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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科37巻11号

2002年11月発行

雑誌目次

視座

“Five Rings of Musashi”

著者: 阪本桂造

ページ範囲:P.1267 - P.1268

 来年(平成15年)のNHK大河ドラマの主人公は宮本武蔵と聞く.この宮本武蔵という名前を聞いて“Five Rings of Musashi”という言葉を思い出した.ご承知のようにこの“Five Rings of Musashi”という言葉は『武蔵の五輪書』を意味するが,このタイトルはJames H. HerndonがJ Bone and Joint Surgery 81:1053-1062,1999に述べたものである.武蔵の五輪書は地・水・火・風・空の5巻よりなるが,HerndonはResources,Environment,Attitude,Concentration,Timingをもって五輪とし,これらの頭文字をとってREACTと称し,武蔵の兵法に倣って次世代の整形外科学会を率いる意気込みを示した.
 私は剣道家でもなく国粋主義者でもないが,英文論文万能主義の時代にこの文を読み,アメリカの整形外科学会も心(精神)の面も大切にすることの尊さを,日本の,それも武士の時代の剣術家の極意書から説いていることに感銘を受け,同時に何か溜飲を下げたような気持ちになった記憶がある.改めてこの3年前に刊行された文を読んで,内容が現在のわれわれの置かれた立場を如実に写していることに驚かされる.

シンポジウム 手術支援ロボティックシステム

緒言 フリーアクセス

著者: 越智隆弘

ページ範囲:P.1270 - P.1271

 外科手術技術は長年にわたり着実に進歩してきた.麻酔技術の進歩にも支えられ,大きな展開が可能になっていった.その極みが臓器移植の成功といえるのではないか.その一方で,外科手術のもうひとつの目標として近年急速に進歩してきたのが低侵襲手術である.その代表は内視鏡手術である.限られた視野の中で,最小侵襲で安全かつ正確な手術を行う内視鏡手術は,整形外科領域でも諸種の関節鏡として広く用いられてきた.
 低侵襲手術の次の大きな発展はロボティックシステムに依るものと思う.ロボティックシステムというのは自動的に手術を行う手術ロボットと誤解される向きがあるが,もっと包括的な手術器具システムである.三ないし四次元画像解析システム,ナビゲーション,手術支援ロボット,遠隔システムなどを包括した全体を指している.

三次元画像解析の基礎と整形外科領域への応用

著者: 佐藤嘉伸 ,   笹間俊彦 ,   桝本潤 ,   菅野伸彦 ,   西井孝 ,   中西克之

ページ範囲:P.1273 - P.1278

 要旨:本稿では,三次元画像解析の基本となるセグメンテーション(画像からの領域の切り出し)とレジストレーション(異種データの位置合わせ)の概念と目的について述べ,整形外科領域における臨床応用を示す.さらに,これらの解析機能を実現している市販のソフトウェアを紹介する.

歩行動作の四次元的可視化とその臨床応用

著者: 大竹義人 ,   鈴木直樹 ,   服部麻木 ,   菅野伸彦 ,   萩尾佳介 ,   米延策雄 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.1279 - P.1286

 要旨:われわれは歩行動作を含む各種動作を四次元的に計測し,骨格および骨格筋の動きをリアルタイムにかつ定量的に可視化するために四次元人体動作解析システムを開発した.本システムは被験者のCTあるいはMRIデータから被験者ごとの骨格形状モデルを作成し,体表面マーカによるモーションキャプチャデータに基づいて駆動することで,仮想空間上に動作時の骨格の動きを再現する.これにより骨格の四次元的な動きを自由な視点から直感的に観察でき,さらに関節角度や筋肉の伸縮量,骨格の空間的移動量などといった各種パラメータを定量的に計測することが可能となった.本稿では人体モデルの構築,動作の四次元的可視化,および本システムを臨床に応用した1例として人工股関節設置後患者の動作解析について報告する.また,モーションキャプチャの精度に影響を与える因子のひとつである皮膚のずれによる関節角度計測の誤差について検証実験を行ったので併せて報告する.

コンピュータシステムを用いた人工関節置換術術前計画

著者: 赤木将男

ページ範囲:P.1287 - P.1295

 要旨:最近のロボティクス・ナビゲーションシステムにおいては極めて精度の高い人工関節術前シミュレーションが可能である.しかし,特殊で高価なソフトウェアやハードウェアが必要とされるものもあり,一般臨床医にとって必ずしも導入が可能なものばかりではない.本稿では,特殊なソフトウェアやハードウェアなしに一般整形外科医が直ちに使用可能な術前人工股関節,人工膝関節シミュレーションを取り上げ解説を行う.人工股関節術前シミュレーションでは,ソケットを設置した状態でのCTスライス像を表示し,ソケットと股臼前後壁の関係,ソケットの前捻角とソケット被覆の状況,ソケットの設置位置と上方臼蓋骨性欠損の関係,骨嚢腫が存在する場合にはソケットとその位置関係を把握できるソフトウェアSIM HIP 3.5を,人工膝関節術前シミュレーションでは,大腿骨コンポーネントを上顆軸に平行に設置した状態でのCTスライス像,𦙾骨コンポーネントを𦙾骨前後軸に平行に設置した状態でのCTスライス像を表示できる現在開発中のソフトウェアを紹介する.

ナビゲーション手術

著者: 菅野伸彦 ,   西井孝 ,   三木秀宣 ,   吉川秀樹 ,   笹間俊彦 ,   中島義和 ,   佐藤嘉伸

ページ範囲:P.1297 - P.1302

 要旨:ナビゲーション手術は術前計画どおりに術中正確に術具やインプラントの位置や方向を決定できるように,術具やインプラントの位置情報を視覚や音声情報で術者に呈示できる装置を使用して行う手術である.術中三次元位置センサーで骨や術具,画像撮影装置の位置を計測追跡することで,手術計画図上に術具やインプラントの位置情報を呈示できる.手術計画図は,術前のCTやMRIなどの三次元画像情報から作成するもの,術中X線透視画像を使用するもの,術中機能情報から作成するものがあり,それそれ三次元画像ベースナビゲーション,フルオロナビゲーション,イメージレスナビゲーションと呼ばれている.三次元画像ベースナビゲーションでは,手術室での患者の骨と手術計画のregistrationと呼ばれる位置合わせが必要であるが,後二者はregistrationが不要である.本稿では,この3種類のナビゲーションについて解説する.

手術支援ロボティックシステムの遠隔医療への拡がり

著者: 波多伸彦 ,   土肥健純

ページ範囲:P.1303 - P.1308

 要旨:本論文では,日進月歩で高度化する先端医療資産を迅速に地域医療に取り入れるための取り組みClinical Resource Sharing Network(CRSnet)を紹介する.ネットワークを用いて,遠隔の計算機,ロボットなどの先端医療資産を共有することで,日本国中どこにいても高度なコンピュータ外科による治療・診断を受けることができることを目指している.特に本論文では,CRSnetの具体的研究成果として,遠隔に設置されたハイパフォーマンスコンピュータを用いて医療用三次元ディスプレイ画像の生成を行う研究と,手術ロボットの遠隔操作とビデオモニタリングを効率的に行う通信フレームワークの開発研究を紹介する.CRSnetは,従来の遠隔医療が人的資産共有に主眼が置かれてきたことに対して,計算機や機器資産の共有に主眼を置いている点が特徴的である.これは技術的には,共有される機器が距離的に離れていてもその距離を感じさせないために,ネットワークを介してやり取りする信号のスループット(単位時間あたり通信量,あるいは通信速度)やレイテンシ(時間遅れ)の向上に開発主眼が置かれることを意味する.今回紹介する二つの研究はこの技術開発項目を最もよく捉えた研究である.

低侵襲手術の遠隔支援

著者: 松村泰志

ページ範囲:P.1311 - P.1318

 要旨:大阪府吹田市にある大阪大学医学部附属病院(阪大病院)と貝塚市にある河崎病院間をネットワークで結び,河崎病院に設置されたオープンMRIの手術を,阪大病院から支援するシステムを構築した.ネットワークは,100MbpsのIP通信とし,CODECを2対設置し,NTSC信号の動画像はMPEG2で,音声信号はMPEG1に変換して送信した.本システムでは,河崎病院のDICOM画像を阪大病院の病院情報システムに安全に送り込みDICOMサーバに保存する機能,2対のPCでDICOM画像と制御情報をリアルタイムに共有するDICOM viewerの機能,テレビ会議機能,コンピュータグラフィックスをNTSC信号にオーバレイさせる機能を実現させた.これらの機能により,術前画像の阪大病院への読影依頼,DICOM画像を見ながらの遠隔カンファレンス,オープンMRIのハンドピースを使った断層像の共有,阪大病院で作成した3Dレンダリング画像の共有,術野映像に3D画像から計算した針刺し位置,方向を重ねて表示する針刺し誘導機能を実現した.股関節部のガングリオンの吸引術について,本システムにより手術支援を実施した.これらの機能を使って遠隔2地点の医師間で十分な情報交換ができ,オープンMRIの良さを発揮した手術が実施できた.

オープンMRIによる運動器解析

著者: 村井正和 ,   岩橋武彦 ,   坂口義博 ,   河崎晃

ページ範囲:P.1319 - P.1327

 要旨:外科的手術の支援を目的として開発された垂直開口型のオープンMRI(Signa SP)は,開放された空間を利用して,荷重下での関節撮影・関節の動態(kinematic)撮影が可能である.時間を優先し,より生理的な動きを追及するにはリアルタイム系の画像,形態を重視し再現性も追及する場合は三次元撮影など,目的に合わせて撮影方法も選択できる.さらにコンピュータ支援を受け,解析ソフトも充実させることによりin vivoでのbiomechanicsに関した研究の発展が期待される.

論述

膝屈筋腱を用いた前十字靱帯再建術後の膝前面痛の検討

著者: 浅野浩司 ,   仁賀定雄 ,   張禎浩 ,   原憲司 ,   能瀬宏行 ,   長束裕 ,   星野明穂

ページ範囲:P.1331 - P.1335

 抄録:膝前面痛は前十字靱帯再建術後に認められる合併症であり,遷延化すると日常生活にも影響を及ぼすことがある.膝屈筋腱の多重折りによるACL再建術を施行した441例を対象とし,術後に膝前面痛を生じた症例の,性別,年齢,術前膝伸展筋力や経過について検討を行った.術後1年以内に1カ月以上続く膝前面痛を生じていたのは47例(10.7%)であり,膝蓋腱における疼痛は43例,膝蓋大腿関節における疼痛は7例に認められ,多くの症例では膝蓋腱炎や膝蓋大腿関節障害の像を呈していた.膝前面痛の発生率は女性14.4%,男性7.4%であり女性に発生しやすく,30歳未満9.3%,30歳以上20%であり30歳以上で発生しやすく,術前膝伸展筋力健側比でみると60%未満18.6%,60%以上が10.4%であり60%未満の症例にて発生しやすかった.

両側進行期末期亜脱性股関節症に対する片側人工関節の意義―非手術側に与える影響

著者: 後藤英司 ,   高桑昌幸 ,   安藤御史

ページ範囲:P.1337 - P.1341

 抄録:亜脱性の両側性進行期末期股関節症例30例において片側にCharnley式人工関節全置換術を行った後,非手術側の経過観察を13年から21年(平均16年)行った.非手術側の疼痛が30点以上でX線所見が改善した症例は術後5年で30例中11例(36.7%),10年で28例中7例(25.0%),15年で28例中4例(14.3%)であった.術後5年時において症例を改善例と非改善例とに分け,X線計測値を比較すると,改善例においてroof osteophyteの長さが有意に長かった.したがって両側股関節症例において片側人工関節後に非手術側の臨床症状が長期間改善することが期待でき,特にX線上5mm以上のroof osteophyteを認める場合には手術を待機することも有用であると考える.

専門分野/この1年の進歩

日本整形外科スポーツ医学会―この1年の進歩

著者: 山本博司

ページ範囲:P.1342 - P.1344

 第28回日本整形外科スポーツ医学会は2002(平成14)年3月28日(木),29日(金)の両日,第6回日韓整形外科スポーツ医学会と併催の形で高知市において開催された.
 平成14年は,ワールドカップサッカーが6月に日本と韓国で開催され,高知では8月~10月に国民体育大会が開催される年であります.本学会は,特にワールドカップサッカーの前に行うことで,日本整形外科スポーツ医学会と日韓整形外科スポーツ医学会を意義深くするために,シンポジウムⅠ:腰部障害のメディカルチェックとその対策,Ⅱ:サッカー選手のコンディショニング(日韓合同会議)―ワールドカップに備えて―,Ⅲ:健康づくりのためのウォーキング科学,ワークショップⅠ:スポーツ障害と足の痛み,Ⅱ:スポーツ外傷・障害とその予防対策,とさせていただいた.特にシンポジウムⅡは,日本と韓国で行われるワールドカップサッカーを意図したものであり,日本と韓国のドクターにワールドカップに備えてのコンディション作りについて国際討論を行っていただいた.これに,4つの教育研修講演に加え,第4回スポーツ用装具を考える会や,高知国体の年でもあることより,最終日には市民フォーラム「国体と健康・スポーツ推進」を開催した.

整形外科philosophy

Cloward先生の思い出

著者: 吉澤英造

ページ範囲:P.1345 - P.1350

 Cloward先生が2000年11月13日(月曜日)にハワイのQueen's Medical Centerで92年の生涯を閉じられた.葬儀の知らせを受け取ったが出席することはできなかった.同じ年の12月6日,私の父が他界した.享年93歳であった.Cloward先生には日本の明治生まれの人にみられるような頑固さがあった.いずれはとは思っていたが寂しかった(図1).

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・58

著者: 篠崎哲也 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.1351 - P.1354

症例:76歳,女性
 主訴:右下腿部腫脹
 現病歴:3~4カ月前に偶然右下腿部の硬結に気付いた.放置していたが腫瘤の増大傾向を認め,歩行時に違和感を自覚するようになった.

境界領域/知っておきたい

NKT細胞(Natural Killer T Cell)

著者: 原田義忠

ページ範囲:P.1356 - P.1359

【はじめに】
 ほ乳類における免疫系を構成するリンパ球は,大きく分けて次の3つのグループに分類されてきた.1)T細胞;胸腺で分化し細胞性免疫をつかさどり,T細胞抗原受容体(TCR:T cell receptor/CD3)を細胞表面に発現している.2)B細胞;各種抗体(免疫グロブリン:IgG,IgA,IgM,IgD,IgE)を産生することにより液性免疫をつかさどる.3)NK細胞;免疫系において自己であることを示すMHC(主要組織適合遺伝子複合体)が失われた細胞,例えばガン細胞などを認識して細胞傷害性を発揮し,活性化分子であるNK1.1を発現している.
 最近新たに発見された第四のリンパ球として,NKT細胞(Natural Killer T Cell)が,注目されており,この細胞は名前のとおり細胞表面にT細胞の表面マーカー(TCR)とNK細胞のマーカー(NK1.1)を発現している.近年の研究によりこのNKT細胞のもついくつかの特徴が明らかにされてきた2)

国際学会印象記

『第2回中日脊柱外科会議』に参加して

著者: 野澤聡

ページ範囲:P.1360 - P.1361

 今年5月30~31日にかけ,第2回中日脊柱外科会議に参加する機会を得ました.欧米スタイルとは違った中国の学会での貴重な経験を通して,中国のユニークさや素晴らしさを知ることができましたのでお伝えしたいと思います.

連載 整形外科と蘭學・1【新連載】

日本最初の人骨図

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.1362 - P.1363

 筆者の故郷であり,現在も住んでいる大分県中津市は,整形外科の開祖である田代義徳の養父,田代基徳の出身地であり,前野良沢から福沢諭吉に至るまで,多くの蘭学者の輩出した城下町としても知られている.田代基徳も福沢諭吉と同じく,大阪の適塾で緒方洪庵に蘭学を学んでおり,蘭学の歴史抜きには整形外科の発祥は語れない.前野良沢が長崎で蘭学を学ぶきっかけも整形外科と関係が深い.
 良沢が侍医として仕えた中津藩主・奥平昌鹿の母親が𦙾骨を骨折し,なかなか治らなかったところ,たまたまオランダ人の江戸参府に伴って通訳として江戸に滞在していた長崎の蘭方医,吉雄耕牛が鮮やかな治療法で全治させた.昌鹿は蘭方医術の優秀性に心服してしまい,その後しばしば手紙を耕牛に送り,自らも蘭学に大きな関心を寄せた.明和7(1770)年,昌鹿は中津に良沢を連れて帰り,さらに長崎に留学させた.良沢は長崎でターヘル・アナトミアを入手し,後に杉田玄白や中川淳庵らと大変な困難を乗り越えて翻訳し,安永3(1774)年『解体新書』として世に送り,自らは蘭学の鼻祖となった.

医療の国際化―開発国からの情報発信

海外医療ボランティア活動記(1)

著者: 藤塚光慶 ,   藤塚万里子

ページ範囲:P.1364 - P.1368

 ケニヤの首都ナイロビからチャーターしたセスナが海のように大きなビクトリア湖の上空を越え,ザイール(現コンゴ共和国)の北の町,ブカブの空港へ到着したのは1994年12月の日差しの強い午後2時頃であった.空港といっても,原っぱに舗装もしていない滑走路が1本あり,その周りで子供たちが遊んでいる囲いも何もない,ただの広場である.ナイロビで買い集めた医薬品,日常品などをセスナから降ろしているあいだに周囲の景色にカメラをむけると「ここは,撮影禁止だ」といっぱしの空港のようなことをいう.カメラをしまおうとすると,「20ドル出せば撮っても良い」という.以後は万事がこの調子であったが,20ドルの価値はないので断った.
 原っぱの片隅に馬小屋のようなバラックがあり,そこが税関であった.スーツケースから段ボールまですべて開けて見せるという.ナイロビで合流したT氏が「ハハーン」という顔をして10ドル出すと「OK,通って良い」という.こちらには後ろめたいところはないが,医薬品などにいちゃもんをつけられて没収されたり,また取り戻すのに金がかかったりするので,さっさと通過するに限る.ホッとして“税関”を出ようとすると係官が「コーラ,コーラ」と叫ぶ.どうやら,コーラ代として1ドル,チップをよこせということらしい.こちらは,寄付金などの浄財で活動しているのでこれ以上余計な金は使えない,と聞こえないふりをして外へ出てしまった.

症例報告

鏡視下に治療した前𦙾骨滑液包炎の1例

著者: 山門浩太郎

ページ範囲:P.1369 - P.1371

 抄録:出血性の腫脹を繰り返し,保存療法に抵抗する前𦙾骨滑液包炎を呈した83歳の女性に対して,関節鏡視下に嚢腫切除を行った.手術は腰椎麻酔下に鏡視用バイポーラーとシェーバーにて嚢腫底を中心に可及的に嚢腫壁を切除した.術中の嚢腫の虚脱を防ぐため,嚢腫上の皮膚から直接には関節鏡を刺入せず嚢腫縁から約1cm離れた部位より皮下に関節鏡外筒を進め,嚢腫の近位と遠位それぞれ1カ所にポータルを作成した.術後3カ月にて嚢腫の消失を認めた.創治癒の遷延,有痛性瘢痕といった合併症を認めなかった.術後1年現在,嚢腫の再発はなく術前の痛みは消失している.膝立てなどの日常動作に制限はない.鏡視下手術は観血的手術に比較して低侵襲であり有用な方法と思われた.鏡視下切除においては全切除にこだわることなく,可及的な嚢腫壁切除により術後の癒着による嚢腫の消失を待つことが皮神経損傷などの合併症を回避するためによいと考えた.

後方進入単椎間整復固定術を施行した先天性腰椎すべり症(Grade Ⅲ)の1例

著者: 福田章二 ,   宮本敬 ,   細江英夫 ,   児玉直樹 ,   清水克時

ページ範囲:P.1373 - P.1376

 抄録:症例は先天性腰椎(L5)すべり症(Grade Ⅲ,%slip:54%,slip angle:40°)を有する12歳,女性であり,進行性の腰痛,右下肢痛を有していた.保存的治療が無効であり,後方進入単椎間整復固定術を施行した.まずはスペーサートライアルを用いて椎間の開大および整復を試み,xia spine system(Stryker Spine®,France)を用いてL5の引き上げを行った.術中を通して腓骨神経のモニタリング波形は正常であった.術後X線像にて腰仙椎のすべりは%slip:33%,slip angle:20°に改善した.術後1年の現在,骨癒合は良好で,臨床症状も改善した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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