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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科33巻6号

1998年06月発行

雑誌目次

視座

脊椎固定術の夕暮れ

著者: 野原裕

ページ範囲:P.713 - P.713

 脊椎外来を担当していると老人との出会いが少なくない.「老化現象は治らないのですか?」という質問はよくされる.若返りの妙薬を開発中ですと答えているが,真剣な表情をみると無力感におそわれる.私たちのなせる手術は根治的とは言っても所詮対症療法に過ぎないのである.
 その状況に変化はないが,近年の脊椎外科の治療成績は著しく向上した.その要因は画像診断を含む病態把握力の進歩,それに対応した術式の開発・実践,さらに脊椎インストゥルメンテーションの出現である.脊椎外科医は洗練され,その結果は保存療法へもフィードバックされてきた.一昔前,脊椎外科は君子危うきに近寄らずであったことを思うと隔世の感がある.

論述

陳旧性膝後十字靱帯単独損傷に対する多重束膝屈筋腱―hybrid代用材料を用いた鏡視下再建術の成績

著者: 酒井俊彦 ,   安田和則 ,   宮田康史 ,   木村正一 ,   三上将 ,   中野秀昭 ,   宮城登 ,   金田清志

ページ範囲:P.715 - P.720

 抄録:陳旧性膝後十字靱帯(PCL)単独損傷例に対して行った多重束自家膝屈筋腱―hybrid代用材料を用いる鏡視下PCL再建術の成績を客観的に評価した.対象は術後1年以上を経過した16人16膝である.Stryker社製Knee Laxity Testerによる90°屈曲位での膝前後総合動揺性(±133N引き出し力)の対健側差は術前平均8.1mmが調査時平均2.4mmに改善した.個人別にみると,3mm以下(正常)の症例は73%,3~5mmが13%,5mm以上が13%であった.術後膝可動域は0~146°であった.IKDC評価は正常が4膝,ほぼ正常が9膝,異常が3膝,著明な異常が0膝であった.本研究は多重束自家膝屈筋腱―hybrid代用材料がPCL再建術の移植材料として有用であることを示した.

良性骨腫瘍の病巣掻爬に対するハイドロキシアパタイト製材充填の治療成績

著者: 恩賀能史 ,   山本哲司 ,   丸井隆 ,   水野耕作

ページ範囲:P.721 - P.725

 抄録:良性骨腫瘍33例に対し病巣掻爬または切除術後にハイドロキシアパタイト(HA)製材の充填を行い良好な結果を得た.全例,術後単純X線像上HA周囲にみられた間隙は消失し骨形成を認めた.HA周囲のradiolucent zoneが消失するまでの期間は平均4.6ヵ月で20歳以下では平均3.2ヵ月であった.術後2例に疼痛を生じたが,ともに末節骨の内軟骨腫で術中HAが皮下に散逸した症例であった.術後変形や骨折を来した症例はなかった.再発は3例にみられた.下肢の病変に対する荷重時期はHAの力学的強度の問題と骨形成の判定の困難さから,自家骨移植を行った場合の1.5倍を目安とし,大きな病変に対して平均10.3週とした.免荷期間を短縮するための内固定は賛否両論あり,HAの使用はあくまで腸骨採取などの手術侵襲を軽減する目的であるため,骨折を生じた場合を除き後療法を短縮する目的で使用するべきではないと考えている.

化膿性脊椎炎の現況と最近の特徴的な症例に対する対策

著者: 土井照夫 ,   宮内晃 ,   橋本一彦 ,   森俊陽 ,   山本利美雄

ページ範囲:P.727 - P.735

 抄録:最近,臨床の各分野で感染症が大きな問題となってきているが,脊椎外科の分野でも化膿性脊椎炎が増加し,特徴的な臨床像を示すものが現れてきた.その主な原因は悪性腫瘍患者,透析患者などいわゆるcompromised hostにおける発症が増加したことであり,そのほとんどが胸・腹部手術の術後感染などに引き続いて発症していた.脊椎自体の術後感染による脊椎炎も増加していた.これら脊椎炎では起炎菌にも変化がみられ特徴的な臨床像を呈して,新たな対応を必要とした.compromised hostの胸・腹部手術に続発したものはMRSA感染によるものが多く,ドレナージを主とした治療を行って良好な結果が得られたが,手術適応の問題など今後の大きな課題である.脊椎の術後感染によるものは脊柱管内の術前の病巣の残存,椎間板腔からの壊死組織の脱出などがあり,抗生剤の効果を確めて,後方からの神経除圧,椎間板腔および上下椎体の病巣切除,骨移植,pedicular screw固定で好結果を得た.

連載 リウマチ―最新治療のポイントと留意点・8

肘関節疾患への対応

著者: 正富隆 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.737 - P.742

 抄録:肘関節は慢性関節リウマチ患者上肢のリーチ機能に関して重要な位置を占め,その再建術は大きなADL改善をもたらす.荷重関節ではないため,可動性が維持されれば多少の疼痛残存や不安定性は容認される傾向にあるが,不安定肘は尺骨神経障害や疼痛の増悪を招き,その時点での再建術は患者への侵襲は多大なものとなる.リウマチの肘関節破壊の自然経過も明らかとなり,人工肘関節の手術成績も安定してきている現在,関節破壊と病型に応じた手術適応を再考すべきである.薬物コントロールの困難な骨破壊の軽度な症例に対する滑膜切除術については問題ないが,上腕骨滑車が充分に残存しない症例に対する滑膜切除術は除痛効果も短期で不安定肘をきたすため,bone stockを温存できるタイプの人工関節置換術を考えるべきである.また,ムチランス型や人工関節後のゆるみ例のような高度の骨欠損を有する症例に対しても,骨移植を併用した非制動型人工関節置換術の成績も良く,リウマチ肘に対して積極的により高度なゴールを目指した再建術を考慮すべきである.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・21

著者: 安達伸生 ,   越智光夫

ページ範囲:P.745 - P.748

症例:14歳,女性,バレーボール部
主訴:右膝痛
現病歴:小学校4年生よりバレーボールをしている.約3ヵ月前より,外傷歴なくジャンプの着地や階段昇降時に右膝前面の疼痛が生じるようになった.湿布をして様子を見ていたが軽快せず,疼痛が徐々に増強するため当科を受診した.

整形外科英語ア・ラ・カルト・66

整形外科分野で使われる用語・その29

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.750 - P.751

●laceration(ラセレィション)
 これは切創のことであるが,この語源はラテン語の“lacerare”(ラケラール)から派生した“lacer”(ラケル・引き裂かれた)に由来している.一般大衆は切創を通常,単に“cut”という.切創の“創”の字は皮膚が切れる“きず”を意味し,刀きずを“刀創”,銃で皮膚にきずがつけば“銃創”という.皮下の“きず”を“傷”といい,皮膚とその下に存在する“きず”をまとめて“創傷”という.英語では創傷のことは簡単に“wound”(ウーンド)である.

ついである記・24

Prahaの春

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.752 - P.753

●ヨーロッパの中央に位置する国
 日本人の多くが東欧諸国といえばポーランド,チェコ,ハンガリー,旧ユーゴスラビアなど,かつて共産圏に属したすべての国々を指すものと莫然と考えているようであるが,これらの国の人々は自分達の国を東欧諸国と呼ばれるのを好まない.それは地理的な認識からだけではなく,彼等にとっては東欧諸国とはウクライナ,ルーマニア,ブルガリアなど西欧化の進んでいない貧しい国々を意味するからだ.特に,チェコの人々にはその気持ちが強いようだ.例えば,私の古い友人であるプラハのマテヨウスキー教授は「チェコはヨーロッパの中心に位置し,首都プラハはウィーンと較べて200kmも西側にあるのだから,チェコを東欧諸国の1つであると考えるのは全くの誤りだ」と屢々強調する.地図を開いてみると,なる程,彼の言う通りだ.ウラル山脈以西をヨーロッパと呼ぶなら,チェコはその中心よりもかなり西側に位置している.このような理由から,チェコ,オーストリア,ハンガリーなどの位置する地域を呼ぶ時には「中央ヨーロッパ」というのがよいと思われる.これらの国々はさすがヨーロッパの中心に位置するだけに,古い歴史と深い文化を持っており,その首都であるプラハ,ウィーン,ブダペストはそれぞれに独特の澁く美しい輝きを放っている.

臨床経験

環軸椎不安定症に対する治療経験―外傷を契機として発症し,長期経過した5例

著者: 成田穂積 ,   星忠行 ,   三戸明夫 ,   徳谷聡 ,   油川修一 ,   原田征行

ページ範囲:P.755 - P.761

 抄録:外傷性環軸椎不安定症の長期経過例が,交通外傷などを契機に症状が悪化し,手術治療を行った5例を経験した.2例が歯突起偽関節,3例が環軸椎亜脱臼であった.全例男性で,手術時年齢は36~64歳(平均49.6歳)であった.環軸椎不安定症をきたした最初の外傷から手術までの経過期間は,8~30年(平均21.4年)であった.1例は仕事中の頭部打撲,2例は交通事故,2例は日常生活で症状悪化をきたし,手術に至った.われわれは,外傷性環軸椎不安定症の長期経過例に対する手術適応について,1)環軸椎不安定症による神経症状が明らかであるもの,2)前屈位有効脊柱管距離が13mm以下,3)有効脊柱管距離の不安定係数が20%以上は,二次的外傷による脊髄損傷の可能性が高く,手術の絶対的適応と考える.また,4)環椎歯突起間距離が5mm以上は,比較的適応と考える.

ペルテス病に対する骨頭回転骨切り術の経験

著者: 萩原教夫 ,   沢口毅 ,   増山茂 ,   吉田晃 ,   永嶋恵子 ,   上原健治

ページ範囲:P.763 - P.766

 抄録:ペルテス病を発症時よりMRIにて経時的に観察し,また骨頭回転骨切り術を施行し,良好な経過を示した症例を経験した.症例は8歳7カ月の男子で誘因なく左股関節痛,跛行が出現した.発症後1ヵ月のMRIではT1,T2強調像ともに骨端核の上外側部に低信号域を認めた.発症後7カ月では低信号域は骨端核全体に拡大した.壊死と考えられる低信号域は骨頭の上外側より始まり,次第に全体に広がったことから,はじめに血行障害による壊死に陥りやすい状態が存在し,荷重などの機械的ストレスが加わることにより阻血が発生し,壊死が拡大すると推察された.治療は大腿骨頭回転骨切り術を施行し,術後13ヵ月現在,分核期を経ずに修復期が進行し経過は良好である.本術式は短期間に修復が起こるが,骨端線の回転による骨頭の発育や大転子部切離による影響について経過観察が必要である.

病巣掻爬術単独による指趾内軟骨腫の治療成績

著者: 牧範聡 ,   伊崎寿之 ,   冨士川恭輔

ページ範囲:P.767 - P.770

 内軟骨腫に対する治療は病巣掻爬および骨移植術が一般的である.今回われわれは,指趾内軟骨腫に対し骨移植を行わずに病巣掻爬術のみを施行した症例を経時的に観察し検討した.適応は少なくとも1側の骨皮質が残存しており,重作業に従事していない症例とした.対象となった症例は指趾内軟骨腫10例で,全例単発性であった.術後は外固定を行わず,抜糸後は日常生活での使用を許可した.術後2~4ヵ月で単純X線写真上骨新生が明らかとなり,6~9ヵ月で腫瘍掻爬部全体が新生骨で満たされた.病巣掻爬術単独で行う本法の長所は,採骨による侵襲がないこと,人工骨などの異物を用いないことなどが挙げられる.一方,短所は術後に骨の強度低下が危惧されることが挙げられる.今回,掻爬部に大きな外力が働く恐れのある症例や骨強度の著しい低下が予想される症例を除外することにより,指趾内軟骨腫は病巣掻爬術単独でも治癒が可能であった.

保存的に治療されたbipolar型人工骨頭disassemblyの2例

著者: 稲田充 ,   今泉司 ,   上村万治 ,   山田邦雄 ,   高田直也 ,   金嘉朗 ,   神山文明 ,   鈴木達人 ,   鈴木浩之

ページ範囲:P.771 - P.774

 抄録:bipolar型人工骨頭置換術後にdisassemblyを生じた稀な症例を2例経験した.症例1は73歳の男性.59歳時,左大腿骨頚部骨折のため人工骨頭置換術を施行された.67歳時,しゃがんだ際にdisassemblyを認めたため入院し3日間の牽引後,X線像にて整復位が得られていることを確認した.症例2は60歳の女性.55歳時,両大腿骨骨頭壊死のため両股関節に対し人工骨頭置換術が施行された.57歳時,右人工骨頭にlooseningを生じたため再置換術が施行された.60歳時に股関節の内転,屈曲,内旋位を強制した際にdisassemblyをきたしたが,透視下にて徒手整復を試み整復可能であった.

病理組織像で確認された仙骨部perineurial cyst―2例報告

著者: 渡辺健 ,   遠藤健司 ,   西野誠一 ,   伊藤公一 ,   市丸勝二 ,   今給黎篤弘 ,   草間博

ページ範囲:P.775 - P.778

 抄録:MRIの普及により腰部,下肢痛の原因としてのsacral cystの報告は散見されるが,1938年にTarlov1)が名付けたperineurial cystは,報告例も少なく診断面でも問題を残している.われわれは,仙骨に発生したperineurial cystの症例を2例経験したので,病理像を含め,文献的考察を加えて報告する.
 症例1は25歳女性,主訴は腰痛,右殿部のしびれ感であった.腰椎椎間板ヘルニアの疑いで行ったMRIにて偶然仙骨部に,囊腫様像を発見できた.症例2は46歳女性,主訴は腰痛,尿失禁.馬尾腫瘍の疑いで行ったMRIで,仙骨部に一致した囊腫像を発見した.

著明な外旋転位を呈した新生児上腕骨近位骨端離開の長期追跡例

著者: 山崎智 ,   小川清久 ,   浪花豊寿 ,   宇井通雅

ページ範囲:P.779 - P.782

 抄録:著しい外旋転位をきたした新生児上腕骨近位骨端離開を12年間追跡した結果,回旋転位の矯正とADL上の著しい改善を認めた.症例は単殿位分娩の際,臍帯が絡まって右上肢挙上位で出生した生後14日目の女児である.初診時,右上肢は外転外旋位にあり,仮性麻痺を呈していた.単純X線では上腕骨骨幹近位部に著明な仮骨形成と鎖骨骨折を認めた.関節造影で脱臼がないことを確認し,経過観察したところ,生下時には70゜以上あったと推測された外旋転位は,12歳時には約40°までに矯正され,ADL上の支障は全くなくなった.
 本症による上腕骨の回旋転位は矯正され得ることが確認された.さらに,複合関節としての肩関節を構成する諸要素の代償作用も加わり,著明な改善が起こったと推測された.従って,本症による転位に対する早期手術療法の適応はないと考えられる.

軟部組織の骨化を主体としたmelorheostosisの1症例

著者: 吉富啓之 ,   田中千晶 ,   四方實彦

ページ範囲:P.783 - P.786

 抄録:melorheostosisは本邦で73例の報告がある比較的稀な骨疾患である.われわれは軟部組織の骨化を主体とするmelorheostosisの1症例を経験した.症例は65歳男性.主訴は左殿部,左膝窩,左足部の腫瘤と疼痛である.20年前に他院にて左殿部の骨化した腫瘤を切除している.疼痛は軽快したが次第に腫瘤が増大し3年前に再び疼痛が出現した.骨代謝関係の電解質,ホルモンは正常である.脚長差はない.レントゲン写真上,左坐骨後面,大腿骨後面,膝窩に軟部組織内の骨化と左踵骨,立方骨,第5趾中足骨,趾骨の骨硬化と肥厚を認めた.骨シンチでは病変部に一致して取り込みを認めた.殿部骨化巣と踵骨骨隆起,左第5中足骨と趾骨の切除を行い,疼痛は消失した.病理組織では正常の構造をもつ非常に硬化した骨が認められた.病変はsclerotomeで左S1,2神経支配に一致していると考えられた.

小児に発症し関節鏡視下骨穿孔術を施行した距骨滑車離断性骨軟骨炎の1例

著者: 青芝秀幸 ,   野口昌彦 ,   茶谷賢一 ,   土田雄一 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.787 - P.791

 抄録:距骨滑車離断性骨軟骨炎は小児に発症することは少なく,特に,10歳未満では稀である.また,小児では保存療法が有効とされる.今回,われわれは学童期に発症した距骨滑車離断性骨軟骨炎の1例を経験し,骨穿孔術により良好な結果を得たので報告する.症例は7歳,女児で外傷の既往なく右足関節痛が出現した.単純X線像およびMRIで距骨滑車の中央および内側から後方にかけて骨軟骨病巣を認めた.PTBによる10カ月の免荷療法を行ったが改善しないため,関節鏡視下骨穿孔術を行った.画像上,病巣は縮小するとともに臨床的にも疼痛は消失し,術後2年の現在,経過良好である.保存療法では長期の免荷が必要であり,特に小児では完全免荷が困難な場合もある.長期の免荷が成長や精神面に与える悪影響も考え,早期の手術療法も考慮すべきである.

未治療のまま経過した成人クレチン症の1例

著者: 西山正紀 ,   二井英二 ,   杉浦保夫 ,   山崎征治

ページ範囲:P.793 - P.796

 抄録:今回われわれは,45歳まで放置されていたクレチン症の1例を経験したので報告する.患者は45歳,女性.約1年前より腰痛を認め,易疲労感も増強したため来院となった.現症では身長123cm,体重42kg,上肢長35cm,下肢長55cm,arm span 115cmで,四肢短縮型小人症を呈していた.顔面は浮腫状で,両眼開離,鼻根扁平,鞍鼻を認めた.甲状腺機能検査ではTSHの増加,T3,T4の減少をみた.X線所見では,脊椎ring apophysisの癒合不全,腸骨稜骨端核の癒合不全,Y軟骨の残存,大腿骨頭扁平化および頚部短縮,中手骨,中足骨の短縮などを認めた.早期治療を逸すると,低身長や知能障害だけでなく,関節症状を呈する可能性があり,中高年期では虚血性心疾患の危険性も指摘されている.早期発見と永続的治療が重要である.

サッカー選手に生じた第4腰椎椎弓根部疲労骨折の1例

著者: 山田隆宏 ,   持田讓治 ,   千葉昌宏 ,   須藤隆二

ページ範囲:P.797 - P.800

 抄録:サッカー選手に生じた,比較的稀なL4椎弓根部疲労骨折の1例を報告する.症例は,21歳男性,プロサッカー選手.1995年12月頃より腰痛が出現し,1996年3月よりランニング,ジャンプからの着地,およびボールを蹴る動作に際して腰痛が増強し,プレーに支障をきたしたため精査目的に来院した.初診時,one leg lumbar hyperextension test陽性であった.圧痛は両側L4傍脊柱筋に右側優位に認められた.SPECT上,両側L4椎弓根部に右側優位のhot spotと,CT上右側L4椎弓根部に骨折線を認め,両側L4椎弓根部の疲労骨折と診断した.保存的治療にて症状は改善し,3ヵ月後,CT上骨折はほぼ癒合し,4ヵ月後試合復帰した.この症例から,力学的弱点は未熟な脊椎では関節突起間部であるが,成熟した脊椎においては椎弓根部である可能性が示唆された.SPECTは早期診断および病変局在の特定に有用であった.早期診断により,保存的治療で良好な結果を得た.

後𦙾骨筋腱機能不全の治療成績

著者: 高宮尚武 ,   野口昌彦 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.801 - P.806

 抄録:臨床的に後𦙾骨筋腱機能不全を呈するものに対する治療成績を検討した.対象は慢性関節リウマチ,外傷を除く13例15足で平均年齢は57歳であった.12足に足底板を中心とする保存療法を行い,3足に手術療法を施行した.経過観察期間は平均1年8カ月であり,JOAスコアを用いて治療成績を評価した.JOAスコアは保存療法では治療開始前後で平均68.6点が84.6点に,手術療法では平均49.3点が73.3点に改善した.後𦙾骨筋腱機能不全は後𦙾骨筋腱の変性に基づくものであり,最終段階では腱は断裂する.足底板での治療効果には限界があり.手術療法においては適応と手術時期および腱鞘滑膜切除,腱移行,関節固定などの術式の選択については議論のあるところであり,今後症例を重ね検討する必要があると考える.

重度先天性後側弯症の1治験

著者: 藤田貴也 ,   鈴木信正 ,   小野俊明 ,   戸山芳昭 ,   藤村祥一

ページ範囲:P.807 - P.811

 抄録:posterior quarter vertebraを有する重度先天性後側弯症に対しては,神経合併症の危険性が高く,従来,前方進入による奇形椎の切除後,Halo牽引にて矯正を得,後方固定術を施行することが多かった.今回,後方進入奇形椎切除とlsola systemを用いた後方固定術により,術前98°の著明な後弯変形を術後50°に一期的に矯正し得たので報告した.神経合併症を回避し,かつ十分な矯正を得るためには,術前に各種画像診断法を用いて脊髄と脊椎の状態,特にCTM上,脊髄と椎弓根の位置関係を十分に把握しておくべきである.脊髄の凹側偏位が強い場合には,矯正操作前に脊髄圧迫の原因と考えられる凹側の椎弓根を切除し,その後に脊髄誘発電位の変化に注意しつつ矯正を行うことが重要な神経合併症対策と考えている.

Focal fibrocartilaginous dysplasiaの1症例

著者: 田中誠人 ,   中瀬尚長 ,   倉都滋之 ,   荒木信人 ,   安井夏生 ,   越智隆弘 ,   城山晋 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.813 - P.817

 抄録:稀な疾患であるfocal fibrocartilaginous dysplasia(FFCD)の1例を経験したので報告する.症例は1歳9カ月女児,進行性の右下腿内反変形を主訴として来院.画像所見から右𦙾骨骨幹端部の良性骨腫瘍を疑われ,病巣掻爬術を施行した.術中に得られた標本の病理組織学的所見では,線維性組織に隣接する線維軟骨様の像が認められ本疾患はFFCDと診断された.術後6カ月の時点で内反変形は改善傾向にあり,病変の再発も認めない.FFCDは,下腿の内反変形と特徴的な単純X線像を呈する自然治癒傾向の高い疾患であり,稀ではあるが比較的容易に診断が可能であり,下腿の内反変形をきたす乳幼児の診察に際しては鑑別診断の一つとして本疾患も念頭においてかかるべきである.

末端肥大症に合併した胸腰椎移行部黄色靱帯骨化症の1例

著者: 高橋寛 ,   米倉徹 ,   奥秋保 ,   岡島行一 ,   茂手木三男

ページ範囲:P.819 - P.822

 抄録:末端肥大症や巨人症における脊椎には,椎体前後径の増大,骨粗鬆化,椎間関節の肥大,脊柱靱帯骨化等の様々な変化を来すことが報告されている.われわれは,末端肥大症に胸腰椎部の黄色靱帯および後縦靱帯骨化,椎間板石灰化,椎間板ヘルニアを合併した極めて稀な1例を経験した.症例は36歳男性で,両下肢脱力感,歩行障害を主訴に来院した.精査の結果,脊髄圧排の主因が,Th10/11高位の椎間板ヘルニアと黄色靱帯骨化,Th11/12高位の黄色靱帯骨化であると診断し,Th10,11の椎弓切除術を施行し,術後短期ではあるものの良好な結果を得た.自験例は,罹病期間が10年以上であることから,HGHの過剰分泌が,脊柱靱帯骨化,椎間板石灰化発生の一因になったものと考えられた.

血清NSE陽性を示した未分化神経外胚葉性腫瘍(PNET)の1例

著者: 諌山照刀 ,   喜多村泰輔 ,   山本公正 ,   緒方公介

ページ範囲:P.823 - P.825

 抄録:軟部原発の未分化神経外胚葉性腫瘍の1例の全経過において,血清NSEの変化を検索した.血清NSEは,初診時陽性を示し,その後腫瘍の増減と転移の伸展に関連して変動していた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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