus変形

著者: 諸橋政樻

ページ範囲:P.658 - P.661

 【変形の形】
 安静時あるいは指伸展時に,MP関節屈曲位,PIP関節伸展位,DIP関節伸展位か軽度屈曲位となる肢位(変形).
 症例により上記変形に加えて母指と小指が内転拘縮位をとり中手骨列の横アーチが増すと,いわゆる“袖通し肢位”と呼ばれる1,3)(図1-a).

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・20

著者: 松永俊二

ページ範囲:P.662 - P.665

症例:55歳,女性(図1)
 主訴:後頭・後頚部痛,四肢のしびれ,歩行障害
 15年間の慢性関節リウマチの既往があり,現在,Class 3,Stage Ⅳの状態である.10年前よりステロイドを服用している.2年前から頑固な後頭・後頚部痛があった.両膝関節の人工関節置換術を施行され,術後は杖歩行が可能となっていたが,最近四肢にしびれが生じ,また起立・歩行が困難となってきた.転倒などの明らかな外傷の既往はない.

整形外科英語ア・ラ・カルト・65

整形外科分野で使われる用語・その28

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.666 - P.667

●Kocher(コッカー)
 この言葉を日本語ではドイツ語式に“コッヘル”と発音し,外科医や整形外科医なら“コッヘル鉗子”を思い出すであろう.
 コッヘルは非常に有名なスイスの外科医の名前であり,フル・ネームを“Emil Theodor Kocher”(1841-1917)という.スイスはベルン(Bern)に生まれ,ベルン大学外科の教授に就任し,生涯をベルンで過ごした.

ついである記・23

アラブ首長国連邦のDubai

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.668 - P.669

●アラブ首長国連邦とは
 アラブ諸国と呼ばれる国々は約20カ国より成り,主としてアラビア半島と北アフリカに位置している.その内,8カ国が政治形態としては君主制をとり,他は共和制をとっている.君主制といってもモロッコ(ハッサン2世),ヨルダン(フセイン国王),サウジアラビア(ファハド国王)などのように宗教的および政治的指導者を兼務した国王によって治められている国と,政治的な指導性をあまり強く持たない首長(SultanやSheik)によって治められている国とがある.アラブ首長国連邦は7つの首長国から成る連邦制をとっており,連邦の最高位者は大統領と呼ばれている.アラブ首長国連邦(United Arab Emirates,U. A. E)のemirという言葉は英語で族長とか土候という意味なので,小さな部族集団が自衛のために連邦制をとって政治・経済上の行動を共にしているのだと考えてもよかろう.アラブ首長国連邦全体の主都機能はアブダビ首長国のアブダビ(Abudabi)にあるが,ドバイ首長国のドバイ(Dubai)との間に主導権争いが絶えないという.

臨床経験

関節穿刺と洗浄にて治癒せしめ得た小児化膿性肩関節炎が疑われた1治験例

著者: 成重崇 ,   渋田秀雄 ,   岩野孝彦 ,   日置繁 ,   三好光太 ,   穴水依人 ,   菊池恭子 ,   池田敏之 ,   馬見塚尚孝 ,   田渕健一

ページ範囲:P.671 - P.674

 抄録:関節穿刺による排膿および洗浄で良好な結果が得られた小児化膿性肩関節炎と思われる1例を経験したので報告する.症例は8歳の女児で発熱,左肩関節痛を主訴に当科を受診した.入院後の抗生剤投与と発症4,5日目の関節穿刺および洗浄により症状は軽快した.起炎菌は不明であった.発症後1.5年の単純X線像はほぼ正常で,疼痛なく可動域も左右差はなくなっていた.
 本邦の報告例を検討したところ,発症4日以内に関節穿刺にて排膿が行われた例では機能障害や関節変形もなく治癒していた.したがって,基礎疾患がない発症早期の小児化膿性肩関節炎の症例は,起炎菌に関係なく,関節穿刺および抗生剤投与にて加療できるのではないかと思われた.

脊椎インストゥルメンテーションを併用した化膿性脊椎炎の治療経験

著者: 平澤洋一郎 ,   加藤浩 ,   吉野恭正 ,   飯田惣授

ページ範囲:P.675 - P.679

 抄録:後方脊椎インストゥルメンテーションを併用した化膿性脊椎炎の一期的前・後方掻爬固定術の治療成績を報告する.対象は6例で,手術時年齢は36~80歳(平均64歳),罹患高位は胸椎2例,胸腰椎移行部1例,腰椎3例,罹患椎間は全例1椎間であった.神経症状は4例にみられ,術前の罹病期間は2.5カ月から9カ月(平均5.4カ月)で,平均87日の保存療法を行った.術後経過観察期間は8カ月から35カ月(平均18.5カ月)であった.手術は,前方掻爬固定術の後,体位変換し,後方よりペディクルスクリューシステムを用いて固定した.スクリュー刺入は,造影MRで病巣が波及していない椎体に行った.離床までの期間は7~15日(平均11日)であった.神経症状はEismont class分類で,一段階3例,二段階1例改善した.感染の増悪もなく全例骨癒合し,後弯の進行はみられなかった.本法はスクリュー刺入高位の決定を造影MRで確認して行う限り,化膿性脊椎炎に対しても有用な方法と思われる.

カフェイン併用化学療法が奏功した骨外性軟骨肉腫の2例

著者: 舩木清人 ,   土屋弘行 ,   朝田尚宏 ,   中條正博 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.681 - P.685

 抄録:われわれは2例の骨外性軟骨肉腫(粘液型1例,間葉型1例)に対し,カフェイン併用術前動注化学療法を行った.投与量はシスプラチンを120mg/m2で1~2時間で,アドリアマイシンを30mg/m2で2日間,カフェインを1,500mg/m2で3日間持続点滴した.症例1には5コース,症例2には放射線療法を併用し4コースを行った.臨床的効果判定は2例ともPRであった.また,組織学的効果判定では2例ともに壊死率が80%で,Rosen-Huvos分類でGrade Ⅱであった.骨外性軟骨肉腫は悪性度が高く予後が不良であるため,術前の放射線治療や化学療法が必要と考えられ,われわれの症例では腫瘍の局所縮小効果によって患肢温存術が可能となった.

多発性骨嚢腫の1例

著者: 三谷誠 ,   立花敏弘 ,   長尾憲孝

ページ範囲:P.687 - P.690

 今回われわれは稀な多発性骨嚢腫の1例を経験したので報告する.症例は69歳女性.左足部を捻り左第1中足骨骨折を生じた.同部に骨嚢腫が認められ病的骨折と考えられたが,左橈骨遠位端の骨嚢腫に伴う病的骨折の既往があり,他に左第二,第三中手骨,右第四中手骨,右第一中足骨にも骨嚢腫がみられ,ほぼ左右対称性の発症であった.病的骨折を起こした左第一中足骨に対して掻爬ならびに骨移植を行った.骨嚢腫の内容液の生化学所見では蛋白分画や電解質は単発性骨嚢腫の場合と同様に血清の組成とほぼ類似していた.骨嚢腫部の病理組織学的所見でも単発性骨嚢腫と類似した所見であった.術後8カ月の現在,再発はなく経過は良好である.多発性骨嚢腫は内容液の生化学所見ならびに病理組織学的所見から単発性骨嚢腫と類似した病態と考えられるが,有意に年長者に発症し,左右対称性に好発するなどの疫学的特徴よりみてそれ以外の素因の関与も考えられる.

足部の多発骨折を伴う舟状骨底側脱臼骨折の1例

著者: 合田泰幸 ,   鄭昌吉

ページ範囲:P.691 - P.693

 抄録:足部の多発骨折を伴う舟状骨底側脱臼骨折の1例を経験した.症例は58歳男性.土木作業中,後方より作業車(ユンボ)が接近し,コンクリートとの間にはさまれ受傷し,本院へ受診した.右足の変形著明で,右下腿後面には,広範な挫創を認めた.X線上,右舟状骨底側脱臼骨折・立方骨亀裂骨折・足関節両踝骨折・脛骨関節面剥離骨折を認めた.治療は,脱臼骨折に対しては徒手整復後にKirschner鋼線にて固定した.後日,足関節両踝骨折に対しては内固定を,広範な挫創に対しては遊離植皮を行った.足舟状骨脱臼骨折は,比較的稀な外傷である.その中でも底側脱臼骨折は,背側脱臼骨折に比べ,さらに稀であり,本邦では明らかな報告はない.本症例は,後方より足関節背屈強制位で足部縦軸方向に外力が加わり,さらに外反捻転力が作用して,舟状骨に底側への強い圧力が働くという通常では極めて起こりにくい受傷機転が働いたことによるものと考えられた.

Bony shellが消失したが悪性の腫瘍態度を示さなかった骨巨細胞腫の1例

著者: 浅野昌育 ,   石川忠也 ,   中島浩敦 ,   鳥居行雄 ,   日比敦夫 ,   柘植哲 ,   大澤良充 ,   呉和朗 ,   金康秀 ,   武田斉子 ,   山田順亮

ページ範囲:P.695 - P.699

 抄録:X線像の骨巨細胞腫のbony shellの消失は悪性を意味するかどうか,われわれはCompanacciのいうaggressive GCTの臨床的意味を検討した.54歳男性の左膝外側の疼痛と腫脹で発見された左腓骨頭の巨細胞腫は“ちょうちん”様のX線像を示し,そのbony shellは大半が消失し,CT scanでもそれは確認された.内部の石灰化,骨膜反応もなかった.biopsy後総腓骨神経を含めた広範切除を行った.組織像はgrade 1 GCTだった.storiform patternもなかった.術後3年1カ月再発はない.
 推論として,骨巨細胞腫のbony shellはすべて消失の方向に進む.荷重骨では痛みが早期に起こりbony shellが保たれた状態で発見され,腓骨のように比較的荷重のかからない場合は痛みが起こらずbony shellの消失が進んでから発見される.ただ発見の時期の違いがあるだけであると考えた.bony shellの消失した骨巨細胞腫=高悪性度巨細胞腫の図式は成り立たないと考えた.

𦙾骨骨幹部腫瘍切除後に,血管柄付腓骨移植と術中体外照射自家骨移植を併用した1例

著者: 小畑浩一 ,   倉都滋之 ,   荒木信人 ,   西原俊作 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.701 - P.704

 抄録:病的骨折を伴った𦙾骨骨幹部腫瘍の広範切除後に,血管柄付腓骨移植と術中体外照射自家骨移植を併用し,早期から十分な支持性が得られ全荷重歩行が可能となった1例を報告する.症例は16歳,男性.主訴は右𦙾骨骨幹部異常陰影.近医で画像上,右𦙾骨骨腫瘍を疑われ,生検の結果adamantinomaと診断された.生検後,病的骨折を来したため,ギプス固定を受けた状態で当科を紹介された.腫瘍広範切除後,再建に術中体外照射自家骨と血管柄付腓骨を併用した.術後5カ月で,接合部の近位,遠位ともに完全な骨癒合を認め全荷重開始した.術後6ヵ月で軽いジョギングも可能である.長管骨骨幹部悪性骨腫瘍の広範切除後に生じた広範な骨欠損を再建する際,本症例のような方法も選択肢の一つであると考える.

Ilizarov法による再建を試みた小児大腿骨頚部Ewing肉腫の1例

著者: 萩原教夫 ,   土屋弘行 ,   砂山千明 ,   篠川禎久 ,   峰松康治 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.705 - P.709

 抄録:10歳女児の大腿骨頚部に発生したEwing肉腫に対して,Ilizarov法を用いて患肢温存再建術を施行した.腫瘍切除により生じた骨の欠損部分に大腿骨骨幹部から採取した自家骨を用いて,大腿骨頚部を再建した.また,骨盤と大腿骨近位部の固定と同時に再建術施行後に生じた脚長差に対してIlizarov創外固定器を装着して脚延長術を行った.術後約3カ月で8cmの脚延長後,術後9カ月にてIlizarov創外固定器を抜去した.術後22カ月,X線上大腿骨頭のcollapseを認めるものの,疼痛なく,装具にて独歩可能である.腫瘍切除後の患肢再建には多くの方法があるが,今回われわれは小児例に対して関節機能を温存した再建術の1つとして,Ilizarov法を用いた自家骨のみによる患肢温存再建術を試みた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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