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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科34巻7号

1999年07月発行

雑誌目次

視座

日整会認定医制度の在り方を考える

著者: 河合伸也

ページ範囲:P.833 - P.835

 時の流れにしたがって,人々の考え方やニーズは着実に変化しています.考え方やニーズが変化しつつあるなかで,制度や組織が膠着していると,時代の要請に即応できなくなります.敗戦後から我が国が急速に蘇り,経済大国に至ったことは当時のシステムが有効に機能し,そのなかで国民が一丸となって献身的な努力を行ってきた成果でしょう.しかし,時が経るにつれ我が国のシステムはすっかり膠着し,経済成長の低迷と相俟って,国際的な観点からは十分に機能を発揮することができなくなりました.今はグローバル・スタンダードの名のもとに,我が国のあらゆる領域のシステムに改革が迫られています.財政,行政,金融,経済構造,教育,社会保障制度などの領域でシステムの改革が行われている所以です.まさに明治維新以来の「第3の開国期」であり,「ビッグバン」です.医療においても急速な改革が進行中であり,その概要については本誌昨年11月号の視座で大井利夫先生の「医療ビッグバンと整形外科」に記載されています.最近の日常会話には「規制緩和」「市場原理」「医療効率」「DRG/PPS」「マネージド・ケア」「EBM」「選択と競争」等の言葉が常識的に飛び交っています.時代の移り変わりを感じざるを得ません.医療面においても今まで以上に「質と効率」の向上が求められており,しかも国際基準(アメリカン・スタンダードかも知れませんが)に合致することが要求されています.

論述

ムチランス型慢性関節リウマチに伴う頚椎病変に対する手術療法

著者: 藤原桂樹 ,   大脇肇 ,   浅野雅敏 ,   野口義文 ,   米延策雄 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.837 - P.843

 抄録:ムチランス型慢性関節リウマチに伴う頚椎病変に対して手術療法を行った21症例(上位頚椎単独罹患12例,上位・下位頚椎複合罹患9例)の術後成績を検討した.上位頚椎単独罹患例には,①後頭骨・軸椎固定,②後頭骨・全頚椎固定のいずれかを行った.前者の術式を選択した8例中5例に術後平均2.7年で軸椎下亜脱臼が発現した.後者を選択した4例には術後頚椎alignmentの変化はなかった.下位頚椎病変には,①頚椎椎弓形成術+椎間関節への骨移植,②後頭骨・上位胸椎固定+頚椎椎弓切除術を行った.前者を選択した7例中,多椎体の圧潰が1例に,固定隣接椎間での軸椎下亜脱臼が1例に生じた.後者を選択した2例には頚椎alignmentの変化は生じなかった.術後10例(48%)が平均3.2年で死亡した.ムチランス型の症例には後頭骨から全頚椎,あるいは除圧範囲に応じて上位胸椎までの強固な固定が必須である.

骨盤支持器を用いた側臥位での人工股関節置換術におけるソケットの設置方法についての検討―骨盤の前・後傾とソケット前開き角について

著者: 山田晋 ,   渡部亘 ,   佐藤光三 ,   楊国隆 ,   鈴木均

ページ範囲:P.845 - P.850

 抄録:骨盤支持器を用いた側臥位で手術を行う場合,両側の上前腸骨棘が手術台に垂直になるように体位を固定しても骨盤の前・後傾について一定の角度に固定することはできない.われわれは骨盤支持器を用いた側臥位での骨盤前・後傾の程度を評価するため,仰臥位と骨盤支持器で固定した側臥位との仙骨底傾斜角を計測し比較した.対象は股関節に何らかの疾患を持つ28例とした.全例で骨盤支持器で固定した側臥位では仰臥位よりも骨盤は後傾しており,その差は2~20°,平均8.8±4.3°であった.人工股関節置換術を行う場合,骨盤の前・後傾はソケットの前開き角に影響を与えるため,この差を考慮してソケットを設置すべきである.

手術手技 私のくふう

橈骨頭骨折に対する鏡視下髄内整復固定法

著者: 新井弘一 ,   西川真史 ,   竹内和成 ,   福田陽 ,   和田簡一郎

ページ範囲:P.851 - P.855

 抄録:Mason type Ⅱの橈骨頭骨折に対し,肘関節周囲軟部組織に対する侵襲を減らす目的で橈骨髄内に刺入したK-wireを用いて肘関節鏡視下に骨折部を観察しながら整復固定する方法を行った.
 症例数は2例でいずれも関節面に2mm以上の転位を有するMason type Ⅱの橈骨頭骨折である.肘関節鏡視下に骨折部の血腫を除去し骨片の転位の程度を確認した後に,橈骨頚部骨折に対するMétaizeau法に準じて橈骨髄内に刺入したワイヤーを用いて骨片を整復固定した.術後は1週間シーネ固定した後に可動域訓練を開始した.2例とも術後の固定性は良好で,骨折部の再転位を生じることなく骨癒合が得られた.術後6週の抜釘時に再鏡視を行ったが,関節面の整復は良好であった,本法は肘関節周囲軟部組織に対する侵襲が少なく,整容的にも満足する結果が得られるため,適応を選べば有用な方法と思われた.

手術手技シリーズ 最近の進歩 手の外科

Ulnocarpal Abutment Syndromeに対する手術

著者: 岡本雅雄 ,   阿部宗昭

ページ範囲:P.857 - P.863

 抄録:Ulnocarpal abutment syndrome(UCAS)は,尺骨長が橈骨長に比し相対的に長いために,尺骨頭が手根骨(月状骨)と衝突し手関節尺側の疼痛を生じる病態をいう.診断は,慢性の手関節尺側部痛,ulnocarpal stress testなどの身体所見や特徴的な画像所見から可能である.Ulnar plus varianceが少なく,月状骨の硬化像などの画像所見がない場合は,関節鏡により月状骨軟骨,TFCCや月状三角靱帯を観察し診断する.治療は,まず装具療法や薬物療法を行うが,ulnar plus varianceが強い症例は保存的治療に抵抗することが多い.保存的療法が無効な場合に手術を行う.手術方法は,鏡視下TFCC部分切除術,尺骨短縮骨切り術,Wafer法などがあるが,筆者らは手術成績が安定している尺骨短縮骨切り術を行っている.本手術は,尺骨頭と手根骨間の除圧と尺側支持機構の安定化を目的とした術式であり,術後,比較的早期に除痛が得られる.本稿では,UCASに対する手術手技(尺骨短縮骨切り術)を中心に述べる.

整形外科philosophy

整形外科医が整形外科領域の病気にかかったとき

著者: 古屋光太郎

ページ範囲:P.865 - P.874

はじめに
 臨床整形外科編集室より「整形外科philosophy」欄への執筆依頼を受けたが,私は若い医師に遺したい哲学を持ち合せませんので,私の永年の持病である頚椎症の闘病記を記したい.そして,私自身の患者体験を通して,医療現場では医師と患者の良き信頼関係を維持することが最重要課題であることを強調したい.弱者である患者の立場に立ち,患者の話をよく聞き,質問にも答えるのが望ましき医師像である.自分自身を振り返りみても,鞭打ちを経験し,頚椎の手術を受けて以来,患者の訴えに素直に耳を傾けるようになったと感じている.
 臨床経過は20年の長さに亘るので発病から退官までのそのⅠ.と,退官後現在までのそのⅡ.に分けて報告する.

整形外科/知ってるつもり

Axonostenosis, axonocachexia

著者: 池田和夫

ページ範囲:P.876 - P.878

【末梢神経損傷の分類】
 末梢神経損傷の分類としては,Seddonの分類が最も一般的である5).重症度の軽い順にneurapraxia,axonotmesis,neurotmesisと分類されている.neurapraxiaは一過性の損傷であり,伝導障害は速やかに回復する(図1-a).これは,正座して“足がしびれた”時の腓骨神経麻痺の状態である.axonotmesisは,軸索が断裂しているため,損傷部より末梢はWaller変性に陥る.しかし,神経上膜の連続性は保たれているので,外科的処置を施さなくてもやがて神経は再生し,伝導障害も回復する(図1-d).これは,神経が強い急性圧迫をうけたり,骨折で大きく転位した骨片にひどく突き上げられたりした場合に生じうる.したがって,neurapraxiaとaxonotmesisについては外科的手術の対象にはならない.neurotmesisは,神経上膜の連続性までも完全に絶たれ,外科的神経修復が必要となる(図1-e).これは,カッターや包丁などでの切創が神経に達した場合に生じる.現在の電気生理学的検査では,axonotmesisとneurotmesisとの鑑別は不可能で,閉鎖性損傷の場合に手術治療が必要か否かは迷うところである.

最新基礎科学/知っておきたい

MMPとTIMP

著者: 高木理彰

ページ範囲:P.880 - P.882

 細胞外基質分解酵素の一つであるマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase:MMP)とその内因性阻害因子(tissue inhibitor of metalloproteinase:TIMP)が多面的な機能を有する分子として注目され,現在,これらに関する多くの研究が行われている.MMPとTIMPは,他の蛋白分解酵素,サイトカイン,細胞増殖因子,細胞外基質蛋白とともに,骨・軟骨をはじめとする個体発生や生体の恒常性維持に必須とされ,また,がんの浸潤・転移,慢性関節リウマチや各種関節疾患の骨・軟骨破壊,生体材料の親和性の維持,神経再生,血管新生,創傷治癒機転など整形外科領域に関連する疾患・病態のほか,循環器疾患,呼吸器疾患,腎疾患,脳疾患など多くの病的状態で結合組織代謝に関与するとされている1~4)
 生体は,体液,細胞,細胞外基質から構成され,細胞外基質は,遺伝子レベルで制御された産生量と分解酵素によつて代謝回転が規定されている.細胞外基質を分解する酵素は,活性中心の触媒残基の違いにより分類され,酸性領域に至適pHを持つアスパラギン酸群,システイン群と,中性領域に至適pHを持つセリン群,そしてMMPの属するメタロ群が知られている.MMPは,現在18種類の分子が同定されており(表1),共同で作用すると生体内に存在する実に多くの細胞外基質を分解することができる4)

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・33

著者: 斉藤進 ,   扇谷浩文

ページ範囲:P.883 - P.887

症例:生後4カ月,女児(図1)
 保健所の4カ月乳児検診にて股関節開排制限を指摘され来院する.視診にて頭部は左に傾け,顔面を右に回旋する姿勢をとるのが観察される.左下肢は右に比し短くみえる,左大腿の皮膚溝は2条で右は1条である.触診にてAllissignは左に陽性.開排制限は左股関節開排角55°,右股関節は80°で左に陽性である.左股関節にclick sign陽性である.

整形外科英語ア・ラ・カルト・78

整形外科分野で使われる用語・その40

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.888 - P.889

●PRN(ピィ・アー・エヌ)
 これは英語で医者が指示を書くときに“必要に応じて”の意味で用いる言葉である.この“prn”はラテン語の“pro re nata”(プロ・レ・ナータ)の略語で,英語では“as necessary”という.
 この言葉は,患者の入院時の指示に使う.入院時には必要でないが,入院中に睡眠剤や鎮痛剤が必要になってくる場合が生じる.そのときの指示の中に“必要時に”という意味で“prn order”が書いてあれば,必要になったとき病棟の看護婦は,睡眠剤や鎮痛剤について,いちいち医師から指示を仰ぐ必要がなく非常に助かる.このように“prn”という言葉は非常に便利である.日本の病院の指示には,この“prn order”がないように思う.

ついである記・36

北京―国境なき医師団の活動を見る

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.890 - P.891

 1月の北京はジーンと骨にまで滲み込むように寒さが厳しい.その上,黄砂が原因なのか霧が原因なのかよく判らないが,太陽が出ているにも拘らず日中でも薄暗く,200m先は視界が全く効かないような天候が続く.北京市内では幹線道路に沿って両脇に広大なグリーン・ゾーンが造られ多くの植林がなされているが,その木々の殆んどが落葉樹なので冬期にはすっかり葉を落としてしまって,まるで灰色の枯れ木が延々と林立しているように見える.実に寒々とした景色である.
 そのように天候も風景も暗く蔭鬱な北京で,1999年1月末に「国境なき医師団(Medecins Sans Frontieres)」はカシン・ベック病(Kashin-Beck disease)に関する国際シンポジウムを開催した.私は「国境なき医師団」から依頼を受け,本症について日本人のなした研究をシンポジウムにおいて紹介するべく北京へ飛んだ.シンポジウムへの参加者は中国人と西欧諸国の人が多く,日本からの出席者は私一人であった.

座談会

公的介護保険導入に向けて整形外科医の役割を考える

著者: 石名田洋一 ,   梅ケ枝健一 ,   桧田仁 ,   矢部裕

ページ範囲:P.893 - P.911

 矢部(司会) 本日は「公的介護保険導入に向けて整形外科医の役割を考える」というテーマで三人の先生方をお招きして座談会を開催させていただきます.

臨床経験

充実性の腫瘤を形成したリウマチ性肩峰下,三角筋下滑液包炎の1症例

著者: 平博文 ,   高下光弘 ,   吉田盛治 ,   徳丸進一 ,   津村弘 ,   鳥巣岳彦

ページ範囲:P.915 - P.918

 抄録:慢性関節リウマチ(以下RA)患者の肩関節に生じた著しい軟部の腫脹が経過とともに増大し,穿刺にて水腫が採取できず,腫瘍を疑った症例を経験したので報告する.症例は68歳,女性.40年来のRAで1996(平成8)年5月から持続する左肩関節痛と腫脹に対し,近医で鏡視下滑膜切除術を施行された.1997(平成9)年6月頃,左肩関節前方に軟らかい腫瘤が出現し,左肩関節痛が増悪した,入院時,左肩前外側に約5×5cm,表面が平滑で境界が明瞭な軟らかい腫瘤を触知した.肩関節造影時は少量の血液しか吸引されず,腫瘤が存在する部位は淡く,辺縁が明瞭に造影されていた.MRIでは,三角筋下にT1,T2でそれぞれ均一な低,高信号を示す腫瘤が観察された.手術は,腫瘤を一塊として摘出した後,腱板の修復を行った.術後は疼痛が消失し,日常生活動作も著しく改善した.

興味あるMR画像を呈した急速破壊型股関節症の1例

著者: 高森尉之 ,   廣瀬彰 ,   坂本雅昭 ,   中馬敦 ,   原田義忠

ページ範囲:P.919 - P.923

 抄録:興味あるMR画像を呈した急速破壊型股関節症の1例を報告する.症例は63歳女性.1995(平成7)年12月,右股関節痛が出現し,近医を受診した.初期変形性股関節症の診断で,保存療法を受けるも疼痛が増強した.3カ月後のX線検査では,骨頭の上1/3が消失扁平化していた.特記すべき既往歴やステロイド使用歴はなく,血液検査も正常であった.MRIにて荷重部の骨頭および臼蓋軟骨下に丸い異常像が描出された.その異常像は,T1強調像では低輝度,T2強調像ではやや高輝度で,造影T1強調像では高輝度に描出された.人工股関節全置換術後の病理組織では,同部位に多数の破骨細胞が見られた.軟骨下骨に肉芽組織が侵入し骨吸収が骨新生を上回ることが,骨頭の急速な破壊の一因をなしていると推察した.

大理石病に合併した骨肉腫の1例

著者: 加藤和代 ,   倉都滋之 ,   信貴経夫 ,   橋本伸之 ,   荒木信人 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.925 - P.929

 抄録:家族性成人型大理石病の患者に骨肉腫が発生した極めて稀な1例を経験したので報告する.症例は23歳男性.主訴は右肘部の疼痛と腫脹.小児期より軽微な外傷による小骨折を繰り返しており,9歳時に大理石病と診断されていた.画像上,右橈骨近位骨幹端を中心に主として骨外に腫瘍陰影を認め,アルカリフォスファターゼ(ALP)も異常な高値を示し,生検で骨肉腫と診断された.初診時より両肺野に多発する転移を認めたため,イフォマイド,アドリアマイシン,シスプラチンを中心とした多剤併用化学療法を開始した.4クールの化学療法が終了した時点で,右橈骨の原発巣に対して腫瘍切除・掻爬術を施行し,術後放射線治療を局所に追加した.さらに4クール(計8クール)の化学療法が終了した時点で,画像上原発巣には明らかな活動性病変を認めず,ALPも一旦正常化した.しかし,その後再びALPが上昇し,血痰の喀出もみられ,肺転移巣の悪化による呼吸不全のため,治療開始後11カ月で死亡した.

胸骨体部分離を呈した2症例

著者: 岡本巡 ,   三宅康晴 ,   津村敬 ,   熱田裕司

ページ範囲:P.931 - P.934

 抄録:今回われわれは前胸部の運動時痛を主訴に来院し,X線像にて胸骨体部に分離を呈した2症例(男性1例,女性1例)を経験した.いずれも骨折を疑うような明らかな外傷歴はなく,その発生機序としては胸骨の骨化の過程において何らかの異常を呈したものと思われた.
 また,治療法としては,骨化中心の癒合がほぼ得られる30歳以上で安静時痛などの高度の疼痛がみられる症例には,固定術による癒合を得るのもよい方法と考えた.

足指末節骨に発生したbizarre parosteal osteochondromatous proliferationの1例

著者: 西口薫 ,   岩田淳 ,   申寳榮

ページ範囲:P.935 - P.937

 抄録:比較的稀とされているbizarre parosteal osteochondromatous proliferationの1例を経験した.症例は14歳男性.6カ月前から,歩行時に左第1足指の疼痛を生じるようになった.1カ月前から,同部の爪が膨隆してきたため当科を受診した.当初は爪下外骨腫と考え,腫瘤切除術を行ったが,4カ月後には腫瘤の再発を認め,再手術を行った.腫瘤は軟骨帽を有する骨性隆起であり,肉眼的に骨軟骨腫様であった.再手術時の病理組織所見では,軟骨細胞に異型性を認め,low gradeの軟骨肉腫に類似していた.また,軟骨帽と骨組織の境界部分には,軟骨と骨梁が不規則に混在し,仮骨様を呈していた.早急な再発をきたした臨床経過および病理組織所見から,Noraらのいうbizarre parosteal osteochondromatous proliferationと診断した.再手術後,再々発はなく経過良好である.

肘頭裂離骨折を伴った上腕三頭筋腱皮下断裂の2例

著者: 中島三郎 ,   沼田亨 ,   山内達朗 ,   岡田二郎

ページ範囲:P.939 - P.943

 抄録:肘頭裂離骨折を伴った上腕三頭筋腱皮下断裂の2例を報告した.症例は12歳女性と,61歳男性であり,いずれも肘を打撲して受傷した.肘関節の単純X線側面像で肘頭の近位に裂離骨片がみられ,肘関節の伸展力の低下がみられた.手術では上腕三頭筋腱および肘頭の裂離骨片を一体としてtension band wiringにて肘頭に固定し,さらに非吸収糸で縫合した.2例ともX線像では骨癒合が得られており,肘関節の筋力は正常で,疼痛や不安定性はなかった.
 本症の特徴として,肘関節後面の陥凹や肘関節の伸展力の低下,X線側面像における裂離骨片の存在などがあげられるが,特に急性期には局所の腫脹,疼痛などのためにわかりにくいこともあり,本症の存在を念頭においた注意深い診察が必要である.

5年間経過観察し得た小児腰椎圧迫骨折の1例

著者: 辻崇 ,   鎌田修博 ,   豊田敬 ,   西脇祐司 ,   木内準之助 ,   塚原茂

ページ範囲:P.945 - P.948

 抄録:全脊椎損傷に占める小児発生例の割合は低く,また長期観察例の報告も少ない,今回,小児腰椎圧迫骨折の1例を5年間経過観察し,X線像の経時的変化を検討したので報告する.症例は7歳9カ月の男児で,高さ2m程の遊具より落下し受傷した.近医初診時単純X線像にて第3腰椎に圧迫骨折を認め,4の後弯を呈していた,腰椎X線中間位側面像の経時的変化では椎体前縁の高さが回復し,楔状変形のリモデリングと後弯の改善が観察された.後弯の改善は椎体のリモデリングより早期に生じた.われわれはこの原因として,椎体変形のリモデリングが十分に完成する以前の受傷後早期には,椎間板の代償作用による後弯の矯正が働いたと推察しているが,これを示すには受傷後早期からのMRIによる検討が必要であろう.

Tricho-Rhino-Phalangeal Syndrome Ⅲ型の母子例

著者: 二井英二 ,   西山正紀 ,   飯田浩次 ,   杉浦保夫 ,   川井守 ,   山崎征治 ,  

ページ範囲:P.949 - P.952

 抄録:Tricho-rhino-phalangeal syndrome(以下TRP症候群)は,毛髪,鼻,手や足の指骨などに特徴的な形態異常を呈する比較的稀な先天異常症候群で,現在2つの型に分類されている.しかし,1986年,Niikawaは手足の指に特徴的な所見を認めるものをTRP症候群Ⅲ型として分類し報告している.今回われわれは,Niikawaの提唱したTRP症候群Ⅲ型と思われる母子例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告した.TRP症候群Ⅲ型は比較的新しい概念,分類でもあるため,1992年に改定された骨系統疾患・国際分類には記載されていない.Ⅲ型はI型と比較し,手,足の中手骨,中足骨および指節骨の短縮がきわめて著明なことで鑑別されているが,明確な診断基準は少ない.今後,同様の症例の集積と臨床所見,X線所見などの十分な検討が重要と思われた.

外傷後にdelayed spinal palsyを呈した強直性脊椎炎の1例

著者: 金谷邦人 ,   山下敏彦 ,   竹林庸雄 ,   横串算敏 ,   小野信英 ,   横澤均

ページ範囲:P.953 - P.957

 抄録:胸椎骨折による遅発性脊髄麻痺を呈した強直性脊椎炎の1例を経験した.症例は58歳,男性.1996(平成8)年4月,屋内で転倒し腰背部痛が出現した.体幹装具による保存療法を受けたが,半年後から両下肢麻痺と膀胱直腸障害が出現した,1997(平成9)年3月,当科入院時には,胸腰椎に見かけ上の脊椎変形はなかったが第12胸髄節以下の痙性不全麻痺を呈していた.画像上,強直した第10/11椎間の開大を認めた.後方除圧術およびinstrumentationを併用した前方固定術を行った.術後麻痺は改善し杖歩行が可能となった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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