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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科36巻10号

2001年10月発行

雑誌目次

視座

患者さん1人1人に対応する

著者: 遠藤直人

ページ範囲:P.1103 - P.1103

 医師は患者さんの訴えを聞き,診療し,診断に基づき治療を行っている.多くの場合,医師-患者さんの関係は良好でよい結果が得られている.しかし,医師-患者さんの関係が上手くいかない場合も少なからず経験する.それはどうしてなのか?どういう場合なのか?を考えてみたい.
 整形外科医である私どもは通常,外来で診察し,必要な検査を行い,診断をつけ,治療方針を決め,必要な場合に「手術」を選択し,入院を勧める.

シンポジウム 下肢長管骨骨折に対するminimally invasive surgery

緒言 フリーアクセス

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.1104 - P.1106

 今年の春に千葉の幕張メッセで開催された第74回日本整形外科学会学術集会でパネルディスカッションとして取り上げられた「下肢長管骨骨折に対するminimally invasive surgery」を誌上シンポジウムとして掲載することになりました.近年の外科手術は,一時期の癌や肉腫の手術に見られるような徹底した切除を目指した広範囲手術から,低侵襲の縮小手術に向かっています,関節鏡,消化管・気管内視鏡,腹腔鏡,胸腔鏡などが検査機器から鏡下手術に利用されるようになったことが,低侵襲手術を牽引する原動力となってきました.
 骨折の手術において,1970年代から急速に普及したAO compression plateによる骨接合術は優れた成績を残しました.しかし,AOプレート固定の手技は,大きく皮膚・軟部組織を切開して骨折部を広く展開し,骨膜を広範に剥離して骨折部を一分のすき間もないほど丁寧に解剖学的に整復して,強靱なプレートで固定するものでありました.AOグループは圧迫プレートによって術後の外固定を不要とし,早期の関節運動を可能にすることで,患肢の機能を最大限に獲得することを目指したもので,この力学的に強固な内固定で目標を達成することができました.

下肢長管骨骨折に対するinterlocking nailingの適応と限界

著者: 生田拓也

ページ範囲:P.1107 - P.1113

 下肢長管骨に対するinterlocking nailingは少ない侵襲で,なおかつ強固に固定を行う方法であり,術後早期より荷重歩行が可能な優れた方法である.大腿骨,𦙾骨ともに骨折型には関係なくlocking screwを挿入する部位の骨皮質がしっかりとしていれば適応となる.しかしながら大腿骨の場合,骨折部の粉砕が高度である場合は,その脚長の正確な復元が困難な症例も存在し注意が必要である.また,𦙾骨の場合,近位骨幹端部骨折に関しては通常の手技では変形を残しやすく,注意が必要であり適応を慎重にする必要がある.

下肢長管骨骨折に対するMIPO法の適応と注意点:大腿骨遠位部骨折における治療成績から

著者: 森川圭造 ,   花林昭裕 ,   佐藤啓二

ページ範囲:P.1115 - P.1120

 要旨:MIPO(minimally invasive plate osteosynthesis)法は,小皮切から経皮的にプレートを挿入し固定する骨折手術法であり,骨折部に対して低侵襲な治療法である.大腿骨遠位部骨折は,隣接する膝関節の早期機能回復が重要であり,本治療法の適用が有用と考えられる.今回大腿骨遠位部骨折に対し,本治療法と従来法であるプレート固定法との治療成績の比較を行い,本治療法の有用性を明らかにするとともに,その適応と注意点について検討した.本治療法は,従来のプレート固定法と比較し,手術時間の短縮と出血量の軽減が得られた.また術後早期に膝関節機能が回復し,有用な治療法であった.このことから,早期離床,短期後療法が必要な高齢者例に対してもよい適応と考えられた.また術中の整復と整復不良に伴うmal-alignmentと骨折部の癒合不全によるimplant failureが本治療法に関する注意点であり,今後それらの対策が課題である.

下肢長管骨骨折に対する創外固定法

著者: 萩野哲男 ,   濱田良機 ,   益山宏幸 ,   佐藤栄一 ,   坂東和弘 ,   小野尚司 ,   相馬真

ページ範囲:P.1121 - P.1126

 要旨:われわれは下肢長管骨骨折例のうち,開放骨折や多発外傷例などに対してOrthofix創外固定器による治療を行ってきた.今回本法を施行した下肢長管骨外傷性骨折の治療成績を調査し,さらに髄内釘による内固定法を行った症例との臨床成績を比較しminimally invasive surgeryの観点からその有用性を検討した.症例は大腿骨骨折128骨折,下腿骨骨折178骨折,計274例306骨折で,受傷時年齢は平均34歳,受傷原因は交通事故が大半を占めていた.骨癒合率は大腿骨が90.2%,下腿骨が94.1%で,骨癒合期間(創外固定器装着期間)は前者が平均19.3週,後者が18.0週で,合併症としてはminor pin tract infectionが34骨折(8.3%)にみられたが重篤なものはなかった.髄内釘固定群(132骨折)との比較では創外固定法施行例では手術時間は短く,術中出血量は低値であった.骨折の初期治療における創外固定法は小侵襲で,重篤な合併症はなく有用な治療法である.

髄内釘手術における潜在的肺脂肪塞栓の評価

著者: 新藤正輝 ,   田中啓司 ,   相馬一亥 ,   西巻博 ,   脇田隆司 ,   糸満盛憲

ページ範囲:P.1127 - P.1131

 要旨:[目的]髄内釘手術時のリーミング操作が肺に及ぼす影響について臨床的に検討する.[方法]下肢長管骨骨折を伴う外傷患者をリーミング髄内固定群(R群),非リーミング髄内固定群(NR群)に分け,年齢,injury severity score(ISS),fracture index(FI),髄内釘の直径,受傷から手術までの期間を調査するとともに,術後に行った気管支肺胞洗浄液中の脂肪貪食細胞比率および肺血流シンチ上の陰影欠損の程度について2群間で比較検討した.[結果]両群間において年齢,ISS,FI,受傷から手術までの期間については有意差は認められず,髄内釘の直径のみR群に有意に太い結果が得られた.また,脂肪貧食細胞比率は両群間に有意差はみられず,肺血流シンチ上の陰影欠損の程度も両群間に明らかな差は認められなかった.[結論]非リーミング髄内固定法はリーミング髄内固定に比較して,肺脂肪塞栓を軽減させるとは言えない可能性が示唆された.

Ender法による下肢長管骨骨幹部骨折の治療

著者: 安藤謙一 ,   山路哲生 ,   中川雅人

ページ範囲:P.1133 - P.1139

 要旨:下肢長管骨骨幹部骨折に対し比較的手術侵襲の少ないEnder法を主として行っているが,今回これらの症例について検討した.大腿骨骨折症例は258例271肢で,多発骨折は105例,多発外傷は32例,開放骨折は36肢であった.このうち5例6肢に短縮防止としてinterlocking Ender法を施行した.骨癒合が267肢に得られ,4肢は癒合不全となったが,いずれも再手術を施行し骨癒合が得られた.屈曲変形が8肢,回旋変形が7肢,短縮変形が3肢に発生し,このうち変形著明な3肢に再手術を施行した.𦙾骨骨折症例は340例348肢で,多発骨折は117例,多発外傷は21例,開放骨折は157肢であった.骨癒合が341肢に得られ,7肢は癒合不全となったが,いずれも再手術あるいは再々手術を行い最終的には骨癒合した.屈曲変形が9肢,回旋変形が7肢,屈曲変形が6肢に発生し,変形が著明な4肢に再手術を施行した.近年,骨折治癒に関してrigid fixationよりもflexible fixationの方が有利であるとの考え方が一般的になりつつある.

下肢長管骨骨折に対するプレート固定の適応と限界

著者: 田中正 ,   豊根知明 ,   加藤大介 ,   金山竜沢 ,   林隆之 ,   長島久 ,   山下正臣

ページ範囲:P.1141 - P.1147

 要旨:下肢長管骨骨折に対するプレート固定について自験例を検討し,その適応と限界について述べた.症例はbiological platingを行った55例58骨折で,年齢は10~90(平均43.3)歳,経過観察期間は平均1年5カ月であった.骨折の内訳は大腿骨骨幹部8骨折,顆部顆上18骨折,𦙾骨骨幹部(近位・遠位部骨折合併例を含む)32骨折であり,うち開放骨折は21骨折,合併症として肺損傷,頭部外傷,脂肪塞栓などを認めた.プレート固定は極力骨膜を剥離せずに行い,関節部骨折は解剖学的整復・強固な固定を,骨幹・骨幹端骨折は解剖学的アライメントおよび安定した内固定(早期自動運動を行うに必要十分な固定力)を目指した.また近位・遠位2カ所に小切開を置いたのみのminimally invasive plate osteosynthesis(MIPO)を33例に行った.開放骨折などで受傷後早期に創外固定を行い,二次的にプレートに変更したものが15例あった.歩行は当初よりlight touchを許可し,骨癒合状況により本格的な部分荷重を1~14(平均6.6)週で,全荷重を6~20(平均13.1)週で開始した.骨癒合は全例に得たが,外仮骨を形成して癒合するindirect healingが半数以上を占め,これらでは外仮骨出現が平均1.8週,仮骨の架橋は4.7週であった.

論述

嚥下障害を来したdiffuse idiopathic skeletal hyperostosisに対する手術治療

著者: 杉山誠一 ,   清水克時 ,   宮本敬 ,   坂口康道 ,   細江英夫 ,   鈴木康

ページ範囲:P.1149 - P.1154

 抄録:頚椎の前縦靱帯骨化が原因で嚥下障害を来したdiffuse idiopathic skeletal hyperostosis 14例を対象として,治療について検討した.流動食,消炎鎮痛剤の内服による保存治療は10例に有効であったが,経過観察中にうち4例は症状が再燃し増悪した.この4例と保存治療が当初より無効であった4例を合わせた計8例において,頚椎前方に増殖した前縦靱帯骨化を切除する手術を行った.以下手術を実施した8例について述べる.性別は男性7例,女性1例,手術時年齢は55~78歳(平均65歳)であった.食道造影では8例全例において,くちばし状を呈した高さ14~22mm(平均18mm)の骨化巣突出部が咽頭や食道を圧迫していた.3例で造影剤の誤嚥が観察された.8例中6例では手術後3週間以内に嚥下障害がほぼ消失した.一方,2例では嚥下障害が軽快するのに数カ月を要し,手術後1年でも症状が軽度残存していた.重症例では術後管理として,誤嚥を予防することが必要であった.

整形外科/知ってるつもり

指列誘導障害

著者: 堀井恵美子

ページ範囲:P.1156 - P.1157

 手の先天異常にはいろいろな分類方法があるが,臨床的には,Swansonによって提唱され,International Federation of Societies for Surgery of the Handに採用された分類が最もよく用いられてきた(表1).この分類は,胎生期の異常に根拠をおいて,四肢の先天異常を分類することが強調され,failure of formation,failure of differentiationなどの表現が用いられた.これに基づいて臨床例を分類すると,同一個体内にこれらの所見が複合して存在する同一家系内に,異なった先天異常が散見するなどの矛盾が生じた.これに対して,1980年代に,X線像,術中所見,hand pattern,血管造影などを含めた臨床像の解析が進められた.さらに動物実験,肢芽発生のメカニズムが明らかになり,Swanson分類に対する見直しが行われた.最も問題となったのが裂手症の分類で,これを間葉組織の壊死により発症するfailure of formationに分類することが妥当であるかどうかの問題であった.
 例えば,症例1(図1)では,右手は分類Ⅰ-B中央列欠損(*)に分類されるが,左手は分類Ⅱ-D(皮膚性)合指症(**)に分類される.

運動器の細胞/知っておきたい

関節の細胞(軟骨細胞)

著者: 内尾祐司 ,   越智光夫

ページ範囲:P.1158 - P.1160

【はじめに】
 関節軟骨は強力かつ何度も繰り返される力学的負荷に耐えられるように構築された特異な組織である.近年,分子生物学の進歩によって形態学的・生体力学的特性ばかりでなく,発生や分化・増殖制御機構も次第に明らかになりつつある.本稿では軟骨の機能を規定する特異な構造を述べた後,軟骨細胞の発生と分化・増殖制御機構について概説する.

境界領域/知っておきたい

顎関節痛の治療法

著者: 髙橋哲 ,   髙野裕史

ページ範囲:P.1162 - P.1165

【はじめに】
 顎関節における疾患は表17)のごとく分類されており,それら疾患によってその症状も様々である.顎関節疼痛は疾患の状態や進行程度によってはほとんどの顎関節疾患で生じるが,外傷,顎関節リウマチなどの慢性炎症性疾患,顎関節症などでは長期的に顎関節疼痛が生じることがある.なかでも顎関節症は整形外科領域でも今日よく遭遇する顎関節疾患の一つであり,多因子が複雑に絡み合って発症することから,その診断や治療法の決定は容易ではない.
 そこで今回は顎関節症における顎関節痛に焦点を絞り,その治療法について最近の基礎的な知見も含め,解説したい.

最新基礎科学/知っておきたい

カテプシン

著者: 内山安男

ページ範囲:P.1166 - P.1169

 近年の目覚ましい分子細胞生物学の発展により骨代謝の分子機構の多くが明らかにされてきている.骨の屋台骨となる骨基質は常に形成と分解を繰り返されている.この骨リモデリングにおける骨基質の分解と吸収の中で,最も重要な要素としてカテプシンが知られている.カテプシンとはエンドソーム-リソソーム系に局在して,酸性環境下で働くプロテアーゼの総称である.通常,アルファベットで表されるが,現在ではカテプシンZまで見出されているため,新たな命名法が必要かもしれない.
 従来の酵素学ではリソソームのプロテアーゼは非特異的な分解に関与する酵素と考えられてきた.しかし,研究の流れが構造生理学と細胞生物学に向くにつれて,リソソームカテプシン群は,高分子タンパク質の処理のみならず,細胞内代謝の維持により重要な働きがあると考えられるに至っている.カテプシンの重要性は,一般的なバルクタンパク質分解に寄与することに加え,組織細胞によっては,特異的に発現してその細胞の中心的な機能を担う点にある.骨吸収の場である吸収窩には数多くのカテプシンが分泌される8).その中で破骨細胞に特異的に発現しているカテプシンKは酸性環境下におけるコラーゲンの分解に必須の働きをなすことがわかってきた.本稿では,エンドソーム-リソソーム系とカテプシンについて概説する.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・51

著者: 三浪明男 ,   岩崎倫政

ページ範囲:P.1171 - P.1173

症例:17歳,男性
 主訴:右手関節尺側部痛(前腕回内外運動時)
 現病歴:2年前,右橈骨遠位端骨折を受傷.前医にて徒手整復および4週間のcast固定を施行される.Cast除去後より,前腕回内外運動時の手関節尺側部痛および轢音を自覚するようになった.
 初診時現症:右遠位橈尺関節および尺骨頭周囲背側に圧痛を認め,前腕回内時,尺骨頭は背側へ突出していた.突出した尺骨頭を指で掌側に押しつけると尺骨は容易に整復された(ピアノキー徴候陽性).手関節および前腕可動域に制限は認めなかった.

整形外科philosophy

病院医療からみた整形外科の問題点

著者: 大井利夫

ページ範囲:P.1175 - P.1180

 政府は2001(平成13)年6月,経済財政諮問会議の答申を得て今後大幅な財政改革を推進することを閣議決定した.その中には医療制度の改革も含まれている.さらに7月には,政府の総合規制改革会議が「中間まとめ」を決定し,規制緩和の推進を提言した.ここでも,医療福祉の分野を含み,いわゆる聖域なき構造改革を推し進めるとしている.
 いまやわが国は,長引く経済不況の中で,突破口を求めて数々の改革を模索しているようにみえる.医療界も例外ではない.今までも様々な変革が論議され実行されてきたし,今後もさらなる激動が予想されている.このような状況の下で,長年にわたり病院医療に携わってきた勤務医としての経験から,現在の整形外科の問題点を考察してみた.もとより一介の病院勤務医に過ぎない筆者の勝手な私見であり,意にそぐわない点はご容赦いただきたいと思う.

国際学会印象記

『第13回アジア太平洋整形外科学会』に出席して―13th Congress, Asia Pacific Orthopaedic Association (APOA/Adelaide)

著者: 竹光義治

ページ範囲:P.1181 - P.1183

 本年4月1~6日,第13回アジア太平洋整形外科学会が南オーストラリアのAdelaideにおいて,Dr. Robert J. Bauze会長,associate professor,The Queen Elizabeth Hospital,のもとに開催され成功を収めた.
 アジア太平洋整形外科学会なる名称を初めて聞かれた方もあると思われるので経緯を少し説明させていただきたい.本学会はもともとWestern Pacific Orthopaedic Association(西太平洋整形外科学会)として,アジア太平洋地域の9カ国の整形外科医リーダー達が核となり,この地域の整形外科医学,技術の発展を期して1962年に発足したものである.学会は3年ごとの開催であり,第12回学会は1998年,福岡において開催されたことはご記憶の方も多いと思う.この3年間Dr. Bauze会長の努力もあって構成する国および地域にインド,パキスタン,中国が加わり合計16の国および地域(日本,韓国,台湾,香港,フィリピン,中国,ベトナム,タイ,ミャンマー,マレーシア,シンガポール,インドネシア,インド,パキスタン,オーストラリア,ニュージーランド)となり,会員1,500名,バックに抱える人口は30億,その意味では地域別の国際学会として最大のものであり,また先進国から発展途上国まで含まれるため内容も多様性と変化に富みユニークな学会となった.

整形外科英語ア・ラ・カルト・100

整形外科分野で使われる用語・その62

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1184 - P.1185

 4カ月振りに,この雑誌に連載を再開したら,幾人かの先生方からファン・レター(fan mail)を送っていただいた.大変嬉しい.また,今回は記念すべき第100回である.

ついである記・61

チベットにおけるカシン・ベック病

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1186 - P.1188

 ヨーロッパでは,ある研究者が学位を申請したとき,学位の対象となる研究が国際的な環境下でなされたような場合には,論文の審査委員に外国人を選ぶことがある.今春,「国境なき医師団」に属する女医でフランソア・マチュー(Francoise Mathieu)という研究者がベルギーの自由大学に「チベットにおけるカシン・ベック病」というテーマで学位を申請したとき,私はその審査委員になることを要請された.「ついである記(36)」にも書いたことがあるように,私は彼女らがチベットで10年間かけてやってきたフィールド・ワークの素晴らしさについては十分承知していたので,審査委員を引き受けることにした.

臨床経験

下位腰椎破裂骨折に対する後側方固定術の術後成績

著者: 飯田尚裕 ,   斉田通則 ,   木村長三 ,   石田直樹

ページ範囲:P.1191 - P.1196

 抄録:比較的稀なL4以下の下位腰椎破裂骨折に対する手術治療の成績を検討した.対象は1986(昭和61)年4月以降に当科で手術を施行した10例(L4:8例,L5:2例)で,手術時年齢は平均40歳であった.L4破裂骨折ではL4根障害5例,馬尾障害2例,L5破裂骨折ではL5根障害2例であった.手術は全例に後方除圧とinstrumentationを併用した後側方固定術を行った.経過観察期間は平均2年11カ月で,骨癒合は9例に得られ重篤な合併症は認めなかった.固定椎間の局所前弯角は術前平均23°が骨癒合完成時16°であった.椎体前縁に比し後縁の圧潰率が大きい例では局所の前弯が比較的維持されるが,椎体後縁に比し前縁の圧潰率が著明な例では最終観察時の局所前弯角が減少する傾向がみられた.後者のような例では後方法のみでは生理的前弯獲得が困難な場合があり,前方支柱再建術の併用を考慮する必要がある.

転移性頚椎腫瘍に対するT-sawを用いた頚椎亜全摘術の経験

著者: 羽藤泰三 ,   北野喜行 ,   堀本孝士 ,   野口学 ,   大崎能樹 ,   寺畑信太郎 ,   富田勝郎 ,   川原範夫

ページ範囲:P.1197 - P.1200

 抄録:胸腰仙椎の腫瘍性病変においては,腫瘍を一塊に摘出することが可能である.頚椎レベルでは解剖学的に椎体腫瘍の一塊摘出は困難であるが,われわれは乳癌原発の椎体に限局した転移性頚椎腫瘍に対し頚椎椎体亜全摘を試みた.摘出は共著者である富田ら4)の胸腰椎腫瘍摘出に準じて行った.頚髄付近の骨切りに対しT-sawの使用は有用であった.今後,症例によっては頚椎椎体腫瘍の根治的摘出も可能であると思われる.

症例報告

キアリ奇形に伴う脊髄空洞症および脊髄係留症候群を合併した側弯症の1例

著者: 後藤学 ,   松山幸弘 ,   川上紀明 ,   松原祐二 ,   金村徳相

ページ範囲:P.1201 - P.1204

 抄録:キアリ奇形に伴う脊髄空洞症および脊髄係留症候群を合併した側弯症の1例を経験した.初診時上肢腱反射亢進,下肢病的反射,腹壁反射右側消失,臍部以下の知覚低下,夜尿,尿失禁等の排尿障害を認め,両凹足変形を呈していた.X線像にてT7~T12をメインカーブとする39°の側弯と仙椎のspina bifidaを認めた.MRIでは広範な空洞と低位脊髄円錐を認め,脊髄造影およびCTMでは終糸が描出された.手術はまず終糸切離術を施行し,空洞縮小はみられなかったが,排尿障害の改善を得た.次いで術後3カ月,後頭蓋窩減圧術を施行.術後2カ月にて空洞縮小を認め,初診より1年3カ月後の現在,側弯の進行を認めず,反射,知覚障害,排尿障害とも改善した.治療は,まず脊髄の緊張緩和,側弯の進行防止を目的とし,脊髄係留症候群に対する手術と,キアリ奇形,空洞症に対する手術を行ったうえで側弯に対する手術を検討するのが好ましいと思われた.

運動時に腓骨神経麻痺の増悪を呈した近位𦙾腓関節症の1例

著者: 山本晃裕 ,   西川哲夫 ,   松井允三 ,   黒坂昌弘 ,   水野耕作

ページ範囲:P.1205 - P.1208

 抄録:われわれは近位𦙾腓関節症による骨棘形成により骨癒合症を生じ,その結果として運動時に腓骨神経刺激症状を呈した稀な1例を経験した.症例は45歳男性で,運動時の左膝外側から足背への疼痛としびれを主訴とした.左近位𦙾腓関節に圧痛を認めるも不安定性はなく,足関節背屈,母趾背屈の筋力低下,および足関節の軽度の可動域制眼を認め,画像所見では近位𦙾腓関節直下に母指頭大の骨増殖性変化(骨棘)を認めた.この症例に対して腓骨神経剥離術および骨棘切除術を施行した.骨棘の外側に腓骨神経が位置しており,骨棘により軟部組織を介して腓骨神経の伸長が生じ,それに長距離歩行等の反復性の刺激が加わることにより,神経刺激症状を呈したと推測された.術後は運動時の腓骨神経の刺激症状は消失した,近位𦙾腓関節症で関節の不安定性を認めないにもかかわらず腓骨神経麻痺症状を来した報告はわれわれの渉猟し得た範囲ではなく,今後再発の有無など注意深く経過観察していく必要があると考えられた.

Essex-Lopresti脱臼骨折の1例

著者: 高橋伸典 ,   浦田士郎 ,   渡部健 ,   鈴木和広 ,   田中健司

ページ範囲:P.1209 - P.1212

 抄録:症例は56歳の男性.1993(平成5)年8月16日,軽トラックと乗用車の交通事故にて受傷.レントゲンにて右橈骨頭骨折,遠位橈尺関節長軸背側脱臼を認め,緊急手術を行った.橈骨頭は粉砕が高度で整復内固定不能であったためやむを得ず摘出し,二期的に橈骨頭シリコンインプラント挿入を行った.遠位橈尺関節は仮固定抜去(術後4週)後1週間以内に長軸再脱臼を起こしたが,術後7年間にわたる経過観察の間脱臼の進行はほとんど認めなかった.また,健側と比べやや握力の低下を認めるものの,可動域はほぼ同等であり,疼痛もなく,日常生活動作に支障はない.本脱臼骨折はこれまでに本邦7例8肢,欧米11例11肢の報告をみるのみで非常に稀である.治療方針は橈骨頭切除例の成績が劣ることがいわれるのみである.今回治療上の検討課題として,固定期間,TFCC(三角線維軟骨複合体)修復の要否が挙げられた.

恒久性膝蓋骨脱臼に習慣性膝蓋骨脱臼を伴った1例

著者: 横山公信 ,   小林大介 ,   薩摩眞一

ページ範囲:P.1213 - P.1216

 抄録:患者は1995(平成7)年生まれの女児である.右足部の外反変形を主訴に生後8日目に当科を受診した.その際右膝の伸展制限も指摘され精査の結果,右恒久性膝蓋骨脱臼と診断された.生後7カ月時に右膝蓋骨の観血的整復術を行った.その後右膝は良好な経過をたどっていたが,3歳頃より左の膝崩れが出現し,左習慣性膝蓋骨脱臼を来した.3歳7カ月時に右膝蓋骨と同様に観血的整復術を施行し,外来で経過観察中であるが再脱臼を認めず現在経過良好である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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