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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科34巻12号

1999年12月発行

雑誌目次

視座

スポーツ医療の実態を思う

著者: 宮永豊

ページ範囲:P.1425 - P.1425

 我が国のスポーツ医学は質量とも欧米,特にアメリカに対峙できると考えていたところ,いまだにプロ,アマのエリート選手の多くがスポーツ損傷の治療のため,とかく海外に足を向けてしまうのはなぜなのだろうか.ここには,これからのスポーツ医学やスポーツドクターのあり方を考えさせられるものがあるので,私見を述べたいと思う.
 まず,医学的知識やアイデアの大部分は残念ながら国外のものであるが,医療技術は欧米と比べて遜色ないと思われる.新しい知識や技術の取り入れ方はどの国にも負けないほど熱心であるからである.このため,提供する外科的治療の質には地域格差がほとんどない.無論,日本の医学教育も見劣りするものではない.さらに,チームドクター制度を初めとしたメディカルサポートシステムは各層,各分野で取り入れられ,大抵のスポーツ損傷は国内で解決できるはずである.それにもかかわらず,国内で治療を受けようとしないのは,いわゆる欧米崇拝があるからではないだろうか.一旦怪我をすると,本人はもとより,エリート選手は大事な商品であるので最善の治療をと関係者も熱望する.カリスマ性のある医師にかかれば,万一うまくいかなくても本人も周囲の人間も不思議にも納得したり,諦めたりする.そのようなメンタリティーがあることは否定できないが,はたして医師側には問題はないのだろうか.

シンポジウム 脊椎内視鏡手術―最近の進歩

緒言 フリーアクセス

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.1428 - P.1429

■外科領域における内視鏡手術の普及
 90年代に入り外科領域での内視鏡下手術の発展にはめざましいものがある.従来と同じ手術を内視鏡下に行うというだけでなく,これまでの術式と全く異なった発想で手術が行われることもある.従来,外科手術は直視下に組織を切開し,剥離し,結紮し,縫合するといった手作業を行っていたが,工学技術の進歩とともに幾つかの作業が自動化されたり,明るい鮮明な視野の元に確実な操作が安全にできるようになってきた.内視鏡手術がこれほどまでに普及した理由は,少ない侵襲で効率的な手術が行える点であると考えられる.本誌上シンポジウムに参加いただいた山田英夫先生の所属する病院では現在消化器外科の約90%が内視鏡下の手術となっているそうである.

内視鏡下腰椎前方固定術の検討

著者: 山縣正庸 ,   山田英夫 ,   高橋和久 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1431 - P.1440

 要旨:内視鏡外科の手術手技を脊椎外科に応用すべく,内視鏡下の腰椎前方固定術を試みてきた.L4/5椎間より頭側へのアプローチは右側臥位で経腹膜外的に,またL5/S1椎間では経腹膜的に進入し,椎間板に達すると,良好な視野で効率よい展開が可能である.術後成績は,JOAスコアの平均改善率で90%の改善率を示し,従来法と変わらず満足できるものであった.重脊椎fusion cageを使用する術式では手術時間,術中出血量も少なく,より少ない侵襲での手術が可能であり,術後早期の起立歩行が可能であった.しかし,椎間板組織を多く切除すると固定性の低下が懸念され,現時点での適応は限られたものとなる.一方,効率よい椎間板内操作のためには,脊椎シースを用いるなど工夫が必要である.椎間板後方部までの除圧が必要な症例では自家腸骨を用いた術式が適応となり,即時的な固定は期待できない.椎体間固定のみで十分な症例に対して脊椎fusion cageを利用した術式が選択されるものと考える.今後新しい脊椎fusion cageの開発が待たれるが,現時点では病態に応じた術式が選択されるべきと考える.

10cc注射器と関節鏡による後方腰椎椎間板ヘルニア摘出手技とEBMよりみた低侵襲の意義(第2報)―術前後のMRIの輝度変化

著者: 出沢明 ,   三木浩 ,   三上寛人 ,   草野信一

ページ範囲:P.1441 - P.1448

 要旨:近年始まった内視鏡脊椎手術に対し,低侵襲手技の指標として入院期間や立位歩行開始時期の比較は,医師を初めとした医療サイドのバイアスがかかり客観的に論じることが比較的困難である.厳格なリハプログラムを作成した群は非リハプログラム群より2倍早期の退院が可能であることをわれわれは報告してきた9).そこで,普遍的,客観的視点からみた手術の生体に対する侵襲度の指標を作成する必要性が生じる.第1報ではサイトカインについて報告した6).今回は背筋のMRIでみた術後の輝度変化を経時的に検証した.手術時間,術中術後の出血量,皮膚の切開創も併せて調査した.コントロールとして,通常のLove法,椎弓切除群,顕微鏡視下ヘルニア摘出術法と比較した.内視鏡群は従来の椎弓切除群と比較して,背筋のT2,fat saturationによるMRIでみた輝度の変化(浮腫,出血)は早期に消失する傾向があった.

脊椎骨折に対する内視鏡手術―胸腰椎移行部脊椎破裂骨折に対する各種アプローチの適応

著者: 紺野慎一 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.1449 - P.1454

 要旨:胸腰椎移行部の破裂骨折に対する内視鏡手術の術式を紹介し,その問題点を検討した.骨折高位により,アプローチには胸腔鏡と後腹膜腔鏡の併用,後腹膜腔鏡のみの応用,および胸腔鏡視下のみの3種類がある.手術侵襲を従来法と対比すると,皮切が小さいこと,横隔膜の切開が少ないこと,そして肋骨切除が不要であることから,内視鏡手術の方が低侵襲であるといえる.また,内視鏡手術は従来法に比し,手術時間は長くかかるが術後鎮痛剤の使用が少なくて済む.しかし,内視鏡手術が生体にとって真に低侵襲なのか否かは現時点では不明である.従来法との比較を正確に行うには,今後,手術成績だけではなく,手術による生体への侵襲の程度をprospective randomized studyを行って評価する必要がある.

側弯症に対する胸腔鏡視下脊椎手術の検討

著者: 上村幹男 ,   江原宗平 ,   木下哲也 ,   伊東秀博 ,   湯沢洋平 ,   高橋淳 ,   高岡邦夫

ページ範囲:P.1455 - P.1461

 要旨:胸椎部脊柱変形に対して胸腔鏡を応用した症例を紹介し,脊柱側弯症に対する内鏡視下手術の展望について述べた.
 1996年以来,われわれが行った胸腔鏡視下手術は14例である.このうち脊柱変形に対して胸腔鏡を行った症例は3例である.対象疾患と術式は,後側弯症に対する鏡視下前方解離術,先天性多関節拘縮症に伴う脊柱後側弯症に対する胸腰椎移行部前方解離術,特発性側弯症に対するZielke手術であった.いずれの症例も胸腔鏡を使用することで小手術創で手術の目的を達成できた.
 手術手技の向上に加え,小開胸の追加,CT,単純X線から手術計画を作成するなどの工夫により胸腔鏡視下手術は安全に行うことが可能であった.

腹腔鏡を併用した腰椎前方固定術とその問題点

著者: 小柳貴裕 ,   大森泰 ,   相羽整

ページ範囲:P.1463 - P.1470

 要旨:一般外科において,腹腔鏡の導入は侵襲の軽減,術後管理の簡略化に大いに貢献した.われわれも腰椎前方固定術において侵襲を小さくすべく腹腔鏡を13例に併用した.全例鏡視下で腹膜外的に椎間板前面まで剥離展開し,その後はポートを連続切開として適宜鏡視を併用しながら通常の手術器具で除圧固定手技を行い,1例を除いて全例骨癒合を得た.しかし,腹腔鏡視が補助的役割を担うにすぎない本術式でも,皮下気腫や腹膜損傷をはじめ,種々の合併症,問題点に遭遇した.なかでも気腹が増悪因子の一因と思われる深部静脈血栓や,術中のPaCO2の急激な上昇が主なものであり,インフォームドコンセントを得る上でも十分に留意すべき点と思われた.現法での腹腔鏡併用の意義は皮膚,腹壁,消化管への侵襲の軽減に限られているが,今後社会面,コスト面などで外科疾患と同等の有用性を持たせるには,超早期離床を可能にする強固なimplantの開発が不可欠である.

外科的立場から見た内視鏡下腰椎手術に対するアプローチ方法の検討

著者: 山田英夫 ,   山縣正庸 ,   高橋和久 ,   落合武徳 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1471 - P.1477

 要旨:われわれは一般外科領域における内視鏡外科手術の手技と,従来より行われてきた前方固定術の手技を応用して,新しく整形外科領域の脊椎手術における内視鏡下腰椎前方固定術のアプローチ法についての検討を行ってきた.今回,腰椎内視鏡外科手術におけるアプローチ方法としての,後腹膜腔法と腹腔内法の手技について検討し,安全・確実・簡単にアプローチする方法を述べる.
 L5-S椎間板に対するアプローチには腹腔内法,後腹膜腔法の二通りある(図3).L2からL5まで,およびL5-S1の椎間板には後腹膜腔法で行う.L5-S椎間板には腹腔内法,後腹膜腔法の二通りがある.つまり,経腹膜外路法はL2からSlまでの椎間板にアプローチ可能である.腹腔内法はL5-S1椎間板のみを対象とする.
 以上より,われわれはアプローチ方法の選択として,以下のように考えている.L5-S1椎間板には腹腔内法,L2からL5までの1椎間板,およびL5-Slを含む2椎間板を対象とする場合には,第一選択は後腹膜腔法となる.また,腹部手術の既往により腹腔内の癒着がある場合は,後腹膜腔法が第一選択となる.より安全に,素早く,誰でもが行える方法として,Handport systemTMを利用したHand assisted surgery(HALS)による椎間板へのアプローチの提言を行った.

論述

整形外科領域における有茎広背筋皮弁の有用性

著者: 伊原公一郎 ,   木戸健司 ,   重冨充則 ,   大塚健 ,   金子昇 ,   池田慶裕 ,   土井一輝 ,   酒井和裕

ページ範囲:P.1479 - P.1485

 抄録:有茎広背筋皮弁を用いて再建を行った症例の成績について検討した.対象は31例であり,症例の内訳は腕神経叢麻痺10例,悪性骨・軟部腫瘍9例,上腕切断再接着後6例などであった.再建部位は上肢が20例ともっとも多く,そのほか躯幹7例,肩甲帯3例,後頭部1例であった.有茎広背筋はすべて順行性筋皮弁として使用し,上肢機能の再建や軟部組織欠損の再建に応用した.広背筋の安静時長は平均37cmであり,皮弁サイズは平均22×7cmであった.皮弁の到達範囲は,腹側では上腹部,胸部正中から肩まで,背側では対側の肩甲骨内側から後頭骨まで,上肢では前腕中央までを含み,これらの部位の皮膚軟部組織欠損の再建が可能であった.機能再建では肩甲骨,肩,肘および手指機能の良好な機能回復が得られた.術後特に問題となるような重大な合併症はなく,有茎広背筋皮弁は躯幹,上肢の再建に有用であった.

Love法施行後再手術を必要とした症例に関する臨床的検討

著者: 田内利幸 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   高柳建志 ,   畠山健次 ,   守屋秀繁 ,   吉永勝訓

ページ範囲:P.1487 - P.1491

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアに対してLove法を施行された後,経過不良または再発で再手術を必要とした症例に対し臨床的検討を行った.対象は過去9年間に当科で行ったLove法後の再手術19例である.手術法は前方固定法15例,後方除圧後側方固定術4例であった.術後結果はJOAスコアで評価し,平均改善率は67%であった.再手術後成績は初回手術後の結果が良好なものは良く,再手術前の画像所見で除圧すべき所見がはっきりしているものほど良好であった.

50歳以下で施行されたセメント型全人工股関節の10年以上成績―ステムのX線学的評価

著者: 稲尾茂則 ,   松野丈夫 ,   後藤英司 ,   寺西正 ,   高桑昌幸

ページ範囲:P.1493 - P.1498

 抄録:1989年2月までに,各種股関節疾患に対して50歳以下でセメント型全人工股関節置換術を行った10年以上経過例のステムのX線成績を調査した.症例は45例49股で,手術時平均年齢は42歳(20~50歳),平均経過観察期間は14年(10~22年)であった(経過観察率98%).大腿側セメント手技は,22股に第1世代が,27股に第2世代以降の改良手技が使用された.機械的弛みは,第1世代セメント手技による2股のみで,術後6年と9年に確認された.Osteolysisは32股(68%)に見られたが,特に改良セメント手技群ではステム近位3分の1部までに限局する傾向にあった.機械的弛みと再置換を終点としたステム固定に関する調査時における失敗率は,第1世代セメント手技では13.6%,改良手技では0%であった.セメント型ステムは青壮年層でも現行の正しい手技で挿入されれば,少なくとも10~21年の範囲で良好な固定が期待できることが示された.

脊椎・脊髄疾患に対するリエゾン精神医学的アプローチ(第1報)―脊椎退行性疾患の身体症状に影響する精神医学的問題の検討

著者: 佐藤勝彦 ,   菊地臣一 ,   増子博文 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.1499 - P.1502

 抄録:脊椎・脊髄疾患を有する症例における精神医学的問題について調査した.精神医学的問題を合併している症例では,整形外科疾患の内容に関わらず,不眠,抑うつ,およびイライラ感といった非特異的な精神症状を高率に合併していた.脊椎・脊髄疾患の身体症状に影響を与えていた精神医学的問題の内容は様々であった.気分障害や不安障害に分類される精神医学的問題により身体症状が影響されている症例では,精神科での治療を併用することで身体症状の軽快が容易に得られた.しかし,身体表現性障害,適応障害,および人格障害に分類される精神医学的問題により身体症状が影響を受けている症例では,整形外科と精神科の両科での治療を行っても身体症状を軽快させることは困難であった.したがって,脊椎・脊髄疾患に合併している精神医学的問題の内容によっては,手術療法を回避することが妥当と思われる症例が存在している可能性に留意する必要がある.

手術手技 私のくふう

仙骨骨折および仙腸関節脱臼骨折に対する骨盤後方横固定法の一考案

著者: 白濱正博 ,   井上明生 ,   原秀 ,   田中邦彦 ,   坂井健介

ページ範囲:P.1503 - P.1507

 抄録:不安定型骨盤骨折において,骨盤後方要素の固定は重要で様々な固定方法がある.今回われわれは,少ない侵襲で脱臼骨折の整復と同時に強固な固定が可能な,縦切開の後方進入によるM字状に弯曲したプレートを用いた,両側の仙腸関節をまたぎ,傍脊柱筋群下をくぐらせ仙骨を横断する形で固定する従来の方法を改良した骨盤後方横固定方法を考案した.過去2年間で4例に本法を用いて治療した.横切開に比べ縦切開の方が侵襲が少なく,全例骨盤部および腰部の痛み無く術後2週で座位,4週で起立部分荷重,8週で全荷重歩行が可能となった.不安定型骨盤骨折に対する,M字状プレートによる骨盤後方横固定法は,少ない侵襲で強固な固定と早期離床が可能となる有効な方法である.

整形外科英語ア・ラ・カルト・83

整形外科分野で使われる用語・その45

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1510 - P.1511

 今回から“R”の項である.
 英語の“R”の発音は特別で,“R”と“L”の発音の区別は日本語にないので,発音法を努力して覚える必要がある.英語の“r”の発音法は,フランス語やドイツ語に比べると,比較的簡単だと思うが如何であろうか?

ついである記・41

ウランバートル

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1512 - P.1513

 モンゴルは数百年間に亘って中国の支配下にあったが,1911年に清朝の滅亡に乗じて独立を宣言し,1924年には共和制に移行した.その後,ソ連からの強い圧力を受けて社会主義国となり,文字ですら伝統的なモンゴル文字を廃してロシア語に用いられているシルル文字に変えてしまった.しかし,1986年のソ連の崩壊に伴って,モンゴルでも社会主義が否定され政治形態は議会制民主主義へと変わっていった.最近,文字も学校では伝統的なモンゴル文字を教え始めたそうであるが,学童の親達はそれを全く読めないわけであるから,半世紀以上に亘って失っていたものを取り戻すのは容易なことではなさそうだ.モンゴルの経済も今では徐々に資本主義経済の体制が整いつつあるが,かつて同じく社会主義国であったいわゆる東欧諸国に比べて,近代化へのテンポは極めて遅いように見受けられる.私などにとっては,それがまた,この国の魅力でもあるのだが.

整形外科philosophy

リハビリテーションマインドを持って日常の診療を行って欲しい―地域リハビリテーションの実践活動からシステム化に向かって

著者: 澤村誠志

ページ範囲:P.1515 - P.1521

●リハビリテーションマインドとは
 病院勤務されている整形外科の先生方から開業される時にいただく挨拶文には,きまって“これからは地域医療に従事するのでよろしく”との言葉が添えられている.そして,“リハビリテーション科”を標榜される.この言葉からすると,何か病院という機能が地域医療と無関係で,開業されて初めて地域に接するものと受け止められかねない.病院が地域医療を支える基幹的な役割を果たすことは当然である.その病院に勤務されている整形外科医が,担当した患者さんの障害が重度で退院後も引き続き地域でのケアが必要な場合には,少しでもQOLの高い生活を送ることを願って,訪問看護や訪問リハビリテーション,ホームヘルパーの派遣など社会資源の利用に向かって少し汗をかいて欲しい.さらに,住宅改造,福祉用具のレンタルなど,必要とあれば,その地域の在宅ケアスタッフとの連携をはかるためのコーディネート的,さらにリーダー的な役割を果たすことができれば素晴らしいと思う.これが私どもがいつも考えている地域リハビリテーションマインドである.
 私自身,兵庫県下の移動巡回訪問活動を通じて,地域で生活されている障害のある人々の真摯な生き様から多くのことを学んだ.その意味では,地域こそが私の教科書であると思っているし,真のリハビリテーションは,病院を退院してから始まるとさえ思っている.

専門分野/この1年の進歩

日本骨折治療学会―この1年の進歩

著者: 町田拓也

ページ範囲:P.1522 - P.1525

 従来,良い仕事には手間と暇を掛けて取り組むものと思われていたが,取り分け暇をかけることが医療情勢の上で許されなくなりつつある.良い仕事とは斯様な流れも克服して,生き残れるものでなけばならないのかも知れない.
 治療学会であるからには技術の継承,医学会であるからには学問の進歩,あとに繋げるべきものと,変わるべきもの,共に欠くべからざるものであろう.かような観点に立って招待講演,主題の選定を行った.

整形外科/知ってるつもり

Stress shielding

著者: 松野丈夫

ページ範囲:P.1526 - P.1527

 整形外科の分野において応力遮蔽stress shielding(以下SSと略す)は,骨折の内固定および脊椎外科における椎間固定に用いられる力学的強度の高いrigidな金属プレートの使用による骨量減少や骨癒合の遅延において問題となる.人工関節置換術においては,1)人工股関節置換術(以下THAと略す)においてステムが骨内に挿入されることによる大腿骨近位内側calcar部の骨量減少,2)人工膝関節置換術において大腿骨遠位(前方)における骨量減少が問題となり,長期における力学的強度および再置換術の際のbone stockの問題が生じている.その他では,膝の靱帯再建術の分野などでSSが問題とされている.今回は,THAの際にステム側に生じるSSを中心として説明する.

境界領域/知っておきたい

超音波刺激,その骨折治療法について

著者: 水野耕作

ページ範囲:P.1529 - P.1529

【超音波骨折治療器】
 最近,超音波を用いて骨折を治療する方法が日本にも普及してきた.この超音波骨折治療器を使用した低侵襲骨折治療法について紹介する.
 超音波は従来より種々な疾患の診断,手術あるいは治療に用いられてきた.手術には5~300W/cm2の高出力を用いて結石や白内障などに使用される.しかし,骨折治療に対しては,出力が30mW/cm2で非常に弱い.これが骨折治療に対して骨癒合促進の効果があると報告したのは,1983年のXavierとDuarteが最初である1).その後,臨床的にも基礎的にもそれが実証され2),多くの新鮮骨折のみならず,遷延癒合骨折や偽関節などの難治性骨折に対しても効果のあることがわかってきた.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・38

著者: 西野暢

ページ範囲:P.1531 - P.1533

症例:46歳,女性(図1)
 中学生の頃より,長距離歩行後などに股関節周囲に違和感を認めていたが,疼痛を自覚することはなかった.第一子出産後より,股関節部痛を自覚するようになり,近医を受診し末期変形性股関節症と診断され,セメントレス人工股関節置換術を受けた.術後7年の現在,股関節痛は認めないが,若干の可動域制限を認める.

臨床経験

解剖学的破格を伴った梨状筋症候群

著者: 朝田滋貴 ,   板金寛昌 ,   野中藤吾 ,   大谷和裕 ,   福田寛二 ,   浜西千秋

ページ範囲:P.1535 - P.1537

 抄録:梨状筋症候群は坐骨神経の絞扼性疾患であり,様々な発生機序が論じられている.今回,梨状筋の解剖学的破格を伴った梨状筋症候群を経験したので報告する.症例は53歳女性.右足関節骨折にて近医でギプス固定を施行されたが,杖を使用せずに歩行していたところ,腰部から左下肢かけての疼痛が出現した.腰部単純X線像やMRIで異常を認めず,右股関節内旋時に殿部から下肢にかけての放散痛および坐骨切痕部に圧痛を認め,梨状筋症候群と診断した.保存的治療に抵抗性を示したため手術治療を行った.術中,梨状筋に解剖学的破格を認め切離術を施行した.術後,症状は軽快した.本症例は,梨状筋および坐骨神経などの坐骨切痕部の解剖学的破格が基礎となり,ギプス固定による患肢の異常な荷重動態が原因になっていると推測された.
 梨状筋の解剖学的破格を伴う梨状筋症候群を経験した.

高分化型骨肉腫との鑑別が困難だった肋骨類腱線維腫の1例

著者: 菊地克久 ,   石澤命仁 ,   森幹士 ,   茶野徳宏 ,   松本圭司 ,   福田眞輔 ,   岡部英俊

ページ範囲:P.1539 - P.1542

 抄録:症例は37歳女性.偶然単純X線で右第12肋骨に異常を発見された.診察上同部に異常は認められなかった.単純X線で比較的境界明瞭な骨融解像を認め,断層では骨皮質が軽度膨隆し一部菲薄化していた.MRIでは骨外病変はなく骨シンチグラムで中等度の集積を認めた.以上より,aggressiveな良性骨腫瘍を疑いsegmental resectionを施行した.組織学的には線維芽細胞様の紡錘形細胞と膠原線維が束状に配列し,概ねdesmoplastic fibromaに一致する所見だったが,微小な腫瘍による類骨形成を思わせる部位が病変中心部にあった.このため,intraosseous well-differentiated osteosarcoma(IOWDO)との鑑別診断が問題になった.Desmoplastic fibromaは稀な骨腫瘍で,肋骨原発の報告は非常に少ない.一方,IOWDOの約33%はdesmoid様の組織所見を示すとの報告があること,肋骨原発例の発生も稀ながら見られることから鑑別は非常に困難である.

シリコンブロックで中手骨欠損を代用したのち,足趾移植術にて再建した1例

著者: 石田治 ,   生田義和 ,   木森研治 ,   市川誠 ,   梶谷典正

ページ範囲:P.1543 - P.1547

 抄録:手指欠損に対する足趾移植の有用性は多く報告されている.しかし,中手骨を欠損した多数指切断の再建は容易ではない.一時的にシリコンブロックで中手骨を再建,鼠径有茎皮弁で被覆した後,両側の第2趾を移植することで足の障害を最小限とするとともに,有用な手の再建が可能であった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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