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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科37巻1号

2002年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第75回日本整形外科学会学術集会を開催するにあたって

著者: 井上一

ページ範囲:P.2 - P.4

 第75回日本整形外科学会学術集会を2002年5月16日(木),17日(金),18日(土),19日(日)に,岡山市の岡山コンベンションセンター,ホテルグランヴィア岡山,ラヴィール岡山の19会場で開催させていただく予定です.本学会の岡山での開催は,岡山大学医学部整形外科初代児玉俊夫教授が1968年に第41回を行ってより34年が過ぎ,本当に久方振りで,中国・四国地区で開催させていただくことになりました.
 他方,2000年から10年間,WHOによる「骨と関節の10年」として筋骨格系障害の研究と治療に大きな発展を推進すべくキャンペーンが始まっております.これには日本整形外科学会が主体となって,関連学会とともにわが国でも多くの具体的な運動が繰り広げられつつあります.そうした21世紀の初頭にあたって,本学会を主催させていただくことになり,その責任の重さを痛感しております.

シンポジウム 足関節捻挫後遺障害の病態と治療

緒言 フリーアクセス

著者: 今給黎篤弘

ページ範囲:P.6 - P.7

 最近ではスポーツの裾野はますます広がりを見せ,若年者だけではなく,中高齢者に至るまで幅広く活動されています.その中で以前受傷した足関節捻挫の後遺症に悩みながら,痛みを我慢してスポーツを続けている人も少なくありません.バスケットボールの選手(日本リーグ)の約7割が6回以上の複数捻挫を経験していたという報告もあります(杉本ら,2000).捻挫は関節が外力により過度の運動を強制された場合に生じた関節の靱帯,関節包,皮下組織などの損傷が認められるものの,骨格の適合性は正常であります.一般に,患者は足関節捻挫は靱帯断裂とは別として考えることが多いようであります.そしてX線写真に骨折がないと簡単に考え,治りも早いものと考えがちです.しかし実際は関節の軟部支持組織の損傷で骨折よりも治りにくいこともあり,きちんとしたインフォームドコンセントがないと誤解や不信を招くこともあり得ます.
 足関節捻挫の治療は,ギプス,テーピング,サポーターを使用した保存療法が主体でありますが,重症例で陳旧となったものでは靱帯移行,人工靱帯,または骨切りなどの機能再建を目的とした手術療法が必要となります.いずれにしても初期治療が大切で,損傷の拡大や腫脹を防ぎ,一次障害を最小に防止することです.初期治療にはICE処置(Ice:水冷,Compression:圧迫,Elevation:挙上)またはRICE(Rest:安静+ICE)が有効であります.

足関節捻挫後遺障害―足関節の疼痛と不安定性の病態

著者: 森川潤一 ,   木下光雄 ,   奥田龍三 ,   安田稔人 ,   常徳剛

ページ範囲:P.9 - P.16

 要旨:足関節および足関節周囲における捻挫後遺障害の病態を明らかにするため,手術的治療を行った70例71足(平均年齢21歳,男33例,女37例)について検討した.後遺障害の内訳は,陳旧性外側靱帯損傷(63%),陳旧性内側靱帯損傷(10%),内側および外側の陳旧性靱帯損傷(4%),症候性外果裂離骨折後の偽関節(8%),Bassett's lesion(6%),soft tissue impingement(6%),浅腓骨神経損傷(3%)であった.各障害の病態に応じて手術的治療を行い,概ね良好な結果を得た.足関節捻挫後遺障害の原因は多岐にわたり,各障害の病態を十分に理解したうえで診断・治療にあたることが大切である.

距骨下関節不安定症の診断と手術成績

著者: 宇佐見則夫

ページ範囲:P.17 - P.21

 要旨:距骨下関節不安定症の診断で,ストレスX線撮影や関節造影,MRIなどが行われるが積極的に診断できる方法はない.筆者は本症の原因である距踵骨間靭帯損傷を距骨下関節鏡を行うことにより診断している.侵襲性であるが現在最も精度の高い診断法である.治療も同様に距骨下関節鏡視下に靭帯再建を行っている.現在のところ,46例48足(経過観察期間1年以上)に行っているが,全例疼痛は改善し,可動域制限は生じていない.再断裂を生じた例はない.従来,本症に対する手術法は頚靭帯の再建が行われてきたが可動域制限が生じていた.人工靭帯による再建後の再鏡視でも,2例を除いて全例とも何らかの再生靭帯で被覆されていた.よって,鏡視下距踵骨間靭帯再建術は距骨下関節不安定症に対して有用な方法と考える.

足関節―距骨下関節複合的不安定性のバイオメカニクス的病態

著者: 栃木祐樹

ページ範囲:P.23 - P.28

 要旨:新鮮凍結屍体足5足を用いたバイオメカニクス実験にて前距腓靱帯(ATFL)と骨間距踵靱帯(ITCL)の複合切離による垂直荷重負荷下の足関節-距骨下関節複合体の関節運動変化を検討した.ATFL単独切離により明らかな関節運動の変化は生じなかったが,ATFL-ITCL合併切離後には足関節の内転および総回旋角の異常増大が生じた.この結果より,ATFL-ITCL複合損傷は荷重動作に伴う足関節-距骨下関節複合体の運動を不安定化し,足関節の前外側回旋不安定性を生じさせると考えられる.したがって,荷重時の不安定感が高度な陳旧性足関節靱帯損傷の診療時には距骨下関節不安定性の合併を考慮した診断および治療が必要となる.また,新鮮足関節捻挫の診療時にも距骨下関節靱帯損傷の合併を意識した治療計画を行う必要があると考えられる.

足根洞症候群の臨床像

著者: 杉本和也 ,   秋山晃一 ,   田中康仁 ,   高倉義典 ,   藤田烈

ページ範囲:P.29 - P.33

 要旨:足根洞症候群の診断で治療を行った症例のうち誘因が明らかな121患者(121足)を対象とした.診断は足根洞外側開口部に疼痛があり,同部位への局麻剤の注入で,一時的あるいは永続的に症状が改善したものとした.誘因と考えられたのは足部捻挫103例,他の足部外傷7例,明らかな外傷歴がないもの11例であった.男性40名,女性81名で平均年齢は32.6歳(10~70歳)であった.足根洞への注射は1~14回,平均3.5回行い,78例において症状の消失あるいは改善を得た.注射の効果に不満のあった43例に手術を行った.その結果,症状の消失20例,改善19例,不変4例で誘因別の差は認めなかった.距骨下関節造影では距骨下関節の軟部組織損傷がみられたが,MRI撮影では明らかな骨間距踵靱帯や距骨頚靱帯の断裂像はみられなかった.手術で摘出した組織は脂肪,繊維組織,滑膜から成り,塩化金染色にて豊富な神経終末が観察された.

足関節機能的不安定性の病態

著者: 石井朝夫 ,   ,   坂根正孝 ,   佐藤彩乃 ,   落合直之

ページ範囲:P.35 - P.40

 要旨:足関節機能的不安定性は足関節捻挫後に生じる最も一般的な後遺障害である.症状は足関節の不安定感であり,頻回の捻挫を繰り返す.機能的不安定性と靱帯不安定性や臨床所見との関連性をχ2乗検定により検討すると,機能的不安定性と最も強い関係にあったのは足根洞の圧痛であり,機能的不安定性群は多くの例で外傷後足根洞症候群を発症していると考えられた.腓骨筋の伸張反射である腓骨筋反応時間は,機能的不安定性群で健常群に比し有意に遅延していたが,足根洞の局注により正常化しそれに伴い不安定感も消失した.足根洞の炎症による侵害受容体などの興奮が,γ運動ニューロンを介して腓骨筋トーヌスを低下させる病態を想定すると,この結果を合理的に説明できる.機能的不安定性は,腓骨筋トーヌスの低下により不安定感を自覚し,足部協調運動が障害され,頻回の捻挫を繰り返す病態であると考えた.

軟骨または骨軟骨病変を合併した足関節捻挫後遣障害例の検討

著者: 長谷川惇

ページ範囲:P.41 - P.45

 要旨:足関節捻挫後遺障害300関節中59関節に軟骨および骨軟骨病変の合併が認められた.この病変を認めた群と認めなかった群の比較より,この病変は経時的に繰り返し関節軟骨に損傷を受けた結果生じることが示唆された.またその病変をfibirillation群,erosion群,eburnation群,およびosteochondral lesion群の4群に分け検討した.病変部とその症候化率はfibrillation群は33%,erosion群70%,eburnation群94%とその損傷程度が大きくなるに従って,次第に症候性になる傾向が得られた.Fibrillation群とerosion群との比較では,この群間は経時的に病変が移行するというよりも,受けた損傷の程度および活動性の大きさに相関するものと思われた.Eburnation群と他の群の比較より,この病態は外力による損傷度やその後の活動性の大きさに加え,加齢による変化やアライメント異常の要素も示唆された.またosteochondral lesion群の合併頻度は3例5%に過ぎず,他の外力が合併して発生したものと思われた.

足関節捻挫後の腓骨筋腱障害

著者: 石橋恭之 ,   佐々木知行 ,   佐々木和広

ページ範囲:P.47 - P.53

 要旨:足関節捻挫に伴う腓骨筋腱障害の頻度は多くはないものの,その解剖学的位置関係や受傷機転から単に捻挫として見過ごされることがある.外傷性腓骨筋腱脱臼は,足関節が内反または背屈強制された後に生じ,長腓骨筋腱が外果を乗り越え脱臼する際に,疼痛・不安定感を訴えるものである.脱臼が再現できれば診断は比較的容易であり,手術的治療により予後は良好である.また反復性足関節捻挫の合併症として短腓骨筋腱の縦断裂がある.欧米に比較し本邦での報告例はいまだ少ないが,足関節捻挫後遺障害のひとつとして忘れてはならない.

論述

腰椎椎間板ヘルニアにおける脱出部位とmigration方向との関係

著者: 西村行政 ,   常岡武久 ,   原寛徳 ,   弓削七重 ,   坂本和隆

ページ範囲:P.55 - P.59

 抄録:Migrationを示す腰椎椎間板ヘルニアの脱出方向に関与する因子を明らかにするために,手術中に脱出孔を確認できた106例の脱出孔の部位とmigrationの方向との関係を調べた.男性78例,女性28例で,手術時年齢が平均52歳であった.ヘルニアの脱出椎間はL2/3が1例,L3/4が15例,L4/5が55例,L5/S1が35例であった.Migrationの方向については,各椎間とも尾側へのmigrationが多く,L3/4では67%,L4/5では80%,L5/S1では77%が尾側へのmigrationであった.脱出孔の部位とmigrationの方向については,脱出孔が頭側に存在する場合には全例頭側へ,脱出孔が尾側に存在する場合には全例尾側へとmigrationしていた.すなわち,migrationの方向は,ヘルニアの脱出部位が椎間板の頭側であるか,あるいは尾側であるかによって決定されるものといえる.

腰部脊柱管狭窄症における間欠跛行のsensory marchと手術成績

著者: 川上守 ,   玉置哲也 ,   山田宏 ,   橋爪洋 ,   河合将紀 ,   安藤宗治

ページ範囲:P.61 - P.67

 抄録:手術的加療を行った間欠跛行を呈する腰部脊柱管狭窄症56例を対象に,歩行負荷によるsensory marchについて検討した.歩行に伴い自覚症状が上行する上行型15例,近位から末梢に症状が進展する下行型18例,症状の範囲に変化がない不変型23例であった.年齢,性,疾患名,神経性間欠跛行の分類,間欠跛行距離,手術方法,腰椎前弯角,硬膜管圧迫椎間数ならびに馬尾弛緩に差はなかった.罹病期間が上行型で長く,術前において上行型と下行型で腰痛が強く,上行型と不変型で下肢痛およびしびれが重篤であった.平均改善率は上行型67.4%,下行型77.4%,不変型64.3%で,下行型が良好であった.椎間不安定性がない症例が上行型に,椎間不安定性があり,高度な椎間関節症性変化が不変型に,軽度なものが下行型に多い傾向がみられた.下行型では歩行負荷に伴う臀部や大腿部の症状が椎間不安定性や椎間関節に起因した関連痛として現れている可能性がある.

多重折り膝屈筋腱と骨片付き膝蓋腱を用いた前十字靱帯再建術の臨床成績の比較検討

著者: 浅野浩司 ,   仁賀定雄 ,   張禎浩 ,   長束裕 ,   吉村英哉 ,   原憲司 ,   古賀英之 ,   能瀬宏行 ,   星野明穂

ページ範囲:P.69 - P.72

 抄録:骨片付き膝蓋腱(BTB)と多重折り膝屈筋腱(STG)は前十字靱帯再建術における移植腱として最も用いられている.われわれは術式選択の手がかりとするために,術後1年以上経過観察したBTB 101例,STG 439例について,術後安定性,膝伸展筋力,膝前面痛,膝伸展制限について比較検討を行った.術後1年におけるKT-1000徒手最大患健差ではBTB 1.3±2.2mm,STG 1.7±2.1mmで有意差なく,膝伸展筋力健側比ではBTB 78.6±15.2%,STG 81.1±19.0%と有意差は認めなかった.術後1年以内に膝前面痛を生じた症例はBTB 29例(28.7%),STGでは46例(10.5%)であり,BTBにて疼痛を生じる症例が有意に多かった(p<0.0001).術後1年にて5°以上の膝伸展制限を認めた症例はBTB 5/101例(5.0%),STGでは7/439例(1.6%)であり,BTBにて伸展制限を生じる症例が有意に多かった(p<0.05).

国際学会の話題から

骨粗鬆症における骨折防止戦略のグローバル化―国際学会の話題から

著者: 中村利孝

ページ範囲:P.74 - P.77

 骨粗鬆症による骨折を防止して高齢者の運動機能を維持することは,現実的な課題になりつつある.このような状況の中で,国際骨ミネラル学会とヨーロッパ硬組織学会との共同学会が6月5日から10日までスペインのマドリッドで開催された.Evidence Based Medicine(EBM)が日常臨床における治療の選択における基本的な原理となっていく中で,骨粗鬆症の診断と治療のグローバルなスタンダード化が進みつつあることを強く感じた.

境界領域/知っておきたい

ティッシュエンジニアリングを応用した人工血管

著者: 新岡俊治 ,   今井康晴

ページ範囲:P.78 - P.80

【はじめに】
 心臓外科領域における理想的な補填材料はいまだ発展途上にあり,多くの外科医は移植直後から生体適合性を有し,かつ移植後に再手術が不要で成長の可能性を有する生きた補填物を模索している.再生医工学(Tissue engineering)は1980年代後半に,臓器移植医療におけるdonor不足が深刻化している米国で提唱された新しい概念で,donorを必要としない人工臓器の開発途上で提唱された.工学(Engineering science)と生物学(Biological science)を共に応用し,生体吸収性ポリマーを足場として培養細胞から小組織をin vitroで作成しようという新しい学際的研究分野である.既に,皮下細胞(dermal fibroblasts)を用いたtissue engineered skinは実用段階であり,臨床において数百例の移植手術が行われている.その他,骨組織,軟骨組織,尿管組織,心臓弁膜組織,血管組織などの各分野において活発な研究が現在進行している.また,様々な吸収速度を有する生分解性-高分子ポリマーの研究開発も同時に進行しており,細かい生吸収速度,強度の調節が,多種類のポリマーの組み合わせによって制御可能となりつつある.作成される組織には生きた自己細胞が含まれているため,生物学的な成長,修復機転が見込まれ,より長い耐久性が期待できる.

整形外科英語ア・ラ・カルト・103

整形外科分野で使われる用語・その65

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.82 - P.83

●Trendelenburg sign(トレンデレンバーグ)
 これはドイツの外科医のトレンデレンブルグ(Friedrich Trendelenburg,1844-1924)が,先天性股関節脱臼の診断を行ううえで重要な症状として1895年に発表した.先天性股関節脱臼の患者が歩くとき,上半身を左右に振るようになり,アヒルの歩行に似ている.この原因は患側の中殿筋と小殿筋の機能低下のためである.健側で立つと,反対側の骨盤は起立側の骨盤位より高い.しかし患側で起立すると,反対側の骨盤の位置は起立側より低い.低いときが“Trendelenburg sign”は陽性である.しかし正常の場合は陰性である.
 また,患者が循環不全のショックになったとき,頭部を低く,下半身を高くする位置を“Trendelenburg position”という.

臨床経験

手関節単関節炎に対する生検術の診断上の意義

著者: 中川夏子 ,   阿部修治 ,   大森裕 ,   木村浩 ,   居村茂明

ページ範囲:P.87 - P.90

 抄録:手関節単関節炎に対して,慢性関節リウマチ(RA)の初発症状である可能性や,結核性関節炎を含む感染性関節炎である可能性を考えて,診断のために生検術が行われることも多い.今回,1992年4月より1999年12月までに当科にて生検術を行い,その後の臨床経過を追跡し得た9例を対象として調査を行った.その結果,血液学的所見およびX線所見は必ずしも最終診断と見合うものではなかった.細菌学的には全例で陰性であった.RAを疑った5例のうち,最終的にRAとなったのは4例であった.単関節炎の診断は必ずしも容易ではないが,病理組織所見は特異性炎症の鑑別や,RAの予後について貴重な情報を提供するものと考える.病理組織所見からRAを強く疑う場合は,注意深い経過観察を行いながら,積極的にRAに対する治療を考慮すべきであろう.

症例報告

転移性骨腫瘍と鑑別を要した慢性関節リウマチにおけるpelvic insufficiency fractureの1例

著者: 畑中渉 ,   越智比呂子 ,   吉岡猛 ,   小玉孝朗 ,   佐々木豊

ページ範囲:P.91 - P.93

 抄録:症例は78歳,女性で,1994年に発症した慢性関節リウマチ患者である.1998年よりプレドニン5mgを内服中であった.1999年6月背部痛精査で膵体尾部腫瘍を指摘されていた.8月左股関節痛が増強し,歩行困難となり入院した.入院時の骨盤X線写真で左恥骨・坐骨の溶骨性変化,骨折像を認め,転移性骨腫瘍を疑っていたが,X線上骨融解像が急速に進行する割に,腫瘍マーカー上昇がみられず,insufficiency fractureを疑った.骨生検により,腫瘍性変化は認められず,再検査でも否定された.その後腸骨にも骨折像を認めたが,安静と免荷により疼痛は軽快した.膵腫瘍に由来すると考えられる悪液質悪化により残念ながら死亡した.骨融解像を認めた場合,合併疾患があればそれに要因を求めがちであるが,骨脆弱性がありinsufficiency fractureの好発部位に疼痛を有する例では,慎重に診断を下す必要があり,初期診断が重要である.

子宮後屈により坐骨神経痛を来した1例

著者: 河野元昭 ,   高橋淳一 ,   小林紘一 ,   雄賀多聡 ,   清水耕 ,   平山次郎 ,   青木保親 ,   松戸隆司

ページ範囲:P.95 - P.97

 抄録:われわれは子宮後屈が坐骨神経痛の原因と考えられる1症例を経験し,単純子宮全摘術後の症状軽快を確認した.子宮後屈による坐骨神経痛は,婦人科疾患が原因の坐骨神経痛の中でも稀な疾患であり,調べ得た限りでは自験例を含め4例であった.腰仙骨神経叢の物理的圧迫が原因で,特徴的な症状が少なく診断が難しいが,MRIが診断に有用であった.

膝関節内に巨大腫瘤を形成した滑膜性軟骨腫症の1例

著者: 井上正弘 ,   原則行 ,   高橋啓治 ,   菊池佳乃 ,   坂本尚聡

ページ範囲:P.99 - P.102

 抄録:われわれは膝関節内に巨大腫瘤を形成した滑膜性軟骨腫症の1例を経験した.症例は85歳,女性で歩行時の膝関節痛を主訴に当科を紹介受診した.触診では膝蓋上嚢に直径約5cmの腫瘤を触知した.単純X線上,膝関節に淡い石灰化を認め,MRIにてT1で低信号,T2で低~高信号の混在する腫瘤影を認めた.手術にて関節内を展開すると,膝蓋上嚢に直径約5cmの楕円球状の表面が白色の腫瘤が存在した.また外側谷にも直径約2cmの腫瘤が存在した.腫瘤は滑膜との癒着があったが,容易に剥離でき摘出した.病理所見上,滑膜様組織の中に島状に硝子軟骨組織が存在し,診断は滑膜性軟骨腫症であった.本症例はMilgram,Edeiken分類のPhase4にあたると思われた.

上腕骨偽関節に対する有茎血管柄付き肩甲骨移植の1例

著者: 三浦一志 ,   藤哲 ,   工藤悟 ,   ,   坪健司

ページ範囲:P.103 - P.106

 抄録:上腕骨骨幹部横骨折は時にその回旋不安定性のため偽関節となり治療に難渋することもある.今回上腕骨偽関節症例に対し,angular branchを血管柄とした有茎肩甲骨移植を施行し良好な骨癒合が得られたので報告する.症例は76歳,男性,交通事故にて受傷した.右上腕骨骨折に対し2度の骨接合術を施行されるも骨癒合が得られず,angular branchを血管柄とした有茎肩甲骨移植を施行した.骨折部の固定には髄内釘を用いた.術後6週より仮骨の形成がみられ,術後13カ月にて骨癒合が完成し治療を終了した.
 Angular branchを血管柄とした肩甲骨移植は,肩甲回旋動脈との組み合わせにより骨弁,皮弁,筋皮弁を様々な組み合わせで使用でき,長い血管柄が得られるため皮弁,骨弁の到達自由度が大きい.同側の上腕骨中央部までは有茎で届くため微小血管吻合が不要であり,同部への骨移植法として有用な方法である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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