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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科35巻7号

2000年06月発行

雑誌目次

視座

患者との関係

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.713 - P.713

 患者の心を傷つけない医療教育「患者にとって心地よい接し方を学ぶ」という目的で模擬問診を講義の一環として取り上げる医学部も増えてきている.医学の知識が増えると,患者はどうしようもなくわがままで,頼りなく見えるときが医師には必ずある.しかし,医学知識以外に患者への接し方も患者とよいコミュニケーションを続けていく上で重要であるのは言うまでもない.
 長く臨床に携わっていると,どの医師も特定の検査や治療を希望する患者さんを経験している.私も以前勤めていた病院で,肩こりと頭痛を主訴とした一人の中年の患者に対して頚椎疾患と考えて症状を説明したところ,頭部のMRI検査を受けたいと言ってきた.頭部の病変からくる症状とは全く考えられず,MRI検査は全く役に立たないと説明したにもかかわらず,是非受けたいとのことであった.また,慢性関節リウマチの患者さんで,「自尿を飲む」尿療法がリウマチに良いと書いてあったので飲みたいが,その治療法を行ってよいのだろうかと聞いてきた方や,ある抗リウマチ薬を飲むと完全にリウマチが治ると聞いたので是非処方してほしいといった希望をされる患者さんもいる.

論述

骨粗鬆症を伴う胸腰椎椎体損傷に対する前方脊柱再建術の経験

著者: 本郷道生 ,   阿部栄二 ,   島田洋一 ,   佐藤光三 ,   片岡洋一 ,   菅野裕雄 ,   楊国隆

ページ範囲:P.715 - P.721

 抄録:骨粗鬆症を伴う胸腰椎椎体損傷の14例(男性5例,女性9例)に対し,生体活性型人工椎体とKaneda deviceを用いた前方脊柱再建術を行い,術後成績を検討した.経過観察期間は平均3年8カ月であった.手術時年齢は平均65.7歳で,損傷型は破裂骨折およびposttraumatic vertebral collapseがそれぞれ7例であった.損傷レベルは胸腰椎移行部に多く,神経麻痺はFrankelのC6例,D8例であった.術後,腰背部痛は全例で軽減または消失し,神経麻痺は全例で改善した.後弯の進行と人工椎体の移動を認めた1例を除き,13例で骨癒合が得られ,再建脊柱の安定性が維持されていた.引き続き長期の経過観察が必要ではあるが,現時点では本術式は有用であったと考える.

脊椎骨巨細胞腫―脊椎全摘術による切除標本の病理学的検討

著者: 村田淳 ,   藤田拓也 ,   川原範夫 ,   土屋弘行 ,   小林忠美 ,   吉田晃 ,   赤丸智之 ,   ,   上田善道 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.723 - P.728

 抄録:脊椎骨巨細胞腫(GCT)は極めて再発率の高い腫瘍である.当科ではsurgical classification of spinal tumor(SCST,富田)1)type4-5の椎骨内に大きく広がった脊椎GCT4例に対してtotal en bloc spondylectomy(TES)を施行した.この切除標本について病理学的な評価を行い,脊椎GCTに対する手術療法について検討した.
 病理標本(H-E染色)では,腫瘍は全例で椎体の骨皮質を貫通し,周囲のバリアである靱帯組織内へと進展していた.

脊髄硬膜内くも膜嚢腫のMRI像の検討

著者: 赤松利信 ,   永瀬譲史 ,   板橋孝 ,   国府田正雄 ,   高森尉之

ページ範囲:P.729 - P.735

 抄録:当院における脊髄硬膜内くも膜嚢腫の3手術例および6未手術例の計9例について,MRI所見を中心に検討した.9例中1例で,矢状断T1強調像で脊髄圧迫がみられ,同T2強調像でこの圧迫に対応する嚢腫部分が高輝度に描出された.他の8例では脊髄の形態変化は認められないものの,背側のくも膜下腔の拡大がみられ,T2強調像で同部に不整な低信号域を認めた.本疾患では,交通孔の大きさが,脊髄の圧迫変形の有無と嚢腫内の脳脊髄液の動きに深く関与しており,これがMRI T2強調像の所見の違いとなって現れると考えられるが,アーチファクトとの鑑別が常に問題となる.そのために,MRI撮像の際に,シネ撮像,心拍同期を追加する,エンコード方向を変えるといった工夫が必要である.

手術手技 私のくふう

FluoroscopyおよびCTガイド下による経皮的椎体形成術

著者: 小西均 ,   寺井祐司 ,   臼井正明 ,   渡邊唯志

ページ範囲:P.737 - P.743

 抄録:高度の骨粗鬆症に伴う脊椎圧迫骨折のうち椎体圧潰の進行し疼痛の持続する症例に対して,局所麻酔下に経皮的にpolymethylmethacrylate(PMMA)を注入し除痛と局所の安定をはかる治療を行ったので報告する.対象は明らかな外傷なく脊椎圧迫骨折を生じた8例(男性4例,女性4例)であり,術後経過期間は平均12カ月であった.fluoroscopyとCTを併用することにより安全かつ正確に骨セメントの注入が可能となる.成績は無効1例,有効7例であり,手術直後より著明な除痛効果が得られることが特徴である,局所の痛みは再発を認めていない.X線上も椎体の圧潰の進行はなく骨セメントのゆるみも認めていない.手術侵襲は小さく除痛効果も優れていることから,進行性で痛みの強い脊椎椎体圧潰例に対して考慮すべき治療法と考える.

RAの手指尺側偏位に対する中手骨短縮骨切り術

著者: 政田和洋 ,   橋本英雄 ,   吉中康高

ページ範囲:P.745 - P.749

 抄録:RAの手指尺側偏位に対する中手骨短縮骨切り術を紹介し,5人14指の短期成績を報告した.この方法はRAの外反母趾に対する第1中足骨の短縮骨切り術(Weil)を中手骨に応用したものであり,骨間筋の起始部より遠位で骨切りを行い,中手骨を5~7mm短縮することにより骨間筋の拘縮を除去しようとするものである.1例を除いてcrossed intrinsic transferを同時に行った.術後は全例に良好な骨癒合が得られ尺側偏位もよく矯正された.可動域は術前,屈曲が平均80°,伸展が平均-60°と著明に制限されていたが,術後は皮膚の部分壊死をきたした1例以外は屈曲が平均70°,伸展が平均-20°であり,屈曲の減少はあるものの伸展は大きく改善していた.本術式は,MP関節破壊を伴わない尺側偏位に対する優れた術式である.

選択的非連続的椎弓切除術(skip laminectomy)と椎弓間除圧術を用いた新術式の試み―頚椎選択的椎弓切除術

著者: 白石建

ページ範囲:P.751 - P.759

 抄録:[目的]頚椎症性脊髄症(CSM)に対する,選択的非連続的椎弓切除術(skip laminectomy)と椎弓間除圧術を用いた新しい後方除圧術,選択的椎弓切除術の手術手技を紹介し,その有用性を明らかにする.[対象]1998年12月以降,1999年10月までに後方除圧術が適応となった全てのCSM患者(16例)を対象とした.[結果]12例にCSMの他に頚椎後縦靱帯骨化,黄色靱帯骨化,あるいは骨性脊柱管狭窄が合併していた.術中出血量は平均38g,術後ソフトカラーによる外固定期間は平均4日であった.術後経過観察期間は平均9.5カ月で,項背部痛を訴える例は1例もなく,JOA scoreによる平均改善率は63.2%であった.術後に頚椎前弯度が減少した例は16例中1例であった.[結語]頚椎の骨性および筋性後方支持組織に対して低侵襲的な選択的椎弓切除術は,後療法が簡素化され,術後に項背部痛はなく,頚椎可動域制限,弯曲異常などをきたしにくい利点がある.

シリーズ 関節鏡視下手術―最近の進歩

鏡視下バンカート修復術―スーチャーアンカー法

著者: 井手淳二 ,   山鹿眞紀夫 ,   高木克公

ページ範囲:P.761 - P.766

 抄録:外傷性肩関節不安定症における前方関節上腕靱帯複合体損傷(バンカート病変)に対するスーチャーアンカーを用いた鏡視下修復術の適応・手術手技・成績を詳述した.手術適応は,明らかな外傷後に生じ,肩関節前方不安定性のみ有する症例で,上腕骨頭後外側陥没骨折と関節窩前縁骨欠損がないか,あっても小さく,前方関節上腕靱帯複合体が一塊として剥離しており,これを容易に整復できる症例である.本法は,trans-glenoid法で生じ得る肩甲上神経損傷の危険がなく,前方侵襲のみで行え,縫合糸が緩むことなく前方関節上腕靱帯複合体を強固に縫合固着できる点で優れている.本法は,前方関節上腕靱帯複合体の解剖学的バリエーションを念頭に置き,手術適応・手技を適切に行えば良好な結果が得られる.

最新基礎科学/知っておきたい

ケモカイン(Chemokine)

著者: 松野博明

ページ範囲:P.770 - P.773

 ケモカイン(chemokine)とは,白血球走化性(chemotactic)のあるサイトカイン(cytokine)の総称である.1992年,オーストリアで開催された国際走化性サイトカインシンポジウムでこの呼称がつけられてから世界的にも注目を集め,現在では代表的なものだけでも,IL-8(interleulin-8)・MIP-1(macrophage inflammatory protein-1)・MCP(monocyte chemoattractant protein)・RANTES(regulated upon activation,normal T-cell expressed and secreted)など約40種のケモカインが報告されるようになった.ケモカインの働きは,単球・リンパ球・好中球・好酸球・好塩基球・NK細胞は言うに及ばず,樹状細胞や血管内皮細胞にも及び,各種酵素の分泌・接着分子や血管新生の誘導・アポトーシスの抑制を介して疾患の病態形成の一役を担う.すなわち,ケモカインは,慢性関節リウマチ(RA)をはじめとする自己免疫疾患・腫瘍性疾患(増大や転移)・感染症(細菌性・ウイルス性)の発症に関連するサイトカインと考えられる12)

境界領域/知っておきたい

ティッシュエキスパンダー

著者: 一瀬正治

ページ範囲:P.774 - P.776

 Tissue expander法は,皮下にExpanderを挿入し,再建に必要な最の皮膚を伸展させて利用する方法である.この臨床は,1982年にRadovanが乳房再建に用いた報告9)をして以来,再建外科の有効な手段として急速に広まってきた.しかし,この方法は遥か昔の1905年に,Codivilla4)が骨延長法の試みに付随した事項として,軟部組織の伸展についてもすでに報告していた.また,Neumann7)も,1957年に外傷性耳介部分欠損の再建に際して,組織拡張を目的としてゴム性のバルーンを皮下に埋め込み,それなりの結果を得たとの報告をしていたが,何故かその手技が広まることはなかった.1976年に,Radovanがシリコン製バッグに生理食塩水を注人するTissue expansion法を乳房再建やその他多くの再建に応用し,その有用性を報告して以来,多くの反響があった.1976~1978年には基礎的,臨床的な研究報告2,3)が相次ぎ,Tissue expansion法が安全で効果的な新しい技法として広く受け入れられることとなった.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・42

著者: 藤哲

ページ範囲:P.777 - P.780

症例:11歳,男児(図1)
 主訴:右肘痛
 現病歴:3年前より野球(サード)を行っていた.6カ月前より誘因なく右肘痛が出現し,前医で野球肘の診断を受け安静を指示されたが,野球を続けていた.右肘後面の痛みが頻回となり来院した.

整形外科英語ア・ラ・カルト・88

整形外科分野で使われる用語・その50

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.782 - P.783

●scale(スケィル)
 体重を計るヘルスメーターを“scale”という.日本でも血液透析センターや“ICU”において寝たまま体重を計ることができるベッドを“scale bed”という.体重を計る動詞形も“scale”という.患者の体重を計るときは通常“to check one's body weight”や“tocheck how much one weights”などと言っている.

ついである記・46

慶州(Kyongiu)―韓国の人々との交友

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.784 - P.786

 ソウル・オリンピックの頃までは,韓国は日本人にとって近くて遠い国であった.それは第二次世界大戦終了までの50~60年間に日本が朝鮮に対して行った強引な植民地化政策に対する彼等の報復としての反日政策があったからであるが,多くの日本人もまた自らの後ろめたさの故にか韓国の人達と積極的に交友を深めようとしなかったことにもよる.私自身は幸いなことに国際整形災害外科学会(SICOT)を通して韓国の整形外科医と早くから交流があった.

臨床経験

両側距骨体部矢状面骨折にTillaux骨折を合併した1例

著者: 武田光宏 ,   堂前洋一郎 ,   渡部和敏 ,   渡部憲一 ,   松葉敦

ページ範囲:P.789 - P.792

 抄録:われわれは両側同時に,しかもTillaux骨折を合併した極めて稀な距骨体部矢状面骨折の1例を経験したので報告する.症例は31歳男性で,5mほどの高さから斜めに傾斜したコンクリートの地面に足関節を背屈強制される姿勢で着地,受傷した.受診時X線で両側とも距骨体部骨折にTillaux骨折を合併していた.手術は内側皮切にて,𦙾骨内果を骨切りし,さらに前外側皮切を加え,両方向より距骨関節面を展開,整復した後,吸収性螺子で側方から圧迫固定した.Tillaux骨折に対しては,前外側進入路より展開,整復し,金属螺子で固定した.術後2年6ヵ月の現在,やや背屈制限は残っているが,X線上骨壊死を示す所見はなく術後経過良好である.本症例の発症機序は足関節の過背屈,外旋位での軸圧により,まずTillaux骨折が生じ,その後,𦙾骨下端の骨折線が楔として,距骨の構造的,力学的弱点にまで剪断応力が及び,矢状面骨折が発症したものと推測した.

鎖骨遠位端骨折の保存療法の経験

著者: 佐藤公昭 ,   田中憲治 ,   荒木博之 ,   草場幸枝 ,   渡邉琢也 ,   白濱正博

ページ範囲:P.793 - P.796

 抄録:Neer分類type Ⅱの鎖骨遠位端骨折新鮮例に対して保存療法を行った症例を検討したので報告する.症例は5例で,平均年齢70歳,平均経過観察期間は10ヵ月であった.受傷機転は全例交通事故で,合併損傷や本人の希望もあり観血的な初期治療を選択できなかった症例である.治療法は鎖骨バンドと三角布による外固定を行い,疼痛が軽減した時点である程度の肩関節の動きは許可した.固定期間は平均5週間で,以後積極的に可動域および筋力訓練を行った.最終診察時,5例中3例は無症状であった.残りの2例も軽度の運動時痛あるいは肩関節の軽度の可動域制限を認める程度で日常生活に支障はなかった.経過観察中骨癒合が得られたのは1例のみであったが,臨床的には比較的満足できる結果であった.

関節窩形成術を行った陳旧性肩関節後方脱臼骨折の1例

著者: 船山敦 ,   小川清久 ,   浪花豊寿 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.797 - P.800

 抄録:関節窩後縁に大きな骨欠損を伴った陳旧性肩関節後方脱臼骨折に対し,関節窩形成術を施行した1例を報告する.症例は68歳女性で,自宅で転倒し受傷した.近医で脱臼を見逃され,受傷後6カ月目に当科を受診した.右上腕骨頭は後方に脱臼し,上腕骨頭前内側に約30%の骨欠損と関節窩後縁の大きな骨欠損を認めた.骨頭欠損部に肩甲下筋を含めた小結節を移行するMcLaughlin変法と,関節窩骨欠損に腸骨から骨移植術を行った.術後,骨頭に軽度の変形が見られたが,除痛と肩関節可動域の改善が得られた.われわれが渉猟し得た範囲では,関節窩の大きな骨欠損を伴った後方脱臼骨折の報告例はなく、確立された治療法もない.前方脱臼においては,関節窩の1/5~1/4の骨欠損は肩関節の不安定性をきたすと報告されており,後方脱臼においても大きな骨欠損に対しては骨移植による関節窩形成術を行うべきであろう.

原発性化膿性腸腰筋炎の2例

著者: 山田裕三 ,   河井秀夫

ページ範囲:P.801 - P.805

 抄録:化膿性腸腰筋炎は1881年に初めてMynterらが2例報告している.以降,数々の報告例を認めるが,抗生物質が普及した現在,希な疾患となりつつある.今回,典型的な症状を呈した2症例を経験したので診断方法,治療方針および最近の傾向について若干の文献を加えて報告する.
 発熱,鼠径部痛を主訴とする2症例を経験した.診断には臨床症状,血液所見,画像所見を併せて行った.

原因不明な大腿部筋肉内血腫の2症例

著者: 松久孝行 ,   山下博樹 ,   吉川浩二 ,   森雄二郎

ページ範囲:P.807 - P.811

 抄録:スポーツ選手に発生した,原因が明らかでない大腿部筋肉内血腫の2症例を経験したので報告する.症例1:24歳,男性.大工.スポーツ;空手.1998年2月,入浴後より急に左大腿部の腫張,疼痛が出現.症例2:14歳,男性.中学生.スポーツ;サッカー.1998年2月,特に誘因なく右大腿部外側の腫張,疼痛が出現.2症例ともに,大腿外側に腫張を認めるも,単純X線像,血液検査では異常所見は認めなかった.MRIではT1で辺縁がhighで,内部はlow intensityを呈する境界明瞭な占拠性病変を認めた.T2では腫瘤は境界不明瞭であり,辺縁はhigh,内部はlow~淡いhigh intensityを呈しており,周囲の筋層には浮腫を示唆するhigh intensity areaを認めた.両症例ともにMRIの経時的変化により占拠性病変は血腫と診断し,安静加療のみで症状は軽快した.2症例ともに,文献的にも極めて稀な症例で,これまでほとんど報告されていない.

術前に診断し得なかった腰部硬膜外海綿状血管腫の1例

著者: 北原淳 ,   安川幸廣 ,   秋月章 ,   瀧澤勉 ,   小林博一

ページ範囲:P.813 - P.815

 抄録:脊椎椎体から発生した血管腫についての報告は多いが,血管腫が硬膜外に発生したという報告は少ない.われわれは腰部硬膜外に発生した海綿状血管腫の1例を経験したので報告する.症例は53歳の女性で,立位,歩行時の右下肢のしびれを主訴に来院した.MRI,脊髄造影などより腰部脊柱管狭窄症の診断で手術を行ったが,狭窄の原因は硬膜外の海綿状血管腫であった.運動などで硬膜外静脈叢の内圧が上昇し腫瘍内に出血や塞栓などが生じることで腫瘍体積が増加し,症状が発現すると考えられる.MRIや脊髄造影などの画像所見から本症と診断するのは容易ではないが,比較的若年者で腰部脊柱管様の症状を呈し,発症が急性の場合には本症のような腫瘍病変の存在も考慮すべきである.

肩SLAP病変の鏡視下手術の成績

著者: 長野真久 ,   小谷博信 ,   上尾豊二

ページ範囲:P.817 - P.820

 抄録:近年,肩関節鏡の技術的進歩により,肩関節内の病変を直接観察し鏡視下に処置を加えることが可能になった.SLAP病変は外傷やスポーツ活動によって起こり,その診断と治療には肩関節鏡が不可欠である.
 1998年度に玉造厚生年金病院で経験したSLAP病変は5肩であった.全員男性で,平均22歳,野球によるものが3肩,柔道によるものが1肩であった.Snyder分類1型のSLAP病変が2例,2型が2例,7型が1例であった.1型,7型に対して肩関節鏡視下デブリードマン,2型に対してはFASTakを用いて鏡視下縫合術を行った.JOA scoreは術前平均82点が術後3カ月には95点に改善した.SLAP病変に対する鏡視下手術は有効であった.

MRIで追跡しえた腰椎麻酔後発症の脊髄梗塞の1例

著者: 陣内雅史 ,   鎌田修博 ,   笹崎義弘 ,   牧田聡夫 ,   芦田利男 ,   木内準之助

ページ範囲:P.821 - P.824

 抄録:今回,われわれは腰椎麻酔後に完全対麻痺として発症し,MRIで経過を追跡できた脊髄梗塞の1例を経験したので報告する.症例は64歳の女性で,腰椎麻酔と硬膜外麻酔の併用にて腹式子宮全摘術が施行され,その後に完全対麻痺(Frankel A)を呈した.MRIにて脊髄梗塞と診断し,保存的治療を行った.麻痺は徐々に回復し,5カ月後には下肢の筋力は完全に回復した.MRIの経時的変化では,初診時みられたTh9~Th12高位のT1およびT2強調画像での脊髄腫脹像は,発症8カ月で消失し,またT2強調画像でのびまん性の高輝度領域もほとんど消失した.腰椎麻酔後の対麻痺の原因として,麻酔操作による出血性疾患のみでなく,脊髄梗塞も念頭に置くべきである.診断には,MRIが有用であり,本症例では保存的治療が有効であった.

大腿四頭筋腱皮下断裂の1例

著者: 田中雅博 ,   保田拓史 ,   松山明彦 ,   櫨原由雄 ,   松浦良光 ,   盛修二郎 ,   保田龍男

ページ範囲:P.825 - P.827

 抄録:膝伸展機構損傷の中でも比較的稀とされている大腿四頭筋腱皮下断裂の1例を経験した.症例は48歳男性である.歩行中,右足が滑り,転倒しないよう右下肢で踏ん張ろうとしたが,そのまま後方へ転倒し,直後より右膝疼痛出現し、膝自動伸展不能、歩行困難となった.単純X線像では骨傷はなく,Insall-Salvati法で0.78と膝蓋骨低位を認めた.膝関節前方からの超音波長軸走査にて膝蓋骨近位部に無エコー域を認めた.MRIでは,大腿四頭筋腱内にT1強調画像高信号,T2強調画像高信号を示す領域を認めた.右大腿四頭筋腱皮下断裂と診断し,受傷後7日目に冨士川らの方法に準じて手術を施行した.術後2週間で可動域訓練を開始し,術後6カ月を経過した現在,可動域制限は認めず,extension lagも認めない.

書評

―高倉義典・山本晴康・木下光雄 編―足部診療ハンドブック フリーアクセス

著者: 豊島良太

ページ範囲:P.769 - P.769

 霊長類が二足歩行を獲得した進化の過程で,四肢関節の形態は機能的要請に応じて変化してきた.そして,足部は大地との柔軟な接触ができる形態に,足関節は大きな荷重を支持できる安定した形に変わってきた.したがって,足部や足関節の傷害はいかに軽症であっても歩行障害という重大な機能障害をもたらすものである.それにもかかわらず、本邦においては,足の疾患は患者さんのみならず医師からも若干軽視されてきたきらいがある.「足掻き(あがき)」,「足を洗う」,「足切り」,「足軽」,「足蹴」など「足」の語感に由来するものであろうか,それとも靴の歴史が浅いためであろうか.いずれにしても,今日スポーツ人口の増加や外観のみにとらわれた多様な履物の出現に伴い,足部・足関節の傷害は増加の傾向にある.こうした状況の下に,「足部診療ハンドブック」が刊行されたことは誠に時宜を得たもので,喜ばしい限りである.
 さて,内容であるが,本書は高倉義典(奈良県立医科大学助教授),山本晴康(愛媛大学教授),木下光雄(大阪医科大学助教授)の足のエキスパート3氏による編集で,現在日本足の外科学会で活躍中の58人の諸氏により分担執筆されている.構成は,「総論」,「小児・思春期編」・「成人編」の3章からなり,本文415頁に図表520点が呈示されている.

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あとがき フリーアクセス

著者: 清水克時

ページ範囲:P.832 - P.832

 今月号の視座では,群馬大学・高岸憲二教授が医師と患者のより良い関係について持論を展開しておられます.医学の知識が増え,ちまたにあふれたことが医師と患者の関係を従来と全く違ったかたちにしているようです.これは,ひとり医療,医学に限ったことではありません.
 最近新しく文庫本になった梅棹忠夫氏の「情報の文明学」(中公文庫)を読みました.あらゆる社会で情報が過剰供給になると,これまでの歴史にはなかった新しい時代が生まれてくることが,すでに1963年に予見されています.人類の産業の歴史を三つに要約し,農業の時代,工業の時代,そして第三段階が精神産業あるいは情報産業の時代です.第三段階では,たとえば食事についても腹が減ったから食事をするという段階ではもはやなく,「なにか食べたい」というのは,食欲を満足させるだけの欲求からすすんで,味覚という感覚の充足をも欲しいという時代がくることだそうです.アルビン・トフラーが1980年に「第三の波」で述べたのもこれと同じような考えです.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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