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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科34巻5号

1999年05月発行

雑誌目次

視座

インフォームドコンセントと情報開示

著者: 東田紀彦

ページ範囲:P.563 - P.563

 その昔は医師が知的権威をもって病状を説明したうえで,カリスマ性を遺憾なく発揮して,最善と考え,意図する治療の方向へ患者の意志を決定させることがその力量といわれた.
 「ちゃんと手術してあげますから,任せておいてください」

論述

整形外科手術における予防的抗生物質投与は何日必要か―前向き無作為調査からの検討

著者: 出口正男 ,   小松真理子 ,   青木隆明 ,   加藤光郎 ,   吉原永武 ,   吉田光一郎 ,   森裕祐 ,   金物壽久

ページ範囲:P.565 - P.570

 抄録:術後感染症を予防するために抗生物質の予防的投与が行われているが,その有効な投与方法および期間についてのガイドラインは未だ示されていない.術前投与の有効性はすでに報告されているが,術後投与の有効性についての報告はほとんどない.そこで術後抗生物質の予防投与の有効性を調べるべく,1997年6月より1998年4月までの期間に,整形外科無菌手術の256例に対して前向き無作為の検討を行った.予防的抗生物質は術前投与を原則とし,術後投与期間を当日のみから術後4日まで設定した.創部感染症,創外感染症,血液生化学データ異常,遅発性感染症の有無につき調査した.創部感染症・遅発性感染症はいずれの投与期間群にも認められず,血液生化学データ異常と創外感染症は術後3日以上投与した群に多い傾向があった.本研究からは,除外手術以外の整形外科手術では抗生物質の予防投与は術前投与を原則として術後翌日までで必要十分と結論した.

環状骨端(Ring apophysis)の離解を伴う腰椎椎間板ヘルニア

著者: 山崎泰弘 ,   白土修

ページ範囲:P.571 - P.579

 抄録:環状骨端の離解を伴う腰椎椎間板ヘルニアは,外傷を契機として発症し,若年者に頻度が高いといわれている.しかし,本症の病態および適切な手術法に関しては未だ議論も多く,必ずしも一致した見解は得られていない.以上を明らかにすることを目的に,著者らが経験した8例について臨床的・X線学的検討を行った.発症に外傷の関与が考えられたものは2例であった.著明なtension signを有するものが多く,罹患レベルはL5/Sが最多であった.Takataによる離解骨片の分類では,Type Ⅰ,Ⅱは若年者に多く,青壮年者ではⅢが多かった.7例に後方からの手術を施行し,そのうち2例では脊椎後側方固定術を併用した.手術治療においては,神経根の除圧が主眼であり,病態から考えてヘルニア摘出術が基本である.しかし,症例によっては離解骨片が神経症状の発現に関与しているものもあり,その際には骨片摘出も必要となる.

整形外科基礎

仙腸関節内注入(仙腸関節ブロック)の診断的意義―仙椎部脊髄神経後枝外側枝神経叢の肉眼解剖学的検討による

著者: 村田泰章 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   粟飯原孝人 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.581 - P.584

 抄録:仙腸関節への知覚神経のうちのL5,S1,S2神経の後枝外側枝神経叢と,仙腸関節との位置関係について学生解剖実習用死体標本12体20側を用い,解剖学的特徴を観察し臨床的意義について検討した.後枝外側枝神経叢のうち仙腸関節に近いL5,S1,S2神経後枝外側枝からなる神経に,注射針を刺入しX線撮影を行った.正面X線像において,全例とも仙腸関節下端部の高さでは,後枝外側枝神経叢の最外側は仙腸関節面の内側をほぼ平行に走行し,後枝外側枝神経叢の最外側は,仙腸関節の平均約4.8mm内側に存在した.また,仙腸関節の内側10mm以内には,仙腸関節下端から約20mm頭側までの範囲に後枝外側枝神経叢が存在した.仙腸関節内注入(仙腸関節ブロック)の正面X線像において刺入部周辺での造影剤の流出が,仙腸関節内側に認められる場合,後枝外側枝神経叢が局麻剤の流出によりブロックされている可能性が示唆された.

手術手技 私のくふう

骨付き膝蓋腱を用いた足関節外側靱帯再建術

著者: 杉本和也 ,   岩井誠 ,   笠次良爾 ,   佐本憲宏 ,   高倉義典

ページ範囲:P.585 - P.589

 抄録:陳旧性足関節外側靱帯損傷のうち前距腓・踵腓靱帯合併損傷を認めた5例5関節に対して,骨付き膝蓋腱を用いた解剖学的靱帯再建術を試みた.年齢は20~56歳,平均38歳であった.罹病期間は3~22年,平均10年で,原因はスポーツが3例,歩行中の捻挫が2例であった.術後追跡期間は6~22カ月,平均15カ月である.膝蓋腱の中央部を脛骨粗面の骨をつけたまま幅8mmで縦方向に採取し,外果の骨孔に挿入し,腱の部分は半裁して前距腓靱帯および踵腓靱帯として利用した.術後は4週間の下腿ギプス固定を行い,荷重は2週間後から許可した.AOFAS評価点数は術前平均69.8点から術後平均96.0点に改善した.また,距骨傾斜角は20.4±4.7°から4.3±3.7°に,前方引き出しは9.4±4.1mmから5.8±3.7mmに改善した.本法によって外果部の骨量を減少させることなく強靱かつ解剖学的な靱帯再建術を行うことが可能であり,短期成績は良好であった.

手術手技シリーズ 最近の進歩 手の外科

腕神経叢損傷に対する手術―遊離筋肉移植術を中心に

著者: 土井一輝

ページ範囲:P.591 - P.601

 手の外科領域の機能再建術において,最近の話題のひとつは腕神経叢損傷全型麻痺に対しても遊離筋肉移植術と神経交叉縫合術の応用により総合的な手指での物体把持機能再建が可能になったことである.筆者はdouble free-muscleと呼ばれるこの画期的な手術を開発した.本稿においては,double free-muscle法の長期成績より最新の手術方法,適応,問題点と注意点について言及した.Double free-muscle法とは,1)腕神経叢の手術的展開,電気生理学検査と可及的な神経修復,2)副神経再移行による第1回筋肉移植で肘屈曲と指伸展の再建,3)第5,6肋間神経再移行による第2回筋肉移植での指屈曲の再建,4)第3,4肋間神経移行による上腕三頭筋機能再建,5)鎖骨上神経から肋間神経知覚枝移行による手の知覚再建,6)2次再建として肩関節固定,腱剥離術,肘伸展再建術などからなる手術術式である.
 手術後2年以上経過例26例の長期成績で14例(53%)に肘屈曲90°以上,肘の動的安定性,指可動域30°以上の回復が得られ,ADL上,両手を使用せざるを得ない動作(重量物の挙上,ビンの蓋開けの際の保持など)に患者は再建手を使用している.満足すべき成績をあげるためには,患者の年齢(40歳以下),

整形外科philosophy

整形外科雑観

著者: 酒匂崇

ページ範囲:P.603 - P.606

はじめに
 私が故宮崎淳弘教授の主宰された鹿児島大学整形外科に入局したのは1959(昭和34)年,爾来約40年が経過しました.この40年間を振り返ってみると整形外科領域では大きな進歩がみられ,特に治療の面で大きな変遷がありました.それらの中でも,人工関節,関節鏡,spinal instrumentation,骨折に対する機能的療法などは特筆されるべきものと考えます.また,私たちの取り扱う疾病の種類も高齢者社会を迎えたことや生活様式の変化などとともに様変わりしております.最近の基礎研究は従来の病理組織学,生化学,生理学などの手法を用いた方法より,新しい学問である細胞生物学や遺伝子学によるアプローチが主流になりつつあります.この誌面では,整形外科の臨床研究や基礎研究について最近感じていることを独断的意見を交えて述べてみます.

整形外科/知ってるつもり

野球肘

著者: 緑川孝二

ページ範囲:P.608 - P.611

【『野球肘』って何?】
 『野球肩』ほどいいかげんな病名ではないにしろ,『野球肘』という病名も多彩な病態を含んでいる.野球をやって肘が痛いのは,なんでも野球肘なのだろうか?
 そもそも野球肘(baseball elbow)とは1941年にBennettがプロ野球選手の肘関節の変化を述べたものであるが,今や肘関節およびその周囲の変化をも含めて野球肘と理解されている.

最新基礎科学/知っておきたい

Closed kinetic chain exercise―閉鎖運動連鎖訓練

著者: 井原秀俊

ページ範囲:P.612 - P.613

【closed kinetic chainとは】
 kinetic chainという用語は,機械工学において連結分析に使用していた言葉を,Steindlerが生体の運動力学に応用したことに由来する.彼は,末端の関節に,ある程度の抵抗がかかり運動に制限を受けた状態と,制限なしに自由に手足が動き得るような状態に分けることを提案した.つまり,遊脚期の手足のように末梢部が制限なしに動きうる状態を開放運動連鎖open kinetic chainとし,懸垂や腕立て伏せ時の上肢や,スクワット時の下肢のように末梢部が固定された状態を閉鎖運動連鎖closed kinetic chainとした.広義に解釈すれば,足や手の抵抗訓練時の運動制限状態も閉鎖運動連鎖に入るであろう.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・31

著者: 下村哲史

ページ範囲:P.615 - P.619

症例:1歳11カ月,女児
 正常分娩で出生した女児.1歳1カ月で歩行を開始したが,左足を引きずるような歩行であった.両親は,歩き始めたばかりなので仕方がないのかなと考えていたが,いつまで経っても改善しないため受診した.
 既往歴・家族歴には特記すべきことはない.

整形外科英語ア・ラ・カルト・76

整形外科分野で使われる用語・その38

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.620 - P.621

●physis(フィスィス)
 これは骨の成長時の成長線で,通常,“epiphysial line”や“growth plate”と呼ばれる軟骨の部分である.このラインの関節側を“epiphysis”(エピフィスィス)といい,“ピ”の部分にアクセントがある.このラインより骨幹部側を“metaphysis”といい,“metaphysis”に挟まれた骨幹部の中心部を“diaphysis”という.

ついである記・34

Brussels―SICOTを通してEUをみる

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.622 - P.623

 欧州連合(EU)の本部(headquarters)は現在ベルギーのブリュッセル(Brussels)にある.その建物はまだ全てが完成したわけではないが,今までに使われてきたものだけでも外から見ると堂々たる立派な建物である.将来,EUが1つの合衆(州)国になったとして,ここに大統領府が置かれたとすると,ブリュッセルがEUの首都となるわけだ.ベルギーは地理的にみると,イギリスを含む西ヨーロッパのほぼ中心に位置しているので,ブリュッセルにEUの本部を置いたことは一応納得できるが,それよりもドイツ,フランス,イギリス,イタリーなどのヨーロッパの大国が互いに牽制し合って,これらの内のいずれの国にもEUの本部を置きたくないというnegative balanceが成立した結果,ブリュッセルにもってきたというのが真相のようだ.ベルギーは人口1,000万人ほどの小国であるが,17世紀以来ヨーロッパの経済の中心地であったし,また,絵画や音楽など西欧の芸術をもリードしてきた.ルーベンスやヴァン・ダイクがアントワープで活躍したことや,ブリュッセルのエリザベート・コンクールが今も世界的に有名な音楽コンクールであることなどもその歴史を物語っている.現在,北大西洋条約機構(NATO)やEUの他にも多くの国際機関の本部がブリュッセルに置かれており,また,多くの国際学術団体の本部もこの町にある.その意味では,EUの本部を置くのにふさわしい国際都市である.

追悼文

緒方公介教授を偲んで

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.624 - P.625

 自分よりも若いひとにさよならを言わなければならないことは,たいへん寂しく悲しいものです.しかし,ここで緒方公介先生にさよならを言わなければならなくなりました.
 福岡大学整形外科教授,緒方公介先生は,昨年秋から体調を崩されご入院中でしたが,新年を迎えることなく平成10年12月31日にお亡くなりになられました.満52歳のあまりにも短い生涯を駆け抜けていってしまいました.素晴らしい指導者であり,傑出した整形外科医であられた先生の突然の訃報に接し,私達は深い悲しみに打ちひしがれています.

対談

整形外科医とスポーツ現場との連携

著者: 福林徹 ,   黒坂昌弘

ページ範囲:P.627 - P.636

 ― スポーツ人口が老若男女を問わず増加し,今は国民皆スポーツ愛好時代と言っても言い過ぎではないと思います.それに伴い,過度のあるいは不適切なスポーツ活動が思わぬ障害を招いているケースも増えているのではないかと推察されます.
 本日は第24回日本整形外科スポーツ医学会の開催中の合間を縫って,福林先生と黒坂先生に「整形外科医とスポーツ現場との連携」というテーマでお話し頂きたいと思います.

臨床経験

𦙾骨近位部の内軟骨腫から悪性転化した脱分化型軟骨肉腫の1例

著者: 粟森世里奈 ,   土屋弘行 ,   北野慎治 ,   富田勝郎 ,   前野紘一 ,   野々村昭孝 ,   野島孝之

ページ範囲:P.639 - P.642

 抄録:脱分化型軟骨肉腫は高悪性度の肉腫組織と,内軟骨腫,または低悪性度の軟骨肉腫などの軟骨組織が共存する悪性度の高い,かつ稀な腫瘍である.われわれは,内軟骨腫から悪性転化したと思われる本症を経験したので報告する.症例は78歳女性で,右下腿の疼痛を主訴として当科を紹介されて受診し,単純X線像,MRIなどの画像所見から,右𦙾骨の高悪性の軟骨肉腫と診断し,腫瘍切除および人工関節による再建を施行した.切除標本の病理診断は脱分化型軟骨肉腫であり,内軟骨腫様組織と悪性線維性組織球腫様組織が境界明瞭に接していた.また,当科受診の5年前の単純X線の所見では内軟骨腫の典型像を呈していた.以上より,内軟骨腫に脱分化が起こったと推測された.単発性の良性軟骨腫瘍は可能性は低いが,悪性化を念頭に置いて慎重な経過観察をすることが望ましい.

全指手根中手関節同時脱臼の1例

著者: 田崎悌史 ,   岩崎倫政 ,   浅野聡 ,   三浪明男

ページ範囲:P.643 - P.645

 抄録:全手指手根中手(CM)関節同時脱臼の過去の報告は16例に過ぎない.今回,筆者はこの極めて稀な全指CM関節同時脱臼の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

耕耘機の刃にまきこまれ受傷した外傷性股関節上方脱臼の1例

著者: 三井勝博 ,   谷川浩隆 ,   鈴木卓

ページ範囲:P.647 - P.649

 抄録:耕耘機の刃にまきこまれ受傷した外傷性股関節上方脱臼の1例を報告する.症例は57歳の男性で耕耘機の刃が左下腿遠位につきささり,下肢全体に強い外旋力が強制され受傷した.初診時,右腸骨部から大腿にかけて2個のかぎ裂き状の切創があり,耕耘機の刃が左足関節内側でアキレス腱の前方からつきささっており,左下肢は軽度短縮外旋位を呈していた.単純X線像で左大腿骨頭は外上方に脱臼していた.全身麻酔下に創の洗浄縫合と脱臼の徒手整復術を行った.本症例は下腿への強い外旋力強制が股関節に介達し,腸骨大腿靱帯を軸に前方脱臼が生じ,その緊張により外上方への転位が生じたのではないかと推測した.外傷性股関節脱臼のほとんどが後方脱臼であり,前方脱臼しかも上方脱臼は全外傷性股関節脱臼の約1%でしかない.前方脱臼は後方脱臼と比較して予後は良好であるが,早期にCTや断層撮影などで微細な骨折を見つけるための精査が必要である.

結節性筋膜炎の2例

著者: 土田敏典 ,   赤崎外志也 ,   赤丸智之 ,   津山健

ページ範囲:P.651 - P.654

 抄録:急速に増大した結節性筋膜炎の2例を経験したので,報告する.
 症例1は55歳,男性.左前腕屈側に腫瘤があり,MRIのT1強調像では中等度,T2強調像では境界不明瞭な高度信号域を呈し,Gd造影像で不均一に造影された.症例2は48歳,男性.左大腿外側に腫瘤があり,MRIのT1強調像では低信号,T2強調像では境界明瞭な高信号域を示し,Gd造影像では均一に造影された.いずれの症例も症状発現後それぞれ86,55日目に腫瘍を辺縁切除した.術後1年5カ月以上経過しているが,再発を認めていない.
 2例ともShimizuの分類上,fibrous typeに相当するものであった.結節性筋膜炎では病期に応じMRI画像も変化するといわれており,今後は,その病期に応じたMRI画像所見の検討が必要と考える.

上腕骨に単発した骨Paget病の1例

著者: 吉本三徳 ,   倉秀治 ,   常見健雄 ,   瀧内敏朗 ,   鈴木知勝 ,   薄井正道 ,   石井清一

ページ範囲:P.655 - P.658

 抄録:上腕骨に単発した骨Paget病の1例を経験した.症例は71歳,女性で,主訴は右上腕部痛であった.40歳頃より特に誘因なく右上腕部痛が出現したが疼痛が軽度であったため放置していた.1997年1月頃より疼痛が増強し,当科を受診した.単純X線像では右上腕骨は前外方へ弯曲し,全長にわたり骨透亮像および骨硬化像が混在していた.骨シンチグラムでは上腕骨全長にわたって集積を認めた.血液検査ではALPが20.1KA-Uと高値を示していた.
 以上の所見より骨Paget病および慢性骨髄炎を疑い骨生検を施行した.病理所見では骨梁のモザイク構造と多数の骨芽細胞および破骨細胞を認め,骨Paget病と診断した.ビスホスホネート(ダイドロネル)200mg/日を約6カ月間にわたって投与し,症状の軽快と血清ALP値の正常化をみた.骨Paget病は本邦では稀な疾患であり,上腕骨単発例は本邦では本症例のみである.

腸腰動・静脈の損傷により術後後腹膜血腫をきたしたL5/S1椎間孔部ヘルニアの1例

著者: 日野浩之 ,   藤谷正紀

ページ範囲:P.659 - P.663

 抄録:L5/S1椎間孔部ヘルニアに対して外側アプローチにて椎間板摘出を行い,その際に腸腰動・静脈の損傷により,術後後腹膜血腫をきたしたと思われる症例を経験したので報告する.
 症例は46歳の男性で右下肢痛を主訴に初診,腰椎の前後屈制限があり,右SLR 70°陽性,神経学的には右L5神経根症状を呈し,MRIで右L5/S1椎間孔部ヘルニアを認めた.手術は外側アプローチにて脱出髄核を摘出し,椎間板内掻爬も可及的に施行した.掻爬終了間際に椎間板内よりわずかに出血を認め,血管損傷の可能性も考慮して掻爬はその時点で終了した.術後,右下肢症状は改善したが,右下腹部痛を訴えていた.また,翌日の末血所見でHb 11.1g/dl(術前15.5),Ht 33.3%(術前46.0)と貧血を呈していた.術後は血圧低下や頻拍など大血管損傷に伴う症状はなく,また経過中も貧血の進行は認めないため止血剤・抗生剤の投与で保存的に様子をみた.画像上,CT・MRIにて後腹膜に血腫と思われる像を認めた.術後2週目で腹痛は治まり,貧血も改善した.

手掌部に発生し掌側指神経の障害を伴った脂肪腫の1例

著者: 石川昌彦 ,   藤田悟 ,   田中裕之 ,   金子徳寿 ,   乾浩明 ,   加藤泰司 ,   小田剛紀 ,   冨士武史 ,   伏見博彰 ,   政田和洋

ページ範囲:P.665 - P.667

 抄録:手掌部に発生し,掌側指神経の障害を伴った脂肪腫の1例を報告する.症例は66歳の男性.1993(平成5)年1月より右手掌部の腫瘤に気付くが放置していた.1997(平成9)年になって,腫瘤の増大とともに右示中環指のしびれ,自発痛を自覚し当科を初診した.右手掌は中環指の手掌指節皮線から母指球部にかけて膨隆し,圧痛を認めた.CT所見では,手掌腱膜と骨間筋の間に屈筋腱を取り囲む境界明瞭なlow densityの腫瘤を認めた.MRI所見では,T1,T2強調画像双方で,皮下脂肪と同様のintensityを示す腫瘤を認めた.術中所見では,示中環指の掌側指神経は腫瘍により掌側に圧排されていた.腫瘍は周囲組織との癒着はなく一塊に摘出でき,重量は50gであった.一般に脂肪腫は緩徐で非浸潤性に発育するため,無症候性腫瘤として発見,治療されることが多いが,本症例では,掌側指神経の圧排による手指のしびれ,自発痛を認めた.

𫞬性斜頚に伴う環椎骨折の1例

著者: 中田善博 ,   原田征行 ,   植山和正 ,   伊藤淳二 ,   新戸部泰輔 ,   鈴木重晴

ページ範囲:P.669 - P.672

 抄録:環軸椎における疲労骨折の報告は極めて稀である.筆者らは𫞬性斜頚の長期経過中に伴った環椎疲労骨折の1例を経験したので報告する.
 症例は60歳男性,主訴は間欠的頚部不随意運動.44歳時に誘因なく症状出現し,𫞬性斜頚の診断で,C1-C3両脊髄後根切離術(Olivecrona術)を施行し,症状は消失した.
 術後13年間は無症状であったが,14年目より頚部不随意運動が再発し,副神経減圧術を施行した.初回入院時の環軸椎CT像は正常であり,再入院時のCT像にて環椎前弓右側に骨折を認めた.本症例の環椎骨折は,初回手術後の後方支持要素の破綻による上位頚椎不安定性と頚部𫞬性運動(左回旋+前屈運動)による環椎前弓への応力の集中によって生じた疲労骨折と考えられた.

筋生検で確認された急性傍脊柱筋コンパートメント症候群の1例

著者: 酒井洋紀 ,   小野豊 ,   小林康正 ,   安原晃一 ,   米本司

ページ範囲:P.673 - P.676

 抄録:コンパートメント症候群は,理論上コンパートメントを有するどの筋にも発生し得る.今回急性の腰痛で発症した傍脊柱筋コンパートメント症候群の1例を経験した.初診時右腰背部に強い疼痛,圧痛と知覚低下,検査所見ではGOT,GPT,LDH,CPKの上昇がみられミオグロビン尿もみられた.MRIでは右の傍脊柱筋にT2強調像にて高信号の輝度変化がみられた.筋生検病理組織は阻血性の変化を示した.保存的に経過を観察したところ,2週間で血液データも正常となり疼痛も軽快し,発症後8カ月後のMRIでは異常所見はみられなかった.急性の傍脊柱筋コンパートメント症候群の報告例は少なく,われわれの渉猟し得た範囲では2例のみであり,いずれも保存的加療にて治癒している.急性の腰痛を来した症例を観察する際,本症例の存在も念頭に置き診断を進めることが肝要であり,治療としては保存的加療にて十分であると考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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