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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科34巻4号

1999年04月発行

雑誌目次

特集 脊椎外科最近の進捗―脊椎骨切り術と脊椎再建を中心として―(第27回日本脊椎外科学会より)

序:脊椎外科最近の進歩―脊椎骨切り術と脊柱再建を中心として

著者: 金田清志

ページ範囲:P.384 - P.385

 第27回日本脊椎外科学会は「脊椎骨切り術と脊柱再建」を主題として,1998(平成10)年6月18,19日の2日間にわたり開催されました.脊椎骨切り術“spinal osteotomy”の概念に包含される手術は,四肢骨における骨切り術に比較するとまだあまり馴染みのないことかも知れません.しかし,脊柱変形をより効果的に矯正するために,あるいは脊柱管内での神経障害病態の除去や不安定病態をより根治的に治療するため,脊柱構成体の一部あるいは全脊椎を切除する(total vertebrectomy/spondylectomy)脊椎骨切り術は,脊柱再建の目的をより一層効果的に達成させる可能性を秘めた方法であります.
 前方脊椎骨切り術の嚆矢ともなった脊椎カリエスへの胸椎・腰椎前方到達手術は京都大学・伊藤 弘教授により開拓されました(A new radical operation for Pott's disease;Report of ten cases. J Bone Joint Surg 16:499,1934).一方,故桐田良人先生は頚椎後縦靱帯骨化症の数多い臨床経験の蓄積と成績検討から脊髄同時除圧の必要性を感知され広範椎弓切除術の頚椎骨切り術を考案されました.

頚椎前方固定術における前方プレートの適応と成績

著者: 土井田稔 ,   水野耕作 ,   原田俊彦 ,   鷲見正敏

ページ範囲:P.387 - P.394

 抄録:頚椎前方固定術の際に,確実な骨癒合と良好な頚椎アライメントの獲得を目的として,頚椎損傷例や非外傷性疾患では多椎間固定例に対して前方プレート(P群)を併用してきたので,その臨床成績につきプレート非使用群(N群)と比較検討した.移植骨の圧壊や偽関節の発生率では,非外傷群では両群間に差はなかったが,頚損群ではN群で有意に高率に認められていた.前弯角の変化では,非外傷群,頚損群ともにP群ではN群に比較し,術後の前弯角が調査時も維持されていた.固定椎間高の低下は,頚損群ではN群はP群に比較し有意に減少していた.調査時の頚椎アライメントでは非外傷群では差はなかったが,頚損群ではN群で後弯型を示す割合が多かった.以上より,頚椎前方プレートは,頚椎損傷例では良好な成績が得られ単椎間固定でもよい適応であると思われる.非外傷性疾患では多椎間固定には適応となるが,単椎間の固定ではその適応は少なく,早期離床を必要とする症例などに対して有用であると思われる.

頚椎再建と後方instrumentation

著者: 谷口睦 ,   横山浩 ,   夫徳秀 ,   青木康夫 ,   圓尾宗司

ページ範囲:P.395 - P.403

 抄録:構築学的破綻を来した頚椎疾患に対する後頭骨・頚椎再建に後方instrumentation手術の果たす役割は大きい.今回,78例に対するLuque法(rod/wire system),Axis法(plate/screw system),Olerud法(rod/screw system)の頚椎instrumentの使用経験およびその手術成績を検討した.各種頚椎後方instrumentationによる固定は初期固定性,長期成績ともに良好で,骨癒合も97.2%と高率であり,後頭骨・頚椎後方単独再建には非常に有用であった.Instrumentの選択には,固定性,固定範囲,矯正力,同時除圧の可否のみならずRA頚椎病変を代表とする疾患病態,骨密度などが重要条件となる.頚椎外側塊,椎弓根screwを用いた頚椎後方screw固定法は,後方同時除圧と強固な再建・固定が可能な後方instrumentであった.

椎弓根スクリュー固定による頚椎疾患の治療

著者: 鐙邦芳 ,   高田宇重 ,   庄野泰弘 ,   種市洋 ,   伊東学 ,   長谷川匡一 ,   金田清志 ,   藤谷正紀

ページ範囲:P.405 - P.412

 抄録:椎弓根スクリューを用いた再建を行い,2年以上経過した頚椎疾患176例を調査した.頚椎損傷71例,慢性関節リウマチによる頚椎疾患34例,頚椎症・後縦靱帯骨化症による頚髄症24例,頚椎腫瘍16例,その他31例であった.後頭頚椎固定が28例,頚椎あるいは頚胸椎固定が148例であった.57人には後方除圧として椎弓切除あるいは椎弓形成術を併用した.1例を除き骨癒合が得られ,後弯矯正,後頭頚椎移行部の配列異常の矯正も良好であった.スクリューによる合併症として椎骨動脈損傷が1例あったが,神経障害は生じなかった.2例にスクリューによる,1例に前方転位整復後の椎間孔狭窄による神経根障害が生じたが,スクリューによる1例は自然消失し,他の2例は再手術により治癒した.椎弓根スクリュー固定は後頭頚椎移行部から頚胸椎移行部にわたる再建に有効な内固定法であり,後方除圧と同時に再建固定を要する例や後弯矯正を要する例で特に有用性が高い.

脊椎骨切り術(Spinal Osteotomy)による先天性脊柱側弯症―Hemivertebra―の治療

著者: 庄野泰弘 ,   金田清志 ,   鐙邦芳

ページ範囲:P.413 - P.420

 抄録:Hemivertebraによる先天性側弯症18例に骨切り術を応用した半椎切除術とinstrumentationによる矯正固定術を実施した.手術法は,前方進入単独による半椎切除術が2例,後方・前方進入による合併半椎切除が7例,後方単独進入による半椎切除術が9例であった.全例で前方,後方もしくは前・後方instrumentationを併用した.半椎を含む主弯曲の側弯角は,術前52°が16°(矯正率:69%)に矯正され,矢状面変形は,後弯42°が15°に矯正された.体幹shiftは術前19mmが3mmへと改善した.神経,implantに関する合併症は認めず,経過観察時,全例で骨癒合が得られた.Hemivertebraによる先天性側弯症では,骨切り術とinstrumentationを併用した矯正固定術により良好な矯正が得られる.Hemivertebraの高位,後側弯変形のflexibilityと範囲を考慮し,骨切り術の手技と併用するinstrumentationを決定すべきである.

陳旧性胸椎,腰椎外傷性後弯症に対する手術成績

著者: 大田秀樹 ,   芝啓一郎 ,   植田尊善 ,   森英治 ,   力丸俊一 ,   加治浩三 ,   弓削至 ,   竹光義治

ページ範囲:P.421 - P.427

 抄録:当センターで経験した28例の陳旧性胸椎,腰椎部外傷性後弯症の手術成績を検討した.手術は前方後方固定が19例,後方固定または後方短縮固定が9例であった.術式の選択は脊椎の損傷形態および麻痺の程度から決定した.脱臼骨折,破裂骨折の前方短縮型の場合は前方後方固定を行ったが,後弯角が30°以内かそれ以上でも可撓性があれば後方法単独を選択した.Chance型骨折の後方伸延型の場合は後方短縮固定を行った.不全麻痺例で神経除圧が必要であれば後弯角とは関係なく前方除圧固定を行った.後弯角は前方後方群と後方群を比較すると,前方後方群は36.1°±4.2°が13.8°±1.9°(改善率61.8%),後方群は38.6°±4.2°が23.7°±3.5°(改善率38.6%)と改善しており,前方後方群の成績が有意に優れていた.麻痺は不全麻痺例に限れば全例改善した.陳旧例でもADLの向上および神経学的改善の面から,積極的な手術が望まれる.

局所骨とHydroxyapatite混合物を充塡したHarms Cageによる後方経路腰椎椎体間固定術

著者: 西島雄一郎 ,   道下正光 ,   土島秀樹 ,   浦橋斉悟 ,   津畑修 ,   奥田鉄人

ページ範囲:P.429 - P.434

 抄録:腰椎再建外科における椎間スペーサー,人工椎体の有用性が認識されつつある.筆者はHarmsによって開発されたtitanium mesh cage(Harms cage)を後方経路腰椎椎体間固定術(PLIF)に応用した.術式は後方インスツルメントでアラインメントを矯正し,cageを術中に前方開の楔状にtrimmingして椎間の大きさに合わせ,椎間に挿入した.cage内と椎間前方に局所骨屑とHydroxyapatite/Tricalciumphosphate 7:3 composite granuleの混合物(Ceratite added to local bone,CALBと略す)を詰め,採骨を必要としない術式としている.1年以上経過を追跡し得た103例の臨床成績はJOAスコア(29点評価)で術前平均15.0点から25.3点,平均改善率74%であった.骨癒合率も96.1%と良好であった.問題点として,cageの沈み込み(7.8%),隣接椎間の不安定性の増大(5.8%)等があげられた.CALBを詰めたHarms cageはPLIFの椎間スペーサーとして,椎間高の保持と骨癒合率の点で優れていると思われた.

骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折に対するリン酸カルシウム骨セメント椎体内注入補塡術

著者: 山本博司 ,   柴田敏博 ,   池内昌彦

ページ範囲:P.435 - P.442

 抄録:脊髄・神経麻痺を伴わない骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折症例に対し,当初はペースト状であるが,次第に硬化するリン酸カルシウム骨セメント(CPC)を注入補填し,椎体の力学的強化と修復を図る治療法の開発を試みているので,報告し検討する.
 実験的に,6匹の骨粗鬆犬の腰椎に作成した骨孔にCPCを注入し,3,6,および12カ月後に,力学的検査と組織学的観察を行った.CPC注入椎体は非注入椎より力学的に高い強度を示し,CPC周囲には新生骨による被覆が進んでいることが確められた.

転移性胸・腰椎腫瘍に対する椎体または脊椎全切除と脊柱再建術―A-W Glass Ceramic椎体スペーサーによる椎体置換

著者: 種市洋 ,   金田清志 ,   鐙邦芳 ,   楫野知道

ページ範囲:P.445 - P.452

 抄録:転移性胸・腰椎腫瘍43例に対するApatite-Wollastonite Glass Ceramics(A-W GC)椎体スペーサー応用の脊椎・椎体全切除/脊柱再建術の成績を分析した.腫瘍椎切除術式はIntracompartmental lesionの5例にはen bloc切除を,他の38例にはpiecemeal切除を施行した.術後生存率は6カ月:85%,1年:74%,2年:56%であった.疼痛改善率:91%,麻痺改善率:71%,ADL改善率:83%で81%は自宅退院後日常生活へ復帰できた.手術効果の持続期間が生存期間に占める割合は平均76.5%であった.局所再発率は28%で,術式別ではpiecemeal切除:26%,en bloc total vertebrectomy:20%であった,再建脊柱の安定性が全観察期間を通して維持されたのは全体の63%であった.A-W GC椎体スペーサーの安定化は,移植肋骨の骨癒合(74%),椎体スペーサー周囲の骨新生(19%),椎体スペーサー/椎体間癒合(7%)により得られていた.本法は長期予後が期待できる転移性脊椎腫瘍患者のQOL向上に対する有効な治療法といえる.

骨粗鬆症性胸腰椎椎体圧潰―診断と手術適応

著者: 持田讓治 ,   千葉昌宏 ,   西村和博 ,   野村武 ,   東永廉

ページ範囲:P.453 - P.459

 抄録:骨粗鬆症性胸腰椎椎体圧潰は高齢化に伴い,その発生頻度が増加している.1984年以降の17自験例を再検討し,診断上の留意点と治療方針をまとめた.進行した骨粗鬆症例での圧迫骨折では,側面単純X線撮影を経時的に行い,椎体圧潰の出現の有無を確認する.疑わしい場合にはMRIによる骨壊死の確認が必要である.運動麻痺のない陥凹型,平坦圧縮型では保存的治療が適応しうるが,十分な安静期間と,確実なギプス固定,硬性装具などの装用が必要である.運動麻痺の有無にかかわらず楔状型では前方除圧,前方固定術,前方インストゥルメントを基本的方針とし,運動麻痺のある陥凹型,平坦圧縮型ではegg shell法とペディクルスクリューを併用した後方からの除圧固定術が適応される.

骨粗鬆症性外傷後椎体圧潰の病態と診断

著者: 伊東学 ,   種市洋 ,   金田清志

ページ範囲:P.463 - P.470

 抄録:骨粗鬆症性外傷後椎体圧潰の報告は近年増加しているが,その病態は十分に解明されていない上,診断に苦慮する場合も少なくない.本研究では,術中摘出した圧潰椎体の組織学的所見から本疾患の病態について検討した.そして,鑑別診断として重要な転移性脊椎腫瘍との画像上の鑑別点を検討した.本疾患の病態は,骨粗鬆症による骨の脆弱性と骨形成能の低下を基盤とし,反復して骨折椎体が小さな外傷を受ける結果,骨折治癒過程が障害される.そして,椎体内が次第に壊死組織や結合組織で置換され椎体圧潰が進行する.転移性脊椎腫瘍との画像上の鑑別点は,intravertebral cleftの存在や,椎体中央部から前方部でのGdによる信号増強がないこと,椎弓根破壊や傍脊柱軟部腫瘤の頻度は少ないことであった.本疾患は,胸腰椎移行部のAnterior Load Sharingを破綻するため,手術治療では破綻した前方支柱再建が必須である.ステロイド性骨粗鬆症などで骨の脆弱性が著明な場合,前方および後方合併手術を行う必要性がある.

重度骨粗鬆症に対する多椎間instrumentation―術後成績とその手術手技上の工夫

著者: 佐野茂夫

ページ範囲:P.471 - P.478

 抄録:多椎間instrumentationを行った重度骨粗鬆症38名50症例の成績を検討し,その手術手技上の工夫につき考察した.重度骨粗鬆症の基準として最大挿入圧(MIP)が15kg以下のものとした.再instrumentation率は26%であった.成績はJOA score 8→18点,改善率46%であり,優良例が42%であった.術中合併症ではスクリューの引き抜けなど3例,硬膜,肺,静脈の損傷が各1例で起こった.術後合併症では移行部障害9例,偽関節7例,矯正損失6例,スクリューの緩み6例などであった.手術手技上の工夫として,変形矯正法では椎間shaper(PLIG)による椎間受動とPLIFによる矯正,instrumentの選択ではin-situ fusionには自由度の大きいinstrument,矯正には自由度の小さいinstrumentを選択するhybrid instrumentation,instrumentの骨把持力強化ではハイドロキシアパタイト(HAP)顆粒のスクリュー孔への挿入,椎弓根スクリュー,フック,ワイヤーなどの併用が有用と考えた.

胸椎角状後弯症に対する骨切り矯正術―後方単一アプローチ

著者: 川原範夫 ,   富田勝郎 ,   藤田拓也 ,   小林忠美 ,   吉田晃 ,   村上英樹

ページ範囲:P.479 - P.487

 抄録:胸椎角状後弯症に対して後方単一進入による骨切り矯正術を7例に行った.椎弓切除の後に,instrumentationを用いて一時的に脊柱の支持性を確保した.脊髄の全周除圧を行い,脊髄を直視下に捉えながら中枢,末梢側のロッドにレバーアームの力を加え脊柱の矯正を行った.前縦靱帯を回転中心としたclosing osteotomyを基本としたが,脊髄がたるみはじめた時点で回転中心を椎体の後方付近に切り換え前方のopening correctionを続けた.椎体間のギャップには骨移植を行った.後弯角は平均術前67°から術後18°に矯正されていた.術前脊髄麻痺を認めた4例では術後に著明な麻痺の改善を認めた.術後平均経過観察期間は3年であるが,全例骨癒合が得られていた.以上,限局した高度な後弯では,後方単一アプローチにより脊髄腹側の除圧および脊椎前柱の骨切りを行うことが可能であった.また,回転中心を,前方ついで後方,最終的には変形椎体の前方2/3の部分におく矯正操作により,脊髄に対して安全に,より生理的な脊椎矯正が得られた.

Achondroplasiaの胸腰椎後弯変形に対する後方進入椎体楔状骨切り術―4例報告

著者: 金澤淳則 ,   米延策雄 ,   稲岡雅裕 ,   鈴木省三 ,   宮本紳平 ,   岩崎幹季 ,   安井夏生 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.489 - P.496

 抄録:Achondroplasiaの進行性の胸腰椎移行部後弯変形に対する後方進入椎体楔状骨切り術の短期成績を報告する.対象は4例で,手術時年齢は平均16.8歳,術後追跡期間は平均9.3カ月であった.後弯角は術前平均77.5°,術後平均39.0°,矯正率は平均51.1%であった.合併症として重篤なものはなかった.術後約3カ月の断層撮影で全例骨切り椎体の骨癒合を確認し得た.これまでに強直性脊椎炎や医原性後弯変形に対する本術式の報告は散見されるが,achondroplasiaに対する報告はない.本術式は大きな合併症もなく,脊柱短縮と短椎間固定により後弯変形の良好な矯正が可能である.隣接部での二次性脊柱変形の自然矯正も得られる.また,全周的除圧が可能であり,脊椎固定を全周的になし得る.しかし,慎重な適応症例の選択と固定隣接部での後弯変形の再悪化の出現などについては注意深い観察が必要と考えている.

透析患者における破壊性脊椎関節症の検討

著者: 竹内一裕 ,   原田良昭 ,   千田益生 ,   名越充 ,   井上一

ページ範囲:P.497 - P.501

 抄録:透析患者192例(男性108例,女性84例,平均年齢59.1歳,平均透析期間7.0年)の,破壊性脊椎関節症(DSA)の検討を行った.
 頚椎破壊性脊椎関節症は36例(18.8%)で認められ,そのうち椎間板腔の狭小化,椎体終板の変化を認めたDSA初期17例,椎間板腔の消失および椎体の癒合,破壊を来しているDSA晩期19例であった.DSA晩期の中には,従来述べられている隣接椎間板の狭小化が全くない,一椎体のみの圧潰とも言うべき椎体型が6例認められた.そのほか胸椎1例,腰椎5例のDSAが認められており,腰椎DSAの3例に頚椎DSAの合併がみられた.
 頚椎DSA群では,血液生化学的にはPTH,Alの高値とX線上,脊椎椎体や頭蓋骨,手指骨の骨量減少および二次性副甲状腺機能冗進の変化が認められた.
 以上により,DSAは透析患者の全身にわたる特異な骨代謝状態を反映している可能性があるものと思われた

初回手術より10年以上経過した頚椎OPLLのQuality of life

著者: 岩谷道生 ,   原田征行 ,   植山和正 ,   新戸部泰輔 ,   平川均 ,   富田卓

ページ範囲:P.503 - P.508

 抄録:当科にて手術施行後10年以上経過した頚椎OPLLを対象に手術治療がQOLに及ぼす影響を調査した.調査項目を術後JOA scoreの推移と成績不良因子,骨化進展,生存例では頚椎可動性,死亡例では死亡年齢と手術から死亡までの期間,および死因とした.頚椎OPLLの患者の手術治療は長期経過観察においてみると,JOA score上では成績不良群であっても一時的には良好な成績を示しており,むしろ頚髄症の要素以外の悪化因子が指摘できた.骨化進展に伴う頚椎の可動域制限に関して独自のindexを用いて評価した.JOA score,骨化進展,手術術式との相関はなく可動域制限の要因は明らかにならなかったが,本症の治療成績をJOA score以外のADLに関して評価できた.生命予後の点と合わせても,本症に対する手術治療はおおむね患者のQOLを向上させるものであった.

胸腔鏡視下に脊柱変形の前方矯正固定術を行うシステムの開発

著者: 江原宗平 ,   上村幹男 ,   立岩裕 ,   伊東秀博 ,   木下哲也 ,   湯澤洋平 ,   高橋淳 ,   高岡邦夫 ,   大塚訓喜

ページ範囲:P.509 - P.516

 抄録:胸腔鏡視下に脊柱前方矯正固定術を一期的に完遂する新しい手術システムの開発を行ってきた.本システムでは側臥位とした豚の胸壁に挿入した数個のportを通じて手術操作を行う.初めに胸椎椎間板と肋骨頭の切除を行う.次にshaftに装着したscrewをportを通して各椎体へ挿入,体外へportより連絡しているshaftにoutriggerを装着し脊柱変形の作成と矯正を行う.矯正後,portより胸腔内へrodを挿入しscrew headと固定して手術を終了する.脊椎モデル並びに胸壁のついた豚屍体胸椎を用いてシステムの開発を行い,次に片肺換気の麻酔下の豚6匹に胸腔鏡視下に本システムを用いて4~5椎体に手術を行った.本システムを用いて椎間板の開大,縮小,即ち脊柱のalignment(Cobb角)を容易に変化させ得た.screwが脊柱管内へ侵入したものはなかった.また,rodのscrew headへの挿入固定もrod pulling device等を用いて行えた.このような胸腔鏡視下での手術システムを用いて,小手術創と小侵襲での脊柱変形の矯正固定を行うことが可能である.脊柱変形の進行が予測される症例には,早期にこのような手術を行い小手術で脊柱変形の進行を予防し得る可能性がある.現在,動物実験を重ねシステムの改良を行い,臨床応用への準備を進めている.

広範RA頚椎の手術成績

著者: 石井祐信 ,   山崎伸 ,   石橋賢太郎 ,   瀬野幸治 ,   田中庸二 ,   後藤伸一 ,   小川真司

ページ範囲:P.519 - P.526

 抄録:広範RA頚椎30例について,頚椎の病態,手術成績,術式の選択法を検討した.頚椎病変は,上位頚椎が,非整復性unstable AAD(17例),非整復性stable AAD(7例),整復性AAD(6例),そして中下位が,RA性変化に合併した局所病変による椎体前方すべり(13例),発育性脊柱管狭窄(6例),椎体圧潰(1例),OPLL(1例),後方すべり(1例),RA性変化を伴わない椎体後方すべりによるdynamic stenosis(8例)であった.脊髄症が15例,脊髄症と後頭部・頚部痛の合併が11例,後頭部・頚部痛が4例であった.術後,疼痛は1例を除いて消失,脊髄症は,2段階改善が7例(27%),1段階改善が9例(35%),不変が10例(38%)であった.骨癒合は29例中24例(83%)で得られた.椎弓切除術を併用したSSI(O-T固定)が根幹的手術となるが,RAの病態と頚椎の局所病変に応じた手術法を組み合わせた術式の選択による対処が必要である.

脊柱管拡大術成績が良好でなかった頚椎症性脊髄症症例の解析

著者: 竹下克志 ,   中村耕三 ,   大西五三男 ,   川口浩 ,   阿久根徹 ,   緒方直史 ,   黒川高秀

ページ範囲:P.527 - P.533

 抄録:棘突起縦割法頚部脊柱管拡大術成績が良好でなかった頚髄症例を拡大術効果の著しい頚髄症例と比較検討した.年齢・罹病期間,術前単純X線側面像から脊柱管前後径・アライメント・頚椎弯曲指数を,術前MRI T2強調像から脊髄圧迫高位・脊髄髄内高輝度を調べた.拡大術成績が良好でなかった頚髄症例は有意に高い年齢と長い罹病期間を有し,頚椎弯曲は強い前弯や後弯傾向の症例が多かった.

頚髄症保存療法例におけるMRI所見と治療成績との関連

著者: 松本守雄 ,   石川雅之 ,   千葉一裕 ,   市村正一 ,   鈴木信正 ,   藤村祥一 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.537 - P.542

 抄録:保存療法を行った圧迫性頚髄症軽症例52名について,MRI所見と治療成績との関連を調査した.MRIにおける検討項目はT2強調像における髄内高輝度病変と脊髄面積であった.初診時JOAスコアは平均14.0,調査時14.4,獲得点数は0.4点であった.1点以上のJOAスコアの改善が得られたもの,あるいは調査時JOAスコアが15点以上のものは全体の69%であり,保存療法の成績は概ね良好であった.髄内高輝度は34例(65%)に認めたが,髄内高輝度の有無と治療成績との問には有意な関連を認めなかった.脊髄面積は全症例平均49.8mm2であったが,治療成績との間に有意な相関を認めなかった.初回撮像後,平均2年4カ月で撮像したfollow-up MRIでは18%で髄内高輝度の縮小を認め,それらの症例では全例で症状の改善が得られた.以上より,圧迫性脊髄症軽症例に対しては,髄内高輝度の有無あるいは脊髄面積にかかわらず,まず保存療法を試みてよいと思われた.

姿勢による椎間板内圧の変化―ヘルニアを伴う椎間板と健常椎間板との比較

著者: 佐藤勝彦 ,   菊地臣一 ,   米沢卓実

ページ範囲:P.543 - P.548

 抄録:健常な椎間板(健常群8例)とヘルニアを有する椎間板(DH群5例)の内圧を測定し比較検討した.椎間板内圧を測定した高位はすべてL4/5椎間で,姿勢は,腹臥位,側臥位,立位,および坐位とした.立位と坐位では前後屈動作時の椎間板内圧を測定し,それと同時に腰椎側面単純X線撮影を行った.その画像上で内圧測定実施椎間の椎間角度を計測し,椎間板内圧と椎間角度の相関性について検討した.
 DH群の椎間板内圧は,健常群と比較して臥床時には明らかな低下を示したが,荷重時には健常群と同程度まで上昇した.しかし,どのような姿勢でもDH群の椎間板の内圧は,健常群よりも高くなることはなかった.
 立位と坐位では,前後屈運動に伴う椎間板内圧の変化は,直立位で最も内圧が低く,前屈位で最も高い値を示した.特に立位では,椎間板内圧と椎間角度は2次曲線が適合する有意な相関関係が認められた.この相関関係は健常群とDH群の両者において認められたが,DH群は健常群と比較してX軸上の左方変位が認められた.この事実は,同じ椎間角度であってもDH群の椎間板内圧は健常群よりも低いことを示し,荷重時における変性椎間板の内圧上昇機構の破綻を意味している.一方,坐位では,立位で認められたような椎間板内圧と椎問角度との問の有意な相関関係は認められず,坐位では椎問角度以外の他の要因も椎間板内圧に影響を与えていると考えられる.

脊髄の力学特性

著者: 市原和彦 ,   田口敏彦 ,   嶋田佳典 ,   桜本逸男 ,   河野俊一 ,   河合伸也

ページ範囲:P.549 - P.551

 抄録:現在までに,“頚髄の灰白質は白質よりも柔らかく脆い”という概念のもと,圧迫性頚髄症の病態を解明するために様々な実験が行われている.しかし,脊髄を構成する白質,灰白質の力学特性が解明されていないため,これらの実験は推測の域を出ない.そこでわれわれは頚髄の力学特性を解明する目的で,自質,灰白質それぞれの引張試験を行った.
 その結果,従来の概念とは異なり,“頚髄の灰白質は白質よりも硬く脆い”ことが分かった.
 今後,有限要素法を用いた頚髄圧迫シミュレーションに応用することにより,脊髄内の正確な応力,ひずみの状態の把握が可能になり,これは圧迫性頚髄障害の病態解明につながるであろう.

焼成骨材料の脊椎固定術への応用に関する実験的研究

著者: 南出晃人 ,   玉置哲也 ,   吉田宗人 ,   橋爪洋 ,   中川幸洋

ページ範囲:P.553 - P.559

 抄録:様々な原因により脊椎椎体破壊が生じた不安定脊柱の再建術に,人工椎体スペーサーとしてA-Wガラスセラミック,チタニウムケージ,アルミナセラミックなどが用いられ,その短期成績が良好なことが報告されている.しかしながら,それらの生体材料は非常に固く力学的強度が優れている反面,recipient boneとの著しい強度の差が長期的にみてどのような影響を与えるかは現在のところ不明である.本研究の目的は,recipient boneと永続的に結合し置換可能な生体材料を開発することである.今回,成熟豚15頭に焼成骨材料を移植した実験を行い,X線学的,生体力学的,組織学的に検討を行った.その結果,焼成骨移植部分は生体力学的にも組織学的にも正常の骨組織に近い状態となっており,焼成骨は生体に順応できる生体材料となりうることが確認された.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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