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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科37巻12号

2002年12月発行

雑誌目次

視座

生体組織工学と整形外科

著者: 石黒直樹

ページ範囲:P.1387 - P.1388

 生体組織工学という言葉を最近よく耳にされることと思う.再生医療に対する期待が高まるなかで,再生医療イコール生体組織工学であるかのような理解が生まれている.正確には生体組織工学は再生医療を可能にする手段を提供する方法論である.組織が損傷した部位で正常に再生できないのは,組織の修復が誤った方向に進むため,本来の組織への修復が阻害されるとも考えられる.この考えに従えば,周囲からの不必要な組織の侵入を防ぎつつ,再生を促進することが肝要である.この再生を促進するための技術の開発を目的とするのが組織工学研究である.現在,再生には①細胞,②細胞の足場,③成長因子など(分化・成長促進物質)の組み合わせによる環境整備が必要と考えられている.
 整形外科では臓器の再生は必要なく,組織の再生で十分に活用できる点が重要である.骨折の治療は骨組織の再生を,骨切り術は荷重軸の変更による軟骨面(組織)の再生を期待していた.再生しやすくする工夫,例えば強固な固定や,解離を少なくするなどの注意が払われていた.しかし,一部を除き,積極的に組織再生そのものに対する人為的な操作を加えていたとは思えない.そこでは当然患者の治癒(再生)能力に頼る部分が大きくなるし,結果も治癒(再生)能力の小さな例では劣ることになる.言い換えてみれば,「治るモノは治る.治らないモノは治せない.」ということになってしまう.それでも再生能力に優れる骨組織は何とかなるが,神経・軟骨組織では結果は誠に覚束ない.

論述

高齢者頚椎症性脊髄症の手術成績

著者: 三谷誠 ,   鷲見正敏 ,   池田正則 ,   向井宏 ,   黒石昌芳

ページ範囲:P.1389 - P.1394

 抄録:70歳以上の高齢者頚椎症性脊髄症に対する手術症例のうち,術後1年以上経過した症例の手術成績とそれに影響を与える因子について調査検討した.対象は92例(男性50例,女性42例)で,手術時年齢は平均74.4歳(70~87歳)である.JOAスコアは術前7.4±2.8点が,術後1年で12.1±2.8点へと有意に改善していた.平均2年6カ月の調査時においても11.6±3.0点と軽度の低下傾向を認めたが,良好な成績が維持されていた(改善率:平均44.2%).脳梗塞など頚椎以外の合併症で成績が悪化した症例は9例(9.8%)であった.X線学的所見ではC3/4,C4/5椎間が不安定性を示し,これらの椎間が脊髄症発現の責任高位になっている症例が多く認められた.成績を左右する因子は罹病期間であり,重症であっても罹病期間の短い症例の手術成績は良好であった.高齢者の場合においても,術前に重症であっても早期に手術を行えば比較的良好な成績が期待できる.

腰部交感神経節ブロックの治療効果―腰仙椎部退行性疾患による馬尾障害に対する適応

著者: 矢吹省司 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.1397 - P.1400

 抄録:腰仙椎部退行性疾患による馬尾障害(以下,本障害と略す)に対する治療は,手術療法が第一選択である.しかし,高齢者では,全身状態などの理由により手術実施が不可能な場合もある.われわれは,本障害に対して1993年から腰部交感神経節ブロック(以下,SBと略す)を保存療法の一手技として適応してきた.本研究の目的は,SBの治療効果が認められる症例の頻度やどのような症例に有効なのかを明らかにすることである.対象は,本障害を呈している45例(男性24例,女性21例)である.SBの治療効果が有効と判定された有効群は,45例中11例(24%)であり,無効と判定された無効群は,34例(76%)であった.有効群と無効群との間で有意差が認められた項目は,罹病期間のみであり,有効群の罹病期間は,無効群に比して明らかに短かった(p=0.021).本障害であっても,罹病期間の短い症例に対しては,SBは有効な保存療法となりうると思われた.

変形性膝関節症における関節軟骨のMRI所見―関節鏡所見との比較

著者: 渡辺吾一 ,   名越智 ,   河村正朋 ,   山本宣幸 ,   森末博之 ,   玉川光春 ,   山下敏彦

ページ範囲:P.1401 - P.1406

 抄録:MRIでの軟骨変性度の評価に際し,簡便な形態的な基準を提案し,それによって分類した膝関節軟骨のMRI所見と関節鏡所見を対比した.対象は,男性12例13膝,女性21例22膝,平均60歳(12~84歳)であった.脂肪抑制3D gradient-echo法で矢状断像を撮像した.MRIと関節鏡のGradeが一致したのは,Grade 0で21部位中16部位,Grade 2で58部位中43部位,Grade 3で39部位中25部位,Grade 4で22部位中22部位であった.変性が高度なGrade 4のMRI検査におけるsensitivityおよびspecificityは非常に高かったが,変性が中等度のGrade 2あるいはGrade 3のsensitivityおよびspecificityは比較的低かった.また,部位別では,内外側とも𦙾骨プラトーに比べて大腿骨側でのsensitivityが低かった.本条件でのMRI検査は,さらに改善の余地があると考えられたが,術前の膝関節軟骨の変性状態の把握に有用であった.

調査報告

腰下肢痛と腰痛関連機能,総合的健康感,および社会参加の関連―腰痛関連モデルを用いた疫学的検討

著者: 竹谷内克彰 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一 ,   大谷晃司 ,   高橋一朗 ,   鈴鴨よしみ

ページ範囲:P.1409 - P.1417

 抄録:腰下肢痛の治療の評価や計画に様々なアウトカム指標が用いられている.われわれは,アウトカム指標間の関係を表す腰痛関連モデルを設定し,指標の相互の関連性を明らかにするために疫学的検討を行った.総合検診を受診した816名(男性369名,女性447名,最多年代層70歳代)を対象とした.問診により,腰下肢痛の程度,機能状態,総合的健康感,社会参加,主観的幸福度,および患者の満足度について調査した.腰痛関連モデルに基づいてパス解析を行い,指標の関係を検討した.その結果,指標の相互関係は,腰痛関連モデルのパスに則していることが明らかになった.すなわち,腰痛関連モデルは,腰下肢痛のアウトカム指標間の体系的な関連を示唆するモデルであるといえる.また,総合的健康感は,疼痛の程度よりもむしろ日常の生活の機能状態と強い関連が認められた.すなわち,腰痛患者の治療にあたっては,単に痛みの軽減だけでなく,患者の生活上の障害という視点を持った医療の構築も重要である.

同一個体における腰椎前弯の10年間の経時的変化

著者: 村田泰章 ,   内海武彦 ,   花岡英二 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1419 - P.1422

 抄録:腰椎前弯について同一個体の過去と現在を比較した報告は少ない.146人の腰痛患者に対し立位X線検査を少なくとも10年の間隔をあけて2回行い,lumbar lordosis,sacral inclination,各椎間の角度について比較検討した.年代ごとの10年間でのlumbar lordosisとsacral inclinationの平均角度は,ともに50代で有意に減少していた.またL5/S椎間角度において,第2回目は第1回目よりも有意に減少していた.すなわち,腰痛患者の場合には腰仙椎の配列の退行性変化は50代からの10年間に現れる傾向にあった.

検査法 私のくふう

頚髄症患者の術中脊髄モニタリング波形変化と治療成績の関連について―経頭蓋電気刺激脊髄誘発電位変化の検討

著者: 岩﨑博 ,   玉置哲也 ,   山田宏 ,   筒井俊二 ,   高見正成

ページ範囲:P.1423 - P.1428

 抄録:1992年以降,経頭蓋電気刺激脊髄誘発電位を用いたモニタリング下に除圧術を施行した頚椎症性脊髄症および頚椎後縦靱帯骨化症患者95症例を対象とし,脊髄除圧前後に導出した波形の潜時差および振幅比とJOAスコアの各機能別点数(各種JOA)およびそれぞれの改善率とを比較することにより,波形変化による治療成績予想が可能か否かを検討した.また波形パターンと治療成績との関連についても検討を行った.除圧前後の潜時および振幅変化と退院時や改善率との間には相関関係が認められなかった.Spikeパターンでは,術前および退院時各種JOA,特に下肢運動点数が高値を呈したが,各種改善率ではpolyphasicパターンとの間に有意差は認められなかった.したがって,術中経頭蓋電気刺激脊髄誘発電位の波形パターンによって退院時の予後はある程度予測可能であるが,潜時および振幅変化のみによる退院時JOAスコアの治療成績予想は困難と思われた.

シリーズ 関節鏡視下手術―最近の進歩

鏡視下距骨下関節固定術の手技と短期成績

著者: 山口和博 ,   麻生英一郎 ,   石田康行 ,   小西宏昭 ,   濱里雄次郎

ページ範囲:P.1429 - P.1432

 抄録:われわれは足関節捻挫と踵骨骨折後に慢性的な疼痛が残存した7症例に対し,鏡視下関節固定術を行った.改良した術式の詳細を述べるとともに術後の治療成績を調査した.対象は男性4例,女性3例で,年齢は23~63歳(平均37歳)であった.手術の成績は骨癒合の時期を単純X線の側面像で判断し調査時の加重時痛の有無と患者の満足度(満足,やや不満,不満)で評価した.骨癒合は術後4~10週後(平均6.3週後)にX線像にて確認できた.疼痛は全例で消失もしくは軽減しており,患者の満足度も7例中6例は満足との回答が得られた.短期成績は良好であること,また本法は骨移植,術中の牽引などを必要としないことを考えると今後有効な手技と考えられた.

専門分野/この1年の進歩

日本手の外科学会―この1年の進歩

著者: 吉津孝衛

ページ範囲:P.1434 - P.1437

 2002年(平成14)年4月に開催された第45回日本手の外科学会学術集会のテーマは,20世紀に多くの治療法が開発されたが,それらが“21世紀へのお土産と挑戦になりうるか”であった.これらをまとめて報告する.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・59

著者: 井田英雄

ページ範囲:P.1439 - P.1441

症例:5カ月,男児
 主訴:右足を動かさない
 現病歴:正常分娩で出生.3日前から風邪症状で発症し,発熱も38℃あった.その後オムツを交換する際に激しく泣くようになり,右下肢を動かさなくなった.母親が右鼠径部を中心に腫れていることに気付き,当科を受診した.

境界領域/知っておきたい

COX-2

著者: 坂本長逸

ページ範囲:P.1442 - P.1443

【2種類のNSAID標的酵素】
 Nonsteroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)はcyclooxygenase(COX)を抑制し,プロスタグランジン(PG)生成を抑制する結果,消炎・鎮痛作用など抗炎症作用を示すと理解されている.今日ではCOXには2種類のアイソザイムが知られている.COX-1遺伝子が,まずヒツジで1988年にクローニングされると,COX酵素レベルは細胞によって異なる調節を受けていることが様々な検討から明らかとなり,サイトカインや増殖因子によって誘導を受けるCOX遺伝子がクローニングされた.この誘導型のCOX遺伝子が,刺激に反応して誘導される4.3kbサイズのmRNAを有するCOX-2遺伝子であることが明らかにされた.COX-1が全長599個のアミノ酸からなるのに対して,COX-2は604個のアミノ酸からなる分子量68,984MWの蛋白質である.これら両遺伝子がクローニングされ,様々な検討がなされた結果,COX-1遺伝子はどの細胞にも発現するハウスキーピング遺伝子であり,COX-2遺伝子は刺激に反応して発現するimmediate early geneで,COX-2酵素が炎症反応に関与し,COX-1酵素は炎症反応というよりも発現臓器に必要な生理作用を営むものであることが示唆されている(図1).

統計学/整形外科医が知っておきたい

6.整形外科と疫学―EBMという前に

著者: 小柳貴裕

ページ範囲:P.1445 - P.1449

 われわれ臨床医にとって疫学的手法は馴染みが薄い.しかし要因と疾患の関係や,治療法の優劣,予後の予測など,その根拠となるevidenceは疫学的手法に基づいて得られた知見であり,そうでないものはevidenceとはいえない.EBM実践の一骨子である文献の批判的吟味においても,疫学的手法のプロセスの理解が不可欠である.すなわち疫学的手法はEBMの土台をなすものであり,臨床方針決定においても不可避の領域である.研究の方法は観察研究と,介入研究に大別される6,11)(図1).

連載 医療の国際化―開発国からの情報発信

北タイエイズ対策における国際医療協力

著者: 石田裕

ページ範囲:P.1450 - P.1452

はじめに
 国際医療協力について,私自身の経験を元にその現場を紹介していきたい.興味のある方は読み進めていただければ幸いである.私自身は,最初から国際医療協力を専門に勉強したわけではなく,京都府立医科大学卒業後,岡山大学整形外科に入局し,岡山の国立ハンセン病療養所邑久光明園で臨床医として勤務した後,英国,インド,バングラデシュ等で,その時々に必要な機会を与えられて実地に勉強させてもらいながら今日に至ったと思っている.1991年に初めてバングラデシュに派遣されて以来,バングラデシュで7年(ハンセン病対策),タイで1年半(エイズ対策)を過ごし,現在ミャンマー(ハンセン病対策・基礎保健)でもこの仕事に従事している.バングラデシュには,日本の民間国際医療協力団体としては,比較的歴史のある日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)から派遣された.2000年からは,国立国際医療センター国際医療協力局派遣協力課に移りODAの国際協力に従事するようになった.まず,タイのエイズ対策の報告から始めたいと思う.
 まず,タイにおけるエイズの経過とその対策を概観したい.現在タイには,約100万人のHIV感染者がいるといわれているが,「コンドーム100%使用促進」キャンペーンをはじめとして様々な対策を駆使してエイズの感染率を押さえ込んだ数少ない国であり,日本を含めたアジア諸国としては学ぶべき点が多いと考えられる.

医者も知りたい【医者のはなし】・2

北里柴三郎(1852-1931)・その1 「ドイツからの帰国まで」

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1454 - P.1457

※はじめに
 2002年の秋には,大変嬉しいことに,二人の日本人がノーベル賞を授賞した.1987年に,利根川進が日本人として最初のノーベル医学・生理学賞を授賞したことを思い出した.
 医学史を紐解いてみると,1901年の第1回のノーベル医学・生理学賞は,日本の北里柴三郎が授賞しても良い業績を残しているし,コッホが後年述べたように,北里柴三郎が授賞すべきであったと思う.

追悼

青池勇雄先生を偲んで

著者: 古屋光太郎

ページ範囲:P.1458 - P.1459

 東京医科歯科大学名誉教授青池勇雄先生は2002(平成14)年9月11日御逝去された.先生は福井県で1910(明治43)年9月10日にお生まれになったので,亡くなられた前日に満92歳になり,御家族で誕生祝をなさり,翌日苦しまずに,不帰の人となられた.病名は嚥下性肺炎による呼吸不全および糖尿病であった.
 先生は1935(昭和10)年3月東京帝国大学医学部を卒業され,1944(昭和19)年7月に東京医学歯学専門学校の教授に就任,その後同校が大学に昇格したことにより,1950(昭和25)年3月東京医科歯科大学医学部教授になられた.以来医学部附属看護学校長,医学部附属病院長を歴任し,1976(昭和51)年4月定年により退官し,名誉教授の称号が授与された.退官後直ちに川口工業総合病院院長に就任され,1988年10月名誉院長になられるまで勤務された.

臨床経験

上位頚椎部に発生した砂時計型神経鞘腫に対しRecapping T-saw laminoplastyを施行した2例

著者: 坂越大悟 ,   鳥畠康充 ,   鹿野尚英 ,   富田勝郎 ,   川原範夫

ページ範囲:P.1461 - P.1465

 抄録:上位頚椎部に発生した脊髄腫瘍に対する手術では,その形態学的特徴より,腫瘍の摘出や再建方法に苦慮することが多い.上位頚椎部の後方手術後脊柱変形予防法として,C2椎弓および,後頭下筋群の再建が重要といわれている.今回われわれは,いったん椎弓を切離して脊柱管内の操作が終了した後,再び元の位置に還納するrecapping T-saw laminoplastyを上位頚椎部に発生した砂時計型神経鞘腫の2例に応用した.1例はC2椎弓を解剖学的な形態と位置に元通りに再建することができ,もう1例は切除した椎弓を完全に還納することができず,局所海面骨移植を併用した.2例とも良好な視野が得られ,術後1年以内に過剰仮骨を生じることなく骨癒合し,術後脊柱変形は生じなかった.

腫瘍用プロステーシスによる上腕骨遠位部転移性骨腫瘍切除後の肘関節再建

著者: 小山内俊久 ,   佐竹寛史 ,   石川朗 ,   土屋登嗣

ページ範囲:P.1467 - P.1470

 抄録:上腕骨遠位部に発生する悪性骨腫瘍はほとんどが癌の転移であり,病的骨折を予防する目的の姑息的手術が施行されることが多かった.しかし,上腕骨遠位部はその解剖学的特性から強固な固定が難しく,長期にわたっての手術効果は期待できない.上腕骨遠位部に発生した転移性骨腫瘍を切除後,腫瘍用プロステーシスで患肢を再建した2例について報告する.症例1は56歳の女性で肺癌骨転移,症例2は70歳の男性で腎癌骨転移である.Howmedica Modular Resection Systemを用いて上腕骨欠損部を補塡し肘関節を再建したが,いずれも良好な肘関節機能が得られた.腫瘍用プロステーシスを用いた再建は手技が簡単で,疼痛のない安定した関節が術後早期より得られ,転移性骨腫瘍の手術として有用であると思われた.

変形性膝関節症に対する距骨下関節固定付き足底板に使用する外側楔状ウレタンの最も効果的な傾斜について

著者: 戸田佳孝 ,   加藤章子 ,   月村規子 ,   増田研一

ページ範囲:P.1471 - P.1476

 抄録:変形性膝関節症(膝OA)に対する距骨下関節固定付き足底板(新型足底板)は従来の靴の中敷き型足底板と異なり大腿𦙾骨角を外反矯正するとわれわれは過去に報告した.今回は新型足底板に使用する外側楔状ウレタンの最も効果的な高さについて検討した.51例の膝OA患者に8mm(15例),10mm(18例),12mm(18例)の高低差がある外側楔状ウレタンを用いた新型足底板を装着させ,2週間装着前後におけるLequesne重症度指数の改善率を比較した.その結果,12mm群では8mm群に比し有意に優れた症状改善率を示した.従来の足底板では外側楔状ゴムなどが用いられ,10mmが楔状の高さの限度という報告がある.新型足底板ではベルトで外側楔状を固定するためゴムを用いた場合は足底部痛が生じやすく,ウレタンを用いている.そのような材質や固定の仕方の違いによって従来型足底板と新型足底板では至適な楔状の高さが異なると結論した.

妊娠・産褥期の仙骨疲労骨折

著者: 小林良充 ,   加地良雄 ,   近藤尚

ページ範囲:P.1477 - P.1482

 抄録:産褥期にみられた仙骨疲労骨折例について報告する.筆者らの外来に妊娠末期・分娩直後からの仙腸関節部痛を訴えて受診した産褥期の婦人は7例(1例は他院で分娩)で,全例にMRIを施行し1例を除いて6例の仙骨に異常所見を認めた.6例とも初産,5例が経腟分娩で1例が帝王切開分娩だった.年齢は26~33歳(平均31.9歳),5例が分娩時30歳前半だった.その予後は良好で分娩後3カ月以内に症状が消失した.単純X線像では仙骨に異常は認めず,骨粗鬆症を疑わせる所見もなかった.MRIでは片側の仙骨翼にT1強調像で低信号,T2強調像で高信号域がみられ,4例に骨折を認めた.骨折を認めなかった2例中1例にCTを施行,腹側皮質の破綻を確認した.発生機転は,妊娠・分娩に伴う骨盤輪不安定性が基礎となり荷重による負荷で発生し,加齢と妊娠による骨塩量低下も誘因と考えた.産褥期婦人の腰痛の原因として本疾患を考慮する必要がある.

症例報告

足趾屈筋腱腱鞘より発生した骨外軟骨腫の1例

著者: 松本知之 ,   松原伸明 ,   山口晋司 ,   高祖清泰 ,   松島真司 ,   山本哲司

ページ範囲:P.1485 - P.1488

 抄録:症例は34歳,男性.約15年前に初めて右足底部の腫脹に気付いたが,腫脹の増大傾向はなく,放置していた.2001年3月,運動後に同部の疼痛を自覚し当科受診となった.右第2趾MTP関節底側に,母指頭大の弾性硬の腫脹を認め,単純X線像で石灰化像,MRI像で筋肉と等信号の境界明瞭な陰影を認め,確定診断を兼ねて腫瘤摘出術を行った.腫瘤は屈筋腱腱鞘に由来しており,軟骨様の硬さ,白色光沢を有し,内部に多数の石灰化巣を認めた.病理組織学的所見では,腫瘍は分葉状の成熟軟骨組織よりなり,石灰化もみられた.以上より,足趾屈筋腱腱鞘より発生した骨外軟骨腫と診断した.骨外軟骨腫は比較的稀な疾患であり,病理組織学的に軟骨肉腫との鑑別が重要であり,腫瘤の大きさ,発育経過などの臨床所見を十分に把握して鑑別する必要がある.治療に関しては,癒着した腱鞘も含めて腫瘤を全摘出した.

MRIが術後の腱走行の評価に有用であった上腕二頭筋遠位腱皮下断裂の1例

著者: 石井正悦 ,   蔡栄美 ,   薮野亘平 ,   辻野宏明 ,   山口勝之

ページ範囲:P.1489 - P.1492

 抄録:症例は65歳男性.土木作業員.転倒した際近くのものにつかまろうとして右肘を強制伸展した.右肘窩部での上腕二頭筋の陥凹がみられ,筋腹は近位へ移動していた.肘の筋力は屈曲回外ともにMMT4レベルであった.MRIでは上腕二頭筋筋腹の近位移動,筋腹遠位端の鈍化,皮下出血中に遊離する索状物がみられた.上腕二頭筋遠位腱皮下断裂と診断し,受傷約4週後に手術を行った.腱は橈骨粗面から剝離し近位へ退縮していたのでこれを引き出した.前方より橈骨粗面を展開し,suture anchor設置後肘屈曲位で腱をこれに縫着した.術後肘屈曲90°でギプス固定を4週行った後可動域訓練を開始した.術後12カ月の現在,肘可動域制限もなく屈曲回外筋力もほぼ正常に回復している.術後の腱走行を評価するため撮像したMRIでは,上腕二頭筋筋腹が引き下ろされその遠位端が鋭化していた.

腰椎椎間板ヘルニアに神経根腫瘍を伴った1例

著者: 高橋敦志 ,   飯塚伯 ,   登田尚史 ,   高岸憲二 ,   清水敬親 ,   馬場秀幸

ページ範囲:P.1493 - P.1496

 抄録:症例は22歳女性.1998年1月頃より左臀部痛が出現.同年7月頃より左坐骨神経痛が出現した.単純X線像でL4/5に前屈位にて後方開大が認められた.MRIではL4/5の椎間板の変性と後方への突出,L5~S1の脊柱管内に腫瘍を認め,S1椎体後方にscallopingもみられた.翌年1月にL4/5のPLIFおよび腫瘍切除術を施行した.病理学的診断はneurinomaであった.術後左足背外側より趾尖にかけてのしびれおよびperoneus,EHL,EDLの筋力低下が出現したが,術後3カ月にて完全に回復した.術前,L5神経根領域に一致した疼痛を訴えていたことと,馬尾,神経根腫瘍に比較的多いとされる夜間時痛を訴えていなかったことから腰椎椎間板ヘルニアによる疼痛と判断した.術後,腫瘍摘出によると思われる筋力低下が出現したものの,完全回復し,良好な成績をおさめた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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