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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科33巻9号

1998年09月発行

雑誌目次

視座

整形外科認定医の将来

著者: 五味渕諒一

ページ範囲:P.1051 - P.1052

 認定医制度は医療の質の向上を目標に発足したが,多くの問題点も指摘され,改善するための努力が各学会でなされている.日本整形外科学会でも,各委員会や理事会内の認定医問題検討部会で,制度のあり方について熱心な審議を続けている.また,47の学会で構成する学会認定医制協議会は,患者が診療を受ける際の目安となるよう制度の改革案作りに取り組んでいる.本稿では,今後の認定医制度のあり方について私見を述べてみたい.
 まず,現在は各学会がそれぞれ独自に「認定医」や「専門医」の名称を定めているが,これを「専門医」に統一してもらいたい.「整形外科認定医」も将来は「整形外科専門医」とし,英文表記も欧米人に理解しやすいものにすべきであろう.

論述

軸椎棘突起裂離骨折を伴った小児頚椎屈曲損傷の治療経験

著者: 松本守雄 ,   戸山芳昭 ,   千葉一裕 ,   市村正一 ,   鈴木信正 ,   藤村祥一 ,   福井康之 ,   里見和彦

ページ範囲:P.1053 - P.1059

 抄録:軸椎棘突起裂離を伴う小児頚椎屈曲損傷の6例(男児4例,女児2例,平均年齢11歳,1例は陳旧例)を報告した.全例,外傷による頚椎過屈曲を強制されていた.初診時,強度の頚部痛を全例に認めた.X線像ではC2-3の前方すべり,局所後弯を認めた.受傷後1~2ヵ月で軸椎棘突起先端に裂離骨片が出現し,CTでは棘突起先端に左右に分かれて存在していた.頚椎カラーによる保存療法が4例に,初期治療が行われず後弯の進行した2例に,C2-3の前方固定術およびC2-4の後方固定術が行われた.保存療法例ではC3椎体の横径成長とともに後弯の改善を認めた.治療成績はともに良好であった.
 本損傷はCT像などから,軸椎棘突起の裂離骨折を伴う頚椎屈曲損傷であると考えられる.頚椎過屈曲を強制された小児が激しい項部痛を訴えた場合,本症を疑って経時的なX線検査を行い,新鮮例では適切な外固定による保存療法を行えば,良好な結果が得られる.

Deltafit型人工膝関節の手術成績―可動域に重点をおいて

著者: 青山朋樹 ,   小谷博信 ,   三木堯明 ,   千束福司 ,   原聖 ,   武富雅則 ,   大西勉 ,   長谷隆生 ,   西庄功一 ,   坂本相哲 ,   上尾豊二

ページ範囲:P.1061 - P.1066

 抄録:当院で施行したDeltafit型人工膝関節のうち1年以上の経過観察の可能であった84例103膝において臨床成績,X線所見について調査し検討を行った.特に近年,本邦では人工膝関節に深屈曲が求められていることから可動域の点について詳しい検討を行った.
 臨床成績は三大学試案膝関節機能評価点数を用い,術前平均51.5点が86.6点に改善した.可動域は術前119.8°が127.1°に改善し,OAでは122.9°が127.3°に,RAでは98.9°が126.1°に改善し,特にRAにおける改善が著しかった.130°以上の深屈曲が可能であるのは56膝(53.7%)と半数以上の例において深屈曲が達成された.

手術手技 私のくふう

橈骨頭骨折の治療経験―PLLAピンを用いて

著者: 大塚健一 ,   鎌田真彦 ,   吉沢夏人 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.1067 - P.1070

 抄録:今回われわれはポリ-L-乳酸ピン(PLLAピン)を用いて,2例の橈骨頭骨折を治療する機会を得たので報告する.症例1は20歳男性で,スノーボードをしていたときに左肘伸展位,左手関節背屈強制位で転倒して受傷した.X線所見で左橈骨頭の陥没を認め,手術を施行,PLLAピン3本にて固定した.術後2週より可動域訓練を開始した.術後約12週で肘可動域の左右差はなくなった.症例2は51歳女性で,仕事中に転倒し左肘を強打し,受傷した.X線所見で左橈骨頭に骨折を認めたため手術を施行,PLLAピン2本にて固定した.術後1週より右肘可動域訓練を開始した.術後約4週で肘可動域の左右差はなくなった.
 PLLAピンは生体吸収性材料のため抜釘が不必要,関節軟骨からの刺入が可能など多くの利点がある.金属材料に比べて強度が劣るが,早期可動域訓練を求められる橈骨頭骨折の治療には有用と考えられた.

整形外科基礎

𦙾骨金属板側のポリエチレン摩耗

著者: 菅野吉一 ,   依知川潔 ,   根岸崇興 ,   野原裕

ページ範囲:P.1071 - P.1075

 抄録:人工関節におけるポリエチレンの摩耗は人工関節のゆるみや耐久年数などに多大な影響を与える.人工膝関節における摺動面の摩耗に関する報告は多数あるが,𦙾骨側金属板とポリエチレン間の摩耗についての報告は少ない.膝蓋骨コンポーネントの破損により再手術を余儀なくされた3例の𦙾骨側ポリエチレンを用いて,𦙾骨側金属板と接するポリエチレンの摩耗を肉眼的および微視的に観察した.金属板側ポリエチレンの内側および辺縁は灰色を呈し,スクリューホールに一致したcold flowを全例に認めた.光顕ではabrasionなどの摩耗が観察され,黒色粒子がポリエチレンに埋め込まれていた.走査電子顕微鏡の2次電子像でscratchingやdeformationを認め,反射電子像では1μmから50μmの白色粒子が観察された.白色粒子のX線元素分析ではチタンが検出された.金属板側ポリエチレンの摩耗は𦙾骨側金属板とポリエチレン間のmicromotionによると推測された.

専門分野/この1年の進歩

日本手の外科学会―この1年の進歩

著者: 玉井進

ページ範囲:P.1078 - P.1079

 第41回日本手の外科学会は玉井進会長のもとで,平成10年5月14~16日,リーガロイヤルホテル大阪において開催された.
 今回のトピックスを拾って紹介する.

最新基礎知識/知っておきたい

コンピューター・シミュレーション

著者: 菅野伸彦

ページ範囲:P.1080 - P.1082

【はじめに】
 シミュレーションとは模擬実験のことで,実際に物事を体験する前に結果を予測するために実際の条件をできる限り模倣して行われる.今まで整形外科分野では,人工関節の摩耗試験のように機械で行うものと,物体の歪み,変位,応力などをコンピューターを使って計算で行うものがあった.計算機の機能の向上とともに,十数年前なら大型計算機でしか実現できなかったシミュレーションが,手元のパソコンで簡単にできるようになりつつあり.コンピューターシミュレーションは今後整形外科でもますます活用されるようになる技術である.娯楽の分野では,フライトシミュレーションなど実際の飛行機操縦を模擬体験するようなゲームに数多く使われたり,株式市場や返済ローン,建築のシミュレーションなど自然科学以外の分野でもコンピューターシミュレーションは手軽に利用されるようになっている.フライトシミュレーションなどは,実際操縦訓練にも使用でき,教育の分野でも非常に便利な技術である.整形外科でもCTやMRIなどの画像データからコンピューター上で解剖学的モデルを作り,手術のシミュレーションを行うことのみではなく,術中支援,術後成績の解析,整形外科手術の教育訓練と多岐にわたる活用が可能である.そこで,これらのコンピューター技術の整形外科における活用法と今後の展望について記載する.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・24

著者: 野田光昭 ,   黒坂昌弘

ページ範囲:P.1083 - P.1086

症例:68歳,女性,無職
主訴:左膝関節痛
 数年来,左膝関節に違和感を認めたが,特に日常生活には支障なく放置していた.今回2ヵ月前歩行時に激痛を生じ,近医で単純X線像より変形性関節症とされ,以後関節内注射などの保存療法を受けたが改善しないため,当科を受診した(図1).疼痛は歩行時のみでなく,安静時や夜間にも認めたが下肢の知覚異常などは認めない.

整形外科英語ア・ラ・カルト・69

整形外科分野で使われる用語・その32

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1088 - P.1089

●nevus(ニーヴァス)
 勿論母班のことであるが,日本語では“ネーヴス”と発音する.私は,顔面や色々な部所の母班を外来において,簡単に局麻下で摘出している.局麻後に,その腫瘍の部分を皮膚から第15番目のメスでえぐりとり,後は正常な組織に遭遇するまで,残存の腫瘍細胞をボヴィー(Bovie)で焼灼しながら除去していく.
 私は米国で1年間病理学を学んだ時,多くの皮膚腫瘍摘出顕微鏡標本を覗いたが,良性腫瘍は皮膚内にその病変があり,余分な皮膚を除く必要がないのではないかという疑問を抱き続けていた.

ついである記・27

Bucarest

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1090 - P.1091

 私にとってルーマニアは黒海の西に位置するあまりなじみのない国で,かつてオリンピックの女子体操の花であったコマネチの可憐な姿や,ソ連邦体制の崩壊に伴って起こったチャウセスク大統領の殺害の報道などが僅かに記憶にとどまっている程度であった.しかし,ブカレスト大学のディヌレスク教授(Prof. Dinulescu)と国際学会で何度も話し合う機会があり,「情報に飢えているルーマニアの若い医師達のためにも是非講演に来てほしい」という要請を受けて,1998年5月に私と家内は初めてこの国を訪ねた.私達は,革命後まだ8年半にしかならないこの国の経済の窮状を目の当たりにしたが,それにも拘わらず明るく暖かいルーマニアの人々の人情に接して大いに感ずるところがあった.

座談会

日本の手の外科―21世紀への展望

著者: 石田治 ,   酒井和裕 ,   堀井恵美子 ,   根本孝一 ,   矢部裕

ページ範囲:P.1093 - P.1105

 矢部(司会) 日手会は今年で第41回を迎えます.私は今年の3月でリタイアしますが,医師になって40年経ちますから,私が医師になった春に第1回が開催されていることになります.本日御出席の先生方は本年度から日手会の評議員になられた新進気鋭で,21世紀の日本の手の外科を背負っていかれる立場にあると考えます.そこで,21世紀を展望して,いろいろな角度から日本の手の外科はどうあるべきかを中心に討論していただきたいと思います.41年といいますと,日整会の中でも最も古い伝統を持つ分科会です.発足当初は若木がすくすくと伸びるような成長をみていた感じがいたします.しかしながら,ここ10年近くは大木になり伸びる速度が落ちて,もっといえば成長が止まったという感じも少しします.具体的には会員数の伸びは止まりました.また,理事長制度,評議員の選出方法,手の外科に対する専門性の認識,健康保険の点数,医学部の卒前・卒後の教育の問題等もあります.こういうことで今,日本の手の外科は岐路に立たされていると考えるわけです.
 今回,テーマとしては以下の5項目を考えました.

臨床経験

初診時診断困難であった下位頚椎脱臼骨折の検討

著者: 大仲良仁 ,   林浩之 ,   須田洋 ,   宍戸隆秀 ,   長谷川貴雄 ,   佐藤啓二

ページ範囲:P.1107 - P.1110

 抄録:下位頚椎脱臼骨折は,その解剖学的特性よりX線学的診断に難渋することがある.1992年以降,初診時に確定診断に至らなかった本疾患4例について調査し,診断上の問題点につき検討した.全例男性で,受傷時年齢は平均42.8歳(31~55歳)であり,損傷レベルはC6/7が3例,C7/T1が1例であった.初診時の臨床症状として,全例が頚部痛を訴えたが,神経学的には上肢のしびれ感を3例に認めたのみで,体幹,下肢の神経障害を呈した例は皆無であった.初診時全例に頚椎2方向単純X線撮影を施行していたが,確定診断には至っておらず,受傷後平均7.5週(1~23週)後にMRI等で診断されていた.下位頚椎脱臼骨折の初期診断を困難にする要因は,X線学的診断が困難な部位であることのみならず,神経症状が軽微であったこと,合併損傷が存在したことであった.初期に確定診断を行うために,頚椎2方向単純X線撮影に加え,斜位撮影が有用であった.

巨大な腫瘤を呈した肩峰下滑液包炎の1例

著者: 高山景範 ,   白井康正 ,   伊藤博元 ,   橋口宏 ,   井出勝彦 ,   水江史樹 ,   丸山晴久

ページ範囲:P.1111 - P.1115

 抄録:巨大な腫瘤を呈し軟部腫瘍を思わせた,多数の米粒体を含む肩峰下滑液包炎の1例を経験したので報告する.症例は49歳男性で,右肩関節の腫瘤を主訴に来院した.単純X線は正常で,シンチグラム(Tc-HMDP)では局所に集積の亢進を認めた.MRIではT1強調画像で滑液包は中等度の均一な信号領域を,T2強調画像では高信号領域のなかに蜂巣状の低信号領域を認めた.針生検で異型細胞はなく,細菌培養は陰性で,ツベルクリン反応も陰性であった.手術にて滑液包を摘出した.術後2年を経過し,局所再発はなく,右肩関節機能も正常である.滑膜の組織所見は,絨毛状増殖と炎症性細胞の浸潤を認めた.米粒体はフィブリンが主体であるが,剥脱滑膜上皮細胞や膠原線維が混在し,多様な像がみられた.滑膜に軟骨化生や軟骨細胞はみられず,本症の病態は慢性滑膜炎と考えられた.

手根管部腫瘍により生じたTrigger wristの1例

著者: 黒石昌芳 ,   坪田次郎 ,   坂田敏郎 ,   佃政憲 ,   橋本規 ,   鵜飼和浩

ページ範囲:P.1117 - P.1119

 抄録:手根管部に発生した腱鞘線維腫によるtrigger wristの1例を経験した.症例は24歳男性,主訴は左中指と環指の弾発である.弾発現象は,中指を自動的に屈曲位から伸展すると中指および環指に認めるが,他動的に屈伸しても弾発現象は認めなかった.術中所見では,手根管部を開放すると正中神経および浅指屈筋腱には異常は認めなかったが,中指の深指屈筋腱から発生した小指頭大の腫瘍を認め,それが弾発の原因と考えられ,腫瘍と中指深指屈筋腱の一部を含めて切除した.術後1年の現在,症状は消失し腫瘍の再発も認めていない.trigger wristは屈筋腱やその腱鞘より発生した腫瘍によるものが多く報告されている.臨床的にも,手根管症候群を合併することが多く術前に手根管部の精査が必要であると思われた.

ゴルフスウィングによる第1胸椎棘突起骨折の2例

著者: 冨岡正雄 ,   武部恭一

ページ範囲:P.1121 - P.1123

 抄録:ゴルフによる第1胸椎棘突起の単独骨折を経験した.症例1は27歳,男性.2ヵ月前よりゴルフを始めた,症例2は28歳,男性.半年前よりゴルフを始めた.2例とも1日200球の練習を週に2回のペースでしており,その練習中,頚部痛が出現した.X線上第1胸椎棘突起骨折が見られ,1ヵ月間のカラー固定で症例は消失した.下位頚椎,上位胸椎部は僧帽筋や小菱形筋などの牽引力の影響を受けやすく,青壮年の初心者が,肩に力の入ったスウィングを繰り返したときに疲労骨折として発生する.本邦報告例によると第1胸椎棘突起の単独骨折はない.しかし,頚椎側面像にて第1胸椎が肩甲体に隠れ見えにくく,見過ごされているのではないかと思われる.これに対して,X線前後像での棘突起の2重像,斜位像,撮影条件を変えてみる等の工夫が重要である.治療としては,カラー固定で症状は消失し,保存的治療を選択することが望ましい.

頚椎に発生したpigmented villonodular synovitisの1例

著者: 仲沢徹郎 ,   村上正純 ,   南徳彦 ,   山崎正志 ,   後藤澄雄 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1125 - P.1128

 抄録:頚椎に発生したpigmented villonodular synovitis(PVS)の1例を経験した.症例は28歳男性.主訴は頚部痛で,神経学的所見としては両上下肢の軽度知覚純麻と,両下肢の深部腱反射亢進が認められた.左C6/7レベルの頚部砂時計腫の疑いにて手術を施行した.病理所見は典型的なPVSであった.脊椎部に発生するPVSはspinal PVSと呼称される.渉猟し得たspinal PVSは30例であり,本例は本邦第2例であった.MRI上,T1強調像で等輝度,T2強調像で低輝度と高輝度が混在し,Gd-DTPAで軽度造影され,これらの所見は典型的な膝関節PVSとほぼ同様であった.T2強調像にて高輝度を呈する多くの充実性脊髄腫瘍とは異なった所見であり,術前診断が困難な本症の鑑別の一助になると考えられた.

後腹膜腔に巨大血腫を形成した腰椎多発横突起骨折の1例

著者: 柳下信一 ,   北野喜行 ,   堀本孝士 ,   砂山千明 ,   長浦恭行 ,   井村弥寿子 ,   角田清志

ページ範囲:P.1129 - P.1132

 抄録:腰動脈損傷を伴い,後腹膜腔に巨大な血腫を形成した腰椎多発横突起骨折の1例を経験したので報告する.症例は,自宅2階のベランダより誤って転落,地面の庭石に左腰背部を強打し,腰部は過伸展位となった.搬送時には意識清明であったが,入院後出血性ショックを来した.CTにて後腹膜血腫と血管造影にて左第4腰動脈損傷が認められたため,TAE(transcatheter arterial embolization)を施行し良好な結果を得た.今回の横突起骨折および腰動脈損傷の発生機序としては腰部へ作用した過伸展力が考えられた.腰動脈損傷例では搬送時に出血性ショックを来す場合が多く,大量の輸血を必要とするが,治療上TAEは有効である.本例での横突起骨片の転位は極めて大きく,後腹膜腔の巨大な血腫を示唆するものと思われた.したがって,今後こうした症例では腰動脈損傷を疑うことは重要である.

股関節部に発生したrheumatoid synovial cystの1例

著者: 高橋英也 ,   後藤英司 ,   稲尾茂則 ,   岡本哲軌

ページ範囲:P.1133 - P.1135

 抄録:慢性関節リウマチ(以下RAと略す)に伴い,下肢腫脹を来したrheumatoid synovial cystの1例を経験した.症例は35年のRA罹患歴を有し,左下肢腫脹および鼠径部腫瘤を主訴に来院した.股関節造影では股関節から腫瘤への造影剤の漏出が確認された.MRIでは股関節と腫瘤との交通が確認され,術前にrheumatoid synovial cystと診断し摘出術を施行.経過良好であった.

移動性を有した脊柱管内epidermoid cystの1例

著者: 山崎健 ,   遠藤威 ,   村上秀樹 ,   小成嘉誉 ,   嶋村正

ページ範囲:P.1137 - P.1140

 抄録:症例は40歳女性,主婦.数年前より腰殿部痛および下肢痛を自覚した.27歳時,腰椎麻酔下に帝王切開を受けた既往がある.下肢痛が増強し歩行困難となったため当科を紹介されて受診した.脊髄造影により第3,第4椎間板高位を約2cm上下に移動する騎袴状陰影欠損を認めた.MRIでは腫瘍像はT1,T2強調像において,いずれも高輝度を呈し,造影MRIでは造影されなかった.硬膜内腫瘍の診断にて,第3腰椎椎弓の縦割展開,椎弓再建術を併用して腫瘍摘出を行った.腫瘍は一本の馬尾の周囲から発生し,馬尾を巻き込み,淡黄色で,楕円状の被膜を有する弾性軟の腫瘍であった.腫瘍は馬尾の弛緩を伴い2cm移動した.病理組織はepidermoid cyst(類上皮嚢腫)であった.術後2年の現在,腰殿部痛,下肢痛は消失している.腰椎に発生し,原因が腰椎穿刺と考えられ,移動性を有する稀なepidermoid cystの1例を報告した.

乳児期より19歳まで経過観察した先天性無痛無汗症の1例

著者: 伊藤弘紀 ,   沖高司 ,   荒尾和彦 ,   鬼頭浩史 ,   野上宏

ページ範囲:P.1141 - P.1144

 抄録:乳児期より19歳まで経過観察を続けた先天性無痛無汗症の1例につき報告する.本症例は出生後に頻回の発熱があり,この時に無汗であったことから,3歳時に本症と診断された.5歳時,左股関節脱臼に対し観血的整復術を施行した.また,小学校入学時より車椅子での生活を指導した.骨折の既往は11歳までで,受傷回数は比較的少なかった.左股関節は術後早期より破壊が進行し,他の四肢関節も変形が徐々に進行した.現在は両肩・左肘関節以外の四肢大関節はCharcot関節を呈している.本症は,全身性の無痛覚・無汗症に精神発達遅滞を合併するのが特徴である.整形外科的には骨折,脱臼,骨髄炎,Charcot関節などが問題となり,対症的な治療が行われる.また,これらの発症予防としての生活指導は,一定の基準を設けることが困難で,症例ごとに家族を交え十分に検討する必要がある.

鎖骨近位骨端線離開の1例

著者: 金村在哲 ,   佐藤進 ,   芝昌彦 ,   柴田直樹 ,   藤井英夫

ページ範囲:P.1145 - P.1148

 抄録:後方転位した鎖骨近位骨端線離開の1例を経験した.症例は13歳の女性でムカデ競争の練習中に受傷した.初診時,左鎖骨は後方へ落ち込んでいたが,触診にて胸骨側には骨端を触知した.CTでは左鎖骨近位端の明らかな後方転位が認められ,後方へ転位した鎖骨近位骨端線離開と診断した.同日,全麻下に徒手整復を試みたが不能であったため,観血的整復術を施行した.手術所見ではSalter-Harris I型の骨端線離開が確認され,観血的整復後Kirschner鋼線にて内固定を行った.術後4週で抜釘を行い,肩関節の可動域訓練を開始した.経過は良好で支障なく学生生活を送っている.鎖骨近位骨端線離開は比較的稀な外傷で,胸鎖関節脱臼との鑑別は困難である.鎖骨近位骨端線の閉鎖時期である25歳前後以下の年齢では骨端線離開の可能性を十分に考慮する必要がある.

ステロイド長期投与患者に特因なく生じた恥骨骨折の3例

著者: 戸嶋潤 ,   渥美敬 ,   山野賢一 ,   村木稔 ,   武村康 ,   黒木良克

ページ範囲:P.1149 - P.1152

 抄録:ステロイド長期投与患者に特に誘因なく発生した恥骨骨折の3例を経験した.症例は全例女性で,基礎疾患がSLE,シェーグレン症候群,RA,IgA腎症であり,その治療に対してステロイドを4年6カ月から10年5ヵ月(平均6年6ヵ月)長期投与されていた.当科受診時のX線ではSinghの分類のgrade 2および3に相当する骨粗鬆症を認めた.これらより,3症例はステロイド長期投与により生じた骨粗鬆症を基盤としたPentecostら6)が定義したinsufficiency fractureと考えられた.

前腕に発生し正中神経麻痺を呈したtenosynovial osteochondromatosisの1例

著者: 古田和彦 ,   面川庄平 ,   水本茂 ,   岩井誠 ,   玉井進

ページ範囲:P.1153 - P.1156

 抄録:tenosynovial osteochondromatosisの多くは手指伸筋腱・屈筋腱に発生する.今回われわれは,前腕における指屈筋腱に発生し,正中神経麻痺を合併した極めて稀な1例を経験した.症例は53歳女性.主訴は右手前腕屈側部の腫瘤および第1~3指の痺れであった.単純X線にて手関節から第3中手骨にかけて粟粒大の石灰化を多数認め,MRIにて前腕から手掌に及ぶ深指屈筋腱周囲に実質性腫瘍が確認された.電気生理学的検査では正中神経の伝導遅延を認め,特に前腕遠位部の腫瘍を挟んだ部位で伝導遅延が明らかであったことから通常の手根管症候群による麻痺ではないことが判明した.腫瘍摘出,滑膜切除術を施行した.腫瘍は手関節を越えて手根管内にまで及んでいた.病理所見では滑膜線維組織内に多数の軟骨組織と骨組織を認めた.以上の所見から腱鞘滑膜骨軟骨腫症と診断した.痺れは完全に消失し,再発もなく経過は良好である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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