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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科35巻10号

2000年09月発行

雑誌目次

視座

骨と材料の界面

著者: 岡正典

ページ範囲:P.1069 - P.1070

 人工材料の臨床応用に際して最も重要な問題は,全て材料と生体との界面(interface)で生じる.骨格系人工材料では,この界面における骨の生体反応をよく理解することが大切である.
 材料一般についていえば,体内に人工材料をインプラントすると最初に多核白血球を主役とする急性炎症反応が起こり,リンパ球,マクロファージによる異物反応に続いて,線維芽細胞により材料を取り囲む線維化が慢性反応として起こってくる,生体適合性の悪い材料では,いつまでも材料周囲の異物炎症反応が消退せず,線維組織による被包化が起こらないが,この被包化が完成した際にその材料は,生体不活性(バイオイナート)な材料として一応生体に受け入れられたと解釈される.全ての人工材料は生体にインプラントされた際に,皮下,骨髄内など,部位を問わず線維組織によって被包されるのが通常であったが,この常識を打破したのがバイオアクティブセラミックであった.ハイドロオキシアパタイトやAWガラスセラミックが骨内にインプラントされると,骨との間に線維組織の介在なしに直接結合することが可能で,この結合のメカニズムについても研究が進み,セラミック表面に形成されるアパタイト層を介して骨と材料が直接結合することがわかった.人工材料で線維組織に被包されることなく,直接に生体と接合するバイオアクティブセラミックは,まさに画期的な人工材料といえる.

論述

頭蓋頚椎移行部疾患に対する手術―術中・術後早期における合併症とその対策

著者: 矢吹省司 ,   菊地臣一 ,   五十嵐環

ページ範囲:P.1073 - P.1079

 抄録:頭蓋頚椎移行部手術例をretrospectiveに調査し,頭蓋頚椎移行部における術中と術後早期(術後1週以内)の合併症発生の頻度やその特徴,およびそれらに対する予防法や対策について検討することを目的とした.対象は,40例(男性21例,女性19例,最多年代層60歳台)である.術中の合併症は,3例(8%)に発生していた.その内訳は,硬膜損傷に伴う脳脊髄液の流出が2例,損傷した鋭匙の小脳内迷入が1例であった.術後早期の合併症は,4例(10%)に認められた.その内訳は,固定性不良によるインストルメントのゆるみ・脱転が2例,落ち込んだ移植骨での脊髄圧迫による呼吸性四肢麻痺が1例,そして脳室内出血1例であった.合併症発生7例中6例で予後は良好であった.合併症の発生予防や早期に対処するためには,より注意深い手術操作,周術期の監視そして管理が重要である.

膝後十字靱帯再建術後の𦙾骨骨孔変化

著者: 山崎哲也 ,   高澤晴夫

ページ範囲:P.1081 - P.1085

 抄録:𦙾骨骨孔を前方アプローチにて作製する鏡視下膝後十字靱帯(PCL)再建術後の𦙾骨骨孔変化を調査した.対象は術後1年以上経過観察し得た男性25例25膝で,術直後と最終経過観察時の単純X線側面像にて𦙾骨骨孔の近位開口部および遠位開口部の幅を測定した.骨孔の位置,走行角度および再建材料の違いによる骨孔変化と臨床成績との関連性を検討した.3mm以上を有意な変化とすると,近位開口部の骨孔拡大を13例(52.0%)に認め,方向は全例前方に拡大していた.骨孔の位置および走行角度と骨孔拡大との間には関連性を認めなかったが,再建材料として二重折りの半腱様筋腱,薄筋腱(WSTG)よりWSTGに腸胚靱帯を加えたもの(WSTG+ITB)に骨孔拡大の頻度が増加する傾向が見られた.骨孔拡大と臨床成績との間に有意な関連性は認めなかった.

慢性関節リウマチに対するハイブリッド人工股関節置換術の中期成績

著者: 長谷川正裕 ,   大橋俊郎 ,   谷知久 ,   大友克之

ページ範囲:P.1087 - P.1092

 抄録:慢性関節リウマチに対する人工股関節置換術において,臼蓋側はセメントレスでチップ状骨移植の併用,大腿側は骨セメント使用のハイブリッド方式を採用しているのでその成績を検討した.対象は術後5年以上終過観察を行った30例41関節で手術時平均年齢は59歳,平均観察期間は6.7年であった.日整会変股症判定基準は術前平均39.7点が最終調査時平均79.5点と有意に改善し,各項目とも改善した.Steinbrockerの機能分類では改善したものは35関節で,悪化したものはなかった.セメントレスカップのゆるみはなかったが,骨セメント使用のステムは7%にゆるみがみられた.しかし,進行性のゆるみはみられず,再置換に至った例はない.ハイブリッド方式の人工股関節置換術は慢性関節リウマチに対しても有用な術式であった.

Revision前十字靱帯再建術の検討

著者: 朝比奈信太郎 ,   仁賀定雄 ,   星野明穂 ,   池田浩夫 ,   鄭光徹 ,   長束裕

ページ範囲:P.1093 - P.1096

 抄録:当院で初回ACL再建術を行った後に,再断裂や不安定性の再燃のためにrevision ACL再建術を要した24例を対象とし,再手術に至った要因について検討するとともに,初回ACL再建術とrevision ACL再建術の臨床成績を比較検討した.対象の内訳は男性13例,女性11例で,初回手術時年齢は14~42歳(平均20歳),初回手術から再手術までの期間は4カ月~6年7カ月(平均2年8カ月)であった.revision ACL再建術に至った例は,初回手術の術式別では,一重の半腱様筋腱と薄筋腱にLADを併用したシリーズに再断裂例が多く,術後も高い活動性を維持している例が多かった.再受傷による再断裂例では,再断裂前の初回手術後の他覚的膝安定性,関節鏡視像は特に不良ではなかった.revisionACL再建術の成績は,他覚的膝不安定性の点で初回手術の成績よりやや劣っていた.

転移性脊椎腫瘍に対する脊椎全摘術の経験

著者: 阿部栄二 ,   村井肇 ,   小林孝 ,   千葉光穂 ,   奥山幸一郎 ,   斎藤一 ,   荻野正明

ページ範囲:P.1097 - P.1102

 抄録:単発性の転移性脊椎腫瘍の8例に罹患椎の椎弓根を2分割しそれぞれを一塊として摘出する脊椎全摘術(TES)を行った.原発巣は肺が2例,腎が2例,甲状腺3例,前立腺1例である.後方進入TESはT6,T12,L2,L2,L2-3高位の腫瘍5例に行い,前・後一期的TESはL2,L3,L4の3例に行った.腰背部痛や神経麻痺は術後著しく改善し,全例独立歩行にて退院した.重篤な合併症はなかったが,後方進入TESでは5例中4例に神経根切離が必要であった.切除縁の組織検査で椎弓根切離部で腫瘍内切除となったのが8例中7例あった.他の部位では広範切除1例,辺縁切除5例,腫瘍内切除2例であった.局所再発は2例あり,どちらも椎体部で骨外進展した腫瘍に後方進入TESを行った例であった.4~44カ月(平均19カ月)で死亡した4例では死亡時まで,生存4例では1~6.5年(平均4.5年)手術の効果が続いていた.肺癌転移例を除き,術前の検査で重要臓器に転移がない単発性の脊椎転移癌に対するTESは臨床的にも有用な方法と思われた.

高齢者大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術の費用対効果向上の試み

著者: 佐藤智太郎 ,   関泰輔 ,   石田義博

ページ範囲:P.1103 - P.1106

 抄録:高齢者大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術の医療費の現状と節滅の可能性について検討した.外国製のインプラントを使用して2週間程度の安静期間をとっていた1993-94年の時期と,国産の人工骨頭で術後早期荷重をした1997-99年の時期の各30例についてレセプトを含めて調査した.後者の方が退院可能な症例が多く(21:27例),入院期間が短く(59.2:23.5日),さらに入院,手術に要した費用が大幅に減少した(256:168万円).短期のX線写真の経過観察では,早期荷重によってインプラントの緩みが増加したとはいえなかった.人工骨頭を院内の在庫とすることで早期に手術が可能であった.インプラントの差額は病院にとっての収益となりうると考えられた.

肩インピンジメント症候群の治療成績

著者: 長野真久 ,   小谷博信 ,   上尾豊二

ページ範囲:P.1107 - P.1111

 抄録:保存的治療が無効の肩インピンジメント症候群26例に対して烏口肩峰靱帯後面に局麻剤を2ml注入し,外転障害が消失する場合をCAテスト陽性,肩峰下滑液包内に局麻剤7mlを注入し有効な場合をSABテスト陽性とした.
 CAテスト陽性の9例には烏口肩峰靱帯切離術,CAテスト陰性・SABテスト陽性の7例には鏡視下肩峰下除圧術,両テストともに陰性の10例には腱板修復術を行った.3群の術前と術後6カ月でのJOA scoreはそれぞれ70点が88点に,69点が88点に,59点が83点に改善した.

専門分野/この1年の進歩

日本骨折治療学会―-この1年の進歩

著者: 石井良章

ページ範囲:P.1114 - P.1117

 本学会の会員数は本年ついに2,000名を突破し,日整会員の約10%を占めるに至った.筆者が主催した第26回の本学会の参加者は800名を越え演題数も多く,2日間で4会場を使用せざるを得なかった.各会場とも満席で最後まで活溌な討議が行われ大変有意義な学会であったと自負している.この場を借りて関係各位の御協力に心から感謝する次第である.整形外科関連学会が各々の専門性を高めていく中で,本学会は若い整形外科医が,僅かな経験の中でも直面する問題の討論に参加できる全国規模の唯一の学会である.また,若い整形外科医が日常取り扱う疾患の中で骨折が圧倒的に多いことも事実である.これらのことが,本学会において会員数に対する学会参加者の比率が非常に高い理由の1つと考えられる.整形外科学の基本分野である骨折の取扱いを論じる本学会は,今後さらなる発展が期待される.
 本学会を主催するにあたり,会長が何を求め,どのような学会が催されたかについて紹介する.発表および討論は従来より筆者が最も興味を持っていた「骨形成」を柱とすることを考え,シンポジウムには「骨形成に関する最近の進歩」を取り上げた.したがって,教育研修講演,特別講演もこれに関連するものを用意した.

整形外科/知ってるつもり

知覚神経の種類

著者: 池田和夫

ページ範囲:P.1118 - P.1119

【神経の解剖】
 末梢神経は中枢神経の命令を末梢の効果器に伝え,末梢の感覚器からの情報を中枢神経へ送る役割を果たしている.その走行は脊髄の前根から運動神経線維と,後根・脊髄神経節からの感覚神経線維が混ざり合っている.また,神経線維は有髄・無髄線維に区別され,それぞれ伝導速度の速いものから(つまり太い神経線維から)A,B,C線維に分類される.A線維は有髄神経線維で,運動や知覚に関与する.B線維は小径有髄線維で,自律神経系の節前線維に属する.C線維は無髄線維で最も細く,交感神経の節後線維または痛覚の一部を伝える線維とされる4)

境界領域/知っておきたい

骨代謝マーカーの有用性―とくに骨粗鬆症と転移性骨腫瘍について

著者: 中村利孝

ページ範囲:P.1120 - P.1122

 骨代謝マーカーとは血液や尿中の骨由来の物質で骨の代謝を反映するものである.従来,血清アルカリフォスファターゼや酸フォスファターゼ,尿中ハイドロキシプロリンなどが骨の代謝マーカーとして測定されてきた.しかし,これらの方法は,食餌内容や肝,腎機能の影響を受け,骨代謝を選択的に測定する検査ではなかった.最近,骨芽細胞や破骨細胞機能の検査として特異性の高い方法が使用できるようになってきた.そこで,最近の主な骨代謝マーカーと,その臨床的有用性を紹介する.

整形外科英語ア・ラ・カルト・91

整形外科分野で使われる用語・その53

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1124 - P.1125

●scout film(スカゥト・フィルム)
 “scout”は,斥候や偵察の意味で,勿論“film”は“X-ray film”のことである.“scout film”とは,本命のレントゲン撮影前に予備的に撮影するフィルムのことである.すなわち,造影剤を注入する前や,“CT”や“MRI”撮影前に撮って位置やコントラストを確かめるためのレントゲン写真のことをいう.1965年,外国人インターン生であった私には,“scout film”の発音が“スカット・フィルム”に聞こえ,最初は何のことか理解できなかった.

ついである記・49

北ウェールズの夏

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1126 - P.1128

●ケイリョグ渓谷のほとりに住む
 1976年の夏は英国では珍しく雨の少ない日々が続いた.私と家内と2人の子供達(当時13歳の娘と9歳の息子)はOswestryから北へ7kmほどの距離にあるケイリョグ(Ceiriog)渓谷のほとりのChirkbankと呼ばれる小さな集落の中に一軒の家を借りて住むことになった.私をOswestryのRobert Jones & Agnes Hunt Orthopaedic Hospitalの客員教授として迎えて下さったMr. Rowland Hughes(英国では外科医はDr.とは呼ばれず,Mr.と呼ばれる)の家がケイリョグ渓谷の対岸の丘の上に建っていた.私と家族が慣れない土地で生活をするのだから,自分の近くに住まわせて面倒をみてやろうというMr. Hughesの配慮があって,この借家が私達の住居として選ばれたのだろうと思われた.事実,私達は事あるごとにMr. Hughesの家へ招かれたり,共に旅をしたり,彼の親戚縁者とも親しくなり,まさに家族同様に遇された.
 私達の借りた家の前には一本の田舎道が通っており,その道路に沿って5~6軒の人家があった.家の直ぐ後ろは牧場になっていて30頭ほどの牛が毎日草を食んでいた.家の前の道路が北へ突き当たる丘の上に小さな教会があり,そこを左折するとさらに7~8軒の人家があり,その先は広い牧場が森に連なっていた.

臨床経験

遠位橈尺関節変形性関節症に続発した尺側滑液鞘の水腫により発症した手根管症候群の1例

著者: 三谷誠 ,   金村在哲 ,   冨田佳孝 ,   日野高睦 ,   松原伸明 ,   原田俊彦 ,   西川哲夫

ページ範囲:P.1131 - P.1135

 抄録:きわめて稀な原因で発症した手根管症候群の1例を経験した.症例は84歳女性.右手指のしびれ感と手関節掌側の疼痛と腫脹で発症した.X線像では手関節の関節症性変化,橈骨遠位端の背屈変形,尺骨のplus variantを認めた.CT,MRIなどの画像所見では,回外時尺骨頭の掌側への亜脱臼と尺側滑液鞘の水腫の貯留を認めた.術中所見では,遠位橈尺関節掌側に漿液を含んだ尺側滑液鞘を認め,それにより正中神経は圧排され横手根靱帯部入口部で絞扼されていた.遠位橈尺関節掌側の関節包に断裂が存在し,前腕を回外すると尺骨頭に形成された骨棘がその断裂部より露出し,そこで尺側滑液鞘と手関節腔は交通していた.以上より,本症例では橈骨遠位端骨折変形治癒により,回外時に骨棘を伴った尺骨頭が掌側亜脱臼することにより関節包を破り,尺側滑液鞘と関節が交通し,その結果として,滑液鞘に漿液が貯留して手根管症候群に至ったものと考えられた.

両側人工膝関節𦙾骨コンポーネントの折損をきたした慢性関節リウマチの1例

著者: 藤代高明 ,   西林保朗 ,   阿部修治 ,   大森裕 ,   居村茂明

ページ範囲:P.1137 - P.1141

 抄録:われわれはKinematic型を用いた両側全人工膝関節置換術(TKR)後に𦙾骨コンポーネントの折損をきたした1例を経験した.症例は67歳の女性.Steinbrocker分類でclass 3,stage Ⅳの慢性関節リウマチで,両膝関節破壊および疼痛によるADL障害のため1985(昭和60)年に右,1986(昭和61)年に左TKRを施行した.1996(平成8)年に右膝関節痛を突然自覚し,𦙾骨金属トレイの折損にて再置換術を施行した.1999(平成11)年,徐々に左膝関節痛を自覚し,𦙾骨コンポーネントの折損がストレス撮影にて偶然発見され再置換術を施行した.本症例は,荷重が内側に集中することにより生じたUltrahigh molecular weight polyethylene(UHMWPE)インサート摩耗粉の異物反応による骨吸収,および中央ステムの良好な固定のために近位のストレスシールディングが起こりやすい状態であったと考えられる.さらに,Kinematic PCR typeのデザインの問題も指摘されている.

原発部位不明の悪性黒色腫の2例

著者: 大類広 ,   石川朗 ,   土屋登嗣 ,   山川光徳 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1143 - P.1146

 抄録:原発部位不明の悪性黒色腫の2例を報告する.症例1は55歳の男性で,右大腿前面近位部の腫瘤を,症例2は66歳の男性で,左膝窩部の腫瘤を主訴に初診した.MRIでは,2例ともT1強調画像で筋肉より軽度高信号を,T2強調画像で高信号を示した.切除標本はいずれも肉眼的に褐色または黒色の色素沈着を伴っていた.組織学的には,症例1の腫瘍はリンパ節内にあり,大型で著明な多形性を示す淡明な細胞からなっていた.症例2の腫瘍は紡錐形細胞と淡明細胞からなっていた.腫瘍細胞は2例ともメラニン色素を持ち,免疫組織学的にS-100蛋白とHMB45に陽性を示した.皮膚の悪性黒色腫と淡明細胞肉腫との鑑別は,組織学的には困難であった.

前腕骨骨幹部骨折後,環指浅指屈筋腱の癒着を生じた1例

著者: 玉置康之 ,   百名克文 ,   麻田義之 ,   坂本武志 ,   林良一 ,   栗山新一 ,   渡辺慶

ページ範囲:P.1147 - P.1150

 抄録:前腕骨骨幹部骨折後,環指浅指屈筋腱の癒着を生じた非常に稀な症例を経験したので報告する.症例は17歳の男性.主訴は右環指の伸展障害である.1995年7月26日,バスケットボールで転倒し,前腕骨骨折を受傷した.近医でギプス固定を受け骨癒合を得るも,右環指の伸展障害が残存するため1999年7月に当科を受診した.右環指は手関節中間位でPIP関節伸展-110°,DIP関節伸展0°で,手関節を背屈すると屈曲を増し,掌屈では可動域制限はなかった.手術所見では,環指浅指屈筋腱が尺骨骨折部の内側面で癒着しており,これを剥離すると直後から完全伸展可能となった.前腕骨骨幹部骨折後の屈筋腱癒着は渉猟し得た9例の報告では環指深指屈筋に8例と多く,骨折部がその起始に相当するためといわれている.この症例では深指屈筋起始部の辺縁である尺骨内側面に癒着がみられたことから,浅指屈筋のみが骨折部にはさみ込まれたものと考えている.

Double Crush Syndromeの1例―第5腰神経根と浅腓骨神経絞扼性障害の合併

著者: 高橋直人 ,   菊地臣一 ,   五十嵐環 ,   渡辺栄一

ページ範囲:P.1151 - P.1154

 抄録:症例は60歳女性で,主訴は右下肢の疼痛としびれである.6カ月前より誘因なく主訴が出現した.腰部脊椎症による右第5腰神経根障害と診断し,右第5腰神経根ブロックを行った.しかし,右下腿外側1/3から右母趾にかけての疼痛としびれが残存した.その最近位部には圧痛があり,右母趾にかけてのTinel徴候が認められたため,浅腓骨神経絞扼性障害の合併を疑った.3つの疼痛誘発試験が全て陽性で,患側のSCVも測定不能であったため,右第5腰神経根障害に浅腓骨神経絞扼性障害が合併していると診断した.第5腰神経根の除圧を施行したが,右下腿外側1/3から右母趾にかけての疼痛としびれが残存したため,浅腓骨神経の開放術を行った.筋膜貫通部で神経が圧迫されており筋膜切開を行った.この追加手術により症状が全て消失した.
 本症例は,1本の神経の走行に沿って2つの障害部位を有する病態で,真の意味のdouble crush syndromeと言える.

血管内乳頭状血管内皮過形成の2症例

著者: 山本哲司 ,   丸井隆 ,   水野耕作

ページ範囲:P.1155 - P.1157

 抄録:血管内乳頭状血管内皮過形成の2例を経験したので,その臨床像および組織像について報告した.症例1は50歳男性で,右前腕に発生した筋肉内血管腫に続発した例である.症例2は,基礎疾患のない50歳男性の左足部に発生した例で,2度の再発を認めた.病理組織学的には血管内皮細胞の乳頭状増殖を認め,血管肉腫との鑑別が重要である.

小児におけるMonteggia骨折とGaleazzi骨折の合併例

著者: 前田啓志 ,   吉田和也 ,   土井良一 ,   大森治

ページ範囲:P.1159 - P.1162

 抄録:小児におけるMonteggia骨折およびGaleazzi骨折は,ともに稀な外傷であるが,その両者を同側前腕に合併した極めて稀な症例を経験したので報告する.症例は10歳男子.体育館でバスケットゴールに飛びつこうとして失敗し,右手より転落し受傷した.X線所見にてMonteggia骨折のBado分類におけるタイプ3とGaleazzi骨折の掌側型との合併と診断した.また,初診時より橈骨神経,尺骨神経および正中神経の完全麻痺を認めた.保存的治療にて整復位良好であり,受傷後8カ月の時点で肘関節および手関節の可動域はほとんど健側との差を認めず,手関節以下の麻痺も正常に回復している.Monteggia骨折とGaleazzi骨折の同一肢における合併例は,われわれが渉猟しえた限り,小児においては自験例を含め世界でもわずか2例であり,成人を含めても6例と極めて稀な外傷である.受傷機転は,瞬時に同一肢にかかった軸圧と回外力によるものと考えられた.

尺骨神経管症候群を呈した腱鞘線維腫の1例

著者: 土田敏典 ,   赤崎外志也 ,   山城輝久 ,   原隆 ,   上田善道

ページ範囲:P.1163 - P.1166

 抄録:今回、尺骨神経管症候群を呈した腱鞘線維腫の1例を経験したので報告する.症例は51歳,男性.右手小指球部の腫瘤および環指・小指の知覚・筋力低下を認めた.尺骨神経管症候群の津下・山河分類ではⅠ型に分類された.CTにて手掌部有鈎骨鈎部に腫瘤陰影を認めた.MRIのT1強調像では,腫瘍は低信号,T2強調像では内部に低信号領域を伴った比較的高信号であり,Gd造影像では腫瘍周辺が強く造影された.尺骨神経の知覚神経伝導速度は健側の約半分に低下していた.手術所見では,腫瘍は深指屈筋腱腱鞘から発生し,尺骨神経管中枢部で尺骨神経を圧迫しており,腫瘍を辺縁切除した.病理組織学的には,紡錘型細胞が間質の膠原線維の沈着を伴い増殖する腱鞘線維腫であった.術後1年の現在,知覚・筋力はほぼ正常にまで回復し,腫瘍の再発は認めない.

断裂を生じたアキレス腱骨化の1例

著者: 土井俊 ,   紫田徹郎 ,   坂田悟 ,   長野昭

ページ範囲:P.1167 - P.1169

 抄録:比較的稀なアキレス腱断裂を生じたアキレス腱骨化の1例を経験した.症例は61歳男性.既往歴,家族歴に特記すべきことはない.自宅の階段を踏み外し,右アキレス腱部痛が出現し,歩行困難となり近医受診後に当院紹介受診した.単純X線像では右アキレス腱踵骨付着部より約3cm近位に骨化性陰影を認めた.アキレス腱骨化を伴ったアキレス腱断裂と診断し,局所麻酔下に腱縫合術と骨片摘出術を施行した.

ターナー症候群にみられたO脚の治療経験

著者: 松井好人 ,   川端秀彦 ,   柴田徹 ,   北野元裕 ,   谷内孝次 ,   瓦井義広 ,   藤岡真紀 ,   市口牧子 ,   位田忍 ,   岡本伸彦

ページ範囲:P.1171 - P.1174

 抄録:症例はO脚を主訴に当科を紹介された17歳の女性である.5歳より成長ホルモンを投与されており,6歳時に染色体検査の結果,ターナー症候群と診断された.初診時,身長137cm(-4.2SD),アームスパン141.5cm,体重36.4kg(-2.3SD)であり,膝外側角(FTA)195以上の内反膝を認めた.イリザロフ創外固定器を用いて両側𦙾骨の変形矯正と同時に5cmの脚延長を行い,良好な短期成績を得た.

Morel-Lavalle lesionの1例

著者: 外川誠一郎 ,   大関覚 ,   高野研一郎 ,   野原裕

ページ範囲:P.1175 - P.1178

 抄録:Morel-Lavalle lesionにより発症したと思われる術後骨髄炎を経験したので報告する.症例は交通事故にて受傷した男性で,骨盤骨折・膀胱破裂をはじめとする多発骨折の患者で,膀胱縫合術・大腿部の挫創処置の後,受傷後7日に臼蓋観血的整復固定術を行いMRSA骨髄炎を生じた.感染は術創部だけではなく,大腿部前面の皮下にまで広がり,Morel-Lavalle lesionが存在したことが想定された.2カ月後,開放療法にてようやく感染を沈静化させることができた.骨盤骨折に観血的な治療を行う際は,術前にこの病態に対し対策をたてることが必要と思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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