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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科36巻11号

2001年11月発行

雑誌目次

視座

同種肢移植について

著者: 三浪明男

ページ範囲:P.1223 - P.1224

 「同種肢移植」については別の雑誌にも私の所感を述べさせていただきました.今回は違うテーマについてとも考えましたが,再び同じテーマで私見を述べたいと思います.
 1964年,南米エクアドルにおいて世界初の同種手移植が試みられ,約2週間で拒絶反応を生じ不成功に終わって以来,同種肢移植に関する多くの動物実験により移植技術の向上および拒絶反応抑制に関する研究がなされ,有効な拒絶反応抑制のための手法や生着期間の延長などの成果が得られております.既にご承知のように,1998年,フランス・リヨンにおいて現実的な治療法として脳死患者からの同種手移植が行われて以来(実際にはこの症例を同種手移植の第1例としておりますが),今日まで私達が渉猟し得た限りでは計10例の同種手(肢)移植が行われています.すべての症例の機能的予後は明らかではありませんが,現時点で再切断に至った症例は,免疫抑制剤の内服を明らかに怠っていた1例のみで,他の症例に関しては拒絶反応はよくコントロールされており,機能回復も予想以上に良好であるという報告がなされています.

シンポジウム 頚肩腕症候群と肩こり―疾患概念とその病態

緒言 フリーアクセス

著者: 大井利夫 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.1226 - P.1228

 本誌上シンポジウムは,日本整形外科学会産業医委員会が企画し,第74回日本整形外科学会学術集会(学会長・守屋秀繁千葉大学教授)にて行われたパネルディスカッション「頚肩腕症候群と肩こり―疾患概念とその病態―」の議論を踏まえて,下記の演者により論述されたものである.パネルディスカッションの座長および演者,演題名を示す(敬称略).
 座長:大井利夫,菊地臣一
 演者および演題名:
 ①中村利孝,橋本 卓「頚肩腕症候群と肩こり―疾患概念とその病態―」
 ②三笠元彦「頚肩腕症候群と肩こり 文献的検討」
 ③矢吹省司,菊地臣一「肩こりの病態」
 ④多田浩一,吉田竹志,村瀬 剛「頚肩腕症候群と肩こり―職場での実態調査―」
 ⑤伊地知正光「頚肩腕症候群と肩こり―診療現場での現状―」

頚肩腕症候群と肩こり―疾患概念とその問題点

著者: 中村利孝

ページ範囲:P.1229 - P.1233

 要旨:臨床医学と産業衛生学における「頚肩腕症候群」の定義ないしは疾患概念を比べてみると,どちらも「頚肩腕部の慢性疲労による筋骨格系障害」を取り扱っていることは明らかである.また,一般に慣用的に使用されている「肩こり」は「頚肩腕症候群」の部分症状と考えられなくもない.欧米では頚肩腕部の運動障害を出発点として「作業関連性筋骨格系障害」という概念に発展させ,「筋・骨格系の慢性疲労による障害とは何か」という問題を解いていこうという姿勢がみられる.わが国でも「頚肩腕症候群」,「肩こり」をスタートとして,「筋骨格系の慢性疲労」の病態解明を,整形外科固有の問題として取り組んでいく時期に来ているように思われる.

頚肩腕症候群と肩こり―文献的検討

著者: 三笠元彦

ページ範囲:P.1235 - P.1238

 要旨:飯野は1955年頚椎,頚髄,上腕神経叢,上肢神経に由来する疼痛疾患を頚肩腕症候群と呼んだ.その後,整形外科医による頚肩腕症候群の解明が進むとともに,頚肩腕症候群なる疾患名は廃れていった.一方,産業衛生の分野では,単純繰り返し作業による頚肩腕の障害に対しこの疾患名が有用であることから使われはじめ,1973年日本産業衛生学会頚肩腕症候群委員会報告書で,上肢を同一肢位に保持または反復使用する作業により神経・筋疲労を生ずる結果おこる機能的あるいは器質的障害を職業関連性の頚肩腕症候群(頚肩腕障害)と定義した.一方,肩こりという用語の起源は定かではない.1898年瀬川の「痃癖,特殊肩痛」の中で肩がこるという表現は見受けられるものの,肩こりに対しては,肩はりが使われている.河邨(1951),茂手木(1964),岩原(1967)らが肩こりをひとつの疾患としてとらえ,その病因,病態を論じたが,それらの解明が十分されてきたとはいえない.

肩こりの病態

著者: 矢吹省司 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.1241 - P.1246

 要旨:本研究の目的は,「常に肩こりを有する群(肩こり群)」と「全く肩こりのない群(対照群)」を比較検討することにより,肩こりの病態や要因を明らかにすることである.対象は,年齢と性を対応させた「肩こり群」21例と「対象群」16例である.これら37例に対して,アンケートの解析と直接検診,MMPI(ミネソタ多面人格目録)を行い,MRIを撮像した.その結果,2群間で有意差が認められた項目は,「自覚的な労働の大変さ」,「脊柱所見の有無」,「肩関節他動運動による症状誘発の有無」,そして「僧帽筋の筋硬度」であった.「なで肩の有無」や「MRIでの椎間板変性の有無」では,2群間で有意差が認められなかった.以上の結果から,肩こりの病態には,頚椎や肩の機能障害が基盤としてあり,それに伴ってそれらの支持組織である僧帽筋に負担がかかっている状態であり,仕事のストレスが関連しているといえる.

頚肩腕症候群と肩こり―職場での実態調査

著者: 多田浩一 ,   吉田竹志 ,   村瀬剛

ページ範囲:P.1247 - P.1255

 要旨:従業員1万人以上の2製造業社(5事業所)において1,518名に対し,頚肩手における痛み・しびれおよび肩こりの発生についてアンケート調査を実施した.職種を大きく事務職,技術職および技能職(現業部門)の3つに大別し,仕事内容と頚肩腕痛および肩こりの相関について調べた.男性1,338名,女性102名より回答が得られ,圧倒的に男性優位の職場といえる.頚肩腕痛については男女別,職種別に有意差を認めなかった.事務職においては繰り返し作業の有無のみに有意差を認めた.現業部門においては明らかに上肢使用の頻度に相関を認め,上肢の繰り返し作業,重量物を持つ作業,肩より高い所の作業,ハンマーの使用作業に有意に頚肩腕痛を認めた.作業量でみるとハンマー使用が3時間を越えると63.9%と高率に頚肩腕痛を認めた.肩こりについては事務職>技術職>現業部門の順に発生しており,職種間に有意差を認めた.女性の事務職に80.2%と多発し,30歳の女性に好発する.繰り返し作業に多く発症し,コンピュータ使用が1日3時間を越えると有意に肩こりが多発する.現業部門においては繰り返し動作において肩こりは多く発生するが,機械の操作,ハンマー使用,肩の高さの作業などの上肢に負荷をかける仕事では有意差がみられなかった.以上より頚肩腕症候群と肩こりには病像の違いがみられ,これらの症状発生に関して考察を加えた.

頚肩腕症候群と肩こり―診療現場での現状

著者: 伊地知正光

ページ範囲:P.1257 - P.1260

 要旨:頚肩腕症候群は包括的な病名であるので,治療に際しては,さらに限局した病名に鑑別して,治療方針を決定するのが普通である.しかし,肩こりを含む多彩な症状の訴えが既知の疾患の症状としては,整理できない場合もあり,包括的な病名のまま治療を進めざるをえないこともある.一般外来で当初は頚肩腕症候群とされた症例130例の経過から,主な病態が一応,限局的な病名に鑑別できるかどうかを検討した.結果は,頚椎症,頚椎椎間板症,頚椎椎間板ヘルニアを主病態として治療した例は71例,筋炎,筋膜炎,腱炎,腱鞘炎とされた例は19例などであった.検査を行い,暫定的な治療を行いつつ経過を観察した後も病態が収斂せず,頚肩腕症候群という病名が残った例は26例,80%であった.肩こりは,ほとんどの症例で最後まで残っていた.

論述

後方要素を温存した片開き式頚部脊柱管拡大術のX線学的検討―非温存例との比較

著者: 北川篤 ,   鷲見正敏 ,   池田正則 ,   向井宏 ,   黒石昌芳

ページ範囲:P.1263 - P.1270

 抄録:片開き式頚部脊柱管拡大術(LP)において,後方要素を温存した場合の頚椎アライメント保持能力について調査した.対象はLPを施行しX線学的所見により追跡が可能であった125例である.後方要素温存例(温存例)は57例、非温存例は68例であった.術前および調査時のX線側面像から頚椎弯曲度を計測し,前弯位,直線位,後弯位に分類した.2mm以上の椎体すべりを不安定椎間とした.後方要素温存の有無にかかわらず弯曲度変化に差を認めなかったが,非温存例では後弯例が増加する傾向を認めた.術前に直線位あるいは後弯位の症例では非温存例で調査時に後弯化がみられたが,温存例では頚椎弯曲度が維持されていた.術前に前方すべりを呈していた椎間の椎間角は調査時に後弯化していたが,前方すべり椎間のある症例の頚椎弯曲度は温存例において維持されていた.これらのことから後方要素を温存したLPは頚椎アライメントを保持するために有用であると考える.

手根不安定症を伴ったKienböck病の長期予後

著者: 谷口泰徳 ,   玉置哲也 ,   阿部唯一 ,   本田高幹 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.1271 - P.1275

 抄録:今回,われわれは手根不安定症を伴ったKienböck病の長期予後について調査し,Kienböck病と手根不安定症の関係について検討した.症例は16例で,男11例,女5例,罹患側は,右手12例,左手4例であった.Kienböck病の発症時年齢は18~65歳(平均32.3歳),今回の調査時年齢は46~84歳(平均62.4歳)であった.Kienböck病発症後の罹病期間は14年間から最長49年間,平均30.1年間であった.発症後24年以上経過した8例では掌屈回旋した舟状骨に対して、その橈骨関節面がリモデリングされ,橈骨舟状骨間の関節裂隙が温存されていた.手根不安定症による,scapholunate advanced collapse (SLAC) wristの発生は全くみられず,Kienböck病はSLAC wristの原因ではないと断定された.全症例の臨床症状は軽微であり,職業上,ADL上問題を認めなかった.手根不安定症を伴ったKienböck病の長期予後は良好であるため,本疾患に手根不安定症の概念に基づいた治療法は無用である.

専門分野/この1年の進歩

日本手の外科学会―この1年の進歩

著者: 山野慶樹

ページ範囲:P.1276 - P.1278

 手には整形外科医が対象とする骨関節,筋,腱,神経,血管などほとんどの組織が含まれており,手術手技は精緻で細かく,まさに整形外科手術のミニチュア版で,この細いatraumaticな手技は他の整形外科手術にも必要なものといえる.この意味で整形外科医として必ず研修すべき分野である.また手指は日常最もよく使用する部位であるため,外傷を受けやすく慢性障害も発症しやすい.「手は口ほどに物を言う」といわれる如く,よく目立つ部位で整容面も重要である.
 20世紀には手の外科のすばらしい発展がみられ機能回復の面からプラトーに近づいた分野もあるが,まだまだ進歩改良されねばならない分野も多く存在する.21世紀は機能回復に加えて,これまであまり論議されなかったaetheticの面を配慮した治療が要望されることを会長講演として症例を提示して強調した.

日本足の外科学会―この1年の進歩

著者: 北田力

ページ範囲:P.1280 - P.1283

 第26回日本足の外科学会が2001(平成13)年6月29・30日の両日,大阪国際交流センターで開催されました.21世紀の初頭を飾るに相応しく,過去最多の157題の演題をいただき,活発な討論が行われ,盛会裏に終了いたしました.この学会において発表されましたシンポジウムや特別講演などを中心に私なりに要約して,今日の足の外科における治療上の問題点や最近の話題とさせていただきます.

運動器の細胞/知っておきたい

骨細胞(Osteocyte)

著者: 鶴上浩

ページ範囲:P.1284 - P.1287

【はじめに】
 骨の細胞には,大きく分けて 1)骨芽細胞,2)破骨細胞,3)骨細胞が含まれる.その中で,骨芽細胞と破骨細胞の形態や機能については多くの研究が行われているが,骨細胞についてはいまだ解明されていない点が多い.本章では,骨細胞の形態や機能について述べるとともに,骨細胞の起源である骨芽細胞からの分化や最近報告されている骨細胞についての知見について述べる.

境界領域/知っておきたい

Window period

著者: 田崎哲典 ,   大戸斉

ページ範囲:P.1288 - P.1290

【輸血後肝炎発生頻度の変遷】
 図1は輸血後肝炎の推移である.1960年代前半までは輸血を受けた患者の約半数が肝炎に罹患していたが,先達の努力により現在ではほとんどゼロになっている.しかしいまだに輸血後肝炎の報告がある.極めて高感度の検査法をすり抜ける場合,すなわちwindow periodにおける感染があるためである.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・52

著者: 高原政利

ページ範囲:P.1291 - P.1293

症例:50歳,男性
 主訴:右手関節痛
 既往歴:特記すべきことなし
 現病歴:約2年前から特に誘因なく,右手関節痛が出現した.症状は労作時にみられたが,安静時にはみられなかった.職業は農業であり,労作後にも手関節痛がみられたため,3カ月前に近医を受診した.消炎鎮痛剤の内服を行ったが,症状の改善がみられないため当院を紹介された(図1).
 現症:右手関節に腫脹はない.右手関節の背屈は65°,掌屈は60°,橈屈は5°,尺屈は30°であり,軽度の可動制限が認められた.前腕の回内や回外に制限は認められなかった.Snaff boxに圧痛を認めた.軽度の握力低下がみられた.

国際学会印象記

『第4回日米加欧整形外科基礎学会合同会議』に参加して

著者: 渡辺秀臣

ページ範囲:P.1295 - P.1295

 第4回日米加欧整形外科基礎学会合同会議が2001年6月1日から3日までギリシアのロードス島で開催されました.当教室の高岸憲二教授が組織委員であったこともあり,群馬大学から3題の発表演題を携えて地中海の宝石に向かいました.ロードス島は地中海の中に浮かぶ世界屈指のリゾート地ですが,会場となったホテルのHilton Rhodes Resortは地中海を眼下に見下ろして対岸のトルコを遠くに見渡せる高台にあり,ローマ時代に第2代皇帝のティベリウスが約7年,学問三昧をしたという学問の地に相応しい落ち着いた雰囲気を醸し出していました.本学会は,御存じの方も多いと思われますが,1980年代の中頃から日本整形外科学会の基礎委員会と国際委員会が中心となって準備されました.日本整形外科学会が,アメリカ合衆国,そしてカナダと3国で共催し,第1回を1991年10月にカナダのバンフで開催しています.第2回から欧州も加わり,前回の第3回では慈恵医科大学整形外科の藤井克之教授が会長となって浜松で開催されたこともあって,日本からも整形外科の基礎部門で活躍中の多くの医師が今回の合同会議に参加していました.
 全体の傾向としては,第1回からずっと話題となっている骨,軟骨の代謝が多くの演題で論じられていましたが,implantsや腫瘍などに関するものもあり,整形外科の幅広い討論の会議という印象でした.

整形外科英語ア・ラ・カルト・101

整形外科分野で使われる用語・その63

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1296 - P.1297

 先月は記念すべき第100回であった.
 
●Thomas splint(トーマス・スプリント)
 これは英国の整形外科医のトーマス(Hugh Owen Thomas,1834-1891)の考案したシーネ(副木)である.大腿骨や下腿などの下肢の骨折のときに簡単に骨折部を固定し,患者の輸送や治療に用いることができる非常に便利な“splint”である.
 今から約30年前の1972(昭和47)年に最初に米国から帰ってきて,日本のある病院に勤めたことがある.米国では下肢の外傷や骨折のときに,このトーマス“splint”をよく使っていた.この病院の整形外科は,当時としては私は信じられなかったが,トーマス“splint”がないということであった.世界的に有名なトーマス“splint”がないことに,私は非常にショックであったことを思い出す.しかしその後は便利なものが出現して,この“splint”はあまり使用されていないようだ.

ついである記・62

ドイツのライン川沿いを行く

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1298 - P.1300

 この「ついである記」もぼつぼつ終章に近づいてきたので,初めからざっと読み返してみると,このエッセイは私自身の海外生活の軌跡を書こうと意図して書き始めたわけではないのに,自然にそのようなものになってしまっていることに今になって気付く.しかし,それにしては大きな欠落として残っている部分があるように思う.それは私とドイツ人との交友に関する部分である.
 私は1962年に家内と2人で初めてドイツの各地を旅して以来,今までの約40年の間に20回近くこの国を訪ねた.そして,ドイツがわが国と同様に戦後の荒廃から立ち直っていく様を側面から見てきた.また,人間教育という意味で,私がドイツの文化やドイツ人の先輩・友人から学んだものは実に大きいと思っている.そこで,今回と次回は40年間に及ぶ想い出を辿りながら,ドイツ人との交友について書いてみたい.

臨床経験

大腿骨頚部領域別骨塩量と骨折型について

著者: 金子慎二郎 ,   藤井英治 ,   桒山雅貴 ,   加藤匡裕

ページ範囲:P.1303 - P.1306

 抄録:大腿骨頚部骨折患者の健側大腿骨近位部の領域別骨塩量をDXA法を用いて計測し,内側・外側骨折群間での骨塩量を比較し,骨折型を決定する大腿骨側の要因について検討した.対象は全例女性で,受傷時60歳以上の22例(平均年齢77.3歳)とした.内側骨折11例,外側骨折11例であった.大腿骨近位部を,Neck・Ward's・Trochanter・Shaftの4領域に分け、BMDを測定した.検定にはMann-Whitney検定を用いた.その結果,Ward'sおよびShaft領域では,BMDは外側骨折群が有意に低かった(p<0.05).また,Neck領域のBMDをWard'sおよびShaft領域のBMDで割った値(NW比・NS比)は,内側骨折群が有意に低く(NW比:p<0.05,NS比:p<0.01),これら骨塩量の領域比が内外側骨折型の発症に関与する因子の1つになりうると考えられた.

続発性副甲状腺機能亢進症を合併した長期透析患者に生じた大腿骨頚部病的骨折

著者: 加藤充孝 ,   浜上洋 ,   高橋健志郎 ,   永原亮一 ,   岩瀬丈明

ページ範囲:P.1307 - P.1310

 抄録:長期透析に合併する腎性骨異栄養症の病態の一つに続発性副甲状腺機能亢進症がある.われわれは,続発性副甲状腺機能亢進症を伴った長期透析患者の大腿骨頚部病的骨折3例5骨折の治療を経験したのでこれを報告する.X線所見でそれぞれ骨陰影の低下,骨膜下骨吸収像,骨梁の減少を認め,大腿骨は内反弯曲し大腿骨頚部は著しく細くなり内反股を呈していた.初期治療として2骨折に骨接合術,3骨折に人工骨頭置換術を施行した.骨接合術を施行した2骨折は偽関節となり人工骨頭置換術,ガードルストーン術を施行した.人工骨頭置換術を施行した3骨折の切除骨頭の肉眼的所見,病理学的所見で骨折部の線維性骨炎による骨脆弱化が著しく骨接合術による骨癒合は困難と思われた.これより続発性副甲状腺機能亢進症による大腿骨頚部病的骨折に対しては人工骨頭置換術が第一選択と思われ,副甲状腺機能亢進症の治療がその後の成績に重要である.

セメント非使用人工股関節置換術における早期荷重による術後3週間での退院の試み

著者: 平川和男 ,   持田勇一 ,   佐藤昌明 ,   岡本連三 ,   稲葉裕 ,   牧田浩行 ,   腰野富久 ,   斎藤知行

ページ範囲:P.1311 - P.1314

 抄録:臼蓋形成不全,大腿骨頭壊死による末期変形性股関節症に対し,セメント非使用人工股関節置換術を行った60例68関節につき,術後3日で車椅子乗車,1週で1/2部分体重負荷,2週で全荷重とし,3週間で自宅への退院を目的とした早期退院プログラムを作成し実施した.臼蓋コンポーネントは3本のスクリュー固定を行い,大きな塊状骨移植(bulk bone graft)を行わずに固定し,外方開角を40°以下とするように設置した.術中術後に合併症を起こさなかった群(Ⅰ群:46例53関節)と術中,術後に合併症あるいはその他に問題のあった群(Ⅱ群:14例15関節)を比較したところ,Ⅰ群では平均23日で退院し,ほぼ目的を達成した.ステムの沈み込み,臼蓋コンポーネントの移動は認めなかった.早期退院プログラムは患者への術前術後の教育が重要であるが医療費削減にもつながり,患者の満足度も高く,セメント非使用人工股関節にも適応できる有用な方法である.

症例報告

骨化アキレス腱断裂の治療経験

著者: 安藤圭 ,   高松浩一 ,   牧野光倫 ,   桑原浩彰 ,   篠田昌一 ,   太田進 ,   梅田仁視 ,   寺部靖人 ,   平原慎也

ページ範囲:P.1315 - P.1317

 抄録:症例は53歳,男性,主訴は右踵部痛であった.局所所見でアキレス腱部の圧痛,腫脹を認め,アキレス腱付着部より近位に皮膚陥凹,骨性硬の結節を触知した.初診時FCR像で腱断端の骨化像を認めた.他部位のX線写真,既往,血液生化学検査から「腱付着部症に伴う骨化アキレス腱断裂」と診断し,骨接合術を行った.手術は踵骨母床にアンカリングシステムを固着ののち,アキレス腱側骨片を縫着した.骨化アキレス腱断裂に関する報告は国内外で20例足らずに過ぎず,治療については多くが保存療法を選択されている.今回われわれは比較的稀な骨化アキレス腱断裂の骨化部をアンカリングシステムを使用した骨接合を行い,良好な結果を得たため報告する.

先天性橈尺骨癒合症の治療経験

著者: 薩摩真一 ,   小林大介 ,   横山公信

ページ範囲:P.1319 - P.1323

 抄録:手術的に治療されADLの改善が得られた先天性橈尺骨癒合症の2例につき報告する.症例1は7歳男児.生後6カ月頃より右上肢の動きがぎこちないことに両親が気付いた.両側の先天性橈尺骨癒合症と診断されたが本人および両親が治療を希望したのは小学校入学後であった.手術は右側に対して癒合部での回旋骨切り術を行った.症例2は12歳女児.6歳時,友人に右前腕の動きの悪さを指摘されたが自覚的な不自由さもなく,両親も気付かなかった.9歳ごろに習字を習うようになって不便になり,当科を初診し初めて診断がついた.治療は症例1と同様,癒合部での回旋骨切り術を行いADLの改善を得た.本疾患を骨切り術により治療する場合,矯正後のideal positionが重要である.これは個々の病態や生活様式を考慮に入れる必要はあるが,実際には軽度回外位に矯正すれば十分なADLは獲得できると思われた.

AMK人工膝関節形成術後osteolysisを起こした1例

著者: 後藤龍治 ,   八木知徳

ページ範囲:P.1325 - P.1328

 抄録:人工膝関節形成術(以下TKA)後の合併症の1つにosteolysisがある.この度,われわれは8mm𦙾骨インサートを用いたTKA(AMK)後9年で,𦙾骨内に大きなosteolysisを起こした1例を経験した.症例は68歳,女性.1991年7月,左膝TKA施行.2000年6月29日,左膝に激痛が走り入院.X線像でインサート内側部の消失,経骨の前内方に広範な骨透亮像を認めたため,7月12日再置換術を行った.術中所見はベースプレート下に滑膜が侵入し巨大な嚢胞を形成していた.すべてのスクリューを抜去し,嚢胞内を掻爬し,骨移植した.また,𦙾骨インサートは10mmに交換した.現在は疼痛なく,可動域の減少や不安定性もなく,移植骨も同化している.本症例はTKA(AMK)のポリエチレン摩耗粉および続発して生じた金属粉によって起きた滑膜炎が,𦙾骨ベースプレートのスクリュー孔より𦙾骨内に侵入し広範なosteolysisが発生したと考えられる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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