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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科37巻6号

2002年06月発行

雑誌目次

視座

病気か病人か

著者: 岩谷力

ページ範囲:P.657 - P.658

 医者の目の前にいるのは患者さんで,病気ではない.患者とは身体的不調をもって生活し,医師に助けを求めてきた人々である.「医者は病気の治療には熱心で,病人を診てくれない」と社会から批判されて久しい.この批判にわれわれはどのように応えようとしているであろうか.名医と言われる先輩の講話を聞き,患者さんの闘病体験を読み,われわれの行動を反省すれば,患者さんの要望に応えることができるのだろうか.医師は正しい医学知識に基づいて診断治療を行うことが求められている.もしかして,われわれが正しいと教えられ,行動規範としてきた医学の考え方に,その要因があるのではなかろうか.
 2001年5月に,WHOは国際障害分類(ICIDH:1980)を改定して生活機能・障害・健康の国際分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)を発表した.ICFは健康状態の変化(疾病)が人の生活機能に与える影響を,心身機能・構造,活動,参加の各次元で価値中立的にとらえるモデルである.

シンポジウム スポーツ肩障害の病態と治療

緒言 フリーアクセス

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.660 - P.661

 近年,スポーツに起因する肩の障害がクローズアップされており,肩の障害をもったスポーツ選手が整形外科を受診する機会が多くなっている.肩のスポーツ障害には多くの病態が含まれているが,overuseを原因として次第に器質的な変化に発展していくと考えられている.例えば,肩のスポーツ障害として多くみられる投球障害肩の発生機序として,投球を繰り返すことで引き起こされる後方関節包の拘縮と前方安定化機構不全のために,late cocking phaseでの前方動揺性,後方部でのposterior impingementなどや腱板筋不全によるインピンジメント症候群などがある.しかし,疼痛などの症状がスポーツをしている際にのみ起こることも多く,外来診察時に同様な症状を発現させることは難しく,障害部位を正確に決定し難いことをよく経験する.
 広範な可動域と多様な動きを要求される肩関節には,多くの関節と構成体がある.障害部位をできるだけ正しく診断するためには,肩関節機構などの機能解剖や運動時の筋活動などを理解して,現病歴で患者からできるだけ障害に関する情報を集めてそれらを分析して評価することが大切になる.更にMRI,超音波をはじめとする画像診断の進歩,肩関節鏡検査の発達によりスポーツ障害肩に対する診断法は大きく変わってきた.

投球動作のバイオメカニクス

著者: 橋本淳 ,   中村真里 ,   野村星一 ,   信原克哉

ページ範囲:P.663 - P.671

 要旨:三次元動作解析システムを用いて,投球動作のバイオメカニクスを検討した.TOPの位置,体幹ねじれゼロ,肘関節の減速期などを新たに設定し,投球動作の新しい相分類を行った.TOPの位置は投球動作において重要な分岐点であること,体幹ねじれゼロのポイントは,実は最大外旋位といわれている時点である可能性が高いこと,肘関節の減速期には,従来decelerationに生じると思われていた腱板損傷がこの減速期に遠心性収縮として起こる可能性があることなど,多くの新しい概念を提唱した.また,投球時に肩関節に加わる力の方向も計算され,TOPの位置からMERまでは肩関節の前内方に.MERからボールリリースまでは肩甲骨の方向に,そしてボールリリース後は後下方に向くことがわかり,投球障害との関係も推察できた.

投球時肩痛の発生に影響する因子

著者: 林田賢治 ,   中川滋人 ,   鳥塚之嘉 ,   菅本一臣 ,   越智隆弘

ページ範囲:P.673 - P.677

 要旨:全国高等学校野球選手権大会出場チームの投手のなかで大会前に直接検診した569名を対象とし,投球時肩痛の発生に影響する因子を検討した.評価項目は,1カ月以上の投球時肩痛歴の有無,関節可動域の絶対値および投球側―非投球側差,外転筋力,X線による肩峰形態:肩前後像による肩峰の傾斜(水平,外側下がり),肩甲骨Y撮影による肩峰形態(flat,curve,hook),大結節の形態(弓状,角状),2kg重垂を用いての下方動揺性,挙上位前後像による後方動揺性とした.肩痛の有無と関節可動域,外転筋力,X線評価間での相関を検討した.その結果,1カ月以上の肩痛の経験があった症例は147名(26%)であった.関節可動域,外転筋力に関しては,投球側の絶対値,非投球側との比較とも,肩痛あり群と肩痛なし群間に統計学的有意差(t検定)は認められなかった.X線学的評価では,肩峰形態,後方動揺性では,肩痛あり群と肩痛なし群間に統計学的有意差は認めなかった(以下χ2検定).大結節形態は,肩痛あり群で,弓状46肩,角状101肩,なし群で189肩,233肩と有意差を認めた(p<0.005).下方動揺性は,肩痛あり群の(-)は63肩,(±)は73肩,(+)は11肩,なし群では,それぞれ172肩,185肩,65肩で有意差を認めた(p<0.05).角状大結節をもった肩関節は投球時痛を生じやすく,下方動揺性を持った肩は投球時痛を生じにくいといえる.

スポーツ肩障害における関節唇損傷に対する各種疼痛誘発テストの診断的有用性

著者: 皆川洋至 ,   井樋栄二

ページ範囲:P.679 - P.683

 要旨:関節唇損傷に対する各種疼痛誘発テストは,スポーツ肩障害患者に対する選択的スクリーニングとして広く臨床の現場で用いられている.関節鏡視下に診断を確定した42肩を対象に,6種類の疼痛誘発テスト(crank test,anterior slide test,active compression test,biceps tension test,SLAPprehension test,pain provocation test)の有効性を調べた.関節唇損傷に対する敏感度はpain provocation test(100%),SLAPprehension test(80%),crank test(71%),特異度はbiceps tention test(100%),anterior slide test(95%),crank test(76%),陽性反応適中度はbiceps tention test(100%),pain provocation test(78%),crank test(75%)の順に高かった.

野球選手におけるSLAP lesionの臨床所見・鏡視下関節唇修復術の術式・後療法・手術成績

著者: 中川照彦 ,   土屋正光 ,   勝崎耕世 ,   小原洋一 ,   諏訪清史 ,   福田修一 ,   福島芳宏

ページ範囲:P.685 - P.692

 要旨:1997年~2001年の5年間に,SLAP lesionに対し鏡視下上方関節唇修復術を行った野球選手の投球障害肩17例17肩を対象とした.全例男性で,手術時年齢は平均25.1歳(16~51歳)であった.ポジションは投手11例.野手6例.レベルはプロ野球3例,社会人野球3例,大学野球1例,高校野球5例,草野球5例であった.鏡視下上方関節唇修復術はSnyderの手技に準じて行い,後療法では特に術後3カ月以降の投球メニューについて詳述した.徒手検査ではcrank test,anterior apprehension肢位での疼痛,三森テスト.O'Brien testが有用であった.12カ月以上フォローアップできた13例中11例(85%)で完全復帰を果たした.術後復帰までの平均期間は.投手8.4カ月,野手6.8カ月であった.鏡視下上方関節唇修復術の手術成績は良好であり,上腕二頭筋長頭腱関節唇複合体の解剖学的修復という面からも,本術式は推奨できるものと考える.

SLAP lesionに対する鏡視下手術

著者: 緑川孝二 ,   原正文 ,   伊崎輝昌

ページ範囲:P.693 - P.696

 要旨:投球障害のなかのSLAP lesionに対する当科の術式について検討した.対象は,7年間に当科外来で投球障害の診断で鏡視下手術を施行しSLAP lesionが確認された19例で,全例男性,平均年齢22.4歳である.術前の画像診断や疼痛発生部位診断としてブロックテストを行い,手術施行部位を決定した.鏡視下手術を考案するにあたり,解剖学的調査を行った.その結果よりSLAP lesionに対する鏡視下手術法として,損傷関節唇のみ切除を行い,上腕二頭筋長頭腱からの緊張が関節包に伝達しないようにする方法を考案した.腱板関節面断裂の合併例9例は損傷部の切除を行った.また肩峰下インピンジメント症候群合併の3例にはASD(鏡視下肩峰下除圧術)を加えて行った.1例を除き復帰を果たした(完全復帰52.6%)結果より,解剖学的調査に基づいて行っている当科の方法は,SLAP lesionに対して有効な手術法と考えられた.

腱板不全断裂を伴う投球障害肩に対する烏口肩峰アーチ除圧術の成績

著者: 末永直樹 ,   三浪明男

ページ範囲:P.697 - P.700

 要旨:投球障害肩に対する烏口肩峰アーチ除圧術の是非については,いまだ一定の見解は得られていない.明らかな肩関節不安定性がなく腱板不全断裂を伴う投球障害肩に対し,烏口肩峰アーチ除圧術を行い2年以上経過観察可能であった28例28肩(投手10名,野手18名)を対象とし,その成績と成績を左右する因子について検討した.烏口肩峰アーチ除圧術は烏口肩峰靱帯切離術を18肩,肩峰形成術を10肩に行い,関節唇損傷は全例鏡視下切除術を行った.完全復帰は71.4%,不完全復帰は28.6%で,復帰不能例はなかった.腱板不全断裂部位および烏口肩峰アーチ除圧術の方法では差はなかったが,投手および関節唇損傷を合併した症例で成績が不良であった.成績不良の要因として潜在性の前方不安定性の存在が示唆され,今後,関節唇損傷を伴う腱板不全断裂に対しcapsular shrinkageの成績を検討する必要がある.

論述

腰椎椎間板ヘルニアによる長母趾伸筋麻痺の術後筋力回復

著者: 酒井義人 ,   井上喜久男 ,   甲山篤 ,   夏目徹 ,   筒井求

ページ範囲:P.703 - P.707

 抄録:MMT2以下の高度な長母趾伸筋(以下,EHL)麻痺を伴う腰椎椎間板ヘルニア手術44例の術後の筋力回復について検討した.回復に影響する因子を評価するとともに,前𦙾骨筋(以下,TA)の麻痺の有無,術前の下肢痛の程度についても検討した.MMT2以下のTAの麻痺,すなわち下垂足を伴うものは23例(52.3%)にみられ,保存治療後に疼痛がほとんど消失していたものは19例(43.2%)であった.全体のEHLの回復率は70.8%とまずまず良好であったが,術後MMT4以上を回復とすると,術前の麻痺の程度がより高度な例で回復が不良であり,年齢.罹病期間は影響していなかった.下垂足を伴うもののEHLの回復は,伴わないものと比べ有意に不良であった.また,術前に下肢痛がほとんど消失した症例では術後のEHLの回復は不良であり,麻痺の回復を目的とした場合は早期の手術治療を考慮すべきである.

調査報告

整形外科領域における抗生剤の術後感染予防投与―診療報酬請求書からみた現状と問題点

著者: 佐藤勝彦 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.709 - P.713

 抄録:本邦における整形外科領域での抗生剤の術後感染予防投与の現状を把握するために,審査支払い基金の協力を得て,多施設における術後感染予防に関する抗生剤使用の実態調査を行った.その結果,整形外科領域での術後感染予防としての抗生剤使用の現状は,ほとんどが術後投与で,しかも大量の抗生剤が投与されていた.また,投与日数や投与量については施設により大きな格差があり,統一性がないことも明らかとなった.それに対して.海外では,整形外科手術の術後感染予防目的の抗生剤投与については,既にガイドラインで定められており,術前のみの投与が基本となっている.本邦における整形外科手術での周術期における抗生剤投与について,EBMの観点から見直す時期にきている.本邦でも早急に整形外科領域における抗生剤の適正な使用についてのガイドラインの策定が必要である.

手術手技 私のくふう

全身性エリテマトーデスによる陳旧性膝蓋腱断裂例に対するイリザロフ法の応用

著者: 中村豊 ,   大関覚 ,   荻原章弘 ,   菅野吉一 ,   野原裕

ページ範囲:P.715 - P.719

 抄録:28歳の女性の全身性エリテマトーデス(以下,SLE)に併発した,稀な陳旧性膝蓋腱断裂の治療経験を報告した.12歳よりステロイド療法を受けていたが,27歳時に転倒して膝蓋腱を断裂し,13カ月後,随意的伸展不能を主訴に当科を初診した.膝蓋骨は正常側に比べて8.7cm上方に偏位しており,膝蓋腱部の陥凹を認め,膝蓋骨は徒手的に2cmしか下降しなかった.単純X線写真では膝蓋骨高位,MRIではT1強調像で低信号な膝蓋腱像の不連続性を認めた.膝の関節可動域を維持するために,continuous passive motion(以下,CPM)を継続しながら,イリザロフ法により10週間かけて膝蓋骨を引き下げ,大腿四頭筋の拘縮を軽減した.膝蓋腱の再建には停止部を温存した半腱様筋腱と薄筋を膝蓋骨に逆U字状に通し,ポリエチレンメッシュに連結して𦙾骨外側にステープルで固定し,さらに大腿四頭筋腱様部を翻転して補強した.術後3年間観察したが,extension lag,関節可動域制限,日常生活に障害はない.陳旧性膝蓋腱断裂では.腱再建前にイリザロフ創外固定器を用いて膝蓋骨を引き下げて大腿四頭筋の拘縮を十分に軽減することが安全かつ有用であった.

Recapping T-saw laminoplastyを応用した肋骨横突起切除術による胸髄前方神経鞘腫摘出術の経験

著者: 池本敏彦 ,   藤田拓也 ,   川原範夫 ,   新屋陽一 ,   小林忠美 ,   吉田晃 ,   村上英樹 ,   ,   富田勝郎

ページ範囲:P.721 - P.725

 抄録:胸髄前方に存在する硬膜内腫瘍摘出のための従来のアプローチを比較検討した場合.後方アプローチである椎弓切除術では腫瘍摘出の際に脊髄損傷の危険があり,前方アプローチでは視野が狭く硬膜の処理に難渋する.後方アプローチである肋骨横突起切除術は十分な広い視野が獲得できることより,脊髄前方の腫瘍切除および硬膜の処理が可能である.しかし,片側の肋椎関節や椎間関節が損傷を受けるため,術後に脊柱変形出現の可能性がある.われわれは,胸髄前面の硬膜内髄外神経鞘腫の症例に対しThreadwire saw(T-saw)を用いた肋骨横突起切除術を行い,いったん切除した肋骨および片側横突起を含む椎弓を本来の位置に還納することにより,良好な視野を獲得し,かつ解剖学的再建を達成しえた.

整形外科/知ってるつもり

エストロゲンおよびオステオプロテジェリンと骨粗鬆症のup to date

著者: 太田博明

ページ範囲:P.726 - P.730

【はじめに】
 骨粗鬆症は原因疾患のない原発性と原因疾患のある続発性に大別される.前者の原発性は,ごく一部に若年性の,いわゆる特発的なものがあるが,大部分は閉経後骨粗鬆症と老人性骨粗鬆症であり,両者を退行性骨粗鬆症と呼んでいる.骨粗鬆症診療において,続発性のものには原因疾患の治療が優先されるため,合併症である骨粗鬆症の治療は二義的なものとなっている.したがって,通常最も問題とされるものは原発性,つまり退行性のものである.また,各種疾患には生殖器関連の疾患を除いて性差が存在するものがあるが,そのような疾患としてよく高脂血症や高血圧症が挙げられる.この両者よりもさらに性差が明らかに存在する疾患が骨粗鬆症であり,なかでも通常の診療において最も問題とされるのは閉経後骨粗鬆症である.すなわち,閉経後骨粗鬆症はほとんど女性であるといっても過言ではないほど,最も性差の明らかな疾患である.
 この閉経後骨粗鬆症の主因は女性ホルモンであるエストロゲンの低下に伴う骨吸収の異常亢進にあり,それを骨形成が十分に代償できないことから骨量の低下を招くことにある.したがって,この閉経後骨粗鬆症を呈するものは必然的にXXという性染色体を有する卵巣を持ち,卵胞からエストロゲンを産生する女性ということになる.しかしエストロゲンの低下が骨吸収の亢進を呈するメカニズムについては現時点でも必ずしもまだ明確に解明されていない.

境界領域/知っておきたい

樹状細胞

著者: 戸田正博 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.732 - P.733

【樹状細胞とは】
 樹状細胞(dendritic cell,DC)は中枢神経系を除いて生体内に広く分布し,形態学的に樹枝状の突起を持つことを特徴とするが,それぞれの組織.器官に存在する樹状細胞は,表現型のみならず機能的にも多様な細胞集団である.表皮や粘膜固有層ではランゲルハンス細胞(Langerhans cells),筋肉や腎臓など非リンパ系組織では間質細胞(interstitial cells),輸入リンパ中ではベール細胞(veiled cells),リンパ系器官のなかでも,胸腺髄質やリンパ組織のT細胞領域では相互連結性嵌入細胞(interdigitating cells),胚中心では胚中心樹状細胞(germinal center dendritic cells)と異なる名称で呼ばれている.近年,強力な抗原提示細胞として注目されているが,樹状細胞の特徴として,マクロファージやB細胞などの他の抗原提示細胞と比較して,MHC(major histocompatibility complex;主要組織適合遺伝子複合体)や共刺激分子(co-stimulatory molecules)を高く発現し効率的にT細胞を活性化する能力を有する.

統計学/整形外科医が知っておきたい

4.診断能力の評価―感度・特異度のジレンマ

著者: 小柳貴裕

ページ範囲:P.735 - P.741

◆示標としての感度と特異度
 診断のための検査の精度には2つの側面がある.第一に,その検査が真に疾患のある患者を陽性とできるか(病人の陽性度)の評価基準は感度(sensitivity)と呼ばれる.感度が高い検査は偽陰性,すなわち見逃しが少ない.第二に,真に疾患のない患者を陰性にできるか(健康人の陰性度)の物差しが特異度(spcificity)である.特異度の高い検査は偽陽性が少ない,すなわち見過ぎが少ない.
 これらの示標は,整形外科領域では主に画像診断能力の定性的評価に用いられてきた.肩腱板断裂における超音波診断法と実際の手術結果,半月板損傷におけるMRI診断と関節鏡による確認,などである.

整形外科英語ア・ラ・カルト・107

整形外科分野で使われる用語・その69

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.742 - P.743

 約10年続いたこのシリーズも終わりに近づいている.

 

●vertebra(ヴァーテブラ)
 これは勿論“脊椎”を意味するラテン語であり,“向きを変える”という意味のラテン語動詞“vertere”に由来する.この“vertebra”は“向きを変えるもの”や“旋回支軸”を意味し,医学用語では身体を前後に曲げたり,左右に旋回させる軸である“脊椎”の意味になった.ギリシャ語の脊椎“spondylos”(スポンディロス)の原義は,巻き貝の“ひと巻”を指し,“渦巻き”の意味である。これにはラテン語の“vertebra”と同じく,“ねじれ”の意味が含まれている.

臨床経験

膝蓋腱断裂5例の検討

著者: 由野和則 ,   今井久一 ,   岡部聡 ,   矢尻洋一 ,   津吉秀樹 ,   吉岡徹

ページ範囲:P.745 - P.747

 抄録:比較的稀な膝蓋腱断裂に対して一次修復を行った新鮮例5症例について調査した.膝蓋骨高位(以下,T/P)をInsall-Salvati法に基づき測定し,T/Pと臨床成績との関係について検討した.調査時T/Pが正常範囲内に保たれている3症例では,他の症例に比べて,膝関節可動域や大腿四頭筋力などで良好な成績が得られた.また各症例のT/Pを術直後と調査時で比較したところ,T/Pが経時的に減少した1症例を認めた.これは膝蓋下脂肪体の高度な損傷により膝蓋腱が経時的に変性し,短縮したために生じたものと考えられた.

転移性硬膜内腫瘍の3例―診断における髄液所見の有用性について

著者: 傳田博司 ,   伊藤拓緯 ,   守田哲郎 ,   平田泰治 ,   小林宏人 ,   今泉聡 ,   長谷川和宏

ページ範囲:P.749 - P.752

 抄録:本邦における転移性硬膜内腫瘍の報告は少ない.当科においては過去11年間に手術を施行した転移性脊椎脊髄腫瘍136例中3例(硬膜内髄外腫瘍2例,髄内腫瘍1例)であり,2.2%の頻度であった.症例はそれぞれ,肺癌.乳癌,食道癌の既往があり,病理組織診断にて転移性腫瘍と診断された.転移性硬膜内腫瘍は転移性脳腫瘍からの播種を主な転移経路と報告される一方で,今回の症例で脳CTを行った2例とも頭蓋内転移は認められず,転移性脳腫瘍からの播種は否定的に思われた.術前の髄液所見において,髄内腫瘍例では髄液中細胞数は正常範囲内であったが.髄外腫瘍の2例は細胞数が高く,転移性脊椎脊髄腫瘍において髄液中細胞数が高い場合は,硬膜内髄外腫瘍を疑う必要があると考えられた.

症例報告

胸椎部硬膜内くも膜嚢腫の1例

著者: 岸田俊二 ,   永瀬譲史 ,   板橋孝 ,   阿部功 ,   新籾正明

ページ範囲:P.753 - P.756

 抄録:症例は26歳女性で,主訴は背部痛である.MRIにてくも膜嚢腫を疑われた.上行性脊髄造影では有意な所見を認めず,下行性脊髄造影を施行した結果,Th6を中心とする造影剤の通過遅延がみられ,さらに嚢腫造影にてTh3からTh8にかけて造影剤の貯留が確認された.嚢腫開放術により背部痛は消失した.硬膜内くも膜嚢腫の診断にはMRIが有用であるが,脊髄造影も必須の検査であり,造影剤の通過状況を注意深く観察することが重要であると考えられた.

固定術を行った骨盤insufficiency fractureの1例

著者: 井上林 ,   尾鷲和也 ,   浦山安広

ページ範囲:P.757 - P.760

 抄録:骨盤のinsufficiency fractureに対して手術治療を行った1例を報告する.症例は64歳,女性.既往歴は糖尿病,骨粗鬆症.誘因なく両仙骨翼の縦骨折と左恥骨骨折が生じた.臥床安静による保存治療を約6週間行うも仮骨の形成がみられず,骨盤環の著しい不安定性が認められたため手術を施行した.術後6カ月で骨癒合が認められ,歩行可能となった.
 骨盤insufficiency fractureは保存治療によって良好な結果が得られることが多いが,本症例のように,保存治療により骨癒合が遷延し,骨盤環の不安定性のため歩行障害を来す例では手術が必要となることもあり,注意が必要である.

頭蓋頚椎移行部における脊髄損傷―2例報告

著者: 矢吹省司 ,   菊地臣一 ,   高須誠 ,   古月顕宗

ページ範囲:P.763 - P.766

 抄録:頭蓋頚椎移行部の脊髄損傷では死亡例が多いため,その高位の脊髄損傷によって発現する症状や他覚所見は不明な点が多い.今回,頭蓋頚椎移行部の脊髄損傷の2例を経験したので,その症状と他覚所見を中心に報告する.症例1は24歳の女性である.スノーボードで滑走中に,木に激突して受傷した.環椎後頭関節の前方,垂直脱臼に伴う脊髄損傷であった.受傷直後は自発呼吸が認められた.症例2は76歳の女性である.交通事故で受傷した.Os odontoideumに伴う環軸関節不安定症が存在したところに,外傷が加わって発症した脊髄損傷であった.耳介後部から後頭部,下顎部の異常知覚のみが認められた.頭蓋頚椎移行部の脊髄損傷には意識障害や他臓器損傷を合併することが多く,見逃される可能性が高い.この高位での脊髄損傷による特徴的な知覚障害の存在は,高位の脊髄損傷の診断に役立つ.

頚椎多発性骨髄腫に対し外科的治療を行った1例

著者: 平川明弘 ,   宮本敬 ,   児玉博隆 ,   細江英夫 ,   清水克時

ページ範囲:P.767 - P.769

 抄録:多発性骨髄腫における第3頚椎の著明な骨融解を認めた症例に対し,自家腸骨を用いた前方除圧固定とOlerudTM Cervical(NordOpedic)を使用した後方固定術を一期的に行い,疼痛は軽快し歩行器での歩行が可能となった.脊椎に発生する多発性骨髄腫に対する外科的治療については,神経症状が出現していなくとも,疼痛が強くADLの低下が懸念される症例ではその適応とし,早期の離床を促す必要があると考えられた.またOlerudTM Cervicalは各種screw,hook,wireなどの多彩な組み合わせが可能であるため,骨融解部位が存在し,また今後病変の拡大が考えられる本症例に対しては本システムの特色を生かせると考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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