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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科36巻9号

2001年09月発行

雑誌目次

視座

独り言:医科大学と医療の維(医)新

著者: 永田見生

ページ範囲:P.1001 - P.1002

 いま,社会は刹那の時代であり,ここで政治,経済,教育制度に変革が行われなければ日本丸は沈没する.事実,少しずつではあるが社会に変化が起こり始めている.良き方向へ向かえば良いがと憂慮する人は少なくあるまい.
 医療は大きく変化しつつある.2004(平成16)年から実施される卒後研修(スーパーローテーション)と独立行政法人化は,その移行に向けて準備が急がれている.

論述

骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折および破裂骨折に対する経皮・経椎弓根的リン酸カルシウム骨ペースト椎体内注入術―手技の紹介と短期成績

著者: 中野正人 ,   平野典和 ,   酒井清司 ,   渡辺裕規 ,   有留敬之輔

ページ範囲:P.1003 - P.1009

 抄録:骨粗鬆症性胸腰椎骨折に対する経皮・経椎弓根的リン酸カルシウム骨ペースト(CPC)椎体内注入術を考案,施行し,その有用性と問題点を検討した.麻痺のない陳旧性破裂骨折3例に対して,レントゲン透視下,経皮・経椎弓根的に椎体内掻爬や整復操作を行った後にCPCを注入した.新鮮圧迫骨折8例に対しては,椎体内操作を行わず経皮・経椎弓根的CPC椎体内注入を施行した.年齢は61~93歳(平均79歳)であり,損傷椎体高位はT10;1例,T12;4例,L1;3例,L2;1例,L3;1例,およびL4;1例であった.術後経過期間は平均約5カ月であった.椎体変形の矯正損失を認めたが,椎体圧壊の防止には有効であった.すべての症例において術後早期より徐痛効果がみられ,術後平均7.7日で離床し得た.本法は骨粗鬆症性胸腰椎骨折に対し有効な低侵襲手術と考えられる.

第4腰椎変性すべり症における椎間孔狭窄

著者: 鈴木秀和 ,   古瀬清司 ,   阪口哲朗 ,   大友通明 ,   藤森元章 ,   三神貴 ,   今給黎篤弘

ページ範囲:P.1011 - P.1016

 抄録:腰椎変性すべり症における椎間孔狭窄の臨床病態について検討した.1997年より3年間に当科で手術を施行した第4腰椎変性前方すべり症54例を椎間孔狭窄群(F群)11例,外側陥凹・中心性狭窄群(LC群)43例に分け,術前後JOA score,%slip,%posterior disc height(%PDH),すべり椎体後縁の高さと終板から椎弓根の距離の比(%pedicle height,%PH),lumbar index(LI)を比較検討した.F群では全例に下肢痛を認め,8例は座位時の下肢痛が強かった.Kemp徴候は2例陽性であった.両群間で術前後JOA score,%slip,%PDHに差はなかったが,%PH,LIはF群が有意に低かった.これよりF群ではすべりの進行と共に椎体後縁の終板障害を来し,椎弓根低位を招来していると考えられた.第4腰椎椎間孔狭窄は見逃されやすい病態であるが,%PHが30%未満の場合は念頭に置く必要がある.

器械

新しく開発されたvariable angleスクリューを備えた頚椎前方プレートシステム“Atlantis”の短期使用経験―その特徴と注意点

著者: 新島京

ページ範囲:P.1017 - P.1021

 抄録:頚椎前方固定用プレートシステムの次代機種として新たに開発されたAtlantisシステムを頚椎変性疾患の6症例に使用し好結果を得た.このシステムの特徴は,1)2種類のコンセプトの異なる(variableおよびfixed angle)スクリューを組み合わせて使用することによって3種類の固定性が選択できる,2)スクリュー形状に改良を加えて引き抜き強度を高めた,3)ロッキング方式がより確実かつ簡潔である,4)プレートホールディングピンをはじめとする器械類はマイクロサージャリーにおいても使いやすい,ことなどである.特性を熟知し適正に用いれば,Atlantisシステムは有用で,その適用範囲は広いが,安易にvariable angleスクリューに頼ると,本来の固定性が損なわれるので乱用は厳に慎むべきである.

シリーズ 関節鏡視下手術―最近の進歩

手関節鏡視下TFCC部分切除術と手関節鏡視下TFCC縫合術

著者: 中村俊康

ページ範囲:P.1023 - P.1028

 抄録:2000(平成12)年4月の保険点数改訂で手関節鏡視下三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)切除・縫合術の点数が新たに加えられたことから,本手術件数の増加が予想される.しかし,TFCCの解剖学的知識が不足したり,適応の間違いや手関節鏡視手技に慣れないと成績不良に陥る可能性がある.本稿では筆者の鏡視下TFCC部分切除術,鏡視下TFCC縫合術の手技を紹介し,これまでの経験から得た手術の適応,要点,コツを紹介する.

専門分野/この1年の進歩

日本骨折治療学会―この1年の進歩

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.1030 - P.1033

 骨折は,整形外科診療の中で中心的な位置を占め,初期診療での成否が患者の患肢の機能の回復と日常生活復帰に大きく影響します.しかしわが国における旧来の大学では,骨折患者の診療に供する病棟もなければ専門的に研究する整形外科医も決して多いものではなく,骨折治療は第一線病院に任されてきたといっても過言ではありません.本学会は会員数が2,200名を超え,大きな学会に成長してきました.このような中で日本骨折治療学会が担う役割は大きく,事務局をあずかり,さらに第27回の本学会の運営を任されたことに大きな責任を感じながら準備を進めて参りました.おかげさまで251題に及ぶ多くの演題をいただき,900名を超す会員の参加を得て,7月6,7日の両日パシフィコ横浜で開催することができました.今回の学会の話題から,いくつかを取り上げてご紹介いたします.

運動器の細胞/知っておきたい

骨髄間質細胞―再生医療における新たなる治療戦略

著者: 越智健介 ,   今林英明 ,   戸山芳昭 ,   秦順一 ,   梅澤明弘

ページ範囲:P.1034 - P.1036

【不遇だった骨髄間質細胞】
 古くから,骨髄には血液細胞と「その他の細胞」が共存していることが知られていた.しかし医学の歴史の中であまりに長い間,骨髄は造血するためだけにあると考えられてきた。そのため「造血細胞以外の細胞」,つまり骨髄間質細胞(図1)が注目されることは少なかった.
 20世紀後半に入り,血液細胞はヒト細胞を分子生物学的に解析する際の格好の対象と考えられるようになった.爆発的な分子生物学/血液学の発展の中で,骨髄間質細胞は造血細胞の分化・誘導を促進する役割を担っていることが判明し,造血細胞を支持する微小環境を形成するものとして主に知られるようになった.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・50

著者: 土田浩之

ページ範囲:P.1037 - P.1040

症例:49歳,男性(図1)
 主訴:右母趾の腫脹と滲出液
 現病歴:過去に両足趾すべてが凍傷となり,治療を受けた.その後皮膚は萎縮性になり,寒冷時に皮膚潰瘍を来すことがあった.7カ月前にものを落として右母趾は発赤したが,自然におさまった.それから3カ月後に腫脹と趾尖部からの滲出液を認めた.これは他医で抗生剤投与を受けてソーセージ様の腫脹を残していったんは治癒した.今回は2週間前から滲出液が続いている.

国際学会印象記

『COMPARTMENT-SYNDROME UPDATE 2001第2回国際シンポジウム』に参加して

著者: 紺野愼一

ページ範囲:P.1041 - P.1042

 COMPARTMENT-SYNDROME UPDAYE 2001国際シンポジウムが,3月9日から11日の日程でドイツのIRSEE MONASTERYで行われた.第1回目は1996年に32名のシンポジストにより行われている.第2回目の今回は,招待されたシンポジストは68名で,日本からは私を含めて4名が参加した.主催はMILITARY HOSPITAL OF ULM外科で,会長がウルム大学外科のH.GERNGROSS教授であった.私はコンパートメント症候群に興味のありそうな大学院生3名を引き連れて参加した.
 われわれがフランクフルトのホテルに到着すると,礼儀正しいウルム大学の医学生が,われわれと南アフリカから参加したMars先生をホテルのロビーで待っていてくれて,われわれを大きなワゴン車に詰め込み,彼の運転でウルムまで平均150km/時の猛スピードで運んでくれた.医学生に「アナタハナゼコノヨウナメンドクサイシゴトヲヒキウケタノデスカ」と私が下手な英語で聞くと,彼は「英会話の勉強になるからです」と真面目な顔で答えてくれた.午後8時からウルム大学内でwelcome partyが行われ,私達は,岡山大学の大田先生とともに,図々しくも会長のテーブルに陣取り,なごやかにドイッビールを満喫した.

統計学/整形外科医が知っておきたい

1.独立性の検定とその問題点―X2の怪

著者: 小柳貴裕

ページ範囲:P.1044 - P.1047

 離散データ解析において通常整形外科領域で多用される独立性の検定(適合度検定)は,2×2分割表(2×2 contingency table)である(表1).

 すなわちtable上で,縦軸,横軸に表された2つの特性において患側度数Oi,期待度数Eiとすれば,1904年より,

 PearsonのXo2=Σ(Oi-Ei)2/Ei…式①

割表では

 Xo2=N(ad-bc)2/efgh

が,期待度数からの偏りの指標として用いられてきた.これが帰無仮説すなわち縦と横は独立であるとの仮説のもとで,nが十分に大きいとき,近似的に自由度1のX2分布に従うことから,偏りの有意性を判定することができる,となっている.ところがわれわれ整形外科で扱う分割表は総データ数nが比較的小さい場合が少なくない.

整形外科英語ア・ラ・カルト・99

整形外科分野で使われる用語・その61

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1048 - P.1049

 先月4カ月振りにこの原稿を書かせていただいた.久し振りに執筆するとなかなか調子が出ないし,かつワープロの操作法を忘れる.現在私はクリニックで,電子カルテを使用している.最初は大変であったが,ワープロのキーボードには慣れていたために,意外に簡単にコンピュータに慣れた.困ったのは,富士通のワープロが親指シフトの仮名入力であったため,コンピュータのローマ字入力になかなか馴染めなかったことである.しかし電子カルテも4カ月使うとだんだん慣れて,今はこのコンピュータを上手に使っている.今後電子カルテが普及してくるが,私が使用している電子カルテは非常によくプログラムされている.

ついである記・60

Bohemia

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1050 - P.1052

●ボヘミアの友人
 チェコ共和国は私が好きな国の一つである.私と家内は今までに4回この国を訪ねたことがあるが,いつもプラハのカレル大学のマテヨウスキー教授一家が揃って私達を空港へ出迎えて下さった.マテヨウスキー教授はかつて骨腫瘍の手術で先駆的な業績をあげた人で,物静かな人柄であるが,英・独・仏語を母国語のように自由に喋る文化人でもある.その息子も骨軟部悪性腫瘍に対する治療法を専門に研究している整形外科医で,腫瘍関連の国際学会では今もよく出会う.マテヨウスキー夫人はかつて外国大使館の仕事を長らくやっていた人で,華やかで,とても明るい積極的な性格の持ち主であった.どういう訳か,夫人はチェコでは珍しい佛教徒で,佛陀に深く帰依していた.3人とも何度か来日したことがあるが,夫人は来日すると必ず奈良や高野山の寺々へ参詣し,佛像を拝むことを無上の喜びとしていたようであった.あるときは,京都から一人で奈良へ出かけ,夕食パーティーの時刻になっても帰ってこないので,教授が青くなって心配したことがあった.「奈良の夕暮れの雰囲気に魅せられて帰る気にはとてもなれなかった」と言って,遅くなってから夫人が晴ればれとした笑顔を見せて帰ってきたときには,教授も私達も安堵を通り越して聊か呆れた気持ちになったことを想い出す.

臨床経験

転移性骨腫瘍患者の血漿中matrix metalloproteinase-9およびtissue inhibitor of metalloproteinases-1濃度の検討

著者: 伊藤雅人 ,   鷲見大輔 ,   鷲見雄希 ,   鈴木匡史 ,   松岡元法 ,   寺田信樹 ,   山田治基

ページ範囲:P.1055 - P.1058

 抄録:Matrix metalloproteinase(以下MMP)は悪性腫瘍の浸潤,転移における細胞外基質分解の過程で重要な役割を果たすことが明らかにされている.今回,なかでも骨転移に最も関係が深いとされるmatrix metalloproteinase-9(以下MMP-9)と,その阻害因子であるtissue inhibitor of metalloproteinases-1(以下TIMP-1)の血漿中濃度を骨転移患者を中心に測定し,臨床的検討を行った、対象は健常者11例,担癌患者50例の計61例であった.担癌患者はさらに骨転移群,骨転移は認めないが肺,肝臓など,骨以外への臓器に転移を認める症例群で分け各群間の濃度比較,同一症例での骨転移前後の濃度変化を検討した.MMP-9濃度は骨転移群で有意に高値を示し,骨転移診断における有用性が示唆された.

経皮的レーザー椎間板除圧術(PLDD)施行後に増悪した腰椎変性すべり症の1治験例

著者: 尾立征一 ,   高橋忍

ページ範囲:P.1059 - P.1062

 抄録:すべり椎間高位の椎間板に対して経皮的レーザー椎間板除圧術(以下,PLDD)が施行され,その後に前方すべりが増強して症状が増悪したために手術が必要となった症例を経験したので報告する.症例は47歳女性で,誘因なく腰下肢痛が出現し,腰椎変性すべり症の診断で4カ月間の保存的治療を受けた.その後他院でPLDDを受けたが,2年4カ月後には画像および臨床症状の著しい増悪のため当科で手術的治療(PLIF)を行った.脊柱不安定性を有する本症例にPLDDが適用されたことで,椎間板の変性が急速に進行したものと考えた.PLDDは簡便で,侵襲の少ない治療法とされているが合併症の報告も少なくない.その適応は慎重に行う必要がある.

肩関節周囲悪性腫瘍切除後の再建方法

著者: 山田健志 ,   高橋満 ,   吉田雅博

ページ範囲:P.1063 - P.1068

 抄録:当院で経験した肩関節周囲の悪性腫瘍切除後に機能再建を要した6症例を呈示し,再建方法についての検討を加えた.[対象]症例は6例.疾患は上腕骨への転移(胃癌,悪性組織球腫症)が各1症例,上腕骨近位部の骨肉腫が2例,上腕骨骨幹部の悪性組織球腫症,肩甲骨周囲の平滑筋肉腫が各1例であった.[結果]骨転移の2例に対しては人工骨頭置換術を施行し,肩関節機能評価指数は45%であった.原発性肉腫症例にはclavicula pro humero法と上腕骨吊り下げ術をおのおの2例ずつ施行し,いずれも75%の評価機能指数が得られた.[考察]肩関節固定は良好な上肢機能が温存できる優れた再建方法であるが,clavicula pro humero法や上腕骨吊り下げ法は術式が比較的簡便であり,術後固定期間の短縮など固定術に比較して優れた点も存在する.固定術と比較しても再建後に得られる上肢機能は遜色なく,積極的に適応を考慮すべきと考えている.

先天性股関節脱臼に対するoverhead traction法におけるhome tractionの導入

著者: 北小路隆彦 ,   鬼頭浩史 ,   大嶋義之 ,   栗田和洋 ,   加藤光康 ,   高嶺由二 ,   今井里佳 ,   内田早苗 ,   北洞真希 ,   近藤美穂 ,   氏家亜紗子 ,   酒井知子 ,   山下一味 ,   加藤順子

ページ範囲:P.1069 - P.1073

 抄録:先天性股関節脱臼に対するoverhead traction法は有用な治療法であるが,長期の入院を要するという欠点がある.われわれは1998年より入院期間の短縮を目的として,オリジナルな組み立て式ポータブル牽引装置を作製して,水平牽引の大部分を自宅で行うhome tractionを導入している.先天性股関節脱臼10例に対して数日のオリエンテーション入院後に平均20日間のhome tractionを実施したが,牽引効果は十分であり,重大な合併症も認めず,全例その後の入院管理下での開排牽引で自然整復を得た.まだ少数例の経験ではあるが,home tractionの牽引効果は入院管理下でのものと変わりなく,安全で有用な方法と考える.Home traction導入にあたっては,実施前に牽引装置の取扱いやトラックバンドの巻き直しに慣れるため看護サイドの協力を得て短期間のオリエンテーション入院を行うことが重要と考える.

症例報告

𦙾骨顆部insufficiency fractureの3例

著者: 川﨑展 ,   田中宏道 ,   河野公昭 ,   竹田智則 ,   小林靖幸

ページ範囲:P.1075 - P.1077

 抄録:近年,骨粗鬆症を起因とする骨折が増加しており,これを念頭に置いた的確な診断が必要である.今回,𦙾骨顆部に生じたinsufficiency fractureの3例を経験したので報告する.
 症例は全例女性,年齢はそれぞれ72,78,83歳であった.全例明らかな外傷がなく,骨折は生理的外力で生じたと考えられた.初診時,𦙾骨顆部に圧痛を認めるも,X線像上明らかな骨折線は認められなかった.MRIで初めて骨折と診断した.3~4週の経過で骨折部にX線像上骨硬化像が出現した.免荷と安静にて3例とも元の歩行レベルに回復した.1例は経過中に膝内反変形を生じた.全例とも原発性骨粗鬆症の診断基準(日本骨代謝学会)を満たしていた.高齢者で誘因のない急激な膝痛の診断に際しては本症も念頭に置いた注意深い診察が必要である.

第二世代bipolar型人工骨頭置換術後のinner bearing破損の1例

著者: 李相亮 ,   西川哲夫 ,   三枝康宏 ,   新倉隆宏 ,   水野耕作

ページ範囲:P.1079 - P.1082

 抄録:第二世代bipolar型人工骨頭置換術後に,inner bearingの脱臼を来した1例を報告する.症例は54歳,男性.43歳時,アルコール性大腿骨頭壊死症に対し,bipolar型人工骨頭置換術を施行された.術後11年後に,inner headの脱転を来して来院した.再置換時の摘出標本では,inner bearingの破損が認められた.破損の原因として,inner bearingとstem頚部のimpingementと患者の活動性が関与していたと考えられた.bipolar型人工骨頭の適応には,年齢や活動性,疾患について慎重な吟味を要する.

両側性に膝関節内顆の高度骨破壊を生じた特発性骨壊死の症例

著者: 南谷和仁 ,   宮崎剛 ,   角典洋 ,   高森博照

ページ範囲:P.1083 - P.1086

 抄録:両側性に𦙾骨および大腿骨内顆に高度の骨破壊,骨欠損を生じた特発性骨壊死の症例を経験したので報告する.症例は72歳男性で,1998年6月,両膝の疼痛と左膝の内反動揺性,歩行困難を愁訴に来院した.40年来の精神分裂病であるが,ステロイド投与歴はなく,血糖正常で,RA反応や梅毒反応も陰性,その他の臨床検査も特に異常所見は認めなかった.X線にて左膝𦙾骨内顆および大腿骨内顆に高度の骨欠損と周囲の骨硬化像を認め,右膝にも内顆荷重部の陥没像と軟骨下骨組織の骨透亮像を認めた.左膝は1998年7月人工関節置換術を施行,術後2年6カ月経過良好である.右膝は,MRI T1強調像で𦙾骨内顆および大腿骨内顆に広範囲の低信号領域を認めていたが,同部の骨破壊がその後急激に進行し,2000年12月に人工関節置換術を施行した.手術時の病理組織では,肉芽組織の進入,破壊と再生の繰り返しの像を呈し,一部に壊死性層状骨を認めた.

歯科治療後に両側に同時遅発性感染を来した両側THA症例

著者: 平田哲朗 ,   長谷川正裕 ,   大橋俊郎 ,   谷知久 ,   大友克之 ,   塚原隆司 ,   今泉佳宣

ページ範囲:P.1087 - P.1090

 抄録:症例は71歳女性で,両側変形性股関節症に対する両側人工股関節全置換術施行後2.5年で遅発性の両側感染を認めた.感染発症の3週間前に歯科治療を受けていた.抗生剤投与および両股関節に病巣掻爬,持続洗浄を行い感染の鎮静化が得られた.
 本症例は歯科治療によって遅発性感染が引き起こされた可能性がある.歯科治療後の人工関節感染の危険性を患者に十分説明し,さらに歯科医にも啓蒙する必要性がある.

股関節周囲に発生した骨化性筋炎の1症例

著者: 寺井智也 ,   辺見達彦 ,   兼松義二 ,   藤井幸治 ,   三代卓哉 ,   酒井紀典 ,   四宮禎雄

ページ範囲:P.1091 - P.1094

 抄録:症例は26歳女性,誘因なく右股関節痛が出現し,疼痛,硬い腫瘤を主訴に当科受診.外傷の既往,スポーツ歴はなし.初診時,右股関節前面に圧痛,腫脹,5×5cm大の硬い腫瘤を触知し,腫瘤に可動性はなく,右股関節は疼痛のため可動域は著明に制限されていた.初診時,単純X線像では,右股関節周囲には明らかな所見は認めなかった.3週後のX線像にて右股関節部に骨性陰影を認めた.CTで内部がlow densityで環状に層状構造を示す骨化像のzone phenomenonを認めた.股関節の可動域制限の改善を目的として腫瘤の切除を施行した.病理学的には病変の辺縁部には細胞成分に乏しく,分化成熟した骨梁が認められた.骨化巣切除後1年の現在,再発傾向もなく可動域も正常に改善している.明らかな外傷歴はなく骨化性筋炎を生じ,右股関節に可動域制限を来した1例を経験した.

採血時神経損傷の2例

著者: 杉本義久 ,   藤田享介 ,   高山真一郎 ,   岡崎真人

ページ範囲:P.1095 - P.1097

 抄録:採血の際にしびれや放散痛を生じ,長期間愁訴が持続することがあるが,これまでこのような症例に対しては,積極的な治療がなされていなかった.今回,注射針による内側および外側前腕皮神経損傷の2例に対して観血的治療を経験した.受傷後,2週および5カ月で局所を展開したところ,静脈近傍の皮神経にperineurial windowと呼ばれる神経周膜の損傷によるヘルニアが確認された.われわれが行ってきたperineurial windowの基礎的研究に基づき,神経剥離後windowを拡大するように神経周膜を切開した.注射針によってもこのようにperineurial windowが生じ,持続的な障害が起こりうることを認識し,事故が発生した場合には慎重に対応にすべきと思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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