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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科36巻2号

2001年02月発行

雑誌目次

視座

整形外科手術後入院治療期間の日米格差

著者: 大橋俊郎

ページ範囲:P.119 - P.120

 1989年(平成元年)に,62歳のアメリカ人男性英語教師の変形性股関節症に対して人工股関節全置換術を実施することになった.手術をするにあたり,どのようなインプラントを挿入するか,その特徴と他のインプラントとの差,また術後はどのようなリハビリを行うか等,細々とした内容を当人とお話しし,その一つ一つをアメリカ・カルフォルニアの自宅近くの整形外科医にX線写真を送って相談しながら,一応納得の上で手術をすることとなった.その中で,手術後の入院の期間について,彼はアメリカでは1週間で退院できるので自分も1週間で退院したいと主張した.小生は当時から原則として約6週間の入院としていたので,最終的に両者の間を取って,順調であれば術後3週間で退院可能と話をつけた.手術後の経過も良く,順調にリハビリも進んでくると彼もようやく日本の入院治療の良さ(?)や,治療費に対する健康保険制度による支払いと,高額医療に対する定額自己負担金のみで手術と入院治療が可能であることを納得できたようであり,最後の4~5日は入院をエンジョイした後,十分な帰宅後の注意事項に耳を傾けて予定通り退院した.
 アメリカも現在は当時よりさらに進み,DRG payment systemによる治療費定額払い制のため,人工股関節や人工膝関節などの手術は3~4日で退院となるようであり,日本ではこの特に短い手術後入院日数だけがわれわれの知るところとなっている.

シンポジウム 舟状骨偽関節に対する治療

舟状骨偽関節の病態と治療上の問題点

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.123 - P.127

 要旨:舟状骨骨折は見落とし易く,骨癒合の得づらい骨折の一つであり,偽関節の頻度が高い.画像診断の進歩,手根骨の運動学の発展,内固定法の改良などに伴い舟状骨偽関節の治療法も少しずつ変化がみられる.舟状骨偽関節の治療については,手術時の進入路,変形の矯正,骨移植の方法,内固定法,scaphoid nonunion advanced collapseの治療など討論しなければならない多くの問題がある.ここでは舟状骨偽関節の発生に関与する因子,診断と治療上の問題点を検討する.

陳旧性舟状骨骨折に対するRusse法の治療成績

著者: 市川誠 ,   生田義和 ,   石田治

ページ範囲:P.129 - P.132

 要旨:当科における陳旧性舟状骨骨折に対するRusse法の治療成績を検討し,本法の適応について検討した.対象は1967年から1995年までに手術を施行した50例のうち追跡調査が可能であった28例とした.内訳は男性26例,女性2例で,手術時年齢は16~53歳(平均26歳)であった.受傷から手術までの期間は3~59カ月(平均15カ月)で,術後経過期間は36~228カ月(平均124カ月)であった.骨癒合率は96%(27/28例)で,外固定期間は6~19週(平均10.5週)であった.radiolunate angleは健側差で,術前-13°から調査時-9°に有意に改善していたが,改善度としてはやや不良であった.調査時5例にDISI変形を認め,そのうち2例に関節症性変化を認めた.陳旧性舟状骨骨折に対しては,外固定期間が短いことやDISI変形の矯正効果が大きい点でRusse法よりも前方楔状骨移植を併用したHerbert screw固定法が有利と考えられ,Russe法の適応はHerbert screwなどの内固定材料が挿入困難な症例や,Herbert screw固定法失敗例などにあると考えられた.

舟状骨偽関節に対するCriss-cross法―手術手技および術後X線評価を中心に

著者: 二見俊郎

ページ範囲:P.133 - P.137

 要旨:舟状骨偽関節の放置例の多くが長期的には関節症を惹起することから,可及的に骨癒合を図るべきであるということで意見の一致をみているようである.しかしながら実際の手術に際しては,骨癒合のみを図ればよいという意見と,生じた変形の矯正をも施行すべきという意見があり,未だに議論の多いところと思われる.筆者らが試みているCriss-cross法は,偽関節によって生じた各種変形の矯正をも意図した手術法であり,術後X線所見から,特に舟状骨短縮を伴う掌屈変形の矯正に有効であった.また,本法の利点はinlay骨移植であると同時にinterpositionalな骨移植法であることと思われる.手術適応に若干の限界,また手術手技に多少のコツが必要であるが,推奨できる手術法の一つと思われる.

舟状骨偽関節に対するHerbert screw

著者: 中村蓼吾 ,   堀井恵美子 ,   中尾悦宏 ,   矢島弘毅 ,   洪淑貴 ,   稲垣弘進 ,   塩之谷香

ページ範囲:P.139 - P.146

 要旨:受傷後6カ月以上経過したX線写真上の舟状骨単独骨折偽関節82例(83偽関節)に整復,掌側骨移植,Herbert screwによる内固定(舟状骨再建術)を原則として治療した.骨癒合は75偽関節(90%)に得られ,手関節痛の軽減,握力の改善を得た.従って,舟状骨再建術は偽関節治療に有力な方法と考えることができる.術後6カ月以内の骨癒合率は近位骨片がMRI T1,T2強調像とも低信号の例で56%,Herbert-Whipple screw使用例で57%,近位1/3骨折で62%と低下した.機能的成績は受傷後5年以上の例で低下した.

陳旧性舟状骨骨折に対する骨膜筋膜弁付き骨移植術

著者: 河井秀夫

ページ範囲:P.147 - P.151

 要旨:陳旧性舟状骨骨折8例に対して,橈骨遠位部掌側から骨膜と方形回内筋筋膜の一部を付けた移植骨を採取して,骨移植術を行った.内固定術は1.2mm大のKワイヤを使用し,2例にはHerberts crewも併用した.骨癒合は術後5~14週,平均9週で得られた.本法は陳旧性舟状骨骨折に対する治療法の一つとして考慮される手術法である.

難治性舟状骨偽関節に対する治療―近位型ならびにsalvage手術

著者: 田中寿一

ページ範囲:P.153 - P.160

 要旨:舟状骨骨折-偽関節治療に残された問題といえる中枢型偽関節と,新たな問題としてのHerbert screw法治療失敗例のsalvage治療に対する,mini-Herbert screwと3種の骨移植(海綿骨・皮質海綿骨en-bloc/・骨釘strut bone)を併用する術式につき述べた.本術式は血管柄付き骨移植でなくても,これら難治性偽関節治療に高い確率で癒合が期待できる有用な方法であることを報告した.

舟状骨偽関節による関節症の治療

著者: 安部幸雄 ,   木戸健司 ,   土井一輝 ,   服部泰典 ,   山本久司 ,   河合伸也

ページ範囲:P.161 - P.166

 要旨:SNAC(scaphoid nonunion advanced collapse)wristの治療経験につき報告した.Stage Ⅰでは舟状骨偽関節への骨移植により,骨癒合と手根骨アライメントの再建および橈骨茎状突起切除の適応であり,stage Ⅱ,Ⅲに対しては近位手根列切除術か部分手根骨固定術の適応となる.近位手根列切除術は可動域は60%程度,握力は60~100%に維持され,アライメント不良や偽関節の危惧はなく固定期間も短いなどの利点から,早期社会復帰を望むstage Ⅱに適応となる.部分手根骨固定術は約60%の可動域と約70%の握力の回復が得られstage Ⅲの絶対的適応である.アライメント再建の確実性,骨癒合率を考慮すると,Watsonの4-corner fusion法が月状骨一有頭骨間のみの固定術よりも優れていると考える.

舟状骨骨折に対する各種screwの検討

著者: 藤哲 ,   佐々木和広 ,   ,  

ページ範囲:P.167 - P.172

 要旨:舟状骨骨折の治療に対して,現在本邦で使用可能な内固定材料についてその概略を説明した.各種screwの普及と骨折部を展開しない経皮的screw固定が現在広く受け入れられている.各種cannulated screwはHerbert法に比べ手技的に容易である.圧迫力に関しては,実験的にはAcutrack screwが最も優れ,以下3.5mm A-O screw,Herbert screw,Herbert-Whipple screwの順に弱くなるとされている.臨床的には各screwの成績の差は現在のところ明確ではない.Original Herbert screwでは,術者による成績の差が認められ技術的な問題点は指摘されている.現時点では,Herbert screwと同じ形態をもつcannulated typeであるdouble thread screwとA-O screwが使用しやすいと考えている.

論述

MR venographyからみた腰部脊柱管狭窄の病態

著者: 佐藤勝彦 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.175 - P.180

 抄録:MR venographyを用いた脊椎静脈叢の形態を評価し腰部脊柱管狭窄の病態を検討した.腰部脊柱管狭窄による神経性間欠跛行を有する14例,対照として腰痛のみを有する6例と腰下肢痛を経験したことがない健常人9例に対しMR venographyを施行した.その結果,健常人では従来の静脈造影法で得られる画像とほぼ同様の脊椎静脈像が得られた.腰痛のみを有する症例の半数で健常人と同様の所見が得られた.残りの半数では神経根の増強像などの異常所見が認められた.一方,神経根型間欠跛行では責任神経根とその周辺の増強像が特徴的で,馬尾型間欠跛行では硬膜外静脈叢の拡張像が特徴的であった.これらの所見から,腰部脊柱管狭窄の循環に関する病態は神経障害型式により異なっており,神経根型間欠跛行の発生には責任神経根の伴走血管の血流障害が,馬尾型間欠跛行の発生には硬膜外静脈叢の循環障害が関与していると推定された.

腰椎多椎間変性すべり症でのすべり発症因子のX線学的検討

著者: 若見朋晃 ,   井口哲弘 ,   栗原章 ,   佐藤啓三 ,   笠原孝一 ,   丸野英人

ページ範囲:P.181 - P.186

 抄録:腰椎変性すべり症の発症因子に関する報告は多いが,それらの多くは前方すべりについてであり,後方すべりも含めて検討を行った報告は少ない.また,今までのすべりの発症因子に関する報告は単椎間すべり例と非すべり例との比較による検討であり,2椎間すべり例も含めて検討した報告はない.そこで今回,単椎間すべり例と隣接した2椎間すべり例についてX線学的計測を行い,比較することにより,前方すべりと後方すべりのそれぞれの発症因子を検討した.その結果,前方すべりでの単椎間例と2椎間例の比較では,すべり椎にかぎり椎弓角の水平化やW型の椎間関節が有意に認められ,これらが発症に関与していると考えられた.しかし,すべり椎間に椎間板高の狭小化は認めなかった.一方,後方すべりでの単椎間例と2椎間例の比較においては,すべり椎間に椎間板高の狭少化の傾向がみられたものの,今回の調査では特に有意な因子は認めなかった.

手術手技 私のくふう

慢性関節リウマチによる外反母趾に対する第1中足骨短縮骨切り術(Weil法)

著者: 橋本英雄 ,   政田和洋 ,   安田匡孝

ページ範囲:P.187 - P.192

 抄録:第1中足趾節関節の破壊が軽度なRAの外反母趾に対して,Weilが報告した第1中足骨の短縮骨切り術を行い良好な成績が得られているので紹介する.この方法は,第1中足骨を遠位背側から近位底側に向けて斜めに骨切りして,短縮と同時に中足骨の内転も矯正する方法である.骨切り面が荷重方向に対して垂直となるため早期の荷重が可能である.本法を行い1年以上経過したRA患者7人13足に対して,術前術後の臨床評価とX線評価(外反母趾角と第1,2中足骨間角)を行った.全例に骨癒合がみられ,疼痛は1例を除いて消失した.外反母趾角は34.1°から15.6°,第1,2中足骨間角は13.9°から12.6°と改善した.今後,本法はRAに伴う外反母趾変形に対するMTP関節を温存する術式として選択肢の一つとなり得る.

整形外科Philosophy

婆娑羅(バサラ)教授夜話―臨床医として,大学人として(前篇)

著者: 赤松功也

ページ範囲:P.193 - P.197

●初章
 ご多忙な皆さま方,冬の夜長(よなが),しばし私の話にお耳をお貸し下さいませんか,ご退屈とは思いますが.まず,冒頭の婆娑羅(バサラ),これは室町時代の流行語で,物事をずばずばと遠慮なく言ってのける日立ちたがり屋を言ったそうでございますよ.私めもどちらかというとそっちの方で,かなりはたにご迷惑をお掛けいたし,教授としては比較的自由奔放に行動してきたといささか反省の思いがあります.こんな男の一代話を聞いて頂けるあなた様も結構バサラ的なところがおありと思いますが如何でしょうか.
 さて,このたび医学書院から「“整形外科philosophy”を」というお話を頂きましたが,とてもとてもそんな柄じゃあないと,一度はお断りしようかとも思いましたが,この世に生を受けて60有余年,整形外科医として40年余,そのうちの16年間を新設医大初代教授として務め上げた小生,仮にこの話がお若い方々の人生のご参考に少しでもお役に立つとしたらと考え,厚かましくもお引き受けしたという訳ですよ.もとより浅学菲才,とても大きなことを言ってのける身分じゃあありません.そこで,先人の立派なお言葉も随分とお借りいたしました.いやあ昔の人は偉いもんです,それでは不躾ながらそろそろ始めさせて頂きましょうか.

最新基礎科学/知っておきたい

ニューロン活動の光学的計測法

著者: 吉田英彰

ページ範囲:P.200 - P.201

 神経組織内のニューロン活動を計測するためには,従来,微小電極法などの電気生理学的手法が用いられてきたが,神経回路網機能解析には多数個のニューロン活動電位を同時記録することが必要と考えられる.しかし,電気生理学的手法では多数個のニューロンに微小電極を同時に刺入しての活動電位同時記録や,微小電極を刺人できない微小な,あるいは脆弱なニューロンからの活動電位測定は不可能に近い.一方,臨床でも用いられているMRIやPETを用いた方法はニューロン活動を直接計測する方法ではなく,神経活動に依存した血流の増減からみた代謝性変化を計測するものであり,空間解像度も極めて低く,微小領域の精細な解析は不可能である.従来の方法が持つこのような制約,問題点を打破し,リアルタイムに多ニューロン活動を同時解析,画像化するための方法として,膜電位感受性色素(voltage-sensitive dyes)を用いた光学的計測法が発展してきた.その詳細については総説5,9,10)を参照していただきたい.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・46

著者: 高倉義典

ページ範囲:P.203 - P.207

症例:24歳,男性(図1)
 主訴:右足の内側部痛
 現病歴:6カ月前に内がえしを強制されて,右足を捻挫する.当初は足関節外側部痛が著しく,内側にも痛みがあったが,あまり気にならなかった.しかし,受傷2カ月後には外側部痛は消退したが,長途歩行時や硬い靴を履くと足の内側に疼痛が残存していた.

国際学会印象記

『第39回国際パラプレジア医学会』に参加して

著者: 松本守雄

ページ範囲:P.208 - P.209

 第39回国際パラプレジア医学会(IMSoP,会長Professor Richard Jones)は,2000年オリンピックおよびパラリンピックの余韻さめやらぬシドニー市のWentworth Hotelで,11月3~5日までの日程で開催された.赤道の反対側にあるシドニー市は春のすがすがしい気候であり,オリンピックのためにrenewalされた街は非常に美しく清潔な印象をもった.
 ご存知の読者も多いと思われるが,IMSoPはStoke Mandeville病院のSir Ludwig Guttmanらにより創設され,オリンピックイヤーにはオリンピック,パラリンピックと同じ都市で開催されるのが恒例となっている.

整形外科英語ア・ラ・カルト・96

整形外科分野で使われる用語・その58

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.210 - P.211

●stretching exercise(ストレッチング)
 日本語では“ストレッチ”と言われている.勿論,英語でも“stretch”とだけ言われることもあるが,通常は“stretching”や“stretching exercise”である.
 これは腱と筋肉や靱帯を伸ばす運動のことで,猫や犬が運動を開始するときに背筋を伸ばす動作を見て,この運動が始まったとも言われている.

ついである記・54

ボローニャ再訪

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.212 - P.213

 私の眼にはイタリアという国は何とも不思議な国に映る.人種的に色々なルーツを持つ人々が混然として生活しているばかりでなく,古いものと新しいもの,美しいものと醜いもの,勤勉と怠情,深い信仰と不信心,富と貧しさなどが社会生活の中で様々な形をとって混在しているからである.勿論,世界のどの国へ行ってもそのようなものの混在は多かれ少なかれ見られるわけだが,イタリーではそれ等の対比があまりにも大きく鮮明であるのでびっくりさせられる.例えば,古代ローマの遺跡であるカラカラ浴場で上演される現代オペラや超モダンなファッション・ショー,斬新なデザインのフェラーリやフィアットなどのイタリア車が走る石畳の道で物乞いをしている多くの路上生活者,献身的な勤勉さをもった修道女や医師によって支えられている近代的な医療と無数の麻薬中毒者やスリ,ひったくり.このような際立った新旧・明暗の矛盾が日常生活の中で普通に混在するのがイタリーの特長であるとも言えよう.

臨床経験

尺側列形成不全に伴う肘屈曲拘縮に対してイリザロフ創外固定器を用いて治療した1例

著者: 谷内孝次 ,   川端秀彦 ,   柴田徹 ,   松井好人 ,   稲垣友里 ,   山下仁司

ページ範囲:P.215 - P.218

 抄録:尺骨の完全欠損を伴う尺側列形成不全の重度肘屈曲拘縮に対して,イリザロフ法の軟部組織延長により伸展可動域の拡大を図った.延長により肘の完全伸展は容易に得られたが屈曲が減少したため,結局4カ月にわたって延長器を装着したままで肘の屈曲・伸展を繰り返すことを必要とした.術後2年6カ月経過して,自動伸展角は40°の増加,総関節可動域は20°の増加を得た.先天性の筋骨格系異常に伴う関節可動域制限は多くの解剖学的異常の複合によって惹起されており,軟部組織の拘縮はその一因である.イリザロフ法は時間をかけて無理な緊張をかけることなく軟部組織を延長することができる方法であり,本症例の肘関節拘縮には有効な治療法であった.

SLEの治療中,結核性腱鞘炎を合併した1例

著者: 大島学 ,   福居顕宏 ,   山内亨 ,   高倉義典 ,   大川隆太郎

ページ範囲:P.219 - P.223

 抄録:近年,結核の罹患率は再び上昇し,膠原病やAIDSに合併した結核感染が最近の問題となっている.膠原病に対しステロイドを投与することで,細菌感染に対する感受性が増大し,結核の合併が時折見られている.今回,われわれは52歳女性のSLEの治療中,右示指に結核性腱鞘炎を発症した1例を経験したので報告する.この症例は肺外結核であり,胸部X線写真上には明らかな異常陰影が見つけられなかった.滑膜炎の診断のもと手術を行ったところ米粒体の存在が認められ,かつ組織学的検索により,乾酪壊死を伴う類上皮細胞の増生を認めた.結核感染を疑い,病巣の可及的切除と抗結核療法を行った.術後3年の現在,若干の可動域制限が残存するものの,結核の再発は見ていない.今回のようなステロイド投与患者における四肢の慢性炎症でステロイドの局所注入が奏効しないときは,結核感染をも念頭に入れて診察を進めねばならない.

脊椎カリエスに対するinstrumentation手術後に炎症が慢性化した1例

著者: 高田秀夫 ,   北野喜行 ,   堀本孝士 ,   野口学 ,   大崎能樹 ,   羽藤泰三

ページ範囲:P.225 - P.228

 抄録:症例は58歳女性.腰背部痛出現し,前医にて脊椎カリエスと診断され前方固定術十後方instrumentationを施行された.その後,腸骨採骨部より膿瘍が出現し当院を紹介された.数回にわたる洗浄・掻爬では治癒せず,instrumentの抜去によって炎症の鎮静化が得られた.病巣が拡大しinstrumentに菌が付着したためbiofiimを形成したと思われる.この膜は,抗生物質などを透過させ難くし,また細菌表面を覆って細胞膜の抗原性を弱め,生体防御機能の働きを鈍くするため,炎症が慢性化したものと思われる.結核菌は他の一般細菌に比べてbiofilmの形成が少ないということで,最近脊椎カリエスに対してinstrumentationを使用し良好な結果を得ている報告が多いが,炎症が慢性化する場合には早期にinstrumentの抜去が必要である.

Kienböck病に合併した手根管症候群の1例

著者: 森本忠嗣 ,   角光宏 ,   櫛田学 ,   井手衆哉 ,   山口鉄生 ,   本川哲

ページ範囲:P.229 - P.232

 抄録:Kienböck病に合併した手根管症候群の1例を経験した.症例は66歳女性で,左手指のしびれ,左手関節痛を主訴に受診した.Lichtman分類stage Ⅲ BのKienböck病に合併した手根管症候群と診断し,手根管開放術,母指対立再建術に加えて骨核入り腱球置換術を施行した.術後4年経過時点で疼痛,しびれ,ADL障害なく生活している.本症例における手根管症候群発現には中高年女性特有の解剖学的・内分泌的要因に加えて,分節化した月状骨掌側骨片による機械的要因の関与が推察された.

腰痛を主訴に受診した炎症性腹部大動脈瘤の1例

著者: 佐藤正樹 ,   大熊雄祐 ,   柴田圭一 ,   増田彰男

ページ範囲:P.233 - P.235

 抄録:炎症性腹部大動脈瘤が腰痛の原因であった症例を経験したので報告する.患者は52歳,男性.1997(平成9)年11月25日,誘因なく高熱を伴い,腰痛が出現した.近医より坐薬を処方されたが,腰痛と微熱が持続した.同年12月8日,当科を受診した.理学所見,腰椎X線では異常はなかった.血液検査上,WBC 11,300,CRP 10.8,ESR 123/hと炎症反応を認めた.同年12月16日,精査目的に入院した.腰椎MRIで腹部大動脈瘤を認めたので,腹部造影CTを施行し炎症性腹部大動脈瘤と確定診断した.腹部触診にて,拍動性の腫瘤を認めた.同年12月22日,人工血管置換術を施行した.瘤の内膜は欠損しており切迫破裂を起こしていたものと思われた.手術直後より腰痛は消失した.炎症性腹部大動脈瘤は激しい腰腹痛と発熱を伴うことが特徴である.緊急性を要する場合も多いだけに,腰椎の理学所見に乏しい腰痛患者を診察する場合には,本症を鑑別診断に入れておくことが必要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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