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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科34巻2号

1999年02月発行

雑誌目次

視座

将来の整形外科医への期待

著者: 杉岡洋一

ページ範囲:P.113 - P.114

 過去の整形外科基礎学術集会におけるシンポジウムで,某大内科の方が発表の冒頭「整形外科医は大工と思っていたが,この学会に出席して割とましな事をやっているじゃないかと思った」といった類のことを申された.座長を務めていた私の脳裏をいくつかの想いがかすめた.
 整形外科医は直接患部に手を加え,損傷部の復元や機能再建に当たるので,そこには芸術といっても良い術者の腕にその成否,出来栄えが懸かっている.これは内科医に味あうことの出来ない創造の喜びである.常により良い術式を求め工夫する楽しさと,生体の見事な適合力に惚れぼれとする,いやむしろ,その生体の妙を引き出す正確で力学を含め理屈に合った手術をする点では,死んだ材料を対象とする大工さんには得がたい特権である.骨切り術を例にとれば,綿密な計画と設計図をもとに,最も適した内固定材を駆使して術者の三次元思考を組み立ててゆく過程は大工仕事に似ているが,対象が生体である処に大きな差がある.その点,人工関節置換術は生体の方を合わせようとする,例えば人工股関節のステムに合わせて骨を削るロボットの試みなど,本末転倒で生体を考慮しない工学系の思考と思われ,生体の適合力が生かせない点で面白味がない.大腿骨中枢端の形態も力学的要請に基づき改変された結果であり,ステムを支えるように出来たものではない.元来の骨頭を支える上での骨幹端,骨幹と解釈すれば,当然表層置換型が理想的で今後の再挑戦に期待したい.

シンポジウム 日本における新しい人工膝関節の開発

緒言

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.116 - P.118

■人工膝関節置換術の歴史的考察
 人工膝関節置換術(以下TKA)は1950年代に欧米にて始められた手術法である.当初はアクリル樹脂を用いたものや,現在使用されているものと同様の金属対ポリエチレンのものが使用されていた.その後,様々な人工膝関節が開発され臨床応用された.そのような状況の中で,1982年Hungerfordらによるcementless porous typeの人工膝関節が報告されてから,世界的な傾向で後十字靱帯(PCL)温存cementless porous typeの出現となり,現在までに星の数ほどの人工膝関節が開発されてきた.
 一方TKAは,術後どの位良好な臨床成績を維持すれば成功と言えるのかは,はっきりとした指標はない.ADL,QOL上,制限を持ちながらも,生涯一度のTKAで済んでしまえば成功と判断して良いかとの問には明確には返答できない.Insallらは,PCL切除cemented type TKAの術後の20年以上の長期臨床成績において,survival rateが90%以上であったと報告している.しかし,この症例の中で日常生活に支障なく使用に耐えうるTKA症例がどれくらい有るのかははっきりとはしていない.

総論:人工膝関節開発の基本理念

著者: 富田直秀

ページ範囲:P.119 - P.126

 要旨:高屈曲型人工膝関節は同時に高い耐久性を備えていなければならない.本論文では,人工膝関節の易屈曲性と耐久性に及ぼすデザインの影響に関して,単純な力学モデルを用いた考察と実験データから論じる.
 易屈曲性のためには膝屈曲中心の後方への移動が必要であるが,同時に屈曲の抵抗となり得る前方要素の張力の低減がはかられていなければならない.屈曲モーメントアームの減少は易屈曲性を増加させるが,伸展筋力低下の影響を最小におさえるためには大腿骨コンポーネントの前後幅とパテラグルーブの深さの最適化設計が必要である.高屈曲時には膝周囲の靱帯よりも筋肉,脂肪,皮膚等の影響が大きくなる.また,ポリエチレン上での摺動軌跡が単純な往復運動になるような工夫も耐久性維持のためには重要である.

Hi-Tech Knee Ⅱの開発

著者: 土田豊実 ,   守屋秀繁 ,   鈴木昌彦 ,   李泰鉱 ,   金山竜沢 ,   太田秀幸 ,   金泰成 ,   増田公男 ,   玉井浩 ,   山中一 ,   渡辺英一郎 ,   蔵本孝一

ページ範囲:P.127 - P.134

 要旨:当教室ではTKAにおいては可能な限りセメントレスタイプを原則として採用しており,𦙾骨側のセメントレス固定は十分な骨誘導が可能であれば有用と考えている.われわれは1985年より独自に人工膝関節の開発に着手した.セメントレス骨新生型で,さらにPCL温存表面置換型である.関節可動域を増加させるために腿骨部品金属部分で後方に5度の傾斜をもたせた.ハイテクニーⅡにおいて最も特徴とするものは,腿骨コンポーネントにおけるアンカースクリューとステムボルトである.ピッチが異なるために別々の進み方を示し,最終的に𦙾骨コンポーネントを𦙾骨と強固に固着できるようにする方法である.ハイテクニーⅡでは,大腿骨コンポーネントの設置を正確にするためにIntramedullary rodシステムを採用している.人工膝関節置換術を行う場合,大腿骨インナーロッドの設置位置は大腿骨コンポーネントの取りつけ位置および回旋位置決定において重要な因子となりうる.人工膝関節ハイテクニーⅡを開発し,臨床応用を4年にわたって行っているが,今後より良い人工膝関節の開発を継続していく予定である.

児玉・山本式人工膝関節New typeの開発

著者: 山本純己 ,   仲田三平 ,   田窪伸夫 ,   山田一人

ページ範囲:P.135 - P.141

 要旨:児玉・山本式人工膝関節はわが国で開発されたnon-cement,non-constrained型の人工膝関節で,1970年に第1例の手術が行われた.図1に示すように数回のデザインの改良が行われ,1975~1984年まで使用したものをMark Ⅱ,1985~1994年まで使用したものをMark Ⅲと呼んでいる.1995年から短期間Mark Ⅳを使用したが,大腿骨部品のデザインの改良が不十分であったため,さらに改良を加え,1997年の後期よりはNew typeを開発,使用している.
 Mark Ⅱから現在のNew typeまで,20年余りの間のセメントレス人工膝関節のデザインの変遷とそれに関連した成績について述べる.

Interax型人工膝関節の開発

著者: 星野明穂

ページ範囲:P.143 - P.149

 要旨:Interax型人工膝関節は世界10ヵ国の整形外科医の協同研究によって開発され,1991年以降,既に2万人近い症例に使用され,日本人の膝にも良く対応する.その特徴は3種類の固定面形状(cement,mesh,HA-mesh),3種類の関節面(PCL温存,stabilizer,mobile bearing),豊富なmodularityとサイズが選択可能でいずれも相互互換性がある.関節摺動面は球面の一部を切り取った形状として接触面積を大きくし,荷重応力を減少させている.先行して行われた治験結果は開発メンバーが各国または国際学会で報告しており,現在5年成績を集計中であるが材質やデザインに起因する問題はない.臨床成績や合併症は標準的であるが可動域の改善に優れる.耐摩耗性の向上を目的に開発されたmobile bearingデザインはまだ使用期間が短く,評価のためにはさらに経過観察が必要である.

最低120°の屈曲を期待し,開発したHy-Flex Ⅱ Total Knee and Ligament Balancing Systemについて

著者: 吉野槇一 ,   中村洋 ,   永島正一 ,   平野大地 ,   立原章年 ,   石神伸

ページ範囲:P.151 - P.155

 要旨:1974年以来,Yoshino Total Knee,Y/S Total Knee System,Hy-Flex Total Knee,そして1997年からは少なくても120°の屈曲角度が得られるHy-Flex Ⅱ Total Knee and Ligament Balancing Systemを開発し,臨床に使用している.
 このsystemの概念,デザイン上の特長,手術手技の工夫,後療法を述べるとともに,RA 79人94関節の術後成績,特に可動域について検討した.
 術前の可動域は,伸展11.2°±13.3°,屈曲117.4°±17.0°が,術後,伸展1.0°±2.6°,屈曲128.7°±13.6°と,伸展屈曲とも術後有意に改善した.また,術後120°以上屈曲したのは79関節(84.0%),そしてfull flexionは6人(7.6%)10関節(10.6%)であった
 以上よりこのsystemは信頼性を持って,少なくとも120°術後屈曲できることが示唆された.

Bisurface knee(KU型)の開発

著者: 上尾豊二

ページ範囲:P.157 - P.163

 要旨:今日,老人,障害者のQOLの向上が命題であり,人工関節の可動域増加が求められる.膝関節の大腿・𦙾骨界面を二面に分離して屈曲機能を独立させることで,屈曲角度の大きい膝関節の開発をめざした.屈曲を目的とした副関節を後方中央に位置づけることにより,膝屈曲時の大腿骨のroll backに併せ下腿の回旋運動が得られる.プロトタイプを作成しその妥当性を生体で検定するために,実際の手術に際してモデル関節を挿入し,機能を検討して順次修正を加えた.完成した関節をBisurface knee(KU型)と名づけた.摺動面の材質はアルミナセラミック,高密度ポリエチレンの組み合わせである.345関節での成績は術前123.2°が術後131.8°に有意に改善し,術前屈曲が137°以下であれば術後の屈曲は術前に優る可能性が強い.術後約1カ月でほぼ正座が可能な症例は手術症例の17%であった.

論述

頚椎後縦靱帯骨化症の骨化進展についてのX線学的検討―骨化進展に及ぼす手術の影響について

著者: 富田卓 ,   原田征行 ,   植山和正 ,   伊藤淳二 ,   新戸部泰輔

ページ範囲:P.167 - P.172

 抄録:X線上の骨化陰影進展の有無を調査し,手術後の骨化進展が術後経過に及ぼす影響について検討を加えた.対象は,手術症例69例,保存症例41例の計110例である.頚椎単純X線側面像を用いて,骨化進展の有無を判定し,頚椎前弯度と頚椎椎間のalignmentを計測した.骨化形態の変化は術後33.3%に認められた.骨化進展の頻度は,椎弓切除例で有意に著明であった.椎弓切除例にて前弯減少,後弯変形が著しかった.X線学的検討より骨化進展の因子として,手術侵襲,術後の頚椎の構築性変化,それに伴う椎間板変性と椎間の動的ストレスを推察した.骨化進展部での椎間アライメント計測により局所の後弯増強傾向を認め,頚椎全体のみでなく局所的な張力の関与も重要な因子と考えられた.骨化進展の有無が術後成績に及ぼす影響については明らかな有意差が認められなかった.しかし,いずれの術式でも経過観察時での有効群の占める割合が増加していた.

軟骨肉腫の予後因子―Coxの比例ハザードモデルを用いた多変量解析の試み

著者: 森井健司 ,   矢部啓夫 ,   森岡秀夫

ページ範囲:P.173 - P.176

 抄録:目的変数を局所再発・遠隔転移・腫瘍死として,当科で治療した軟骨肉腫35例の臨床的予後因子をCoxの比例ハザードモデルを用いた生存分析により解析した.局所再発の危険因子は体幹部の発生と組織学的高悪性度であり,転移と腫瘍死の危険因子は組織学的高悪性度のみであった.種々の理由で十分な切除縁が確保できないことは,軟骨肉腫の治療に際してしばしば経験されることではあるが,今回の検討から低悪性度例においては,局所管理が困難であることと生命予後とは相関しない可能性があることが示唆された.

当院におけるスノーボード外傷の検討―スキー外傷との比較

著者: 渡邊敏文 ,   吉田裕俊 ,   江黒日出男 ,   肱黒泰志 ,   後藤敏 ,   高橋誠

ページ範囲:P.177 - P.184

 抄録:近年急増しているスノーボード外傷の特徴を知る目的で,過去2シーズンに当院で扱ったスノーボード外傷547例を,スキー外傷742例と比較検討した.スノーボード外傷患者は20歳代に集中し79%(スキー35%)を占めており,初心者および初級者が45%(スキー39%)であった.受傷原因は滑走中の自己転倒が最多で53%(スキー70%),次いでジャンプによる転倒が29%(スキー3%)であった.受傷部位は上肢が50%(スキー26%)を占め,外傷種類は,骨折が33%(スキー19%),脱臼が11%(スキー5%)と多かった.主な外傷は橈骨遠位端骨折で17%(スキー1%)であったが,頭蓋内出血5例,脊髄損傷3例も認めた.受傷率はスキーの3.0倍,入院率はスキーの3.2倍であった.基本技術を身につけ,保護用具を着用して,実力に見合った滑走をすることで,スノーボード外傷を予防する必要があると考えた.

特発性大腿骨顆部骨壊死初期像と変形性膝関節症の画像診断

著者: 草山毅 ,   戸松泰介

ページ範囲:P.187 - P.194

 抄録:初期特発性大腿骨顆部骨壊死症ではX線上異常がない時期に既にMRI骨髄所見に変化が生ずる.今回本疾患の腰野によるStage Ⅰの5症例と,50歳以上の膝関節痛にて来院した変形性膝関節症96例104膝を対象に,MRI画像での鑑別が可能かどうかを調査した.
 特発性大腿骨顆部骨壊死においては,高齢,女性,夜間痛,強い自発痛を有し,MRI骨髄所見にても全例に早期から出現,その程度も強かった.一方,変形性膝関節症では,MRI骨髄所見は47/104膝(45%)の出現にとどまり,また北大Stage分類とその程度とは必ずしも相関は見られなかった.また,MRIにて𦙾骨側のmirror lesionが45/47膝に認めた.

手術手技シリーズ 最近の進歩 手の外科

手根不安定症に対する手術

著者: 中村蓼吾

ページ範囲:P.195 - P.200

 抄録:靱帯性手根不安定症で遭遇することの多いのは舟状月状骨解離で,次いで月状三角骨解離である.日常的愁訴があり観血的治療を適応する時は臨床的重症度を画像や関節鏡で判定して方法を決定する.程度の軽い例では両者とも整復位で経皮ピンニングを行う.徒手で整復位が得られない例では観血的に整復する.その際損傷靱帯が修復できれば第一選択の手術方法である.修復不能でも,靱帯再建可能であれば移植腱を用い靱帯再建を行う.すでに関節症が発生した例では関節の再建術を行う.舟状月状骨解離では関節症が橈骨舟状関節に止まる例には近位手根骨列切除を行い,月状有頭関節にも関節症が及んだ例では月状有頭関節を固定する.月状三角関節不良例には月状三角関節固定術を適応する.これらの手術の手術手技,後療法について要点を記載した.

整形外科英語ア・ラ・カルト・74

整形外科分野で使われる用語・その37

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.202 - P.203

●pain(ペイン)
 この疼痛を表す“pain”の語源(etymology-エティモロジィ)は,多くのギリシャ語とラテン語に起源をもつ言葉がそうであるように,ラテン語からフランス語に取り入れられ,のちに英語化している.この“pain”も,ギリシャ語の“penalty”(ペナルティー-罰)を意味する“poine”から,ラテン語の“poena”を経て,フランス語に取り入れられ,そして英語化した.
 フランス語を学ぶと,英語のスペルや意味が似ている場合が多いことに気がつく.以前からフランス語と英語には共通な言葉が多いと思っていたが,最近は共通語が非常に多いと思うようになっている.私の友人で英国人の言語学者に,“どのくらいの割合の英語の単語がフランス語に由来しているか?”と尋ねたことがある.彼は“約70%”と答えた.英語成立の歴史を調べてみると,フランスのノルマン人が1066年に英国を占領したとき,ノルマンディ公ウイリアムが,英国のウイリアムス一世に即位し,それ以後約200年間,英国の宮廷,貴族,法曹などの上流階級では,フランス語が唯一の言葉であったという.そして13世紀になり,有名なチョーサーによる最初の英語詩がやっと出現した.色々なことを表現するとき,英語にはない語彙の場合には,フランス語から借用されたものが多い.そして現在,英語単語の約7割がフランス語に由来している.

ついである記・32

Cancúnとユカタン半島

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.204 - P.205

 人工膝関節が広く臨床応用されるようになってから既に30年近くになり,わが国でも最近では年間約3万例の人工膝関節置換術が行われている.また,世界全体では年間約37万人の患者に人工膝関節が新しく挿入されているといわれる.現在広く用いられている人工膝関節の機種は,そのほとんどが欧米で開発されたデザインであるので洋式の生活にはあまり不自由がないが,日本人のように正坐や胡坐をする生活では,術後かなりの不自由がある.そこで,京大,玉造厚生年金病院,京セラの共同研究で日本人の生活に合った正坐のできる人工膝関節が開発され,術後約5年間の臨床成績がこのほど漸くまとまった.たまたま,私の友人であるテキサスのJackson教授とメキシコのVazquez-Vela教授とが主催して,メキシコのカンクーン(Cancún)で1998年10月に膝関節の手術に関する国際学会を開くことになって,私に正坐のできる人工膝関節について講演するよう要請してきた.世界の人口の半数以上は床の上に直接坐る生活をしているが,膝の屈曲が最大120°迄しか得られない欧米の人工膝関節を用いると,この人達の生活にはかなりの不自由が生じると思われる.また,ヒンズー教,佛教,イスラム教の信者には礼拝の時に脆くことが求められるので,この人達の使用する人工膝関節には正坐あるいはそれに近い屈曲角度を実現するデザインが望ましい.

整形外科philosophy

正師を得ざれば学ばざるに如かず

著者: 伊丹康人

ページ範囲:P.206 - P.207

 本誌昨年の7月号(33巻7号)「視座」に,「教育に迷う新米教授が患者さんから教育されたこと」という表題で,愛知医大の佐藤啓二教授が書いておられるエッセイを拝見して,主任教授という大変な責任を負わされたという認識よりも,権力の座についてほくほくしている新任教授が目につく中で,正師になろうと悩んでおられる大学教官がおられる事を知り,近年にない感激を覚えた.そして,現役を退いて20年近くの間,小生の胸の中にくすぶりつづけていた「シコリ」が急にとけていくような感じがしている.

学会印象記

第12回西太平洋整形外科学会(WPOA '98 Fukuoka)

著者: 植田尊善

ページ範囲:P.208 - P.209

 第12回西太平洋整形外科学会(WPOA' 98 Fukuoka)が,平成10年11月2~6日まで,福岡市のアクロス福岡で開催された.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・29

著者: 中井修

ページ範囲:P.210 - P.215

症例:73歳,男性,会社役員
 1995年頃から誘因なく,右下肢後面の痛みと腰痛を生じた.民間のマッサージなどを受けていたところ,1997年6月頃には一旦消失した.1998年初めより,右殿部から大腿後面,下腿後面,右足背外側にかけての痛み,しびれが再発,歩行は300mで立ち止まらざるを得なくなった.ゴルフなどで長く歩いた後は,夜間痛も起きるようになった.
 初診時所見:腰椎運動制限なし.運動痛なし.SLR試験陰性.Femoral Nerve Stretch試験は右で膝関節痛を生じ,左は陰性であった.右Valleix徴候陽性であった.膝蓋腱反射は両側低下で左右差なく,アキレス腱反射は両側消失していた.膀胱直腸障害を認めず,知覚障害もなかった,右前𦙾骨筋がMMT4に低下していた.それ以外の筋力低下はなかった.両膝関節には中等度の変形性関節症を認め,痛みによりしゃがみこみ不能であった.

臨床経験

大腿骨外顆部に広範な特発性骨壊死をきたした1例

著者: 藤代高明 ,   井口哲弘 ,   石本勝彦 ,   栗原章

ページ範囲:P.217 - P.220

 抄録:大腿骨外顆の荷重面から後方全体に及ぶ広範囲な特発性外顆骨壊死の稀な1例を経験した.症例は74歳男性で,突然の右膝関節痛および不安定感を主訴とした.長期にわたる飲酒歴はあったが,ステロイド剤の服用歴はなかった.両側立位FTAは174°で,右大腿骨外顆の荷重部から後方にかけて関節面が陥凹していた.外側半月板は不完全円板状半月板であった.特発性骨壊死と診断し,片側型人工関節置換術を施行した.病理組織学的所見により骨壊死を認め,確定診断された.本症例の原因は,外反膝のため外顆に荷重負荷がかかりやすい状態で,円板状半月板により部分的なストレスが加わり発症したと考えた.術後6カ月で右膝関節痛および不安定性は消失し経過良好である.

後𦙾骨筋腱脱臼の1例

著者: 兼子秀人 ,   宮原健一郎 ,   江川雅章 ,   樫原水絵

ページ範囲:P.221 - P.223

 抄録:足の腱脱臼は腓骨筋腱に比較的多いが,後𦙾骨筋腱脱臼は稀である.今回われわれは後𦙾骨筋腱脱臼の1例を経験したので報告する.
 症例は,42歳の女性.階段昇降中に突然左足関節痛を自覚し,歩行困難となった.ギプス固定,サポーターなどの保存療法を試みるが,疼痛が持続した.後𦙾骨筋腱脱臼と診断し,腓骨筋腱脱臼におけるDu Vries法に準じた骨性制動術を施行し,良好な結果を得た.

局所破傷風の1例

著者: 竹谷英之 ,   阿部純久 ,   河﨑則之

ページ範囲:P.225 - P.228

 抄録:破傷風は局所症状は少なく,開口障害と後弓反張を特徴とし死亡率が高いため,救急外来や内科,外科外来に受診し診断される.そして全身痙挛が発症した場合,呼吸・循環管理のためにICU管理が必要となる.しかし,稀に創傷に近い筋の局所の硬直を示す場合(局所破傷風)があり,開口障害まで至ることがある.本症例は受傷した左手指の著しい硬直を呈し当科を受診し,3日後開口障害が発症し破傷風と診断された.破傷風抗毒素トキソイドを3,000単位静注し,ジアゼパムを適宜使用し四肢の硬直を管理し,全身痙挛に至らず軽快した.結果として,局所破傷風と診断した稀な1例を経験したので報告する.

後側方到達法により矯正を得た陳旧性環軸椎回旋位固定の1例

著者: 蓮江文男 ,   後藤澄雄 ,   村上正純 ,   山崎正志

ページ範囲:P.229 - P.232

 抄録:症例は5歳男児.1997年4月,高熱と右頚部リンパ節の腫大が出現,斜頚位となり,一週間後,高熱・リンパ節腫大が消退するも斜頚位が残存した.他院にて保存療法を受けるも改善は無く,7月,当院に紹介入院した.単純X線でFielding Ⅲ型の環軸椎回旋位固定と診断され,CTでは左方に回旋転位した環椎と軸椎の右前方部の間に骨性癒合を認めた.保存療法に抵抗を示したため,観血的整復法を選択した.手術は右後側方到達法にて骨性癒合に到達し,環軸椎間を解離,後方固定を追加し矯正位を得た.術後6カ月の現在,矯正位を保っている.Fielding Ⅲ型の陳旧例に対して観血的整復法を選択する際,整復障害因子として骨性癒合と瘢痕形成,危険因子として椎骨動脈損傷脊髄損傷,それに加えて整復後の矯正位の維持方法,および患者に対する手術侵襲の四つの問題点の総合的評価が必要である.そのためには個々の症例の病態の十分な検討が必要となる.

形成不全性高度腰椎すべり症に対する整復固定術の経験

著者: 阿部栄二 ,   村井肇 ,   島田洋一 ,   佐藤光三 ,   千葉光穂 ,   奥山幸一郎 ,   片岡洋一

ページ範囲:P.233 - P.241

 抄録:Meyerding分類でⅢ,Ⅳの形成不全性高度腰椎すべり症4例に対し,椎体間固定とpedicle screw固定法(PS法)による整復固定を行った.最初の1例には前方固定の後,二期的にPS法と後側方固定を,他の3例には一期的にPS法を用いて後方椎体間固定(PLIF)を行った.すべりは%slipで65~73%,slip angleで55~89%整復され,矯正損失もなく骨癒合が得られた.術前tight hamstringsの著しい2例に術後L5神経障害が出現したが,2例とも完全に回復した.脊椎下垂症を除く高度腰椎すべり症はPLIFとPS法により良好な整復と固定が得られる.整復に伴う神経合併症は術中L5神経根を直視下におき,L5神経根の伸張負荷を椎間内での脊椎短縮,整復の程度,移植骨の高さの調節によって軽減することにより予防可能と思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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