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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科37巻4号

2002年04月発行

雑誌目次

特集 脊椎脊髄病学最近の進歩(第30回日本脊椎脊髄病学会より)

序:脊椎脊髄病学最近の進歩―第30回日本脊椎脊髄病学会より

著者: 山本博司

ページ範囲:P.332 - P.333

 第30回日本脊椎脊髄病学会は,日本脊椎外科学会より名称を変更しての第1回目であり,意義深いものであった.脊椎脊髄外科は近年著しい進歩を遂げてきたが,新しい世紀に入って,脊椎脊髄病の原点に立ち戻って病態を見直し,そこからより望ましい治療対策の開発を目指したい.
 主題として,「脊椎脊髄に由来する痛み―基礎と臨床」を取り上げさせて頂いた.「痛み」は,極めてポピュラーな患者の訴えであるにもかかわらず,その病態はなお明らかでなく,診断評価法にも客観的な定性・定量的なものは乏しいと言わざるを得ない.痛みの病態を掘り下げて治療法を見直し,市民の期待に応えたいと願うものである.

腰椎とその周囲組織における侵害受容器―電気生理学的検索

著者: 山下敏彦 ,   関根将利 ,   坂本直俊 ,   三名木泰彦 ,   竹林庸雄 ,   川口哲 ,   石井清一

ページ範囲:P.335 - P.341

 抄録:電気生理学的手法を用い,腰椎とその周辺組織における機械受容器の分布と生理学的特性を検索した.実験には日本白ウサギおよびネコを用いた.後根神経線維から求心性電位を記録した.腰椎構成要素や仙腸関節を機械的に刺激し,求心性電位の変化を分析して機械受容器を同定した.受容器の機械的閾値の平均値は,椎間関節で6g,多裂筋で2g,後縦靱帯で47g,椎間板前側方部で241g,仙腸関節で70gであった.機械受容器のうち侵害受容器の占める比率は、椎間関節で30%,多裂筋で3%,仙腸関節で98%,後縦靱帯、椎間板前側方部で100%であった.検索したいずれの組織にも侵害受容器が存在し,疼痛の発生源となりうることが示された.椎間関節やその周辺筋は,比較的低い閾値の侵害受容器を含み弱い有害刺激にも反応する.一方,椎間板,後縦靱帯,仙腸関節は機械的刺激に対する感受性は低く,極めて強い有害刺激に反応するものと思われた.

神経根性疼痛モデルラット後根神経節における電位依存性イオンチャネルサブユニットの発現変化

著者: 安部理寛 ,   栗原崇 ,   韓文華 ,   四宮謙一 ,   田邊勉

ページ範囲:P.343 - P.349

 抄録:神経根性疼痛モデルラット後根神経節における電位依存性NaおよびCa2+チャネルサブユニットの発現変化を,末梢神経傷害性神経因性疼痛モデルラット後根神経節と比較検討した.Nav1.3およびCavα2δの発現増加は,末梢神経傷害性疼痛モデルにおいてのみ認められた.一方,Nav1.9の発現減少は両モデルで共通してみられたが,末梢神経傷害性疼痛モデルにおいて発現減少は顕著であった.また,Cavα2δの高親和性リガンドと考えられるギャバペンチンの鎮痛効果を検討すると,神経根性疼痛に比べ末梢神経傷害性疼痛に対して効力が劣ることが示され,両疼痛モデルにおけるCavα2δの発現変化の差異と関係していることが示唆された.これらの結果は,後根神経節自体もしくは後根神経節よりも中枢側での傷害に起因する神経根性疼痛と末梢神経傷害性疼痛は,異なる分子メカニズムに起因することを示唆する.

脊髄内痛覚伝達経路における痛覚感受性受容体の役割

著者: 中塚映政 ,   玉置哲也 ,   吉田宗人 ,   山田宏 ,   中川幸洋 ,   武田大輔 ,   筒井俊二

ページ範囲:P.351 - P.358

 抄録:今回,脊髄スライス標本からパッチクランプ記録を行い,近年注目されるカプサイシン,VR1受容体ならびにATP,P2X受容体の脊髄後角痛覚伝達系への関与を検討した.VR1受容体とP2X受容体は,異なった特定の一次求心性線維終末に発現,作用し,興奮性伝達物質であるグルタミン酸の放出を増強することにより,脊髄後角細胞に興奮増強効果をもたらした.また,VR1受容体を介する脊髄第Ⅱ層細胞への興奮増強効果は,多シナプス性に深層の脊髄第Ⅴ層細胞へ伝達されることから,解剖学的に解析困難な脊髄後角表層と深層の細胞間に機能的な興奮性シナプス結合が存在することが明らかになった.さらに,カプサイシンとATP感受性入力は最終的に脊髄第Ⅴ層細胞に統合され,しかも,これらの異なった2つの興奮性入力が干渉し,脊髄第Ⅴ層細胞の興奮性を高めた.したがって,両受容体は脊髄痛覚回路において重要な役割を果たすことが示唆された.

脊髄および馬尾損傷後の神経因性疼痛

著者: 中野正人 ,   平野典和 ,   渡辺裕規 ,   杉森一仁 ,   関庄二 ,   酒井清司 ,   北川秀機 ,   沢木勝

ページ範囲:P.359 - P.363

 抄録:脊髄および馬尾損傷後5年以上の観察を行った35例を対象に,神経因性疼痛の有無を臨床調査し,その関連要因を検討した.神経因性疼痛は内臓痛を除外し,neuropathic at level pain(A群)とneuropathic below level pain(B群)に分類した.神経因性疼痛は29例にみられ,A群は21例,B群は21例,およびA+B群は13例であった.A群の疼痛の性質は多様であり,不全損傷10例中の7例に認められ,脊髄円錐部の損傷例に多い傾向があった.B群の疼痛は,日中常に存在し入眠により消失する,焼かれるような,刃物で刺す,もしくはえぐるような激しい疼痛で,緩徐な増悪傾向を示した.便秘,腹満,発熱時などの内臓器変調により増悪した.疼痛に対する治療は8例にしか行われず,改善しなかった.B群の疼痛のある例とない例を比較すると,脊髄損傷後の完全麻痺で青壮年に受傷した例に多かった.

腰部脊柱管狭窄症の術中神経根展開前後の微小循環の変化

著者: 出沢明 ,   草野信一

ページ範囲:P.365 - P.372

 抄録:29例の間欠性跛行を伴った腰部脊柱管狭窄症の馬尾神経根の微小循環動態を,接触型拡大視内視鏡を用いて生理的に近い状態で観察し,腰椎椎体間固定術する際の神経根上の微小循環の血管径や赤血球の流速の変化と定性的変化について評価する.その目的は腰部脊柱管狭窄症患者の神経根の微小循環を観察し,後方腰椎椎体間固定術(posterior lumbar interbody fusion;PLIF)の際に神経根を内側に展開する前後の神経根上の微小循環の変化を検討することである.
 対象は腰部脊柱管狭窄症患者でPLIFの手術的治療となった29例(男性15例,女性14例;平均年齢56歳)で,検索した傷害神経根はL5が26例,S1が3例である.傷害神経根上の微小循環を測定し,次に神経根をretractしてlumbar interbody fusion施行後に再度同じ部位で測定する.接触型内視鏡を用いた解析はビデオフレームメモリから血球を自動的に認識して流速と血管径を自動的に測定するシステムを作成し使用した.血管内径が100μm以下の細動静脈と100μm以上の15カ所で血管径と赤血球の流速度の解析を行った.

腰椎変性疾患での術前髄液内一酸化窒素と術後の痛み・しびれの改善

著者: 木村慎二 ,   渡辺研二 ,   矢尻洋一 ,   内山政二 ,   長谷川和宏 ,   渋木克栄 ,   遠藤直人

ページ範囲:P.373 - P.378

 抄録:本研究の目的は,腰椎変性疾患患者(腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症)の髄液中の一酸化窒素酸化物(亜硝酸イオンと硝酸イオン,以下NO量)濃度が,術後の痛み・しびれの改善度を推察できるかを検討するものである.NO量はGriess法を用いて測定した.6例のボランティアと18列の痛みを有しない患者のNO量をコントロール値とした.39歳以下の腰椎椎間板ヘルニア6例ではNO量は対照群に比して上昇しておらず,術後もNO量は変わらず,痛み・しびれに関係した項目のみの日整会腰椎疾患判定基準(Pain JOA)の改善率(平林法)は良好であった.一方,40歳以上の腰椎変性疾患19例の術前NO量は,対照群に比して有意に上昇しており,術後のNO量が術前に比して低下していた群は,上昇していた群よりも有意にPain JOAの改善率が良好であった.腰椎変性疾患全25例の術前NO量は,Pain JOAの改善率と有意な負の相関(r=-0.714,p<0.001)を示した.腰椎変性疾患患者のNO量は術後の痛み・しびれの改善を予知できる今までにない定量的なpredictorになりうる.

脳イメージング法(SPECT)による神経因性疼痛の評価

著者: 牛田享宏 ,   谷俊一 ,   川崎元敬 ,   福本光孝 ,   吉田祥二 ,   山本博司

ページ範囲:P.379 - P.383

 抄録:神経因性疼痛患者における痛みが脳内でどのように反映されているかを調べるために,われわれは神経因性疼痛患者の視床における神経活動の変化をSPECT(singe photon emission computed tomography)を用いて評価した.対象は神経根症例(8例),複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)(10例)に対してiodine-123-labelled iodoamphetamineをトレーサーとして用いてSPECTを撮像し,contralateral thalamic uptake index(CTUI:症状の反対側の視床のトレーサーの取り込みを症状側の視床の取り込みで除した値)を用いて症状の反対側の視床の活動性について検討した.その結果,神経根症の5例,CRPSの3例にCTUIの増加を認めた.CTUIの増加を認めなかった症例はいずれも罹患期間が1年以上を経過した慢性症例であった.以上より,急性症例において視床の活動性は痛みの病態をある程度反映しているのではないかと考えられた.一方,慢性症例における変化は中枢神経系の可塑的変化が引き起こされていることを示唆するものと考えられた.

神経根性頚部痛

著者: 田中靖久 ,   国分正一 ,   佐藤哲朗 ,   小沢浩司

ページ範囲:P.385 - P.389

 抄録:頚椎の変性過程に生じる頚部痛の原因として神経根圧迫に注目した研究が皆無に近い.本研究の目的は,後方からの椎間孔拡大術による神経根除圧例をprospectiveに検討して,神経根性頚部痛の有無を明らかにすることにある.頚部痛の訴えがある神経根症の43例を対象とした.頚部を,項,肩甲上,肩甲骨上角,肩甲間,肩甲骨の5つの領域に区分し,頚部痛の部位と程度を術前および術後1カ月時に記録して検討した.全43例のうち39例(91%)で,術前の頚部痛が神経根除圧により術後1カ月以内に改善した.頚部痛の原因の1つに頚部神経根の圧迫があることを銘記すべきである.

脊髄神経根に起因する疼痛に対する上行路遮断術

著者: 高橋宏 ,   石島武一

ページ範囲:P.391 - P.399

 抄録:脊髄・神経根領域の上行路遮断術としては,posterior rhizotomy,selective posterior rhizotomy,DREZ-otomy(DREZ-lesion),commissural myelotomy,cordotomyなどを行ってきた.これらのうち,posterior rhizotomy,commissural myelotomy,cordotomyはすべて癌性疼痛が対象であった.現在では麻薬による除痛が行われるため適応は限られる.DREZ-otomy(Sindou)あるいはDREZ-lesion(Nashold)は中枢性疼痛あるいは慢性疼痛に一定の効果が認められている.頚髄神経根引き抜き損傷では60~70%の例で長期的に良好な結果が得られるが,脊髄円錐・馬尾損傷例では有効例は50%台と低下する.治療に抗する例では後角の吸引除去などの,よりradicalな術式を考慮する必要がある.

高齢者(70歳以上)頚椎症性脊髄症の病態と手術成績

著者: 渋谷整 ,   岡史朗 ,   有馬信男 ,   小原健夫 ,   増本眞悟 ,   乗松尋道

ページ範囲:P.401 - P.407

 抄録:頚椎症性脊髄症に対し,片開き式脊柱管拡大術を施行した高齢者(70歳以上)50例と,非高齢者(60歳以下)19例において,術前の頚椎アライメントから高齢者を2群に分類し,非高齢者群を含めた3群間で,その病態や手術成績を比較検討した.高齢者の頚椎前弯が増強した群(以下,前弯増強群)では,他の2群より術前のJOAスコアが低く,歩行不能例が多く,責任高位がC3/4または4/5のいずれかであり,MRIではより上位椎間で脊髄に対する圧迫が強かった.しかし術後改善率には3群間で明らかな差がなく,前弯増強群は術後5年で平均51.0%の改善率が得られていた.また頚椎アライメントの経年的変化では,前弯増強群は最終調査時までに直線型や後弯型へ移行しなかった.これらの特徴は,高齢者の不良姿勢に起因する頚髄症発症の病態や手術成績を反映したものと考えられる.このような症例は,脊柱管拡大術のよい適応であり,手術的治療によく反応し,回復も良好であると思われた.

高齢者頚椎症性脊髄症の手術的治療―手術治療選択のタイミング

著者: 田口敏彦 ,   河合伸也 ,   金子和生 ,   森信謙一 ,   藤本英明

ページ範囲:P.409 - P.413

 抄録:高齢者の頚椎症性脊髄症(以下CSM)の手術的治療のタイミングについて検討した.対象は術後2年以上経過を観察できた107例である.70歳以上の高齢者群は44例(平均74歳)であり,70歳未満の非高齢者群は63例(平均53歳)であった.検討項目として,罹病期間,術前・術後のJOAスコア,術後改善率,予測式を用いた予測と術後成績の的中率について比較検討した.高齢者は,非高齢者と比較して罹病期間に差はないが,術前重症度は有意に高く(p<0.01),症状の進行が早いため手術の時機が遅れやすいことを示した.また,改善率に差がなく,術前の重症度が高くなければ,術後獲得点数は非高齢者と同等で同程度の改善を得ていた.高齢者の手術の時機としては術前JOAスコアが9点になる前の手術が望ましく,10点以上であれば,非高齢者と同様な手術効果が期待でき,合併症について対処できれば,重症化する前の早期の手術をすべきである.

脊髄誘発電位からみた70歳以上の頚椎症性脊髄症の特徴と前方除圧固定術の検討

著者: 谷俊一 ,   石田健司 ,   牛田享宏 ,   岸本裕樹 ,   川崎元敬 ,   井上真輔 ,   山本博司

ページ範囲:P.415 - P.420

 抄録:70歳以上の索路症状を主徴とする頚椎症性脊髄症では,MRIは複数椎間に脊髄圧迫を示すことが多いが,上行性脊髄誘発電位によって示される脊髄伝導ブロックはほとんどが単椎間で,C3-4またはC4-5において93%であった。伝導ブロックを生じる脊髄圧迫の程度は個人差が大きいが,個々の症例では多くの場合,最大圧迫高位が伝導ブロック高位と一致した.伝導ブロック高位に対して行った35例の前方手術の成績は,2年以上,平均4.5年の追跡でJOAスコアの改善率は平均54%であり,2例(6%)に隣接椎間での脊髄症の再発があった.手術による下肢運動機能の改善率は,上肢のそれよりも有意に(p<0.0001)劣っていた.その要因のひとつに,腰部脊柱管狭窄症や下肢の変形性関節症の合併率が高いことが挙げられる.固定隣接椎間での脊髄症の再発が危惧されることが欠点であるが,最小侵襲であり,後方法でみられる術後神経根症や軸性疼痛の心配がない利点がある.

高齢者頚髄症(70歳以上)に対する脊柱管拡大術の術後成績不良因子についての検討

著者: 中川幸洋 ,   玉置哲也 ,   吉田宗人 ,   川上守 ,   林信宏 ,   安藤宗治 ,   山田宏 ,   岩崎博 ,   筒井俊二 ,   高見正成 ,   寺尾賢秀

ページ範囲:P.423 - P.427

 抄録:脊柱管拡大術による手術的加療を行った70歳以上の高齢者頚髄症患者について,その術後成績を調査するとともに,高齢者にしばしば伴う術前合併症が術後成績にいかに影響するかを調査した.高齢者頚髄症患者群105例の罹病期間は34.5カ月,術前JOAスコアは8.0点,術後JOAスコアは12.6点,改善率は49.6%,追跡期間は29.3カ月であった.対照として用いた60歳以下の非高齢者頚髄症患者群に対して,高齢者群では術前,術後JOAスコア,改善率のいずれも有意に低かった.また高齢者の頚髄症患者は術前腰部脊柱管狭窄症や変形性膝関節症,糖尿病をそれぞれ35.2%,16.2%,11.4%に合併しており,これらを合併している群の術後の改善率は合併症のない群に比べても有意に劣っていた.高齢者の場合,術前合併症がJOAスコアや改善率の数値に影響を及ぼしている可能性がある.

骨粗鬆症性椎体骨折後遅発性圧潰例にみられる椎体内cleftの検討

著者: 伊藤康夫 ,   長谷川康裕 ,   戸田一潔

ページ範囲:P.429 - P.435

 抄録:骨粗鬆症性遅発性椎体圧潰にみられる椎体内cleftの病態について検討した.骨粗鬆症性遅発性椎体圧潰28例(男3,女25)を対象とした.初診時年齢は平均77.4歳.仰臥位過伸展位でX線側面像,次にCTにてcleftのCT値を計測し,CT後,再度X線像上でcleftの変化を観察した.MRIはT1 ,T2画像で信号を検索した.7例はT1→T2の順に撮影し,他の21例はT2→T1の順に撮影した.CT撮影前後のX線でcleftは時間経過とともに縮小し,透過性は低下した.cleftのCT値は平均-780であった.MRI上でのcleftの信号変化はT1→T2の順に撮影された7例は全例,T1低信号,T2高信号を示したが,T2→T1の順に撮影された21例では,T1低信号,T2高信号を示した症例は4例のみで,他の17例はT1,T2ともに低信号を示した.椎体内cleftは,姿勢変化ならびに時間経過により形態変化のみならず質的変化をも起こしていることが推察された.

骨粗鬆症性椎体圧潰(偽関節)発生のリスクファクター解析

著者: 種市洋 ,   金田清志 ,   小熊忠教 ,   古梶正洋

ページ範囲:P.437 - P.442

 抄録:骨粗鬆症性椎体骨折のなかには正常の骨折治癒が起こらず圧潰が進行し高度な後弯変形を呈したり,長管骨の偽関節と同様の極めて不安定な状態に陥る例が存在する.これらは体幹支持性喪失と神経障害のために脊柱再建術の適応となることも多いが,高齢による内科的合併症や高度骨粗鬆症のために多くの問題を抱えた病態である.本研究では骨粗鬆症性椎体骨折患者101例を対象に,進行性椎体圧潰や偽関節発生について調査した.全体の36.6%で進行性椎体圧潰を来し,最終的に13.9%が偽関節となった.神経障害の合併により手術治療が施行されたのは3.0%であった.偽関節発生の危険因子は 1)日常生活動作レベルのごく軽微な受傷機転により発生した椎体骨折,2)高齢,および 3)middle column損傷の合併であった.ハイリスク患者は通常の硬性装具を用いた保存療法では偽関節発生を予防しえず,経皮的椎体補強術(vertebroplasty)などの適切な初期治療の必要性が示唆された.

骨粗鬆症性遅発性椎体圧潰の治療方針

著者: 持田讓治 ,   東永廉 ,   野村武 ,   千葉昌宏

ページ範囲:P.443 - P.448

 抄録:骨粗鬆症性遅発性椎体圧潰は増加の傾向にある.本病態が周知されていないことや,安静加療のためのベッドが近年特に確保できなくなったことにもその原因が考えられる.本稿では,神経麻痺の有無と3つの圧潰型を組み合わせた6型を提唱し,これに基づいた治療法選択が有用であることを述べた.また,本病態を高齢者型の椎体破裂骨折と鑑別することが治療法決定上,重要であると考えられる.

骨粗鬆症性椎体圧潰の手術適応と前方脊柱再建の臨床成績

著者: 伊東学 ,   鐙邦芳 ,   金田清志 ,   三浪明男

ページ範囲:P.449 - P.455

 抄録:近年,画像診断や脊椎インストゥルメンテーションの発達とともに,骨粗鬆症性外傷後椎体圧潰の診断や治療に関する報告が散見される.しかしながら,本病態の手術適応や手術方法については十分なコンセンサスは得られていない.本研究では,本病態で当科を受診した手術施行症例ならびに非施行例から,本病態の手術適応について検討した.また,当科で一貫して施行してきた胸腰椎前方脊柱管除圧と前方再建術の長期成績について検討した.その結果,長期臨床経過観察例92例のうち前方再建術のみで再建が可能であったのが78%,残りの22%は後方インストゥルメンテーションによる補強が必要であった.特に長期ステロイド治療患者や,多椎体にわたる椎体骨折例では,前後合併手術を必要とした.また,椎体壊死のみでは手術適応にはならず,神経障害の有無や内科的合併症,痴呆,介護環境などを総合的に判断し慎重に手術適応を決定する必要がある.

骨粗鬆症性椎体骨折に対するリン酸カルシウム骨ペースト注入よる椎体内修復術

著者: 武政龍一 ,   山本博司 ,   谷俊一 ,   谷口愼一郎 ,   柴田敏博 ,   池内昌彦

ページ範囲:P.457 - P.465

 抄録:神経症状を認めない骨粗鬆症性椎体圧迫骨折および骨癒合不全例に対し,リン酸カルシウム骨ペーストを椎体内に注入することにより,損傷椎体を力学的に補強し,かつ生物学的に修復する低侵襲術式を開発し臨床応用しているので報告する.対象は術後3カ月以上追跡した25例28椎体,手術時平均年齢71歳,内訳は新鮮骨折11椎,遷延治癒2椎,偽関節15椎であり,追跡期間は平均17カ月であった.臨床およびX線評価について前向き追跡調査を行った結果,全例で術後早期から著明な腰背部痛の改善または消失を得た.X線評価における骨折修復は28椎体中27椎体に得られていた.矯正損失はわずかに認められたが新鮮骨折で1カ月以降,骨癒合不全例では3カ月以降は損失を認めず矯正位で安定化した.本法は,早期の除痛効果に優れ,適度な変形矯正・保持効果を有し,比較的小侵襲で損傷椎体内での修復が行える有用な術式であると考えられた.

腰椎変性側弯症に対するinstrumentation surgery(広範囲固定例)の中・長期成績(5年以上)

著者: 戸山芳昭 ,   松本守雄 ,   丸岩博文 ,   中村雅也 ,   西澤隆 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.467 - P.473

 抄録:脊椎変性疾患に対するinstrumentation surgeryの適応については,近年その功罪が論じられている.しかし,変性疾患のなかでも腰椎変形,脊柱管狭窄,骨粗鬆症,高齢者などの治療に難渋する病態を同時に有する腰椎変性側弯症に対してはよい適応と考えて,本手術法をわれわれは積極的に行ってきた.今回は広範囲固定(3椎間以上)を施行した13症例の中・長期成績(5年以上)を調査し,その有用性や問題点について再検討した.その結果,prospective studyではないが平均改善率62%と長期的にも有効な術式であり,広範囲固定術による日常生活への影響も少ないことが判明した.しかし,骨移植法としてのPLFでは十分な腰椎前弯位の獲得とその維持が困難であり,矢状面の矯正を要する後側弯例にはPLFの併用が望ましい.また,高齢者でも広範囲固定による隣接椎間への影響が大きく,その固定範囲と矢状面での至適固定角度を再検討する必要がある.

神経栄養因子による脊髄由来神経幹細胞の分化制御―特に内因性神経栄養因子に着目して

著者: 中村雅也 ,   岡野栄之 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.475 - P.480

 抄録:神経幹細胞は多分化能と自己増殖能を有する未分化な細胞で,脊髄損傷に対する移植材料として近年注目を集めている.しかし,移植細胞の運命は移植部位の微小環境に大きく依存しており,近年明らかになった内在性神経幹細胞が脊髄損傷後に増殖,分化するがそのほとんどがグリア瘢痕組織になることからも,神経幹細胞の分化制御メカニズムの解明なくしては,有効な治療とはなり得ない.本稿では神経系の発達過程において重要な働きをする種々の神経栄養因子が,神経幹細胞,特に胎児脊髄由来神経幹細胞の分化誘導に及ぼす影響を検討した.In vitroにおける胎児脊髄由来神経幹細胞に対して,内因性cilary neurotrophic factorがastrocyteへ,外因性brain derived neurotrophic factor,neurotrophin-3がおのおのneuron,oligodendrocyteへの分化誘導に重要な働きをする.

椎間板の免疫学的特権とその分子生物学的メカニズム―Fas-ligandの存在とその役割

著者: 髙田徹 ,   西田康太郎 ,   土井田稔 ,   井口哲弘 ,   栗原章 ,   宇野耕吉 ,   黒坂昌弘

ページ範囲:P.483 - P.487

 抄録:椎間板,特に髄核は宿主免疫から隔離されており,いわゆる免疫学的特権を有する組織の1つである.免疫学的特権をもつその他の体内の組織には精巣や眼の前房がある.これらの組織ではTNF familyに属する2型細胞膜表面タンパクであるFas-ligand(FasL)の存在が報告されている.今回,椎間板の免疫学的特権の分子生物学的メカニズムの存在を明らかにするために,椎間板におけるFasLの発現につき検討した.SDラットの椎間板と側弯症患者から手術時に摘出したヒト椎間板に対し,抗FasL抗体を使用して免疫染色を行った.またラットの椎間板組織を用いてRT-PCRを行い,椎間板におけるFasL mRNAの発現を検討した.免疫染色の結果,ラットおよびヒト髄核細胞を中心にFasL陽性染色を認めた.RT-PCRでも同様にラット椎間板におけるFasL mRNAの発現を確認した.今回の研究結果から,正常椎間板におけるFasLの発現がはじめて証明された.したがって椎間板においても精巣や眼の前房と同様に,免疫特権を維持する分子生物学的メカニズムが存在していることが示唆された.

頚椎軟骨終板細胞におけるアポトーシス発生様式の検討―加齢およびメカニカルストレスの影響

著者: 有賀健太 ,   米延策雄 ,   宮本紳平 ,   中瀬尚長 ,   越智隆弘 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.489 - P.494

 抄録:近年,椎間板細胞におけるアポトーシスの発生が報告され注目を集め始めているが,その生理的・病理的意義はいまだ明らかとなっていない.われわれは過去の組織学的検討において報告されている椎間板の軟骨終板の加齢・変性に伴う変化に着目し,アポトーシスとの関係について検討した.正常加齢マウスの頚椎椎間板変性過程におけるアポトーシス発生の経時的変化を,TUNEL法を用いて検討した.さらにメカニカルストレスによる椎間板変性促進モデルとしてわれわれが以前より用いてきた頚椎症モデルマウスを用いて,軟骨終板におけるアポトーシスの発生に対するメカニカルストレスの影響を検討した.アポトーシスは生後4カ月頃より軟骨終板に著明に発生し,生後7カ月をピークに増加していた.アポトーシスの発生に引き続いて軟骨終板細胞数の減少と空胞の増加,軟骨終板構造の破綻が生じていた.また,椎間板変性を促進させる頚椎症モデルの手術は軟骨終板の組織学的変性と,先行するアポトーシス発生の両者を促進させていた.

胸部脊髄症の神経学的高位診断の検討

著者: 後藤伸一 ,   佐藤哲朗 ,   山崎伸 ,   石井祐信 ,   笠間史夫

ページ範囲:P.495 - P.498

 抄録:胸部脊髄症にて手術を受けた単椎間障害例の中で,脊髄末端がL1~L2椎体高位にみられる成人例58例の神経学的所見(下肢の反射,筋力,感覚障害の最頭側縁)を検討し,胸部脊髄症の責任椎間板高位決定の診断指標を作成した.感覚障害は,各椎間板高位に相対する髄節をT10/11椎間より頭側では尾側椎体と同じ番号の髄節が,T11/12椎間にはL1髄節が,T12/L1椎間にはL4髄節が相対するとして,そのずれをみた.T10/11椎間より頭側(28例)ではPTR,ATRともに亢進が66%に,感覚障害は70%で尾側4髄節以内にみられた.T11/12椎間(20例)ではPTRの亢進が70%に,感覚障害は79%で頭尾側2髄節以内にみられた.T12/L1椎間(10例)ではATRの低下が70%に,感覚障害は75%で頭尾側2髄節以内にみられた.感覚障害から高位診断を行う際には,2髄節程度のずれを見込んで診断する必要がある.T11/12椎間にL1~L2髄節が,T12/L1椎間にS1髄節が相対している例が多いと思われる.

頚椎症性脊髄症における狭窄部硬膜圧―椎間板高位と椎体高位での圧変化

著者: 渡部泰幸 ,   高橋啓介 ,   宇南山賢二 ,   鳥尾哲矢

ページ範囲:P.499 - P.502

 抄録:頚椎症性脊髄症における脊髄への圧迫力および圧迫動態については,いまだ明らかではない.今回われわれは,狭窄部位の硬膜にかかる圧を測定し,その圧が頚椎の動きでどのように変化するか,さらに椎間板高位と椎体高位でどのような差があるのかを検討した.片開き式脊柱管拡大術を施行した頚椎症性脊髄症10例を対象とした.術中に,椎弓を展開後,C6/7の椎弓切開を行い,硬膜を露出した後に硬膜外腔に圧トランスデューサーをC5/6椎間板高位に挿入した.Mayfield型頭部固定装置をゆるめ,頚椎を愛護的に中間位,後屈位および前屈位として連続的に硬膜圧を測定した.その後,圧トランスデューサーをC5椎体高位に移動させ、同様に測定した.C5/6椎間板高位においては,全例とも頚椎後屈によって硬膜圧は上昇し,前屈では圧が低下した.しかし,C5椎体高位では,頚椎後屈および前屈でも硬膜圧の変化は認められなかった.椎間板高位においては,後屈によって黄色靱帯のたわみが生じる.この変化が硬膜圧迫力を上昇させる原因と考えられた.

腹部大動脈病変と腰痛―血行再建術後の腰痛の変化と画像所見,Retrospective Study

著者: 竹谷内克彰 ,   菊地臣一 ,   矢吹省司 ,   荒井至 ,   緑川博文 ,   星野俊一 ,   千葉勝実

ページ範囲:P.505 - P.510

 抄録:手術により腰動脈を遮断した腹部大動脈瘤32例と動脈硬化により腰動脈が閉塞している高位大動脈閉塞症8例を対象として,血行再建術前後における腰痛や術後の腰部MRI画像を観察した.この観察により,腰痛の変化,腰仙椎部背筋群の変性,および椎間板の変性をretrospectiveに検討した.その結果,腹部大動脈瘤では血行再建術で腰動脈が結紮されても,その後の腰痛の発生や多裂筋の萎縮・変性,あるいは椎間板の変性の出現や促進は認められなかった.また,高位大動脈閉塞症を呈する症例では,同じく腰動脈からの血流が途絶しているAAA術後と比較して,腰痛を有する頻度が有意に高かった.これらの事実は,腰痛の発生には腰動脈の閉塞自体ではなく,腰動脈の支配領域における末梢での循環障害が関与していることを示唆している.したがって,腰動脈分岐部の動脈硬化による腰動脈の血流減少のみが,腰痛出現,腰仙椎部背筋群の変性,および椎間板の変性の重要な要因とは考えにくい.

転移性脊椎腫瘍に対する18FDG-PETの臨床応用

著者: 内田研造 ,   馬場久敏 ,   前澤靖久 ,   小久保安朗 ,   中嶋秀明 ,   土田龍郎 ,   米倉義晴

ページ範囲:P.511 - P.514

 抄録:転移性脊椎腫瘍が疑われた25症例(骨集積像101病変)を対象とし,FDG-PETおよびTcbone scanにおけるおのおのの骨集積像について検討した.骨シンチ陽性が99病変に,FDG陽性が54病変認められた.そのうち,同一部位に病変が認められたのは50病変(49.5%)であった.両検査陽性は50病変,骨シンチ陽性PET陰性が49病変,骨シンチ陰性PET陽性が4病変であった.病理組織,種々の画像診断により骨転移が診断された18病変中,PET陽性所見が得られたのは16病変であり,骨シンチ,FDGおのおののsensitivity,specificityを求めると,骨シンチでは,83%,20%であったのに対し,FDGでは,89%,80%となっていた.原発巣の部位,種類や,骨組織への転移形式,転移率によりその集積率は異なると考えられるが,骨転移,特に転移性脊椎腫瘍の診断,悪性度の評価としてFDG-PETは有用であると考えられる.

第5腰椎高位の脊椎腫瘍に対する脊椎全摘術

著者: 川原範夫 ,   富田勝郎 ,   小林忠美 ,   赤丸智之 ,   村田淳 ,   南部浩史 ,  

ページ範囲:P.515 - P.518

 抄録:第5腰椎の周囲には腸骨翼,下大動静脈,左右総腸骨動静脈などの大血管群,腰仙神経叢などが存在するため,同部位の脊椎腫瘍を腫瘍学的に切除するのは難しい.本稿では同部位の脊椎腫瘍に対して脊椎全摘術の手術方法を紹介する.まず1st stepとして,後方成分を切除すると同時に前方から椎体切除がスムースに行えるように神経根の剥離,椎体の後側方部分の剥離,第4/5,5/S1椎間板の切除を行った.次いで2nd stepとして前方からの徹底した椎体周囲の血管処理を行うことにより,下大動静脈総腸骨動静脈などのmobilizationが可能となり,第5腰椎椎体を一塊として切除した.本手術を施行した4例全例に大血管損傷を来すことなく,一塊とした腫瘍椎骨切除が可能であった.後方・前方の2段階アプローチ,丁寧な神経根,大血管などの剥離操作などを行うことで第5腰椎高位の脊椎腫瘍に対して脊椎全摘術は可能であると考える.

コンピュータナビゲーションガイド下の胸椎前方除圧固定術

著者: 星地亜都司 ,   北川知明 ,   中島勧 ,   竹下克志 ,   岩崎元重 ,   東成一 ,   川口浩 ,   大西五三男 ,   中村耕三

ページ範囲:P.519 - P.523

 抄録:胸椎前方除圧手術においてコンピュータナビゲーションシステムを使用した.対象は胸椎症性脊髄症1例,胸椎椎間板ヘルニア2例,胸椎巨細胞腫再発例1例である.術中のリファレンスアーク設置部位として,各2例で切除肋骨断端と椎体に挿入したネジ付きピンを用いた.この方法により,胸椎前方手術においてもナビゲーションガイド下の手術が可能となり,病変部の正確な除圧を行うことができた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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