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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科36巻5号

2001年05月発行

雑誌目次

視座

整形外科理学療法とリハビリテーション

著者: 藤野圭司

ページ範囲:P.575 - P.576

 近年,整形外科領域でリハビリテーションと理学療法という言葉が混同して(あるいは同義語として)使われるようになり,その違いが曖昧となってきた.むしろ整形外科においては,本来の『理学療法』という言葉が消えつつあるように思える.その原因は,リハビリテーションという言葉が整形外科の中で充分に咀嚼されないまま安易に使われ過ぎるようになったためではないだろうか.日常の診療の中で,簡単に「リハビリをしましょう」などと言うが,その中の多くは単なる物理療法であったりする.
 1989(平成元)年までの診療報酬点数表では「理学療法料」という項目があり,その中に「運動療法」と「消炎鎮痛を目的とする理学療法」という項があった.ところが,1990(平成2)年には「消炎鎮痛を目的とする理学療法」が整形外科的処置となり,理学療法より外された.1992(平成4)年には「理学療法料」という項目がなくなり,「リハビリテーション料」となり,その中に「理学療法」が入り,さらに1996(平成8)年には理学診療科の標榜が廃止され,リハビリテーション科に統一された.これらの一連の流れは,整形外科医がリハビリテーションと理学療法の違いを明確にしないまま,放置してきたことと無縁ではなかったと思われる.

論述

転移性脊椎腫瘍に対する手術的治療とその成績

著者: 川井章 ,   原田良昭 ,   杉原進介 ,   竹内一裕 ,   尾崎敏文 ,   井上一 ,   田中雅人 ,   甲斐信生 ,   中原進之介

ページ範囲:P.577 - P.583

 抄録:1990~1999年の10年間に当科で外科的治療を行った転移性脊椎腫瘍87例の治療成績を検討した.術式は後方法68例,前方法10例,前方十後方法4例,脊椎全摘術5例であった。手術による疼痛,麻痺,ADLの改善率は各々81.9%,50.6%,60.3%,有効率は88.0%,54.2%,60.3%であった.全症例の手術後累積生存率は1年:57.3%,2年:35.4%,3年:22.1%であった.肺癌,肝癌例は術後1年以内に大多数の症例が死亡していた.転移性脊椎腫瘍に対して,よりevidence-basedな治療方式を確立するためには,正確な予後予測に基づいたprospective studyを行うことが重要である.

小皮切による手根管開放術に併用した小指伸筋腱による母指対立再建術の治療成績

著者: 中村敏夫巳 ,   中河庸治 ,   小野浩史 ,   水本茂

ページ範囲:P.585 - P.590

 抄録:先端の発光する小切開剪刀を用いた手根管開放術と同時に小指固有伸筋腱による母指対立再建を行った症例につき,その成績を調査した.対象は,手根管症候群に伴う母指対立不能例で小指固有伸筋腱移行を行った10人10手であり,術後ピンチ力,橈側および掌側外転角,母指と小指の関節可動域,Kapandji testを用いて機能評価した.術後ピンチ力は平均2.9kg,橈側,および掌側外転角は各々平均64°,77°,Kapandji testは平均8.9点であった.日本手の外科学会母指対立機能評価ではexcellent:6例,good:2例,fair:1例,poor:1例であった.母指対立再建の力源として小指固有伸筋を使用した場合,移行腱にプーリーが不要,腱移植が不要,筋力が充分であるなどの利点がある.小指固有伸筋腱移行術は手技が簡便であり,腱採取による機能欠損も少なく母指対立再建の一方法として有用であった.

高齢者の大腿骨頚部内側骨折に対するAustin-Moore型人工骨頭置換術の術後成績

著者: 渡辺慶 ,   石井卓 ,   横田文彦 ,   平野徹

ページ範囲:P.591 - P.595

 抄録:当科で高齢者の大腿骨頚部骨折に対しAustin-Moore型人工骨頭置換術を施行した49例50股において,予後と術後成績について調査し,その有用性について検討を行った.
 退院時患者の85%は歩行可能であったが,最終調査時44%が死亡あるいは歩行不能となっていた.歩行不能となった症例は痴呆またはパーキンソン病合併例が多かった.1年生存率は94%,5年生存率は60.7%であった.術後distal migrationの進行は大部分に認めたが,術後2年以内に安定し,それに伴い疼痛も消失する傾向があった.

偽痛風患者の肩関節X線像

著者: 谷口泰徳 ,   玉置哲也 ,   簗瀬能三 ,   中尾慎一 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.597 - P.601

 抄録:今回われわれは,膝関節偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症)患者33例の両肩関節のX線写真をもとに,結晶沈着の部位および頻度,関節症性変化などについて調査したので報告する.症例は男性10例,女性23例,年齢は63~87歳,平均78.2歳であった.全例とも膝関節にX線上石灰沈着を認めた.今回の対象症例の偽痛風の診断は,McCartyの診断基準により行われ,9例はdefinite,24例はprobableと判定された.膝関節偽痛風患者の肩関節の50%に石灰沈着が見られ,その沈着は,腱板付着部の大結節部(39%),肩峰下(26%),上腕骨頭軟骨と関節包(15%),結節間溝(6%)などに観察された.一般に稀とされる肩関節症変化が,偽痛風患者の半数以上に観察され,石灰沈着と変形性肩関節症変化の出現の間に有意な関連性が認められた.

股関節疾患からみたHip-Spine症候群(第1報)―局麻剤の関節内注入と神経根ブロックによる病態の検討

著者: 武田浩一郎 ,   菊地臣一 ,   佐藤勝彦

ページ範囲:P.603 - P.609

 抄録:股関節疾患による疼痛の他に腰痛や下肢痛を合併していた30例に対し,局所麻酔剤の股関節内注入と腰神経根ブロックによる疼痛の変化と腰椎や股関節の手術後における自覚症状の変化について検討した.また,腰部脊柱由来の疼痛ありと判定された症例に対しては腰椎X線写真の評価を行った.
 結果は以下の通りである.股関節部以下の疼痛を合併していても,約1/3の症例ではその疼痛も股関節由来の痛みである.また,疼痛の局在のみから疼痛源となっている臓器を同定することは必ずしも容易ではない.股関節に対する手術の後に,腰椎由来の症状が軽減したり,逆に馬尾症状が新たに発生する症例が認められた.股関節の手術を実施する際には腰椎由来の症状が合併していないか確認する必要がある.同時に,画像から腰仙椎部神経症状発生の危険因子がないかどうかの評価も必要である.

シリーズ 関節鏡視下手術―最近の進歩

肘関節の鏡視下手術

著者: 青木光広 ,   桐田卓 ,   和田卓郎 ,   山下敏彦 ,   土田芳彦

ページ範囲:P.611 - P.615

 抄録:技術と光学機器の発達により,関節鏡手術は飛躍的な進歩を遂げた.本邦では1980年代の後半より肘関節鏡手術が普及したが,視野が狭いことと皮下の筋膜組織にゆとりが少ないため,長時間にわたる鏡視下手術には限りがある.この報告では,比較的短時間で鏡視下手術が可能な肘関節疾患を挙げて,症例を基にその手術手技の実際と有用性を紹介する.離断性骨軟骨炎,外側型弾発肘,肘部管症候群などが良い適応となる.

座談会

第一線の医療現場からみた明日の整形外科

著者: 大井利夫 ,   那須耀夫 ,   稲波弘彦 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.617 - P.628

 菊地(司会) 本日は,整形外科医療の第一線の現場で実際に働いている方々が,これまでの10年で何を感じて,これからの10年,21世紀の10年に向かってどう道を拓かなければならないか,これからも整形外科が繁栄を続けるためには何を変えていかなければならないか,というグラッドストーン(Gladstone)ばりの論法で,過去との対比をしながらお話していただきたいと思います.
 まず初めに,整形外科のアイデンティティーとも関連して保険診療の支払基金で問題になるのは,整形外科医の専門性が眼科などと比べたらきわめて低いのではないかという点です.例えば,理学療法につけたお金の4割が内科や他の科の先生に流れていって,整形外科用に当てたお金が必ずしも整形外科に廻っていないのは,整形外科自身に問題があるのではないかという指摘が結構あります.そんな観点から,整形外科の専門家としての今までの実績,評価,次に現在の問題点,そして最後に今後10年というふうに纏めてみたいと思います.

整形外科philosophy

運動器外科を意識した整形外科の位置付け

著者: 桜井実

ページ範囲:P.629 - P.633

●整形外科とは何を意味するのか
 整形外科という言葉は東京大学初代の田代義徳教授がドイツ語のOrthopedieを日本語に翻訳したものであることはよく知られている.そして,殆どの教科書の緒言にその経緯が述べられているように,18世紀のフランスのNicolas AndryがL'Orthopédieなる医学書を出版したのがきっかけで,身体corpsの変形defformitétesを矯正しcorrigerかつ予防prévenirする医学の領域を提唱して冠した名称であった.-pédieはギリシャ語のpediaに通じる子供の意味と,足を表わすラテン語のpedesも兼ね備えた上に,pedagogyという教育学の響きをも持っている.筆者も長い間,学生の講義を担当していたがその冒頭で,わが整形外科のロマンティックな哲学を説いたものであった.三木威勇治先生の整形外科学入門をひもとくと,最初の整形外科の定義が拡大解釈されて,形のみでなく機能の回復を狙ったものであることが強調されているが,von Lorenzの先天股脱に血道を挙げていた日本の整形外科の実態はどうも診療科名に暗示されていた気配を感じない訳ではない.
 整形外科は漢字だから中国由来の言葉だが,今現在,台湾を含み中国ではplastic surgeryを言い,orthopaedicsは骨科というそうである.

専門分野/この1年の進歩

日本リウマチ・関節外科学会―この1年の進歩

著者: 井上一

ページ範囲:P.636 - P.638

 第28回日本リウマチ・関節外科学会が2000(平成12)年10月20日・21日に岡山市で開催され,盛況のうちに終わることができた.本学会はリウマチ外科研究会から発展し,長い歴史の中からリウマチ外科の領域に大きな足跡を残してきた.
 本学会の演題を中心にリウマチ関節外科における最近の話題を挙げ,問題点と将来の展望について述べ,この1年の進歩とさせていただきたいと思う.

整形外科/知ってるつもり

SLAC Wrist,SNAC Wrist

著者: 水関隆也

ページ範囲:P.640 - P.642

【SLAC Wrist】
 SLACとはscapholunate advanced collapseの略語である.Watsonら5)が1984年に命名した手関節症に対する用語であり,英語のslack(ゆるい)と発音が同じでSLAC Wristの病因を示しているところが妙である.彼自身の報告によると,4,000例を超す手関節のX線写真から120例のSLAC変性を確認したという.手根間靱帯の破綻が原因で生ずる手関節症にはその進展に規則性がみられることを発見し,これを分類した.本邦での出現頻度に関する報告は見当たらないが,欧米のように高くないというのが筆者の正直な印象である.

境界領域/知っておきたい

PET:positron emission tomography

著者: 内田研造 ,   馬場久敏

ページ範囲:P.644 - P.646

【PETとは】
 Positron emission tomography(PET)は,ポジトロン(陽電子)放出核種を用いる新しい核医学検査法のひとつであり,全身の各臓器,組織の血流や代謝の変化が断層像として表わされ,さらにはその定量化が可能な検査法である.小型のサイクロトロンを用いて作り出せるポジトロン核種には炭素-11(11C),窒素-13(13N),酸素-15(15O),およびフッ素(18F)などがあり,検査目的に応じて種々の化合物に標識されてPET検査に用いられている.PETは,従来のガンマ線放出核種を用いるアイソトープ検査と比較すると,ポジトロン放出核種を用いるため,解像度と定量化に優れた画像が得られること,また使用するアイソトープが生体構成元素であるため,標的組織の代謝状態が観察できるという利点を有している.
 1996(平成8)年4月より15O標識ガス剤によるPET検査が保険診療として認められ,現在,臨床研究として,脳組織心臓の虚血性疾患および血管障害,各臓器に発生する腫瘍および転移性腫瘍の検索に有用視されている検査法である.

ついである記・56

VeneziaとTrieste

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.648 - P.649

●文明の交差点
 過去数千年の間に世界に興った幾つかの偉大なる文明や宗教は人類に大きな遺産を残したが,異なる文明や宗教の境界部においては物凄い闘争のエネルギーが衝突し,無数の人々の血が流されてきた.そして,そのような地域の内の幾つかでは,今もなお多くの人々が貧困にあえいでいたり,また,死の恐怖におののかされたりしている.
 アドリア海周辺はそのような文明や宗教の衝突の場として,歴史的に最も顕著な地域であったと言えよう.そのアドリア海の最も奥深くに位置する港町がヴェネツィア(Venezia)とトリエステ(Trieste)である.この2つの港町は僅かに120km程を隔てた対岸にありながら,地形的に著しく異なった町であるばかりでなく,歴史的にも文化的にも異なった背景を持っているので,その対比が些か面白い.

臨床経験

Larsen症候群に伴う頚椎後弯変形2例の治療経験

著者: 松岡孝志 ,   金澤淳則 ,   和田英路 ,   宮本紳平 ,   米延策雄 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.653 - P.657

 抄録:Larsen症候群に伴う頚椎後弯変形2例を治療し良好な結果を得たので報告する.
 症例1は男児で皿様顔貌,両股・両膝亜脱臼があり,Larsen症候群と診断されていた.生下時より頚椎の後弯変形があり,後弯増強とともに四肢麻痺の増悪,呼吸不全が出現した.入院時の後弯角は110°で,術前の直達牽引では後弯を矯正できなかった.側方進入による前方除圧固定術およびハローベスト装着を施行した.手術時年齢は2歳11カ月であった.術後の後弯角は70°に改善した.しかし,移植骨の脱転が生じたため,これを整復しLuque sublaminar wiring法による後方固定術を追加した.四肢麻痺は改善し,呼吸不全は消失した.術後8年の現在,後弯角は70°で後弯の進行は認めない.

症例報告

下垂足を初発症状とした腰椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 田中利弘 ,   佐藤隆弘 ,   田澤浩司 ,   望月充邦 ,   佐々木和広

ページ範囲:P.659 - P.662

 抄録:下垂足の原因は腓骨神経麻痺に起因するものが多いといわれているが,今回われわれは下垂足を初発症状とした腰椎椎間板ヘルニアの1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
 症例は34歳,男性.朝起床時より左下垂足があるのに気がついた.左下肢に疼痛はなく,ごく軽度のしびれと知覚障害を認めた.筋力は左前𦙾骨筋,腓骨筋が[0],長母趾伸筋,長趾伸筋が[1]~[2-]と著明に低下していた.SLRは陰性であった.腓骨神経伝導速度は正常で,画像所見ではMRI,脊髄造影にてL4/5レベルで硬膜嚢を前方より圧排するヘルニアを認めた.手術はL4椎弓切除およびヘルニア切除術を行い,術後下垂足は回復した.本症例の如く下肢痛を全く認めず下垂足を初発症状とする症例の場合,従来いわれている腓骨神経麻痺だけでなく腰椎疾患も考慮すべきであると思われた.

米粒体形成を伴った非特異的滑液包炎の1症例

著者: 亀井誠治 ,   吉田盛治 ,   平博文 ,   徳丸進一 ,   園田広典 ,   津村弘

ページ範囲:P.663 - P.666

 抄録:手関節に発生し米粒体を伴う滑液包炎の報告は稀である.通常,慢性関節リウマチや結核を基礎疾患として発症することが多く,肩関節に発生することが多い.本症例では,手関節に発生した腫瘤として腫瘍性疾患も否定できなかったため,切開生検を行い,米粒体を伴う滑液包炎の診断を得た.ツベルクリン反応,培養検査,病理組織所見などから,RA,結核,非定型坑酸菌症は否定的で,本症例は非特異的な滑液包炎と診断された.

Larsen症候群に合併する頚椎後弯症の1経過観察例

著者: 宮本敬 ,   清水克時 ,   太田牧雄 ,   斉藤満 ,   徳山剛 ,   坂口康道 ,   細江英夫

ページ範囲:P.667 - P.670

 抄録:進行性の頚椎後弯症を合併するLarsen症候群の1例を1歳時より2年半の間,経過観察した.患児は3歳半時に転落事故にて死亡する転帰となり,その死因を脊柱管狭窄の存在した上位~中位頚髄損傷による中枢性呼吸停止と推定した.頚椎後弯症を合併するLarsen症候群の自然経過について,麻痺の出現,突然死等より予後不良とする報告があり,また手術治療に関しても麻酔困難,骨癒合不良,術後呼吸器感染等の問題点があるとされている.本症例では死亡する直前まで神経学的異常は認められず,手術治療に関して両親の同意を得ることはできなかった.症例を呈示するとともに治療面において問題点の多い本疾患について文献的考察を加えた.

頚椎脱臼骨折後遅発性に発生した椎骨動脈閉塞症の1例

著者: 柳橋寧 ,   斉田通則 ,   大矢卓 ,   飯田尚裕

ページ範囲:P.671 - P.674

 抄録:第5頚椎脱臼骨折後に発生した椎骨動脈閉塞症が原因で死亡した1例を経験した.症例はC6髄節以下の完全麻痺で,C5/6椎間関節のinterlockingを伴う脱臼骨折に対し,一期的にまず後方から整復とC5-6棘突起wiring,次いで前方固定術を行った.術後2日目,一過性の意識消失発作があり,術後3日目,再度意識消失,呼吸停止となり,人工呼吸器管理を行うも術後17日目に死亡した.MRAで両側の椎骨動脈閉塞が確認された.頚椎損傷に続発する椎骨動脈損傷の合併頻度は低くはないが,無症状に経過し,その発生に気付かれない場合が多い.稀に重篤な症状で死亡する例が存在し,本症による症状発現をみた場合,速やかに対処する必要がある.診断には侵襲の少ないMRAが有用で,早期発見のために必須の検査と考える.

肩関節直立脱臼の2例

著者: 柳浦敬子 ,   鍋島祐次 ,   安井慎二 ,   藤田郁夫 ,   藤井英夫

ページ範囲:P.675 - P.678

 抄録:稀な肩関節直立脱臼の2例を経験した.症例は63歳男性および68歳女性で2症例とも非常に類似した臨床像を呈していた.肩関節の外転強制にて発生し初診時,患側上肢は挙上位で固定されており,上腕骨頭は腋窩に触知された.疼痛とばね様抵抗のため上肢の下垂は不可能であった.神経血管損傷を疑わせる所見は認められなかった.X線像では上腕骨頭は関節窩下方に脱臼しており,大結節骨折を合併していた.全身麻酔下に徒手整復を施行したところ,脱臼は容易に整復された.
 肩関節直立脱臼は稀な外傷であり,その発生頻度は全肩関節脱臼のうち約0.5%とされている.肩関節に過外転力が加わった時に発生し,前方脱臼とは病態が異なる.整復にはtraction-counter traction法が用いられ,再脱臼は稀で合併損傷の予後も良好である.

髄内釘併用骨延長術の治療経験

著者: 白濱正博 ,   井上明生 ,   永田見生 ,   坂井健介

ページ範囲:P.679 - P.683

 抄録:近年,骨延長術に髄内釘を併用することで,創外固定器装着期間を短縮できるようになり,われわれも2症例経験した.症例1は9cmの左大腿骨外傷性骨短縮症で,初回は通常の骨延長術で4cm延長し,2回目は髄内釘を併用し5cm延長した.症例2はmetaphysial dysplasiaの低身長例で,右下肢に対して通常の脚延長術を施行し,左下肢に対して髄内釘を併用し大腿骨,𦙾骨それぞれ6cm脚延長術を施行した.創外固定器を用いた骨延長術では,ピン刺入部感染、延長器抜去後再骨折や関節拘縮など合併症もあり,創外固定器装着期間も長期間となる.髄内釘併用骨延長術は,一長管骨に髄内釘と創外固定器を装着するため,手技的にも難しく,物理的にも適応が困難な症例も多い.しかし,従来法より早期に創外固定器を抜去でき,膝ROMの早期回復や,患者への負担が軽減されるため,症例を選べば非常に有効な方法と思える.

第4腰椎椎体内より発生したと思われる巨大神経鞘腫の1例

著者: 大槻周平 ,   金明博 ,   馬場一郎 ,   阿部宗昭

ページ範囲:P.685 - P.689

 抄録:極めて稀な腰椎椎体内より発生したと思われる神経鞘腫を経験したので報告した.患者は48歳,女性.主訴は右下腿外側部痛であった.単純X線像で第4腰椎椎体内の骨透亮像がみられ,CT,MRIでは椎体から連続して腹腔内と脊柱管内に巨大な腫瘍像を認めた.手術は二期的に行い,前・後方からの腫瘍切除と固定術を行った.腫瘍はゴム様の硬度を有し大きさは約9×11×8cmで,病理組織学的診断は神経鞘腫であった.

半膜様筋腱による弾発膝の1例

著者: 三尾太 ,   大谷俊郎 ,   松本秀男 ,   須田康文 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.691 - P.694

 抄録:半膜様筋腱による稀な弾発膝を経験したので報告する.症例は32歳男性で,13年前より両膝関節の弾発現象が生じ,膝関節後内側部の滑液包炎の診断で近医で滑液包摘出術を数回施行されていた.右膝関節の弾発現象は消失したものの左膝に弾発現象が残存したため当科を受診した.弾発現象を生じる前後のMRIプロトン強調画像と術中所見から,本症例の病態は大腿骨内側顆後面と半膜様筋腱の機械的摩擦により,半膜様筋滑液包が肥厚して弾発現象が生じたものと考えられた.治療は滑液包の摘出のみでは不十分で,術後早期に滑液包が再発したため半膜様筋腱の切離,移行が必要であった.術後1年8カ月の現在,弾発現象の再発は認められず社会復帰しているが,膝関節のわずかな過伸展傾向が認められるため,さらに長期の経過観察が必要と考えられる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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