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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科36巻8号

2001年08月発行

雑誌目次

巻頭言

第16回日本整形外科学会基礎学術集会―整形外科における21世紀の基礎医学の展望―を開催するにあたって

著者: 生田義和

ページ範囲:P.912 - P.914

 整形外科領域の中で,大変重要な位置を占めている日本整形外科基礎学術集会を私どもが開催させていただきますことは,広島大学整形外科学教室にとりましても,同門会会員にとりましても,誠に名誉なことであります.また,図らずも21世紀最初となりましたこの学術集会を広島で開催できますことを大変光栄に存じております.会期は2001(平成13)年10月18日(木),19日(金)の2日間ですが,これに続いて20日(土)の午後に市民公開講座を予定しております.今学会は,新しい世紀の幕開けですので,新しいものに挑戦する気概,将来の研究成果に夢を託す気持ち,後に続く若き研究者へのメッセージなどを脳裏に描きながら,平凡ですが心を込めて「21世紀 基礎医学の展望」をキャッチフレーズとして掲げました.
 また,ややもすれば独りで歩みがちな基礎研究を,限りなく臨床に近づけたいと考えていくつかの企画を立てました.

論述

多発性末梢神経鞘腫瘍の分類と悪性末梢神経鞘腫瘍の発生

著者: 生越章 ,   堀田哲夫 ,   畠野宏史 ,   川島寛之 ,   長谷川和宏 ,   今泉聡 ,   守田哲郎 ,   小林宏人 ,   遠藤直人

ページ範囲:P.915 - P.922

 抄録:多発性神経鞘腫瘍はいくつかの疾患群に分類される.その鑑別点と悪性末梢神経鞘腫瘍malignant peripheral nerve sheath tumor(MPNST)の発生について検討した.過去30年間に経験した多発性神経鞘腫瘍は115例であり,National Institutes of Health(NIH)の診断基準にのっとるとneurofibromatosis(NF)1が78例,NF2が7例,その他schwannomatosisが15例,segmental NFが2例,データ不足のため分類不能13例であったが,おのおのの混合型はみられなかった.MPNSTはNF1例のみに14例発生していた.鑑別点としては腋窩小色素斑,虹彩過誤腫がNF1に特異的で重要であり,カフェオレ斑はNF1以外の病型にもしばしばみられ6個以上に及ぶことがある.NF1以外にはMPNSTはほとんど発生しないことからこれら病型を臨床的に判別することは重要である.

転移性胸椎腫瘍に対する後方除圧・固定術の手術成績

著者: 菅原修 ,   宮澤学 ,   白川久統 ,   高橋英也 ,   入江徹 ,   長谷川潤 ,   末松典明

ページ範囲:P.923 - P.927

 抄録:転移性胸椎腫瘍に対する後方除圧・固定術の手術成績を検討した.1994年6月から1998年1月までの手術症例のうち既に死亡した11例を対象とした.原発巣は肺癌が4例,肝癌・前立腺癌が各2例,甲状腺癌・多発性骨髄腫・原発不明が1例であった.初診時より進行する麻痺を呈し緊急手術を余儀なくされる症例が多かった.術後11例中10例で疼痛の改善を認め,11例中8例でFrankel分類で1段階以上の麻痺の改善を認めた.しかし,徳橋の術前予後判定点数を用い,術後生存期間を検討すると,7点以上の5例では18.3±8.8カ月であったのに対し,6点以下の6例では4.0±1.4カ月と有意(P<0.01)に短かった.手術の目的は,除痛と神経麻痺の改善により,余命期間におけるQOLを向上させることにあるが,徳橋スコア6点以下の症例への適応は慎重であるべきであり,治療の目的や位置づけの十分な説明が必要である.

高齢者の大腿骨頚部骨折に対するクリニカルパスの効果

著者: 伊藤圭吾 ,   加藤光朗 ,   出口正男 ,   申正樹 ,   佐久間陸友 ,   金物壽久 ,   中村恵子

ページ範囲:P.929 - P.933

 抄録:クリニカルパスの使用で医療行為のばらつき・経験のみの医療を抑え,迅速で確実な医療を行えるようになる.大腿骨頚部骨折は高齢者に多くみられ,活動レベルの低下による入院日数長期化が問題となっている.そのため受傷前の活動性になるべく早期に復帰させることを目標にクリニカルパスを導入し,その効果を検討した.65歳以上の大腿骨頚部骨折患者105例を対象とした.クリニカルパス導入前後の術式別および歩行能力別の平均在院日数の変化および退院時の歩行能力低下の推移を比較検討した.入院日数の短縮は達成することができたが,歩行能力のもともと低い患者の歩行能力の維持としては不十分であった.実際この群には,クリニカルパスは最初に入院期間の設定を呈示し,早期退院について家族に納得させる手段として用いられていることが多かった.入院期間の短縮という意義からだと効果はあがるが歩行能力の維持については問題があった.

足関節外側靱帯付着部裂離骨折例の検討

著者: 三谷誠 ,   小林勝 ,   藤井正憲 ,   井口晋司

ページ範囲:P.935 - P.939

 抄録:過去10年間に当科で手術を施行した足関節外側靱帯損傷症例138例のうち裂離骨折(軟骨骨折を含む)がみられた症例の臨床像を調査し,治療上の問題点について検討を行った.対象は19例20足(男性12例,女性7例)で,手術時年齢は平均19歳(7~67歳)である.距骨傾斜角,距骨前方移動比はそれぞれ術前平均14.2±4.2°,73.7±11.0%であったが追跡調査時平均6.7±2.7°,67.2±5.8%となり全例に不安定性の改善を認めた.術前のX線写真上骨片が認められたのは16足,X線写真上骨片を認めず術中に軟骨片が確認されたのは4足で,この4足は全例13歳以下であった.また10歳以下の足関節外側靱帯損傷例には全例裂離骨片を認めた.足関節外側靱帯損傷例の治療の目的は不安定性を残さないことであり,特に若年例の不安定性の強い症例は裂離骨折を念頭に置き観血的に治療し,裂離骨片は整復固定を行うのが確実である.

高度内反変形膝に対する人工膝関節置換術の治療成績

著者: 冨田文久 ,   青木喜満 ,   宮城登 ,   三浪明男 ,   安田和則

ページ範囲:P.941 - P.947

 抄録:Femoro-tibial angle(FTA)200°以上の高度内反変形膝に対して行われた人工膝関節置換術(TKA)の中長期治療成績を調査し検討した.症例は7例9膝で,内反膝の病態から骨欠損型と靱帯不全型の2つに分けられた.手術は内側軟部組織解離術のみを行い,内側側副靱帯はその𦙾骨付着部の約2/3を部分剥離し,後十字靱帯は原則的に温存した.骨移植は骨欠損型の全膝に行われた.調査時,膝外反不安定性はなかったが,靱帯不全型の1例2膝で軽度の内反不安定性が認められた.米国Knee SocietyのClinical rating systemでは平均Knee scoreは術前27点が調査時88点,平均Function scoreは術前30点が調査時39点に増加した.平均FTAは術前205°が調査時175.7°と改善し,移植骨はすべて生着した.X線学的に靱帯不全型の1膝のみに𦙾骨インプラントZone1に弛みを認めた.高度内反変形膝のTKAにおいては軟部組織解離により内反変形を十分に矯正し,病態に応じた適切な手術方法を選択することが重要である.

検査法 私のくふう

MRIによる遠位腰椎神経根の三次元表示

著者: 松本守雄 ,   ,   ,   ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.949 - P.951

 抄録:MRIを用いて腰椎神経根を十分遠位まで三次元的に描出することを試みた.対象は健常者ボランティア6名であり,fast spin echo法により強いT2強調画像を得た後,三次元再構成ソフトを用いて神経根の三次元画像を作成した.結果として,神経根は後根神経節よりさらに遠位まで3次元的に描出可能であった.硬膜外静脈叢が発達した例では画像が劣化した.本画像は脊柱管外側病変による神経根走行異常の把握に有用であり,将来的にはMRIガイド下の腰椎疾患治療などにも応用可能であると考えられた.

整形外科/知ってるつもり

末梢神経のくびれ

著者: 田崎憲一

ページ範囲:P.952 - P.954

【はじめに】
 圧迫や外傷などの原因がない特発性末梢神経麻痺のなかに,手術時に神経束や神経幹に砂時計のくびれをみることがある(図1).この末梢神経の「くびれ」は,後骨間神経では安部1)(1966),Comtet(1975)以降,前骨間神経ではEnglert2)(1976),中川・矢部7)(1978)以降,手術症例の報告が散見されるが,単発神経炎(mononeuritis)や叢部神経炎neuralgic amyotrophyとの関係で最近特に注目されている.
 くびれは,肘近傍屈側で前骨間神経や後骨間神経にみられ,通常の神経絞扼部位(entrapment point)とは別な部位にみられる(図2).あたかも神経幹や神経束を捻ってくびれさせたようにみえ,1カ所のこともあれば2カ所以上のこともあり,複数の神経束に及ぶこともある4,5,6).このソーセージのつなぎ目のようなくびれが神経束に発生するメカニズムは,極めて不可解であり,いまだ意見の一致をみていない.また,神経炎による麻痺症例の中に長期にわたって改善しないものが存在し,神経炎においてはこのくびれが神経回復の予後と大いに関係があると考えられる.

運動器の細胞/知っておきたい

骨芽細胞

著者: 酒井昭典

ページ範囲:P.956 - P.957

【骨芽細胞の起源】
 骨芽細胞の起源は,中胚葉に由来する未分化間葉系細胞(間葉系幹細胞とも呼ばれている)であり,骨膜と骨髄から供給される.軟骨細胞,線維芽細胞,筋細胞,脂肪細胞と共通の起源である.未分化間葉系細胞から成熟した骨芽細胞に至る分化と増殖の過程には,各種のサイトカイン,成長因子,ホルモンが密接に関与している.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・49

著者: 土田浩之

ページ範囲:P.959 - P.962

症例:38歳,男性
 主訴:左手関節の運動時痛
 現病歴:1年前に15kgほどの物を持ち上げたときに,「ブチッブチッ」という音とともに左手関節部に強い疼痛と腫脹を生じた.強い痛みはほどなく治まったが,重い物を持つときや手関節に体重をかけたときに痛みを感じるようになった.最近,手関節痛が増悪してきたため,来院した.軽作業労働者であり,左手関節には他に外傷の既往はない.
 初診時現症:患側の手関節可動域は背屈40°,掌屈60°と制限され,握力は患側14kg,健側27kgであった.

整形外科英語ア・ラ・カルト・98

整形外科分野で使われる用語・その60

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.964 - P.965

 過去15年間勤めた福岡市南区の那珂川病院の院長を辞し,この4月から那珂川病院の近くに,「“よろず病(やまい)と健康相談所”木村専太郎クリニック」を開かせていただいている.このために4月から7月まで4カ月のお休みをいただき,この8月からの久し振りの執筆である.

ついである記・59

ロワール川

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.966 - P.968

 フランスといえば私達はすぐにパリを連想するほどに,フランスに於けるパリの都会的文化の重みは大きい.しかし,パリやマルセイユなどの都会を離れて,列車や車で地方へ旅をすると,フランスはどこまでも田園風景が続くような大農業国であることに気付かされる.その田園風景の中に点在する田舎の集落や古城は互いに見事な調和を見せていて,他の国の田舎には無い酒落た雰囲気を醸し出している.
 特に,ロワール川(Roire)沿いの田舎には何十という中世以来の古城が森の中や,あるいは,川に臨んで点在していて「世界で最も洗練された田舎」を演出している.ドイツのライン川沿いの丘の上に立つ多くの古城や,ウエールズのスノードン山系に点在する古城も美しいが,それらの多くは廃墟と化しており,過去の血腥い歴史や物悲しい伝説に色どられている.これとは対照的に,ロワール川沿いに立つフランスの古城群の多くは,今も華やいだ雰囲気に満ち,建物や庭園もよく手入れがなされており,中には,かつての貴族の子孫が今も住み続けている城さえある.

症例報告

環軸関節とくも膜下腔との間に交通性を認めた環軸関節亜脱臼の1例

著者: 谷口浩人 ,   山本直也 ,   中津井美佳 ,   高山美紀 ,   小橋宏江 ,   土田徹 ,   仁田政宣 ,   伊藤達雄

ページ範囲:P.971 - P.974

 抄録:慢性関節リウマチ歴8年の40歳男性.強い後頭,後頚部痛を主訴とする環軸関節亜脱臼で,腱反射亢進を伴うRanawatのclass Ⅱであった.術前の病態評価目的にて側方穿刺による環軸関節造影を施行した.関節穿刺の際に脳脊髄液の流出を認め,環軸関節に続いて,くも膜下腔が造影された.関節腔とくも膜下腔との交通が環軸関節造影により確認された報告はない.本例では,環軸関節の炎症,隣接する硬膜との間に癒着を生じ,さらに不安定性により連続性と交通路が生じたと考えられた.環軸関節後方固定術の際に,環軸関節からの脳脊髄液流出を認めたが,病態把握ができていたため冷静に対処できた.慢性関節リウマチによる環軸関節炎,環軸椎間不安定性による極めて稀な病態と考えられた.

両第1趾に著明なchisel toe変形を来した慢性関節リウマチの1例

著者: 新井隆三 ,   高橋忍 ,   琴浦良彦 ,   鈴木毅一 ,   石部達也 ,   嶋靖子 ,   青山隆 ,   秋山泰高

ページ範囲:P.975 - P.977

 抄録:慢性関節リウマチ(RA)の第1趾変形のうち,IP関節が過伸展変形するものをJacobyらはchisel toe変形として区別している.両側に著しいchisel toe変形を来した症例を経験したので報告する.症例は69歳女性の重症RA患者である.右第1趾にはIP関節過伸展変形に対するIP関節固定術と,その後に発生したMP関節屈曲拘縮に対するMP関節固定術を別々に施行した.左第1趾にはIP関節過伸展変形とMP関節拘縮傾向に対してIP関節固定術とMP関節解離術を一期的に施行した.第1趾IP関節変形の機序として,前足部の荷重時疼痛を回避するために内在筋が緊張してMP関節の機能的拘縮を生じ,その結果歩行時のIP関節過伸展が強制された可能性が考えられた.治療に関しては,右第1趾でも左第1趾と同様に,MP関節解離術を一期的に施行していればMP関節屈曲拘縮をある程度予防できた可能性があると思われた.

先天性𦙾骨完全欠損症の1例とその解剖所見

著者: 兼子秀人 ,   柏木直也 ,   鈴木茂夫 ,   瀬戸洋一 ,   二見徹 ,   森本佳秀

ページ範囲:P.979 - P.982

 抄録:先天性𦙾骨完全欠損症に膝関節離断術を行い,離断肢の解剖所見を得ることができた.症例は初診時生後2カ月の男児である.1歳時まで経過観察を行ったが,𦙾骨近位の骨化や膝関節自動伸展はみられなかったため,温存術は困難と考え,膝関節離断術を施行した.術中所見では𦙾骨近位は存在せず,膝関節伸展機構は痕跡程度しか存在しなかった.離断肢の解剖所見では一部の筋腱は確認できなかった.足関節は平面状で,他動的可動性に乏しかった.本疾患に対する患肢温存術には膝関節,足関節共に問題点が多く指摘されており,温存術の際には術前に十分評価し,その欠点も考慮し,患者家族にも理解を得る必要がある.また,患肢温存術を選択した際に起こりうる多数回手術などの欠点が切離断術の欠点よりもよりも大きいと判断された場合には,切離断術を行った方がよいと考えている.

糖尿病性末梢神経障害に伴う踵骨裂離骨折の1例

著者: 笠原眞 ,   鷲見大輔 ,   若山三郎 ,   鷲見雄希 ,   寺田晶子 ,   寺田信樹 ,   山路哲生 ,   山田治基 ,   安藤謙一 ,   関恒夫

ページ範囲:P.983 - P.985

 抄録:踵骨骨折のうちアキレス腱付着部を含む裂離骨折は比較的稀であり,その発生機序についても種々の意見が述べられている.今回われわれは糖尿病性末梢神経障害に伴う踵骨裂離骨折を経験し,neuropathic fractureに相応する症例と思われた.術後皮膚潰瘍を合併し,このような症例に対しては慎重な経過観察を要すると考えられた.

腰部脊柱管内に発生した滑膜嚢腫の1例

著者: 須田義朗 ,   斉藤正史 ,   塩田匡宣 ,   柴崎啓一

ページ範囲:P.987 - P.989

 抄録:Instrumentを用いた腰椎固定術後の上位椎間に生じた脊柱管内滑膜嚢腫の1例を経験した.症例は36歳の男性で,L5/S1後方椎体間固定術の2年後より腰痛,右下肢痛が生じた.画像所見よりL4/5の嚢腫性病変を疑い,手術により腫瘍を摘出して症状は消失した.病理所見より滑膜嚢腫と診断した.嚢腫発生の原因として,手術操作やinstrumentによる上位椎間関節損傷が考えられた.

ダウン症候群に合併した股関節脱臼の1例

著者: 明田浩司 ,   西山正紀 ,   二井英二 ,   平田仁 ,   内田淳正

ページ範囲:P.991 - P.994

 抄録:ダウン症候群は,筋緊張低下に加え,靱帯弛緩性,関節過度柔軟性を有するため,様々な整形外科的な合併症が報告されている.ダウン症候群に合併する股関節脱臼の頻度は約3%であり,2歳から7歳の期間に発症することが多い.股関節X線像では特徴的な像を呈し,臼蓋形成不全は認めない.治療に関しては,手術療法および保存的療法が報告されている.症例は4歳,女児である.1歳11カ月時,誘因なく右下肢を動かさなくなり,股関節X線像にて右大腿骨頭の脱臼を認めた.股関節外転装具にて24時間装着を6カ月間,その後夜間のみの装着を10カ月間行うことにより良好な結果を得た.脱臼出現早期より治療し,大腿骨頭の良好な求心位を得ることが重要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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