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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科37巻2号

2002年02月発行

雑誌目次

視座

日米の医業類似行為者業界

著者: 高倉義典

ページ範囲:P.115 - P.116

 一昨年より柔道整復師養成の専門学校の規制緩和が計られ,この数年間で50近い学校が開設され,現在3万人の柔整師は8年後には倍増するといわれている.さらには構成員15万人の針灸師も柔整師同様の受領委任払いの保険料請求を要求しつつある.これが認められると両者で1兆円を超す医療費が支出されるそうで,医師に対する診療報酬を厳しく制限している厚生労働省も大変な問題を抱えているのである.昨年,奈良県内で柔整師の支部結成25周年記念行事があり,整形外科関係の代表として私も参加した.驚いたことに,そこには県選出の自民党の衆参両院のすべての代議士本人(1名だけは秘書)が出席して,全議員が祝辞を述べておられた.医師会のこのような会にたまに出席しても代議士本人はほとんど出席せず,秘書かもしくは祝雪程度で済ませていることが多く,いかに彼らが関連議員を物心両面で強力に支持しているかの現れかと,驚き感じ入っていた次第である.整形外科医にとって,今後は以上のような医業類似行為者業界の現状把握や対応が極めて重要な問題になってくることは必然である.日整会関連でも最近,医療システム検討委員会の中に医療周辺ワーキンググループが結成され,これらの諸問題に関して熱心に検討され始めている.

論述

鈍的多部位外傷患者における骨折の診断遅延例の臨床的検討

著者: 鈴木卓 ,   河合孝誠 ,   森村尚登 ,   杉山貢

ページ範囲:P.117 - P.121

 抄録:鈍的多部位外傷患者のうち診断遅延となった整形外科的骨折症例の臨床的検討を行った.1999年1月より2001年1月までの間に当センターに入院した鈍的多部位外傷患者502名のうち,来院後24時間経過した時点で診断および疑うことのできなかった整形外科的骨折症例を分析.診断遅延は18例(4%)で重症度の高い多部位外傷症例が多かった.骨折部位は手部・足部の骨折(10例)が多く,このうち7例に同側近位に別の骨折を合併していた.骨折部のX線撮影は施行されていないものが9例,不適切撮影が5例,読影ミスが3例あった.また,診断遅延が不可避と考えられたものは3例(17%)であった.整形外科的骨折の診断遅延は避けられるものと避けられないものがあり,その予防としては入院後全身状態が落ち着いた早期に三次査定を行い,複数方向からX線撮影を施行しておく必要があると考えられた.

スノーボード外傷における足関節果部骨折―スキー外傷との比較

著者: 東裕隆 ,   安田和則 ,   眞島任史 ,   青木喜満 ,   三浪明男 ,   九津見圭司

ページ範囲:P.123 - P.127

 抄録:日本有数のスキー場群であるニセコスキー場において,1995年より3シーズンにわたりスノーボード外傷(以下,ボード外傷)およびスキー外傷における足関節果部骨折について比較検討した.対象は,この地域の唯一の基幹病院を受診し足関節果部骨折と診断されたボード外傷11例およびスキー外傷23例,計34例である.これらの症例に対し,retrospectiveに調査した.結果はボードおよびスキー外傷において,平均年齢(29.5歳対33.6歳),男性の占める割合(82%対48%)であった.外傷が左側に発生する割合は前者64%,後者52%であり有意差を認めた.Lauge-Hansenの分類による骨折型に関しては,前者は回外・外旋型,回内・外旋型のみであったのに対し,後者はすべての骨折型を認めた.ボード外傷において,バックサイドへの転倒が多く,その際左側に外傷発生の頻度が高く,フロントサイドへの転倒の際は右側に発生する頻度を高く認めた.

頚椎椎間板ヘルニアによる頚髄症に対する保存療法の有用性と限界―手術例との比較検討

著者: 松本守雄 ,   千葉一裕 ,   西澤隆 ,   中村雅也 ,   丸岩博文 ,   藤村祥一 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.129 - P.133

 抄録:椎間板ヘルニアによる頚髄症に対する保存療法の治療成績を種々のoutcome instruments(JOAスコア,SF-36,治療に対する満足度,Zung self-rating depression scale,上肢しびれ・痛み,軸性疼痛の5段階評価)を用いて手術例と比較検討した.また,MRIにおける髄内高輝度病変や脊髄面積減少などの保存療法中の変化とそれらが治療成績に与える影響を調査した.対象は初診時JOAスコア10点以上の椎間板ヘルニアによる頚髄症例33例(保存療法15例,手術18例)であった.調査時,各評価方法で両群間に有意差を認めなかった.保存療法例のうちヘルニア非縮小例では脊髄面積減少,髄内高輝度病変残存が高頻度に認められ,臨床成績も不良となる傾向を認めた.以上より,頚髄症軽症例では保存療法で概ね手術例と遜色のない結果が期待できる.しかし,ヘルニア非縮小例で臨床症状の改善がみられず,MRI上髄内高輝度の残存や脊髄面積の減少が認められる場合は,手術療法への転換を行うべきである.

提言

21世紀における運動器教育のありかた

著者: 福田寛二 ,   浜西千秋 ,   松尾理

ページ範囲:P.135 - P.138

 抄録:近畿大学医学部整形外科医学教育改革の一環として医学教育モデル・コア・カリキュラムが提示され,すべての医学部においてカリキュラムの見直しが検討されている.これは「すべての学生が履修すべき必須の内容」と定義される.運動器疾患として臨床前の医学教育到達目標が,17の必須項目として設定された.一方臨床実習科目として,内科,外科,産婦人科,小児科,精神科の5つのコア臨床実習科目が設定され,整形外科についてはコア科目として指定されていない.このような背景のもと,整形外科としても,問題解決能力を持った「良き臨床医」を育成するために,臨床前医学教育と臨床実習のあり方を見つめなおす必要がある.このために,学生の興味やニーズに応じたカリキュラムを設定し,テュートリアル形式やインターネットの導入などにより,多くの学生に魅力ある選択肢を与える必要がある.

専門分野/この1年の進歩

日本整形外科学会骨・軟部腫瘍学術集会からみた骨軟部腫瘍この1年の進歩

著者: 早乙女紘一

ページ範囲:P.140 - P.142

 第34回日本整形外科学会骨・軟部腫瘍学術集会は2001(平成13)年7月19日(木),20日(金)の2日間,宇都宮市にある栃木県総合文化センターで開催された.今年は西暦2001年,新世紀最初の年であるので,この学会を今世紀における骨・軟部腫瘍の研究,治療の進歩・発展の出発点と位置づけ,標語を「新世紀,新たなる発展 New Century, New Advance」とし,そのために現在検討しておくべきテーマを中心に取り上げ,2題のシンポジウム,5題のパネルディスカッション,8題の教育研修講演と6題のミニレビューを企画,編成した.このうちシンポジウムとパネルディスカッションから得られたコンセンサスを,本稿の目的である骨軟部腫瘍のこの1年の進歩として紹介したい.

国際学会印象記

『第40回国際パラプレジア医学会』に参加して

著者: 加藤真介

ページ範囲:P.144 - P.145

 今年の国際パラプレジア医学会(IMSoP)では,学会にとって極めて重要な決定がなされました.1961年の創立以来,国際パラプレジア医学会では外傷性脊髄損傷が関心の中心でしたが,最近はより広く脊髄障害全般を研究しようという機運が高まり,その一環として1995年に機関誌の名前がParaplegiaからはSpinal Cordに変更されたことは皆様ご承知の通りです.この後もその考えはさらに広まり,数年前から学会名の改称が検討され始め,2000年11月から理事長に就任された井形高明先生を中心に本格的な作業が進められてきました.そして今年のcouncil meetingでいくつかの案の中から投票で選ばれたInternational Spinal Cord Society(ISCS)という名称が,総会に推薦され了承されました.議論の中ではmedicine,medicalという言葉の取り扱いが問題となりましたが,前者はすでにSpinal Cord Medicineという名称の雑誌が存在すること,後者は学会のassociate memberとはいえ脊髄障害医療の重要な構成員であるコ・メディカルの方々が好まないことにより,使用されないこととなりました.正式には,来年の総会での会則変更の手続きを経て発効いたします.これに従いまして,日本語の名称も改称する方向で検討しております.

整形外科英語ア・ラ・カルト・104

整形外科分野で使われる用語・その66

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.146 - P.147

 このシリーズ第100回目の“tendon”の処で,“tenorrhaphy”を“腱形成術”と記述したが,友人の整形外科医から,“腱縫合術”であると指摘された.“腱形成術”は“tenoplasty”である.外科の分野では,脱腸のヘルニア根治術を“hernioplasty”や“herniorrhaphy”と同じ意味に使う.そのために私が間違って“tenorrhaphy”と“tenoplasty”を同じ意味に使った次第である.“rrhaphy”の原義は,ギリシャ語の“縫う”という動詞形“rhaptein”に由来している.

臨床経験

小児大腿骨頚部骨折後の骨頭壊死に対する大腿骨頭回転骨切り術の経験

著者: 伊藤錦哉 ,   和田郁雄 ,   杉村育生 ,   冨田浩司 ,   寺澤貴志 ,   種田陽一 ,   吉田行雄 ,   松井宣夫 ,   脇田郷

ページ範囲:P.149 - P.153

 抄録:小児の大腿骨頚部骨折は,その解剖学的特殊性から治療上,いくつかの問題点がある.また骨頭壊死など,合併症の発生率も高いとされている.今回われわれは,Delbet-Colonna Ⅰ型大腿骨頚部骨折後に発症した9歳10カ月男児の大腿骨頭壊死の症例を経験した.初期治療後のMRIでは骨頭後外側部にT1,T2強調像で高信号を呈しenhanced T1強調像で造影される領域を認め,同部は血流が十分保たれていると考えられた.本例における骨頭壊死の範囲,年齢などを考慮し,大腿骨頭回転骨切り術を施行した.術後1年を経過し,新たなcollapseの発生はなく,術前の壊死域は速やかかつ良好なリモデリングを示している.本例では小児期の大腿骨近位部の血行に重要とされるlateral epiphyseal arteryが損傷を受けたものの,初期治療後早期に大腿骨頭後外側から血行が再開したものと推察された.

Gamma nail抜釘後に大腿骨転子下骨折を生じた2例

著者: 森戸伸吾 ,   今泉秀樹 ,   関谷元彦 ,   藤井玄二

ページ範囲:P.155 - P.158

 抄録:Gamma nail抜釘後早期に大腿骨転子下骨折を生じた2例を経験した.症例1:60歳男性.高所からの転落で受傷.右大腿骨転子下骨折に対し,long Gamma nailで固定した.骨癒合は得られたがnail近位端部の疼痛が続くため,1年後に抜釘術を行った.抜釘約2週後,布団を降ろすときに右股関節痛が出現し,前回の骨折線より近位で転子下骨折を生じた.症例2:56歳女性.交通事故で左大腿骨転子部骨折を受傷した.Gamma nailで固定を行い,術後1年5カ月に抜釘した.抜釘数日後から徐々に疼痛が出現,大腿骨転子下骨折であった.両例とも抜釘後の骨折線がlag screw刺入部を通っており,大腿骨近位部の骨脆弱性が考えられた.また症例1は骨折部での内反位骨癒合が,症例2では骨粗鬆症と骨折の関連が推定された.Gamma nail抜釘には十分なインフォームドコンセントと術後患肢保護などの対策が必要と考えられた.

経静脈的patient controlled analgesiaによる脊椎術後疼痛管理

著者: 松本守雄 ,   千葉一裕 ,   西澤隆 ,   中村雅也 ,   丸岩博文 ,   藤村祥一 ,   戸山芳昭 ,   橋口さおり

ページ範囲:P.159 - P.162

 抄録:比較的侵襲の大きい脊椎手術患者30例(男17例,女13例,平均年齢51歳)の術後疼痛管理に経静脈的patient controlled analgesia(iv-PCA)を行った.使用薬剤は塩酸モルヒネで,PCA装置にはSabratek 6060を使用した.調査項目はvisual analogue scale(VAS)による疼痛評価,モルヒネ使用量,bolus投与回数,患者の満足度,副作用とした.術後24時間のVASは平均3.5±2.4であり,鎮痛効果は良好であった.モルヒネ使用量は最初の24時間で30.3±16.5mg,bolus回数は同17.8±14.4回でこれらは経時的に減少した.患者の満足度は「非常に満足」,「満足」あわせて86%であった.術後24時間のVASが6以上の除痛不良例は,開胸例,側弯症などに対する広範囲後方固定例であった.副作用は9例33%に認められ,嘔気3例,せん妄・妄想2例,眠気2例などであった.以上の結果より,iv-PCAは良好な除痛が得られ,患者の満足度も高く,比較的安全であることから,脊椎術後疼痛管理に有用な鎮痛法と考えられた.

症例報告

大腿骨頭壊死を合併したPycnodysostosisの1例

著者: 尾下英史 ,   細江英夫 ,   清水克時

ページ範囲:P.165 - P.168

 抄録:濃化異骨症は,常染色体劣性遺伝の遺伝形式を示し,近年連鎖解析により本疾患の原因遺伝子が1q21に同定された稀な骨系統疾患である.特徴的なX線像を示し,臨床的には易骨折性が問題となる.しかし,大腿骨頭壊死を合併した例はこれまでに報告がない.濃化異骨症と骨壊死との関係は不明であるが,治療にはその骨の特性より困難が予想される.

球麻痺により発症した上位頚椎奇形の1治験例

著者: 岩波明生 ,   丸岩博文 ,   西澤隆 ,   松本守雄 ,   千葉一裕 ,   藤村祥一 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.169 - P.173

 抄録:球麻痺により発症した上位頚椎奇形の1症例を経験した.症例:42歳男性.嗄声,嚥下困難,歩行障害を主訴とした.神経学的には下顎反射の低下,嚥下障害,嗄声がみられ,筋力低下や明らかな知覚障害はないが,深部腱反射は両側ともに亢進し,病的反射も認めた.単純X線,CTにて頭蓋底陥入症,環椎後頭骨癒合症,不安定性のある環軸椎亜脱臼を認め,後頭骨の非薄化を認めた.MRIではArnold-Chiari奇形type1を認めた.CTMでは延髄は下垂した小脳扁桃により後方から,さらに歯突起により前方から圧迫を受けていた.本症例では,環椎後頭骨癒合のために環軸椎間にwiringが不可能であり,また後頭骨の非薄化と大後頭孔開放によりinstrumentとの固定性が不十分であるため,Magerl+Newmann法を選択し,良好な整復固定と神経症状の改善を得た.上位頚椎奇形に対する手術的治療では重複病変に応じた手術方法の選択が重要である.

外傷後の陳旧性肩関節後方脱臼に対しglenoid osteotomyを施行した1例

著者: 柏井将文 ,   宮本隆司 ,   菅本一臣 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.175 - P.177

 抄録:長期間放置された外傷後の陳旧性肩関節後方脱臼に対してglenoid osteotomyを施行し,良好な結果を得た1例を経験した.症例は73歳女性.転倒した際に右肩を打撲し,肩の挙上が困難となった.近医を受診しX線撮影するも打撲のみと診断され,3カ月間放置されていた.その後当科を受診し,陳旧性肩関節後方脱臼と診断された.自動屈曲は90°,自動外旋は-60°と痛みに伴う著しい可動域制限を認めた.透視下に徒手整復を試みたが整復不能であった.MRIにて肩関節後方軟部支持組織は重度に損傷していた.本症例に対しglenoid osteotomyを選択した.術後1年10カ月の現在,可動域・筋力ともほぼ正常に回復し,ADL上の訴えもなく,画像上肩甲上腕関節の適合性も良好であった.軟部組織の破綻を伴った陳旧性肩関節後方脱臼に対し本法は有効な手術法の1つと考えられた.

内側および外側で関節包が断裂した反復性肩関節前方脱臼の1例

著者: 竹内克仁 ,   小川清久 ,   井口理 ,   大串一彦 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.179 - P.182

 抄録:関節包が内側および外側で断裂した反復性肩関節前方脱臼の1例を経験したので報告する.症例は28歳男性で,19歳時スキーで転倒し,上肢の挙上を強制されて初回脱臼した.以後2回の脱臼,20回の亜脱臼をし,当科を受診した.反復性脱臼の定型的な臨床所見を呈し,空気造影CTでも前下方部に小さな憩室状の膨大部を認める以外は定型像であった.術中,関節包は内・外側で断裂していた.断裂高位は外側では中関節上腕靱帯,内側では下関節上腕靱帯の領域に一致していた.関節唇にBankart修復を行い,関節包断裂部は原位置に縫合した.術後2年の現在,日常生活動作に制限なく経過良好である.文献的には関節包断裂の頻度は概ね10%以下であるが,自験例のように内・外側で断裂した報告はない.関節包の損傷形態は多彩なので見逃さないために,術前の関節鏡視による全体像の詳細な把握もしくは関節包を広く展開する術式の選択が必要である.

人工膝関節形成術後関節血症を来した1例

著者: 後藤龍治 ,   八木知徳

ページ範囲:P.185 - P.188

 抄録:われわれは人工膝関節形成術(以下TKA)2年後に頻回に関節血症を来し,最終的に滑膜切除を余儀なくされた1例を経験した.症例は81歳の女性.1997年10月,左変形性膝関節症に対しTKA後,順調に経過していたが,1999年11月,自宅で椅子から立ち上がろうとした際,激痛が走り,歩行不能となった.一度は保存的治療で疼痛軽減したが,12月疼痛が再発した.関節鏡検査を行ったが,明らかな出血点は認められなかった.その後,少量の血液貯留による腫脹,疼痛を繰り返したため,2000年2月,関節切開し滑膜切除を行った.膝蓋上嚢部に出血点と思われる滑膜の絨毛状肥厚が認められた.病理組織学的には肉芽組織中の毛細血管の破綻が出血の原因と推測された.原因は,塩酸チクロピジンの長期投与が血小板粘着能低下,滑膜血管の慢性的な脆弱性を引き起こし,関節血症を繰り返したと考えられた.

妊娠中に発症した両側大腿骨頭萎縮症の1例

著者: 正木創平 ,   大幸俊三 ,   大川章裕 ,   杉田秀幸 ,   大森圭太 ,   櫻田英策 ,   清水一郎 ,   若林健 ,   龍順之助

ページ範囲:P.189 - P.192

 抄録:妊娠中に両側に発症した一過性大腿骨頭萎縮症を経験した.症例は36歳,女性,妊娠8カ月で左股関節部痛を主訴に来院した.妊娠中のため検査はできず妊娠中の左大腿骨頭萎縮症と診断し,入院後,安静加療で経過観察を行った.その後,右股関節部痛も出現した.出産後の単純X線像で両側の大腿骨頭は骨萎縮があり,CT像で両側の大腿骨頭はlow density,MR像のT1強調像で低信号,T2強調像で高信号であった.また,骨シンチグラムで両側大腿骨頭に著明な集積を認めたことにより診断した.安静と免荷のみで出産直後から症状は軽快した.発症後1年の現在も再発はみられていない.

胆嚢癌の骨格筋転移の1例

著者: 筒井求 ,   酒井義人 ,   井上喜久男 ,   甲山篤 ,   夏目徹

ページ範囲:P.195 - P.198

 抄録:胆嚢癌から骨格筋転移を起こした極めて稀な1例を経験した.症例は69歳女性.左股関節痛,左下肢腫脹を主訴に来院し,CT,MRI上,左腸腰筋腫瘍が鼡径部で左大腿動静脈を圧迫していた.生検で腺癌細胞を確認し,一部の血中腫瘍マーカーに異常高値を認めたため,各科との連携のもと精査を進めたが,原発巣不明のまま癌性胸膜炎となり呼吸不全で死亡した.剖検で胆嚢癌を発見し,腹部大動脈周囲にまで及ぶ広範なリンパ節転移を認めた.このため,大動脈周囲でリンパ流のうっ滞が起きた結果,リンパ内の癌細胞が左腸腰筋に浸潤したと思われた.広範なリンパ節転移を認めることから胆嚢癌の末期として矛盾はないが,肝・胆管への浸潤やその他の臓器への直接浸潤,血行転移などはなく,従来の胆嚢癌とは明らかに異なった浸潤経過を辿っていた.このことから,本例における癌細胞が特殊な臓器親和性を有し,極めて選択的な浸潤を来した可能性が考えられた.

踵骨部分切除により治癒した踵部難治性糖尿病性潰瘍の1例

著者: 柳浦敬子 ,   鍋島祐次 ,   安井慎二 ,   藤田郁夫 ,   藤井英夫

ページ範囲:P.199 - P.202

 抄録:踵部の糖尿病性潰瘍は治療に難渋することが多い.今回われわれは,踵骨部分切除術により治癒した踵部の難治性糖尿病性潰瘍の1例を経験したので報告する.症例は62歳男性.基礎疾患として糖尿病があり,1999年5月6日に足部壊疽に対し,右下腿切断術を受けている.同年5月28日より靴擦れにより左踵部に水疱を形成,徐々に悪化し皮膚潰瘍となった.保存的療法を行ったが,発症後4カ月半が経過しても治癒せず,下腿切断術も考えられた.しかし,足部の血行状態が良好であり踵骨部分切除術の適応があると判断,同年10月21日,踵骨部分切除術を施行した.踵骨は正常の海綿骨が露出し,かつ皮膚が適度の緊張のもとに縫合できるまで踵骨の後下方約1/2を切除した.アキレス腱は足底の脂肪組織に縫合した.術後は足関節20度底屈位で6週間短下肢シーネ固定を行い,その後踵部を10mm補高した足底挿板を装着した.術後1年6カ月の現在,創は完全に治癒し,患者は疼痛なく杖歩行が可能である.踵部の難治性糖尿病性潰瘍に対する踵骨部分切除術は海外での報告は少なくない.しかし,本邦においては踵骨骨髄炎に対して本手術を施行した文献が散見されるが,糖尿病性潰瘍に対する治療としては一般的ではなく,いまだ報告例がみられない.足部の血行状態を吟味し,適応症例を選べば本手術は踵部の難治性潰瘍に対して有用な治療法であると考えられた.

立方骨に発生した類骨骨腫の1例

著者: 河野裕 ,   根本昌幸 ,   深作進 ,   迫田順太 ,   鈴木和彦

ページ範囲:P.203 - P.206

 抄録:今回われわれは,比較的稀である類骨骨腫の立方骨発生例を経験したので報告する.症例は39歳女性で,主訴は左足関節痛であった.約1年前に左足関節を捻挫し,数カ所の病院を受診したが,特に異常は指摘されなかった.その後も疼痛が続くため当院を受診し,X線・CT上で立方骨内に中心部骨硬化を伴ったnidusを認め,類骨骨腫を疑い手術を行った.術直後より疼痛は消失した.本邦での類骨骨腫の足根骨発生例は距骨や踵骨に多く,立方骨発生例は稀と思われる.手や足の短骨発生例ではX線的に非定型なものが多く診断に難渋する.また約30%に外傷を伴うため,軽微な外傷後に原因不明の疼痛が持続する場合,本症の可能性も考慮する必要があると思われる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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