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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科35巻9号

2000年08月発行

雑誌目次

巻頭言

第15回日本整形外科学会基礎学術集会を開催するにあたって

著者: 平澤泰介

ページ範囲:P.952 - P.953

 本年,9月28日,29日に第15回日本整形外科学会基礎学術集会を京都で開催させていただきます.西暦2000年は20世紀を締めくくり,新たな千年紀へと羽ばたく年であり,また,今後10年間続くThe Bone and Joint Decadeの始まりの年でもあります.この節目の年に第15回日本整形外科学会基礎学術集会を開催させていただくことは,誠に光栄で意義深いものがあります.本学術集会では,「21世紀に向かう整形外科基礎科学」をメインテーマとさせていただき,来るべき21世紀に,整形外科学が医療の現場で重責を十分に果たし,健全な発展を遂げるための学問的なback groundsを築き,新たな世紀へと羽ばたく礎石となるような基礎学術集会にして参りたいと考えております.
 高齢化・少子化がすすみ,quality of lifeという言葉に代表される質の問われる時代になってきました.また,国の財政も逼迫している状況で,医療のcostをいかに下げるかということが現実の問題となってきました.さらには,臓器移植,遺伝子解析や治療などの新しい技術が急速に発達してきています.このような急激な医療環境の変化に対して,医療現場での役割がますます大きくなっている整形外科医は腰を据えて対峙する必要があると考えます.

論述

無症候性頚椎・頚髄病変

著者: 飯田秀夫 ,   橘滋国 ,   國井正剛 ,   菅信一 ,   三富哲郎 ,   藤井清孝

ページ範囲:P.955 - P.960

 抄録:脊髄神経症状がごく軽症であり,MRI画像において脊髄の圧迫が軽度ある場合,MR画像上の異常を責任病巣とし,手術するかどうか治療法の選択に苦慮することがしばしばある.このため今回,脊髄症状のない正常者における頚椎・頚髄病変(無症候性頚椎症)がMRI上どれぐらい存在するかを明らかにすることを目的とした.対象は,本院脳ドック検診において頚髄MRIを希望した検診者211人(男性111人,女性100人)全員神経症状のない受診者である.MRIはResona Vector Version 0.5T(Version 3.0)を使用,頚椎をsagittal sliceにてT1,T2強調画像を撮像し,異常の有無を調べ,異常がある場合,脊髄の圧迫程度を,T1,T2強調画像における圧迫部での髄液の高信号の有無によって,none,mild,severeの3型に分類した.また,T1,T2強調画像における脊髄内の輝度変化異常の有無を調べた.さらに,211人中147人の検診者に対して頚椎動態撮影を同時に行った.結果は,頚椎MRI上,211人中166人(79%)に何らかの異常が認められた.頚椎異常は,頚椎椎間板ヘルニア,骨棘形成であった.C5-6脊椎高位にて好発していた.脊髄圧迫の程度は,なし:126例,軽度圧迫:61例,高度圧迫:24例であった.

膝前十字靱帯再建後の可動域回復に健側膝関節laxityと性別が与える影響

著者: 富谷真人 ,   冨士川恭輔 ,   小林龍生 ,   笹崎義弘 ,   青木義広 ,   村上英彰 ,   田中修

ページ範囲:P.961 - P.964

 抄録:陳旧性前十字靱帯単独損傷に対して,同一再建材料による同一術式,同一後療法が行われた47例を対象に,健側膝のlaxityの程度と性差が術後可動域回復の早さに与える影響について検討した.膝関節laxityの評価はKT-2000を用い,𦙾骨顆部前方引き出し力133Nから後方押し込み力89Nを加えた際の大腿骨に対する𦙾骨の前後方向変位量の総和total displacement(以下TD)を求め,健側TDの平均を境に2群に分けIKL大・小群とした(IKL:inherent knee laxity).その結果,性差は関節全可動域回復週数に影響せず,IKLが大きいと有意に回復週数が短いことが明らかとなった(p=0.02).また,関節全可動域回復時の術側TDはIKL大・小群間および男女間に有意差を認めず,IKLが大きい場合,再建靱帯が弛緩することなく術後より早期に関節全可動域が獲得された.

輸血拒否患者(エホバの証人)に対する脊椎手術の経験

著者: 細江英夫 ,   清水克時 ,   坂口康道 ,   西本博文 ,   野々村諭香 ,   森敦幸

ページ範囲:P.965 - P.971

 抄録:エホバの証人の信者は輸血を拒否するため,大量出血の起こりうる手術的治療は著しく制限される.また,脊椎手術においては予期せぬ急性大量出血の際,輸血の回避と救命を優先するがために脊髄への圧迫止血や不安定性が残ったまま閉創するなど神経麻痺の可能性も生じる.
 体位,手術方法に関する十分な検討,熟練した手術手技などが出血量を減少させるのに重要である.一期的手術で可能か段階的手術にすべきかを決め,また許容出血量を算出し,それを超える場合には手術を中止することなどを説明しておく,麻酔医を交えた周術期における輸血,輸液等に関する綿密な打ち合わせを行い,インフォームド・コンセントを得ておく必要がある.2例の小児患者を含む5例の信者に対して,回路をつないだままの術前希釈式自己血輸血,術中回収式自己血輸血,低血圧麻酔,段階的手術などを駆使し,彼らの信仰を遵守しながら脊椎手術を行うことができた.

頚椎症性筋萎縮症の病態の検討―画像所見と神経学的所見の対比による病態の分類

著者: 浅野雅敏 ,   藤原桂樹 ,   野口義文 ,   河井秀夫

ページ範囲:P.973 - P.978

 抄録:頚椎症性筋萎縮症の病態を分析するため,24例(近位型12例,遠位型12例)を検討した.CT-myelographyでの前方からの圧迫に着目し,障害部位を以下の3タイプに分類した.近位型で圧迫陽性椎間がC3/4高位であれば前角型,C4/5,C5/6であれば前根型,遠位型で圧迫陽性椎間がC4/5,C5/6であれば前角型,C6/7,C7/Th1であれば前根型であると予測し,圧迫椎間が複数で前角型と前根型にわたる場合は中間型とした.前根型は発症から診断までの期間が短く,疼痛を伴う例が多い傾向にあり,中間型から前角型へと発症から診断までの期間は長くなり,疼痛を伴う頻度も減少し,下肢腱反射亢進例の割合が増加する傾向があった.また,前角型と中間型は脊髄の除圧にて手術成績は良好であり,前根型では不良であった.以上より,われわれの障害部位のタイプ分類は概ね妥当であると考えられ,さらに中間型の障害部位は脊髄(前角)が主であると推測した.

高分化型脂肪肉腫の初回手術時における切除縁の検討

著者: 佐々木宏介 ,   横山庫一郎 ,   古賀正一郎 ,   高比良知也 ,   芳賀敏

ページ範囲:P.979 - P.982

 抄録:1986年から1999年までに手術した高分化型脂肪肉腫11例の切除縁と術後の局所再発について検討した.切除縁評価は,wide margin 1例,intralesional margin 1例,marginal margin 9例であった.intraiesionalの1例とmarginalの2例で局所再発をきたした.高分化型脂肪肉腫は,脱分化型以外は遠隔転移せず生命予後は良好である.また,生検を行ってもlipoblastが認められなければ確定診断は得られず,他の良性脂肪性腫瘍との鑑別では臨床的な判断を要求される.臨床的に強く高分化型脂肪肉腫を疑っても,初回手術時には腫瘍と癒着している神経および血管は温存するが,他の腫瘍と癒着している組織については可及的にwide marginを確保する,という方針で良いのではないかと考えている.

手術手技 私のくふう

Kotz下肢再建システム使用時の股関節外転筋力温存の工夫

著者: 山本憲男 ,   土屋弘行 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.983 - P.987

 抄録:大腿骨の悪性骨腫瘍に対し,原発性,転移性を問わず中長期的予後が見込まれる場合には,Kotz下肢再建システムを用いた患肢温存術が行われることが多い.しかし,近位部の再建では,特に股関節外転筋の固定が大きな問題となることがあり,中殿筋の機能不全のため著明な跛行を呈す症例もある.そこでわれわれは,症例によっては中殿筋と外側広筋を骨膜下に大転子より一塊として剥離し,プロステーシスに固定している.現在までに6症例に対して施行したが,全例で局所再発は認めず良好な外転筋力を呈していた.本法は,短期の外転筋力を著しく向上させるというよりも,術後中長期間経過したときの股関節外転筋力維持のための意味合いが強いものだが,適用できる症例に対しては,外転筋力を維持できる有効な方法であると考えられる.

整形外科/知ってるつもり

膝関節回旋不安定性

著者: 松本秀男

ページ範囲:P.988 - P.990

 膝関節は股関節のようなball-and-socket型関節と異なり,骨形態そのものからは十分な関節安定性が得られず,関節周囲の軟部組織,特に靱帯が関節安定性の確保に大きな役割を演じている.従って,膝関節の靱帯が損傷されると,その種類や程度により様々な関節不安定性が惹起される.膝関節回旋不安定性とは,このような靱帯損傷によって生じる関節不安定性のうち,𦙾骨の回旋運動を伴う不安定性である.この回旋不安定性について,いくつかのタイプがあることが報告されてきたが2,3),その定義に様々な解釈が与えられたこともあり,病態については未だに多くの議論が存在するのが実状である.

最新基礎科学/知っておきたい

骨形成因子

著者: 川口浩 ,   中村耕三

ページ範囲:P.992 - P.993

 近年の骨粗鬆症を初めとする骨代謝研究の目覚ましい進歩の中で,骨折治癒や移植骨生着時の骨形成に関する研究も徐々に注目されはじめている.その理由として,第1に,骨誘導過程は組織レベルにおいても細胞レベルにおいても,発生,成長段階における一連の骨形成の過程を再現している現象であるため,骨形成のモデルとして有用である,ということが挙げられる.第2の理由は,分子生物学の技術進歩によって成長因子,サイトカインの組み換え標品の臨床応用を目指した研究が,特に整形外科領域から注目され始めたことである.これは,今まで自家骨移植以外に決定的な治療法のなかった骨折遷延治癒や偽関節,さらには骨欠損部充填に対する新しい治療法を目指した研究である.

整形外科英語ア・ラ・カルト・90

整形外科分野で使われる用語・その52

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.994 - P.995

●simple fracture(スィンプル・フラクチァ)
 これは単純骨折のことである.“simple”の発音は“スィンプル”であり,“シンプル”ではない!
 骨折“fracture”は,“break”(ブレイク・壊す)を意味するラテン語の“frangere”(フランゲーレ)にその語源を有する.“frangere”の過去分詞形“fractus”から,“fracture”や“fraction”(フラクション・断片),“fragile”(フラジャイル・壊れ易い),“fragment”(フラグメント・破片),そして“frail”(フレイル・もろい)などの言葉が派生している.“frail”は“flail chest”の“flail”(連枷-カラザオ)と混同しないように!

ついである記・48

Oswestry―Robert Jones & Agnes Hunt整形外科病院

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.996 - P.997

 日本と英国との間には150年近い交流の歴史がある.その間に,日本の近代化や民主化は英国から学んだところが多く,また,夏目漱石をはじめとして極めて多くの日本人が英国へ留学した.その上,英語が国際的な共通語となった今日では,知ろうとさえ思えば英国に関することは何でも知ることができる筈である.それにも拘らず,私は北ウェールズの小さな田舎町であるOswestryに住んでみて,自分が英国の社会の複雑さについて余りにも無知であったことを思い知らされた.1976年から1977年にかけてのことであった.

臨床経験

反対側に症状を呈した馬尾腫瘍の1例

著者: 松本彰生 ,   松原伸明 ,   日野高睦 ,   西川哲夫 ,   冨田佳孝 ,   照喜納光信 ,   原田俊彦 ,   井口哲弘

ページ範囲:P.1001 - P.1004

 抄録:腫瘍と反対側に症状を呈した馬尾腫瘍の1症例を経験した.症例は61歳の男性で,腰痛および左下肢痛を認め,腰椎の伸展で左下肢への放散痛が生じた.神経学的には両側ATRの低下,左S1以下の知覚鈍麻を認めた.画像上,L5椎体高位で腫瘍により馬尾は背側に圧排され,S1椎体高位において硬膜管は左背側に圧排されていた.手術所見では右S1神経根から発生したEden type Ⅰの砂時計腫を認め,腫瘍を右S1神経根および巻き込んだもう1本の馬尾とともに摘出した.術後右S1・2領域のしびれが出現したが,左側の症状は消失した.本症例における症状発現の機序について,左側の症状はL5椎体高位での硬膜内腫瘍による圧迫,およびS1椎体高位でのS1神経根の圧迫により出現し,右側の症状が発現しなかったのはS1椎体高位で腫瘍は右側の椎体を侵食しながら発育したため,右側の馬尾に加わる緊張が少なかったためと考えられた.

小児に発症した骨関節結核

著者: 小林大介 ,   薩摩真一 ,   熊谷宏 ,   鷲見正敏

ページ範囲:P.1005 - P.1010

 抄録:小児に発症した骨関節結核の5例を経験した.初診時年齢は1歳5カ月~3歳3カ月であり,男児3例,女児2例であった.結核の確定診断には全例に病巣掻爬を行い,病理組織学的あるいは細菌学的に結核病変であることを確認した.発症部位は長管骨3例,距骨1例,肋骨,脊椎の2カ所が1例であった.長管骨発症例では,全例において病変は骨幹端に存在し,成長軟骨帯を貫通して骨端にまで炎症が波及していた.ツベルクリン反応は3例が強陽性であった.血液検査所見では3例に軽度の炎症反応が認められた.胸部単純X線像で異常が認められた症例はなかった.結核菌培養は全例陰性であった.PCRは3例に施行し3例とも陽性であった.いずれの症例も発症から確定診断まで時間を要しており,慢性の骨関節疾患に対しては常に結核性疾患を念頭に置く必要があると考えられた.

末節骨腱停止部の裂離骨折を伴った深指屈筋腱皮下断裂の2症例

著者: 杉木正 ,   佐藤和毅 ,   山中芳 ,   中澤秀夫 ,   山下裕 ,   西本政司 ,   池田崇 ,   関敦仁

ページ範囲:P.1011 - P.1015

 抄録:稀な外傷である末節骨腱停止部の裂離骨折を伴った深指屈筋腱皮下断裂(Leddy分類Type Ⅲ)の2症例を経験したので報告する.2症例ともにDIP関節面を含んだ大きな裂離骨片を伴い,A4 pulleyに引っかかり停止していた.治療は引抜き鋼線法により腱実質を骨片とともに末節骨基部に固定するのが一般的であるが,骨片の大きさ,形状によって治療法が選択される.われわれは1例に3-0ナイロン糸を用いた引抜き縫合法を,他の1例にflexion blockを応用した鋼線刺入法により退縮した腱とともに転位した骨片を整復固定した.前者は骨片の固定力に不安があるものの,骨片が小さく脆弱でも腱実質を縫着でき,鋼線の抜去も不要であるという利点がある.後者は引抜き鋼線法に比べ骨折部に強固な圧着力を加えることが可能であり,手術手技も比較的容易である.DIP関節面に及ぶ比較的大きな裂離骨片が存在する場合に有用であると考える.

頚胸髄移行部に発生したdumbbell型神経鞘腫の治療経験

著者: 土田敏典 ,   赤崎外志也 ,   山城輝久 ,   原隆 ,   安竹秀俊

ページ範囲:P.1017 - P.1021

 抄録:第8頚髄神経根から発生したEden分類2型のdumbbell型神経鞘腫を経験した.症例は49歳,男性.20歳時より左環指・小指のしびれを自覚していた.胸部X線写真で左上縦隔に腫瘤陰影を,CT,MRI写真では,dumbbell型腫瘍による第7頚椎および第1胸椎での著明な骨破壊像を認め,血管造影写真では,左椎骨動脈,左鎖骨下動脈も圧排されていた.手術方法はまず後方から第6,7頚椎・第1胸椎椎弓を切除し脊柱管内の腫瘍の剥離を行い,次いで前方から胸骨縦割にて開胸し,第6椎体下縁から第1胸椎上縁まで椎体を亜全摘し,第8頚髄神経根を含め腫瘍を摘出した.術後は左第6,7頚髄神経領域の知覚異常,左第8頚髄神経領域の知覚低下,筋力低下を認めたが,筋力は徐々に回復しており,原職の表具師に復帰した.2年を経過した現在,再発を認めていない.病理組織学的には,紡錘型細胞がAntoni-A領域を呈し,増殖する神経鞘腫であった.

椎骨動脈の処置を要した頚椎骨芽細胞腫の1例

著者: 高橋忍 ,   琴浦良彦 ,   沢田眞治 ,   岩本十九二

ページ範囲:P.1023 - P.1026

 抄録:頚椎に発生し術中に椎骨動脈の処置を要した骨芽細胞腫を経験したので報告する.症例は27歳男性.頚部・左肩部の疼痛発症の約1年後にCTで第4頚椎椎弓根部の骨腫瘍が発見された.増大傾向を確認したため,開放生検で診断を確定したのち手術を行った.手術は前方より左椎骨動脈を展開・保護した上で,その後方周囲を包囲する腫瘍を掻爬し腸骨骨移植を行った.椎骨動脈を温存し,かつ椎体間固定は行わずに,欠損部を再建することができた.術後,疼痛は速やかに消失し,一年後のCTで再発を認めていない.

慢性関節リウマチにおけるbipolar型人工骨頭置換術の術後成績について

著者: 影山康徳 ,   宮本繁仁 ,   小関孝夫 ,   日吉充 ,   鈴木基裕 ,   三浦智彦 ,   長野昭

ページ範囲:P.1027 - P.1029

 抄録:RA股関節に対する人工骨頭置換術は臼蓋側へのcupの移動の問題をかかえている.RAの股関節病変を有する症例(有病群)11例とRAの大腿骨頚部骨折症例(頚部骨折群)7例に対してbipolar型人工骨頭置換術を行い,5年以上経過観察し,術後成績を検討した.X線評価はcupの骨盤内内方転位の指標として,Köhler線とcupとの距離(KC値)を,上方転位の指標として,涙痕間を結んだ直線にcupの最上端からの垂線の距離(TC値)を用いた.有病群は日整会股関節機能判定基準において術後改善を示したが,術後3年で悪化傾向を示した.また,術後1年目より経時的にcupの内方転位(KC値の増加)と上方転位(TC値の増加)を示した.頚部骨折群は日整会股関節機能判定基準,KC値,TC値ともに術後5年間は有意な変動を示さず,bipolar型人工骨頭置換術は頚部骨折群において有用な手術と考えられた.

小児に発生した母指MP関節背側脱臼の2例

著者: 岩本淳 ,   橋本靖 ,   大野修 ,   小村孝 ,   芝昌彦 ,   前野耕一郎

ページ範囲:P.1031 - P.1034

 抄録:小児にみられた母指MP関節背側脱臼の2例を報告する.症例1は10歳男児で,喧嘩をして相手の手が左母指に当たり背屈を強制され受傷した.症例2も10歳男児で,サッカーボールが右母指に当たり,母指の過伸展強制により受傷した.いずれもMP関節過伸展,IP関節軽度屈曲位変形を示し,徒手整復可能であったが,整復後に関節の不安定性がみられた.一般に本外傷は,徒手整復が可能で通常側副靱帯は損傷されず,整復後は不安定性を示さない.今回の報告例では,脱臼時に側副靱帯とともに中手骨骨膜が剥離され,その結果,強い不安定性を示したが,これは骨膜が厚い小児期に特有の病態とみられた.1例目は手術を施行し結果的に骨膜を縫合したが,2例目ではギプス固定による保存療法にて良好な結果を得た.小児の母指MP関節背側脱臼では,側方不安定性があっても骨膜の剥離による場合には保存的治療が可能で,関節造影検査などでの病態把握が重要である.

Paget病による頚椎後弯変形に後方除圧固定術を施行した1例

著者: 中山富貴 ,   四方實彦 ,   高橋真 ,   長谷部啓司 ,   田中千晶

ページ範囲:P.1035 - P.1037

 抄録:Paget病による後弯変形を伴った頚髄症に対して後方除圧固定術を施行した症例を報告する.症例は72歳,女性.進行する痙性四肢麻痺を主症状とした.エチドロン酸2ナトリウムの投与を開始したが症状は進行し,麻痺の改善を目的として広範な頚椎後方除圧術とinstrumentationを施行した.術後症状は軽快し,術後4年6カ月の現在まで維持されている.Paget病脊椎病変に対する手術例の報告は少なく高い合併症発生率が報告されているが,本症例では良好な結果が得られた.

胸椎と腰椎に多発した化膿性脊椎炎の2例

著者: 村田雅明 ,   新宮彦助 ,   木村功 ,   西原彰彦

ページ範囲:P.1039 - P.1043

 抄録:化膿性脊椎炎は稀な疾患ではないが,非連続性に多発する症例は珍しい.われわれは胸椎と腰椎に多発した化膿性脊椎炎の2例を経験したので報告する.症例は67歳と24歳のいずれも男性.元々はcompromised hostではないが,それぞれ急性胆嚢炎と伝染性単核球症で集中治療を要する状態の後に腰痛と発熱が出現.MRIと骨シンチグラフィーで胸椎と腰椎に非連続性に4椎間以上に多発する化膿性脊椎炎と診断された.いずれも神経学的に異常はなく,保存的治療が試みられたが無効であったため手術療法を施行した.急激に全身状態が悪化すると非連続性に化膿性脊椎炎を生じることも考えられる.保存的治療に抵抗する場合は多椎間といえども手術に踏み切る必要があると思われた.

Parosteal lipomaの2例

著者: 大類広 ,   石川朗 ,   土屋登嗣 ,   柏英雄 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1045 - P.1048

 抄録:比較的稀とされるparosteal lipomaの2例を報告した.症例1は64歳の男性で,右上腕骨外顆に接して発生し,脂肪組織内に特徴的な茎状の骨突起を形成していた.症例2は54歳の女性で,右橈骨に接して発生し,回外筋の深層で橈骨神経深枝と接していた.両者とも一期的に腫瘍摘出術を施行した.MRIは,症例1では腫瘍の上腕骨外上顆への接触と前腕伸筋群内への浸潤を明瞭に描出した.症例2では腫瘍遠位部が橈骨と接触し回外筋の深層に位置することを描出した.MRIは,本腫瘍と個々の筋肉との位置関係を良好に描出した.

小児の大腿骨頚部に発生した類骨骨腫の3例

著者: 藤澤多佳子 ,   藤岡文夫 ,   塚田章博

ページ範囲:P.1049 - P.1053

 抄録:関節近傍に発生した類骨骨腫は関節炎を伴うことがあり,診断の遅れを指摘されている.小児の大腿骨頚部に発生した3例を経験したので報告する.いずれも初診病院では類骨骨腫は想定されておらず,2例はPerthes病,1例は単純性股関節炎として扱われ,症状の改善をみないため,紹介されたものである.類骨骨腫に特徴的な夜間痛を訴えたのは1例のみであり,3例に共通してみられたのは跛行であった.そこで,跛行を呈した症例をみた場合,鑑別診断として股関節炎,Perthes病等の股関節疾患に加えて類骨骨腫も考慮する必要がある.

手根管内痛風結節の1例

著者: 中山潤一 ,   山崎京子 ,   藤原朗 ,   栗原章 ,   井口哲弘 ,   佐藤啓三 ,   笠原孝一 ,   松本英裕

ページ範囲:P.1055 - P.1058

 抄録:症例は30数年前より痛風と診断されていた65歳の男性で,手関節掌側部の痛風結節の切除術を受けたが再発し来院した.手指の運動制限と母指球の萎縮を認め手術を施行した.手根管内の浅指屈筋腱周囲および腱内に尿酸結晶が沈着し,腱自体が膨隆して一塊となり痛風結節を形成していた.浅指屈筋腱は不全断裂の状態であったため,部分切除を要した.術後,手指の運動および母指球の萎縮は改善した.痛風結節の治療としては,まず内科的に血中尿酸のコントロールを行うが,本症例のように機能障害や神経圧迫症状を伴う場合には外科的治療が必要である.

大腿骨顆上部に生じた疲労骨折の2例

著者: 柳下信一 ,   北野喜行 ,   堀本孝士 ,   砂山千明 ,   長浦恭行 ,   井村弥寿子

ページ範囲:P.1059 - P.1063

 抄録:大腿骨の疲労骨折は比較的稀とされるが,大腿骨顆上部に生じた疲労骨折の2例を経験した.症例1は15歳男子.駅伝大会のため1カ月間毎日5kmのランニングを行っていた.大会当日の競技中,右膝に激痛を認め歩行不可となった.単純X線像で右大腿骨顆上部に転位を伴う骨折を認めた.同部に生じた疲労骨折と診断し,骨接合術を施行した.症例2は8歳男児で,運動会の練習で短距離走を毎日行っていた.運動会の1週間前から徐々に左大腿部痛が出現し,運動会当日は走行不可となった.単純X線像で左大腿骨遠位に骨膜反応像を認め,骨シンチグラフィーで同部に異常集積を認めた.同部の疲労骨折と診断し,運動の中止にて2カ月後に疼痛は消失した.疲労骨折は治療上,原因スポーツの中止と2カ月程度の免荷を行って未然に骨折の転位を防ぐことが重要である.そのために患者本人だけではなく,運動指導者へのこうしたスポーツ障害の知識の普及が必要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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