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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科37巻7号

2002年07月発行

雑誌目次

視座

新しい時代のリーダーシップ

著者: 黒坂昌弘

ページ範囲:P.777 - P.778

 十数年前のバブル時代全盛期には経済が異常に成長し,良し悪しは別にして世の中全体に活気が満ち溢れていました.われわれ医療に携わる関係者にとっては,バブル景気などは全く関係ないものと思っていましたが,社会構造が変革し経済状態が悪化するに伴い,医院や病院の経営に加えて,大学の運営にまで大きな変革がもたらされています.大学で新米教授として後輩の指導にあたる立場になった私自身は,新しい時代にふさわしいリーダーシップとはいかなるものかということを,戸惑いとともに考えざるを得ません.
 大学や公的病院の近未来の独立行政法人化に関しては衆人の周知するところですが,実際に今の公務員の制度がどのように,どの程度まで変革されるのか,具体的な形はなかなか見えてきません.また,同時にいくらかの大学が大学院大学として部局化され,新しい大学の形態で研究を始めることになりましたが,私を含め大学院大学化された多くの施設のスタッフには,教室の名前が分かりにくくなったことを除いては,特別にスタッフの数が増えるわけでもなく,特別な研究費が割り当てられるわけでもなく,この変革においても具体的に今後どのような現実が待ち受けているのか,極めて理解しにくいことも事実です.そこで,大学という組織単位で考えると,構成員全体の夢,言い換えると“全員の目標”をどこにおけば,より多くの構成員が喜びを分かち合うことができるのかということが大きな課題になります.

論述

肘関節と遠位橈尺関節における変形性関節症の関連について

著者: 井上貞宏 ,   工藤悟 ,   牧野明男 ,   中田善博

ページ範囲:P.779 - P.786

 抄録:肘関節と遠位橈尺関節(DRUJ)の変形性関節症(OA)の合併および相互の関連について検討した.肘関節とDRUJの両方または一方の関節に関節症性変化を認める83例を対象とした.両関節の関節症性変化の進行程度をX線所見をもとにして4段階に分類し.関節症性変化の進行程度,ulnar variance(UV),腕橈関節のアライメントについて検討した.その結果,両関節の関節症性変化は合併することが多く,その進行程度にも有意な関連が認められた.両関節ともに関節症性変化が進行するとUVが増加し,さらに,上腕骨小頭に対する橈骨頭の静的な,あるいは動的な位置異常(腕橈関節のアライメントの異常)を高率に合併していた.以上より,両関節のOAは影響しあって進行し,相互の関連にはUVとともに腕橈関節のアライメントの影響も重要である.両関節は前腕回外・回内運動の支点と作用点をなすために,両関節における関節症は影響しあって進行するものと考えられた.

後根神経節のコンパートメント症候群―第2報:脊柱管狭窄における実験的・臨床的検討

著者: 矢吹省司 ,   菊地臣一 ,   五十嵐環 ,   丹治一 ,  

ページ範囲:P.787 - P.791

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアにおいては,責任神経根の後根神経節(DRG)にはコンパートメント症候群が惹起されることが報告されている.一方,腰部脊柱管狭窄における検討はいまだなされていない.本研究の目的は,実験的な神経根圧迫によるDRG内圧の変化と臨床例の脊柱管狭窄でのMRミエログラフィーでのDRGの変化を検討することにより,DRGにおけるコンパートメント症候群の有無を検討することである.実験的検討から,神経根をクリップで圧迫するとDRGの内圧が上昇し,DRG内に浮腫が惹起されることが判明した.臨床的検討においては,責任神経根のDRGは反対側や対照群のそれに比して有意な変化は認められなかった.以上の結果から,今回使用した実験モデルは脊柱管狭窄のモデルとしては適切でないといえる.また,脊柱管狭窄による神経根症は,椎間板ヘルニアに合併するDRGのコンパートメント症候群という病態とは異なっている,といえる.

外傷性脊椎圧迫骨折と非外傷性脊椎圧迫骨折の比較検討

著者: 永嶋良太 ,   老沼和弘 ,   徳永誠 ,   米田みのり ,   赤澤努 ,   宮下智大 ,   大井利夫

ページ範囲:P.793 - P.797

 抄録:非外傷性の脊椎圧迫骨折患者の危険因子や臨床像を明らかにすることを目的とし,外傷性脊椎圧迫骨折患者との比較検討を行った.外傷群(T群)は44例(65.7%),非外傷群(AT群)は23例(34.3%)であり,年齢,性別,平均体格指数,腰椎骨密度に有意差はなく,両群とも同程度の脊椎椎体骨折の危険因子を有すると考えられた.唯一の危険因子として,AT群では発症前のADLレベルが有意に高く,AT群では,このような比較的に高い日常生活活動のなかで,時に脊椎椎体の強度以上の負荷がかかり骨折が発生したものと考えられた.また,AT群では腰背部痛を自覚してから医療機関へ受診するまでの期間が有意に長かった.このことは椎体骨折発生後の適切な初期治療の遅延につながり,椎体の圧潰進行を助長すると考えられた.

高齢者の急性腰痛症における脊椎圧迫骨折の頻度とX線診断の精度

著者: 大川淳 ,   四宮謙一 ,   河内敏行

ページ範囲:P.799 - P.803

 抄録:急性腰痛により体動不能の状態で初診後,入院管理した70歳以上の高齢者92名を対象とし,X線像での暫定診断とMRIでの確定診断とを比較した.新鮮骨折は75例(81%)に認められ,MRI上骨折像を認めなかったのは9例(10%),偽関節は8例(9%)であった.新鮮骨折群のうちX線診断をMRIで追認した診断的中群は35例であった.MRIの診断と完全に一致したのは29例と全体の1/3にすぎなかった.MRIにより新たに骨折が発見されたX線診断不能群は40例であり,そのうち21例が多発骨折のため部位の推定が困難,19例がX線像による暫定診断と全く異なる部位に骨折を認めた.以上から,受傷機転を考慮に入れてもX線診断の精度はきわめて低いと言わざるを得なかった.自分で動けない程度の急性腰痛を有する高齢者ではX線像で診断が確定しなくとも,新鮮な脊椎圧迫骨折を有する可能性が高いと考えるべきである.

退行性脊椎変化が高齢者の腰背部痛と身体機能および健康関連QOLに与える影響

著者: 白木原憲明 ,   岩谷力 ,   飛松好子 ,   大井直往 ,   吉田一成 ,   漆山裕希 ,   近藤健男

ページ範囲:P.805 - P.811

 抄録:高齢者の退行性脊椎変化による腰背部痛と身体的状態ならびに生活満足度との関連を調査した.対象は東北農村部O町に在住の65歳以上の高齢者136名.対象者を胸腰椎X線所見からOA,CF,CFOA,Nグループに分類.各グループを腰背部痛の程度により3群に分け,骨塩量,脊柱変形の程度,理学所見,膝痛の有無,身体機能,SF-36の下位尺度得点について3群間で比較した.
 結果は以下のようであった.OA:腰背痛がない人の全体的健康感(SF-36)の平均得点は腰背痛がある人に比して高かった.CF:腰痛のために長距離歩けない人は女性が多く,その人は身長が低く,体重が軽く,握力が弱く,骨塩量が低く,身体的痛み(SF-36)の平均得点が低かった.CFOA:腰痛のために長距離歩けない人は年齢が高く,膝痛有症率が高く,握力が弱く,腰椎前弯角,腰仙角が小さく,身体的機能(SF-36)の平均得点が低かった.以上のことから,椎体圧迫骨折があり,腰背部痛が強い高齢者では腰背部痛の程度と身体機能,健康関連QOLに関連性が認められた.

腰椎椎間板レーザー治療後再手術例の検討

著者: 高橋和久 ,   遠藤友規 ,   守屋秀繁 ,   松本守雄 ,   千葉一裕 ,   戸山芳昭 ,   宮本敬 ,   西本博文 ,   清水克時

ページ範囲:P.813 - P.818

抄録:経皮的腰椎椎間板レーザー治療後に成績不良のため再手術を要した症例につき,問題点を検討した.対象は9例ですべて男性であった.再手術時年齢は平均49歳(14~73歳)であった.本治療法は2例の変性すべり症を含む腰部脊柱管狭窄症6例,extrusion typeの椎間板ヘルニア2例に行われていた.Protrusion typeは1例のみであった.再手術までの期間は平均5.4カ月であり,5例に脊椎固定術が行われた.成績不良の原因は脊柱管狭窄症やextrusion typeのヘルニアなどほとんどが適応の誤りであった.本治療法はわが国においては保険診療が許可されておらず,科学的裏付けにもとづく評価が必要である.現在のところ,protrusion typeのヘルニアが適応となる治療法であり,成績不良例が生じた場合の再手術を含めた対応が必要である.

手術手技 私のくふう

新しいフックロッドシステムを用いた腰椎分離症の手術経験

著者: 中村孝文 ,   菊池太朗 ,   梅田修二 ,   入江弘基 ,   高木克公

ページ範囲:P.821 - P.826

 抄録:腰椎分離症に対する新しいフックロッドシステムの有用性を確認することを目的とした.対象は腰椎分離症14例.このうち2例に分離部骨棘による,また,3例にはヘルニアによる神経根圧迫を認めた.自家腸骨による分離部骨移植に加え横突起基部椎弓にかかるon-lay graftを施行しフックロッドシステムにより分離椎弓の直接修復を行った.神経根症状を有した症例にはヘルニア摘出や分離部骨棘切除を追加した.全例に痛みの改善が認められ,術前の生活レベルに復帰できた.本システムはフックとロッドが一体となっており装着が容易で,保存的治療に抵抗する分離症の治療法として有用と考えられた.

脊髄砂時計腫に対する鏡視下手術の応用

著者: 矢吹省司 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.827 - P.832

 抄録:脊髄砂時計腫に対する鏡視下手術を応用した術式を紹介し,その有用性について検討した.術式は,まず後方アプローチにより,腫瘍を神経上膜から剥離して後方操作を終了する.腫瘍と神経との剥離が困難な場合には,腫瘍をつけたまま神経根を硬膜分岐部で結紮して切離する.次いで,体位を側臥位とし,胸腔鏡視下または後腹膜腔鏡視下に前方アプローチで腫瘍を摘出する.本術式によって砂時計腫の摘出が行われた7例(胸椎部5例,腰椎部2例)について検討した.手術時間は,1時間1分~5時間45分(平均3時間9分)であった.術中出血量は,10ml~800ml(平均363ml)であった.術中・術後に重篤な合併症は1例も認められなかった.術後平均経過観察期間は52カ月であるが,腫瘍の再発は認められていない.胸腔鏡や後腹膜腔鏡を用いた鏡視下手術を導入することにより,従来の手術よりも低侵襲に脊髄砂時計腫の摘出が可能である.

整形外科/知ってるつもり

骨粗鬆症の血液・尿検査項目―(1)鑑別診断とリスク評価

著者: 中村利孝

ページ範囲:P.834 - P.835

 骨粗鬆症は無症候性の疾患である.骨強度が低下しても骨折が生じるまでは,疼痛や変形を生じることはほとんどなく,“静かな病気:the silent disease”と形容される.骨粗鬆症のもう1つの特徴は経過が長い.骨粗鬆症における血液,尿検査は,鑑別診断,骨折のリスク判定,治療効果のモニターの3つに分けて考えると理解しやすい.ここでは,鑑別診断とリスク判定のための検査を述べる.

最新基礎科学/知っておきたい

神経栄養因子

著者: 古川昭栄 ,   古川美子

ページ範囲:P.836 - P.838

 神経栄養因子は神経細胞に作用する一群の生理活性タンパク質の総称である.未分化な段階の神経細胞に作用して生存の維持や分化を促進するばかりでなく,成熟神経細胞に対してもその神経機能を維持し,内因性,外因性の障害からの保護,軸索再生を促すなどの損傷修復にもかかわっている.いくつかの神経栄養因子はシナプス形成や再編にも関与しており,神経可塑性を支える基盤分子と考えられている.既に多くの神経栄養因子が見出されているが,神経成長因子をプロトタイプとするニューロトロフィンファミリーは最もよく研究され,生理的にも重要な働きをしている.
 本稿では特に神経再生に焦点を当て,神経栄養因子の関与について述べる.

運動器の細胞/知っておきたい

神経幹細胞(Neural stem cell)

著者: 中村雅也

ページ範囲:P.840 - P.842

【はじめに】
 一度損傷を受けた脊髄は二度と再生しないと長い間信じられてきた.しかし,近年の神経科学の急速な進歩により,脊髄損傷を初めとする中枢神経系の外傷や変性疾患に対する新しい移植材料として神経幹細胞が脚光を浴びている.本稿では,この神経幹細胞に関する最近の知見を含めて概説する.

境界領域/知っておきたい

解凍後細胞障害

著者: 氏平政伸

ページ範囲:P.844 - P.846

【はじめに】
 近年の移植や再生医療をはじめとした医療技術の進歩に伴い,生体組織や細胞の需要と供給を満たすため凍結保存を利用する機会が増えている.整形外科領域においても,骨や軟骨の移植・再生のために凍結保存を利用している5,7)
 通常の凍結保存は細胞に障害を与えないことを使命としている.それに対し,例えば,骨保存のように凍結により骨細胞や軟骨細胞に致命的な障害を与え,結果的に移植時の抗原性抑制効果を得ているものもある.しかし,もし軟骨の再生などを目的として細胞に障害を与えずに試料を凍結解凍しようとすると,適切な凍結保存条件を知る必要が出てくる.そこで,本稿では適切な凍結保存条件を理解するための組織や細胞の障害のメカニズムについて解説する.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・54

著者: 鈴木昌彦

ページ範囲:P.849 - P.852

症例:30歳男性
 主訴:左膝関節の痛みと腫脹
 現病歴:約4年前より5~6km歩行すると左膝関節に痛みと腫脹が出現したが,安静を保つと改善するため放置していた.最近関節痛と腫脹が強くなったため近医を受診した.

国際学会印象記

『第56回アメリカ手の外科学会』に参加して

著者: 中村俊康

ページ範囲:P.854 - P.855

 第56回アメリカ手の外科学会(American Society for Surgery of the Hand:ASSH)が2001年10月4日から6日まで,アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアで開催されました.本学会は手の外科領域では最も大きな学会のひとつで,1946年に,Dr. Sterling Bunnellを会長として第1回の学会が開催されて以来,全米の大都市を中心に毎年開催されています.今年度の会長はDr Peter J. Sternでした,開催地と会長の本拠地は一致せず,5年位先まで開催地は決まっていますが,会長は3年先までしか決まっていません.学会本部はイリノイ州シカゴ近郊に置かれています.現在,手の外科学の中心がアメリカであるため,世界中から最も注目され,かつ演題採択率の最も低い学会として知られています.学会のofficial journalはJournal of Hand Surgery American Vblume誌で,手の外科領域では一番impact factorの高い雑誌です.

整形外科英語ア・ラ・カルト・(最終回)

整形外科分野で使われる用語・その70

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.856 - P.857

 このシリーズ第106回のVelpeau bandageの項で,外科医ヴェルポー(Alfred A. L. M. Velpeau,1795-1867)の説明のなかで,彼が学んだ19世紀初頭のパリ大学医学部には,マジャンディー(Francois Magendie,1791-1873)やバーナード(Claude Bernard,1813-1878)などの,後に有名になる医学者たちが多くいた,と書いた.読者の方から,“Bernard”の読みは“ベルナール”であるとご指摘を受けた.私の書いた“バーナード”は英語読みである.ご指摘通り,“Bernard”のフランス語流の発音では“ベルナール”であり,日本語でも勿論“ペルナール”である.
 言い訳ではないが,私は長年米国に住んでいたため,“Claude Bernard”の発音は“クロード・バーナード”と言い慣れていた.三つ子の魂,百までと言われるとおり,つい,昔言い慣れていたほうを書いてしまった.しかし米語では“バーナード”と発音することも知って戴きたい.

臨床経験

椎体圧潰を来した脊椎カリエスの診断―骨粗鬆性圧迫骨折・転移性脊椎腫瘍との鑑別

著者: 岩名大樹 ,   井澤一隆 ,   北村卓司 ,   鍋島隆治 ,   米延策雄

ページ範囲:P.859 - P.866

 抄録:単純X線写真上椎体の圧潰が主たる所見で,脊椎カリエス,脊椎転移性腫瘍,骨粗鬆性圧迫骨折の鑑別診断が困難であった症例を分析し,どのようにすれば早期診断につながるかを検討した.対象は脊椎カリエス(C群)10例,肺癌転移性脊椎腫瘍(M群)8例,骨粗鬆性圧迫骨折(O群)10例でいずれも単純X線写真のみでは診断が不確実で鑑別を要したものであり,各群の病歴,症状,画像所見,検査所見について統計学的に比較検討した.病歴,症状,検査所見には有意差を認めなかったが,画像所見では,特にCT,MRI検査にてカリエスに感度,特異度の高い所見を認めた.鑑別診断が困難であった理由について検討したところ,C群では全例初期診断の遅延や誤りがあった.統計学的には画像診断が鑑別診断に有用であったが,誤診例や鑑別に苦慮した例を考慮すると,生検による組織診断はもちろん既往歴,合併症,症状経過,治療への反応など,総合的な検討も重要であった.

症例報告

観血的治療を要した小児肘関節脱臼の1例

著者: 幅麻里子 ,   藤吉文規 ,   後藤英之 ,   千田博也 ,   室秀紀 ,   久崎真治 ,   野崎正浩 ,   相良学爾 ,   伊藤錦哉

ページ範囲:P.867 - P.870

 抄録:肘関節脱臼に関し腕尺関節,腕橈関節,近位橈尺関節のすべてが破綻する分散脱臼は非常に珍しいが,そのうちでも特に稀な小児肘関節横分散脱臼の1例を経験した.症例は6歳男児.右手をついて転倒して受傷した.右肘関節痛を訴えて来院した.単純X線および関節造影にて横分散脱臼と診断した.徒手整復不能であったため観血的整復を行い,術後経過は良好である.

Epineural ganglionによる足根管症候群の1例

著者: 南公人 ,   秋末敏宏 ,   藤田郁夫 ,   松本圭司 ,   木崎智彦

ページ範囲:P.871 - P.873

 抄録:神経に発生したガングリオンによる足根管症候群の1例を報告し,その分類と手術法の違い,および術後の症状について考察した.本邦では神経に発生したガングリオンはすべて神経内ガングリオンとして報告されているが,海外ではintraneural ganglionとepineural ganglionの両者に分類して報告されている.手術法から考えると,intraneural ganglionは神経損傷の恐れがあるため吸引,切開,ドレナージが適応となり,epineural ganglionは切除術が適応となる.神経に発生したガングリオンは本邦においてもintraneural ganglionとepineural ganglionに区別して報告すべきであると思われる.

開窓術施行後に脊柱管内滑膜嚢腫が発生し,神経根障害が再発した腰椎変性すべり症の1例

著者: 藤由崇之 ,   藤塚光慶 ,   丹野隆明 ,   早川徹

ページ範囲:P.875 - P.878

 抄録:われわれは,第5腰椎変性すべり症に対し開窓術を施行後,脊柱管内滑膜嚢腫が発生した1例を経験したので報告する.症例は77歳女性.右下肢痛,500mの間欠性跛行を呈し入院.脊髄造影・ミエロCTでは,L5/Sの黄色靭帯肥厚と関節水腫を有する高度の椎間関節変性変化を認め,右L5-S片側開窓術を施行したが,術後1カ月より右下肢痛が再発した.再入院時,MRIで脊柱管内にT1低信号,T2高信号の嚢腫様陰影を認め,右椎間関節造影後CTにて,椎間関節と連続する嚢腫陰影を認めた.再手術として,L5-S椎弓切除術,嚢腫摘出術,後側方固定術を施行した.病理組織は,滑膜嚢腫であった.本症例における滑膜嚢腫の発生メカニズムは,初回手術後,極めて短期で形成されており,術後の不安定性増大によるというよりも椎間関節内側切除により,関節包・黄色靭帯の脆弱部が発生し,滑膜嚢腫が形成されたと考えられた.

腰部黄色靱帯内血腫により右下肢痛を生じた1例

著者: 熊澤慎志 ,   酒井浩志 ,   渡邊友純 ,   清水克時 ,   辻耕二 ,   竹田賢一

ページ範囲:P.879 - P.882

 抄録:腰部黄色靱帯内血腫により右下肢痛を生じた1例を経験したので報告する.症例は86歳,女性.1999年12月29日より誘因なく歩行時に右下肢痛が出現し,当科を受診した.既往歴はなく,血液生化学検査において異常は認めなかった.MRI像にてL4/5高位にT1強調画像で高信号,T2強調画像で等~低信号を呈するmassがあり,硬膜を後方より圧排していた.発症後3.5カ月にて第4腰椎椎弓切除術を施行した.術中所見において,鏡視下に黒褐色液の流出を認め,硬膜に隣接して黄色靱帯内に暗褐色のmassを認めた.病理組織所見としては,靱帯組織内に一部石灰化を伴った血腫が存在し,被膜は硝子化した結合組織から成っていた.血腫発生のメカニズムとしてminor traumaによる弾性線維の断裂・変性後の出血・血腫形成と考えられるが,術前診断は難しく,本症例では術中顕微鏡を用いたことによる血腫の存在の確認が診断に役立ったものと考える.

持続硬膜外カテーテル抜去後に急性硬膜外血腫による完全麻痺を呈した症例

著者: 松本和 ,   宮本敬 ,   鷲見浩志 ,   高木幸浩 ,   松本茂美 ,   鷲見靖彦 ,   清水克時

ページ範囲:P.883 - P.886

 抄録:症例は75歳,女性.胆石症にて腹腔鏡下胆嚢摘出術の際,Th10/11より持続硬膜外麻酔を施行.術後4日目にカテーテル抜去がスムーズに行われた.その直後,背部不快感出現したが数分の安静にて消失した.しかし,抜去後1時間半に左下肢脱力を自覚し,症状出現から1時間以内でTh11以下の完全麻痺を呈した.CT,MRIにてTh9-Th11に及ぶ占拠性病変を認め,急性硬膜外血腫と診断.緊急除圧術を施行した.術後6カ月の時点で知覚は改善したが,運動麻痺が残存した.硬膜外麻酔の合併症として硬膜外血腫は稀ではあるが,特に本症例のような胸椎部発生例では重篤な神経障害を来しうるため,本疾患を念頭に置くこと,および迅速な対応が必要不可欠であると思われた.

放射線照射後の腰椎に固定術を行い,治療に難渋した1例

著者: 福田章二 ,   宮本敬 ,   細江英夫 ,   笹野三郎 ,   西本博文 ,   青木隆明 ,   清水克時

ページ範囲:P.889 - P.892

 抄録:患者(68歳,男性)は30年前に腰椎部に対し広範な放射線照射の既往を有していた.腰椎変性すべり症(L4/5)に対する脊椎インストゥルメンテーションを用いた固定術の3年後に,著明な骨破壊性病変を伴う化膿性脊椎炎(L3/4)を発症した.まず,脊椎インストゥルメンテーションを用い固定範囲を拡大した後方固定(L2-腸骨)を行い,感染徴候の鎮静を得た.その6カ月後,2期的に前方病巣郭清,骨移植術を施行して,さらなるADLの改善をみた.放射線照射による骨脆弱性が破壊性病変の一要因であり,全身状態も不良であった本症例に対し,後方脊椎インストゥルメンテーションを用いた後方前方二期的手術治療が有効であった.

高度な寛骨内陥入を来した人工骨頭置換術の1例

著者: 市村克仁 ,   八木正義 ,   井口哲弘 ,   栗原章 ,   佐藤啓三 ,   笠原孝一 ,   渡辺秀雄

ページ範囲:P.893 - P.896

 抄録:外傷性大腿骨頭壊死症に対して2回の人工骨頭置換術の後,人工骨頭の高度な寛骨内陥入を来した1例を経験した.症例は50歳男性で,28歳時に外傷性大腿骨頭壊死症に対してAustin Moore型人工骨頭置換術を受け,“弛み”のため33歳時にLord型人工骨頭再置換術を施行された.その後徐々に人工骨頭の寛骨内陥入が進行し,右股部痛が増強して再置換術後17年後に当院を受診した.入院時のX線像では,人工骨頭が上方へ約45mm転位しており著明な跛行がみられた.高度な下肢の短縮のため二期的に手術を行い,自家骨,同種骨ならびにハイドロキシアパタイトを併用し人工股関節再置換術を行った.手術時に採取した肉芽組織ではポリエチレンと思われる摩耗粉が多数認められ,寛骨内への高度な転位は骨溶解が主原因と推察された.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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