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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科34巻9号

1999年09月発行

雑誌目次

視座

側弯手術の入院期間は3日間

著者: 浜西千秋

ページ範囲:P.1071 - P.1072

 4月の日整会で腰椎インプラント手術の功罪というシンポジウムがもたれた.たった1演題ではあったが,コストを取り上げた演題を加えていたことは学会としては画期的である.それによると,たった1椎間を固定しPLIFを加えるだけで90万円以上の材料費がかかり,患者家族に60万の立て替え払いの負担があるとの報告であった.まして,変性性疾患にペディクルスクリューを10本も使えば,手術料はさらに200万高くなる.手術前に患者負担が幾らくらいになるのか医師は知って手術を勧めているのであろうか.整形外科で100万以上の高額請求の場合,その70%以上は外国製金属材料インプラントの購入費であり,医療費のうち欧米では非常に高額に評価される手術技術料や看護料などのコストは誠に低く抑えられている.また,日本の患者は高い手術料のうち,頼りにする執刀医の技術料はたった1~2割にすぎないことは知らされていない.
 政府はアメリカの製品をどんどん輸入して使用させ,手持ちのドルを減らさなければならないというドル減らしのプレッシャーを受けている.一方,厚生省は巨額とはいいながら,実はその大半が輸入の高額のインプラントや特定医療材料の支払いに費やされる“医療費”を削減しなければならないという矛盾をかかえている.

論述

SPOC装具によるペルテス病の治療―予後に影響を与える因子について

著者: 柏木直也 ,   鈴木茂夫 ,   瀬戸洋一 ,   黄義秀 ,   向井章悟

ページ範囲:P.1075 - P.1080

 抄録:片側性のペルテス病に対し,SPOC装具による治療を行い,骨成熟まで経過観察し得た52例52関節につき,治療成績と予後に影響を与え得る因子を検討した.男児48例,女児4例,最終経過観察時年齢は14歳8カ月から26歳9カ月であった.発症時年齢は予後を左右する重要な因子であり,Stulberg分類のspherical congruencyとなった関節は5,6歳発症例で83%,6,7歳発症例で63%,9歳以上発症例で47%であった.治療開始時の骨頭変形も予後と相関していたが,低年齢発症児では変形の有無に関わらず予後が良好で,高年齢発症児では変形の有無に関わらず予後が不良である傾向にあった.性別や症状出現から初診までの期間と予後との関係は明らかではなかった.高年齢発症児や治療開始時にすでに骨頭変形がある症例は装具療法で良好な成績を得るのが困難な場合があり,他の治療法も考慮に入れて治療に当たるべきである.

分化型脂肪肉腫の治療経験

著者: 土谷一晃 ,   伊藤隆 ,   井形聡 ,   勝呂徹 ,   亀田典章 ,   蛭田啓之 ,   櫛田和義 ,   村山均 ,   飯田萬一 ,   亀田陽一

ページ範囲:P.1081 - P.1089

 抄録:分化型脂肪肉腫15例について治療上の問題点を検討した.症例は男性10例,女性5例,年齢は平均59.8歳で,発生部位は12例が大腿であり,筋肉内・筋間発生13例,皮下発生2例であった.MRIなどの画像所見で,約半数は良性脂肪腫との鑑別が困難であったが,6例に健常脂肪組織と異なった輝度変化がみられ,7例に腫瘍内の隔壁様構造が目立った.病理組織学的にはlipoma like typeが12例,sclelosing typeが3例で,切除縁評価はmarginal以下が13例であった.平均68.9カ月の経過で,1例が脱分化型脂肪肉腫として再発したが再手術を行い,CDF11例,NED4例であった.巨大な脂肪性腫瘍の場合,画像所見で隔壁様構造や成熟脂肪組織と異なった輝度変化のみられる症例では分化型脂肪肉腫を念頭にいれ慎重な対応が必要である.高齢者や確定診断の得られない症例などではmarginal resectionも治療法の選択肢としてよいのではないかと考えられた.

転移性脊椎腫瘍に対する手術的治療の短期成績―部分腫瘍摘出術と可及的全摘出術の比較検討

著者: 岩﨑博 ,   玉置哲也 ,   川上守 ,   吉田宗人 ,   安藤宗治 ,   山田宏 ,   大浦晴夫

ページ範囲:P.1091 - P.1095

 抄録:転移性脊椎腫瘍に対する部分腫瘍摘出術(以下,P法)と可及的全摘出術(以下,T法)の短期成績を比較検討した.1989年以降,当科でspinal instrumentationを併用した手術的治療を行った転移性脊椎腫瘍患者52例中,調査し得た30症例(P法22例,T法8例)を対象とし,両群間で年齢,原発巣,脊椎転移部位,富田分類,予後について比較検討し,手術成績を疼痛,Brice分類,ADLのgradeを点数化して評価した.手術時平均年齢,原発巣,脊椎転移部位も両群間に差はなかった.富田分類では,stageの低い症例でT法がなされていた.疼痛は術前2.1点が術後3カ月で0.8点,Brice分類は1.6から1.3点に,ADLは1.9から1.5点に改善が得られたが,両群間に差はなかった.また,生命予後にも差は認められなかった.転移性脊椎腫瘍に対してはintralesional resectionであれば,部分腫瘍摘出術による神経除圧とspinal instrumentationの術式でも,可及的全摘出術と短期的には同等の改善および予後が得られる.

膝屈筋腱―ハイブリッド代用材料を用いた膝前十字靱帯再建術後における𦙾骨骨孔径の変化

著者: 原則行 ,   安田和則 ,   宮田康史 ,   黒部恭啓 ,   木村正一 ,   宮城登 ,   青木喜満 ,   金田清志

ページ範囲:P.1097 - P.1102

 抄録:自家膝屈筋腱とポリエステル性人工靱帯を直列結合したhybrid代用材料を用いた膝前十字靱帯再建術症例119例における,術後1年以上の経過時の𦙾骨骨孔径の変化をX線学的に検討した.自家腱が存在する関節内開口部に関しては,骨孔縁に限局した拡大例が正面像で23%,側面像で37%の症例に認められた.拡大例におけるその程度は,2mm以下と軽度であり,術後1年以後の経時的増大傾向は認められなかった.また,その骨孔拡大は臨床成績の低下をもたらしてはいなかった.一方,人工靱帯のみが存在する関節外開口部では骨孔拡大例は正面像,側面像とも12%のみであり,また骨孔縮小例が正面像で74%,側面像で59%に認められた.hybrid代用材料を用いたACL再建術においては,𦙾骨骨孔縁に限局した軽度の拡大は稀ではないが,臨床的に問題となるような著明な骨孔拡大は認められなかった.

整形外科基礎

寛骨臼に対する体外衝撃波の作用―家兎を用いた実験的研究

著者: 西須孝 ,   高橋謙二 ,   三橋繁 ,   和田佑一 ,   原田義忠 ,   守屋秀繁 ,   亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.1103 - P.1109

 抄録:われわれは,体外衝撃波を用いて局所において非観血的に骨形成を誘導し,臼蓋形成不全症の治療に臨床応用することを最終目的として,成長期家兎臼蓋へ体外衝撃波を照射し,骨形成が誘導されるかを明らかにするための動物実験を行った.幼若家兎8羽を対象とし,体外衝撃波を外側から100MPa,2.5Hzの条件で5,000発照射し,4羽ずつそれぞれ4週後,8週後に骨盤を摘出し,X線学的検討を行った.4週後に照射部におけるwoven boneの形成がみられ,臼蓋嘴より頭側1,3,4mmの高位において臼蓋幅の有意な増大が認められた.8週後では,woven boneは消退したが,臼蓋嘴より頭側4,5,6mmの高位において臼蓋幅の有意な増大が認められた.体外衝撃波が臼蓋において局所的骨形成を誘導することが明らかとなった.

手術手技 私のくふう

ACE symmetryプレートによる不安定型橈骨遠位端骨折の治療経験

著者: 長田伝重 ,   山口哲彦 ,   中谷徳雄 ,   岩本玲 ,   清水左門 ,   早乙女紘一

ページ範囲:P.1111 - P.1115

 抄録:不安定型橈骨遠位端骨折に対してACE symmetryプレートによる治療を行い,術後早期からの手関節可動域訓練を試みているので,短期の治療成績について検討した.対象は1997年11月より本plateを用いて治療した不安定型橈骨遠位端骨折7例で,男性4例,女性3例で,平均年齢は54歳であった.骨折型は関節外単純骨折の不安定型は1例で,関節内骨折は6例であり,Melone分類のⅡ型が5例で,Ⅲ型が1例であった.手術までの期間は平均9日であり,術後の手関節の可動域訓練開始時期は平均8.7日であり,経過観察期間は平均5.9カ月であった.結果は,radial lengthとulnar varianceは6例では手術時から骨癒合時まで良好な整復位を保っていたが,骨粗鬆症の女性は経過とともに悪化した.radial tiltとpalmar tiltは全例で良好な整復位を示していた.治療成績は,excellentが5例で,goodは2例であった.本法は不安定型橈骨遠位端骨折の有効な治療法になりうると思われた.

手術手技シリーズ 最近の進歩 手の外科

リウマチ手関節の可動域温存手術

著者: 南川義隆

ページ範囲:P.1117 - P.1123

 抄録:慢性関節リウマチの手関節の病変に対して手関節部分固定術が導入され,手関節の安定化と手根中央関節での可動域が温存されるようになった.しかし,橈骨手根関節と手根中央関節の両方に骨破壊が進行した場合には,手関節の可動域を確実に温存できる手術法は人工関節以外にはなかった.このような症例に,最近行っている人工物を用いない手関節形成術を紹介する.

専門分野/この1年の進歩

日本整形外科スポーツ医学会―この1年の進歩

著者: 圓尾宗司 ,   田中寿一 ,   松本学

ページ範囲:P.1126 - P.1127

 第25回日本整形外科スポーツ医学会は1999(平成11)年5月28日(土),29日(日)の2日間,新緑の神戸ポート・アイランドの国際会議場で開催された.好天気にも恵まれ約750名の参加者を得て,4会場に分かれて活発な討議が繰り広げられた.2つのシンポジウム,4つの教育研修講演,11種目にわたる競技別パネル討論に一般講演を加え,約160題の演題が発表された.さらに今回の2つの新企画を加えたものの中から,いくつかのトピックスを選んでみた.

最新基礎科学/知っておきたい

アポトーシス(Apoptosis)

著者: 松野博明

ページ範囲:P.1128 - P.1131

【アポトーシスとは】
 細胞は増殖状態に陥った時,それをコントロールするためアポトーシスによる細胞死を発現する.このことからアポトーシスは,生体の恒常性維持における普遍的メカニズムの一つと考えられている.アポトーシス(Apoptosis)とは,ギリシャ語のapo=offとptosis=fallが合成された言葉で“a falling off”の意味を持つ細胞の自殺死であり,アポトーシスと呼ばれる細胞死は個体の発生や生体の恒常性維持に重要な役割を担っている.アポトーシスに関与する分子は線虫から哺乳類まで種を越えて存在しているが,近年では哺乳類の生理的な意味を持つ細胞死をアポトーシス(細胞死を促す酵素であるプロテアーゼはカスパーゼファミリー)と呼び,線虫における細胞死をプログラム細胞死(プロテアーゼはCED)と区別して呼ぶことも多い.細胞におけるアポトーシスの働きは多種多様であり,免疫学.腫瘍学・発生学などの研究領域において近年特に注目を集めている.例えば,発生段階でミット状の手が分離して一本ずつの手指が形成されるのも,このアポトーシスの働きによるものであるし,胸腺における細胞のセレクションもこのアポトーシスの働きによる1)
 正常状態における細胞死と考えられているアポトーシスに対抗する細胞死としてネクローシスがある.ネクローシスは病的な状態で細胞が死に到る細胞死であり,細胞の膨化破裂によって起こる細胞の不慮の事故死である.

境界領域/知っておきたい

FEM(第1回)

著者: 森田真史

ページ範囲:P.1132 - P.1133

【有限要素法とは】
 有限要素法(Finite Element Analysis)は,構造物の応力解析,振動解析,熱伝導解析,流体の流動解析,電磁場の解析など連続体の物理現象をシミュレーションできる大変便利な解析方法であり,いろいろな分野で活用されている.
 有限要素法の特徴は,1)物体の構造が複雑であっても解析が可能であること,2)材質が部位によって異なっても問題ないこと,3)実際には目に見えない物理量を可視化して表現できること,4)コンピュータによるシミュレーションであるため仮想実験が手軽にできること,5)プログラムをブラックボックスとして使用できるために誰でも利用できること,など多くの利点を有することである.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・35

著者: 北岡克彦

ページ範囲:P.1135 - P.1137

症例:10歳,男児(図1)
 主訴:右足関節部腫脹,疼痛
 学校の体育用具室で高さ2mのところから飛び降りた際に右足関節を捻って受傷した.足関節外側部に疼痛,腫脹を認め,独歩不能であった.

整形外科英語ア・ラ・カルト・80

整形外科分野で使われる用語・その42

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1138 - P.1139

 第78回目の最初に書いた“PRN”のことについて御質問があった.“prn”はラテン語の“pro re nata”(プロ・レ・ナータ)の略語であると書いていたが,“nata”が娘という意味であり,間違いではなかろうかとの質問であった.
 私はただ“pro re nata”として暗記していただけなので,ラテン語の詳しい説明を立川 清編の「医学語源大辞典」に求めてみた.“pro”は前置詞“~~に応じて”,“re”は“物事や事情”を意味する“res”の奪格形,“nata”は“生ずる”や“起こる”意味の“nasci”の過去分詞形“natus”の女性形奪格とある.新生児のことを“neonatal”というように,“nata”は“生まれる”を指す.したがって,“prn”は“新しく生じる事態に対応して”という意味になり,“必要に応じて”ということになる.

ついである記・38

London―パリからEurostarに乗って

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1140 - P.1141

 定年退職後5年が経った今も,私の生活は何となく多忙であるが,1997年の秋ほどあわただしく国の内外を駆けずり回ったことはなかった.具体的にいうと,9月11日からオランダとトルコへ行き,19日に一旦帰国して東京と京都で講演をした後,29日には台湾へ行き,続いて10月5日には台北からパリへ飛んで国際学会に出席し,さらにパリからEurostarに乗ってロンドンへ行き,最後にロンドンから関空経由で新潟へ飛んで日本整形外科学会に出席するという日程であった.このような過密スケジュールを40日間でこなしたので,時差ボケの解消法に熟達しているはずの私でも,さすがに体力の限界を感じた.私がパリに到着するまでの上記の旅の間に,家内は一足先にパリへ行って,パリ大学に留学している甥のアパートに泊まりこんで家事を手伝ってやったり,一緒に市中を歩き廻ったりして母性本能を満たしていたようだった.パリは観光客として訪れるよりも,そこに住んでみて初めて深い味わいの感じられる町であると言われているが,家内は短期間ながら身内とともにパリに住んでみることができて御満悦であった,私がパリに着いた頃には地下鉄やバスも一人で乗りこなし,カフェやマーケットで見た人々の生活の様子や甥のガールフレンドのことまでも興味深げに私に話して聞かせるのだった.

臨床経験

稀な上腕骨滑車単独骨折の1例

著者: 佐藤直人 ,   斎藤昭

ページ範囲:P.1143 - P.1145

 抄録:稀な上腕骨滑車単独骨折の1例を経験した.症例は14歳,男性.主訴は左肘の痛み.現病歴は,傾斜のある歩道を自転車に乗って下りてきて転倒,転落し受傷した.当院受診時の単純X線像で,左上腕骨滑車骨折を認めた.入院後の三次元CTで上腕骨滑車部の単独骨折と診断し,手術を行った.手術時所見では,滑車部前方約2分の1の骨折が認められ,上腕骨近位前方へ転位した骨片は尺骨鈎突起の上に乗っていた.整復後,骨片の固定には,生体内吸収性材料であるPLLAピンを使用した.術後半年の経過観察時では,肘関節痛なく,関節可動域は良好である.単純X線像,MRIで骨折部の骨癒合は良好で無腐性壊死は認めていない.上腕骨滑車単独骨折は極めて稀な骨折であり,特に新鮮例の報告は1例のみである.本症例では,確定診断に三次元CTが有用であった.内固定に生体内吸収性材料であるPLLAピンを使用し,良好な成績が得られた.

肩鎖関節脱臼を合併した鎖骨骨幹部骨折の1例

著者: 小西長生 ,   山口勝之 ,   葵栄浩 ,   津山研一郎

ページ範囲:P.1147 - P.1150

 抄録:われわれは非常に稀な鎖骨骨幹部骨折と肩鎖関節脱臼との合併例を経験したので報告する.症例は51歳,男性.バイク搭乗中に自動車と接触し,左肩を自動車側面に強打して受傷した.X線検査で鎖骨骨幹部骨折と肩鎖関節脱臼と診断された.Phemister変法に準じて肩鎖関節脱臼を整復し,鎖骨骨折をcannulated cancellous screwで髄内固定術を行った.術後7カ月時,骨癒合は良好でスポーツ活動ができるほどに回復した.鎖骨骨幹部骨折を伴う肩鎖関節脱臼の診断上の注意点と病態について考察した.

非外傷性股関節脱臼を伴ったvon Recklinghausen病の1例

著者: 黒田昌之 ,   中瀬尚長 ,   安井夏生 ,   越智隆弘 ,   高橋幸恵 ,   平林伸治

ページ範囲:P.1151 - P.1154

 抄録:非外傷性の股関節脱臼を伴ったvon Recklinghausen病の稀な1例を経験したので報告する.症例は3歳9カ月女児,片側肥大症による脚長差の増大に伴い歩行障害が増強し,単純X線像にて右大腿骨の外反変形と右股関節の脱臼が認められたため,内反骨切り術による股関節の整復と右大腿骨遠位と下腿骨近位骨端線の成長抑制術を行った.術後7カ月の時点で,股関節の脱臼は認められず,脚長差および歩行障害は軽減している.本症例および過去の報告例の検討から,von Recklinghausen病における非外傷性股関節脱臼の成因には,片側肥大に伴う脚長差の増大と,大腿骨の外反変形が深く関与するものと考えられる.

HGPカップのdisassemblyをきたしたセメントレスTHAの2例

著者: 西登美雄 ,   皆川洋至 ,   三浦利哉 ,   小林志

ページ範囲:P.1155 - P.1158

 抄録:セメントレス臼蓋コンポーネントのメタルシエルとポリエチレンのdisassemblyを来した2例を報告する.症例1は74歳女性.THA術後12年目に椅子から立ち上がる際に脱臼感とともに右股部痛を生じ歩行不能となった.臼蓋側はHGP Iカップが用いられており,70°の外反位となっていた.メタルシェルの爪に折損がみられ,骨頭は金属カップ内で外上方に偏位しメタローシスを来たしていた.HGP IIカップに再置換した.症例2は68歳女性.THA術後7年目に異常音と疼痛を生じた.HGP IIカップは44mm径,外方設置,外反角は40°であった.メタルシエルの爪が折損し,ポリエチレンライナーはメタルカップから後方へ脱転していた.48mm径のトリロジーカップに再置換した.HGPカップには爪構造に問題があり,設置不良や体重,活動性などの要因が加わり破損に至ったものと考察した.

Ulnocarpal abutment syndromeとの鑑別が困難であったTFCC手根骨付着部損傷の1症例の治療経験

著者: 西川真史 ,   長沼慎二 ,   竹内和成 ,   福田陽 ,   和田簡一郎 ,   鈴木雅博

ページ範囲:P.1159 - P.1162

 抄録:目的:Ulnocarpal abutment syndrome(以下UAS)と診断し,骨切り予定であったが手関節鏡にてTFCC手根骨付着部に異常を認め,同部を切除し症状が著明に改善した症例の報告である.
 対象および方法:17歳,女性.誘因なく左手関節尺側痛を主訴に当科を紹介受診した.手関節可動域制限はなく,遠位橈尺関節に圧痛を認め,TFCCストレステスト陽性であった.単純X線撮影で7mmのulnar plus variant(以下UPV)を認めた.手関節造影やMRIで異常はなかった.

下肢手術後に大腿骨頚部insufficiency fractureを生じた2症例

著者: 喜多島出 ,   立花新太郎 ,   弘田裕 ,   中道健一 ,   須田雅人

ページ範囲:P.1163 - P.1166

 抄録:整形外科手術後に,大腿骨頚部insufficiency fractureを生じた2症例を経験した.症例1は77歳の女性で,大腿骨転子下骨折に対し髄内釘による骨接合術を施行した後に発生した.症例2は75歳の女性で,変形性膝関節症に対し高位脛骨骨切り術(以下HTO)を施行した後に発生した.両症例とも明らかな誘因なく骨折が生じており,骨粗鬆症による骨脆弱性を基盤としてinsufficiency fractureが生じたものと考察した.骨粗鬆症を有する患者に下肢手術を施行した場合には,慎重な経過観察が必要である.

馬尾腫瘍と鑑別を要した腰部硬膜外静脈瘤の1例

著者: 神谷宣広 ,   四方實彦 ,   田中千晶 ,   中山富貴 ,   真鍋克次郎

ページ範囲:P.1167 - P.1171

 抄録:外傷を契機に偶然発見された無症候性の腰部硬膜外静脈瘤の1例を経験したので報告する.診断には造影CT,MRI,静脈造影が有効であった.発生機序としては,先天性鎖肛があり出生直後から中心静脈栄養管理をされた既往のあることから,血管炎を合併し下大静脈が閉塞し,その側副血行路として硬膜外静脈系が拡張し腰部硬膜外静脈瘤を形成したものと推測された.

外傷後腰椎部硬膜下血腫の1例

著者: 高森尉之 ,   永瀬譲史 ,   板橋孝 ,   国府田正雄 ,   赤松利信

ページ範囲:P.1173 - P.1176

 抄録:外傷後に発生した腰椎部硬膜下血腫に対し,MRIにて診断を確定し,手術療法を施行した症例を経験したので報告する.症例は腰殿部痛を主訴とする52歳の男性である.頭部と殿部を蹴られて転倒し,翌日になり,頭痛,嘔気が強く近医を受診し,頭部くも膜下出血の診断を受け,通院加療を受けた.この経過中に腰殿部痛を自覚した.その後,頭痛,嘔気が増強し,脳外科医院に入院した.安静のみにて頭痛は消失したが,腰殿部痛が持続するため,当院に紹介となった,神経学的には両足背内側部にしびれ感を伴う軽度の知覚鈍麻を認め,SLRは右35°,左45°で陽性であった.腰椎部のMRIにおいて,L1からSにかけての硬膜下にT1,T2強調像ともに高信号域の病変が認められた.以上の経過より,外傷後腰椎部硬膜下血腫と診断し,椎弓切除,硬膜切開にて血腫除去術を施行した.術後,症状は消失し,良好な結果が得られた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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