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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科36巻12号

2001年12月発行

雑誌目次

視座

医学論文の評価について

著者: 蓮江光男

ページ範囲:P.1335 - P.1336

 国際医学雑誌SPINEは1976年に季刊として創刊され,当時は5カ国25人の編集陣であったが,1993年頃より号数は急速に増大し,現在は原則として年間24号となり,編集陣も誌上に発表されているだけで19カ国289人となっている.私は1981年から参加して,多数の国からの医学論文の査読・評価に携わってきたが,査読方法や投稿論文の質などについて,いろいろと考えさせられることが少なくなかった.ここに過去の自己論文についての反省も含めて,医学論文の評価について2,3の感想を書かせていただくこととする.
 まず第一に痛感していることは,論文の質を適切・公正に判定することが,査読者にとっていかに厳しく困難な作業であるかという点である.現在の査読方法は,施設名・著者名を伏せた投稿論文を,得意分野によって選ばれた3人の査読者が評価・判定し,多くの場合いくつかのコメントをつけて著者に返す.これらのコメントに対する著者の返答と改訂論文,さらに他の2名の査読者(名前は著者同様伏せてある)のコメントとそれに対する著者の返答とが,一緒になって送られてくる.すなわち論文内容などからある程度推定できることもあるが,一種のdouble blindといえる評価過程をたどることとなる.したがって著者の肩書きや所属施設に影響されたり,先入観に左右された評価判定は,できるだけ避けられていると言ってよい.

シンポジウム 手根部骨壊死疾患の病態と治療

緒言 フリーアクセス

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.1338 - P.1339

 手根部の骨壊死は月状骨,舟状骨,有頭骨などに発症することが知られている.その原因としては,骨折,ステロイドの大量投与などがあるが,原因が明らかでない特発性の例が少なくない.月状骨と舟状骨の特発性性骨壊死はそれぞれKienböck,Preiserにより1910年に報告されている.
 Kienböck病は活動性の高い人に発症し手関節の柊痛と機能障害を引き起こすが,一定期間の後にはり疼痛が緩解し機能障害も少なくなるという結果も報告されている.一方で,病期が進行すると月状骨が圧潰し手根骨の配列異常を引き起こすため,持続する手関節痛の原因になることを危惧する意見もある.

SLE患者における手根部骨壊死の検討

著者: 斉藤忍 ,   六角智之 ,   徳永進 ,   高橋勇次

ページ範囲:P.1341 - P.1345

 要旨:股関節あるいは膝関節に骨壊死を認めるSLE患者45列90手関節(男性3例6手関節,女性42例84手関節,初診時平均年齢33.2歳)に対し手関節MRIを撮像し,手根部における骨壊死発生頻度および発生部位を明らかにするとともに,骨壊死が疑われたものにはさらに同部位におけるX線所見および臨床症状の有無について調査した.その結果9例14手関節にMRI上,骨壊死病変を認めた.発生部位別にみると舟状骨が最も多く8例13手関節,次いで月状骨3例3手関節,有頭骨1例1手関節であった.X線上異常所見を認めたのは4例5手関節,臨床症状を有したのは3例4手関節であった.以上よりSLE患者の2割に手根部骨壊死を認めた.これは従来考えられていた発生頻度より高く,その要因として手関節が荷重関節でないため症状が発現されにくく,X線上骨壊死病変がとらえにくいことが考えられる.

Kienböck病の治療―橈骨短縮術,橈骨楔状骨切り術

著者: 中村蓼吾 ,   堀井恵美子 ,   中尾悦宏 ,   矢島弘毅 ,   洪淑貴 ,   稲垣弘進 ,   塩之谷香

ページ範囲:P.1347 - P.1352

 要旨:87例のKienböck病に橈骨骨切り術を行った.術後平均54カ月経過観察し,手関節痛は81例(93%)で好結果が得られた.手関節の掌背側可動域は平均16°増加し,握力の健側比は平均9kg改善した.骨切り方法別に成績を比較したが,決定的な差を認めなかった.橈骨骨切り術は成績不良例が少なく,効果が明らかで,本症治療では第一に考えるべき方法である.

Kienböck病に対する治療―部分手関節固定術

著者: 香月憲一 ,  

ページ範囲:P.1353 - P.1357

 要旨:Kienböck病に対する手術的治療は様々なものがあり,いまだ統一された術式はない.月状骨に対する除圧を目的とした手術の1つであるSTT関節固定術は部分手関節固定術の中でも最も広く行われてきた術式でその治療成績も一定の評価を得ている.Hartford病院での71症例の臨床成績は,手関節の可動域は掌背屈域94゜,橈尺屈域39゜,疼痛はexcellentとgoodで78%,患者の82%は現職に復帰していた.以上の手術成績と文献的考察からSTT関節固定術はKienböck病に対する有力な治療法の1つといえる.また病態に応じて一時的固定を選択したり,他の手術と併用することによりさらに優れた治療成績を発揮する可能性がある術式である.

Kienböck病の治療―revascularization procedure

著者: 矢島弘嗣

ページ範囲:P.1359 - P.1365

 要旨:Kienböck病に対して種々の治療法が行われてきた.その1つに壊死に陥った月状骨の再血行を目的とした手術方法がある.血管束移植術は移植された血管束から周囲に向かって血管が新生し、壊死骨の吸収,さらに骨新生が生じ,月状骨のrevascularizationを図ろうとする方法である.この手術は月状骨の圧壊が少ない早期の症例に適応があり,できれば何らかのmechanical supportを期待できる手術と併用するのが望ましい.一方,血管柄付き骨移植術については種々の採取部位,血管柄についての報告がある.最も一般的な方法は橈骨遠位端から骨を採取する方法で,その血管柄としては,1・2区画間動脈,5+4区画動脈,掌側動脈弓が用いられている.血管束移植術に比べ、月状骨のrevascularizationに要する期間は少なくて済み,移植骨自体が圧壊の防止効果もあるため,今後は本手術方法が広く行われるようになると考えられる.

Kienböck病に対する骨核入り筋膜球置換術

著者: 石田治 ,   生田義和 ,   木森研治

ページ範囲:P.1367 - P.1370

 要旨:Kienböck病に対して骨核入り筋膜球置換術を行った27例の術後成績を検討した.この術式は除痛効果に優れた治療法で,早期の社会復帰が可能であった.一方,術前・術後の関節可動域に有意な改善はみられず,長期的にはcarpal collapseは進行していた.しかし,carpal collapseの進行によって,必ずしも臨床症状を呈してくるとは考えられなかった.本術式の適応は中高年や進行期の症例と考えている.

Preiser病の病態と治療

著者: 高山真一郎 ,   中村俊康 ,   長田夏哉 ,   井口理 ,   菊地淑人 ,   堀内行雄

ページ範囲:P.1371 - P.1379

 要旨:舟状骨の特発性壊死であるPreiser病は極めて稀な疾患で,治療方針も確立されていない.今回,Preiser病の治療経験を報告し,病態と治療方針について検討した.症例は3例で,明らかな外傷歴がなく手関節背橈側の疼痛と舟状骨の圧潰が生じた33歳の女性,47歳の男性,33歳の男性例であった.MRIは診断に極めて有用であり,T1強調像で信号強度の低下が顕著で,T2強調像では低信号と高信号の混在する像が特徴的であった.本疾患の治療方針の確立は困難だが、進行が緩徐な例では保存的治療が有効であった.外科的治療を急ぐ必要はないと考えられたが,疼痛が強く舟状骨の圧潰が進行する2例ではそれぞれ血管柄付き第2中手骨移植および血管柄付き橈骨移植(Zaidemberg法)を行い,良好な結果が得られた.

論述

連通気孔構造を有する新規ハイドロキシアパタイトセラミックスの優れた骨伝導能―臨床使用成績とその経時的X線変化による評価

著者: 名井陽 ,   古野雅彦 ,   荒木信人 ,   藤井昌一 ,   冨田哲也 ,   玉井宣行 ,   越智隆弘 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.1381 - P.1388

 抄録:良性骨腫瘍,骨折,炎症性関節疾患の62症例の手術において,気孔間連通構造をもつ新規の多孔体ハイドロキシアパタイトセラミックス(IP-CHA)を骨欠損の充填に使用し良好な臨床成績を得た.lP-CHAは気孔率75%平均気孔径150μ,90%の気孔が径10μ以上の連通孔でつながっており,組織が深部の気孔まで容易に侵入しうる構造を持つ.臨床成績の検討では,全例,術中操作性は良好以上と評価され,副作用,合併症も皆無であった.X線所見による評価では術後1カ月の時点で29%,3カ月で71%の症例で骨硬化像の出現が確認され,3カ月で49%,6カ月では61%の症例で強い骨硬化に伴いIP-CHA顆粒間や骨との間が均一になっていた.IP-CHAは安全性に問題なく優れた骨伝導能を示し,整形外科領域で広く臨床応用可能な新規骨補填材と考える.

手術手技 私のくふう

頚椎棘突起付着筋を最大限に温存する正中縦割式脊柱管拡大術―第2頚椎を含めて

著者: 白石建 ,   谷戸祥之

ページ範囲:P.1389 - P.1394

 抄録:[目的]C2を含めても、棘突起から頚半棘筋と多裂筋を切離せずに行える新しい正中縦割式脊柱管拡大術を案出したので,その手術手技を紹介し,有用性について考察する.[方法]C2は棘突起に付着する5つすべての筋を,C3以下は多裂筋と頚半棘筋を切離せずに,それぞれの椎弓・棘突起を正中縦割して拡大する.[結果]2000年以降,連続型あるいは混合型OPLL,およびdevelopmental spinal canal stenosisを合併した頚椎症性脊髄症21例に本法を行い,全例に症状の改善が得られた.術後に石原法による頚椎前弯度が減少した例はなかった.[結語]本法は頚椎のdynamic stabilizerである深層伸筋を最大限に温存する術式であるため,脊柱管拡大術後の頚椎弯曲異常や頑固な軸性疼痛を予防するうえで,理にかなった術式であると考えられる.

シリーズ 関節鏡視下手術―最近の進歩

梨状筋症候群に対する関節鏡視下局所麻酔梨状筋切離術―新手術手技の紹介

著者: 出沢明

ページ範囲:P.1395 - P.1399

 抄録:梨状筋の緊張や収縮に伴う坐骨神経の絞扼性末梢神経障害に対して内視鏡視下に梨状筋を切離する低侵襲手技を考案した.絞扼性神経に対して手根管症候群では既に内視鏡による切開が開発され優れた成績が報告されている.スポーツ選手をはじめ若年者に多いこの疾患に対し,内視鏡を用いた低侵襲手技による本法は,6例8肢全例に良好な成績が得られたのでその術式を紹介する.われわれの9項目の診断基準のうち5項目以上を満たし,かつ6カ月以上保存療法に抵抗する人を手術適応としている.特に局所麻酔により梨状筋に直接触れてスパスムスを惹起する診断法を考案し,診断率が著しく向上した,本法は梨状筋切離の手技に通常の後方内視鏡椎間板ヘルニア手術の要領で十分に腔の作成と維持は可能である.術後の疼痛の軽減と早期の社会復帰に極めて有用な方法と考える.

座談会

整形外科プライマリケアを考える

著者: 片田重彦 ,   石黒隆 ,   住田憲是 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.1401 - P.1411

1.整形外科プライマリケアとはなにか
 菊地(司会) 今日の座談会は「整形外科プライマリケアを考える」ということで,そもそものきっかけは片田先生と石黒先生が出版された『整形外科プライマリケアハンドブック』(南江堂,2000年4月発行)という本です.この本は今までにない概念と,世の中に対する問いかけが含まれていて大きな反響を呼びました.いかにこういう本が整形外科医に待ち望まれていたか,あるいは運動器疾患に携わるコメディカルの人たちにも共感を持って受け入れられたということで,歴史的な本だと思っています.この本の登場で考えさせられたのは,整形外科プライマリケアという言葉がなぜ日本で出てきたのかということでしたが,その議論を整理するためにも整形外科とプライマリケアの組み合わさった「整形外科プライマリケア」という言葉がどんなことを意味するのかを規定する必要があると思うのです.
 わが国と欧米の「整形外科」という言葉の指す意味を比較すると,欧米ではスペシャリストとしての整形外科で,極端なことを言えば保存療法は含まれない.保存療法や簡単な筋骨格系の疾患は,「プライマリケア,ファミリー・プラクティス」といわれる領域のスペシャリストが欧米ではやっている.日本の整形外科は筋骨格系の診断から治療まで,画像診断を含めて一貫して自己完結の体制でやっている.

専門分野/この1年の進歩

日本脊椎脊髄病学会―この1年の進歩

著者: 山本博司

ページ範囲:P.1412 - P.1414

■脊椎脊髄由来の痛み(主題)
 学会の主題として取り上げ,多くの新知見が発表された.椎間関節の侵害受容器は,腰仙椎部の他の受容器に比べ,有害刺激に対して感受性が高い(山下敏彦).椎間板ヘルニアなど神経根障害に起因する神経因性疼痛の発現には,髄核中に存在する炎症性サイトカイン(TNFα)が関与するが,これは腰髄後角ニューロンの過興奮を誘発する(恩田 啓).さらに,brain-derived neurotrophic factor(BDNF)が関与し,この発現調節にnerve growth factor(NGF)がかかわっていることが示された(小畑浩一).これらの電気生理学的,分子生物学的基礎的研究は,本態的な痛みの制御に道を開くものと思われる.
 椎間板ヘルニアにおける神経根の血流を非接触型レーザー血流計で測定したところ,神経根のレーザー血流測定が症状改善のよい客観的な指標になることを示唆した(檜田伸一).腰椎変性疾患では髄液内のNO量が増加しており,症状の改善とともに,NO量も減少することが示された(木村慎二).神経原性疹痛患者の視床の活動性が,脳イメージング(SPECT)で客観的に評価され,急性期では痛みと反対側の活動が増加し,慢性期になるとそれが低下することがわかった(牛田享宏).

運動器の細胞/知っておきたい

骨の細胞(破骨細胞)

著者: 星和人 ,   川口浩

ページ範囲:P.1416 - P.1417

【破骨細胞の役割】
 骨は,石灰化結晶が沈着している細胞外基質を有しているため,硬くて動かない,死んだような組織であるという印象をもたれることが多い.しかし,骨の中にはたくさんの細胞や有機質が含まれており,それらがおのおのの機能を営むことにより,骨の形状や強度が保たれ,また,損傷を受けたときには即座に活性化されて組織修復へと向かう.
 骨に含まれる細胞は,主に,骨基質を作る骨芽細胞,骨芽細胞が自ら作った基質の中に埋めこまれてできる骨細胞,骨基質を食べる破骨細胞に分類することができる.骨の恒常性は,既存骨を破骨細胞が吸収し,そして骨芽細胞が新たな骨を添加する骨改変現象によって保たれる.破骨細胞は,この骨改変現象の開始時期や部位を決め,さらに骨芽細胞を呼び寄せ,新たな骨形成を誘導する重要な役割を担っている.

整形外科/知ってるつもり

喫煙による椎間板への影響

著者: 松崎浩巳

ページ範囲:P.1418 - P.1418

 最近は喫煙を悪とする風潮のため喫煙者は肩身が狭い.「タバコ即ニコチン」の悪のイメージがあるが,燃焼したタバコには4,000種類の物質が発生する.ガス状成分と粒子状成分に分けられ,前者には一酸化,二酸化炭素,亜硫酸,アクロレイン,シアン化水素酸,クレゾールなど,後者にはニコチン,タールなどがある.ニコチンはその中の1つにしか過ぎない。また,喫煙者と受動喫煙者の煙ではニコチンやタールが後者のほうが3倍高い.それゆえ,受動喫煙者への影響がむしろ大きいと言える.
 腰痛に絡む椎間板変性と喫煙の関係は高い相関がある1).1日に30本の喫煙者のニコチン血中濃度は平均70ng/ml位であるが,家兎にニコチンポンプを用いて平均100ng/mlを8週間投与すると著明な椎間板変性が生じる.この変化はニコチン量と喫煙期間に相関する.この変性のメカニズムは種々考えられるが,ニコチンの主作用は交感神経末端からのカテコールアミン放出による血管収縮である.ニコチンモデルでは椎間板の軟骨板下にある盲端状の血管の変化が著明であり,血管数は正常例(60/1視野),ニコチン例(30/1視野)と1/2にまで減少し,かつ血管の内腔は内皮細胞の腫大や血栓形成により狭小化して,著明な血流障害が生じる.

最新基礎科学/知っておきたい

Osteogenic Protein(OP)-1

著者: 千葉一裕

ページ範囲:P.1420 - P.1421

 1965年,Uristが脱灰した骨基質をラットの皮下や筋肉内に埋め込み骨形成が起こることを証明し,初めて骨形成因子(bone morphogenetic protein:BMP)の存在が確認された10).その後,内外でBMPの抽出と精製が進められ,本邦では早くから高岡らを中心としたグループにより,精力的に研究がなされてきた9).BMPの遺伝子クローニングの成功以来5,11),BMPはその分子構造よりtransforming growth factor(TGF)-βスーパーファミリーに属することが判明し,現在まで30種類以上ものファミリーメンバーが同定されている(図).さらに遺伝子組み換え技術を用いた大量生産が可能となり,BMP-2および4,growth differentiation factor(GDF)-5,そして今回取り上げたosteogenic protein(OP)-11に関する研究は著しい進展をみせた。OP-1はBMP-7とも呼ばれ,その名称はSampathとReddiが骨基質から抽出・可溶化した骨形成能を有するタンパク分画(osteogenic proteins)をコラーゲンマトリックス内に再構成してラットの皮下に移植し,その骨形成能を分析したことに由来している7)

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・53

著者: 土田浩之 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1423 - P.1425

症例:12歳,女子
 主訴:前腕回内外時の手関節尺側の痛みと手関節部尺側背側の隆起
 現病歴:6週間前に転倒し,手をついて受傷した.手関節周囲の痛みがあったが,体育では前転などのマット運動を行っていた.初診する前日に妹をおんぶしようとしたときに手関節尺側に痛みが走り,受診した.受傷後の経過中に手関節尺側背側の隆起がだんだん目立ってきたのを自覚していた.
 現症:尺骨頭は背側亜脱臼を認めるが,徒手的に整復可能である.尺側手根伸筋腱に沿って圧痛がある.手関節の掌屈,背屈とも制限はない.前腕の回内は60°,回外は20°と制限があり,疾痛を訴える.

統計学/整形外科医が知っておきたい

2.2群の平均値の差の検定(t検定)―腐ってもt

著者: 小柳貴裕

ページ範囲:P.1427 - P.1432

 2群の差の検定には,t検定が用いられる.今日のように統計ソフトの普及していない時代には,何でもかんでもt検定という印象もあった.しかし,例えば2群(標本数;m,n)の平均値の差の検定にt検定を用いるには次の3つの制約がある.
 ⅰ.データは間隔尺度であること
 ⅱ.2群とも母集団が正規分布であること
 ⅲ.2群の分散も等しいこと
ⅰはよいが,ⅱ,ⅲはいかにも扱いにくい条件である.現在ではt検定の持つこれらの制約から,分布の型によらないnonparametric検定であるMann-WhitneyのU検定が汎用されていることは周知の事実である。t分布自体は極めて造詣の深い分布であるが,これを利用した検定は果たして21世紀は生き残るものなのか.

国際学会印象記

エジンバラでの国際腰椎学会(ISSLS)に参加して

著者: 小森博達

ページ範囲:P.1434 - P.1435

 さる6月19日から23日まで,第28回国際腰椎学会がScotlandのEdinburghにて開催されました.今回のpresidentは藤田保健衛生大学の吉澤先生でした.Edinburghといってもどこの都市かわからない方も多いようで,ある人にEdinburghに行くと言ったら「シマウマでも見てきて下さい」と言われてしまいました.どうも,アフリカの国(ジンバブエ?)と誤解したようです.Edinburghは英国北部の都市で,北海道よりはるか北に位置していて,学会が行われた時期は日出午前3時半,日没午後9時半でした.また,町全体が世界遺産に指定されている風光明媚な地であり,町中では日本人を含めて熟年夫婦の旅行客を多く目にしました.シェラトンホテルで開催された国際腰椎学会について報告します.
 この学会にはかれこれ9年続けて出席していますが,本学会では腰椎に関連した基礎的・臨床的研究が世界から報告され,日本の学会では決して聞くことができないような報告を聞くことができます.今年もおもしろい発表がいくつもありましたので,個人的な感想を交えて紹介します.

整形外科英語ア・ラ・カルト・102

整形外科分野で使われる用語・その64

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1436 - P.1437

●tibia(ティービィア)
 𦙾骨の“tibia”はラテン語で“笛”のことである.それはその昔に𦙾骨を用いて笛を造っていたからである.一般大衆は“𦙾”を“shin”(シン)というから,𦙾骨は“shin bone”である.私は福岡市の看護学生には“tibia”を“お茶とビール”の合成品,すなわち“tea”と“beer”であると教える.

ついである記・63(最終回)

ミュンヘン

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1438 - P.1440

 私が整形外科の研修を受けたのは1950年代から1960年代であるが,その頃のドイツには今でも整形外科の成書にその名を留めているいわゆる大物教授が何人かいた.そのうちで,最も高名な人はハイデルベルグのキルシュナー教授とミュンヘンのランゲ教授(Max Lange)であった.それで,1962年,私はハイデルベルグからミュンヘンへ向かうことにした.

臨床経験

上腕二頭筋長頭腱炎に対する3D-CTの応用

著者: 中路教義 ,   前澤範明 ,   北澤久也 ,   高山博行

ページ範囲:P.1443 - P.1445

 抄録:3D-CT(3 dimentional computed tomograrhy)は,近年様々な関節疾患に対して利用されてきているが,肩関節慢性疾患に対する利用の報告はない.今回,上腕二頭筋長頭腱炎(以下,長頭腱炎と略す)に対し3D-CTを使用し,病態把握に有用であったので報告する.症例1:69歳男性.症例2:48歳男性.症例3:18歳女性.3例とも結節間溝部に圧痛を認め,長頭腱炎の診断で局注,理学療法などの保存療法で改善しなかった.3D-CTで結節間溝部に骨棘の存在を確認し,手術を行った.手術所見では骨棘とその部位に一致した長頭腱の変性、損傷等を認め,2例に腱固定術,1例に骨棘切除を行った.保存治療に抵抗性である長頭腱炎に対して,原因の1つである骨棘の病態把握のために3D-CTは,術前検査として有用であると考えられる.

症例報告

𦙾骨偽関節に対するイリザロフ創外固定仮骨延長法中に生じた下腿動脈瘤の1例

著者: 新田真吾 ,   高塚和孝 ,   玉木茂行 ,   高木治樹 ,   中山憲 ,   小松朋央 ,   武田拓之 ,   左合直

ページ範囲:P.1447 - P.1450

 抄録:症例は55歳,男性.左𦙾骨偽関節に対してイリザロフ創外固定仮骨延長法を施行した.術後6日目に仮骨延長法開始し,術後42日目に仮骨延長終了.その2日後に左下腿外側部に拍動性腫瘤を認め,超音波,血管造影検査により仮性動脈瘤と診断した.また造影検査で側副血行路が認められたため,塞栓術を施行した.塞栓術後,前𦙾骨動脈の造影が鮮明となり,左下腿外側部の腫瘤も消失した.本症例における仮性動脈瘤の発症機序として血管の微小損傷に加え,脚延長が大きな誘因と考えられた.動脈瘤の診断治療として血管造影および動脈塞栓術が低侵襲で有効であった.

立位時骨盤後傾を伴う人工股関節複数回脱臼例の検討

著者: 加藤充孝 ,   濱上洋 ,   高橋健志郎 ,   永原亮一 ,   岩瀬丈明

ページ範囲:P.1451 - P.1454

 抄録:円背に伴う骨盤後傾が関与した人工股関節の複数回脱臼例につき検討したので報告する.症例は68歳女性.左変形性股関節症に対し人工股関節置換術を施行したが,以後約3年間で歩行時や段差を降りる際などの軽微な誘因で人工関節の脱臼を6回生じた.術後股関節X線像上ソケット傾斜角は42°,前方開角0゜であった.脱臼の整復にあたり筋緊張は良好であった.著しい円背を認め立位姿勢に違和感を認めたため,立位股関節X線像を撮影したところソケット傾斜角55°,前方開角約26°と著しい増大を認めた.側面仙骨軸で骨盤の傾きを評価すると臥位に比べ立位では32°後傾していた.すなわち立位時既に股関節は30°程過伸展している状態であり,段差を降りる際や,歩行時患肢離踵時にはさらに過伸展することになり脱臼を誘発すると思われた.脊椎後弯変形を認める際はソケット設置位置の術前計画,術後の評価は立位股関節像で行う必要があると思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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