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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科35巻6号

2000年05月発行

雑誌目次

視座

医師としての人間味

著者: 内藤正俊

ページ範囲:P.593 - P.593

 昨年11月,幼稚園入試に端を発した幼児殺害事件が報道された.この痛ましい事件を,受験戦争も極まれりと多くの人が感じたと思う.“お受験戦争”に関連して医師の立場から,感じたことを述べてみたい.
 私は昭和45年に大学に進学し,医師となって22年経過した.振り返ってみると,大量の情報の消化・吸収,手術手技の修練,診療と症例の記録・整理・成績評価・締め切りなどに追い回されてきた日々である.医師になるには一定以上の受験戦争を乗り越える能力がないととても務まらない職業であることを実感している.しかし,私の時も医学部入学は難関ではあったが,今ではこの難関突破のため知育偏重の教育があまりに幼い子供時代に始まり,学業成績,偏差値が過大評価され過ぎていると感じている.多感であるべき時代が失われ,“お受験”のために社会性や人間性など大切なものが犠牲にされてきているのが現状であると思う.

論述

後弯位頚髄症に対する脊柱管拡大術の適応

著者: 小西宏昭 ,   原真一郎 ,   山口和博 ,   高須賀良一

ページ範囲:P.595 - P.600

 抄録:術前より頚椎側面中間位のX線像で後弯を呈する頚髄症に対して,棘突起縦割式脊柱管拡大術を行い,術後のX線像および臨床症状の推移を前弯位頚髄症と比較検討した.脊柱管拡大術後の頚椎可動域は37.5%減少し,頚椎後弯は術前に10°以上の症例で5°以上進行し,10°未満の症例では進行の程度は軽度であった.10°以上の後弯と不安定性が共に見られた症例で改善率が劣っていたが,多くの症例で臨床的改善がみられ,後弯が10°未満の症例の改善率は63.8%と,前弯位の頚髄症手術例の治療成績に劣るものではなかった.その理由は,高齢者の対象が多く,椎間板変性が高度で,頚椎が後弯位を呈していても,脊髄は前後から圧迫されている症例が多いことと,術後の可動域制限が頚椎の安定化に寄与しているためと推察した.従って,10°未満の後弯位頚髄症に対して脊柱管拡大術は,十分な治療効果が期待できると結論した.

腰部交感神経節,交通枝および脊髄神経に関する肉眼解剖学的検討

著者: 村田泰章 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   高橋弦 ,   嶋田裕 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.601 - P.605

 抄録:腰椎部交感神経節の位置,そして交感神経節と脊髄神経の交通枝によるつながりを肉眼解剖学的に調べた.30体の固定遺体標本を用いて133個の交感神経節と421本の交通枝の位置を記録した.1つの交感神経節からの交通枝は1カ所ないし2カ所の脊髄神経に交通すると記載されていることが多いが,今回の調査では3カ所の脊髄神経に交通する交感神経節が多数存在した.また,L1脊髄神経に連絡する交通枝は他のレベルの腰部脊髄神経に連絡する交通枝より有意に長く,L5脊髄神経に連絡する交通枝は他のレベルの腰部脊髄神経に連絡する交通枝より有意に短かった.

片開き式脊柱管拡大術後の髄節性麻痺の検討

著者: 千葉一裕 ,   渡辺雅彦 ,   丸岩博文 ,   松本守雄 ,   藤村祥一 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.607 - P.612

 抄録:片開き式脊柱管拡大術後のC5髄節を中心とした運動麻痺の病態,原因解明に寄与する知見を得るため,同麻痺を生じた13例(発生率7.1%)の臨床症状,改善率,MRIを含めた画像所見などを解析した.その結果,術後数日経過後,蝶番側に発症する例が多い,術前症状としていわゆる索路症状より指先を中心とした上肢の強いシビレの訴えが前景に出ている,頚椎弯曲とは無関係に発症する,臨床症状に比しMRI上の脊髄圧迫所見が強い,術後索路症状の改善に比し上肢知覚障害の改善が劣る,術後T2強調MR像で髄内高輝度領域を認める,などの事実が観察された.また,この高輝度領域が1椎体範囲内に限局している症例の予後は良好であった.こうした本研究の分析結果は,髄節性麻痺発症には従来から言われている神経根の機械的損傷や牽引のみならず,血行障害を含めた何らかの中心灰白質障害が関与している可能性を示唆するものと考えられた.

初診時に肺転移を生じていない四肢発生骨肉腫症例の治療成績

著者: 村田博昭 ,   楠崎克之 ,   中村紳一郎 ,   橋口津 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.613 - P.615

 抄録:初診時に肺転移を生じていない四肢発生骨肉腫35例について,手術法による生存率の違いと術前化学療法の効果の有無による生存率の違いを比較検討した.切断術を施行した群(11例)と広範囲切除術を施行した後患肢再建術を行った群(24例)の10年累積生存率は66.7%と65.3%であり,両群間に有意差はなかった.術前化学療法の効果については,切除標本の組織学的壊死率が90%以上の群(9例)と90%未満の群(26例)の10年累積生存率は100%と54.5%であり,両群間に統計学的有意差を認めた.遠隔転移を生じた14例のうち13例が肺転移であり,うち10例は死亡した.遠隔転移は組織学的壊死率が90%以上の群の9例中2例(22.2%)に認め,90%未満の群では26例中12例(46.2%)に認め,化学療法の効果があった群の遠隔転移率は低かった.これらの結果から,薬剤感受性が骨肉腫の重要な予後因子であり,有効な薬剤を選択することが重要である.

終末期に在宅医療が行われたがん患者に対するがんの告知の実際と在宅医療の現状

著者: 石井猛 ,   舘崎慎一郎 ,   佐藤哲造 ,   米本司 ,   猪俣桜子

ページ範囲:P.617 - P.622

 抄録:当院で1995年1月より1998年1月までに死亡した72例中,在宅医療を行った14例(19%)を検討対象とした.男性12人,女性2人,年齢は23~73歳,平均54歳で,病名は癌9人,軟部肉腫3人,悪性黒色腫2人であった.がんの病名告知は全例に,終末期である旨の告知は13例に,具体的な余命告知は1人にのみ行われた.5例は訪問看護が,9例に訪問看護および整形外科医師による往診が行われた.訪問看護数は1~16回まで平均6回,往診数は1~5回であった.在宅療養期間は5~356日,平均65日であった.終末期在宅医療においては介護する家族への精神的支援が重要であった.がんの告知,終末期である旨の告知により,終末期に在宅医療を希望する患者は少なくなく,このような患者の終末期在宅医療が可能となるよう,訪問看護,往診,24時間体制,公的介護の充実などの体制を整えることが必要である.

手術手技 私のくふう

胸腔鏡視下脊椎インストルメント手術―正確で安全な手術のための工夫

著者: 上村幹男 ,   木下哲也 ,   伊東秀博 ,   湯沢洋平 ,   高橋淳 ,   高岡邦夫

ページ範囲:P.623 - P.628

 抄録:胸腔鏡視下のインストルメント手術に関して画像による手術計画と手術の工夫を中心に報告する.1996年以来われわれが行った胸腔鏡視下手術は14例であり,インストルメントを使用した症例は5例であった.胸椎脱臼骨折2例,胸椎圧迫骨折偽関節1例,胸椎腫瘍1例,胸椎椎間板ヘルニア1例に対してCD 2例,TSRH 1例,Z-plate 1例,Ray Threaded Fusion Cage 1例を行った.
 手術の工夫:(1)X線,CTから手術計画を作成し,ポート位置の決定;①胸部単純正面X線像から刺入肋間を決定する.②マーカーを設置したCTから横断面でのポートの位置とスクリューの刺入点を決定する.(2)小開胸を追加する.(3)術中にX線,イメージを使用してスクリューの方向を確認する.

シリーズ 関節鏡視下手術―最近の進歩

鏡視下肩関節授動術

著者: 井手淳二 ,   山鹿眞紀夫 ,   高木克公

ページ範囲:P.629 - P.633

 抄録:難治性肩関節拘縮の治療において好成績を得るためには,関節可動域の獲得とその維持が重要である.43例に鏡視下肩関節授動術と術後のCPMを併用した早期可動域訓練を施行した結果,術後平均4週で肩関節可動域・JOA scoreに有意な改善を認め,術後平均12週でADLに支障がなくなった.術後追跡期間平均64カ月で9割の症例に好成績が維持されていた.自然治癒するとされる特発性肩関節拘縮(五十肩)においても,その治療期間を短縮できるものと考えられた.鏡視下肩関節授動術は,保存的治療に抵抗する難治性肩関節拘縮の治療の第一選択として推奨できる有用な方法である.

整形外科philosophy

整形外科医が稀有な急性発症型椎間板ヘルニアに罹患した闘病記

著者: 田畑四郎

ページ範囲:P.637 - P.644

はじめに
 一整形外科医としての筆者は昨年,稀有な急性発症型椎間板ヘルニアに罹患した.この治療経験は患者の目,整形外科医の目,病院管理者の目など色々な角度から眺めて医学・医療の不確実性や患者満足度について考えさせられた.筆者の経験と考察が,若い読者の皆様の今後の整形外科臨床に少しでも寄与するものがあれば幸いである.

整形外科/知ってるつもり

Perineurial window

著者: 高山真一郎

ページ範囲:P.646 - P.648

 Perineurial windowとは,末梢神経の神経周膜の部分的損傷により,その窓が開いたような欠損部から神経線維が瘤状に膨隆した状態を表す.1975年,Spencer4)により命名され,末梢神経の研究者の間では部分的脱髄(segmental demyelination)の実験モデルとして知られているが,これまで臨床で報告されることがなかったこともあり,整形外科医にとってはなじみの薄い用語である.1993年,筆者ら9)は軽微な外傷後の持続する疼痛がperineurial barrierに由来する例があることを報告し,以後perineurial windowに関する基礎的研究を行ってきた.本稿ではperineurial windowの解説と,基礎的研究と臨床例との関連について述べてみたい.

最新基礎科学/知っておきたい

オステオプロテジェリン(Osteoprotegerin)

著者: 藤川陽祐

ページ範囲:P.650 - P.651

 骨組織は,吸収と形成が繰り返し行われている動的組織である.骨組織の吸収と形成はリモデリングと呼ばれ,このリモデリングを通して骨組織は一生涯留まることなく作り替えられている.最近の研究で,生体内で唯一骨組織を吸収できる破骨細胞が,骨形成を司る骨芽細胞により,その分化・活性化が調節されていることが明らかとなった.Osteoprotegerin(OPG)は,これら破骨細胞の分化・活性化のメカニズムを分子レベルで解明する手がかりとなった新規のタンパク質である.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・41

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.652 - P.656

症例:6歳11カ月,女児
 主訴:左下肢のO脚変形
 家族歴:特記すべきことなし.

整形外科英語ア・ラ・カルト・87

整形外科分野で使われる用語・その49

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.658 - P.659

●外国語の発音について
 本欄の第84回で述べた言葉の発音の中で,フランス語に造詣が深く,そして尊敬する私の先輩から,3つの発音の違いを指摘されたので此処に外国語の発音について述べたい.
 米国には色々な国の人たちが住んでいるので,色々な発音法がある.この表題は「整形外科英語ア・ラ・カルト」であるので,英語,とくに米国で発音されている方法を書くが,英語以外の外国語の場合には,その言葉の源の国の言葉も取り入れた発音もあり,通常2通りの発音があることが多い.

ついである記・45

冬のユングフラウ

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.660 - P.662

●阪神・淡路大震災の日
 1995年1月17日は阪神・淡路にマグニチュード7.2の大地震が襲った日である.京都でも私の自宅の周辺では屋根瓦が落ちたり,石燈篭が倒れるほどの強い揺れがあった.丁度その日,私はスイスのインターラーケンで開催されるSummits of Orthopaedic Technologyに出席するため,朝の飛行機便で関西国際空港からチューリッヒへ向けて出発する予定になっていたが,震災のため空港が閉鎖され出発することができなかった.しかし,翌朝には空港の業務は再開され,そこへ行く列車「はるか」も平常通り運行されたので,私はこの地震による災害の大きさを殆んど知らぬままに,1日遅れで関西国際空港を発った.この学会では,私は第1日目の朝に特別講演をすることになっていたが,飛行機が予定通り着けば講演の前日の夜遅くにはインターラーケンに到着できそうだった.
 私の乗った飛行機は関空を発つと間もなく反転して,丁度,神戸市の上空を北上した.乗客は神戸の被害の状況を知ろうとして,皆が窓に鼻をすりつけるようにして下界を見ていた.高度はすでに2,000m以上に達していたものと思われ,神戸の街の破壊状態はよく判らなかったが,4カ所から煙が上っているのが俯瞰された.この時点で,上空からヘリコプターを使ってこの4つの火元を消火すれば大火災になることを防止することができるだろうと誰もが考え,機中で話し合った.

臨床経験

四肢麻痺,呼吸停止から著明な回復を示した上位頚髄損傷の1例―全身低体温療法の治療経験

著者: 姫野良 ,   高橋忍 ,   秋山泰高 ,   永田裕一

ページ範囲:P.665 - P.669

 抄録:症例は19歳,男性.自動車事故にて受傷し,事故発生数分後では,意識レベルJCS300,呼吸停止,脈拍触知せず,瞳孔散大の状態であった.直ちに心肺蘇生処置を受け,約2分後に自発呼吸が出現し,当院に搬送された.来院時,意識レベルJCS200で,四肢随意運動は見られなかった.単純X線写真にて軸椎歯突起骨折を認めた.頭部CTにて特に異常所見はなかったが,意識障害の原因として頭部病変が疑われたため,直ちに鎮静下に全身低体温療法を開始し,以後5日間施行した.MRIでは,T2強調画像にて骨折部高位の上位頚髄髄内に辺縁不明瞭な高輝度領域がみられた.骨折部の不安定性に対し,受傷14日目,螺子による骨接合術を施行した.以後,意識レベル,四肢運動,知覚とも徐々に回復し,受傷5週後立位可能となり,11週後独歩にて退院した.病態および低体温療法の意義につき考察を加えた.

脊髄内に空洞が確認された頚椎症性筋萎縮症の1例

著者: 藤原桂樹 ,   澁谷亮一 ,   浅野雅敏 ,   野口義文

ページ範囲:P.671 - P.674

 抄録:頚椎症性筋萎縮症は知覚障害および錐体路症状を欠き,片側優位の上肢筋萎縮を主徴とする病態である.筋萎縮が神経根,灰白質いずれの障害に起因するのか未だ明確ではない.今回の報告例は60歳の男性で,左上肢の疼痛にて発症した.疼痛消失後に左上腕三頭筋の萎縮が発現,急速に進行した.左母指と示指のしびれ感はあるものの知覚障害,錐体路症状はなかった.MRIの矢状断像ではC6,C7髄節にT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を呈する線状の領域が認められた.横断像では,左側の灰白質前角に相当する部位が高信号を呈した.delayed CTMでは同部位に造影剤の貯留像がみられ,空洞形成が示唆された.頭蓋直達牽引にて筋力は回復したが,発症後3年の現在,筋萎縮の程度は変化していない.
 片側の筋萎縮を主徴とし,対応する髄節の灰白質前角部の患側のみに病巣が確認された初の報告例である.

イリザロフ法により4趾を同時に延長した両側第1,4中足骨短縮症の1例

著者: 桝田理

ページ範囲:P.675 - P.679

 抄録:両側第1,4趾の中足骨短縮症に対して,4趾を同時に骨延長し治療した.症例は15歳の女性で両足の変形を主訴としていた.延長器として8個の2/3 semicircular ring(径40mm)を2つずつ使用し,骨片の固定には第1中足骨では3mm,第4中足骨では2mmのハーフピン2本ずつをそれぞれが約60°の角度をもって開くように刺入した.近位骨幹端部で経皮的骨切りを行い,末節骨から中足骨内にK-wireを刺入したのち,7日間の延長待機期間をおき,1日0.5mmを2回に分割して骨延長を行った.右第4中足骨は早期骨癒合により再骨切りを必要としたが仮骨形成は右第4中足骨を除いて良好であり,患者は結果に満足している.また,治療期間中患者は全荷重可能であった.中足骨の固定ピンの径や間隔,刺入角度を自由に選べ,確実に固定できる本法は中足骨短縮症の治療に有効であり,この報告は両側同時に4趾を延長した最初の報告である.

胞巣状軟部肉腫の特徴的臨床像

著者: 久保忠彦 ,   杉田孝 ,   石田治 ,   下瀬省二 ,   市川誠 ,   新田泰章 ,   生田義和

ページ範囲:P.681 - P.684

 抄録:比較的稀な悪性軟部腫瘍である胞巣状軟部肉腫は,一般的に化学療法や放射線療法の無効例が多く,手術治療が第一選択となる.広範囲切除を行えば局所再発はほとんどないが,遠隔転移は高頻度にみられる予後不良な腫瘍である.今回,われわれは3例の胞巣状軟部肉腫を経験したので報告する.症例1は大腿四頭筋内発生例で追加広範囲切除と術後化学療法を行い,術後15年9カ月の現在,CDFである.症例2は薄筋内発生例で広範囲切除および機能再建を行い,術後6年5カ月の現在,CDFである.症例3は腓骨筋内発生例で広範囲切除を行ったが,術後1年で多発性肺転移を認めたので胸腔鏡下切除を行った.しかし,一部は切除不能であり,術後2年4カ月の現在,AWDである.MRI検査を施行した症例2,3とも,腫瘍はT1,T2強調像でともに高輝度を呈し,鑑別診断に有用であった.一般に,本腫瘍の転移率は高く,遅発性に生じる症例も多いため,長期にわたる慎重な経過観察を行う必要がある.

仙骨に発生した骨腫の1例

著者: 神谷宣広 ,   田中千晶 ,   四方實彦 ,   中嶋安彬

ページ範囲:P.685 - P.688

 抄録:44歳の女性で左仙腸関節痛を主訴として来院し,単純X線像で左仙腸関節近傍の仙骨に骨硬化性の腫瘤を認めた.自発痛に対しNSAIDが効果的であり,当初,類骨骨腫を最も疑った.鑑別診断として,骨腫,硬化性骨髄炎,骨軟骨腫,内骨腫,硬化性腸骨骨炎,傍骨性骨肉腫などが考えられた.左仙腸関節痛に対して,左仙腸関節近傍の仙骨腫瘍切除と仙腸関節固定術を行った.病理組織学診断でnidusを認めず類骨骨腫は否定され骨腫と診断された.仙腸関節固定には腸骨稜からの骨移植とpedicle screw systemを用いた内固定を行った.術後5年経過した現在,良好な結果を得ている.

Salmonella Chesterによる急性化膿性股関節炎の1例

著者: 島岡宏行 ,   阪本達也 ,   上松耕太 ,   森田健一 ,   桝田義英 ,   大川元美 ,   下山弘展 ,   河原信吾

ページ範囲:P.689 - P.691

 抄録:われわれは極めて稀と思われるサルモネラによる化膿性関節炎を経験したので報告する.症例は4歳の女性で,右股関節痛と発熱を主訴として来院した.初診時,体温は40℃,右股関節屈曲位をとり,伸展にて強い股関節痛を訴えた.単純X線像では右股関節裂隙の開大,MRIでは右股関節に水腫の貯溜を認めた.細菌培養により便,血液,関節液のいずれからもサルモネラ菌を検出した.血清型はSalmonella Chesterであった.抗生物質の投与と関節洗浄により炎症症状は急速に消退し自発痛も消失した.
 サルモネラ菌による食中毒が急増しているが,その血清型の国際化,多様化が認められる.一般に,関節炎を伴ったサルモネラ症は比較的少ない.また,septic arthritisは必ずしも胃腸症状を呈さず発症することから看過されている可能性がある.そこで,胃腸症状の有無にかかわらず関節炎の診断に際し,サルモネラ関節炎を考慮する必要がある.

35年経過したアクリル樹脂製人工骨頭の1例

著者: 安村建介 ,   菅野吉一 ,   杉本一郎 ,   反町毅 ,   野原裕

ページ範囲:P.693 - P.696

 抄録:アクリル樹脂製人工骨頭はJudet兄弟により考案され,本邦でも1952年からアクリル樹脂を用いた人工骨頭が開発された.今回,術後35年経過した慈大式アクリル樹脂製人工骨頭を抜去する機会を得たので報告する.症例は67歳,男性,靴職人.32歳時,左大腿骨頚部内側骨折のため慈大式アクリル樹脂製人工骨頭置換術を他院にて行われた.67歳時に左股関節痛による歩行障害のため人工股関節再置換術を当院で行った.人工骨頭頚部に作製された10個の小孔に骨が侵入し,人工骨頭は大腿骨と強固に固定されていた.骨頭は上方から外側にかけて著明に摩耗していた.人工骨頭内の金属支柱は変色し腐食していた.滑膜の病理組織では泡沫細胞の著明な増殖像を示した.本症例が長期間温存された要因は,日常生活の低い活動性,寛骨臼の関節軟骨と軟骨下骨の温存,人工骨頭と寛骨臼の適合,人工骨頭の強固な固定,アクリル樹脂の組織適合性が考えられた.

全身性炎症性変化を呈しIL-6,IL-1αの高値を認めた多形型悪性線維性組織球腫の2例

著者: 住田秀介 ,   佐藤啓二 ,   加藤真 ,   横井太紀雄 ,   原一夫

ページ範囲:P.697 - P.701

 抄録:熱発,C-reactive protein(CRP)の高値,白血球数の増多等の全身性炎症性変化を呈し,手術により腫瘍を切除した直後にそれらの正常化を来したpleomorphic typeの悪性線維性組織球腫(MFH)の2例(症例1:63歳男性,右大腿部,症例2:54歳男性,左殿部)を経験した.この2例について,腫瘍組織の凍結生標本より炎症性サイトカインの定量を行ったところ,2例ともinterleukin-6(IL-6)とinterleukin-1α(IL-1α)の著しい高値を認めた.病理組織学的に炎症性細胞浸潤が著明なinflammatory type MFHでは全身性炎症性変化を呈することは報告されている.しかし,pleomorphic type MFHでは極めて稀であり,炎症性細胞浸潤を伴わなくとも,腫瘍自体が炎症性サイトカインを分泌し,全身的な炎症性変化を呈したと考えられる極めて稀な2例を経験したので報告する.

サッカー選手におけるpainful os intermetatarseumの1例

著者: 野口昌彦 ,   岩田圭生 ,   三浦清司 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.703 - P.706

 抄録:今回われわれは,サッカー選手の第1,第2中足骨骨間基部における副骨によるスポーツ障害の1例を経験したので報告する.症例は34歳,男性で主訴は右足背部痛であった.患者は社会人チームに所属し週1回の練習を行っていた.約2年前から,特に誘因なくサッカー練習後に右足背の疼痛と腫脹を自覚するようになった.徐々に増悪し日常生活にも支障をきたしたため当院を受診した.初診時のX線像では,両第1,第2中足骨骨間基部に骨棘様の副骨を認め,右足は有痛性で保存療法に抵抗したため摘出術を行った.副骨は第1,第2中足骨骨間基部に存在し,深腓骨神経の直下に存在していた.第1,第2中足骨骨間基部に存在する副骨はOs intermetatarseumであり,日本人の約2.6%に存在すると言われている.しかし,この副骨による障害は非常に稀である.今回,サッカーが原因と考えられる有痛性のOs intermetatarseumを摘出し経過良好な1例を経験したので報告した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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