icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科37巻5号

2002年05月発行

雑誌目次

視座

医療新時代へ,いま改めて

著者: 伊藤博元

ページ範囲:P.531 - P.531

 昨年末,国民的歌番組の中で韓国人女性歌手が,韓国オリジナル曲の「イムジン河」という歌を訳詞と原詩で歌い上げた.本年5月より開催される日韓共催のワールドカップ・サッカーの成功を祈っての企画であったためであろうと思われるが,この放送局にとっては画期的な企画であったのではないであろうか.本来この曲は,1968年2月21日にフォーク・クルセダーズというグループの歌でレコード発売しようとした前日に販売中止された,いわくつきの歌である.当時このことを聞いた詩人のサトウハチローが作詞をし,加藤和彦が作曲,北山 修,はしだのりひことともに歌った「悲しくてやりきれない」が替わって制作された.
 イムジン河,リムジンガンは南北朝鮮を分断する38°線に実在する河で,朝鮮戦争によって北に居住せざるを得なくなった人が南北分断を憂い,南に住む家族を思い,自由を求める気持ちを綴った曲とされる.哀愁をおびたメロディーは,当時新宿西口広場や神戸などのフォーク集会では好んで歌われていた.第1次フォーク世代であるわれわれは,オールナイトニッポンという深夜ラジオ番組に耳をそば立たせ,以来思いを込めて口ずさんではいたものの,約35年を経て発禁曲が国民的番組で聞ける時代,国民が望んでいると考えられる時代,CDが発売される時代となったことを実感した次第である.

シンポジウム 縮小手術への挑戦―縮小手術はどこまで可能か

緒言 フリーアクセス

著者: 富田勝郎

ページ範囲:P.532 - P.533

 四肢の悪性骨軟部腫瘍の手術,なかでも広範囲切除の考え方は,Ennekingのcompartment/barrierに代表される腫瘍切除縁の提唱により,またこれを受けた日整会骨軟部腫瘍委員会の「悪性骨軟部腫瘍取り扱い規約」の指針によって広くゆきわたり,現在に至っている.もちろんこの考え方の根本には,不適切な切除によって局所播種や局所再発,ひいては遠隔転移させてはならないという,生命予後を見据えた考えが大きく関与している.
 しかし,広範囲切除により延命・救命率が上がるにつれ,温存された患肢の機能をどれだけもとどおりにまで高めることができるか,が次の重要課題となってきた.そうしてみると,広範囲切除にともなって当然のこととして犠牲としてきた「神経・血管・骨・骨端線・関節・筋肉・腱・靱帯」などの組織の切除範囲をなんとか縮小できないものか,それは果たして許されることなのか,が学会・研究会でのホットな議論対象となってきつつ現在に至っている.そのために,安全な縮小切除縁への見直しや,縮小切除縁を確保するための集学的治療,とりわけ術前・術後の各種補助治療の重要性が再認識されるようになっている.その代表的な見解,試みが特集としてここに紹介されている.

悪性骨腫瘍に対する切除縁評価と縮小手術の試み

著者: 鬼頭正士 ,   梅田透 ,   別府保男 ,   横山良平 ,   木股敬裕 ,   長谷川匡

ページ範囲:P.535 - P.540

 要旨:悪性骨腫瘍の切除縁を評価し,再発率,予後を検討することにより,縮小手術の可能性と限界について考察した.対象症例は骨原発悪性腫瘍56例であり,組織診断は骨肉腫42例,軟骨肉腫5例,ユーイング肉腫例,骨悪性線維性組織球腫3例,脊索腫2例である.摘出標本の切除縁評価より,wide margin 2 cr.以上(W(2)以上群)38例と1cm以下(W(1)以下群)18例に分けて検討した.W(2)以上群で再発は3例(再発率7.9%)に認めた.一方,W(1)以下群の再発は8例(再発率44%)であったが,1例以外はいずれもmarginalやintralesional marginであることより,術前治療有効例や低悪性腫瘍ではwide margin 1cmまで切除縁の縮小が可能と考えた.W(1)以下群のうち7例は膝関節温存手術を行うため関節側の骨切除縁を意図的に縮小し,血管柄付き腓骨移植やパスツール熱処理骨を用いて再建した.予後は生存41例,死亡15例であり,死亡例のうち再発例8例,W(2)以上群7例,W(1)以下群8例であった.

骨軟部肉腫に対する安全な切除縁と術前療法による切除縁縮小―切除縁登録の解析から

著者: 真鍋淳 ,   川口智義 ,   松本誠一 ,   谷沢泰介 ,   黒田浩司 ,   下地尚 ,   阿江啓介 ,   神田浩明 ,   町並陸生 ,   蛭田啓之

ページ範囲:P.541 - P.547

 要旨:骨軟部肉腫切除縁登録の解析をもとに安全な切除縁,術前療法併用での切除縁縮小を中心に検討した.組織学的悪性度,初診時転移の有無,局所治癒の成否,腫瘍サイズが有意の予後因子と考えられたが,初回手術か追加手術かの相違は明かな予後因子とは考えられなかった.組織学的悪性度,術前療法の有無にかかわらず初回手術か追加手術においては,基本的にadequate wide手技以上ならばほぼ安全と考えられるが,再発例にはcurative手技が望ましいと考えられた.また,軟部MFHについてはadequate wideでも2cm以下と3cm以上の間に局所治癒率に明かな差があり,3cm以上のadequate wide手技が望ましいと考えられた.術前療法有効例では,inadequate wide手技でも80%程度局所コントロール可能と考えられ,放射線療法著効例では一部にmarginal marginが生じても局所コントロール可能と考えられた.

カフェイン併用化学療法下における骨肉腫に対する切除縁縮小手術

著者: 土屋弘行 ,   高沢宏太郎 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.549 - P.556

 要旨:われわれは抗癌剤の効果増強を目的にカフェイン併用化学療法を導入し,術前化学療法が有効あるいは著効と判定された症例に対しては,良好な患肢機能の温存を目的に縮小手術(意図的辺縁切除)を行っている.Stage Ⅱ B骨肉腫30例において93%が,組織学的に著効あるいは有効と判定された.29例に意図的辺縁切除を行い,患肢機能は,excellent 22例,good 3例,fair 2例,poor 2例であった(1例は肋骨発生例なので除いた).局所再発は1例に発生し,5年無病生存率は76%,overallの5年累積生存率は92%であった.Stage Ⅲ B 14例では,化学療法の組織学的な有効性は71%と低く,9例に意図的辺縁切除を行い,患肢機能はexcellent 3例,good 2例,fair 3例,poor 1例であった.局所再発は2例に認められ,現在12例は死亡し,2例はAWDである.カフェイン併用化学療法下ではstage Ⅱ B骨肉腫に対する局所効果は非常に高く,意図的辺縁切除を安全に行うことが可能であった.

軟部肉腫に対する動注療法

著者: 高橋満 ,   浜名俊彰 ,   宮城憲文 ,   山田健志 ,   吉田雅博

ページ範囲:P.557 - P.563

 要旨:神経・血管・骨に近接する巨大な軟部肉腫症例の縮小手術を目的として,局所動注により腫瘍を限局化させたうえでの切除を試みてきた.症例は神経肉腫2例,MFH 2例,平滑筋肉腫3例,滑膜肉腫5例の計12例.いずれも抗癌剤・放射線に抵抗性とされているものである.皮下に埋没したリザーバポートよりCDDP・5-FUを3日連続投与する長時間持続動注を5例に,血管造影のたびに複数の血管を塞栓して栄養血管を一本化したうえで,CBDCA・Etoposideを4時間かけて注入する超選択的動注を7例に施行した.PRは半数以下に過ぎなかったものの,動注により近接臓器との距離が確保されたため,縮小手術が12例中10例に可能となった.本治療法は,巨大軟部肉腫に近接した重要組織を温存するための一部縮小手術を可能とする,確実性の高い術前補助治療法として位置付けられる.

骨軟部肉腫の安全な切除縁と術前照射による切除縁の縮小について

著者: 櫛田和義 ,   村山均 ,   山下浩介 ,   亀田陽一 ,   密田亜希 ,   亀田典章 ,   上杉昌章

ページ範囲:P.565 - P.570

 要旨:放射線治療を併用しなかった骨軟部肉腫176例の摘出標本の切除縁評価と局所再発を調査した.今回の調査では,高悪性腫瘍でも「2cm広範切除縁」以上が確保されていれば再発は55例中2例(3.6%)と低かった.また,低悪性腫瘍では「1cm広範切除縁」以上が確保されていれば再発は38例中1例もなかった.以上より骨軟部肉腫手術においては,高悪性腫瘍では「2cm広範切除縁」以上,低悪性腫瘍では「1cm広範切除縁」以上が達成すべき切除縁であった.術前の画像評価で切除縁に危険のある症例23例に約30Gyの低線量術前照射を行った.再発は23例中1例で,「腫瘍辺縁切除縁」の殿部高悪性線維肉腫の症例であった.放射線治療を併用しなかった176例と術前照射を行った23例を局所再発率で比較すると,症例数が少なく有意差はみられなかったが,高悪性腫瘍,低悪性腫瘍とも術前照射により切除縁を一段階縮小できる可能性が示唆された.

術後照射を併用した軟部肉腫縮小手術

著者: 堀田哲夫 ,   生越章 ,   川島寛之 ,   遠藤直人 ,   守田哲郎 ,   今泉聡

ページ範囲:P.571 - P.576

 要旨:当科および関連病院の症例を調査し,術後照射を併用することにより軟部肉腫の切除縁が縮小可能かどうか検討した.術後照射を行わなかった症例と文献的報告を対照とした.症例は37例で経過観察期間は平均43.7カ月であり,照射線量は平均59.4Gyであった.すべて辺縁切除または腫瘍内切除であった.再発率は8.1%,累積5年生存率は67.7%であった.この治療成績は当科および文献的不十分切除例と比較して良好であり,広範切除単独例と同等であった.合併症が43.2%と高率に認められ,関節拘縮が48.1%と多かった.このためEnnekingの評価法による患肢機能は88.9%となり,当科の広範切除単独例より悪かった.関節拘縮が問題であるが,術後照射は切除縁を縮小する有効な補助療法である.

悪性骨・軟部腫瘍における縮小手術の可能性

著者: 矢部啓夫 ,   森岡秀夫 ,   南雲剛史 ,   穴澤卯圭 ,   森井健司 ,   西本和正 ,   三浦圭子

ページ範囲:P.579 - P.584

 要旨:機能面の直接評価が可能な四肢に発生した悪性骨腫瘍97例,悪性軟部腫瘍172例の治療成績から縮小手術の可能性について検討した.悪性骨腫瘍は1993年以前と94年以降の症例についても比較し,骨肉腫など多くの悪性骨腫瘍は,術前化学療法を充実させることで,患肢温存例の増加,合併症の減少などから,実際に切除範囲の縮小化が進んでいることが考えられた.低悪性度の軟骨肉腫2例は,腫瘍内切除で長期の局所制御が得られており,このような症例に対しては腫瘍の骨髄内進展状態を把握していれば縮小手術が可能であると考えた.悪性軟部腫瘍172例のうち患肢温存例は152例(88.4%)であり,辺縁切除以下の51例のうち放射線照射を併用した29例では2例に再発がみられたのみであり,十分な切除縁が不可能な場合や切除によって機能面で問題が生じる場合には,手術に放射線照射を併用することで縮小手術が可能であることを示した.

低悪性度軟骨肉腫に対する凍結手術の試み

著者: 川井章 ,   杉原進介 ,   森本裕樹 ,   高田逸朗 ,   伊藤達男 ,   井上一

ページ範囲:P.585 - P.592

 要旨:低悪性度軟骨肉腫に対する縮小手術の試みとして,凍結手術を応用した腫瘍内切除(掻爬)術の治療成績を検討した.過去20年間に掻爬・凍結手術を用いて治療を行い,組織学的に軟骨肉腫と最終診断された上腕骨近位発生の軟骨肉腫44例を対象とした.術後観察期間平均62カ月で局所コントロールは39例(88.6%)で得られた.最終観察時NED 40例,DOD 2例,他病死2例で,5年累積生存率は94.5%,無病生存率は88%であった.合併症として骨折を5例に生じた.患肢温存率は41/44例(93.2%)で,ISOLSによる患肢機能評価は平均93%であった.骨皮質の破壊を伴わない髄内限局型の低悪性度軟骨肉腫に対しては,徹底的なintralesional excisionに加えて凍結手術を行うことにより,大多数の例で良好な腫瘍コントロールと患肢機能の獲得が可能であることが明らかとなった.臨床的に診断・治療法の選択に苦慮するような良悪性境界型の軟骨性腫瘍,chondrosarcoma in situなどの低悪性度軟骨肉腫に対しては,掻爬・凍結手術がひとつの実際的で有用な選択枝となりうると考えられる.

論述

腰椎椎間板ヘルニアのMRI画像上の変化と臨床成績―保存的治療と手術的治療の対比

著者: 高山博行 ,   原田俊彦 ,   村津裕嗣 ,   日野高睦 ,   黒田良祐 ,   三輪雅彦 ,   坂井宏成

ページ範囲:P.595 - P.599

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアに対する手術的治療が自然経過にどのような影響を及ぼすかを調べる目的で,保存的治療群と手術的治療群のMRI画像上の形態変化とJOA scoreの推移を比較検討した.Extrusion型のヘルニアでは,手術群のほうが保存群より画像上の“縮小あり”の割合は高かったが,JOA scoreの改善率には差はなかった.Sequestration型は,画像変化もJOA scoreの改善率も,保存群と手術群の間に差はなかった.画像上の変化別では,保存群では“縮小あり”群と“縮小なし”群の間にJOA scoreの改善率の差はなかったが,手術群では再発を含む“縮小なし”群が,“縮小あり”群より改善率は低かった.保存群と手術群全体では臨床成績の差はなかったが,手術群の再発例では成績が劣ることを考慮すると,腰椎椎間板ヘルニアに対しては原則として保存的治療が優先されるのが望ましいと考えられた.

腰椎変性すべり症に対する後方除圧術による腰痛治療成績の検討

著者: 西澤隆 ,   千葉一裕 ,   中村雅也 ,   松本守雄 ,   丸岩博文 ,   藤村祥一 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.601 - P.605

 抄録:腰椎変性すべり症に対する後方除圧術が,腰痛治療成績に及ぼす影響について検討した.症例は42例(男性20例,女性22例)で,手術時年齢は平均67歳,経過観察期間は平均3年9カ月であった.なお,術式は開窓術23例,椎弓切除術19例であった.腰痛スコアは術前1.8点が術後1年で2.5点と有意に改善し,最終調査時まで維持されていた.術後1年および最終調査時の腰痛スコアは過半数の症例で改善していた.腰痛スコア改善群と悪化群を比較すると,両群間で手術時年齢,男女比,術式の違いや腰痛スコアなどの臨床所見と,最大すべり率,後方開大角,すべり率変化,椎間可動域などの画像所見に有意差を認めなかった.しかし,術前椎間高は改善群で有意に狭小化していた.したがって,すでに椎間高が狭小化している変性すべり症に伴う腰痛は,後方除圧術単独でも改善する可能性があることが示唆された.

腰椎前方椎体間固定術におけるセラミック棘間ブロックの有用性と偽関節の発生要因についての検討

著者: 吉田裕俊 ,   佐藤浩一 ,   山田博之 ,   北原建彰

ページ範囲:P.607 - P.613

 抄録:腰椎前方椎体間固定術単独群95例とセラミック棘間ブロック併用群35例の臨床経過,手術成績について比較検討した.セラミック棘間ブロック併用群では術後の臥床期間,入院期間が短縮し,より早期に骨癒合が得られ骨癒合率も向上したが,手術成績は統計学的に有意差を認めなかった.腰椎前方椎体間固定術単独群では,遷延骨癒合が3例(3.2%),偽関節が10例(10.5%)に認められ,これらの術前罹患椎間可動域は平均10.4°,%可動域は平均25.8%であった.セラミック棘間ブロック併用群では,偽関節は2例(5.7%)であった.腰椎前方椎体間固定術は単独でも優れた手術成績が得られる手術であるが,術前の罹患椎間可動域や%可動域が大きく椎間不安定性が大きい症例には,セラミック棘間ブロックの併用が望ましいと考えられた.

整形外科基礎

多椎間椎弓切除の馬尾に与える経時的変化―組織学的,機能的検討

著者: 高橋直人 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.615 - P.622

 抄録:ラットを用いて,腰椎後方手術侵襲の範囲が硬膜外組織で惹起される炎症反応や馬尾集合癒着の程度や馬尾機能に影響を与えるのか否かを組織学的,機能的,電気生理学的について経時的に検討した.組織学的検討では,対照群と椎弓切除群(1椎間,2椎間,および3椎間)のモデルを作製して,馬尾の組織学的変化の差異を術後6週まで,同じ椎弓切除高位で比較検討した.この結果,椎弓切除群では,いずれの群でも術後24時間で馬尾集合・癒着が認められた.また,椎弓切除の範囲が広くなるほど,馬尾集合・癒着の回復に要する時間が長かった.機能的,電気生理学的には術後6週まで検討した.運動機能はトレッドミルを用いての術前後での歩行可能時間を,電気生理学的検討は上行性脊髄誘発電位を導出しての潜時,知覚神経伝導速度,および振幅で対比した.この結果,各椎弓切除群で,すべての計測項目において統計学的有意差は認められなかった.すなわち,多椎間椎弓切除は馬尾集合・癒着の回復遅延を惹起するが,その組織学的変化は,6週間という時間的推移のなかでは歩行機能や馬尾の電気生理学的機能には影響を及ぼさない.

運動器の細胞/知っておきたい

靱帯の細胞:線維芽細胞(Fibroblast)

著者: 遠山晴一 ,   安田和則

ページ範囲:P.624 - P.627

【はじめに】
 線維芽細胞は細胞外マトリックスの合成細胞として最も基本的な結合組織細胞である.靱帯損傷および靱帯再建術後,線維芽細胞は損傷・再建靱帯へ浸潤,増殖し,靱帯組織のコラーゲンを主体とした細胞外マトリックスを再構築する(図1).したがって,損傷.再建術後の靱帯組織の治癒過程を解明するためには,本線維芽細胞の特性を明らかにしなければならない,本章ではこれまで得られている靱帯線維芽細胞に関する知見をその機能を中心に解説する.

国際学会印象記

『第11回患肢温存学会:International Symposium on Limb Salvage(ISOLS)』に参加して

著者: 高沢宏太郎

ページ範囲:P.628 - P.629

 2001年10月10日から12日の3日間にわたって第11回患肢温存学会:International Symposium on Limb Salvage(ISOLS)がイギリスのバーミンガムにて開催されました.本学会は2年に1度開催され,骨軟部腫瘍の国際学会としては最も大きな学会で,基礎から臨床にかけての世界の最先端の研究成果をみることができます.欧米はもちろんのことアジア各国,中東諸国からも集まり,非常に国際性豊かな学会となっています.この学会の特徴として口演はメイン会場ワンホールのみで行われ,他はすべてポスターとなっていることです.このため口演の演題数はかなり制限されていますが(107演題),ほとんどのセクションがシンポジウム形式をとっており,十分な討論が行われます.いわゆる巨大化したカンファレンスを行っているという感じです.所どころにユーモアが混ぜられ和やかな雰囲気で討論が行われ,内容もかなり充実しているものでした.
 この学会に出席してまず感じたことは,各国それぞれにおいて社会的事情が異なり,必ずしも理想的な治療ができるわけではないということでした.逆に日本は最善の治療ができる環境におかれており,大変恵まれている国であると痛感しました.

『第2回世界小児整形外科学会』に参加して

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.630 - P.631

 第2回世界小児整形外科学会は,2001年11月1日から3日まで仙台市において国分会長(東北大)のもとで開催された.第1回は3年前,スペインのマドリッドにてIFPOS(International Federation of Paediatric Orthopaedic Societies)の発足とともに,EPOS(European Paediatric Orthopaedic Society)のannual meetingとの合同開催で行われた.今回も,第12回の日本小児整形外科学会(JPOA)との合同開催として企画され,3日間のうち初日と3日目の午後にJPOAのセッションを設け,その他はIFPOSのセッションとしてプログラムが組まれた.
 Symposiumは4題組まれ,IFPOS symposiaのテーマとして“Late Consequences of Children's Bone and Joint Infections”と“Cerebral Palsy”,JPOA symposiaのテーマとして“Developmental Dysplasia of the Hip”と“Legg-Calve-Perthes Disease”が選ばれた.また,Presidents' Lectureとして6題,日本における小児整形外科学の変遷と歴史についてポスターとしてまとめた8題が特別に企画された.

整形外科英語ア・ラ・カルト・106

整形外科分野で使われる用語・その68

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.632 - P.633

 第102回の中で述べた“Tinel sigh”について下記のように訂正する.
 フランスのティネル(Jules Tinel,1879-1952)のオリジナルの文献には,末梢神経損傷部位あるいは縫合部位をpercussionすると,神経の再生現象が生じている場合,支配領域に“sensation de formication”(蟻走感)を感じる,と述べられているという.

症例報告

浅指屈筋腱が欠損し豆状三角骨関節の変性に合併した小指深指屈筋腱皮下断裂の1例

著者: 宮内晃 ,   今田岳男 ,   石田治

ページ範囲:P.635 - P.638

 抄録:小指浅指屈筋腱が欠損し,深指屈筋腱が皮下断裂した1例を経験したので報告する.症例は,両側の変形性膝関節症のため長期間杖歩行を行ってきた76歳の女性で,左小指屈曲不能のため受診した.CTでは豆状三角関節に変性を認めた.術中所見では小指浅指屈筋腱が欠損し,手根管尺側壁で有鉤骨,三角骨,豆状骨の露出と小指深指屈筋腱の断裂が認められた.断裂腱の末梢断端を環指深指屈筋腱に端側縫合した.杖歩行に伴う手掌部への慢性的刺激により小指深指屈筋腱が手根管尺側壁で摩耗され,さらに豆状三角関節の変性,手根骨の露出に伴い,屈筋腱が骨組織から直接摩擦されるようになった結果,断裂に至ったと考えられた.小指浅指屈筋腱には破格が多く,診断にあたっては注意が必要である.

多発癌家系に発生した頚髄glioblastoma multiformeの1例

著者: 鷲見大輔 ,   鷲見雄希 ,   伊藤雅人 ,   鈴木匡史 ,   石村大輔 ,   山田治基

ページ範囲:P.639 - P.642

 抄録:悪性度の高いastrocytoma grade 3,4はglioblastoma multiformeと呼ばれ,予後は極めて不良である.本例のように脊髄に発生するのは約1%と稀である.また家系に癌が多発しており,臨床的にはLi-Fraumeni syndromeが疑われ,p53癌抑制遺伝子につき免疫染色、ダイレクトシークエンスで検索した.しかし異常は認められず,他の細胞周期を調節する遺伝子群の異常が原因の可能性がある.

Down症候群に伴った大腿骨頭すべり症の1例

著者: 高嶺由二 ,   北小路隆彦 ,   鬼頭浩史 ,   栗田和洋 ,   加藤光康

ページ範囲:P.643 - P.645

 抄録:Down症候群に伴った大腿骨頭すべり症の1例を経験したので報告する.発症時年齢11歳10カ月,慢性型急性増悪の大腿骨頭すべり症であり,初診時posterior tilt angleは60°であった.鋼線牽引による整復後,ピンニング術を施行した.術後は大腿骨頭壊死,軟骨融解などを合併することもなく,術後2年の最終診察時には関節可動域制限,疼痛,跛行を認めなかった.本邦では報告の少ないDown症候群に伴う大腿骨頭すべり症の発症頻度,病因,治療上の問題点につき文献的考察をした.

硬膜内に発生した胸腰椎移行部椎間板ヘルニアの1例

著者: 池野敬 ,   北野喜行 ,   堀本孝士 ,   野口学 ,   大崎能樹 ,   高田秀夫

ページ範囲:P.647 - P.649

 抄録:非常に稀な胸腰椎移行部硬膜内脱出椎間板ヘルニアを経験した.症例は56歳女性.両下肢筋力低下により歩行不能となった.脊髄造影,CTM,MRIでTh12/L1レベルに脊柱管内の占拠性病変を認めたが確定診断は困難であった.臨床症状の急速な進行のため,緊急手術を行った.Th12の椎弓切除を行い硬膜外腔を観察したが占拠性病変はなく,硬膜を切開すると馬尾神経間に巨大なヘルニア塊があり摘出した.術後1年で両下肢筋力はMMTで5レベルと回復し独歩可能である.術前診断が困難であった症例を報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら