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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科35巻4号

2000年03月発行

雑誌目次

視座

2000年を迎えて

著者: 山本晴康

ページ範囲:P.239 - P.240

 90年代が終わり,いよいよ21世紀を迎えようとしている.過ぎ行く20世紀については,年末・年始のマスコミ報道や整形外科関係の雑誌のコラムなどで何度もコメントされ,今更という気がするが,私の視点から20世紀と来る21世紀について述べさせていただく.
 20世紀,とりわけ第2次世界大戦以降は整形外科学は大変発展し,患者さんに大いなる福音をもたらした.これには細胞学,生化学の発展による抗生物質の発見や物理学の革新による人工関節,関節鏡,顕微鏡,そしてCTやMRIの開発と良好な医療経済環境が関係しているものと考えられる.

論述

癌骨転移に対するパミドロネート療法―骨痛改善効果および画像所見の検討

著者: 小山内俊久 ,   朝比奈一三 ,   大利昌宏

ページ範囲:P.243 - P.249

 抄録:癌骨転移と診断した16例に,骨痛緩和および骨病変改善を目的にパミドロン酸二ナトリウムを投与し,骨痛改善効果および単純X線写真の変化を検討した.対象は男性10例(肺癌3,前立腺癌2,大腸癌2,肝癌1,腎癌1,胃癌1),女性6例(乳癌5,胆管癌1)で年齢は45~67歳(平均57.6歳)であった.経過観察期間は3~22カ月(平均9カ月),投与回数は2~22回(平均10回),総投与量は90~930mg(平均401mg)であり,副作用による投与中止例は無かった.16例中8例(50%)に骨痛改善効果を認め,7例(43.8%)に単純X線写真上骨硬化像が出現した.溶骨性変化が進行する場合は骨痛改善効果は一時的なものにとどまり,硬化像を呈するようになった場合は,効果が持続し生活の質の改善につながった.パミドロン酸二ナトリウムは,癌骨転移症例に対する補助療法として有効と思われた.

足関節X線の外果透亮像に関する検討―Avulsive cortical irregularityに関して

著者: 宮城哲 ,   石井朝夫 ,   宮川俊平 ,   林浩一郎

ページ範囲:P.251 - P.255

 抄録:1991年4月から1995年3月までの当大学保健管理センター受診時の足関節X線写真を対象として,外果透亮像の発現頻度・形態的特徴および,スポーツ活動との関連を検討した.スポーツ群は体育学部学生で238関節,平均年齢19.7歳,非スポーツ群はそれ以外の学生で214関節,平均年齢20.1歳であった.透亮像を認めた症例は,スポーツ群10(男性7,女性3)関節(4.2%),非スポーツ群5(男性1,女性4)関節(2.3%)で,両群間にχ2検定による有意差はなかった.発現部位は前後像で腓骨の骨幹端部に内側から中央にかけて,足関節裂隙の近位約1cmに存在し,周囲に硬化像を伴っていた.側面像は腓骨前面に皮質骨の欠損・不鮮明化を呈した.臨床症状はほとんど認めなかった.本透亮像はX線形態学的に大腿骨遠位内側皮質に発症するavulsive cortical irregularity(ACI)と多くの類似点を有し,前𦙾腓靱帯からの牽引によるACIであると考えた.

大腿骨頭壊死症に対するEndoprosthesisの成績と臨床的問題点―Bipolar型人工骨頭と人工股関節とを比較して

著者: 飯田哲 ,   篠原寛休 ,   藤塚光慶 ,   矢島敏晴 ,   丹野隆明 ,   品田良之 ,   早川徹

ページ範囲:P.257 - P.265

 抄録:術後1年6カ月以上経過観察可能であった大腿骨頭壊死症25例33関節を対象に,Bipolar型人工骨頭置換術(Bipolar群)と人工股関節全置換術(THA群)の術後成績を比較し,成績不良因子を検討した.最終調査時の日整会股関節症判定基準が80点以上を成績良好例とすると,THA群では86%が成績良好例であったのに対して,Bipolar群では42%であった.項目別では,疼痛と可動域の点数がBipolar群で有意に低かった.両群に共通した成績不良因子はosteolysisに起因した骨折やlooseningであった.Bipolar群のみに認められた成績不良因子は股関節周囲の特異な疼痛(33%)と骨頭のCentral migration(8%)であった.人工骨頭の摺動面にあたる臼蓋軟骨の変性が,術前より存在していたり,また術後に新たに生じることにより,股関節周囲の疼痛やcentral migrationが出現しうると考えられる.大腿骨頭壊死症に対してBipolar型人工骨頭置換術を施行する場合は,central migrationや股関節周囲の疼痛が生じる可能性を念頭に置く必要がある.

骨付き膝蓋腱を用いた前十字靱帯再建術後の関節鏡所見と臨床評価―2年以上の経過症例について

著者: 岩井誠 ,   杉本和也 ,   森本守 ,   三馬正幸 ,   藤沢義之

ページ範囲:P.267 - P.272

 抄録:骨付き膝蓋腱を使って前十字靱帯再建術を行ったスポーツ選手88症例(89膝)について,術後1年目における抜釘時の再建靱帯の再鏡視像と徒手検査の結果を検討した.さらに,術後2年以上の経過症例において,臨床成績を評価しスポーツへの復帰を追跡調査した.1年目の鏡視所見は靱帯の緊張良好なものが67膝(75%),前方引き出しによって緊張の確認できるものが20膝(24%),不良が1膝(1%),断裂が1膝であった.徒手検査において,Lachman testは陽性16膝(17%)(end pointなし3膝),軽度陽性24膝(26%),陰性49膝(55%)となった.pivot shift testは3膝(3%)陽性であり成績不良となったが,90%以上が良好な制動性を示した.術後2年目のLysholm scoreは平均89点であった.88人中81人は自分の望むスポーツに復帰できていた.14人は全国レベルの選手であり,12人が受傷前の状態に復帰していた.

腰部脊柱管狭窄症に対する後方除圧術―広範な椎間関節切除が臨床成績に与える影響について

著者: 向井克容 ,   藤原桂樹 ,   浅野雅敏

ページ範囲:P.273 - P.279

 抄録:腰部脊柱管狭窄症に対して広範な椎間関節切除を行った後方除圧術の術後成績について調査するとともに,広範な椎間関節切除が術後腰痛の残存,新たな発現の危険因子となるか検討するため非固定症例と固定術併用例との臨床症状の比較も行った.症例は非固定群46例,PLF群16例である.非固定群の術前後の臨床症状(JOA score),X線像変化について検討し,さらに非固定群とPLF群の臨床症状を,特に腰痛について検討した.非固定群のJOA scoreは,術前6.1点から術後12.2点(改善率69.4%)に改善した.非固定群のうち,術後にすべり等のX線異常所見の出現,増強を認めたのは26%であるが,X線変化と臨床成績との間に相関はなく,固定術の追加を要した症例はなかった.また,非固定群とPLF群とで腰痛点数に有意差はなく,広範な椎間関節切除が術後腰痛発生に与える影響は少ないと思われた.

腫瘍用人工関節置換術後に生じた重篤な合併症の処置

著者: 村田博昭 ,   楠崎克之 ,   中村紳一郎 ,   平田正純 ,   橋口津 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.281 - P.285

 抄録:腫瘍用人工関節置換術後に比較的重篤な合併症を生じた17例について,処置法とその治療成績を検討した.深部感染は8例(うち遅発感染4例)に生じ,1例は切断術を行った.残りの7例は局所洗浄あるいは抗生剤入りセメントビーズとスペーサーを用いることで患肢温存が可能であった.再発を生じた2例は切断を余儀なくされた.股関節脱臼は関節包外に切除した後,全人工股関節置換を行った3例で脱臼を生じたが,保存療法で軽快した.人工関節の弛み,破損は全例インプラントの再置換が可能であり,長期生存が見込める患者にはセメント固定は避けた方がよいと考えた.

手術手技 私のくふう

胸椎椎間板ヘルニアに対するヘルニア摘出術―とくに顕微鏡下後方ヘルニア摘出術について

著者: 大石芳彰 ,   馬場逸志 ,   住田忠幸 ,   真鍋英喜 ,   村上健

ページ範囲:P.287 - P.293

 抄録:胸椎椎間板ヘルニアの手術的治療は前方法を選択するのが一般的であり安全性も高いと考えられている.一方,後方からの椎間板ヘルニア摘出術は神経損傷の危険性が高いといわれているが,後療法の簡略化や呼吸器合併症の回避などの利点が挙げられる.当科では顕微鏡下に後方から,症例によっては経硬膜的に脊髄および神経根を確認しヘルニアを摘出する手術法により良好な成績を得ている.後方からのヘルニア摘出に際しては,術前に病態をよく把握し,適切な手術方法を行い不用意な操作を避けること,術者および助手が顕微鏡下手術に習熟することが必要と思われる.

シリーズ 関節鏡視下手術―最近の進歩

関節鏡視下腱板修復術の経験―その有用性と問題点について

著者: 菅谷啓之 ,   石毛徳之 ,   藤田耕司 ,   森石丈二

ページ範囲:P.295 - P.300

 抄録:鏡視下腱板修復術は三角筋などの周囲健常組織に対する侵襲が少なく,術後早期の理学療法が行えるなど有用であるが,手技的に煩雑であることや,アンカーの固定性・縫合の確実性など問題も多い.本稿では,当院にて施行した手術例25例の術式の紹介と短期手術成績を報告すると同時に,本法の有用性と問題点につき考察した.

整形外科英語ア・ラ・カルト・86

整形外科分野で使われる用語・その48

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.304 - P.305

●rod(ゥロッド)
 これは竿のことであり,整形外科分野では通常,髄内釘を指す.例えば,ラッシュピンを“Rush pin”や“Rush rod”という.

ついである記・44

Birmingham, Alabama―キング牧師の故郷

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.306 - P.307

●人種差別
 繁栄を続ける現在のアメリカ社会において,理由はともかく,現実に存在する大きな社会悪が2つある.それは市民の銃保持と人種差別である.このいずれについても,アメリカでは長い反対運動の歴史があるが,問題解決への道のりは未だなお遠いように思われる.特に後者については,約130年前のリンカーン大統領の奴隷解放宣言以来,幾つかの法律改正が行われ,現在ではアメリカ国民は法的にはすべて平等の権利を与えられているが,実生活においては黒人やヒスパニック,アジア人に対する白人による人種差別や,小民族間相互の差別行為は今も存在している.時には,それがヘイトクライムと呼ばれるネオナチによる白人至上主義や,黒人によるブラック・パワーと呼ばれる過激な運動となって顕在化する場合もある.
 一般的に言って,黒人やヒスパニックの占める人口比の大きいアメリカ南部において,昔から人種差別上の問題が多かった.私が初めてアメリカへ留学したのは1962年で,公民権法が施行される以前であった.私はその年にアメリカ南部の町Shreveportへ旅をしたことがある.驚いたことに,その町のホテルのトイレは,当時,白人用と黒人用とに厳然と区別されていた.私は当然のことと思って白人用へ入ったところ,中にいた白人達がびっくりしたような目差しで私を見詰めて近寄ってきた.

専門分野/この1年の進歩

日本肩関節学会―この1年の進歩

著者: 小川清久

ページ範囲:P.308 - P.310

 肩関節専門学会として世界で最も古い歴史を有する日本肩関節学会の第26回学術集会は,1999年11月18,19日の両日に埼玉県大宮市のソニックシティで開催された.例年の開催期間より遅れた理由は,8月末に第6回スカンジナビア・日本肩関節学会,10月末に第3回アジア肩関節学会がそれぞれ開催されたためである.国内の学会は勿論のこと,国際的な同一専門学会との期日調整が必要になったことは,それだけ学問分野の輪が広がったことを意味しており喜ばしい限りである.
 本年の学術集会の骨格形成にあたっては,極力じっくり討論を行える時間を設けることを方針とした.充分な討論こそが,研究の独善性を抑制するとともに普遍性を付与し,かつ論文の質を高めることを可能にするばかりでなく,さらなる研究への手がかりを得るという学術集会本来の最重要機能を実現する方途と信じているからである.しかし,このために教育研修口演などを著しく制限せざるを得ず,必ずしも肩関節外科専門医ばかりではない来場者には御迷惑であったかもしれない.

日本小児整形外科学会―この1年の進歩

著者: 石井良章

ページ範囲:P.312 - P.314

 過去一年間を振り返って小児整形外科領域の臨床では格段に進歩した診断法,治療法は見当たらない.しかし,研究面では学会,研究会の場を通じて疾病の成因解明へのアプローチなどが徐々に示されていることは興味深い.1999年の日本小児整形外科学会は11月25日(木),26日(金)の2日間,すみだリバーサイドホール(東京)を中心に3会場で行われた.本学会は少子化に伴う症例数の減少,疾病構成の変化,魅力的な研究プロジェクトや学会活性化の問題を抱えており,若手医師の関心は低く,近年沈滞,低落傾向が顕著であった.1999年の学会は第10回という節目を迎えて,今後学問的にはどのような方向を目指し,活性化への工夫は如何にすべきかを示す岐路に立つ重要な場と位置づけられた.そこで,学問的には主題と講演の中からいくつかを選び,学会活性化に関しては国際化を目指す方向について紹介する.
 主題の中からは骨端線損傷を取り上げた.講演の中では,加藤幸夫氏,山田正夫氏,Merv Letts教授の教育研修講演を取り上げた.また,国際化への第一歩としてアジアを中心に参加した若手医師によるEnglish sessionについても触れる.

整形外科/知ってるつもり

Superior facet syndrome

著者: 大谷晃司 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.316 - P.318

【定義と歴史】
 Superior facet syndromeとは,脊柱管の外側陥凹で上関節突起内側縁により神経根が絞扼され,神経根症状が惹起される病態をいう.歴史的には,Epstein JAが坐骨神経痛を呈した15例の報告をし,手術所見からこの呼称を使用したのが最初である4).彼は,その中で,superior facet syndromeの特徴を以下のように述べている.
 1)片側または両側の強い下肢痛を有する.腰痛を伴うこともある.
 2)Laségue徴候が陽性である.
 3)神経脱落所見を呈する症例は少なく,あっても軽い.
 4)脊髄造影での異常所見は乏しい.
 5)手術所見では,椎間板ヘルニアはなく,黄色靱帯切除と上関節突起の内側縁の切除で神経根が緩むのが確認される(図1-A,B).

臨床経験

バレーボール中に生じた骨折を伴わない足関節脱臼の1例

著者: 濱口裕之 ,   斎藤令馬 ,   藤田伸弥 ,   山添勝一 ,   野口昌彦 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.321 - P.324

 抄録:稀な外傷である骨折を伴わない足関節脱臼の1例を経験したので報告する.症例は35歳女性で,バレーボール中に左足関節底屈位で着地した際に受傷した.単純X線像では距骨は後内側に脱臼していたが骨折は認めなかった.徒手整復後に前距腓靱帯および関節包を縫合し,6週間の短下肢ギプス固定を行い,3カ月後から全荷重を許可した.本脱臼は内側型,外側型,前方型,後方型およびこれらの複合型に分類され,このうち内側型が最も多いとされる.治療法としては距骨の脱臼を整復し可及的に断裂した靱帯や関節包を縫合する.6~8週間ギプス固定し2~3週間の免荷の後,可及的に全荷重を許可するとの報告が多い.本脱臼の長期成績は一般的に良好であるが後𦙾骨動脈損傷や広範な軟部組織の損傷を合併した症例では予後不良となる可能性がある.本例では受傷後1年の現在,軽度の足関節外側不安定性を認めるが,日常生活上での愁訴はなく,日整会足部疾患治療成績判定基準では100点で経過良好である.

胸椎に発生した二次性動脈瘤様骨嚢腫像を伴う骨芽細胞腫の1例

著者: 本荘憲昭 ,   諌山照刀 ,   浅川康司 ,   内藤正俊

ページ範囲:P.325 - P.329

 抄録:われわれは脊椎に発生した二次性動脈瘤様骨嚢腫を伴う骨芽細胞腫の1例を経験した.症例は49歳男性で,第11胸椎右椎弓部原発の骨腫瘍である.腫瘍は右椎弓から椎弓根部にかけて存在し,骨化を伴う充実性腫瘍と連続した嚢腫が脊髄を圧迫していた.骨芽細胞腫に伴う二次性動脈瘤様骨嚢腫の術前診断のもとに椎弓部を含めた腫瘍の一塊切除術および後方固定術を施行した.骨芽細胞腫はときに二次的に動脈瘤様骨嚢腫像を伴い,術前診断が困難な場合があるが,画像を詳細に検討すれば診断可能である.

腰椎黄色靱帯に発生した腫瘤(肉芽組織)の1例

著者: 佐々木知行 ,   戸館克彦 ,   秋元博之

ページ範囲:P.331 - P.335

 抄録:腰椎黄色靱帯に肉芽組織で形成された腫瘤が生じた1例を経験した.症例は55歳,男性.腰痛および歩行時の右下肢痛を主訴に当科を受診した.MRIおよび脊髄造影で右L3/4高位で硬膜を後方から圧迫する腫瘤を認めた.画像所見から脱出ヘルニア,ガングリオン,嚢腫,血腫を疑い手術を行った.術中黄色靱帯内面に赤褐色を呈した表面平滑な充実性の腫瘤を認めた.病理組織所見は,腫瘤は黄色靱帯の内部に存在し上皮化は認めず内部は変性の著しい結合組織に置換され,一部壊死を認める肉芽組織であった.術後症状は消失し経過良好である.黄色靱帯に発生した腫瘍は,血腫,滑膜嚢腫,ガングリオン,肉芽組織の嚢腫などの報告が過去に数例あるがその頻度は少なく,肉芽組織で形成された腫瘤の国内報告例は確認できなかった.文献上,椎間関節の変性を伴うことが多く,その発生機序にストレスや微小外傷の関与が示唆されている.

先天性拘縮性くも指症の1例

著者: 友田良太 ,   西山正紀 ,   二井英二 ,   浜口謙蔵

ページ範囲:P.337 - P.340

 抄録:先天性拘縮性くも指症は,くも指,多発性関節拘縮,耳介変形,脊柱変形等を主徴とし,常染色体優性遺伝を示す症候群である.本症の1例(1家系)を経験したので報告する.症例は生後3カ月の男児である.両内転足,四肢関節拘縮を主訴に当科紹介となった.耳介変形を認め,手指はやや細長く,指,膝,股関節の拘縮を認めた.metacarpal indexは6.0と高値を示した.足趾もやや細長く,前足部の内転変形を認めた.また,母親にも同様な耳介変形,細長い手指を認め,metacarpal indexは9.3と高値であった.母方家系内に同様な症状をもつものの多発を認めた.先天性拘縮性くも指症は比較的予後が良く,Marfan症候群との鑑別が重要である.しかし,関節拘縮の残存,合併奇形,進行する脊柱変形に対し手術をした報告もあり,慎重な経過観察を要する.

McCune Albright syndromeに伴うShepherd's crook deformityの1治療例

著者: 大日方嘉行 ,   土谷一晃 ,   上野悟 ,   井形聡 ,   勝呂徹

ページ範囲:P.341 - P.344

 抄録:McCune Albright syndromeに合併したShepherd's crook deformityに対する1手術例を報告する.症例は10歳,男児.3歳時にMcCune Albright Syndromeと診断され,5歳時に左大腿骨骨折をきたし近医でギプス固定を受けた.その後,徐々に大腿骨近位部の内反変形が増強し,1997(平成9)年8月精査加療目的にて当科に入院した.身長149.5cm,体重60.0kgで,ライオン様顔貌を呈し,甲状腺機能亢進症などがみられた.左大腿の内反変形と短縮,股関節の可動域制限がみられ,単純X線所見では大腿骨全般にすりガラス様陰影を認め,近位部で約90°の内反変形がみられた.変形の頂点で約80°の矯正骨切り後,髄内釘固定を施行した.約4カ月後に骨切り部の骨癒合後に大腿骨頚部に健側腓骨を骨釘移植した.術後1年7カ月の現在,変形は矯正され全荷重歩行中であるが,患側下肢に約6cmの短縮がみられている.今後変形の再発や脚長差への対策が必要で,慎重に経過観察する予定である.

結核性膿瘍により胸郭出口症候群をきたした1例

著者: 松永大吾 ,   清水富永 ,   五明広樹 ,   吉村康夫 ,   赤羽努 ,   堤本高宏 ,   中上幸男 ,   高岡邦夫

ページ範囲:P.345 - P.348

 抄録:結核性膿瘍により胸郭出口症候群をきたした1例を経験した.症例は50歳女性,カナダ人.結核の既往はない.1998年3月,特に誘因なく右上肢痛と右頚部のコリ感が出現.同年4月,当科初診した.所見上,右鎖骨上窩にウズラの卵大の柔らかい腫瘤を触知し,右手の握力低下を認めた.Wrightテスト,Roosテストとも患側陽性であった.MRI像では,腫瘤により腕神経叢が背側,下方に圧排されていた.同年7月,切開生検を行った.術中,黄白色の膿状の液体が流出した.培養陰性,PCRでも好酸菌のゲノムは検出されなかったが,病理診断で炎症性疾患が疑われた.同年8月11日,病巣掻爬術を行った.病理組織所見では類上皮性肉芽腫の形成を認め,培養およびPCRで結核菌が検出された.術後6カ月間化学療法を行い,現在局所の腫瘤はなく症状も消失している.

大腿骨骨折術後化膿性骨髄炎に対する抗生剤混入骨セメント髄内釘による治療経験

著者: 稲田充 ,   今泉司 ,   上村万治 ,   山田邦雄 ,   高田直也 ,   金嘉朗 ,   谷川智康 ,   門司貴文 ,   高橋育太郎

ページ範囲:P.349 - P.351

 抄録:大腿骨骨折手術後の骨髄炎の治療は,保存的治療が無効な場合には病巣掻爬術や洗浄などの手術法が選択され,掻爬後は局所の抗生剤投与もしくは死腔充填術が行われている.病巣内の異物である内固定材は抜去することが一般的である.しかし,骨髄炎を鎮静化するには局所の安静は重要な要素であり,骨癒合が得られていない場合,創外固定や牽引などの他の固定法が必要となる.そこで,われわれは,抗生剤混入骨セメントを髄内釘に付着させた髄内釘を考案し,大腿骨骨折の術後骨髄炎をきたした症例3例に対して1997年より使用し良好な結果を得た.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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