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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科34巻3号

1999年03月発行

雑誌目次

視座

医療費削減と日帰り手術(day surgery)

著者: 佐藤勤也

ページ範囲:P.247 - P.247

 周知のように,米国では医療費の高騰を削減する目的で,1983年からDRG(Diagnosis Related Groups)導入により,医療費定額払い(PPS:Prospective Payment System)が行われるようになった.その結果,病院経営にとって在院日数の短縮化は絶体的条件となるため,ひとつの対策として,日帰り手術が普及し,今日では全手術数の75%を占めているとのデータも示されているという.
 日本でも,21世紀には疾患別定額支払い方式(診断群別包括支払い方式:DRG/PPS)に進むことは確実ではないかとされており,日帰り手術の実施は21世紀の医療システムの先取りとして,大学病院や総合病院でも今から準備を進めるべきであると言われている.おそらく,人工関節置換術,脊椎インストゥルメンテーション手術,悪性腫瘍(軟部,骨)の広範囲切除術など限られた手術以外は,日帰り手術になる可能性も否定できない.

シンポジウム オステオポローシスの評価と治療方針

緒言 フリーアクセス

著者: 越智隆弘

ページ範囲:P.248 - P.250

 骨粗鬆症は高齢社会の到来とともに重要視され始めた病態の代表格です.決して新しい概念ではなく,加齢とともに当然発症する周知の病態と考えられてきました.例えば,「70歳を超えた高齢者が自宅の布団の上で尻餅をついて立てなくなった」と聞けば,整形外科医は「骨粗鬆症の高齢者に大腿骨頚部骨折,または腰椎圧迫骨折が起きたのだろう」と即座に言うほど,臨床現場第一線の整形外科医にとって高齢者の自然経過として発生する通常の病態でした.加齢とともにあらゆる臓器の構成細胞は退行性変化を起こしていきます.女性生殖器系の退行性変化からエストロゲン減少による閉経後骨粗鬆症が発生します.さらに加齢が進むと全身臓器の退行性変化が起きて,種々の機能低下が進み,老人性骨粗鬆症に陥っていきます.その病態の中で骨代謝の一面だけをみると,腸管や腎細尿管の機能低下によるCa再吸収の減少,骨芽細胞そのものの機能低下等々により,骨形成能は低下して骨梁は菲薄化してオステオペニア(骨減少症),さらにオステオポローシス(骨粗鬆症)に陥っていきます.私ども整形外科医は骨粗鬆症を加齢による自然経過と捉えながらも,例えばカルシウム摂取不足や廃用(動かさないこと)などによる二次性骨粗鬆症を防ぐために,食事内容の注意を与えたり,少しでも身体を動かすように日常生活上の注意を与えてきました.そして,骨折を起こせば治療にあたるというのが整形外科医の診療姿勢であったと思います.

整形外科の立場から

著者: 佛淵孝夫

ページ範囲:P.251 - P.257

 要旨:骨粗鬆症とは「骨量が減少して骨折しやすくなった状態」と定義され,わが国では1996年の日本骨代謝学会の診断基準が用いられている.骨粗鬆症の診療においても診断が最も重要であり,他の疾患との鑑別が必要である.ここでは診断,骨塩量と骨折,治療薬の効果と限界などについても言及し,整形外科的立場からの骨粗鬆症治療の適応について述べる.

整形外科の立場から

著者: 高岡邦夫 ,   小林千益

ページ範囲:P.259 - P.263

 要旨:骨格の損傷や疾患を扱う整形外科の治療にあたって骨粗鬆症が影響することは日常診療でよく経験する.骨粗鬆症の治療として骨量維持や骨量回復を目的とすることには異存はないが,整形外科の臨床において骨粗鬆症が骨折の治療に限らず,いろいろな整形外科疾患の治療に与えている影響も考慮すべきであろう.また,骨粗鬆症に由来する骨折の予防や治療についても一般の骨折の治療方法に加えて,骨の脆弱性を合併しているときには,整形外科として専門的な工夫も必要である.この観点から,人工関節の耐用性への骨粗鬆症の影響,骨粗鬆症の椎体骨折に対する治療体系の必要性と確立,骨粗鬆症患者に起こりやすい大腿骨頚部骨折の危険性の予知予防などについて考察した.

内科の立場から

著者: 中塚喜義 ,   森井浩世

ページ範囲:P.265 - P.274

 要旨:内科における骨粗鬆症は,骨折や疼痛などの臨床症状がなく,骨量が減少し,骨折のリスクが高いものが多いことが特徴である.骨粗鬆症患者の骨量減少の進行を阻止し,将来の骨折を防ぐためには,続発性の疾患を除外,骨・カルシウム代謝を評価するため,骨代謝マーカーを含めた生化学検査により病態を把握することが重要である.さらに,個々の患者において,骨粗鬆症の危険因子,QOLの評価を行い,予防的基礎治療,本格的な薬物療法などから最も適した治療戦略を選択すべきである.治療においては,合併症,年齢,症状を考慮して,臨床医の経験に頼るだけでなく,過去の臨床成績に基づき治療薬の選択を行う努力が求められようとしている.他の代謝異常と同様な視点から,骨粗鬆症を骨代謝異常症として捉え,危険因子の除去や積極的な薬物療法などの介入による是正は,骨粗鬆症の進行,骨折の回避につながることとなる.

小児科の立場から

著者: 宮澤真理 ,   清野佳紀

ページ範囲:P.275 - P.281

 要旨:小児では骨量や骨代謝の状況が成人とは異なっているために,オステオポローシスの評価をする上で注意が必要である.骨量の測定には一般的に腰椎Dual Energy Absorptiometry(DXA)法が用いられているが,近年有用であると考えられるようになったものに,Peripheral Quantitive X-ray Computed Tomographyや超音波法がある.骨代謝マーカーは小児の成長期では一般に高い骨代謝を反映して成人よりも高い値を示す.骨形成マーカーとして骨型アルカリホスファターゼ,インタクトオステオカルシンなどが,骨吸収マーカーとしてコラーゲン架橋産物であるピリジノリンなどがある.小児期にオステオポローシスをきたす疾患に特発性若年性骨粗鬆症や骨形成不全症があり,これらの治療について様々な試みがなされている.

産婦人科の立場から

著者: 太田博明

ページ範囲:P.283 - P.289

 要旨:オステオポローシスは各科にわたる学際的疾患であることは良く知られている.産婦人科領域におけるオステオポローシスの診療は約10年と日は浅いが,一部の産婦人科医による精力的な研究により,本症に果たしてきた役割は少なくない.その一環として,最近産婦人科領域で注目されている閉経前における骨粗鬆化についても記載してみた.また,確立したオステオポローシスの評価については各科とも異論のないところであるが,オステオペニアの評価とその取り扱いに関しては議論のあるところである.そこで,産婦人科領域にていち早く提唱した閉経後骨量減少の概念とその取り扱いについて記載した.さらに,治療方針としては,オステオペニアに対して産婦人科こそ全例を予防・治療対象として対応すべきであることを強調した.
 その対応は生活指導とともに薬物療法であり,薬物療法としては他剤も考慮しつつ,ホルモン補充療法やビスフォスフォネート製剤などの骨吸収抑制剤が最もよい適応と考えるべきであろう.

Osteoporosisの疫学

著者: 藤原佐枝子

ページ範囲:P.291 - P.297

 要旨:骨粗鬆症は頻度の高い疾患で,50歳の日本人女性の少なくとも42%は将来,骨粗鬆症に関連した骨折を起こす可能性がある,日本人の脊椎骨折の発生率は近年減少しているが,日系アメリカ人に比べると有病率は高い.この所見は脊椎骨折の発生は,環境要因の影響を強く受けていて,生活習慣の改善によって脊椎骨折の予防が可能であることを示している.骨密度が低いと骨折のリスクは高くなるが,同じ骨密度でも,年齢が高い,閉経年齢が早い,骨折の既往がある,あるいは危険因子を多く持っているほど骨折のリスクは高くなる.一方,自分でコントロールできない危険因子を持っていてもコントロールできる危険因子を減らすことで骨折のリスクは低下する.したがって,骨粗鬆症治療にあたっては,骨量だけでなく危険因子も考慮して将来の骨折リスクを考え個人に応じた予防,治療方針をとる必要があると思われる.

論述

膝関節不顕性骨折の検討

著者: 細川哲 ,   王寺享弘 ,   案浦聖凡 ,   松田和浩 ,   徳永真巳 ,   小林晶

ページ範囲:P.301 - P.307

 抄録:膝関節血症の原因の一つとしてMRIにて診断できる不顕性骨折(occult fracture)が挙げられる.今回,当院にて経験した不顕性骨折を検討したので報告する.
 症例は男性9例9膝,女性4例5膝の計13例14膝.平均年齢は39.9歳(14~81歳)であった.受傷原因は転倒6膝,交通事故4膝,スポーツ外傷4膝であり,骨折部位は経骨13膝,大腿骨1膝であった.全例に関節血症を認めた.6膝に関節鏡を施行し,このうち5膝に関節面の軟骨に骨折線を認めた.治療は11膝に短期間固定を行った.受傷後3~4週後に12膝中7膝に,不顕性骨折の部位に一致してX線上仮骨形成を認めた.

HG型セメントレス人工股関節の中期成績―ステムの固着形式と安定性のX線学的検討

著者: 飯田哲 ,   篠原寛休 ,   藤塚光慶 ,   矢島敏晴 ,   丹野隆明 ,   品田良之 ,   早川徹 ,   神川康也 ,   原田義忠

ページ範囲:P.309 - P.318

 抄録:いわゆる第一世代セメントレス人工股関節である,Harris-Galante型ポーラスシステム31例36関節の,術後平均8年6カ月の中期成績を大腿骨側のX線学的評価を中心に検討した.大腿骨側,臼蓋側共にX線学的にルースニングをきたした症例はなかった.ステム周囲の内骨膜性骨新生の出現部位は近位型,中間位型,混合型および遠位型の4型に分類可能であり,骨新生の出現型式より大腿骨側における荷重の伝達様式が推察できた.近位型,中間位型および混合型の31関節はEngh分類ではbony stableに相当し,臨床的にも良好であったが,遠位型の4関節はthigh painと跛行の出現率が高く,X線学的にもステム周囲に強い骨萎縮を認める傾向にあり,ステムの安定性に若干の問題を有していた.術前股関節X線像で,atrophic typeに分類される症例は遠位固着型になりやすく,atrophic typeの症例に対するセメントレス人工股関節の適応は慎重であるべきと思われる.

人工膝関節置換術における術後早期出血対策

著者: 大谷茂 ,   百名克文 ,   脇田重明 ,   良原公浩 ,   橋口淳一 ,   橋谷実 ,   三井敏文

ページ範囲:P.319 - P.323

 抄録:当科では1993年より人工膝関節置換術(TKA)に対して,非洗浄回収式自己血輸血法(以下非洗浄法)を用いて,同種血輸血の回避を試みてきた.1997年1月からはそれに加え,トラネキサム酸を投与することにより術後早期の出血対策としてきた.今回われわれは1995~1997年にOAとRAに対して施行したTKA(Revision含)の70症例93関節を対象とし,非洗浄法のみ使用した症例(n=46)とトラネキサム酸を併用した症例(n=47)について,術後出血と術後のHb値の推移を比較検討した.トラネキサム酸は術中駆血帯を解除直前と術後3時間に1gずつ点滴静注を行った.術後3,6,12時間,および最終の出血量を測定し,両群に有意な差を認めた.併用群では輸血症例はなく,非洗浄法のみ使用した症例では46関節中41関節に回収血輸血(平均312ml)を行った.術前Hb値と術後1,7,14日目のHb値の低下推移には両群に有意な差は認めなかった.トラネキサム酸の点滴静注は簡便な方法で有意な合併症もなく,術後早期の出血対策として有用である.

手術手技 私のくふう

慢性関節リウマチに対するmatched distal ulna resectionの成績

著者: 藤田悟 ,   政田和洋 ,   冨士武史

ページ範囲:P.325 - P.330

 抄録:慢性関節リウマチに対するmatched distal ulna resectionの短期成績を報告した.X線学的には手関節正面像を以下の3群に分類し,carpal height ratio(CHR)とcarpal translation index(CTI)を測定した.N群(5手):橈骨手根関節の関節列隙に狭小化はあるがびらんのないもの.E群(16手):橈骨手根関節にびらんを伴ったり,既に手根骨の尺側移動があるもの.A群(5手):手関節全体,または橈骨と近位手根列間で部分的に骨性強直を呈しているものである.臨床症状は術後全例において改善し,術後のulnar impingement syndromeの発症もなかった.CHRはN群とE群で減少したが,A群でよく保たれていた.CTIにおいてはE群は他の2群と比較して有意に増加し,手根骨の尺側移動が進行していた.本法は短期的にはDarrach法の欠点を補う有効な方法と考えられるが,適応はN群とA群にあり,E群については術後も尺側移動が進行していく.

手術手技シリーズ 最近の進歩

手の外科

腕神経叢損傷に対する手術―筋腱移行術を中心に

著者: 長野昭

ページ範囲:P.331 - P.337

 抄録:腕神経叢損傷の機能修復は,新鮮例には原則的には病態に応じ,有連続損傷であれば保存的治療,神経断裂であれば神経移植術,節前損傷であれば肩,肘機能については神経移行術が行われるが,年齢,受傷より手術までの期間,病型,職業によっては腱移行術などの機能再建術が始めから適応となる.
 腱移行術の一次的適応は,受傷時50歳以上,および受傷より手術までの期間が9カ月以上の症例と,神経修復術,神経移行術の成績が不良な手の機能再建の場合である.また,保存療法,神経移植術を行ったが回復が不十分な場合においては,12カ月で[0],18カ月で[2]以下の症例が適応となる.
 本稿では肩,肘,手の機能再建術の手術法とその適応,筋腱移行術による肩機能再建法,肩関節固定術,Steindler変法による肘屈曲機能再建法とC5-C8型における総指伸筋腱固定術による手関節・指伸展再建法のポイントについて述べた.

整形外科英語ア・ラ・カルト・75

福岡大学整形外科教授・緒方公介先生を偲んで

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.338 - P.339

 今回は特別に緒方公介先生のことを書くことを許して戴きたい.
 今から10年前,私が膝関節炎を患ったとき,公介先生は私の主治医であった.彼は当時九州大学整形外科講師であり,のちに福岡大学整形外科教授に就任された.しかし,昨年の平成10年12月31日に,肺癌で52歳の若さで他界された.今年に入り,1月24日に告別式があり,私は最後のお別れをしてきた.公介先生がこの世にいないことがまだ信じられない.

ついである記・33

Lima―旅は道連れ世は情け

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.340 - P.341

 ラテンアメリカ整形外科・災害外科学会(SLAOT)は中南米のスペイン語およびポルトガル語を母国語とする21力国の整形外科医が加盟している大きな国際学会である.1998年はこの学会の創設50周年に当たるので,同年10月にペルーのリマで50周年記念学会が開かれた.私はかなり以前からウルグァイやメキシコの整形外科学会の名誉会員を務めるなど中南米諸国の整形外科学会とは交流も多く,また,この50周年記念学会の会長となったJosé Castilloとは古い知己でもあるので,招きに応じて3つの講演を用意した.たまたま,私はこの学会の1週間前にメキシコのカンクーンで開かれる国際シンポジウムにも出席することになっていたので,この2つの学会を10日間ほどで丁度うまく渡り歩くことができるのではないかと考えた.地図を見ると,ユカタン半島の先端に位置するカンクーンから南米のリマへ行くにはコスタリカのサン・ホセ経由が最短の行程であると思われた.日本の旅行社に尋ねると,ラン・チリ航空という会社が丁度その路線に飛行機を飛ばしているという.名前だけは知っているが未だ行ったことのないコスタリカという国へ少しの時間でもよいから降り立ってみたいという単純な好奇心も手伝って,私はこの路線のフライトを予約して日本を発った.

整形外科philosophy

良き整形外科医となるために―卒後教育の重要性と若い医師たちへの助言

著者: 榊田喜三郎

ページ範囲:P.343 - P.346

はじめに
 私は昭和27年京府医大を卒業後,順大付属医院でインターンとして医師のスタートを切った.その後,慶大整形外科で岩原寅猪教授に師事して学位を取得,昭和35年に1年間のアメリカ留学(UCSF)を経て,東邦大に移り西新助教授に師事した.昭和43年母校に帰って諸富武文教授の助教授を務め,昭和52年より整形外科講座を担当,平成元年定年退職後滋賀県近江八幡市民病院長を5年間勤めて退職した.
 今日までの45年間に亘る永い整形外科医としての生活を振り返って,私自身「良き整形外科医」であったとの自負はないが,その大半を大学での教育職で過ごした経験を通し,整形外科で研修を始めた若い医師の方々に少しでも参考になればと思い筆を執った.

専門分野/この1年の進歩

日本小児整形外科学会―この1年の進歩

著者: 井上明生

ページ範囲:P.348 - P.349

 第9回の本学会は1998(平成10)年12月4,5日の2日間,久留米で開催されました.今回の学会では4つの主題を選びましたので,それらを最近のトピックスとして紹介したいと思います.
 4つの主題とは,「各種小児整形外科疾患の疫学」,「まひ性疾患の治療成績評価法」,「各種小児整形外科疾患に対する装具療法の限界」,「小学生期の先天股脱遺残性障害に対する治療法」であります.

整形外科/知ってるつもり

テニス肘

著者: 二見俊郎

ページ範囲:P.350 - P.351

【分類および同義語】
 障害部位によってテニス肘は発生頻度の最も高い外側型テニス肘,頻度の比較的少ない内側型テニス肘,および後方型テニス肘の三つに分類される.前述したごとく患者の多くは外側型であることから,通常はテニス肘というと外側型と考えてよい.この外側型テニス肘は実際のところテニスが原因で発症する例は少ないこと,さらには障害部位の病因論的立場から,一般に「上腕骨外上顆炎」とも呼称されており,これが同義語である.
 以下,外側型テニス肘(上腕骨外上顆炎)について記述する.

最新基礎科学/知っておきたい

遺伝子治療

著者: 田中栄

ページ範囲:P.352 - P.353

 近年の遺伝子工学のめざましい進歩は,様々な遺伝性疾患の原因を分子レベルで解明するのに貢献してきた.また,骨粗鬆症,慢性関節リウマチなど単一遺伝子の異常では説明できないような疾患についても,ポリモルフィズムなどの手法を用いて疾患の発症,あるいはその重症度と関連する遺伝子の存在が明らかにされつつある.このような中で疾患の本体である異常な遺伝子自体を治療しようとする発想がでてくるのは当然のことであり,「遺伝子治療」はそのような流れの中で生まれた新しい治療として位置付けることができる.
 1980年にUCSFのClineらは末期サレセミア患者の骨髄細胞に正常β-グロビン遺伝子を導入し,患者に戻すというex vivo遺伝子治療を行った.しかし,この治療は倫理的・社会的な合意が得られないままに強行され,また科学的根拠にも問題があったため各方面からの厳しい非難をあび,治療は直ちに中止させられた1).この事件をきっかけとして,米国ではNIHを中心として遺伝子治療の技術的・倫理的問題が繰り返し調査・検討され,BlaeseおよびAndersonらによって1990年9月に合意の得られた世界最初の遺伝子治療としてアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症患者の治療が開始された.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・30

著者: 谷口睦

ページ範囲:P.355 - P.357

症例:57歳,男性,会社員(図1)
 主訴:後頚部痛,両手のしびれ,歩行障害
 現病歴:数年前より時々後頚部痛があったが放置,3カ月前より後頚部痛とともに両手のしびれを自覚,頚椎カラー固定後疼痛は軽快したが1カ月前より両下肢のしびれと歩行障害も出現した.経過を通じて発熱,全身状態の異常,悪化はない.現在頚椎カラー固定し下肢筋力の低下のため杖歩行している.

臨床経験

子宮頚癌の放射線治療後に発生した恥骨化膿性骨髄炎の2例

著者: 森山一郎 ,   松本守雄 ,   山内健二 ,   堀内極 ,   森末光 ,   山岸正明 ,   田中守

ページ範囲:P.359 - P.362

 抄録:恥骨化膿性骨髄炎の2例を経験した.症例1:69歳女性.左下肢痛,左恥骨部痛を主訴に1995年4月3日入院し,5月16日病巣掻爬を行った.術後3年の現在,愁訴はなく経過良好である.症例2:80歳女性,発熱,恥骨部痛を主訴に1995年3月27日入院した.4月3日,エコー下穿刺を行い,その後,5週間の抗生剤の点滴静注を行った.発症後約3年の現在,愁訴はなく経過良好である.画像診断としてX線像,CT像における骨破壊像,腐骨の存在が挙げられているが,これらに加えMRIで明瞭に膿瘍の貯留が認められ,骨髄炎の診断および病態把握に有用であった.今回の2例では子宮頚癌で放射線治療の既往があり,放射線の晩期障害として恥骨が易感染性となったことも発症の一因と考えられた.

髄内釘使用により大腿骨骨頭壊死を生じた小児大腿骨骨幹部骨折の1例

著者: 杉基嗣 ,   開地逸郎 ,   斉藤良明 ,   大中博司

ページ範囲:P.363 - P.366

 抄録:Küntscher釘による髄内固定が原因で骨頭に壊死を生じた小児の大腿骨骨幹部骨折を経験した.発育期にある小児大腿骨骨幹部骨折は,保存的治療が優先されるべきと考えるが,自家矯正力が低下してくる年長例では,Küntscher釘を用いる報告もある.しかし,Küntscher釘による成長軟骨の直接的な損傷や,血管の損傷による骨頭の壊死など,成人例とは異なる合併症が報告されている。特に後者は渉猟しえた限りでは,6例を見るにすぎず稀なものと思われるが,変形は進行性で予後は不良である.有効な治療法のない本症では,発生頻度が低いとはいえ予防が重要で,成長線が閉鎖するまでは逆行性の刺入が安全な方法と考えられた.

左膝近傍に発生した骨外性粘液型軟骨肉腫の1例

著者: 安田ゆりか ,   土谷一晃 ,   工藤幸彦 ,   高橋寛 ,   奥秋保 ,   勝呂徹 ,   茂手木三男 ,   亀田典章 ,   蛭田啓之

ページ範囲:P.367 - P.370

 抄録:症例は47歳女性.主訴は左膝関節内側の腫瘤.MRI上,T1強調画像でlow,T2強調画像でhigh,Gdで不規則にenhanceされた.術中迅速病理でlow grade malignancyと診断され,広汎切除を行った.切除縁評価はwide margin(1cm)であった.術後1年8カ月の経過で再発転移を認めていない.
 骨外性粘液型軟骨内腫は比較的稀な低悪性腫瘍であるが,過去の報告例をみると10年後に再発や転位をきたした症例がみられることから長期間にわたる慎重な経過観察が必要である.

稀な部位に発生した石灰化腱膜線維腫の2例

著者: 北脇文雄 ,   倉都滋之 ,   田村太資 ,   橋本伸之 ,   荒木信人 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.371 - P.374

 抄録:非常に稀な部位に発生した石灰化腱膜線維腫の2例を経験したので報告する.症例1は8歳,女児.主訴は右前腕腫瘤.症例2は21歳,女性.主訴は左下腿後面腫瘤.画像上,2症例とも周囲正常組織との境界が不明瞭で,MRIのT1,T2強調画像で腫瘍がlow intensityを示していたのが特徴的であった.手術は,周囲筋および筋膜組織を一層腫瘍側につけて切除した.病理組織学的には石灰化した軟骨様分化巣と線維腫症様の線維組織の2つの成分が混在する石灰化腱膜線維腫の典型的な像を呈していた.今回の症例のような部位に腫瘤が発生した場合,稀ではあるが鑑別診断の一つとして本疾患も念頭におくべきであると思われた.

Mycobacterium avium complexによる手指屈筋腱腱鞘炎の1例

著者: 山田聡 ,   服部敏 ,   泉田誠 ,   牛山斉子 ,   門司貴文 ,   末松寛之 ,   波多野正和

ページ範囲:P.375 - P.377

 抄録:右環指の腫脹,可動域制限を主訴とした非定型抗酸菌による右手指腱鞘炎を経験した.症例は77歳男性.職業は農業.既往歴に特記すべき外傷はなく,ほぼ10年にわたり繰り返し右手指,手関節の滑膜切除術を受けていたが,起炎菌を同定できず治療に難渋していた.今回滑膜切除標本よりDNA-DNA hybridization法にてMycobacterium avium complexが証明され,組織学的にもLanghans巨細胞,類上皮細胞,乾酪壊死よりなる組節が認められたため診断が確定,手術後6カ月間の化学療法を併用し経過は良好である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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